27. 糖 尿 病 石 井 周 一 本 項 は 入 院, 外 来 を 問 わず 利 用 可 能 であるが, 以 下 の 場 合 には 入 院 治 療 が 必 須 であり,かつ 専 門 医 にコン サルテーションすることが 望 ましい 1 型 糖 尿 病 が 疑 われる 場 合 糖 尿 病 性 昏 睡 が 疑 われる 場 合 高 度 の 高 血 糖 と 典 型 的 な 糖 尿 病 の 臨 床 症 状 を 伴 う, 糖 尿 病 発 症 直 後 や 急 性 増 悪 の 場 合 低 血 糖 が 頻 回 に 起 こる 場 合 確 定 診 断 に 要 する 検 査 糖 尿 病 に 特 有 な 臨 床 症 状 に 関 しての 病 歴 聴 取 と 並 行 して, 尿 検 査 および 血 糖 検 査 は 不 可 欠 である 典 型 的 な 糖 尿 病 の 臨 床 症 状 ( 口 渇, 多 飲, 多 尿, 体 重 減 少, 全 身 倦 怠 感 などであるが, 初 期 には 無 症 状 のことも 多 い)を 伴 い, 尿 糖 や 高 血 糖 が 認 められれば, 診 断 はそ れほど 困 難 ではない しかし, 軽 度 の 糖 尿 病 やマスス クリーニングに 際 しては, 診 断 基 準 も 提 唱 されている が 1)~4), 慎 重 な 判 断 が 必 要 である また,その 他 の 特 定 の 機 序 や 疾 患 による 糖 尿 病 の 診 断 に 際 しては, 原 疾 患 の 病 態 評 価 や 鑑 別 診 断 が 重 要 である A. ( 図 1) 1) 尿 検 査 尿 糖 が 認 められれば,まず 糖 尿 病 が 疑 われる 軽 度 の 糖 尿 病 では 尿 糖 陰 性 のこともあるので,スクリーニ ングには 食 後 1~2 時 間 の 検 尿 が 適 している なお, 尿 糖 排 泄 閾 値 には 個 人 差 があり,また, 加 齢 により 上 昇 傾 向 を 示 す 閾 値 が 高 い 場 合 には, 糖 尿 病 が 見 逃 さ れることもありうるので 注 意 が 必 要 である さらに, 胃 切 除 後 などで, 食 後 やグルコース 負 荷 後 に 一 時 的 に 高 血 糖 をきたしたり( 急 峻 高 血 糖 ), 腎 における 尿 糖 排 泄 閾 値 がもともと 低 いために 尿 糖 がみられる( 腎 性 糖 尿 )こともあり,やはり 注 意 が 必 要 である 同 時 に,タンパク, 沈 渣 やケトン 体 のチェックも, 既 に 合 併 症 の 腎 症 の 出 現 や 高 度 の 糖 代 謝 障 害 の 存 在 を 診 断 するうえで 必 要 である 2) 血 糖 検 査 糖 尿 病 を 診 断 するうえで, 最 も 本 質 的 で 不 可 欠 の 検 査 である 1999 年 に 日 本 糖 尿 病 学 会 から, 新 たな 診 断 基 準 が 発 表 された( 表 1,2) 3) なお,75g 経 口 グルコー ス 負 荷 試 験 (75gOGTT)は, 空 腹 時 血 糖 や 随 時 血 糖 の 測 定 で 判 定 が 確 定 しないときに, 糖 尿 病 かどうかを 判 断 する 有 力 な 情 報 を 与 えてくれる 糖 尿 病 の 診 断 病 歴 家 族 歴 と 臨 床 症 状 の 聴 取 尿 検 査 血 糖 検 査 ( 空 腹 時, 随 時,または 75g 経 口 グルコース 負 荷 試 験 ) グリコヘモグロビン(HbA1c) グリコアルブミン 1,5-アンヒドログルシトール 眼 底 検 査 胸 部 X 線 写 真, 腹 部 X 線 写 真, 心 電 図, 腹 部 超 音 波 血 算, 血 清 脂 質,クレアチニン, 尿 酸 など 図 1 糖 尿 病 診 断 の 検 査 のすすめ 方 表 1 血 糖 値 と 判 定 基 準 ( 静 脈 血 漿 値 ) 空 腹 時 値 75gOGTT 2 時 間 値 75gOGTTの 判 定 正 常 域 糖 尿 病 域 <110mg/dl 126mg/dl <140mg/dl 200mg/dl 両 者 を 満 たす 場 合 を いずれかを 満 たす 場 合 を 正 常 型 とする 糖 尿 病 型 とする 正 常 型 にも 糖 尿 病 型 にも 属 さない 場 合 を 境 界 型 とする * 随 時 血 糖 値 200mg/dlの 場 合 も 糖 尿 病 型 とみなす - 113 -
- 診 療 群 別 臨 床 検 査 のガイドライン 2003- 表 2 臨 床 診 断 の 手 順 1. 糖 尿 病 型 ( 空 腹 時 血 糖 値 126mg/dl,75gOGTT 2 時 間 値 200mg/dl, 随 時 血 糖 値 200mg/dl のいずれか)が, 別 の 日 に 行 った 検 査 で 2 回 以 上 確 認 できれば, 糖 尿 病 と 診 断 してよい 2. 糖 尿 病 型 を 示 し,かついずれかの 条 件 がみたされた 場 合 は,1 回 だけの 検 査 でも 糖 尿 病 と 診 断 できる 1) 糖 尿 病 の 典 型 的 症 状 ( 口 渇, 多 飲, 多 尿, 体 重 減 少 )の 存 在 2)HbA1c 6.5% 3) 確 実 な 糖 尿 病 性 網 膜 症 の 存 在 3)グリコヘモグロビン(HbA1c) ヘモグロビンのβ 鎖 N 末 端 バリンにグルコースが 非 酵 素 的 に 結 合 したもので, 高 血 糖 状 態 が 長 期 間 持 続 す ると 増 加 する ヘモグロビンの 血 中 半 減 期 より, 過 去 1~2ヵ 月 間 の 平 均 的 な 血 糖 値 を 反 映 しており, 持 続 的 な 高 血 糖 状 態 を 評 価 する 上 で 重 要 な 検 査 である 日 本 糖 尿 病 学 会 のグリコヘモグロビンの 標 準 化 に 関 する 委 員 会 から, 基 準 値 として 4.3~5.8%が 報 告 されている 空 腹 時 血 糖 との 組 み 合 わせにより, 糖 尿 病 のスクリー ニングや 診 断 にも 利 用 されている 4) 日 本 糖 尿 病 学 会 の 新 しい 診 断 基 準 では 基 準 のひとつとして 新 たに 採 用 され,HbA1c 値 6.5% 以 上 の 場 合 は 血 糖 値 が 糖 尿 病 域 にあると 確 認 されたのが 1 回 のみでも, 糖 尿 病 と 診 断 することができる 3) もちろん, 糖 尿 病 のコントロー ル 状 態 を 評 価 する 指 標 としての 従 来 からの 意 義 も 大 き い なお, 赤 血 球 寿 命 が 短 縮 する 溶 血 性 貧 血 などでは 実 際 より 低 めに,また 異 常 ヘモグロビン 血 症 の 一 部 では 実 際 より 低 値 や 高 値 となることがあるので, 判 定 には 注 意 を 要 する B. ( 図 1) 1)グリコアルブミン アルブミンにグルコースが 非 酵 素 的 に 結 合 したもの で,その 血 中 半 減 期 から,HbA1c に 比 較 してより 短 期 間 (1~2 週 間 )の 血 糖 状 態 を 反 映 する 2)1,5-アンヒドログルシトール(1,5-AG) グルコースの 1 位 炭 素 の 還 元 体 で, 腎 尿 細 管 にてグ ルコースと 共 通 の 輸 送 体 にて 競 合 的 に 再 吸 収 されるが, 高 血 糖 時 には 尿 中 への 排 泄 が 増 加 し, 血 中 濃 度 は 低 下 する 糖 尿 病 コントロールの 悪 化 に 伴 い HbA1c は 上 昇 するのに 比 し,1,5-AG は 対 照 的 に 低 下 する 3) 血 圧, 心 電 図, 胸 部 X 線 写 真, 腹 部 X 線 写 真, 腹 部 超 音 波, 血 清 脂 質 値 ( 総 コレステロール, HDL-コレステロール, 中 性 脂 肪 ), 尿 酸, 血 算 など 糖 尿 病 では, 高 脂 血 症 や 動 脈 硬 化 を 伴 うことが 多 い ので,これらのチェックも 望 ましい 4) 眼 底 検 査 とくに, 糖 尿 病 性 網 膜 症 の 眼 底 変 化 は 糖 尿 病 に 特 徴 的 であり,この 所 見 だけでも 診 断 が 確 定 できる 病 型 や 合 併 症 の 診 断 ( 図 2) 糖 尿 病 と 診 断 されたら 次 のステップとして, 今 後 の 治 療 方 針 や 予 後 を 評 価 するために, 糖 尿 病 の 病 型 診 断 や 糖 尿 病 に 特 有 な 慢 性 合 併 症 の 出 現 の 有 無 やその 程 度 を 検 討 する 必 要 がある また, 糖 尿 病 性 昏 睡 などの 急 性 合 併 症 をきたしている 場 合 には, 治 療 と 並 行 してそ の 診 断, 評 価 が 必 要 となる A. 病 型 の 診 断 と 評 価 治 療 法 の 選 択 や 糖 尿 病 発 症 の 予 防 や 予 知, 予 後 の 評 価 などの 目 的 で 進 められる 糖 尿 病 の 分 類 はこれまで,インスリン 依 存 型 糖 尿 病 (IDDM),インスリン 非 依 存 型 糖 尿 病 (NIDDM)という 名 称 が 用 いられてきた(1982 年 日 本 糖 尿 病 学 会 の 勧 告 ) しかし, 日 本 糖 尿 病 学 会 が 発 表 した 新 しい 分 類 では 成 因 分 類 を 主 体 とし, 自 己 免 疫 機 序 や 特 発 性 に 膵 臓 ラン ゲルハンス 島 β 細 胞 の 破 壊 性 病 変 がもたらされ,イン スリン 欠 乏 が 生 じることによって 起 こる 糖 尿 病 を 1 型 糖 尿 病,それ 以 外 の 機 序 によるインスリン 分 泌 低 下 や インスリン 感 受 性 低 下 が 関 与 するものは 2 型 糖 尿 病 と された この 他, 遺 伝 子 異 常 など, 特 定 の 原 因 による その 他 の 型 の 糖 尿 病 や 妊 娠 糖 尿 病 が 分 類 された( 表 3) 3) また,インスリン 作 用 不 足 によって 起 こる 高 血 糖 の 程 度 や 病 態 に 応 じて, 正 常 領 域, 境 界 領 域, 糖 尿 病 領 域 などの 病 態 ( 病 期 )を 併 記 することとされた 1. 1)インスリン 分 泌 能 の 評 価 血 中 のインスリン(IRI)や C-ペプチド(CPR)を 測 定 し, 内 因 性 のインスリン 分 泌 能 を 評 価 できる 例 えば, 血 中 CPR 値 が 空 腹 時 0.5ng/ml 以 下, 食 後 2 時 間 1.0ng/ml 以 下 の 例 では 1 型 が 示 唆 される 24 時 間 尿 中 の CPR 排 泄 量 の 測 定 も, 内 因 性 インスリン 分 泌 能 の 推 定 に 有 用 である - 114 -
-27. 糖 尿 病 - 病 型 や 合 併 症 の 診 断 病 型 の 診 断 と 評 価 インスリン(IRI) C-ペプチド(CPR) インスリン 分 泌 指 数 24 時 間 尿 中 CPR 排 泄 量 75g 経 口 グルコース 負 荷 試 験 HOMA-IR グルカゴン 負 荷 試 験 抗 GAD 抗 体 抗 膵 ランゲルハンス 島 細 胞 質 抗 体 * 抗 インスリン 自 己 抗 体 HLA 抗 原 系 検 索 ミトコンドリア 遺 伝 子 変 異 腎 慢 性 合 併 症 の 診 断 と 評 価 症 尿 検 査 (タンパク, 微 量 アル ブミン, 尿 沈 渣 ) クレアチニン クリアランス NAG 腎 生 検 網 膜 症 視 力, 眼 圧 前 眼 部 検 査 眼 底 検 査 蛍 光 眼 底 造 影 検 査 末 梢 神 経 自 覚 症 状 聴 取 障 害 腱 反 射 ( 膝 蓋 腱,アキレス 腱 ) 振 動 覚 動 脈 心 疾 患 : 心 電 図, 胸 部 X 線 硬 写 真 化 性 脳 血 管 疾 患 : 頸 動 脈 エコー 疾 閉 塞 性 動 脈 疾 患 : 趾 尖 脈 波, 患 API(ankle pressure index) 運 動 神 経 伝 導 速 度 知 覚 神 経 伝 導 速 度 F 波 測 定 ( 最 小 潜 時, 伝 導 速 度 ) 安 静 時 心 電 図 のR-R 間 隔 変 動 係 数 (CVR-R) Shellong 試 験 心 疾 患 :ホルター 心 電 図, トレッドミル 試 験, 冠 動 脈 造 影 脳 血 管 疾 患 : 脳 MRI 検 査 閉 塞 性 動 脈 疾 患 : 動 脈 造 影 検 査 病 態 の 鑑 別 急 性 合 併 症 の 診 断 と 評 価 尿 中 血 中 ケトン 体 血 清 浸 透 圧 電 解 質 動 脈 血 ガス 分 析 乳 酸 図 2 糖 尿 病 の 病 型 や 合 併 症 診 断 のための 検 査 のすすめ 方 2. 1)75gOGTT 血 糖 が 著 しく 高 くない 2 型 糖 尿 病 では,75gOGTT 時 に, 血 糖 と 同 時 に IRI や CPR を 測 定 することにより, 内 因 性 のインスリン 初 期 分 泌 能 を 評 価 できる 負 荷 前 と 負 荷 後 30 分 の 血 糖 値 と IRI 値 の 増 加 分 の 比 ( IRI 値 / 血 糖 値 )はインスリン 分 泌 指 数 と 呼 ばれ,インスリン 分 泌 能 の 推 定 に 有 用 である なお, 血 糖 値 が 著 しく 高 い 1 型 糖 尿 病 の 場 合 では,OGTT の 意 義 は 低 いし, 場 合 によっては 危 険 である 2)インスリン 抵 抗 性 の 評 価 2 型 糖 尿 病 ではインスリン 感 受 性 の 低 下 (インスリン 抵 抗 性 )が 関 与 している 場 合 もある HOMA-IR (homeostasis model assessment-insulin resistance)は 臨 床 的 に 有 用 なインスリン 抵 抗 性 指 標 のひとつとされて おり, 空 腹 時 の 血 糖 値 と IRI 値 から, 次 式 で 計 算 される HOMA-IR= 空 腹 時 血 糖 値 (mg/dl) 空 腹 時 IRI(µU/ml)/405 この 値 が 1.6 以 下 の 場 合 は 正 常,2.5 以 上 の 場 合 にイン スリン 抵 抗 性 があると 考 えられる - 115 -
- 診 療 群 別 臨 床 検 査 のガイドライン 2003- 表 3 糖 尿 病 とそれに 関 連 する 耐 糖 能 低 下 *の 成 因 分 類 ( 文 献 3 より 引 用 ) I.1 型 (β 細 胞 の 破 壊, 通 常 は 絶 対 的 インスリン 欠 乏 に 至 る) A. 自 己 免 疫 性 B. 特 発 性 II.2 型 (インスリン 分 泌 低 下 を 主 体 とするものと,インスリン 抵 抗 性 で,それにインスリ ンの 相 対 的 不 足 を 伴 うものなどがある) III.その 他 の 特 定 の 機 序, 疾 患 によるもの( 詳 細 は 文 献 3 を 参 照 ) A. 遺 伝 因 子 として 遺 伝 子 異 常 が 同 定 されたもの (1) 膵 β 細 胞 機 能 にかかわる 遺 伝 子 異 常 (2)インスリン 作 用 の 伝 達 機 構 にかかわる 遺 伝 子 異 常 B. 他 の 疾 患, 条 件 に 伴 うもの (1) 膵 外 分 泌 疾 患 (2) 内 分 泌 疾 患 (3) 肝 疾 患 (4) 薬 剤 や 化 学 物 質 によるもの (5) 感 染 症 (6) 免 疫 機 序 によるまれな 病 態 (7)その 他 の 遺 伝 的 症 候 群 で 糖 尿 病 を 伴 うことの 多 いもの IV. 妊 娠 糖 尿 病 * 一 部 には, 糖 尿 病 特 有 の 合 併 症 を 来 すかどうかが 確 認 されていないものも 含 まれる 3)グルカゴン 負 荷 試 験 内 因 性 インスリン 分 泌 能 を 評 価 する 検 査 で, 早 朝 空 腹 時 に 1mg のグルカゴンを 静 注 し, 血 中 CPR を 測 定 する 1 型 糖 尿 病 で 低 値 を 示 す 4) 抗 GAD(glutamic acid decarboxylase) 抗 体 GAD はグルタミン 酸 から 神 経 伝 達 物 質 であるGABA (γ amino-butyric acid)の 生 成 に 関 与 する 酵 素 であるが, 1 型 糖 尿 病 のマーカーとして 有 用 とされている 5) 5)その 他, 抗 膵 ランゲルハンス 島 細 胞 質 抗 体 *, 抗 インスリン 自 己 抗 体 や HLA 抗 原 系 の 検 索 などが 有 用 となることがある また 最 近 は, 遺 伝 子 変 異 による 糖 尿 病 も 報 告 が 増 えつつあり,インスリン 遺 伝 子 変 異, インスリン 受 容 体 遺 伝 子 変 異,グルコキナーゼ 遺 伝 子 変 異,ミトコンドリア DNA 変 異 などが 知 られている いずれも 特 殊 な 検 査 になるが,ミトコンドリア DNA については, 保 険 適 用 はないが 商 業 ベースで 測 定 は 可 能 である B. 慢 性 合 併 症 の 診 断 と 評 価 糖 尿 病 に 特 有 ないわゆる 3 大 合 併 症 として, 糖 尿 病 性 腎 症, 網 膜 症, 末 梢 神 経 障 害 がある 糖 尿 病 治 療 の 目 標 は,これら 合 併 症 の 発 症 予 防, 進 展 阻 止 にあるの で,その 診 断 や 現 状 の 評 価 は 重 要 である 1. 腎 症 の 初 発 所 見 はタンパク 尿 であり, 検 尿 は 重 要 で ある 通 常 は 試 験 紙 法 で 行 われるが,より 早 期 の 診 断 には 微 量 アルブミンの 測 定 が 有 用 といわれている ク レアチニン クリアランスは 障 害 の 早 期 の 指 標 には 適 さない 網 膜 症 の 診 断 に 眼 底 検 査 は 必 須 である 末 梢 神 経 障 害 については, 自 覚 症 状 の 聴 取 に 加 えて, 腱 反 射 ( 膝 蓋 腱,アキレス 腱 )や 振 動 覚 の 低 下 がないか 検 査 する 糖 尿 病 に 特 有 ではないが 頻 度 の 高 い 動 脈 硬 化 性 疾 患 の 診 断 と 評 価 も 必 要 である 2. 必 要 に 応 じて, 図 2に 示 すような 検 査 を 実 施 する C. 急 性 合 併 症 の 診 断 と 評 価 糖 尿 病 は 代 表 的 な 慢 性 疾 患 であるが, 糖 代 謝 異 常 が 高 度 に 破 綻 すれば,いわば 急 性 合 併 症 として 糖 尿 病 性 昏 睡 をきたす 臨 床 的 には, 以 下 の 3 つの 病 態 に 区 別 される ケトアシドーシス 性 糖 尿 病 性 昏 睡 非 ケトン 性 高 浸 透 圧 性 糖 尿 病 性 昏 睡 乳 酸 アシドーシス 性 糖 尿 病 性 昏 睡 図 2に 示 すように, 病 態 の 鑑 別 と 治 療 を 並 行 して 進 め ていく フォローアップのための 検 査 ( 図 3) コントロール 状 態 や 慢 性 合 併 症 について, 定 期 的 に 評 価 し,フォローしていくことが 肝 要 である A. 血 糖 ( 空 腹 時 または 随 時 ),HbA1c, 尿 検 査 (タンパク やケトン 体 )などは, 受 診 の 都 度 チェックする(1 / 月 ) 日 本 糖 尿 病 学 会 では HbA1c を 血 糖 コントロールの 指 標 として,5.8% 未 満 では 優,5.8~6.4%で 良,6.5~ 7.9%で 可,8.0% 以 上 では 不 可 とする 評 価 を 示 し ている 眼 底 検 査 は 症 状 の 有 無 に 拘 らず, 少 なくとも - 116 -
-27. 糖 尿 病 - フォロ ーアッ プ コントロール 状 態 の 評 価 自 覚 症 状 の 聴 取 血 糖 グリコヘモグロビン(HbA1c) 尿 ケトン 体 1,5-アンヒドログルシトール グリコアルブミン 血 糖 自 己 測 定 (SMBG) 慢 性 合 併 症 の 評 価 自 覚 症 状 の 聴 取 腱 反 射, 振 動 覚 尿 タンパク 眼 底 検 査 ( 少 なくとも 年 1 回 ) 微 量 アルブミン 血 清 脂 質 心 電 図 胸 部 X 線 写 真 図 3 フォローアップ 時 年 に 1 回 は 必 要 であり, 所 見 があればもっと 頻 回 に 実 施 する B. 1,5-AG は 直 近 の 血 糖 コントロール 変 化 や 軽 度 の 高 血 糖 を 鋭 敏 に 把 える 目 的 で 有 用 である また, 血 糖 の 変 動 が 大 きな 不 安 定 型 糖 尿 病,より 厳 格 な 血 糖 コントロ ールが 必 要 な 糖 尿 病 妊 婦 などでは,グリコアルブミン が 有 用 である ただ,アルブミンの 血 中 半 減 期 の 延 長 する 疾 患 ( 肝 硬 変, 甲 状 腺 機 能 低 下 症 など)では 高 値 傾 向 に,また, 短 縮 する 疾 患 (ネフローゼ 症 候 群, 甲 状 腺 機 能 亢 進 症 など)では 低 値 傾 向 になるので, 注 意 が 必 要 である 血 糖 自 己 測 定 (SMBG)も 有 用 で,インス リン 自 己 注 射 を 実 施 の 場 合 は 保 険 適 用 がある 尿 タン パクの 検 出 は 通 常 は 試 験 紙 法 で 行 われるが,より 早 期 の 診 断 には 微 量 アルブミンの 測 定 ( 1 / 3ヵ 月 )が 有 用 といわれている その 他, 糖 尿 病 は 動 脈 硬 化 性 疾 患 を 併 発 しやすいの で, 心 電 図, 胸 部 X 線 写 真, 血 清 脂 質 ( 総 コレステロ ール,HDL-コレステロールなど)なども, 状 況 に 応 じ て 検 査 することが 望 ましい また, 足 指 の 観 察 ( 潰 瘍 や 壊 疽 の 有 無 )を 心 がけることも 大 切 である 参 考 文 献 1) The expert committee on the diagnosis and classification of diabetes mellitus : Report of the expert committee on the diagnosis and classification of diabetes mellitus. Diabetes Care 20 : 1183~1197, 1997 2) Alberti KGMM, Zimmet PZ for the WHO consultation : Definition, diagnosis, and classification of diabetes mellitus and its complications. Part 1 : Diagnosis and classification of diabetes mellitus. Provisional report of a WHO consultation. Diabetic Medicine 15 : 539, 1998 3) 葛 谷 健, 他 : 糖 尿 病 の 分 類 と 診 断 に 関 する 委 員 会 報 告. 糖 尿 病 42 : 539~553, 1999 4) 老 人 保 健 法 による 糖 尿 病 検 診 マニュアル. 厚 生 省 老 人 保 健 福 祉 局 老 人 保 健 課 監 修, 日 本 醫 事 新 報 社, 1996. p42~44 5) 川 崎 英 二, 他 : GAD 抗 体. Diabetes Frontier 5 : 612~ 616, 1994 ( 平 成 15 年 7 月 脱 稿 ) - 117 -