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相 続 税 法 上 の 租 税 回 避 と 多 国 籍 企 業 による 租 税 回 避 への 対 抗 に 関 する 一 考 察 A Study of the Countermeasures to the Inheritance Tax Avoidance in Japan and the International Tax Avoidance by the MNEs 望 月 文 夫 MOCHIZUKI, Fumio Ⅰ はじめに 本 稿 は 相 続 税 法 の 適 用 をめぐる 国 際 的 租 税 回 避 行 為 とその 対 応 策 と 同 じく 国 際 的 租 税 回 避 行 為 の 対 抗 策 として 近 年 議 論 されてい るBEPS 1) 行 動 計 画 を 考 察 することで 租 税 回 避 の 国 際 課 税 の 場 面 における 着 眼 点 が 実 は 相 続 税 法 上 の 問 題 にこそあるのではないか という 示 唆 を 得 ることを 目 的 としている 日 本 における 国 際 税 務 は 昭 和 62 年 (1987 2) 年 )にトヨタ 日 産 が 米 国 で 移 転 価 格 税 制 3) の 適 用 を 受 け 相 互 協 議 を 経 て 国 税 庁 が 約 800 億 円 の 税 額 を 還 付 することが 新 聞 報 道 さ れたことで 注 目 が 集 まり 始 めた その 後 大 4) 企 業 の 法 人 税 に 続 き 所 得 税 ( 特 に 源 泉 所 得 税 ) に 関 する 国 際 税 務 について 徐 々にではある が 次 第 に 一 般 的 になってきた 一 方 相 続 税 贈 与 税 及 び 平 成 元 年 に 施 行 された 消 費 税 につ いては 国 際 税 務 に 関 する 問 題 はそれほど 顕 在 化 していなかった しかし 平 成 9 年 (1997 年 ) 頃 には 既 に 相 続 税 法 に 関 する 国 際 的 租 税 回 避 が 富 裕 層 の 間 では 一 定 程 度 広 まっていた これに 対 抗 すべく 平 成 11 年 に 税 制 調 査 会 が 相 続 税 法 の 改 正 を 答 申 5) した そして 後 述 するように 平 成 12 年 度 税 制 改 正 で 実 現 した 6) 有 名 な 武 富 士 事 件 では 平 成 12 年 度 税 制 改 正 間 際 に 贈 与 を 行 うことで 日 本 での 課 税 を 免 れようとしたとされる 武 富 士 事 件 は 平 7) 成 19 年 5 月 23 日 に 東 京 地 裁 で 原 告 勝 訴 の 判 決 により 国 際 的 租 税 回 避 行 為 が 明 らかになり 世 間 の 注 目 を 浴 びることになった その 後 8) 東 京 高 裁 平 成 20 年 1 月 23 日 判 決 で 課 税 庁 勝 9) 訴 となった 後 最 高 裁 平 成 23 年 2 月 18 日 判 決 により 納 税 者 勝 訴 となったことで 相 続 税 贈 与 税 に 係 る 国 際 的 租 税 回 避 行 為 に 関 して 学 者 税 理 士 等 の 専 門 家 だけでなく 多 くの 富 裕 層 の 関 心 を 集 めるようになった その 後 以 下 に 述 べる 新 しい 租 税 回 避 行 為 が 発 生 したことから 平 成 25 年 度 税 制 改 正 に おいて 日 本 国 籍 を 有 しない 者 に 対 する 相 続 又 は 贈 与 についても 課 税 できることとされた このように わが 国 では 武 富 士 事 件 など 相 続 税 贈 与 税 を 免 れる 国 際 的 租 税 回 避 行 為 が 実 行 され それを 封 じるために 税 制 改 正 が 行 わ れてきた 一 方 早 くから 国 際 課 税 が 問 題 になってい たわが 国 大 企 業 のうち BEPS 行 動 計 画 を 誘 キーワード : 相 続 税 租 税 回 避 行 為 多 国 籍 企 業 BEPS 行 動 計 画 Key words : inheritance tax, tax avoidance activity, multinational enterprise, BEPS action plan 117

学 大 学 要 ( 経 済 経 営 学 部 ) 第 15 号 発 するような 国 際 的 租 税 回 避 行 為 を 行 うもの は 少 ないとされる 10) これに 対 して 欧 米 多 国 籍 企 業 は 不 自 然 とも 言 える 国 際 的 租 税 回 11) 避 行 為 を 行 うことで 税 引 後 利 益 を 最 大 化 し それによりいくつかの 国 の 課 税 ベースを 侵 食 していたことでBEPS 行 動 計 画 の 議 論 が 始 まった このように 相 続 税 法 の 税 制 改 正 とBEPS 行 動 計 画 の 議 論 が 類 似 しているとも 考 えられ ることから 相 続 税 法 上 の 租 税 回 避 行 為 とこ れに 対 応 するために 行 われた 税 制 改 正 の 状 況 を 跡 づけすることで 国 際 課 税 に 関 する 示 唆 が 得 られるか 否 かについて 検 討 してみたい Ⅱ 武 富 士 事 件 と 平 成 12 年 度 税 制 改 正 1. 武 富 士 事 件 の 事 案 の 概 要 相 続 税 法 上 の 国 際 的 租 税 回 避 行 為 を 検 討 す るに 当 たり まず 武 富 士 事 件 が 挙 げられる 消 費 者 金 融 大 手 武 富 士 の 故 武 井 保 雄 元 会 長 夫 妻 (A 及 びB)から 海 外 法 人 株 の 生 前 贈 与 を 受 け 約 1600 億 円 の 申 告 漏 れを 指 摘 された 長 男 Xが 国 税 当 局 を 相 手 取 り 約 1300 億 円 の 追 徴 課 税 処 分 の 取 り 消 しを 求 めた 訴 訟 の 最 高 裁 判 決 が 出 されXの 全 面 勝 訴 となった これに より Xは 追 徴 税 額 に 還 付 加 算 金 を 加 えた 約 2000 億 円 を 国 から 受 領 した 最 高 裁 判 決 によると Xは1997 年 6 月 に 武 富 士 の 香 港 法 人 代 表 として 出 国 し 2000 年 12 月 に 帰 国 した A 及 びBは 平 成 11 年 (1999 年 ) 12 月 武 富 士 株 を 大 量 所 有 するオランダ 法 人 の 株 式 をXに 生 前 贈 与 した 当 時 の 相 続 税 法 は 贈 与 で 財 産 を 取 得 した 日 本 人 が 海 外 に 居 住 する 場 合 国 内 財 産 だけに 課 税 する 仕 組 みだった Xは 香 港 居 住 を 理 由 に 贈 与 税 を 納 めなかったが 東 京 国 税 局 は 実 質 的 な 本 拠 は 日 本 にあり 香 港 居 住 は 課 税 逃 れが 目 的 として 追 徴 課 税 した 武 富 士 事 件 は 新 聞 報 道 等 により 相 続 税 法 の 改 正 があることを 知 った 優 秀 な 公 認 会 計 士 が A B 及 びXに 平 成 11 年 (1999 年 ) 現 在 の 相 続 税 法 では 無 税 での 株 式 譲 渡 が 可 能 であ るとアドバイスをした 結 果 平 成 11 年 12 月 27 日 に 本 件 贈 与 が 行 われた 12) 2. 最 高 裁 判 決 の 概 要 (1) 旧 相 続 税 法 1 条 の2によれば 贈 与 に より 取 得 した 財 産 が 国 外 にあるものである 場 合 には 受 贈 者 が 当 該 贈 与 を 受 けた 時 におい て 国 内 に 住 所 を 有 することが 当 該 贈 与 につ いての 贈 与 税 の 課 税 要 件 とされている( 同 条 1 号 )ところ ここにいう 住 所 とは 反 対 の 解 釈 をすべき 特 段 の 事 由 はない 以 上 生 活 の 本 拠 すなわち その 者 の 生 活 に 最 も 関 係 の 深 い 一 般 的 生 活 全 生 活 の 中 心 を 指 すもので あり 一 定 の 場 所 がある 者 の 住 所 であるか 否 かは 客 観 的 に 生 活 の 本 拠 たる 実 体 を 具 備 し ているか 否 かにより 決 すべきものと 解 するの が 相 当 である( 最 高 裁 昭 和 29 年 10 月 20 日 大 法 廷 判 決 最 高 裁 昭 和 32 年 9 月 13 日 第 二 小 法 廷 判 決 最 高 裁 昭 和 35 年 3 月 22 日 第 三 小 法 廷 判 決 参 照 ) (2)これを 本 件 についてみるに 前 記 事 実 関 係 等 によれば 上 告 人 (X)は 本 件 贈 与 を 受 けた 当 時 本 件 会 社 の 香 港 駐 在 役 員 及 び 本 件 各 現 地 法 人 の 役 員 として 香 港 に 赴 任 しつ つ 国 内 にも 相 応 の 日 数 滞 在 していたところ 本 件 贈 与 を 受 けたのは 上 記 赴 任 の 開 始 から 約 2 年 半 後 のことであり 香 港 に 出 国 するに 当 たり 住 民 登 録 につき 香 港 への 転 出 の 届 出 をす るなどした 上 通 算 約 3 年 半 にわたる 赴 任 期 間 である 本 件 期 間 中 その 約 3 分 の2の 日 数 を2 年 単 位 ( 合 計 4 年 )で 賃 借 した 本 件 香 港 118

相 続 税 法 上 の 租 税 回 避 と 多 国 籍 企 業 による 租 税 回 避 への 対 抗 に 関 する 一 考 察 居 宅 に 滞 在 して 過 ごし その 間 に 現 地 におい て 本 件 会 社 又 は 本 件 各 現 地 法 人 の 業 務 として 関 係 者 との 面 談 等 の 業 務 に 従 事 しており こ れが 贈 与 税 回 避 の 目 的 で 仮 装 された 実 体 のな いものとはうかがわれないのに 対 して 国 内 においては 本 件 期 間 中 の 約 4 分 の1の 日 数 を 本 件 杉 並 居 宅 に 滞 在 して 過 ごし その 間 に 本 件 会 社 の 業 務 に 従 事 していたにとどまると いうのであるから 本 件 贈 与 を 受 けた 時 にお いて 本 件 香 港 居 宅 は 生 活 の 本 拠 たる 実 体 を 有 していたものというべきであり 本 件 杉 並 居 宅 が 生 活 の 本 拠 たる 実 体 を 有 していたとい うことはできない (3) 原 審 は Xが 贈 与 税 回 避 を 可 能 にする 状 況 を 整 えるために 香 港 に 出 国 するものであ ることを 認 識 し 本 件 期 間 を 通 じて 国 内 での 滞 在 日 数 が 多 くなりすぎないよう 滞 在 日 数 を 調 整 していたことをもって 住 所 の 判 断 に 当 たって 香 港 と 国 内 における 各 滞 在 日 数 の 多 寡 を 主 要 な 要 素 として 考 慮 することを 否 定 する 理 由 として 説 示 するが 前 記 のとおり 一 定 の 場 所 が 住 所 に 当 たるか 否 かは 客 観 的 に 生 活 の 本 拠 たる 実 体 を 具 備 しているか 否 かに よって 決 すべきものであり 主 観 的 に 贈 与 税 回 避 の 目 的 があったとしても 客 観 的 な 生 活 の 実 体 が 消 滅 するものではないから 上 記 の 目 的 の 下 に 各 滞 在 日 数 を 調 整 していたことを もって 現 に 香 港 での 滞 在 日 数 が 本 件 期 間 中 の 約 3 分 の2( 国 内 での 滞 在 日 数 の 約 2.5 倍 ) に 及 んでいるXについて 前 記 事 実 関 係 等 の 下 で 本 件 香 港 居 宅 に 生 活 の 本 拠 たる 実 体 がある ことを 否 定 する 理 由 とすることはできない このことは 法 が 民 法 上 の 概 念 である 住 所 を 用 いて 課 税 要 件 を 定 めているため 本 件 の 争 点 が 上 記 住 所 概 念 の 解 釈 適 用 の 問 題 と なることから 導 かれる 帰 結 であるといわざる を 得 ず 他 方 贈 与 税 回 避 を 可 能 にする 状 況 を 整 えるためにあえて 国 外 に 長 期 の 滞 在 をす るという 行 為 が 課 税 実 務 上 想 定 されていな かった 事 態 であり このような 方 法 による 贈 与 税 回 避 を 容 認 することが 適 当 でないという のであれば 法 の 解 釈 では 限 界 があるので そのような 事 態 に 対 応 できるような 立 法 に よって 対 処 すべきものである そして この 点 については 現 に 平 成 12 年 法 律 第 13 号 に よって 所 要 の 立 法 的 措 置 が 講 じられていると ころである (4) 原 審 が 指 摘 するその 余 の 事 情 に 関 して も 本 件 期 間 中 国 内 では 家 族 の 居 住 する 本 件 杉 並 居 宅 で 起 居 していたことは 帰 国 時 の 滞 在 先 として 自 然 な 選 択 であるし Xの 本 件 会 社 内 における 地 位 ないし 立 場 の 重 要 性 は 約 2.5 倍 存 する 香 港 と 国 内 との 滞 在 日 数 の 格 差 を 覆 して 生 活 の 本 拠 たる 実 体 が 国 内 にある ことを 認 めるに 足 りる 根 拠 となるとはいえず 香 港 に 家 財 等 を 移 動 していない 点 は 費 用 や 手 続 の 煩 雑 さに 照 らせば 別 段 不 合 理 なことで はなく 香 港 では 部 屋 の 清 掃 やシーツの 交 換 などのサービスが 受 けられるアパートメント に 滞 在 していた 点 も 昨 今 の 単 身 で 海 外 赴 任 する 際 の 通 例 やXの 地 位 報 酬 財 産 等 に 照 らせば 当 然 の 自 然 な 選 択 であって およそ 長 期 の 滞 在 を 予 定 していなかったなどとはいえ ないものである また 香 港 に 銀 行 預 金 等 の 資 産 を 移 動 していないとしても そのことは 海 外 赴 任 者 に 通 常 みられる 行 動 と 何 らそごす るものではなく 各 種 の 届 出 等 からうかがわ れるXの 居 住 意 思 についても 上 記 のとおり Xは 赴 任 時 の 出 国 の 際 に 住 民 登 録 につき 香 港 への 転 出 の 届 出 をするなどしており 一 部 の 手 続 について 住 所 変 更 の 届 出 等 が 必 須 ではな いとの 認 識 の 下 に 手 間 を 惜 しんでその 届 出 等 119

学 大 学 要 ( 経 済 経 営 学 部 ) 第 15 号 をしていないとしても 別 段 不 自 然 ではない そうすると これらの 事 情 は 本 件 において Xについて 前 記 事 実 関 係 等 の 下 で 本 件 香 港 居 宅 に 生 活 の 本 拠 たる 実 体 があることを 否 定 す る 要 素 とはならないというべきである (5) 以 上 によれば Xは 本 件 贈 与 を 受 け た 時 において 旧 相 続 税 法 1 条 の2 第 1 号 所 定 の 贈 与 税 の 課 税 要 件 である 国 内 ( 同 法 の 施 行 地 )における 住 所 を 有 していたということ はできないというべきである したがって Xは 本 件 贈 与 につき 法 1 条 の2 第 1 号 及 び2 条 の2 第 1 項 に 基 づく 贈 与 税 の 納 税 義 務 を 負 うものではなく 本 件 各 処 分 は 違 法 である 13) 3. 平 成 12 年 度 税 制 改 正 の 概 要 平 成 12 年 度 税 制 改 正 は 経 済 のグローバル 化 等 に 伴 い 国 境 を 越 えた 人 や 財 産 の 活 動 が 活 発 化 している 中 で それまでの 制 度 のまま では 課 税 の 公 平 を 確 保 し 難 い 状 況 となってき た 現 に 日 本 と 外 国 との 間 での 相 続 税 贈 与 税 の 課 税 方 法 や 課 税 対 象 等 の 違 いを 利 用 し 例 えば イ 相 続 発 生 の 直 前 に 財 産 を 国 外 に 移 転 し 国 外 に 住 所 を 有 する 子 供 に 相 続 させる ロ 子 供 が 国 外 に 住 所 を 移 した 直 後 に 国 外 へ 財 産 を 移 転 し その 国 外 財 産 をその 子 供 へ 贈 与 する( 下 線 は 筆 者 ) ことによって 日 本 の 相 続 税 や 贈 与 税 の 負 担 を 回 避 し いずれの 国 の 負 担 も 免 れるという 節 税 方 法 が 一 般 に 紹 介 され 税 制 に 対 する 信 頼 を 損 ねかねない 状 況 も 生 じていた そこで 課 税 の 公 平 を 確 保 し 租 税 回 避 行 為 を 防 止 するため 国 内 に 住 所 を 有 していな い 者 で 日 本 国 籍 を 有 する 相 続 人 等 又 は 受 贈 者 ( 下 線 は 筆 者 )については 原 則 として 相 続 等 又 は 贈 与 の 時 点 で 国 内 に 住 所 を 有 してい ない 場 合 であっても 国 内 に 住 所 を 有 する 者 と 同 様 国 外 財 産 も 相 続 税 又 は 贈 与 税 の 対 象 とする( 下 線 は 筆 者 )こととされた 平 成 12 年 度 税 制 改 正 により 国 内 に 住 所 を 有 しない 者 であっても 国 内 財 産 だけでなく 国 外 財 産 も 課 税 対 象 となったことから 一 定 の 対 策 が 講 じられたということができる 本 税 制 改 正 の 概 要 を 見 ると 武 富 士 事 件 では 上 述 したロがそのまま 実 行 されている 武 富 士 事 件 は 最 高 裁 まで 争 われたが これ 以 外 にも 同 様 の 租 税 回 避 行 為 が 行 われた 可 能 性 は 否 定 できないように 考 えられる その 点 で 遅 す ぎる 改 正 であったということもできるかもし れない このように 平 成 12 年 度 税 制 改 正 により 一 応 の 対 策 が 講 じられた しかし 次 に 見 るよ うに 新 たな 国 際 的 租 税 回 避 行 為 が 現 実 のも のとなり さらなる 対 応 が 求 められることに なった Ⅲ 信 託 受 益 権 贈 与 事 件 と 平 成 25 年 度 税 制 改 正 1.はじめに 平 成 12 年 度 税 制 改 正 により 相 続 税 贈 与 税 の 納 税 義 務 者 の 範 囲 が 拡 大 された しかし わが 国 相 続 税 贈 与 税 の 最 高 税 率 が 高 率 であ ることもあり 引 き 続 き 租 税 回 避 行 為 が 模 索 されていたといえる 平 成 12 年 度 税 制 改 正 は 国 内 に 住 所 を 有 していない 者 で 日 本 国 籍 を 有 する 相 続 人 等 についても 国 外 財 産 の 取 得 に 課 税 されるというものであった これは 逆 に 言 えば 国 内 に 住 所 を 有 しない 者 で 外 国 籍 を 有 する 者 が 相 続 する 国 外 財 産 に 対 してわが 国 相 続 税 贈 与 税 を 課 税 しない ということを 意 味 する 120

相 続 税 法 上 の 租 税 回 避 と 多 国 籍 企 業 による 租 税 回 避 への 対 抗 に 関 する 一 考 察 ということは 国 内 に 住 所 を 有 しない 者 で 日 本 国 籍 を 有 しない 者 に 対 して わが 国 に 居 住 する 富 裕 層 が 贈 与 等 を 行 うことで 租 税 回 避 を 行 うことはあまり 考 えられていなかったと 想 像 する 一 方 の 富 裕 層 は 引 き 続 き 高 率 の 相 続 税 贈 与 税 の 課 税 を 免 れるべく 模 索 して いたと 思 われる これが 以 下 に 述 べる 信 託 受 14) 益 権 贈 与 事 件 として 顕 在 化 したのである 2. 信 託 受 益 権 贈 与 事 件 の 概 要 (1) 概 要 本 事 件 は 米 国 で 誕 生 した 乳 児 X( 原 告 被 控 訴 人 )に 対 して その 祖 父 が 信 託 受 益 権 を 贈 与 したところ 課 税 庁 がXの 住 所 が 国 内 にあるとして 課 税 した 事 件 である 第 一 審 ( 名 古 屋 地 裁 平 成 23 年 3 月 24 日 判 15) 決 )では Xの 住 所 に 関 する 議 論 はあまり なく 信 託 財 産 が 国 外 財 産 に 該 当 するか 否 か が 争 点 となり 原 告 の 主 張 が 採 用 された( 原 告 勝 訴 ) ところが 控 訴 審 ( 名 古 屋 高 裁 平 成 25 年 4 16) 月 3 日 判 決 )は Xの 住 所 が 国 内 にあり 無 制 限 納 税 義 務 者 に 該 当 することから 課 税 相 当 と 判 断 した 控 訴 審 に 不 服 を 持 った 被 控 訴 人 が 上 告 受 理 申 立 てを 行 ったが 執 筆 日 現 在 最 高 裁 の 判 断 は 下 されていない (2)Xが 相 続 税 法 上 の 制 限 納 税 義 務 者 に 該 当 するとした 名 古 屋 高 裁 判 示 の 概 要 イ. 住 所 とは 反 対 の 解 釈 をすべき 特 段 の 事 由 がない 以 上 生 活 の 本 拠 すなわち そ の 者 の 生 活 に 最 も 関 係 の 深 い 一 般 的 生 活 全 生 活 の 中 心 を 指 すものであり 一 定 の 場 所 が ある 者 の 住 所 であるか 否 かは 客 観 的 に 生 活 の 本 拠 たる 実 体 を 具 備 しているか 否 かにより 決 すべきものと 解 するのが 相 当 である( 最 高 裁 判 所 平 成 23 年 2 月 18 日 第 2 小 法 廷 判 決 裁 判 集 民 事 236 号 71 頁 参 照 )ところ 本 件 にお いては 上 記 の 特 段 の 事 情 は 存 在 しない ロ. 本 件 信 託 行 為 当 時 Xは 生 後 約 8か 月 の 乳 児 であって 両 親 に 養 育 されていたので あるから Xの 住 所 を 判 断 するに 当 たっては その 両 親 の 生 活 の 本 拠 が 異 ならない 限 り そ の 生 活 の 本 拠 がどこにあるかを 考 慮 して 総 合 的 に 判 断 すべき( 下 線 は 筆 者 )である ハ.Xの 父 Bと 母 Dは 平 成 12 年 6 月 に 結 婚 し 名 古 屋 市 の 賃 貸 マンションで 同 居 生 活 を 始 めた Dは Bと 結 婚 後 専 業 主 婦 とし て 生 活 していた ニ.Bは 株 式 会 社 Fの 取 締 役 営 業 部 長 等 の 職 務 に 従 事 していたが 平 成 15 年 12 月 に 株 式 会 社 Gを 設 立 し 同 社 の 代 表 取 締 役 にも 就 任 した ホ.Dの 平 成 13 年 から 平 成 17 年 までの 米 国 滞 在 期 間 について 平 成 16 年 4 月 11 日 から 同 年 9 月 2 日 までの 期 間 を 除 いては Hの 出 産 のために 約 5か 月 Xの 出 産 のために 約 3か 月 Iの 出 産 のために 約 4か 月 米 国 に 滞 在 したのみであった その 間 Dらは 米 国 で の 上 記 滞 在 期 間 中 いずれも 本 件 コンドミニ アムで 生 活 した ヘ.Bは ほぼDの 米 国 滞 在 期 間 に 合 わせ る 形 で ほぼ1か 月 に1 度 の 割 合 で 短 けれ ば3 日 長 くても13 日 米 国 に 滞 在 するのみ であった ト.Bは 平 成 15 年 12 月 新 築 した 長 久 手 の 自 宅 に 移 住 した そして 米 国 でXを 出 産 して 平 成 16 年 1 月 30 日 に 日 本 に 帰 国 したD H 及 びXとともに その1 週 間 後 から 長 久 手 の 自 宅 で 生 活 するようになった チ.D H 及 びXは 平 成 16 年 4 月 11 日 に 渡 米 し 本 件 コンドミニアムにおいて 親 子 3 人 で 生 活 していたが 同 年 9 月 2 日 に 日 本 に 121

学 大 学 要 ( 経 済 経 営 学 部 ) 第 15 号 帰 国 した 以 降 は I 出 産 のために 渡 米 した 期 間 を 除 いては 長 久 手 の 自 宅 でBとともに 生 活 している リ. 上 記 各 認 定 事 実 によれば Dが 渡 米 し た 際 には いずれの 時 もXの 父 親 であるBが 役 員 を 務 める 会 社 所 有 の 本 件 コンドミニアム で 生 活 していたのに 対 し Bは Xが 出 生 す る 前 から 長 久 手 の 自 宅 建 築 に 係 る 請 負 契 約 を 締 結 しており 長 久 手 の 自 宅 の 完 成 後 は B 及 びDは 日 本 にいる 際 には ほぼ 長 久 手 の 自 宅 において 生 活 を 続 けており Xも 長 久 手 の 自 宅 で 同 居 していて 上 記 3 名 の 住 所 や 居 住 地 を 長 久 手 の 自 宅 とする 各 種 の 登 録 等 をし ていたこと Bは 平 成 15 年 12 月 26 日 には 日 本 に 本 社 を 置 く 株 式 会 社 Gを 設 立 して 代 表 取 締 役 に 就 任 し 本 件 信 託 契 約 締 結 時 にも 同 社 の 代 表 取 締 役 であったほか 日 本 国 内 にお ける 複 数 の 法 人 の 取 締 役 等 の 重 要 な 地 位 に 就 いていたのに 対 し 米 国 において 取 得 した 就 労 ビザの 就 労 先 であるJにおいては 役 職 も なく 給 与 も 受 領 しておらず 具 体 的 な 就 労 実 態 も 明 らかではないこと Dはいわゆる 専 業 主 婦 であって 米 国 において 就 労 していた ものではないこと Dは 長 男 のH 及 びXと ともに 平 成 16 年 4 月 11 日 に 渡 米 してから 同 年 9 月 2 日 にB H 及 びXとともに 帰 国 する までの 間 以 外 については 子 供 の 出 産 にあわ せて 渡 米 していたものであって 単 に 子 供 に 米 国 籍 を 取 得 させるために 渡 米 していたにす ぎないことなどが 認 められる( 下 線 は 筆 者 ) ところ これらの 事 実 にB 及 びDの 日 本 と 米 国 における 居 住 期 間 を 併 せ 考 慮 すると Xが 本 件 信 託 利 益 を 取 得 した 時 におけるBの 生 活 の 本 拠 が 長 久 手 の 自 宅 にあった( 下 線 は 筆 者 ) ことは 明 らかであり Dについても 夫 と 離 れて 暮 らすことは 考 えていない 旨 証 言 してい ることをも 斟 酌 すると 米 国 での 生 活 はいず れも 一 時 的 なものであって 居 住 の 継 続 性 安 定 性 からすれば 上 記 時 点 における 生 活 の 本 拠 は 長 久 手 の 自 宅 にあった( 下 線 は 筆 者 ) ものと 認 めるのが 相 当 である そうすると 両 親 に 監 護 養 育 されていたX についても 上 記 時 点 における 生 活 の 本 拠 は 長 久 手 の 自 宅 である( 下 線 は 筆 者 )と 認 める のが 相 当 である ヌ.したがって Xは 本 件 信 託 行 為 当 時 において 日 本 に 住 所 を 有 していたものと 認 められるから 本 件 信 託 財 産 が 我 が 国 に 所 在 するものであるか 否 かを 判 断 するまでもなく 相 続 税 法 上 の 制 限 納 税 義 務 者 には 当 たらず 相 続 税 法 1 条 の4 第 1 号 の 適 用 対 象 となると いうべきである 17) 3. 平 成 25 年 度 税 制 改 正 平 成 12 年 度 税 制 改 正 後 上 の 事 件 のように 海 外 で 生 まれた 孫 等 で 日 本 国 籍 を 取 得 しな かった 者 に 国 外 財 産 の 贈 与 等 をすることに よって 贈 与 税 の 課 税 を 回 避 するなど 平 成 12 年 度 税 制 改 正 後 の 制 度 によっても 対 応 できな い 租 税 回 避 行 為 が 見 られるようになった そこで 平 成 25 年 度 税 制 改 正 においては こうした 租 税 回 避 に 対 応 するため 日 本 国 籍 を 有 しない 国 外 居 住 者 についても 一 定 の 範 囲 で 相 続 若 しくは 遺 贈 又 は 贈 与 により 取 得 した 国 外 財 産 について 相 続 税 又 は 贈 与 税 の 課 税 対 象 とすることとされた 具 体 的 には 相 続 若 しくは 遺 贈 又 は 贈 与 に より 相 続 税 法 の 施 行 地 外 にある 財 産 を 取 得 し た 個 人 でその 財 産 を 取 得 した 時 において 同 法 の 施 行 地 に 住 所 を 有 しない 相 続 人 若 しくは 受 遺 者 又 は 受 贈 者 のうち 日 本 国 籍 を 有 しない 者 (その 相 続 若 しくは 遺 贈 又 は 贈 与 に 係 る 被 相 122

相 続 税 法 上 の 租 税 回 避 と 多 国 籍 企 業 による 租 税 回 避 への 対 抗 に 関 する 一 考 察 続 人 又 は 贈 与 者 が 相 続 開 始 又 は 贈 与 の 時 に おいて 同 法 の 施 行 地 に 住 所 を 有 していた 場 合 に 限 る )は 相 続 税 又 は 贈 与 税 を 納 める 義 務 があるものとされた( 旧 相 法 1の31 1 の41) 同 改 正 を 受 けて 現 行 法 上 居 住 無 制 限 納 税 義 務 者 非 居 住 無 制 限 納 税 義 務 者 及 び 制 限 納 税 義 務 者 に 区 分 されることとなったが 具 体 的 には 次 の 通 りである (1) 居 住 無 制 限 納 税 義 務 者 相 続 又 は 遺 贈 により 財 産 を 取 得 した 個 人 で その 財 産 を 取 得 した 時 において 日 本 国 内 に 住 所 を 有 していた 者 をいい その 取 得 財 産 の 所 在 のいかんを 問 わずその 取 得 財 産 の 全 部 につ いて 納 税 義 務 を 負 うものをいう( 相 法 1 条 の 31 一 21) (2) 非 居 住 無 制 限 納 税 義 務 者 相 続 又 は 遺 贈 により 財 産 を 取 得 した 次 に 掲 げる 個 人 で その 財 産 を 取 得 した 時 において 日 本 国 内 に 住 所 を 有 しない 者 をいい その 取 得 財 産 の 所 在 のいかんを 問 わずその 取 得 財 産 の 全 部 について 納 税 義 務 を 負 うものをいう ( 相 法 1 条 の31 二 21) 1 日 本 国 籍 を 有 する 個 人 (その 個 人 又 は 被 相 続 人 がその 相 続 の 開 始 前 5 年 以 内 のい ずれかの 時 において 日 本 国 内 に 住 所 を 有 していた 場 合 に 限 る) 2 日 本 国 籍 を 有 しない 個 人 ( 被 相 続 人 がそ の 相 続 の 開 始 時 において 日 本 国 内 に 住 所 を 有 していた 場 合 に 限 る) (3) 制 限 納 税 義 務 者 相 続 又 は 遺 贈 により 財 産 を 取 得 した 個 人 で その 財 産 を 取 得 した 時 において 日 本 国 内 に 住 所 を 有 していない 者 ( 上 のロの 非 居 住 無 制 限 納 税 義 務 者 を 除 く)をいい その 取 得 財 産 の うち 国 内 にあるものについてのみ 納 税 義 務 があるものをいう( 相 続 税 法 1 条 の31 三 22) 4. 住 所 の 概 念 上 で 紹 介 した 武 富 士 事 件 および 信 託 受 益 権 贈 与 事 件 は いずれも 国 内 に 住 所 があるか 否 かが 論 点 となっている なぜなら わが 国 相 続 税 法 上 の 納 税 義 務 者 の 範 囲 は 上 で 見 たよ うに 財 産 の 取 得 者 が 国 内 に 住 所 があるか 否 か により 決 定 されるからである そこで 今 後 の 相 続 税 法 の 適 用 に 関 しても 住 所 の 有 無 が 最 大 の 争 点 になる 場 合 があろう ここで 武 富 士 事 件 最 高 裁 判 決 から もう 一 度 住 所 の 意 義 について 確 認 しておく 住 所 とは 反 対 の 解 釈 をすべき 特 段 の 事 由 はない 以 上 生 活 の 本 拠 すなわち その 者 の 生 活 に 最 も 関 係 の 深 い 一 般 的 生 活 全 生 活 の 中 心 を 指 すものであり 一 定 の 場 所 があ る 者 の 住 所 であるか 否 かは 客 観 的 に 生 活 の 本 拠 たる 実 体 を 具 備 しているか 否 かにより 決 すべきものと 解 するのが 相 当 である 武 富 士 事 件 の 最 高 裁 判 決 にもあるように 国 内 に 住 所 があるか 否 かを 決 定 づけるのは 客 観 的 に 生 活 の 本 拠 がどこにあるか という ことである 住 所 とは そもそも 租 税 法 上 の 概 念 ではなく 民 法 22 条 により 各 人 の 生 活 の 本 拠 をその 者 の 住 所 とする と 規 定 され ている 武 富 士 事 件 で 引 用 された3つの 最 高 裁 判 決 は 農 地 法 公 職 選 挙 法 等 の 適 用 に 関 する 事 件 だが 住 所 の 判 断 はあくまで 民 法 の 当 該 規 定 の 解 釈 に 基 づくものであった なお 生 活 の 本 拠 がどこにあるかを 具 体 的 に 判 定 するため 所 得 税 法 および 相 続 税 法 で は 伝 統 的 に 以 下 の4つの 要 素 を 総 合 的 に 勘 案 して 判 断 することとされる 1 住 居 がどこに 所 在 するか 123

学 大 学 要 ( 経 済 経 営 学 部 ) 第 15 号 2 生 計 を 一 にする 配 偶 者 等 の 親 族 の 居 所 がどこにあるか 3 どこで 職 業 に 就 いているか 4 資 産 がどこに 所 在 するか Ⅳ. 最 新 の 租 税 回 避 のスキームの 事 例 と 納 税 義 務 者 の 行 動 1. 平 成 25 年 度 税 制 改 正 後 の 租 税 回 避 スキーム 平 成 25 年 度 税 制 改 正 において 非 居 住 無 制 限 納 税 義 務 者 の 範 囲 が 拡 大 されたことにより それ 以 前 の 国 際 的 租 税 回 避 スキームに 対 応 す ることができるようになった しかし わが 国 富 裕 層 一 部 の 中 には 国 外 において5 年 超 居 住 する 者 が 同 じく5 年 超 国 外 に 居 住 する 者 に 対 して 国 外 財 産 を 贈 与 等 することを 模 索 又 は 実 施 している 例 えば 国 外 に5 年 超 居 住 しているAが 自 己 が 所 有 する 国 外 財 産 を 同 じく 国 外 に5 年 超 居 住 し ているBに 贈 与 したとき 現 行 法 上 わが 国 の 贈 与 税 は 課 税 されない 近 年 経 済 のグローバル 化 の 中 で 5 年 を 超 えて 国 外 に 居 住 する 者 の 数 が 増 加 している と 思 われるが その 者 ( 基 本 的 には 日 本 国 籍 を 有 する 者 )が 一 定 の 国 外 財 産 を 所 有 する 場 合 日 本 の 相 続 税 贈 与 税 の 納 税 義 務 を 免 れるために その 国 外 財 産 をその 者 とともに 国 外 に 居 住 している 配 偶 者 等 の 親 族 に 贈 与 等 するのである 2. 新 たな 租 税 回 避 スキームに 対 する 対 応 策 上 述 したように 当 局 は これまで 租 税 回 避 行 為 が 顕 在 化 した 場 合 納 税 義 務 者 の 範 囲 を 広 げる 税 制 改 正 を 行 うことでこれに 対 応 し てきた そこで 上 述 した 事 例 が 租 税 回 避 行 為 と 判 断 され そのまま 放 置 しておくことが 課 税 の 公 平 性 の 観 点 から 好 ましくないと 判 断 した 場 合 これに 対 応 すべく 再 び 税 制 改 正 を 行 うことが 考 えられる それでは どのような 対 応 策 が 考 えられる のだろうか 上 に 掲 げた 国 外 に5 年 超 居 住 す る 者 から 同 じく 国 外 に5 年 超 居 住 する 者 に 対 して 国 外 財 産 を 贈 与 等 する 場 合 現 行 法 で は 課 税 対 象 から 除 外 されている そこで こ のことを 利 用 して 相 続 税 贈 与 税 の 納 税 義 務 を 免 れることを 企 図 する 者 に 対 応 する 方 法 と して 最 初 に 考 えられることは そのような 行 為 を 行 う 者 が 日 本 国 籍 を 有 する 者 であれば 当 該 日 本 国 籍 を 有 する 者 についてのみ 現 行 法 の 例 外 として 規 定 を 整 備 することが 考 えられ る ただし 日 本 国 籍 のみとすれば 信 託 受 益 権 贈 与 事 件 と 同 様 外 国 籍 の 者 への 贈 与 等 が 新 たな 抜 け 道 となるかもしれない このように 考 えると 相 続 税 法 をめぐる 国 際 的 租 税 回 避 行 為 とその 対 応 策 としての 税 制 改 正 は いわゆるいたちごっこであり 先 が 見 えない どのような 制 度 に 改 正 したとしても 何 らかの 方 策 を 採 用 して 租 税 回 避 を 模 索 する 納 税 者 が 必 ず 存 在 すると 考 えられる 3. 相 続 税 贈 与 税 の 納 税 義 務 者 による 租 税 回 避 行 為 の 誘 因 そもそも 相 続 税 法 上 の 租 税 回 避 行 為 は ( 正 確 な 言 い 方 ではないものの) 自 己 の 所 有 する 財 産 をできるだけ 多 く 子 孫 に 残 したいと 考 える 一 部 の 富 裕 層 の 希 望 に 対 して 一 定 の 処 方 箋 を 提 供 する 専 門 家 が 知 恵 を 授 けること により 実 現 される そして 相 続 税 は 人 の 死 亡 に 基 づいた 財 産 の 移 転 の 際 に 課 税 されるこ とから 人 生 の 中 で 数 回 しか 経 験 しないこと が 特 徴 的 である これに 対 して 贈 与 は 何 度 で も 行 うことができるが 贈 与 税 が 相 続 税 の 補 完 税 であることにより こちらも 何 度 も 経 験 124

相 続 税 法 上 の 租 税 回 避 と 多 国 籍 企 業 による 租 税 回 避 への 対 抗 に 関 する 一 考 察 することは 予 定 されていない この 点 が 期 間 税 としての 所 得 税 法 人 税 とは 大 きく 異 な る ところで 相 続 税 贈 与 税 の 最 高 税 率 は 平 成 27 年 1 月 1 日 以 後 発 生 する 相 続 等 から 6 億 円 超 の 課 税 価 格 に 対 しては55%に 引 き 上 げられた 相 続 税 法 は 一 定 の 基 礎 控 除 額 を 超 える 財 産 に 対 して 課 税 され 伝 統 的 に 超 過 累 進 税 率 を 採 用 してきた このため 90%を 超 える 国 民 は 相 続 税 法 には 関 与 せず 一 部 の 18) 国 民 のみが 負 担 するという 構 造 を 有 してい た 一 方 相 続 税 の 合 計 課 税 価 格 に 対 する 納 付 税 額 の 割 合 は 平 成 22 年 度 で11.2% 19) であっ た これは 相 続 税 を 納 付 する 者 の 多 くが 10% 又 は20%といった 低 税 率 を 適 用 されてい ることを 意 味 しており 多 額 の 相 続 税 額 を 負 担 する 者 がほんの 一 握 りであることを 示 して いる 非 常 に 単 純 な 言 い 方 をすれば 相 続 税 法 と は 国 とごく 一 部 の 国 民 との 間 において 適 用 さ れるものであり ほとんどの 国 民 には 関 係 が ない そして 相 続 税 を 負 担 する 者 のごく 一 部 が 高 税 率 の 負 担 をしている したがって 高 税 率 を 負 担 するほんの 一 握 りの 者 は 相 続 税 法 に 関 して 非 常 に 敏 感 である そのため 上 述 した 租 税 回 避 行 為 が 行 われると 理 解 する ことができる これを 敷 衍 すれば 相 続 税 法 の 納 税 義 務 者 の 範 囲 に 関 する 税 制 改 正 を( 少 なくとも 二 度 ) 行 ったことで 租 税 回 避 行 為 に 対 応 策 が 講 じ られてきたものの 上 述 した 租 税 回 避 行 為 が 今 後 一 定 程 度 の 割 合 で 顕 在 化 するかもしれな い そして その 租 税 回 避 行 為 を 封 じ 込 める 税 制 改 正 が 行 われたとしても さらに 新 たな 租 税 回 避 行 為 が(おそらく) 考 えられ 実 行 さ れるのではないだろうか 高 税 率 を 負 担 する ごく 一 握 りの 者 にとって 相 続 税 法 は 極 めて 重 要 な 影 響 を 与 えるものであり したがって 租 税 回 避 行 為 を 行 う 誘 因 となると 考 えるべき であろう なお 相 続 税 法 に 関 する 各 国 の 規 定 を 見 る と 次 の 通 りである 米 国 には 遺 産 税 があるほ か 英 国 フランス ドイツ イタリア ブ ラジル スペインなどでは 相 続 税 ( 又 は 遺 産 税 )が 適 用 される これに 対 して 中 国 香 港 シンガポール タイ マレーシア オー ストラリア カナダ インド ニュージーラ ンド ノルウェー スウェーデン ロシアな ど 多 くの 国 々ではかつては 相 続 税 ( 又 は 遺 産 税 )が 存 在 していたが 現 在 までに 廃 止 された か 又 はそもそも 相 続 税 が 存 在 していない 現 代 社 会 においては 一 般 の 納 税 者 であって もこのような 情 報 に 接 することは 容 易 であり これらの 国 又 は 地 域 を 利 用 することで 相 続 税 贈 与 税 の 納 税 義 務 を 免 れるという 誘 因 も 働 く 可 能 性 がある Ⅳ 租 税 回 避 行 為 による 相 続 税 法 の 改 正 とBEPS 行 動 計 画 1. 租 税 回 避 行 為 に 対 応 した 税 制 改 正 上 述 したように 相 続 税 法 上 の 納 税 義 務 者 の 範 囲 は 租 税 回 避 行 為 に 対 抗 するために 拡 充 されてきた 今 後 も 新 たな 租 税 回 避 行 為 が 顕 在 化 すると 更 なる 税 制 改 正 が 行 われるか もしれない そこで これをどのように 評 価 すべきか ということが 問 題 になる ある 制 度 の 抜 け 道 を 探 して 課 税 されないような 行 動 を 取 る 納 税 義 務 者 がいる そして その 抜 け 道 をふさ ぐ 手 立 てを 講 じて 税 制 改 正 を 行 う ところが 別 の 抜 け 道 を 探 して 租 税 回 避 行 為 を 行 う 納 税 義 務 者 が 登 場 する そこで 再 度 税 制 改 正 を 125

学 大 学 要 ( 経 済 経 営 学 部 ) 第 15 号 行 うということの 繰 り 返 しである 相 続 税 法 上 の 納 税 義 務 者 は 相 続 税 贈 与 税 の 納 付 額 を 最 少 化 することで 次 世 代 に 移 転 できる 財 産 を 最 大 化 しようとしていると 考 え ることができる 2.BEPS 行 動 計 画 と 国 際 的 租 税 回 避 行 為 ここで 視 点 を 変 えて 近 年 のBEPS 行 動 計 画 の 議 論 について 少 し 見 ていくことにしたい というのは 欧 米 多 国 籍 企 業 の 行 動 と 日 本 の 相 続 税 法 上 の 納 税 義 務 者 のそれが 類 似 してい ると 考 えるからである すなわち 納 税 額 を 可 能 な 限 り 減 少 させたい 納 税 義 務 者 は 原 則 として 法 律 の 範 囲 内 で 租 税 回 避 行 為 を 考 え 実 行 する 点 である BEPS 行 動 計 画 は 欧 米 の 多 国 籍 企 業 によ る 合 法 的 な 国 際 的 租 税 回 避 行 為 に 主 要 国 全 体 で 対 抗 するため 多 国 間 で 税 制 の 再 構 築 およ び 国 際 間 の 税 務 当 局 の 協 力 体 制 の 強 化 を 目 的 として 議 論 されてきている 法 律 に 違 反 しな い 租 税 回 避 行 為 は 合 法 であり 現 行 法 では 課 税 できない そこで 抜 け 道 を 封 じることで 対 応 することになる しかし 多 国 籍 企 業 が 行 う 国 際 的 租 税 回 避 行 為 には 一 国 だけでは その 対 応 が 十 分 に 達 成 できない 場 合 がある ここに 国 際 間 の 協 力 協 調 が 必 要 になってく る それでは なぜ 欧 米 の 多 国 籍 企 業 は 合 法 的 な 国 際 的 租 税 回 避 行 為 を 行 うのだろうか 主 要 国 の 法 人 税 率 は 日 本 の 相 続 税 法 と 同 じく らい 高 率 なのだろうか ここ20 年 来 欧 州 の 法 人 税 率 は 着 実 に 下 がり 続 けている 20) これ に 対 して 米 国 連 邦 法 人 所 得 税 の 税 率 (2015 年 )は35%であり 日 本 と 並 んで 世 界 最 高 で ある このような 状 況 下 欧 米 多 国 籍 企 業 は 連 結 ベースで 税 引 後 利 益 を 最 大 化 するために 納 付 税 額 を 可 能 な 限 り 減 少 させる 税 引 後 利 益 は 株 主 への 配 当 可 能 利 益 にも また 純 資 産 を 増 加 するために 利 益 剰 余 金 に 充 当 するこ ともできる 利 益 を 追 求 する 企 業 の 行 動 とし ては 極 めて 合 理 的 である このほか 経 営 者 の 報 酬 が 業 績 連 動 報 酬 で あれば 経 営 者 には 個 人 的 にも 国 際 的 租 税 回 避 行 為 を 行 う 誘 因 が 存 在 することになる こ のように 考 えれば 欧 米 多 国 籍 企 業 が 国 際 的 租 税 回 避 行 為 を 執 拗 に 行 うのは 営 利 企 業 と して 税 引 後 利 益 を 最 大 化 することがある 意 味 当 然 のことであること そして 経 営 者 にも 個 人 的 な 誘 因 を 与 える 場 合 が 多 いこと とい う 理 由 が 考 えられる そして 忘 れてはならないことは 世 界 に 多 数 存 在 するタックス ヘイブンである タッ クス ヘイブンには 租 税 法 上 の 定 義 はないが 21) OECD 租 税 委 員 会 の 報 告 書 の 中 に4つの 要 因 が 掲 げられている 国 際 税 務 で 頻 繁 に 名 前 が 出 るのはケイマン 諸 島 バミューダ リヒ テンシュタイン アイルランド オランダ スイス リヒテンシュタイン 香 港 シンガ ポール 等 であり かなりの 数 に 上 る これら の 国 々は 単 に 無 税 又 は 低 税 率 というだけで なく 外 国 からの 投 資 誘 因 の 施 策 をいくつか 有 している また 制 度 自 体 に 透 明 性 がない 場 合 があるほか 個 別 企 業 との 交 渉 が 行 われる こともあり その 実 態 は 必 ずしも 全 て 明 らか になっているわけではない 欧 米 多 国 籍 企 業 による 国 際 的 租 税 回 避 行 為 は 納 税 額 を 減 少 させたい 企 業 側 とそれを 助 長 するタックス ヘイブンとのマッチングに より 成 立 すると 見 ることができる 126

相 続 税 法 上 の 租 税 回 避 と 多 国 籍 企 業 による 租 税 回 避 への 対 抗 に 関 する 一 考 察 Ⅴ 相 続 税 法 上 の 租 税 回 避 行 為 がわが 国 国 際 課 税 に 与 える 示 唆 ここまで 見 たように 相 続 税 贈 与 税 の 納 税 義 務 を 最 少 化 することで 次 世 代 への 財 産 移 転 の 最 大 化 を 可 能 にできるが そのために 制 度 上 の 抜 け 穴 を 合 法 的 に 使 用 することが 行 われてきた そして その 租 税 回 避 は 住 所 を 外 国 に 変 更 すること 孫 に 外 国 籍 を 取 得 させ ること 等 を 利 用 するなど 時 には 不 自 然 とも 思 える 方 法 を 用 いることで 実 現 される 一 方 欧 米 多 国 籍 企 業 が 行 う 国 際 的 租 税 回 避 行 為 は 配 当 可 能 利 益 の 最 大 化 = 法 人 税 納 付 額 の 最 少 化 を 目 的 として タックス ヘイブンを 利 用 することで 行 われる 両 者 に 共 通 することは 偶 然 ではなく 明 確 に 租 税 回 避 の 意 図 を 有 して いること 税 法 を 熟 知 することで 初 めて 達 成 できること 合 法 的 であること 時 には 不 自 然 な 形 態 であること である 筆 者 は これまで 移 転 価 格 税 制 タックス ヘイブン 対 策 税 制 などの 法 人 税 を 中 心 に 所 得 課 税 に 係 る 国 際 課 税 の 研 究 を 行 ってきたが これらの 裁 判 例 において 納 税 義 務 者 が 租 税 回 22) 避 の 意 図 を 明 確 に 有 していない 事 例 が 多 い と 感 じてきた これは 裁 判 例 を 読 む 限 り 納 税 義 務 者 が 国 際 課 税 に 関 する 税 制 を 十 分 に 理 解 しないまま 課 税 処 分 を 受 け これに 不 服 を 持 つことで 訴 訟 に 及 ぶものが 多 いと 思 われ た また 課 税 処 分 に 不 服 はあったもののレ ピュテーションリスクを 恐 れるなどの 理 由 か ら 当 局 の 指 導 に 従 って 更 正 処 分 を 受 け 又 は 修 正 申 告 書 を 提 出 する 納 税 義 務 者 も 多 かっ たのではないかと 考 えている 23) このほか 法 人 税 法 および 源 泉 所 得 税 に 係 る 租 税 回 避 行 為 を 理 由 として 課 税 権 確 保 のため 税 制 改 正 をすることはあまりないのではないかと 考 え られる このように 考 えると ( 一 部 とはいえ)わが 24) 国 相 続 税 法 上 の 裁 判 例 を 見 ていくことで 明 確 な 意 思 を 持 った 租 税 回 避 行 為 があったこ とが 理 解 できるだけでなく それがその 後 の 税 制 改 正 をもたらすことが 明 らかになる 点 で 欧 米 多 国 籍 企 業 が 行 う 租 税 回 避 行 為 とこれに 対 抗 するために 議 論 しているBEPS 行 動 計 画 と 類 似 していると 言 えるのである ただし 相 続 税 法 の 適 用 は 資 産 課 税 であるがゆえに 自 然 人 において( 個 人 差 はあるものの) 生 涯 を 通 じて 数 回 しかないと 考 えられるのに 対 し て 多 国 籍 企 業 による 租 税 回 避 行 為 はそれが 所 得 課 税 であるため 毎 年 のように 見 直 され また 同 時 並 行 的 に 複 数 の 租 税 回 避 行 為 が 行 わ れる 点 で 大 きく 異 なっている 部 分 もある なお BEPS 行 動 計 画 は 執 筆 日 現 在 公 表 されているのは 一 部 に 過 ぎず 全 体 像 は 明 らか ではないものの OECD 加 盟 国 とG20 構 成 国 に 対 して 15にわたる 行 動 計 画 について 勧 告 書 に 基 づき 必 要 な 税 制 改 正 を 促 すものとなる ことが 予 想 される Ⅵ おわりに 本 稿 は 若 干 の 相 続 税 法 上 の 租 税 回 避 行 為 をめぐる 裁 判 例 とその 後 の 税 制 改 正 の 動 きを 見 ることで 租 税 回 避 行 為 と 税 制 改 正 が 繰 り 返 されることを 述 べた そして 相 続 税 法 に 関 する 租 税 回 避 行 為 が 欧 米 多 国 籍 企 業 で 横 行 しているそれと 不 自 然 な 形 態 で 行 われるこ と 明 確 な 意 思 を 有 していること 合 法 的 で あること などの 点 で 類 似 していることを 述 べた また 多 くの 国 際 課 税 事 案 で 問 題 となっ た 法 人 税 法 および 所 得 税 法 といった 所 得 課 税 においては 日 本 においては 明 確 な 租 税 回 避 行 為 があまり 見 られないことも 不 十 分 ではあ 127

学 大 学 要 ( 経 済 経 営 学 部 ) 第 15 号 るが 述 べた これまで 若 干 の 議 論 にとどまっ ていた 相 続 税 法 上 の 租 税 回 避 行 為 こそ 国 際 課 税 上 問 題 になっているBEPS 行 動 計 画 と 同 質 の 思 想 の 下 に 行 われていると 言 えるだろう しかしながら 日 本 の 多 国 籍 企 業 が 欧 米 多 国 籍 企 業 に 比 べて 租 税 回 避 行 為 を 行 うことが 少 ない 理 由 について 本 稿 では 明 らかにでき ていない 複 雑 な 国 際 課 税 の 枠 組 みに 翻 弄 さ れた 事 例 を 簡 単 に 紹 介 したのみである 今 後 BEPS 行 動 計 画 の 成 果 である 勧 告 書 が 公 表 さ れ 新 しい 国 際 課 税 の 取 り 組 みが 始 まる 租 税 回 避 行 為 に 対 応 するために 新 たな 多 国 間 協 定 の 制 定 に 向 けた 動 きが 本 格 化 するとも 言 われている さらに 国 際 課 税 制 度 が 複 雑 化 す る 中 で わが 国 企 業 がどのように 対 応 すべき なのか そして 公 平 な 課 税 の 実 現 のための 制 度 構 築 をどのようにすべきなのか につい て 研 究 を 進 めていきたいと 考 える 注 1)BEPSと は Base Erosion and Profit Shiftingの 省 略 であり 税 源 侵 食 と 利 益 移 転 と 訳 されてい る BEPS 行 動 計 画 は 2013 年 より 経 済 協 力 開 発 機 構 (OECD) 租 税 委 員 会 とG20により 国 際 的 租 税 回 避 行 為 に 対 抗 するために 行 われている15 項 目 の 共 同 作 業 を 指 す 2015 年 9 月 末 を 勧 告 書 の 公 表 期 限 とし 具 体 的 には 勧 告 書 を 受 けた 各 国 国 内 法 の 改 正 多 国 籍 条 約 の 締 結 さらに 国 際 的 な 監 視 機 関 の 設 置 を 行 うこととされる BEPS 行 動 計 画 については 多 くの 研 究 成 果 があるが ここでは 以 下 の 文 献 を 掲 げることとする 吉 村 政 穂 BEPS とは 何 か ジュリスト1483 号 20-24 頁 浅 川 雅 嗣 OECDにおけるBEPSプロジェクトについて 国 際 税 務 35 巻 1 号 24-26 頁 浅 妻 章 如 所 得 源 泉 /BEPS/arm s length/ 競 争 租 税 研 究 781 号 183-198 頁 中 里 実 BEPSプロジェクトはどこまで 実 現 されるか ジュリスト1483 号 25-30 頁 2)わが 国 移 転 価 格 税 制 は 昭 和 61 年 度 税 制 改 正 に おいて 租 税 特 別 措 置 法 第 66 条 の4により 制 度 化 さ れた 3)わが 国 における 相 互 協 議 の 研 究 成 果 は 数 多 くあ るが 初 期 のものとして 高 久 隆 太 - 米 国 にお ける 相 互 協 議 手 続 の 研 究 と 我 が 国 における 相 互 協 議 手 続 の 在 り 方 に 関 する 一 考 察 - 税 務 大 学 校 論 叢 23 号 がある 4) 源 泉 所 得 税 で 国 際 課 税 上 問 題 になるのは 内 国 法 人 が 外 国 で 稼 得 する 所 得 に 関 して 当 該 外 国 で 納 税 する 所 得 税 の 場 合 または 外 国 法 人 が 国 内 で 稼 得 する 所 得 に 関 してわが 国 で 納 税 する 所 得 税 の 場 合 の 両 方 がある 5) 平 成 11 年 12 月 16 日 に 内 閣 総 理 大 臣 に 提 出 された 平 成 12 年 度 の 税 制 改 正 に 関 する 答 申 によると 相 続 税 については 国 際 化 などの 経 済 社 会 状 況 の 変 化 への 対 応 も 求 められており 税 制 の 信 頼 を 高 める 観 点 から 海 外 への 資 産 移 転 による 租 税 回 避 行 為 の 防 止 などについても 必 要 な 措 置 を 検 討 する 必 要 があります と 記 述 されている 6) 武 富 士 事 件 の 評 釈 は 数 えきれないが ここでは 以 下 を 掲 げておく 増 田 英 敏 借 用 概 念 としての 住 所 の 認 定 と 贈 与 税 回 避 の 意 図 ジュリスト1454 号 114-117 頁 田 中 治 税 法 の 解 釈 方 法 と 武 富 士 判 決 の 意 義 同 志 社 法 学 64 巻 7 号 2229-2275 頁 品 川 芳 宣 国 外 財 産 を 贈 与 した 場 合 における 受 贈 者 の 住 所 の 認 定 税 研 27 巻 2 号 66-69 頁 渡 部 岳 武 富 士 事 件 最 高 裁 判 決 の 検 討 税 法 学 569 号 323-347 頁 7) 東 京 地 裁 平 成 19 年 5 月 23 日 判 決 税 務 訴 訟 資 料 第 257 号 -108 順 号 10717 8) 東 京 高 裁 平 成 20 年 1 月 23 日 判 決 税 務 訴 訟 資 料 第 258 号 -10 順 号 10868 9) 最 高 裁 ( 第 二 小 法 廷 ) 平 成 23 年 2 月 18 日 判 決 税 務 訴 訟 資 料 第 261 号 -29 順 号 11619 10)BEPSの 議 論 が 本 格 的 に 始 まった 時 期 の 税 制 調 査 会 第 3 回 国 際 課 税 ディスカッショングループの 議 事 録 (2014 年 4 月 4 日 )の 中 で 当 時 の 財 務 省 日 置 参 事 官 は 日 本 のタックスのコンプライアン スは 多 国 籍 企 業 の 中 でもよい 部 類 ではないかと いうことで 経 団 連 からも 同 様 の 指 摘 を 受 けていま 128

相 続 税 法 上 の 租 税 回 避 と 多 国 籍 企 業 による 租 税 回 避 への 対 抗 に 関 する 一 考 察 すが 正 直 に 申 してBEPSというのは 日 本 企 業 にとっての 競 争 条 件 の 公 平 化 の 千 載 一 遇 のチャン スではないかと 思 っています と 述 べている 同 議 事 録 は 以 下 のURLで 閲 覧 することができる http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/ discussion1/2014/ icsfiles/afieldfile/2014/06/04/26 dis13kai_1.pdf.(2015 年 9 月 15 日 アクセス) 11) 一 例 として 2012 年 12 月 4 日 付 日 本 経 済 新 聞 に スタバ アマゾン 迫 る 課 税 包 囲 網 と 題 する 記 事 が 掲 載 され 両 社 の 他 グーグルが ダブル アイリッシュやダッチ サンドイッチなどを 利 用 することで 国 際 的 租 税 回 避 行 為 を 行 っていたこ とを 報 じている 12) 平 成 11 年 12 月 16 日 に 提 出 された 平 成 12 年 度 の 税 制 改 正 に 関 する 答 申 の 報 道 は 翌 日 には 新 聞 各 紙 上 において 行 われていた 通 常 税 制 改 正 は 毎 年 12 月 頃 に 税 制 調 査 会 答 申 があり それを 受 け て 税 制 改 正 大 綱 を 策 定 これに 基 づいて 財 務 省 主 税 局 が 内 閣 法 制 局 の 指 導 の 下 税 制 改 正 法 案 を 作 成 した 上 で 通 常 国 会 ( 翌 年 2 月 初 旬 頃 )に 提 出 され る その 後 3 月 末 日 までに 国 会 で 可 決 成 立 し 4 月 1 日 施 行 となることが 多 い 13) 本 項 の 記 述 に 当 たっては 平 成 12 年 度 改 正 税 法 のすべて ( 財 務 省 編 )を 参 照 した 14) 本 件 に 関 する 評 釈 には 田 中 啓 之 米 国 州 法 を 準 拠 法 とする 信 託 の 受 益 者 に 対 する 贈 与 税 の 課 税 が 適 法 とされた 事 例 ジュリスト1460 号 8-9 頁 野 一 色 直 人 相 続 税 法 上 の 生 命 保 険 信 託 の 要 素 の 検 討 税 務 弘 報 61 巻 10 号 121-128 頁 木 村 弘 之 亮 外 国 籍 の 孫 への 海 外 信 託 贈 与 税 研 178 号 191-194 頁 などがある 15) 名 古 屋 地 裁 平 成 23 年 3 月 24 日 判 決 税 務 訴 訟 資 料 第 261 号 -64 順 号 11654 16) 名 古 屋 高 裁 平 成 25 年 4 月 3 日 判 決 税 務 訴 訟 資 料 第 263 号 -64 順 号 12192 17) 本 項 の 記 述 に 当 たっては 平 成 25 年 度 改 正 税 法 のすべて ( 財 務 省 編 )を 参 照 した 18) 平 成 25 年 度 税 制 改 正 において 基 礎 控 除 の 引 下 げおよび 税 率 の 変 更 が 行 われたが その 理 由 につ いて 財 務 省 平 成 25 年 度 改 正 税 法 のすべて 565 頁 は 相 続 税 は 亡 くなられた 方 の 数 に 対 す る 課 税 件 数 の 割 合 が4% 程 度 に 低 下 しており 最 高 税 率 の 引 下 げを 含 む 税 率 構 造 の 緩 和 も 行 われて きた 結 果 相 続 税 の 再 分 配 機 能 が 低 下 していま す と 説 明 している 19) 財 務 省 平 成 25 年 度 改 正 税 法 のすべて 568 頁 20)EUの 資 料 EU Taxation trends in the European Union(2014 Edition) によると EU 域 内 の 平 均 法 人 税 率 は1995 年 で 約 35.5%だったものが 2014 年 には 約 23%に 下 落 している 21)1998 年 にOECD 租 税 委 員 会 が 公 表 した Harmful Tax competition : An Emerging Global Issue では タックス ヘイブンに 関 する 世 界 的 に 共 通 の 定 義 はないが 以 下 の4つの 要 因 を 満 たす 国 又 は 地 域 をタックス ヘイブンと 呼 ぶとしている イ. 無 税 又 は 著 しく 低 税 率 ロ. 効 果 的 な 情 報 提 供 を 行 わない ハ. 透 明 性 の 欠 如 ニ. 実 質 的 な 活 動 を 要 求 しない 同 書 23 頁 22) 移 転 価 格 税 制 については 最 初 の 裁 判 事 例 と なった 松 山 地 裁 平 成 16 年 4 月 14 日 判 決 ( 今 治 造 船 事 件 ) 外 国 子 会 社 から 受 領 する 受 取 利 息 が 低 率 であったとされた 東 京 地 裁 平 成 18 年 10 月 26 日 判 決 (タイバーツ 事 件 ) 原 価 に10% 程 度 上 乗 せした 利 益 が 低 率 だとされた 大 阪 地 裁 平 成 20 年 7 月 11 日 判 決 ( 日 本 圧 着 端 子 事 件 ) 輸 入 バナナの 価 格 が 高 額 であるとされた 東 京 地 裁 平 成 24 年 4 月 27 日 判 決 (パシフィッツ フルーツ 事 件 )などが また タッ クス ヘイブン 対 策 税 制 については 静 岡 地 裁 平 成 7 年 11 月 9 日 判 決 (ホンコンヤオハン 事 件 ) 外 国 子 会 社 の 赤 字 を 取 り 込 んだ 松 山 地 裁 平 成 16 年 2 月 10 日 判 決 ( 双 輝 汽 船 事 件 ) いわゆる 来 料 加 工 に 関 する 東 京 地 裁 平 成 21 年 5 月 28 日 判 決 大 阪 地 裁 平 成 23 年 6 月 23 日 判 決 などがあるが 納 税 義 務 者 に 必 ずしも 明 確 な 租 税 回 避 の 意 図 があるとは 認 定 されていない これらの 裁 判 例 は 控 訴 又 は 上 告 されているが 事 実 関 係 が 詳 細 に 記 載 されてい る 第 一 審 のみを 示 している 23)しかしながら わが 国 がタックス ヘイブンへ の 投 資 をしていないわけではない 日 銀 の 国 際 収 支 統 計 によると わが 国 の2014 年 末 における 対 外 直 接 投 資 残 高 は 約 141 兆 円 であったが タックス ヘイブンへの 投 資 残 高 は オランダ11 兆 2,374 億 129

学 大 学 要 ( 経 済 経 営 学 部 ) 第 15 号 円 シンガポール5 兆 3,653 億 円 香 港 2 兆 6,352 億 円 ケイマン 諸 島 2 兆 3,600 億 円 ルクセンブ ルク8,566 億 円 スイス7,874 億 円 となっている 24) 本 稿 で 取 り 上 げていない 裁 判 例 として 東 京 高 裁 平 成 19 年 10 月 10 日 判 決 ( 税 務 訴 訟 資 料 257 号 順 号 10797)がある これは 武 富 士 事 件 と 同 様 平 成 12 年 度 税 制 改 正 前 に 米 国 カリフォルニア 州 の 不 動 産 をジョイント テナンシーという 法 形 式 で 所 有 していた 者 がこれを 贈 与 することでわが 国 贈 与 税 を 免 れようとした 事 例 である 結 果 として 所 有 権 移 転 時 期 が 税 制 改 正 後 になったことで 租 税 回 避 には 失 敗 しているが これも 税 制 改 正 の 一 つ の 要 因 であるとされるとする 先 行 研 究 ( 浦 上 章 夫 海 外 財 産 の 相 続 と 相 続 税 法 適 用 上 の 問 題 点 税 務 大 学 校 論 叢 22 号 497-624 頁 )がある 130