Treatment of skin diseases 皮 膚 科 における 治 療 は, 外 用 療 法, 全 身 ( 内 服, 注 射 ) 療 法,レーザー 療 法, 理 学 療 法 および 外 科 療 法 に 大 別 と ふ ちょうふ される. 外 用 療 法 は 薬 剤 を 塗 布 貼 付 することであり, 皮 膚 科 において 要 となる 治 療 法 である.また, 理 学 療 法 は 光 線, 放 射 線 などの 照 射 や 加 温, 凍 結 療 法 などであり, 皮 膚 科 に 特 有 な 治 療 法 を 含 む. 皮 膚 科 医 は 各 治 療 法 の 特 性 を 熟 知 したうえで,これらを 組 み 合 わせて, 効 果 的 に 診 察 と 治 療 にあたる 必 要 がある. A. 外 用 療 法 topical therapy 表.11 外 用 薬 吸 収 浸 透 の 原 則 外 用 療 法 は, 外 用 薬 を 皮 膚 に 塗 布 または 貼 付 する 療 法 であ る. 外 用 薬 は 主 剤 (main agent)と 基 剤 (vehicle,base)から 構 成 されている. 主 剤 は 実 際 に 作 用 する 薬 物 であり, 基 剤 は 主 剤 が 目 的 病 変 に 効 率 よく 作 用 するための 補 助 的 物 質 である. 皮 膚 の 最 表 層 には 角 層 が 存 在 するが, 角 層 は 疎 水 性 で 密 度 が 高 く, 体 内 からの 水 分 の 蒸 発 を 防 いでいる. 同 時 にこの 疎 水 性 の 角 層 は, 外 用 薬 が 皮 膚 の 内 部 へ 浸 透 するための 最 大 の 障 壁 ( 律 速 段 階 )でもある. 加 えて 角 層 の 表 面 には 一 般 的 に 皮 脂 膜 が 存 在 し,これも 一 種 の 壁 となる. 一 方, 顆 粒 層 以 下 において は 親 水 性 の 性 状 であり, 薬 剤 の 吸 収 は 容 易 である. 一 般 に 外 用 薬 が 皮 膚 の 内 部 へ 浸 透 する 場 合,その 薬 剤 の 通 過 経 路 は,1 細 胞 を 貫 通 する,2 細 胞 の 間 隙 を 通 過 する,3 経 毛 包 脂 腺 吸 収 の 3 通 りが 存 在 し, 基 剤 や 主 剤 の 性 状 によってその 経 路 や 吸 収 度 が 決 定 される( 表.1, 図.1). 表.12 部 位 によるステロイド 外 用 薬 の 相 対 的 経 皮 吸 収 量 図.1 分 子 の 大 きさと 各 皮 膚 の 推 定 浸 透 率 の 関 係 NS: 正 常 皮 膚.AD:アトピー 性 皮 膚 炎 患 者 の 皮 膚.M: 粘 膜.US: 超 音 波 処 理 して 角 層 を 除 去 した 皮 膚. (Bos JD, Meinardi MM. The 500 Dalton rule for the skin penetration of chemical compounds and drugs. Exp Dermatol 2000;9:18 から 引 用 ) 82
A. 外 用 療 法 83 a. 外 用 薬 の 基 剤 と 剤 形 forms and vehicles for topical agents 基 剤 は 皮 膚 への 薬 剤 の 浸 透 を 助 けるものであるが, 基 剤 の 種 類 によって, 水 和 作 用 や 冷 却 作 用, 潤 滑 作 用, 乾 燥 作 用 ( 滲 出 液 の 除 去 ), 保 護 作 用, 軟 化 作 用, 浄 化 作 用, 止 痒 作 用 などの 作 用 をもつ.そのため, 基 剤 そのものを 治 療 目 的 として 利 用 す ることも 多 い. 基 剤 に 求 められる 条 件 は, 無 刺 激 性 で, 無 色, 無 臭 であることが 望 ましく, 変 質 せず 安 定 性 があり, 主 剤 を 均 ねんちゅう 等 に 保 持 し, 適 度 な 粘 稠 度 や 硬 度 を 有 し, 適 度 の 吸 収 性 を 有 す ることなどである. 外 用 薬 は, 同 じ 主 剤 であっても 基 剤 によってさまざまな 形 態 の 外 用 薬 となり,その 適 応 も 変 わる. 以 下 に 代 表 的 な 基 剤 を 用 いた 外 用 薬 の 形 態 を 列 挙 し,その 特 性 を 簡 単 に 述 べる( 図.2,.3, 表.12). 1. 軟 膏 ointment 他 の 剤 形 より 刺 激 が 少 なく, 皮 膚 の 保 護 作 用 も 強 いので, 最 も 頻 繁 に 使 用 される 外 用 薬 の 剤 形 である. 大 きく 以 下 の 2 種 類 に 分 類 される. 図.2 油 中 水 型 乳 剤 性 軟 膏 と 水 中 油 型 乳 剤 性 クリ ーム a: 油 中 水 型 乳 剤 性 軟 膏. 乳 化 剤 を 用 いて 油 脂 の 中 に 水 の 微 粒 子 を 混 濁 させたもの.b: 水 中 油 型 乳 剤 性 ク リーム. 乳 化 剤 を 用 いて 水 の 中 に 油 脂 の 微 粒 子 を 混 濁 させたもの. 1) 油 脂 性 軟 膏 oleaginous ointment 最 も 頻 繁 に 使 用 される,いわゆる 軟 膏 である. 種 々の 油 脂 類 (ワセリン,パラフィン,オリーブ 油,プラスチベース) が 外 用 薬 の 基 剤 疎 水 性 基 剤 (hydrophobic bases) として 最 も 頻 用 される. 水 を 含 まず, 水 に 不 溶 で, 水 をほとんど 吸 わない. 基 剤 そのものに 強 い 皮 膚 保 護 作 用 や 軟 化, 消 炎 作 用 があり, 刺 激 性 が 最 も 低 いため,あらゆる 皮 疹 に 対 して 用 いることができ る. 例 ) 各 種 ステロイド 軟 膏, 白 色 ワセリン, 亜 鉛 華 軟 膏 など. a b c d e f g h a b c d e f g h i 2) 油 中 水 型 乳 剤 性 軟 膏 water-in-oil emulsion,emulsified ointment 軟 膏 といわれる 製 品 のなかには,ポリエチレングリコー ルなどの 乳 化 剤 を 用 いて, 油 脂 性 軟 膏 の 中 に 水 分 の 微 粒 子 を 含 ませたものがある( 図.2). 油 中 水 型 (water-in-oil:w/o 型 ) 乳 剤 性 軟 膏 と 呼 ばれる. 塗 布 した 後 に 冷 却 感 があるためコール ドクリーム(cold cream)とも 呼 ばれる. 皮 膚 の 保 護 作 用 はク リーム( 次 項 )より 大 きい.べたつきが 少 なく 水 で 洗 い 落 とし a b c d e f g h i j 図.3 基 剤 の 違 いによるさまざまな 形 態 の 外 用 薬 a: 油 脂 性 軟 膏.b:クリーム.c:ローション.
84 章 治 療 学 表.2 外 用 薬 に 用 いられる 主 な 基 剤 と 特 徴 やすい. 基 本 的 に 乾 燥 性 病 変 に 対 して 使 用 する. 例 )ヒルドイド ソフト 軟 膏,パスタロン ソフト 軟 膏,オ クソラレン 軟 膏, 吸 水 軟 膏,ネリゾナ ユニバーサルクリー ムなど. 2.クリーム cream ワセリン (vaseline,petrolatum) いわゆる クリーム の 外 用 薬 の 大 部 分 は, 乳 化 剤 を 用 いて 水 分 の 中 に 油 脂 の 微 粒 子 を 混 濁 させたものである. 水 中 油 型 (oil-in-water:o/w) 乳 剤 性 軟 膏 とも 呼 ばれる( 図.2).べたつ きが 少 なく, 薄 くのばすと 外 用 薬 の 色 調 が 消 える バニシング クリーム(vanishing cream). 衣 服 に しみ がつかないため, コンプライアンスは 良 好 である. 紅 斑 や 丘 疹 に 対 して 用 いられ るが,ときに 刺 激 性 をもつため,びらんや 湿 潤 傾 向 があれば 用 いない. 例 ) 各 種 ステロイドクリーム, 親 水 軟 膏 など. 軟 膏 3.ゲル gels ポリビニルアルコールや 寒 天 などのハイドロゲル 類 を 用 いて ゲル 状 にしたものをいう. 塗 布 後, 乾 燥 して 薄 膜 となって 皮 膚 に 固 着 する. 溶 媒 が 多 量 に 含 まれているゲル 剤 はジェリー(jel-
A. 外 用 療 法 85 ly)と 呼 び, 粘 膜 に 用 いられ, 病 変 部 を 保 護 する. 例 )ダラシン T ゲル,ディフェリン ゲル,グラニュゲル など. その 他 に 用 いられる 外 用 薬 の 剤 形 4.ローション lotion 液 体 ( 通 常 は 水 )に 薬 剤 を 混 ぜたものである. 外 用 すると 水 分 が 蒸 発 して 冷 却, 収 斂 作 用, 保 護 作 用 を 示 すとともに, 皮 表 に 残 る 薬 剤 の 薬 理 作 用 が 期 待 される. 基 剤 となる 液 体 としては, 水 の 他 にアルコール,プロピレングリコール,グリセリン,チ ンク 油 ( 酸 化 亜 鉛 50%+オリーブ 油 50%)などがある. 1) 乳 剤 性 ローション emulsified lotion 乳 化 剤 を 用 いて, 水 中 油 型 (o/w 型 )の 乳 剤 としたものである. 非 湿 潤 性 病 変 が 適 応 である. 有 髪 部 位 に 用 いられることが 多 い. 例 ) 各 種 ステロイドローションなど. 2)アルコール 剤 alcoholic solution 揮 発 性 アルコール 類 を 溶 媒 として, 薬 剤 を 溶 解 したものであ る. 塗 布 後 まもなく 蒸 発 するため 使 用 感 に 優 れるが, 刺 激 感 が 強 い. 頭 皮 や 爪 病 変 に 用 いることが 多 い. 例 )デルモベート スカルプ,フルメタ ローション,ネリ ゾナ ソリューション,フロジン 外 用 液, 各 種 抗 真 菌 外 用 液 など. 図.4 スピール 膏 創 傷 被 覆 材
8 章 治 療 学 表.3 主 なステロイド 含 有 外 用 薬 とランク ストロンゲスト(Strongest) デルモベート (0.05%クロベタゾールプロピオン 酸 エステル) ジフラール,ダイアコート (0.05%ジフロラゾン 酢 酸 エステル) ベリーストロング (Very strong) フルメタ (0.1%モメタゾンフランカルボン 酸 エステル) アンテベート (0.05%ベタメタゾン 酪 酸 プロピオン 酸 エステル) マイザー (0.05%ジフルプレドナート) ネリゾナ,テクスメテン (0.1%ジフルコルトロン 吉 草 酸 エステル) リンデロン DP (0.04%ベタメタゾンジプロピオン 酸 エステル) トプシム (0.05%フルオシノニド) ビスダーム (0.1%アムシノニド) パンデル (0.1% 酪 酸 プロピオン 酸 ヒドロコルチゾン) ストロング (Strong) エクラー (0.3%デプロドンプロピオン 酸 エステル) メサデルム (0.1%デキサメタゾンプロピオン 酸 エステル) リンデロン V,ベトネベート (0.12%ベタメタゾン 吉 草 酸 エステル) プロパデルム (0.025%ベクロメタゾンプロピオン 酸 エステル) フルコート (0.025%フルオシノロンアセトニド) ボアラ,ザルックス (0.12%デキサメタゾン 吉 草 酸 エステル) アドコルチン (0.1%ハルシノニド) ミディアム,マイルド(Medium/Mild) リドメックス (0.3%プレドニゾロン 吉 草 酸 エステル 酢 酸 エステル) アルメタ (0.1%アルクロメタゾンプロピオン 酸 エステル) ロコイド (0.1%ヒドロコルチゾン 酪 酸 エステル) キンダベート (0.05%クロベタゾン 酪 酸 エステル) レダコート,ケナコルト A (0.1%トリアムシノロンアセトニド) グリメサゾン (0.1%デキサメタゾン) ウィーク (Weak) プレドニゾロン (0.5%プレドニゾロン) オイラックス H (0.25%ヒドロコルチゾン) 5. 硬 膏 plaster 布 地 や 紙,プラスチックフィルムに 薬 剤 をのばしたものを 病 巣 に 貼 付 して 用 いる.サリチル 酸 を 50% 含 有 したスピール 膏 べん ち けいがん がこれに 属 し, 胼 胝 や 鶏 眼 などに 用 いる( 図.4).そのほか, ステロイド 含 有 接 着 テープやリドカイン 含 有 接 着 テープもあ る. 皮 膚 科 領 域 以 外 では,ニトログリセリンやフェンタニルな どを 含 有 したテープ 製 剤 が, 経 皮 吸 収 を 利 用 した 全 身 投 与 の 手 段 として 用 いられている. b. 外 用 薬 の 主 剤 main topical agents 薬 剤 として 皮 膚 に 作 用 する 成 分 が 主 剤 である. 以 下 にあげる ような 薬 剤 がよく 使 用 される. 1.ステロイド( 副 腎 皮 質 ホルモン) corticosteroid ステロイド 外 用 の 主 要 な 目 的 は 抗 炎 症 作 用 であるが, 血 管 収 縮 作 用, 膜 透 過 性 抑 制 作 用, 炎 症 性 ケミカルメディエーターの 遊 離 抑 制 作 用,ホスホリパーゼ A 抑 制 によるアラキドン 酸 低 下 作 用, 免 疫 抑 制 作 用, 細 胞 分 裂 抑 制 作 用 などが 総 合 して 炎 症 を 抑 える. ステロイド 外 用 薬 には 作 用 が 穏 やかなものから 強 力 なものま で 多 数 あり, 作 用 の 強 さに 従 って,ストロンゲスト,ベリース トロング,ストロング,ミディアム(マイルド),ウィークの 5 段 階 に 分 類 されている( 表.3). 外 用 の 局 所 的 副 作 用 には 常 に 注 意 を 払 い, 軟 膏 の 吸 収 度 が 高 い 顔 面 に 使 用 する 際 には,とくに 気 をつけねばならない. 適 切 な 使 用 量, 使 用 法 であれば, 全 身 的 な 副 作 用 が 生 じる 可 能 性 は きわめて 低 いが, 強 力 なステロイド 外 用 を 長 期 間 にわたって 広 範 囲 に 続 けたり, 密 封 包 帯 法 (p.89)を 行 うと,ステロイド 全 身 投 与 と 同 じような 副 作 用 を 起 こすことがあるため, 注 意 が 必 要 である.また, 乳 幼 児 では 全 身 的 な 影 響 が 出 やすく, 作 用 ラ ンクを 落 とすなどの 注 意 を 要 する. 代 表 的 な 局 所 的 副 作 用 には, 皮 膚 萎 縮, 毛 細 血 管 拡 張, 紫 斑, ざ そう しゅ さ 多 毛,ステロイド 痤 瘡, 酒 皶 様 皮 膚 炎, 感 染 症 の 誘 発 増 悪 (と くに 異 型 白 癬,カンジダ 症 )などがある( 表.4). 2. 免 疫 抑 制 薬 immunosuppressant T 細 胞 を 選 択 的 に 抑 制 するカルシニューリン 抑 制 薬 の 外 用