医学と薬学 第 67 巻 第 3 号 2012 年 3 月 特集 耳鼻咽喉科疾患の病態と診断 治療 Ⅰ) 67 365 難聴 池田 勝久 順天堂大学医学部耳鼻咽喉科学講座 Key words 感音性難聴 突発性難聴 騒音性難聴 遺伝性難聴 加齢性難聴 が原因の場合を伝音性難聴 それよりも中枢側 はじめに に原因がある場合を感音性難聴と呼び 脳幹 難聴とは自覚的または他覚的な聴力の低下で 大脳皮質の障害を中枢性難聴ともいう 図 1 あるが 聴力の低下には音そのものが聞き取り 本稿では蝸牛が難聴の責任部位である感音性難 にくい場合と音は聞こえるが言葉の聴取 理解 聴について 検査法 診断 治療ならびに代表 がしにくい場合がある 難聴は音が伝わる経路 的な疾患を解説し 伝音性難聴は他稿に譲る のどの部位の障害でも起こり得る 聴覚伝導路 には外耳道 鼓膜 耳小骨 蝸牛 蝸牛神経 1) 脳幹 大脳皮質である 外耳道 鼓膜 耳小骨 図 1 Ⅰ 検査法と診断 標準的な聴力の評価には純音聴力検査法が用 難聴を呈する主な病変部位と疾患名
67 366 医学と薬学 第 67 巻 第 3 号 2012 年 3 月 図 2 オージオグラム 図 4 図 3 難聴の重症度 ティンパノメトリー 左 とティンパノグラム 右) 2) いられ 得られた聴力像をオージオグラムと称 後 4 カ月に適する 条件詮索反応検査は音刺 する 図 2 500 から 2,000 Hz までの周波数 激に対する定位反応などの聴性行動反応を光刺 を言語帯域と称し 言語音の聴取に重要で ① 激によって条件付けさせる検査法で 1 2 歳代 40 db までを軽度難聴 ② 41 70 db を中等度 に適する 耳音響放射は外有毛細胞の機能を反 難聴 ③ 71 90 db を高度難聴 ④ それ以上を 映し 新生児 幼小児 成人まで幅広い年齢層 聾と重症度分類している 図 3 中耳の機能を で使用される他覚的聴力検査である 歪成分耳 調べるティンパノメトリー 図 4 語音聴力検 音響放射 図 6 の存在は中耳伝音機能が正常 査 音刺激による脳幹の誘発電位を示す聴性脳 で 蝸牛機能が正常または軽度の低下を示して 幹反応 図 5 も広く用いられている 学童期以 いる 聴性脳幹反応は聴覚閾値を客観的に測 上であれば 純音聴力検査により聴力の程度 定可能な検査法であるが 使用する刺激音には 聴力像 伝音性 感音性 混合性の分類 左右 周波数の弁別能が劣っている 聴性定常反応は の対称性 進行性や変動性の有無などが診断に 最近普及してきた検査法で 高次聴覚路からの 貢献する 反応を検出し 周波数特異性も良好であるため 3) 聴性行動反応検査は新生児期の原始的反射と 他覚的聴力検査法として最も有望である 聴性 聴性行動反射を利用した聴力検査は出生から生 脳幹反応と耳音響放射の検査に解離がある場合
医学と薬学 第 67 巻 第 3 号 2012 年 3 月 図 5 聴性脳幹反応の反応波形と由来部位 歪成分耳音響放射の原理 図 6 歪成分耳音響放射の波形 歪成分耳音響放射の計測方法 4) は auditory neuropathy を疑う Ⅱ 治 67 367 療 治療は障害部位 疾患に応じて行う 一般に anchored hearing aids が注目されている 突発性難聴 突然生じる難聴のなかで 内耳に起因しかつ 5) 原因不明のものを突発性難聴と称する 診断 伝音性難聴は炎症 感染に対する薬物療法や外 としては 突然の一側性難聴 高度な感音性難 科的療法が選択される 感音性難聴のうち 突 聴 原因不明が重要である 突発性難聴の 90 発性難聴やメニエール病はステロイド剤や高浸 に耳鳴を認め 約半数で回転性めまいが生じる 透圧利尿剤などの薬物が奏功することが多い とされている 突発性難聴の特徴としては一側 が それ以外では薬物療法は困難であり 補聴 性であり 両側性は 10 以下 再発しないこ 器が適応である 両側の高度 聾の感音性難聴 とが挙げられる には人工内耳が適応となる 中等度 高度の感 病態としては内耳循環障害とウイルス性内耳 音性難聴や混合性難聴に対して埋め込み型補聴 炎が考えられている 発症 2 週間以内に治療を 器が臨床応用されており 特に BAHA bone- 開始すれば聴力改善の可能性があり 発症後 1
67:368 医 学 と 薬 学 第 67 巻 第 3 号 2012 年 3 月 週 間 以 内 の 症 例 の 予 後 は 特 に 良 好 である 発 症 後 2 カ 月 では 難 聴 はほぼ 固 定 すると 考 えてよ い 突 発 性 難 聴 の 約 30%が 治 癒, 約 50%が 何 ら かの 改 善 を 示 し, 約 20%では 難 聴 の 改 善 を 認 め ない 予 後 不 良 因 子 としては,1 発 症 後 2 週 間 以 上 の 経 過,2 発 症 時 平 均 聴 力 レベル 90 db 以 上 の 高 度 難 聴,3 回 転 性 めまいの 合 併,4 高 齢 者 などである 発 症 後 2 3 カ 月 以 内 が 聴 力 改 善 の 可 能 性 が ある 時 期 とされている 一 般 的 にはステロイド やプロスタグランジンなどの 2 週 間 の 全 身 投 与 である 発 症 後 2 3 カ 月 経 過 した 場 合 は 積 極 的 な 治 療 の 適 応 ではなく, 耳 鳴 などの 随 伴 症 状 に 対 する 対 処 療 法 を 行 うことになる. 急 性 低 音 障 害 型 感 音 難 聴 急 性 低 音 障 害 型 感 音 難 聴 は 突 発 性 難 聴 から 分 離 された 疾 患 である すなわち, 難 聴 の 程 度 が 軽 度 で 低 音 部 に 障 害 が 限 局 するため, 突 発 性 難 聴 の 診 断 基 準 の 高 度 難 聴 に 合 致 しないことや 予 後 が 良 好 であることから 突 発 性 難 聴 とは 異 なる 病 態 であると 考 えられている 6) 症 状 は 耳 閉 塞 感, 難 聴, 耳 鳴, 自 声 強 調, 音 の 響 きなどである 難 聴 が 軽 度 の 場 合, 難 聴 を 訴 えないか 自 覚 ぜす, 耳 閉 塞 感 のみを 訴 える 場 合 もある 軽 度 のふらつきを 認 めることがある が, 回 転 性 めまいを 伴 なうものは 含 めない 多 くの 場 合 は 容 易 に 治 癒 するので, 予 後 良 好 の 疾 患 である しかしながら, 全 く 改 善 しない 症 例 も 存 在 する 病 態 として 内 リンパ 水 腫 が 想 定 されており, 高 浸 透 圧 利 尿 剤 やステロイドが 治 療 薬 として 使 用 される. 特 発 性 感 音 難 聴 特 発 性 両 側 性 感 音 難 聴 とは,1 進 行 性,2 原 因 不 明,3 両 側 性 の 感 音 難 聴 である 進 行 性 は オージオグラムによって 追 跡 調 査 されたもので あることを 必 要 とし, 進 行 の 速 度 は 問 わない 原 因 不 明 とはその 発 症 に 明 らかな 時 期 的 因 果 関 係 をもって 難 聴 原 因 としての 既 知 の 外 的 因 子 ( 騒 音, 外 傷, 中 毒 など)が 関 与 していないこと を 意 味 している 両 側 性 とは 常 に 両 側 が 同 様 な 病 態 を 示 すという 意 味 ではなく, 両 側 罹 患 とい う 意 味 である したがって, 両 側 性 感 音 難 聴 で 一 側 のみが 進 行 する 場 合 も 含 む 家 族 性 難 聴 が 含 まれるが, 原 因 がわかった 時 点 で 特 発 性 感 音 難 聴 から 除 外 される 遺 伝 子 診 断 や 画 像 診 断 が 進 歩 し, 特 定 の 疾 患 名 がつけられる 症 例 も 増 加 している 7) 聴 力 が 急 速 に 低 下 した 場 合 にステロイドの 投 与 が 基 本 的 な 薬 物 療 法 となる 聴 力 が 悪 化 した 時,プレドニゾロンを 投 与 し 聴 力 の 回 復 をみた 後, 聴 力 の 経 過 をみながらプレドニゾロンを 減 量 していく プレドニゾロンを 中 止 すると 再 び 聴 力 が 悪 化 し, 再 度 プレドニゾロンを 投 与 する と 再 び 聴 力 が 回 復 するような 場 合 をステロイド 依 存 性 感 音 難 聴 と 呼 んでいる 難 聴 の 進 行 に 伴 ない 補 聴 器 の 装 用 や 人 工 内 耳 の 手 術 を 考 慮 す る. 音 響 外 傷 音 響 暴 露 が 契 機 となって 発 症 する 急 性 感 音 難 聴 ( 広 義 の 音 響 外 傷 )は 暴 露 音 の 強 さや 難 聴 発 症 の 状 況 などから, 以 下 の 3 者 に 分 類 される 8) 狭 義 の 音 響 外 傷 は 予 期 しない 衝 撃 的 強 大 音 に よって 瞬 時 に 発 症 する 蝸 牛 症 状 ( 難 聴, 耳 鳴, 耳 閉 塞 感 )が 特 徴 である 刺 激 が 前 庭 器 に 及 べ ば,めまい, 悪 心, 嘔 吐 を 伴 う 場 合 もある 純 音 聴 力 検 査 で 感 音 難 聴 が 示 されれば 診 断 は 容 易 であるが, 聴 力 像 は 多 彩 である 急 性 音 響 性 感 音 難 聴 とは, 過 去 に 同 一 種 類 の 強 大 音 に 暴 露 さ れた 経 験 があるにもかかわらず, 短 時 間 の 暴 露 後 に 難 聴 が 発 症 するものである ハンマー, 削 岩 機, 鉄 火 器 の 使 用 中 や,ロックやディスコ 音 楽 などのコンサートでの 発 症 が 良 く 知 られてい る 騒 音 性 突 発 難 聴 は 長 年 難 聴 の 自 覚 なしに 耐 えてこられた 職 場 騒 音 の 中 で 突 発 的 に 発 症 する 難 聴 で, 一 側 性 で 比 較 的 高 度 なものを 指 す 誘 因 のない 突 発 性 難 聴 に 比 べて 聴 力 予 後 が 悪 いこ とが 多 い 予 後 は 若 年 者,dip 型 難 聴, 両 側 性 のものの 治 癒 率 が 高 い 傾 向 にある 騒 音 性 突 発 難 聴 の 形 で 発 症 した 一 側 性 高 度 難 聴 の 予 後 は 一 般 の 突 発 性 難 聴 に 比 べて 不 良 であることが 多 い 治 療 方 法 は 突 発 性 難 聴 に 準 じた 薬 物 を 使 用 する 両 側
医 学 と 薬 学 第 67 巻 第 3 号 2012 年 3 月 67:369 高 度 難 聴 の 形 で 発 症 した 音 響 外 傷,または 対 側 に 高 度 難 聴 がある 例 に 生 じた 騒 音 性 突 発 難 聴 の 聴 力 が 固 定 した 場 合 には 補 聴 器 適 合 となる ま た 人 工 内 耳 によるリハビリを 視 野 に 入 れた 聴 覚 管 理 を 要 する 症 例 もある. 遺 伝 性 難 聴 先 天 性 難 聴 は 概 ね 1,000 出 生 に 1 2 人 の 割 合 で 生 じ, 少 なくともその 半 数 が 遺 伝 子 変 異 に よると 言 われている 9) 約 70%の 遺 伝 性 感 音 難 聴 は 他 の 奇 形 や 疾 患 を 伴 わない 非 症 候 群 性 難 聴 である さまざまな 年 齢 から 発 症 する 遅 発 性 の 遺 伝 性 難 聴 もある 加 齢 性 難 聴 は 個 体 差 が 著 し く, 環 境 因 子 が 関 与 する 加 齢 変 化 の 結 果 である が,しばしば 家 族 内 発 生 も 起 こるので, 遺 伝 的 背 景 素 因 の 存 在 が 示 唆 されている 非 症 候 群 性 難 聴 の 遺 伝 形 式 には 以 下 の 4 型 が ある 1 70 80%を 占 める 常 染 色 体 劣 性 遺 伝 で 保 因 者 である 健 聴 のそれぞれの 両 親 から 変 異 し た 難 聴 遺 伝 子 を 受 け 継 ぐと 難 聴 を 生 じ,25%の 確 率 で 難 聴 となる 2 15 20%を 占 める 常 染 色 体 優 性 遺 伝 で, 変 異 の 難 聴 遺 伝 子 を 難 聴 の 片 親 から 受 け 継 ぐと 難 聴 となり,50%の 確 率 である それ 以 外 に 3 原 因 遺 伝 子 が X 染 色 体 にある 場 合 を 伴 性 遺 伝 形 式 で 2 3%,4 ミトコンドリ ア 遺 伝 型 式 で 1% 以 下 と 言 われている 1) 遺 伝 性 難 聴 の 発 症 時 期 はさまざまである 一 般 的 には 常 染 色 体 劣 性 遺 伝 形 式 をとる 難 聴 は 言 語 獲 得 前 からの 発 症 が 多 い 染 色 体 優 性 遺 伝 形 式 をとる 難 聴 は 先 天 性 に 高 度 であることはまれ であり 言 語 獲 得 後 に 徐 々に 進 行 することが 多 い 難 聴 の 程 度, 聴 力 像, 左 右 対 称 性, 進 行 性, 変 動 性 など 多 彩 な 像 を 呈 する 確 定 診 断 には 遺 伝 子 検 索 が 必 要 である 遺 伝 形 式, 画 像 による 内 耳 奇 形,アミノ 配 糖 体 によ る 難 聴 の 感 受 性 の 有 無, 前 庭 症 状 の 有 無 などの 所 見 を 参 考 に 遺 伝 子 検 査 を 行 うことになるが, 非 症 候 群 性 難 聴 ではミトコンドリア DNA, GJB2,SLC24A4 などが 現 実 的 に 臨 床 の 場 で 施 行 されている GJB2 変 異 は 最 も 頻 度 の 高 い 劣 性 遺 伝 形 式 で 言 語 獲 得 前 に 発 症 する 高 度 難 聴 である 難 聴 の 進 行 が 少 ないことが 多 いが, 一 部 で 進 行 する 症 例 も 報 告 がある ミトコンドリア 1555 変 異 は アミノ 配 糖 体 抗 生 剤 の 易 受 傷 性 が 関 与 している ので, 使 用 を 避 けることが 予 防 につながる 前 庭 水 管 拡 張 症 は Pendred 症 候 群,DFNB4 の 原 因 遺 伝 子 である SLC24A4 の 異 常 が 原 因 であ る 画 像 検 査 で 前 庭 水 管 の 拡 張 が 描 出 される 一 般 的 には 先 天 性 から 幼 児 期 早 期 までに 中 等 度 から 高 度 の 難 聴 を 引 き 起 こすとされ, 聴 力 の 変 動 をきたすことがある 頭 部 外 傷, 過 度 の 運 動 や 発 熱 などの 要 因 によって 難 聴 が 増 悪 するの で,これらの 増 悪 因 子 の 回 避 が 難 聴 進 行 の 予 防 となる 現 在 のところ 遺 伝 性 難 聴 に 対 する 根 本 的 な 治 療 は 存 在 しない 中 等 度 以 下 の 難 聴 では 補 聴 器 の 装 用 が 有 効 である 補 聴 効 果 の 得 られ ない 高 度 難 聴 では 人 工 内 耳 の 適 応 になることが 多 い 先 天 性 難 聴 では 新 生 児 聴 覚 スクリーニン グなどで 早 期 に 難 聴 を 発 見 し, 他 覚 的 検 査 で 聴 力 の 程 度 を 評 価 して 適 切 な 補 聴 器 を 装 用 する 高 度 の 難 聴 であれば 人 工 内 耳 の 適 応 を 検 討 す る. 加 齢 性 難 聴 加 齢 による 聴 覚 伝 導 路 のうち, 外 耳 道, 鼓 膜, 耳 小 骨 にはほとんど 変 化 は 生 じることはなく, 脳 幹 大 脳 皮 質 の 中 枢 性 の 傷 害 も 軽 度 で, 主 に 蝸 牛 と 蝸 牛 神 経 が 責 任 部 位 である 10) 蝸 牛 は 種 々の 異 なる 細 胞 から 構 成 される 音 の 受 容 器 で ある 老 人 性 難 聴 では 蝸 牛 の 構 成 細 胞 のうち, 音 受 容 の 増 幅 に 関 与 する 外 有 毛 細 胞 に 著 しい 影 響 が 認 められ, 語 音 の 弁 別 能 の 低 下 を 説 明 して いる また 音 の 直 接 的 なセンサー 細 胞 である 内 有 毛 細 胞 や 有 毛 細 胞 へのエネルギー 源 である 血 管 条 も 部 分 的 に 障 害 される さらに, 有 毛 細 胞 で 音 の 力 学 エネルギーが 電 気 的 エネルギーに 変 換 されたのちに 伝 わる 蝸 牛 神 経 節 と 蝸 牛 神 経 も 加 齢 変 化 で 脱 落 が 生 じ, 言 葉 の 聞 き 取 りを 非 常 に 悪 化 させる 加 齢 に 伴 う 難 聴 の 実 生 活 の 問 題 点 としては, 1 会 話 が 明 瞭 に 聞 き 取 りにくい,2 大 きな 音 や 周 囲 の 雑 音 がかん 高 く 響 いてしまい,パー ティーなどでの 会 話 ができない,3 会 話 が 面 倒
67:370 医 学 と 薬 学 第 67 巻 第 3 号 2012 年 3 月 になり, 友 人 知 人 家 族 とのコミュニケーショ ンが 取 れなくなる,4 会 話 の 楽 しみがなくな り, 孤 独 抑 うつ 状 態 神 経 過 敏 などの 心 理 面 での 悪 影 響 が 表 れる 難 聴 によるハンディカッ プは 単 に 聞 き 取 りにくいという 日 常 生 活 の 困 難 さのみならず, 心 理 面 にも 大 きく 関 わり 社 会 生 活 を 著 しく 損 なうことになる 老 人 性 難 聴 を 改 善 させる 手 段 として 補 聴 器 に よる 障 害 臓 器 の 代 替 が 一 般 的 である 個 々の 患 者 に 適 した 補 聴 器 を 選 択, 調 整 することを フ ィ ッ ティングと 称 する 適 切 な 補 聴 器 の フィッティングには 耳 鼻 咽 喉 科 医 師 が 中 心 的 な 役 割 を 果 たしている つまり,1 難 聴 の 的 確 な 診 断 を 下 し, 中 耳 炎, 中 耳 真 珠 腫, 腫 瘍 などの 疾 患 を 除 外 診 断 する,2 難 聴 の 原 因 疾 患 の 治 療 を 優 先 すべき 場 合 の 判 断 を 下 す,3 機 能 性 難 聴 などの 補 聴 器 の 非 適 応 の 症 例 を 診 断 する,4 聴 覚 機 能 検 査 による 補 聴 器 フィッティングのため のデータを 取 ることである 耳 鼻 咽 喉 科 医 に よって 補 聴 器 の 適 応 を 決 定 した 後 で, 初 めて 実 際 的 な 補 聴 器 のフィッティングが 開 始 となる フィッティングには,1 装 用 耳 ( 右, 左, 両 耳 ) の 決 定,2 周 波 数 特 性 と 音 響 利 得 などに 基 づく 補 聴 器 の 機 種 選 択,3 音 質 調 整 と 最 大 出 力 音 圧 レベルの 決 定,4 イアモールドの 作 成 が 含 まれ る フィッティングにより 補 聴 器 を 選 択, 調 整 した 後 も 再 調 整 や 実 生 活 での 評 価,さらには 補 聴 器 使 用 に 伴 う 聴 覚 の 増 悪 に 対 する 管 理 にも 耳 鼻 咽 喉 科 専 門 医 の 果 たす 責 任 は 重 大 である おわりに 感 音 性 難 聴 についての 臨 床 を 中 心 に 解 説 した が, 本 稿 で 取 り 上 げた 以 外 にもウイルスや 耳 毒 性 薬 物 による 難 聴, 外 リンパ 瘻, 機 能 性 難 聴 な ども 重 要 な 鑑 別 を 要 する 疾 患 である 感 音 性 難 聴 は 突 発 性 難 聴 を 除 いて 治 療 に 抵 抗 性 を 示 すこ とが 多 く, 進 行 した 両 側 性 難 聴 では 補 聴 器 の 装 用 が 必 要 となる また 高 度 難 聴 を 来 たした 場 合 には 人 工 内 耳 の 適 応 を 考 慮 することとなるが, 根 本 的 治 療 とはなり 得 ないのが 現 状 である こ れまでの 医 学 では 失 われた 蝸 牛 や 蝸 牛 神 経 の 細 胞 を 生 き 返 らせることはできなかったが, 最 近 の 動 物 による 研 究 では 蝸 牛 の 有 毛 細 胞 の 増 殖, 再 生 に 新 たな 突 破 口 が 見 出 されている 11)12) 臨 床 への 将 来 の 応 用 が 期 待 される 文 献 1) 池 田 勝 久 : 耳 鼻 咽 喉 頭 頸 部 領 域 の 感 覚 器 脳 神 経 障 害 の 取 り 扱 い. 日 本 醫 事 新 報 4181:12-17, 2004. 2) 池 田 勝 久 : 耳 音 響 放 射 Oto-Acoustic Emission の メカニ ズ ムと 臨 床 応 用.Clinical Neuroscience 2011( 印 刷 中 ) 3) 池 田 勝 久 : 聴 覚 スクリーニング 後 のフォローアッ プと 難 聴 への 対 応. 小 児 科 診 療 71:1527-1531, 2008. 4) 池 田 勝 久 : 聴 覚 障 害 のスクリーニングとその 対 応. チャイルド ヘルス 12:642-647,2009. 5) Fetterman BL et al:prognosis and treatment of idiopathic sudden sensorineural hearing loss. Am JOtol 17:529-536, 1996. 6) 阿 部 隆 : 低 音 障 害 型 突 発 難 聴. 耳 喉 54:385-392, 1982. 7) Ikeda K:Gene-based deafness research:ion transport and hearing. Tohoku JExp Med 202: 1-11, 2004. 8) Saltzmann M, Ersner MS:Acoustic trauma. Arch Otolaryngol 62:235-241, 1955. 9) 池 田 勝 久 : 遺 伝 性 感 音 難 聴. 今 日 の 耳 鼻 咽 喉 科 頭 頸 部 外 科 治 療 指 針 第 3 版,pp. 205-207,2008. 10) 池 田 勝 久 : 高 齢 者 の 感 覚 器 疾 患 総 論.Geriatric Medicine 44:735-739,2006. 11) 池 田 勝 久 : 難 聴 のレスキューを 目 指 して. 遺 伝 性 難 聴 の 動 物 モデルの 解 析. 順 天 堂 医 学 55:188, 2009. 12) 神 谷 和 作, 池 田 勝 久 : 難 聴 に 対 する 内 耳 細 胞 治 療 法 の 開 発. 医 学 のあゆみ 229:863-867,2009. * * *