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インド 官 僚 制 度 に 思 うこと 前 駐 インド 大 使 榎 泰 邦 はじめに 今 回 のインド 在 勤 を 通 じいくつかインドを 羨 ましいと 思 うことがあった 1960 年 代 の 高 度 成 長 時 代 の 日 本 を 彷 彿 とさせる 経 済 活 力 と 横 溢 する 将 来 への 楽 観 主 義 もその 一 つであったが ちょうど 日 本 で 官 僚 バッ シングが 時 代 風 潮 とも 言 うべき 時 期 に 当 っていただけに 国 を 支 えているとの 強 烈 な 自 意 識 とそれを 可 能 にする 制 度 的 枠 組 みを 持 つインド 官 僚 制 度 に 対 しては 心 から 羨 ましく 感 じた そもそも 官 僚 に 強 大 な 権 限 が 与 えられるのは 絶 対 王 政 下 での 国 王 の 勅 任 官 を 除 けば 昔 から 植 民 地 統 治 と 社 会 主 義 統 制 経 済 下 と 相 場 が 決 まっている インドは 英 国 植 民 地 時 代 とネルー 政 権 後 の 社 会 主 義 政 策 と 双 方 とも 経 験 するなかで ICS と IAS(インド 高 等 文 官 ) 制 度 を 育 ててきた その 意 味 では イ ンド 官 僚 制 度 は 歴 史 的 所 産 であって 経 済 自 由 化 の 進 展 とともに 変 革 を 余 儀 なくされる 運 命 にあるとも 考 えられる 天 皇 の 官 吏 および 戦 後 統 制 経 済 下 で 大 きな 権 限 を 与 えられた 日 本 の 官 僚 制 度 が 変 革 を 迫 られた のと 同 じ 道 をいずれは 歩 まざるを 得 ないとの 見 方 もあり 得 よう しかし 私 にはそう 簡 単 に 決 めつけられないのではないかとの 思 いがある インドは 古 代 インド マウ リア 朝 の 名 宰 相 カウティリアが 書 き 残 したと 言 われる アルトシャストラ ( 実 利 論 / 君 主 論 )の 国 であ る この 国 家 統 治 論 は 国 家 経 営 の 要 諦 は 法 秩 序 の 維 持 と 十 分 な 行 政 機 構 にあり から 始 まる 因 み に カウティリアはチャナキャプリとも 呼 ばれ 現 在 日 本 大 使 館 も 所 在 するニューデリーの 大 使 館 地 区 の 名 称 として 残 っている 5 千 年 という 長 い 歴 史 の 中 で 数 多 くの 王 朝 の 興 亡 を 経 験 し 16~17 世 紀 に は 明 オスマントルコとともにユーラシア 大 陸 を 三 分 したムガール 帝 国 興 隆 の 歴 史 を 通 し また 英 国 植 民 地 統 治 の 経 験 から インドには 国 家 統 治 には 優 秀 な 官 僚 制 度 という 背 骨 が 必 要 不 可 欠 である との 確 固 たる 政 治 哲 学 が 根 付 いているように 観 察 される そうであるならば 我 が 国 の 官 僚 制 度 を 考 える 上 でも 時 代 の 要 請 に 応 じて 変 革 を 試 みることは 当 然 としても インドの 歴 史 の 知 恵 に 学 ぶところもあるのではな いか こうした 思 いから 私 がインド 官 僚 制 度 の 如 何 なる 点 に 興 味 を 持 ち また 羨 ましさを 感 じたかについて 主 観 を 交 えて 書 いてみることにした 従 って 本 稿 はインド 官 僚 制 度 の 詳 細 な 解 説 を 意 図 したものではない この 点 は 拙 著 インドの 時 代 ( 出 帆 新 社 )をご 参 照 頂 ければ 幸 いである 1. 社 会 的 敬 意 と 高 い 期 待 インドで 名 刺 交 換 をすると 肩 書 きの 代 わりに 単 に IAS と 刷 り 込 んだ 名 刺 に 出 会 うことが 多 い IAS は Indian Administrative Service の 略 であり インド 高 等 文 官 とでも 訳 せばよいであろうか この 肩 書 きは 時 として IFS(Indian Foreign Service 外 交 職 )であったり IPS(Indian Police Service 警 察 職 )であったりする 会 社 社 長 といってもピンからキリまであるし 政 治 家 も 次 の 選 挙 で 落 選 するかも しれない それに 対 し IAS は 全 国 統 一 ブランドであり かつ 一 度 IAS に 採 用 されれば 一 生 使 用 で きる 肩 書 きとなる その 意 味 で IAS はインドでもっともブランド 力 の 高 い 肩 書 きであり IAS ブランド に 対 する 社 会 的 敬 意 と 期 待 には 極 めて 高 いものある それでは かかる 高 いブランド 力 の 背 景 には 何 があるのであろうか 私 は インド 植 民 地 官 僚 制 度 以 来 の

歴 史 的 伝 統 及 び 超 エリート 選 抜 制 度 としての IAS 制 度 に 対 する 社 会 的 信 頼 度 の2つであると 観 察 して いる 先 ず 英 国 植 民 地 官 僚 制 度 (ICS Indian Civil Service)であるが ここでは 制 度 そのものの 解 説 は 省 く (ご 興 味 のある 方 には 講 談 社 選 書 本 田 毅 彦 著 インド 植 民 地 官 僚 ~ 大 英 帝 国 の 超 エリートたち をお 奨 めする) インド 亜 大 陸 のほぼ 全 域 を 統 治 した 例 は 歴 史 上 アショカ 大 王 のマウリア 朝 ムガール 帝 国 そして 大 英 帝 国 の3 度 しかない 英 国 は 現 在 のビルマ パキスタンを 含 む 広 大 なインド 亜 大 陸 を 1 千 人 の 官 僚 群 と1 万 の 陸 軍 で 統 治 した インド 副 王 を 勤 め 後 に 外 相 になったカーゾン 卿 は 我 々は インドを 支 配 する 限 り 常 に 世 界 最 大 の 強 国 たりうる もし インドを 失 えば 残 った 植 民 地 は 何 の 価 値 も なくなり 英 国 はたちどころに 三 流 の 小 国 に 転 落 する と 述 べた このインドを 統 治 するために 英 国 は 優 秀 で 野 心 に 溢 れる 人 材 を 投 入 した そして 人 材 選 抜 のために 用 意 されたのが ICS 制 度 であった ICS 制 度 の 導 入 は 1855 年 であるが 英 国 本 国 で 有 力 者 推 薦 による 情 実 人 事 がまかり 通 っていた 時 代 に 一 切 の 情 実 人 事 を 排 し 試 験 結 果 によってのみ 選 抜 した 試 験 合 格 者 は 採 用 後 10 年 30 歳 前 半 で 県 知 事 として 地 方 行 政 の 一 切 を 委 ねられ 更 には 州 総 督 への 道 も 開 かれていた 給 与 面 でも 恵 まれ インド 政 庁 の 局 長 レベルで 現 在 価 で 年 収 2~3 千 万 円 を 支 給 され 25 年 間 勤 務 すれば 700 万 円 相 当 の 年 金 が 保 証 されていた 当 初 は 英 国 人 に 受 験 資 格 が 限 定 されていたが( 合 格 者 の 80%がオックスフォードないしケ ンブリッジ 大 学 出 身 ) 次 第 にインド 人 にも 開 放 され インド 独 立 前 夜 にはインド 人 が ICS 構 成 の 半 分 を 占 めるにまで 至 っていた 1947 年 の 独 立 後 新 政 府 として 如 何 なる 官 僚 制 度 を 設 計 するかが 重 要 課 題 となった 種 々の 経 緯 を 経 て 新 政 府 は 基 本 的 に ICS 制 度 を 継 承 しつつ IAS 制 度 として 発 足 することに 決 定 した 但 し ICS と 異 なり (イ)IAS 文 官 は 中 央 政 府 と 地 方 政 府 の 双 方 に 奉 仕 する 二 重 任 務 とする (ロ)そのため 採 用 後 IAS 文 官 には 退 官 まで 一 貫 して 担 当 する 州 を 特 定 し 中 央 政 府 と 担 当 州 勤 務 とを 往 復 させる (ハ) 中 央 政 府 と 地 方 政 府 による 制 度 の 共 同 管 理 体 制 を 敷 き 中 央 が 一 元 的 人 事 権 を 有 する 一 方 で 地 方 は 給 与 などの 経 費 を 負 担 する 等 の 制 度 設 計 を 行 った 二 重 任 務 という 形 で 変 革 は 行 われたが インド 官 僚 制 度 には ICS 以 来 の1 世 紀 半 に 亘 る 歴 史 の 裏 付 けがあり この 伝 統 が 現 在 の IAS 制 度 に 対 する 評 価 を 支 えている 次 に 超 エリート 選 抜 メカニズムとしての IAS 制 度 に 対 する 信 頼 度 がある 伝 統 だけでは 風 化 するだけ である 制 度 として 機 能 しているとの 実 績 の 裏 付 けが 必 要 である インド 高 等 文 官 に 採 用 されるためには 高 等 文 官 試 験 (CSE Civil Service Examination)という 共 通 試 験 に 合 格 する 必 要 がある CSE 試 験 合 格 者 は 毎 年 概 ね 400~500 人 であり 1 番 からビリまで 成 績 順 位 が 発 表 される 2006 年 度 はこの 試 験 に 38 万 人 が 応 募 した( 実 際 の 受 験 者 数 は 20 万 人 ) CSE 合 格 後 に 用 意 されているのは 税 関 国 税 庁 国 鉄 採 用 など 28 職 種 に 細 分 化 されている このうち 中 央 省 庁 幹 部 用 に 用 意 されているのが IAS で これ に 外 務 IFS 警 察 IPS を 加 えた3 職 種 が 御 三 家 としてもっとも 権 威 があり 上 位 合 格 者 のみが 採 用 される 毎 年 IAS が 90 人 前 後 IFS と IPS が 各 10 名 前 後 御 三 家 合 わせて 110 名 前 後 と 狭 き 門 である 即 ち 御 三 家 に 限 れば 受 験 申 し 込 み 者 総 数 38 万 人 から 100 名 余 のみが 採 用 される 訳 で 実 に 競 争 率 4 千 倍 近 い 厳 しい 選 抜 となる 因 みに 我 が 国 の 国 家 公 務 員 第 一 種 試 験 の 場 合 は 概 ね 14 倍 前 後 の 競 争 率 になって いる(2010 年 度 は 申 込 者 総 数 26,888 人 に 対 し 合 格 者 数 1,314 名 と 20 倍 の 競 争 率 )

過 去 の 試 験 例 題 を 見 ると 足 切 りの 一 次 試 験 では ランゲルハンス 島 の 所 在 地 いかん ( 答 ; 膵 臓 ) と 言 った 奇 問 の 類 があるかと 思 うと プロゴルファーのビジェイ シンの 出 身 国 は? ( 答 ;フィジー) などの 一 般 常 識 までまことに 幅 広 い 但 し 本 試 験 で 実 際 に 点 差 がつく 論 文 試 験 では 受 験 者 の 思 考 能 力 と 論 理 構 成 力 が 評 価 の 対 象 となる 例 えば 数 年 前 の 例 では 最 近 の SAARC 首 脳 会 議 については 何 の 成 果 も 生 まなかったとの 評 価 がある 一 方 で 画 期 的 な 成 果 を 挙 げたとの 評 価 もある それぞれの 評 価 につ いて 解 説 せよ が 出 題 された そうかと 思 うと インド/パキスタン 分 割 は 不 可 避 であったと 考 える か また 本 問 題 に 対 するマハトマ ガンディー ネルーおよびマウラナ アザドの 立 場 について 論 ぜよ との 出 題 もあった 最 終 関 門 の 面 接 試 験 では 高 等 文 官 としての 適 正 が 評 価 される 加 えて 30 歳 未 満 との 年 齢 制 限 が 課 され かつ 受 験 回 数 も 4 回 までと 制 限 されているので 苦 節 10 年 型 の 受 験 生 が 入 り 込 む 余 地 は 無 い 結 果 とし て 優 秀 な 頭 脳 と 幅 広 い 常 識 バランスのとれた 判 断 力 を 有 する 人 材 が 選 抜 されることになる また 採 用 後 も 若 くして 州 政 府 で 要 職 につき リーダーシップと 調 整 力 が 厳 しく 問 われることとなる 一 定 年 齢 ま では 中 央 と 地 方 とをほぼ 均 等 に 往 復 するが ふるいにかけられる 中 で 中 央 政 府 での 出 世 組 と 地 方 政 府 滞 留 組 とに 分 かれてくる 2. 政 官 間 での 明 確 な 役 割 分 担 インドは 世 界 最 大 の 民 主 主 義 国 家 とはよく 引 用 される 言 葉 である 歴 代 米 国 大 統 領 の 訪 印 では 必 ずこ の 言 葉 がスピーチに 入 る 独 立 以 来 一 度 もクーデタ 騒 ぎがなく 選 挙 による 民 主 的 手 続 きを 経 て 政 権 交 代 が 行 われてきた 2004 年 総 選 挙 で よもやの 大 敗 北 を 喫 した BJP 党 のバジパイ 党 首 は BJP は 負 け たが インド 民 主 主 義 は 大 勝 利 した との 名 言 を 吐 いて 下 野 した 従 って 政 治 が 政 策 決 定 に 責 任 を 持 つとの 原 則 が 確 立 している そもそもインドの 独 立 達 成 そのものが 政 治 の 勝 利 であり 独 立 後 の 国 のかたち を 決 したのも ネルー 政 治 であった 実 際 言 葉 達 者 との 特 性 もあるが 自 らの 識 見 と 力 量 でダボス 会 議 や 国 際 会 議 で 中 心 的 役 割 を 果 たす 政 治 家 リーダーも 少 なくない その 一 方 で 行 政 の 執 行 は 官 僚 に 全 面 的 に 委 ねるとの 原 則 が 確 たるものとなっている もとより 政 治 家 と 官 僚 との 接 点 は 明 確 に 線 を 引 けるものではなく 実 際 の 政 官 の 関 係 は 現 場 に 身 をおく 者 にしか 分 か らない しかし 大 使 としてインド 政 府 と 接 する 限 りにおいて インドの 官 僚 は 実 に 自 信 に 溢 れ かつ 明 確 な 責 任 意 識 をもって 職 務 を 遂 行 していることが 看 取 された 任 国 によっては 閣 僚 クラスと 直 接 やり 取 り しないと 相 手 国 の 判 断 を 確 認 できない 場 合 も 多 い インドにおいては 儀 礼 上 の 理 由 から 閣 僚 を 表 敬 する ことはあっても こと 実 務 に 関 する 限 り 次 官 局 長 レベルの 高 官 との 遣 り 取 りで 全 てことが 足 りた 2004 年 5 月 総 選 挙 を 経 て BJP からコングレス 党 へと 政 権 交 代 する 前 日 懇 意 にしていた 首 相 経 済 顧 問 ( 財 務 次 官 経 験 者 )を 訪 問 し これまでの 協 力 に 感 謝 するとともに 新 政 権 への 対 応 ぶりにつきアドバイスを 求 め たことがある 経 済 顧 問 は 政 権 は 変 わっても 自 分 の 席 に 座 るものは 同 じ 思 考 方 法 と 論 理 (the same language)で 与 えられた 課 題 に 答 えを 出 すので 何 ら 心 配 するには 及 ばない と 述 べていた 首 相 経 済 顧 問 ポストは 歴 代 原 則 財 務 次 官 が 就 任 している( 但 し 経 済 政 策 通 のマンモハン シン 首 相 は 経 済 顧 問 を 任 命 せず) 政 権 は 代 わっても 官 僚 として 担 うべき 責 務 は 官 僚 としての 論 理 で 淡 々と 遂 行 していく との 気 概 を 感 じ 取 った 次 第 である

こうしたインド 官 僚 の 確 固 たる 職 務 権 限 を 担 保 しているのが 憲 法 による 公 務 員 の 地 位 保 障 である 即 ち インド 憲 法 第 309 条 ~ 第 312 条 で 高 等 文 官 の 地 位 につき (イ) 大 統 領 によって 任 命 される (ロ) 大 統 領 の 意 思 に 反 しない 限 りその 職 を 保 持 し 任 命 権 者 たる 大 統 領 以 外 から 罷 免 または 解 任 されることが ない (ハ) 問 責 の 理 由 を 告 げられ その 問 責 に 関 して 弁 明 する 機 会 が 与 えられた 調 査 の 後 でなければ 罷 免 解 任 または 降 任 されることはない 等 々が 規 定 されている 平 易 に 言 えば 刑 事 訴 追 によって 有 罪 と なる 等 特 別 の 事 情 による 場 合 を 除 き ひとたび 高 等 文 官 として 採 用 された 以 上 罷 免 解 任 降 任 される ことはない ということである 即 ち 大 統 領 でない 限 り 首 相 閣 僚 州 首 席 大 臣 といえども 高 等 文 官 を 解 任 できない インド 大 統 領 は 原 則 として 政 治 的 権 限 は 行 使 しない 立 場 にあるから インド 高 等 文 官 は 身 分 保 持 に 関 する 限 り 政 治 からは 完 全 に 独 立 していることを 意 味 する ここで インド 官 僚 制 度 が 少 数 精 鋭 主 義 を 取 り 一 人 一 人 の 高 等 文 官 の 職 務 権 限 が 広 いことに 付 言 して おきたい 中 央 省 庁 幹 部 候 補 生 数 につき 日 印 を 比 較 すれば わが 国 の 国 家 公 務 員 第 一 種 試 験 合 格 者 数 が 毎 年 1,500 人 前 後 (2010 年 度 は 1,314 人 に 減 少 )であるのに 対 し インドの IAS IFS IPS 御 三 家 採 用 数 は 100 名 余 である 圧 倒 的 に 少 ない 官 僚 数 で 国 家 行 政 を 支 えているわけである インド 政 府 各 省 庁 の 規 模 につき 単 純 に 公 務 員 数 だけで 捉 えると 間 違 えを 犯 すこととなる 例 えば インド 外 務 省 であるが 職 員 数 3,340 人 と わが 外 務 省 の 20 年 前 の 規 模 に 相 当 する しかし この 大 部 分 は お 茶 くみ 案 内 係 秘 書 であり 実 務 に 携 わる 外 交 旅 券 保 持 者 に 限 れば 本 省 在 外 合 わせ 約 1,000 人 でしかない 本 省 に 限 れば 全 体 1,400 人 のうち 外 務 省 プロパー250 人 他 省 庁 出 向 者 150 人 の 僅 か 400 人 となる こうし た 少 数 精 鋭 で 全 インド 外 交 を 支 えているので 一 人 当 たりの 責 任 と 権 限 がそれだけ 大 きくなる インド 外 務 省 の 対 日 外 交 ラインとなると 東 アジア 局 長 北 東 アジア 課 長 日 本 担 当 の 3 人 しかいないので 偶 々こ の 3 人 のいずれもが 不 在 となると 訓 令 の 執 行 すらできなくなる 外 務 省 以 外 の 省 庁 では 概 して 全 職 員 数 に 占 める 高 等 文 官 数 のシェアは 更 に 低 くなる 大 部 屋 主 義 をとるわが 国 の 行 政 は どうしてもグループ で 職 務 と 責 任 を 分 担 するとの 意 識 が 勝 る これに 対 し インドの 高 等 文 官 は 一 人 一 人 がそれぞれの 職 責 を 担 い 国 家 行 政 に 全 責 任 を 負 うとの 意 識 が 強 い 3. 十 分 な 経 済 的 保 障 ( 手 厚 い 年 金 ) インド 公 務 員 の 給 与 水 準 は 公 務 員 給 与 審 議 会 という 独 立 機 関 の 諮 問 によって 閣 議 決 定 されるが 2009 年 同 審 議 会 は 高 等 文 官 給 与 を 概 ね 3 倍 に 引 き 上 げる 勧 告 を 提 出 した さすがに 国 民 の 間 でも 関 心 の 的 となったが 政 府 は 同 年 3 月 勧 告 をそのまま 受 け 入 れる 閣 議 決 定 を 下 した これにより 例 えば 各 省 次 官 クラスの 給 与 は 月 額 2.6~3 万 ルピーから 8~9 万 ルピーへと 引 き 上 げられた(1 ルピーは 約 2 円 ) 本 来 インド 官 僚 制 度 の 設 計 にあったては 高 等 文 官 が 安 心 して 公 務 に 専 念 できるように 身 分 保 障 と ともに 安 定 した 経 済 的 保 障 を 確 保 するとの 原 則 が 前 提 になっていた しかるに 経 済 的 保 障 の 方 は 予 算 措 置 を 伴 うだけにそう 簡 単 には 運 ばない 民 間 経 済 の 発 展 が 停 滞 していた 1980 年 代 までは 経 済 界 の 給 与 水 準 も 低 く 相 対 的 に 高 等 文 官 給 与 も 見 劣 りしなかったが 90 年 代 に 入 り 自 由 化 政 策 の 下 で 経 済 発 展 が 急 速 に 進 むと IT 企 業 などを 中 心 にして 民 間 給 与 水 準 が 大 幅 に 引 き 上 げられていく 特 に 2000 年 以 降 はこ の 傾 向 が 著 しく 高 給 による 優 秀 な 人 材 の 引 き 抜 きが 活 発 化 してきた しかるに 財 政 緊 縮 下 で 給 与 改 善 が 遅 れていたことから 当 時 高 等 文 官 の 給 与 水 準 は 低 く 抑 えられたままで 局 長 レベルで 月 額 2 万 ルピ

ー( 約 4 万 円 ) 前 後 次 官 クラスで 3 万 ルピー( 約 6 万 円 )でしかなかった 高 等 文 官 には 公 務 員 宿 舎 提 供 専 用 車 の 提 供 など 給 与 以 外 の 特 典 が 与 えられてはいるが 20 年 の 職 歴 を 経 て 漸 く 局 長 職 に 就 いて IT 企 業 の 初 任 給 と 同 じレベルと 言 うのでは 志 気 にも 影 響 してくる 現 に 優 秀 な 人 材 が 官 から 民 に 流 れ 以 前 ほど 優 れた 人 材 が IAS に 集 まらなくなるとの 傾 向 が 出 てきていた 今 回 の 措 置 は かかる 傾 向 への 危 機 感 の 表 れであり また 高 等 文 官 制 度 を 護 るとの 政 府 の 強 い 意 志 の 表 明 であろう 確 かに 必 要 ならば 一 挙 に 3 倍 もの 給 与 引 き 上 げ 措 置 を 採 るとのインド 政 府 決 定 は 特 筆 に 値 する し かし 考 えようによっては わが 国 の 人 事 院 勧 告 と 同 様 の 制 度 があれば 毎 年 調 整 すべきであった 給 与 水 準 見 直 しを 過 去 手 が 付 けられなかったために 一 挙 に 調 整 を 図 っただけとも 言 いうる むしろ 私 が 率 直 に 羨 ましいと 思 うのは 高 等 文 官 に 対 する 手 厚 い 年 金 制 度 である 現 役 時 代 には 年 金 制 度 には 関 心 を 寄 せ る 時 間 的 余 裕 もなかったが いざ 退 官 してみると 現 役 最 終 給 与 の5 分 の1 程 度 という 年 金 額 の 低 さに 唖 然 とし せめて 現 役 時 代 給 与 の 半 額 は 欲 しいと 思 うのは 私 だけではなかろう インド 高 等 文 官 が 退 官 後 60 歳 から 受 領 する 年 金 額 は 現 役 最 終 ポスト 給 与 額 の 50% となっている ご 注 意 頂 きたいのは 現 役 最 終 給 与 ではなく 現 役 最 終 ポスト 給 与 となっていることである この 心 は 退 官 後 最 終 ポスト 給 与 が 引 き 上 げられれば 年 金 もそれにスライドして 引 き 上 げられる との 点 にある 今 回 のように 現 役 の 給 与 が 3 倍 に 引 き 上 げられれば 年 金 も 自 動 的 に 3 倍 に 引 き 上 げられる 引 き 下 げも 同 様 ではあるが 高 度 成 長 期 のインドで 給 与 引 き 下 げは 考 えられない 日 本 からみれば 50%という 水 準 は 羨 ましい 限 りであるが 国 際 的 にみれば 何 ら 驚 くには 値 しない ブラジルの 高 等 文 官 は 最 終 給 与 の 100%の 年 金 が 保 証 されているし フランスの ENA 出 身 官 僚 も 75% 前 後 が 保 障 されていると 聞 いたこと がある 現 役 時 代 給 与 の 50%が 保 障 されれば 多 くの 場 合 退 官 後 無 理 して 職 を 求 める 必 要 もなかろう 実 際 インドでは 天 下 りという 慣 行 はない もとより 需 要 供 給 の 関 係 で 人 材 を 求 める 要 請 に 応 じ 民 間 に 新 たな 活 躍 の 場 を 求 めるケースも 多 いが これはあくまでも 個 別 的 現 象 であり 官 側 が 組 織 的 に OB を 民 間 に 押 し 込 むものではない それでは 多 くの 退 官 者 はどうして 時 間 を 過 ごしているのであろうか インド の 平 均 寿 命 が 63 歳 と 低 いのは 農 村 での 高 い 幼 児 死 亡 率 を 算 入 するからであって 都 市 の 富 裕 層 の 寿 命 は 長 い 菜 食 主 義 者 で 毎 日 ヨガで 体 調 を 整 えていれば 長 生 きをしようと 言 うものである 首 都 デリーに は 60 歳 での 退 官 後 も 気 力 知 力 体 力 が 十 分 な 元 局 長 元 次 官 がうじゃうじゃしている 多 くは シ ンクタンク 入 りしたり 仲 間 内 で 勉 強 会 を 組 織 しては 大 学 教 授 ジャーナリスト 等 とともに 巨 大 な 知 的 コミュニティーを 形 成 している 特 に 外 務 省 出 身 者 や 軍 将 官 退 役 者 に 多 い かくして ニューデリーは 世 界 でも 有 数 の 知 的 交 流 の 場 となっており 特 に 外 交 安 保 関 係 のセミナー シンポジウムとなると 論 客 が 次 から 次 へと 繰 り 出 してくる こうした 知 的 コミュニティーは 政 府 に 対 する 提 言 とりまとめ 等 を 通 じ 天 下 のご 意 見 番 をもって 任 じるとともに 重 要 な 人 材 プールを 形 成 し 政 権 交 代 があるたびに 首 相 顧 問 や 計 画 委 員 会 委 員 など 新 政 権 のブレーンとして 人 材 を 提 供 している 終 わりに 独 立 直 後 から 1970 年 代 80 年 代 と 基 本 的 にインドは 統 制 経 済 体 制 下 に 置 かれ 企 業 の 設 立 事 業 範 囲 の 拡 大 必 要 物 資 の 輸 入 原 料 の 確 保 輸 出 等 々 経 済 活 動 の 殆 ど 全 てに 政 府 の 許 認 可 を 必 要 としていた

当 然 許 認 可 を 司 る 官 僚 が 絶 大 なる 権 限 を 行 使 し こうした 体 制 は License Raj( 許 認 可 統 治 )と 称 され ていた 1991 年 から 導 入 した 経 済 自 由 化 が 進 展 するとともに 許 認 可 行 政 の 範 囲 は 次 から 次 へと 縮 小 され てきた わが 国 官 僚 制 度 と 同 じ 道 を 20 年 ほどのタイムラグで 辿 りつつあるとも 考 えられる しかし 変 革 期 を 辿 りつつも この 国 では 優 秀 な 官 僚 制 度 の 維 持 が 国 家 統 治 に 不 可 欠 との 基 本 思 想 が 広 く 共 有 されていると 考 えられる イラク 戦 争 後 の 米 国 による 占 領 政 策 の 失 敗 は 軍 とバース 党 という2つ の 統 治 機 構 を 完 全 に 除 去 したため 国 家 統 治 の 骨 格 が 崩 壊 してしまったことにある というのが 定 説 である インドの 場 合 には IAS に 代 表 される 官 僚 制 度 と 文 民 統 制 の 徹 底 した 軍 の 存 在 この2つが 国 家 の 背 骨 を 形 成 している 民 主 主 義 体 制 下 総 選 挙 によって 政 権 という 頭 の 部 分 が 入 れ 替 わっても 背 骨 が 支 えてい るから 国 家 の 形 が 維 持 され 脊 髄 を 通 る 神 経 系 統 が 正 常 に 機 能 する 戦 後 60 年 を 経 て わが 国 の 国 のかたちにつき 大 いに 論 じ 疲 労 を 起 こしている 諸 制 度 に 改 革 を 加 えるこ とは 確 かに 必 要 である しかし 国 家 が 国 家 として 存 続 していく 以 上 どうしても 護 るべき 枠 組 みと 背 骨 という 中 枢 器 官 への 人 材 確 保 は 不 可 欠 である 政 治 判 断 を 司 るべき 頭 脳 部 分 が 十 分 機 能 を 果 たさず 加 え て 背 骨 部 分 に 骨 粗 鬆 症 状 況 が 進 行 し 脊 髄 損 傷 が 生 じているのであれば 植 物 人 間 化 が 不 可 避 となる わ が 国 も 優 秀 な 官 僚 制 度 の 維 持 は 国 家 統 治 に 不 可 欠 である との 原 点 に 立 ち 戻 って 新 たな 制 度 設 計 に 取 り 組 む 必 要 があるのではないか