チャンネル21 経 営 通 信 第 21 号 税 制 改 正 の 動 向 平 成 15 年 12 月 25 日 来 年 度 の 税 制 改 正 の 骨 子 が 発 表 された 今 回 は 大 きな 改 正 がなかったが 2 つ の 特 徴 的 な 現 象 を 見 出 すことができる 一 つは 高 齢 者 への 課 税 強 化 である 税 制 改 正 があるとマスコミ 等 の 報 道 は 庶 民 の 生 活 を 直 撃 負 担 増 ばかりの 改 正 など 増 税 部 分 を 強 調 することが 多 い 今 回 も 高 齢 者 への 年 金 課 税 強 化 についてはこうした 表 現 がつかわれているが 受 け 取 める 納 税 者 は 慣 れっこになっていてあまり 大 きな 反 応 はないようだ 果 して 今 回 の 高 齢 者 課 税 は 極 めて 深 刻 なものとなりそうである 別 紙 で 老 年 者 控 除 を 中 心 に 具 体 的 増 税 額 を 試 算 しているが 保 有 資 産 の 運 用 が 全 く 期 待 できない 現 状 の 経 済 状 態 で 実 収 入 のない 高 齢 者 世 帯 への 可 処 分 所 得 の 減 少 は 財 産 の 食 いつぶし そして 生 活 不 安 に 直 結 する 恐 れが ある 実 施 されれば 目 に 見 えて 実 害 が 報 告 されることと 思 われる 特 徴 的 な 2 つ 目 は 自 民 党 税 調 財 務 省 の 影 響 力 の 低 下 である その 象 徴 はタバコ 税 を 地 方 に 税 源 移 譲 することが 内 定 していたにもかかわらず 土 壇 場 でその 税 目 が 所 得 税 にひっくり 返 ったことである 国 際 的 にも 圧 力 の 続 くタバコ 規 制 は 国 においても 具 体 的 対 処 をすることは 急 務 であ り タバコ 税 自 身 将 来 的 には 矛 盾 したものになっていくという 中 で 財 務 省 の 思 枠 と しては 地 方 にこれを 譲 ろうとしたわけだが 総 務 省 の 巻 き 返 しで 目 減 りをする 財 源 は 不 要 と 所 得 税 に 切 り 換 えられてしまったわけである 極 めて 政 治 的 なやりとりであり 今 迄 党 税 調 を 中 心 とした 主 観 的 ではあるが 一 つ の 筋 をとおした 税 制 改 正 の 進 め 方 は 今 後 崩 れていくということを 思 わせるもので ある 族 議 員 等 が 自 己 陣 営 の 利 益 を 追 求 する 状 況 を 反 映 した 改 正 が 今 後 頒 発 しておき ることが 懸 念 される さて 目 立 たないようでいて 今 回 の 改 正 は 一 気 に 納 税 者 負 担 を 増 やす 危 険 をはらん でいる いよいよ 国 民 も 行 政 の 課 税 姿 勢 に 対 して 本 気 で 立 ち 向 かう 用 意 が 必 要 になっ てきたといえよう 1
時 事 潮 流 老 年 者 控 除 の 廃 止 は 消 費 需 要 に 悪 影 響 必 至 平 成 16 年 の 税 制 改 正 がいよいよ 固 まった 年 明 け 後 国 会 で 審 議 の 後 与 党 案 はそのまま3 月 末 頃 には 成 立 し 施 行 されることになろう 先 の 衆 議 院 選 挙 の 結 果 自 民 公 明 の 連 立 政 権 が 勝 った ことがそのまま 反 映 しているわけだ 今 回 の 税 制 改 正 は 年 金 問 題 を 軸 に 今 迄 聖 域 とされて きた 高 齢 者 への 課 税 が 強 化 された 点 が 特 徴 といえるが 最 大 の 課 税 要 素 は 老 年 者 控 除 の 廃 止 であ る これは65 才 以 上 の 人 で 年 間 の 所 得 が1000 万 円 以 下 の 人 については 一 律 に 所 得 から 所 得 税 法 上 は50 万 円 住 民 税 法 上 は48 万 円 を 所 得 控 除 しているものである 具 体 的 にみていこう たとえば65 才 以 上 の 人 で 給 与 収 入 が 年 間 800 万 円 年 金 収 入 が300 万 円 あったとしよう この 場 合 給 与 所 得 は600 万 円 年 金 所 得 は150 万 円 となり 合 計 の 所 得 は750 万 円 である これは1000 万 円 以 下 なので 老 年 者 控 除 の 対 象 となる この 人 の 所 得 控 除 ( 健 康 保 険 料 や 配 偶 者 控 除 扶 養 控 除 基 礎 控 除 など)が200 万 円 だとすると 課 税 される 所 得 は (750 万 円 -200 万 円 -50 万 円 ( 老 年 者 控 除 ) =500 万 円 だ これに 対 する 所 得 税 は500 万 円 20%-33 万 円 =67 万 円 となる もし 老 年 者 控 除 が 廃 止 されれば 課 税 される 所 得 は500 万 円 +50 万 円 =550 万 円 となり 所 得 税 は550 万 円 20%-33 万 円 =77 万 円 である 77 万 円 -67 万 円 =10 万 円 これが 老 年 者 控 除 廃 止 の 増 税 額 となる ( 定 率 減 税 は 考 慮 していない) 住 民 税 は 細 かい 計 算 を 省 略 するが 48 万 円 の 控 除 がなくなれ ば48,000 円 増 税 となる つまり その 人 の 所 得 に 対 する 税 金 は 国 税 地 方 税 合 わせて 148,000 円 も 増 加 するのである 場 合 によってはこれに 健 康 保 険 料 の 増 加 負 担 も 有 り 得 るわけで 老 年 者 控 除 の 廃 止 は 高 齢 者 家 計 の 可 処 分 所 得 を 直 撃 する 改 正 といえるだろう 別 紙 にあるように 所 得 が 少 ない 人 には 新 たな 課 税 が 発 生 し またかなり 所 得 がある 人 は 試 算 では 最 高 で 国 税 地 方 税 合 計 212,400 円 の 増 税 となる 可 能 性 がある 老 年 者 控 除 の 廃 止 は 極 めて 大 きな 増 税 を 呼 び 込 むものになりそうである 更 に 年 金 受 給 者 には 控 除 額 縮 小 で 課 税 ベース 拡 大 に 伴 なう 増 税 も 追 いうちをかける 2
老 年 者 控 除 の 税 額 への 影 響 ケース1 年 収 300 万 円 の 人 の 場 合 65 才 以 上 で 配 偶 者 扶 養 家 族 なしのケース( 定 率 減 税 は 考 慮 していない) 給 与 収 入 年 間 120 万 円 給 与 所 得 55 万 円 年 金 収 入 180 万 円 年 金 所 得 40 万 円 収 入 合 計 300 万 円 所 得 合 計 95 万 円 ( 保 険 料 等 ( 基 礎 控 除 ) 控 除 額 ) ( 老 年 者 控 除 ) 改 正 前 95 万 円 -38 万 円 -15 万 円 -50 万 円 = 8 万 円 <0 課 税 所 得 0 の 為 国 税 地 方 税 とも 0 改 正 後 所 得 税 95 万 円 -38 万 円 -15 万 円 =42 万 円 ( 課 税 所 得 ) 42 万 円 10%( 税 率 )=42,000 円 住 民 税 95 万 円 -33 万 円 -15 万 円 =47 万 円 47 万 円 5%=23,500 円 合 計 65,500 円 増 税 3 (この 他 国 民 健 康 保 険 料 も 増 額 となる ) ケース2 所 得 が 1000 万 円 の 人 ( 最 も 所 得 が 多 い 適 用 者 )の 場 合 ( 細 かい 計 算 式 は 省 略 ) 所 得 税 50 万 円 ( 控 除 できなくなる 金 額 ) 30%( 税 率 )=15 万 円 住 民 税 48 万 円 13%=62,400 円 合 計 212,400 円 増 税
2004 年 度 税 制 改 正 主 な 内 容 今 回 の 三 改 悪 1. 高 齢 者 課 税 急 激 な 大 増 税 2. 土 地 建 物 譲 渡 益 課 税 他 所 得 との 損 益 通 算 廃 止 100 万 円 特 別 控 除 の 廃 止 3. 税 務 署 の 更 正 の 時 効 が 3 年 から 5 年 に 税 務 調 査 が 過 去 5 年 分 可 能 に 1. 個 人 の 所 得 課 税 < 老 年 者 控 除 の 廃 止 > 65 才 以 上 で 年 間 所 得 1000 万 円 以 下 の 高 齢 者 を 対 象 とした 所 得 控 除 所 得 税 50 万 円 住 民 税 48 万 円 の 控 除 を 廃 止 する 詳 細 は 別 紙 ( 実 施 2005 年 1 月 ~) < 公 的 年 金 等 控 除 の 縮 小 > 65 才 以 上 の 人 が 受 け 取 る 公 的 年 金 には 最 低 140 万 円 ( 収 入 額 が 増 えれば 増 額 )の 足 切 り 控 除 がある これを 65 才 未 満 の 人 に 適 用 している 70 万 円 まで 縮 小 し 別 に 控 除 額 50 万 円 を 上 乗 せ( 老 年 者 特 別 加 算 )するという 形 に 変 更 する ( 具 体 的 内 容 ) 1 65 才 以 上 の 人 で 年 金 の 年 収 130 万 円 の 人 の 場 合 改 正 前 130 万 円 -140 万 円 = 10 万 円 <0 * 所 得 0 改 正 後 130 万 円 -70 万 円 -50 万 円 =10 万 円 >0 * 所 得 10 万 円 税 金 発 生 2 65 才 以 上 の 人 で 年 金 の 年 収 300 万 円 の 人 の 場 合 改 正 前 300 万 円 75%-75 万 円 =150 万 円 * 所 得 150 万 円 ( 控 除 額 150 万 円 ) 改 正 後 (300 万 円 -50 万 円 ) 75%=187.5 万 円 * 所 得 187.5 万 円 ( 控 除 額 112.5 万 円 ) 187.5 万 円 -150 万 円 =37.5 万 円 * 所 得 増 加 額 37.5 万 円 ( 実 施 2005 年 1 月 ~) 4
( 寸 評 ) 老 年 者 控 除 の 廃 止 と 合 わせマイナスの 相 乗 効 果 をもたらすでしょう 非 常 に 深 刻 です < 均 等 割 の 見 直 し> 1 住 民 税 の 均 等 割 が 現 在 年 2000 円 ~4000 円 と 地 域 によってバラツキがあったもの が 年 4000 円 に 統 一 された ( 実 施 2004 年 ~) 2 夫 と 生 計 が 一 で 年 収 100 万 円 を 超 える 妻 の 均 等 割 の 非 課 税 を 廃 止 する ( 実 施 2005 年 ~) ( 寸 評 ) 増 税 要 素 ですが 金 額 的 には 重 要 性 なし < 住 宅 ローン 減 税 > 2004 年 は 今 年 と 同 じ 規 模 の 控 除 期 間 10 年 減 税 額 最 大 500 万 円 以 後 段 階 的 に 縮 小 ( 寸 評 ) 来 年 はマンション 等 の 駆 け 込 み 需 要 がありそうです < 土 地 等 譲 渡 益 課 税 > 1 長 期 譲 渡 所 得 の 100 万 円 特 別 控 除 は 廃 止 2 土 地 建 物 等 の 譲 渡 所 得 の 赤 字 とその 他 の 黒 字 所 得 との 損 益 通 算 の 廃 止 及 び 赤 字 の 翌 年 への 繰 越 を 認 めない 3 土 地 建 物 等 の 長 期 譲 渡 所 得 の 税 率 を 20%とする ( 改 正 前 は 26%) ( 実 施 2004 年 ~) ( 具 体 的 内 容 ) 今 回 の 改 正 の 2 つ 目 の 大 きな 問 題 点 です 3の 税 率 が 若 干 下 がったことはもちろん 減 税 要 因 ですが 12の 措 置 がなくなるということは 実 際 の 譲 渡 では 相 当 の 増 税 要 因 と なります 今 は 不 動 産 を 売 って 大 きく 所 得 がでる 時 代 ではありません たとえば 300 万 円 の 所 得 があった 場 合 仮 に 税 率 が 6% 減 額 されると(26% 20%で)300 万 円 20%=60 万 円 税 額 となるわけです しかし 100 万 円 の 特 別 控 除 がなくなるので 所 得 はすでに 100 万 円 多 くなっているわけであり 改 正 前 では(300 万 円 -100 万 円 ) =200 万 円 が 課 税 所 得 です 200 万 円 26%=52 万 円 税 額 であり 差 引 き 60 万 円 -52 万 円 =8 万 円 税 負 担 は 8 万 円 増 えたわけです つまり 数 百 万 円 の 所 得 では 改 正 は 増 税 を 意 味 するのです 5
また 所 得 の 損 益 通 算 を 認 めないということは 大 変 な 増 税 要 因 となります たとえば 譲 渡 所 得 の 赤 字 が 500 万 円 給 与 所 得 が 800 万 円 あった 場 合 改 正 前 は 800 万 円 - 500 万 円 =300 万 円 これが 申 告 する 所 得 とすることができたわけですが 改 正 後 は 800 万 がそのまま 課 税 されることになるわけです ( 相 殺 が 認 められないのです ) 地 価 下 落 で 土 地 の 譲 渡 に 係 る 赤 字 は 1000 万 円 ~2000 万 円 になることはめずらしく ありません この 赤 字 を 他 の 所 得 から 控 除 することで 税 負 担 の 軽 減 によりある 程 度 経 済 的 損 失 を 取 り 戻 すことができたので その 為 の 見 切 売 りもありました この 見 地 か らの 売 る 意 味 がなくなることは 急 速 に 不 動 産 の 流 通 が 減 る 可 能 性 があります 行 政 は 地 価 暴 落 の 無 策 のつけを 償 わずに 国 民 に 追 い 打 ちをかけてきたといえます ( 寸 評 ) 土 地 を 譲 渡 する 人 は 来 年 は 要 注 意 です < 事 業 者 ( 個 人 )の 青 色 申 告 特 別 控 除 > 正 規 の 簿 記 の 原 則 に 従 って 記 録 している 者 が 受 けられる 青 色 申 告 特 別 控 除 が 65 万 円 になる 現 在 55 万 円 なので 10 万 円 の 控 除 額 の 増 額 となる 一 方 簡 易 な 簿 記 の 方 法 で 記 録 した 場 合 でも 認 められた 特 別 控 除 にかかる 経 過 措 置 は 廃 止 する ( 実 施 2005 年 ~) ( 寸 評 ) 控 除 額 増 加 はメリット 実 務 的 には 簡 易 な 簿 記 の 方 法 で 記 録 をしている 事 業 者 が 多 いので 経 過 措 置 の 廃 止 に 伴 なう 影 響 は 心 配 です 2. 法 人 課 税 < 青 色 申 告 をした 事 業 年 度 の 欠 損 金 の 繰 越 控 除 制 度 の 見 直 し> 繰 越 期 間 が 7 年 になる ( 現 在 5 年 ) 2001 年 4 月 以 後 に 開 始 した 事 業 年 度 において 生 じた 欠 損 金 額 について 適 用 となる ( 具 体 的 内 容 ) 欠 損 金 つまり 赤 字 は 今 迄 5 年 前 迄 の 分 は 繰 越 され 所 得 が 出 た 場 合 相 殺 できたわけで すが この 負 の 貯 金 の 有 効 期 限 が 2 年 間 延 びたわけです 本 当 は 今 現 在 で 考 えた 場 合 時 効 がくる 1998 年 4 月 分 以 降 としてほしいところですが 目 先 の 税 収 が 確 実 に 減 る ので 2 年 前 までの 遡 求 適 用 となりました ( 寸 評 )これは 将 来 的 にはかなりメリットのある 改 正 です < 過 少 申 告 に 係 る 更 正 の 期 間 制 限 の 延 長 > 現 行 の 3 年 から 5 年 になる ( 実 施 2004 年 4 月 1 日 以 後 に 申 告 期 限 が 来 る 法 人 から 適 用 ) 6
( 具 体 的 内 容 ) まだ 詳 細 は 不 明 ですが 上 記 の 欠 損 金 の 繰 越 期 間 の 延 長 とセットで 改 正 されたとすれ ば 実 質 マイナスが 何 倍 も 多 いものです 現 在 確 定 申 告 をしていれば 申 告 後 3 年 を 過 ぎ たらその 申 告 は 時 効 となっていますが これが 5 年 分 までさかのぼって 捕 捉 される 事 になる 危 険 性 があるのです つまり 税 務 調 査 では 現 在 過 去 3 年 間 の 調 査 をしている わけですが これが 5 年 間 の 調 査 に 延 長 されることを 意 味 します 実 務 的 にもしそう いう 方 針 を 決 定 づける 改 正 だとしたら 今 回 の 改 正 中 最 大 最 悪 のものといえます ( 寸 評 ) 今 後 の 動 向 を 十 分 注 視 する 必 要 があります 平 成 15 年 12 月 25 日 税 理 士 田 中 潤 事 務 所 7