CHUKYO LAWYER Vol. 17 2012 法 務 研 修 セミナー 第 30 回 報 告 詐 害 的 会 社 分 割 における 債 権 回 収 方 法 要 件 事 実 の 検 討 を 中 心 として 中 京 大 学 法 科 大 学 院 法 務 研 究 科 研 修 生 中 村 将 成 目 次 第 1 はじめに 第 2 会 社 法 22 条 1 項 類 推 適 用 による 債 権 回 収 方 法 1. 方 法 1 の 概 要 2. 事 案 の 概 要 3. 要 件 事 実 等 の 整 理 4. 判 決 内 容 及 び 方 法 1 を 選 択 した 理 由 ( 私 見 ) 5.その 他 の 事 案 で 注 目 すべき 点 第 3 詐 害 行 為 取 消 権 による 債 権 回 収 方 法 1. 方 法 2 の 概 要 2. 事 案 の 概 要 3. 要 件 事 実 等 の 整 理 4. 判 決 内 容 及 び 方 法 2 を 選 択 した 理 由 ( 私 見 ) 5.その 他 の 事 案 で 注 目 すべき 点 第 4 法 人 格 否 認 の 法 理 による 債 権 回 収 方 法 1. 方 法 3 の 概 要 2. 事 案 の 概 要 3. 要 件 事 実 等 の 整 理 4. 判 決 内 容 及 び 方 法 3 を 選 択 した 理 由 ( 私 見 ) 5.その 他 の 事 案 で 注 目 すべき 点 第 5 債 権 回 収 方 法 の 使 い 分 け 1. 方 法 1 の 長 短 2. 方 法 2 の 長 短 3. 方 法 3 の 長 短 39
M. Nakamura CHUKYO LAWYER 第 1 はじめに 近 時 債 務 超 過 やそれに 等 しい 窮 状 に 陥 った 会 社 が 会 社 分 割 制 度 とりわけ 新 設 分 割 制 度 を 用 い て 再 建 を 行 う 手 法 が 実 務 上 行 われている その 中 で 会 社 分 割 制 度 を 濫 用 して 新 設 分 割 会 社 の 債 権 者 を 害 する 態 様 で 行 われる いわゆる 詐 害 的 会 社 分 割 が 横 行 している 詐 害 的 会 社 分 割 によって 抜 け 殻 となった 新 設 分 割 会 社 に 取 り 残 された 債 権 者 には 債 権 回 収 の 主 たる 方 法 として 三 つの 方 法 が 考 えられる 本 稿 では 裁 判 例 を 通 して 三 つの 債 権 回 収 方 法 につい て 要 件 事 実 の 観 点 から 分 析 し その 長 短 を 検 討 していく 第 2 会 社 法 22 条 1 項 類 推 適 用 による 債 権 回 収 方 法 ( 以 下 方 法 1 という ) 1. 方 法 1 の 概 要 営 業 譲 受 人 が 商 号 を 続 用 する 場 合 には 譲 渡 人 の 営 業 上 の 債 権 者 が 営 業 主 の 交 代 があったこ とを 知 らず 譲 受 人 である 現 営 業 主 が 自 己 の 債 務 者 であると 考 えたり 仮 に 知 っていたとしても 譲 受 人 による 債 務 引 受 があったと 考 えるのも 無 理 のないことであるから このような 債 権 者 の 信 頼 を 保 護 するため 営 業 譲 受 人 の 弁 済 義 務 を 定 めた 規 定 が 会 社 法 22 条 1 項 である 会 社 法 22 条 1 項 について 最 高 裁 判 所 は 商 号 ではなく 屋 号 の 続 用 が 認 められる 場 合 についても (2) (3) 類 推 適 用 を 認 め さらに 会 社 分 割 への 類 推 適 用 を 認 めた そのため 詐 害 的 会 社 分 割 が 行 われた 場 合 新 設 分 割 設 立 会 社 に 対 して 会 社 法 22 条 1 項 の 類 推 適 用 に 基 づき 連 帯 債 務 の 履 行 を 請 求 し 債 権 を 回 収 することが 考 えられる 以 下 方 法 1 による 債 権 回 収 を 認 めた 東 京 地 方 裁 判 所 平 成 22 年 7 月 9 日 判 決 を 中 心 に 検 討 する (1) 2. 事 案 の 概 要 原 告 は 株 式 会 社 ユニ ピーアール( 以 下 ユニ ピーアール という )に 対 して 償 還 金 請 求 権 を 有 する 者 であり ユニ ピーアールとの 間 でクレープ 店 の 出 店 に 関 するフランチャイズ 契 約 を 締 結 していた 者 である 被 告 は ユニ ピーアールから 分 割 により 設 立 された 株 式 会 社 クレー プハウス ユニである なお ユニ ピーアールは クレープ 飲 食 事 業 としては クレープハウ ス ユニ の 登 録 商 標 を 使 用 していた 原 告 は ユニ ピーアールとの 間 でフランチャイズ 契 約 を 締 結 した その 際 開 業 に 必 要 な 資 金 を 金 融 機 関 から 借 り 入 れ クレープハウス ユニあきる 野 とうきゅう 店 ( 以 下 本 件 店 舗 と いう )を 開 店 した その 後 原 告 は フランチャイズ 契 約 を 合 意 解 約 し 本 件 店 舗 をユニ ピー アールに 無 償 で 譲 渡 した その 対 価 として 原 告 が 金 融 機 関 に 支 払 う 借 入 金 の 返 済 金 をユニ ピー アールが 原 告 に 償 還 すると 合 意 した 本 件 店 舗 は 新 設 会 社 である 被 告 に 承 継 された 3. 要 件 事 実 等 の 整 理 以 下 では 方 法 1 による 請 求 の 際 の 訴 訟 物 請 求 原 因 抗 弁 方 法 1 の 法 的 効 果 を 整 理 する 40
CHUKYO LAWYER Vol. 17 2012 ( 1 ) 訴 訟 物 会 社 法 22 条 1 項 に 基 づく 連 帯 債 務 履 行 請 求 権 (4) ( 2 ) 請 求 原 因 1 XA 間 の 債 権 発 生 原 因 事 実 2 1の 債 権 が A の 事 業 によって 生 じたこと 3 A が 会 社 分 割 を 行 い Y が 設 立 されたこと 4 Y が2の 事 業 を 会 社 分 割 により 承 継 したこと 5 Y が A の 商 号 または 屋 号 を 続 用 すること ( 3 ) 抗 弁 新 設 分 割 設 立 会 社 が 会 社 分 割 後 遅 滞 なく 債 権 者 に 債 務 引 受 けをしない 旨 通 知 したなど 免 責 を 認 めるべき 特 段 の 事 情 が 存 在 すること ( 4 ) 方 法 1 の 法 的 効 果 新 設 分 割 会 社 が 債 権 者 に 負 う 債 務 について 新 設 分 割 設 立 会 社 が 連 帯 債 務 を 負 う 4. 判 決 内 容 及 び 方 法 1 を 選 択 した 理 由 ( 私 見 ) ( 1 ) 最 高 裁 判 所 平 成 20 年 6 月 10 日 判 決 の 規 範 化 1 分 割 会 社 が 経 営 する 店 舗 の 名 称 をその 事 業 主 体 を 表 示 するものとして 用 いていた 場 合 に おいて 2 会 社 分 割 に 伴 い 当 該 店 舗 の 事 業 が 新 設 会 社 に 承 継 され 3 新 設 会 社 が 当 該 店 舗 の 名 称 を 引 き 続 き 使 用 しているときは 4 新 設 会 社 は 会 社 分 割 後 遅 滞 なく 債 権 者 に 債 務 引 受 けをしない 旨 通 知 したなど 免 責 を 認 めるべき 特 段 の 事 情 がない 限 り 会 社 法 二 二 条 一 項 の 類 推 適 用 により 分 割 会 社 が 債 権 者 に 対 して 同 事 業 により 負 担 する 債 務 を 弁 済 する 責 任 を 負 う と 解 される( 最 高 裁 平 成 二 〇 年 六 月 一 〇 日 裁 判 所 時 報 一 四 六 一 号 二 二 五 頁 参 照 ) 事 業 譲 渡 において 事 業 主 体 の 誤 認 又 は 債 務 引 受 けの 誤 信 を 招 くような 外 観 を 作 出 した 譲 受 会 社 につき 権 利 外 観 法 理 禁 反 言 に 基 づいて 債 権 者 保 護 を 図 る 同 項 の 趣 旨 は 会 社 分 割 の 場 合 に おいても 妥 当 するというべきであり 一 般 債 権 者 に 会 社 分 割 に 係 る 分 割 計 画 書 の 閲 覧 を 期 待 す ることは 妥 当 ではない ( 2 ) 規 範 2( 請 求 原 因 4)の 認 定 証 拠 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 によれば 1 被 告 分 割 会 社 は 原 告 から 本 件 店 舗 に 関 する 本 件 フ ランチャイズ 契 約 を 締 結 後 に 自 己 資 金 が 不 足 したとして 解 約 を 申 し 出 られたため 原 告 との 間 で 平 成 一 八 年 三 月 の 本 件 店 舗 を 開 店 当 初 から 事 実 上 の 直 営 とし 原 告 を 従 業 員 兼 店 長 とする 旨 合 意 したこと 2 被 告 分 割 会 社 は 同 年 六 月 に 本 件 フランチャイズ 契 約 を 合 意 解 約 し 本 件 店 舗 のリース 物 件 以 外 の 内 外 装 及 び 什 器 備 品 を 原 告 から 無 償 で 譲 り 受 け 遅 くとも 同 年 一 〇 41
M. Nakamura CHUKYO LAWYER 月 までには 法 的 にも 本 件 店 舗 を 直 営 するに 至 ったこと 3 被 告 分 割 会 社 は 平 成 二 〇 年 二 月 に 作 成 した 分 割 計 画 書 において 同 社 の 営 む 飲 食 事 業 部 門 に 属 する 営 業 を 分 割 して 被 告 新 設 会 社 に 承 継 するために 本 件 分 割 を 計 画 する 旨 記 載 したこと 4 被 告 新 設 会 社 は 会 社 分 割 から 約 一 年 後 の 平 成 二 一 年 六 月 ころ 自 社 のホームページ 上 において 本 件 店 舗 を 系 列 店 の 一 つ として 表 示 していたこと 5 被 告 新 設 会 社 は その 名 義 において 平 成 二 二 年 一 月 三 一 日 株 式 会 社 東 急 ストアとの 間 で 平 成 一 八 年 三 月 一 六 日 付 けで 両 者 の 間 で 締 結 した 本 件 店 舗 の 営 業 委 託 契 約 を 解 約 して 退 店 する 旨 合 意 をし 本 件 店 舗 に 関 する 原 状 回 復 義 務 や 立 替 経 費 引 当 金 返 還 請 求 権 の 主 体 となったこと 6 被 告 分 割 会 社 は 現 在 特 段 の 事 業 を 行 っていないこと が 認 められ 以 上 を 総 合 すると 被 告 新 設 会 社 は 会 社 分 割 により 被 告 分 割 会 社 から 本 件 店 舗 に 関 する 事 業 を 承 継 したものと 認 められる(アンダーラインは 著 者 による) ( 3 ) 規 範 1 及 び3( 請 求 原 因 5)の 認 定 証 拠 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 によれば 1 本 件 店 舗 は 被 告 らの 直 営 店 であり 平 成 一 八 年 三 月 の 開 店 から 平 成 二 二 年 一 月 の 閉 店 まで 一 貫 して クレープハウス ユニあきる 野 とうきゅう 店 の 名 称 で 営 業 していたこと 2 被 告 新 設 会 社 は 同 社 のホームページ 上 も 本 件 店 舗 をク レープハウス ユニチェーンのチェーン 店 として 広 告 していることが 認 められ 3 被 告 分 割 会 社 の 商 号 ( 株 式 会 社 ユニ ピーアール) 本 件 店 舗 の 名 称 (クレープハウス ユニあきる 野 とうきゅう 店 ) 及 び 被 告 新 設 会 社 の 商 号 ( 株 式 会 社 クレープハウス ユニ)の 類 似 性 4 被 告 分 割 会 社 と 被 告 新 設 会 社 の 代 表 取 締 役 の 同 一 性 5 被 告 分 割 会 社 と 被 告 新 設 会 社 の 実 質 的 連 続 性 を 強 調 するホームページ 上 の 記 載 等 も 併 せ 考 慮 すれば 被 告 分 割 会 社 は 直 営 する 本 件 店 舗 の 名 称 をその 事 業 主 体 を 表 示 するものとして 用 い 被 告 新 設 会 社 も 本 件 分 割 に 伴 い 本 件 店 舗 の 事 業 を 承 継 した 際 にその 店 舗 名 を 引 き 続 き 事 業 主 体 を 表 す 名 称 として 使 用 してきたと 認 められる(アンダーラインは 著 者 による) ( 4 ) 抗 弁 に 位 置 づけられる 特 段 の 事 情 の 有 無 本 件 において 被 告 新 設 会 社 が 会 社 分 割 後 遅 滞 なく 債 権 者 に 債 務 引 受 けをしない 旨 通 知 した など 被 告 新 設 会 社 の 責 任 を 免 除 すべき 特 段 の 事 情 の 主 張 立 証 はない 被 告 新 設 会 社 は 分 割 計 画 書 の 閲 覧 可 能 性 を 主 張 するが 本 件 分 割 の 分 割 計 画 書 別 紙 明 細 表 には 承 継 する 負 債 として 長 期 預 り 金 保 証 預 り 金 との 表 題 とその 金 額 が 記 載 されているの みであって 仮 にこれを 一 般 債 権 者 が 閲 覧 しても 承 継 の 範 囲 を 容 易 に 理 解 できるものとは 認 め 難 く かえって 本 件 分 割 の 目 的 は 被 告 分 割 会 社 の 飲 食 営 業 部 門 の 分 割 と 明 記 されていることも 考 慮 すれば 分 割 計 画 書 の 閲 覧 可 能 性 をもって 被 告 新 設 会 社 の 責 任 を 免 れさせることが 相 当 と はいえない また 被 告 新 設 会 社 は 会 社 分 割 の 場 合 においては 免 責 登 記 の 手 段 がない 旨 主 張 するが 少 なくとも 本 件 店 舗 が 被 告 らの 直 営 店 であると 認 識 しつつその 開 店 資 金 の 返 済 を 継 続 している 原 告 との 関 係 においては 本 件 店 舗 の 事 業 を 譲 り 受 けた 被 告 新 設 会 社 を 免 責 する 上 で 原 告 ヘの 通 42
CHUKYO LAWYER Vol. 17 2012 知 等 を 求 めることが 酷 とも 認 められない ( 5 ) 方 法 1 を 選 択 した 理 由 ( 私 見 ) この 事 案 は 原 告 の 有 する 債 権 の 発 生 原 因 となったクレープハウスに 関 する 事 業 の 承 継 があ り 登 録 商 標 を 行 っていた 屋 号 を 新 設 分 割 設 立 会 社 の 商 号 にしていることから 屋 号 の 続 用 要 件 を 認 定 しやすい 事 案 であったこと 債 務 者 側 から 債 権 が 移 転 しないことに 関 する 積 極 的 なアク ションがなかったため 債 権 者 側 から 見 て 自 己 の 債 権 が 移 転 していないと 判 断 できる 事 情 が 存 在 しなかったため 会 社 法 22 条 1 項 の 制 度 趣 旨 に 合 致 する 事 案 であり 会 社 法 22 条 1 項 類 推 適 用 の 構 成 をとったと 考 えられる 5.その 他 の 裁 判 例 で 注 目 すべき 点 ( 1 ) 大 阪 地 方 裁 判 所 平 成 22 年 10 月 4 日 判 決 本 判 決 で 注 目 すべき 点 は 抗 弁 に 該 当 する 特 段 の 事 情 が 存 在 すると 判 断 した 点 である 本 判 決 は 乙 山 及 び 丙 原 税 理 士 は 平 成 19 年 11 月 26 日 に 原 告 に 対 して 説 明 を 行 った 際 被 告 が 事 業 を 承 継 するが 債 務 は 引 き 継 がないことを 説 明 している 上 原 告 は 本 件 会 社 分 割 実 行 後 ではあるが 平 成 20 年 1 月 には 丙 原 税 理 士 から 本 件 会 社 分 割 を 実 行 した 旨 の 説 明 を 受 け 分 割 計 画 書 等 の 資 料 の 送 付 も 受 けていることに 照 らせば 原 告 において 同 一 の 営 業 主 体 による 営 業 が 継 続 している あるいは 譲 受 会 社 により 債 務 又 は 履 行 の 引 受 がされたと 信 頼 したと 認 めるには 足 りないというべきである(アンダーラインは 著 者 による) として 抗 弁 事 由 の 存 在 を 認 めた 乙 山 や 丙 原 税 理 士 が 行 った 説 明 の 内 容 や 程 度 は 原 告 等 取 引 金 融 機 関 に 対 し 被 告 が 事 業 を 承 継 するが 債 務 は 引 き 継 がないこと 乙 山 が 被 告 の 社 長 を 兼 務 すること 本 件 貸 付 につい ては 被 告 が 得 た 事 業 収 益 を 前 提 として 対 応 するので 返 済 を 6 か 月 程 度 猶 予 して 欲 しい 旨 を 各 説 明 した というものである 第 3 詐 害 行 為 取 消 権 に 基 づく 回 収 方 法 ( 以 下 方 法 2 という ) 1. 方 法 2 の 概 要 詐 害 行 為 取 消 権 ( 民 法 424 条 1 項 )は 債 務 者 の 詐 害 行 為 を 取 り 消 して 債 務 者 の 財 産 状 態 を 詐 害 行 為 以 前 に 取 り 戻 すことによって 総 債 権 者 の 責 任 財 産 の 保 全 を 図 る 制 度 である この 制 度 を 会 社 分 割 に 対 して 使 用 し 新 設 分 割 会 社 の 責 任 財 産 を 保 全 し 保 全 した 責 任 財 産 から 債 権 を 回 収 することが 考 えられる 以 下 方 法 2 による 債 権 回 収 を 認 めた 東 京 地 方 裁 判 所 平 成 22 年 5 月 27 日 判 決 を 中 心 に 検 討 する 2. 事 案 の 概 要 原 告 は 動 産 及 び 不 動 産 の 賃 貸 借 及 びリース 業 動 産 の 割 賦 購 入 あっせん 業 等 を 営 む 株 式 会 社 である 被 告 は ユニ ピーアールから 新 設 分 割 により クレープ 飲 食 事 業 に 関 する 権 利 義 務 を 43
M. Nakamura CHUKYO LAWYER 承 継 した 株 式 会 社 クレープハウス ユニである 原 告 が ユニ ピーアールに 対 して 有 していた 債 権 については 本 件 会 社 分 割 による 対 象 とさ れてはいない また 原 告 がユニ ピーアールとの 間 で 締 結 した 割 賦 販 売 契 約 に 係 る 販 売 物 件 が 存 在 する 店 舗 及 びリース 契 約 に 係 るリース 物 件 が 存 在 する 店 舗 は 被 告 に 承 継 されず 閉 店 した 3. 要 件 事 実 等 の 整 理 以 下 では 方 法 2 による 請 求 の 際 の 訴 訟 物 請 求 原 因 抗 弁 方 法 2 の 法 的 効 果 を 整 理 する ( 1 ) 訴 訟 物 A: 詐 害 行 為 取 消 権 としての 会 社 分 割 取 消 権 と 所 有 権 移 転 登 記 抹 消 登 記 請 求 権 B: 詐 害 行 為 取 消 権 としての 会 社 分 割 取 消 権 と 金 返 還 請 求 権 ( 2 ) 請 求 原 因 1 2 3 4 X が A に 対 して 被 保 全 債 権 を 有 すること A の 無 資 力 A による 財 産 権 を 目 的 とする 詐 害 行 為 A の 詐 害 意 思 ( 3 ) 抗 弁 受 益 者 である Y の 善 意 ( 4 ) 方 法 2 の 法 的 効 果 取 消 しの 効 果 は 詐 害 行 為 取 消 権 者 と 受 益 者 又 は 転 得 者 との 間 でのみ 相 対 的 に 生 じる また 取 消 しの 範 囲 は 取 消 しの 対 象 が 可 分 であれば 保 全 される 債 権 の 範 囲 に 限 定 されるが 取 消 し の 対 象 が 不 可 分 の 場 合 には 全 てが 取 消 しの 対 象 となる 取 消 しの 方 法 は 原 則 として 現 物 返 還 であるが 現 物 返 還 ができない 場 合 には 例 外 的 に 価 格 賠 償 となる (6) (7) (5) 4. 判 決 内 容 及 び 方 法 2 を 選 択 した 理 由 ( 私 見 ) ( 1 ) 被 保 全 債 権 の 存 在 ( 請 求 原 因 1) 原 告 を 債 権 者 被 告 ユニ ピーアールを 債 務 者 とする 本 件 被 保 全 債 権 すなわち 本 件 各 割 賦 販 売 契 約 に 係 る 販 売 代 金 残 額 債 権 及 び 本 件 各 リース 契 約 に 係 るリース 料 残 額 債 権 ( 元 本 合 計 1911 万 5040 円 )は 本 件 会 社 分 割 より 前 に 成 立 していたことが 認 められる また 本 件 被 保 全 債 権 は 本 件 会 社 分 割 後 いずれも 原 告 の 解 除 により 損 害 賠 償 債 権 に 転 化 したものと 認 め ることができる 44
CHUKYO LAWYER Vol. 17 2012 ( 2 )ユニ ピーアールの 無 資 力 ( 請 求 原 因 2) ユニ ピーアールは 本 件 会 社 分 割 当 時 債 務 超 過 の 状 態 にあった 上 本 件 被 保 全 債 権 を 含 むリース 料 等 の 支 払 や 銀 行 借 入 債 務 の 支 払 をすることができず 本 件 被 保 全 債 権 についても 期 限 の 利 益 を 喪 失 するなどしていたのであるから 本 件 被 保 全 債 権 を 弁 済 し 得 る 資 力 を 有 してい なかった すなわち 無 資 力 であったものと 認 められる(アンダーラインは 著 者 による) ( 3 ) 本 件 会 社 分 割 についての 詐 害 性 ( 請 求 原 因 3) 本 件 会 社 分 割 は 無 資 力 の 被 告 ユニ ピーアールが その 保 有 する 無 担 保 の 残 存 資 産 のほと んど( 1 億 5592 万 3259 円 相 当 )を 被 告 クレープハウス ユニに 承 継 させるものであり 被 告 ユニ ピーアール( 債 務 者 )がその 対 価 として 交 付 を 受 けた 被 告 クレープハウス ユニの 設 立 時 発 行 株 式 は 被 告 ユニ ピーアールの 債 権 者 にとって 保 全 財 産 評 価 及 び 換 価 などに 著 しい 困 難 を 伴 うものであって その 一 般 財 産 の 共 同 担 保 としての 価 値 が 毀 損 され 債 権 者 が 自 己 の 有 する 債 権 について 弁 済 を 受 けることがより 困 難 になったといえるから 本 件 会 社 分 割 は 同 被 告 の 債 権 者 である 原 告 を 詐 害 するものと 認 めることができる 被 告 クレープハウス ユニは 被 告 ユニ ピーアールは 本 件 会 社 分 割 によって 承 継 させ た 権 利 義 務 の 対 価 として 被 告 クレープハウス ユニの 発 行 する 株 式 全 部 (400 株 )の 交 付 を 受 けており 経 済 的 等 価 交 換 の 原 理 によりその 財 産 状 況 には 全 く 変 動 がなく また 現 在 でもそ の 株 式 を 有 しているのであるから 本 件 会 社 分 割 に 詐 害 性 がないことは 明 らかである 旨 を 主 張 する 確 かに 新 設 分 割 会 社 である 被 告 ユニ ピーアールは 本 件 会 社 分 割 によって 承 継 さ せた 権 利 義 務 の 対 価 として 新 設 分 割 設 立 会 社 である 被 告 クレープハウス ユニの 発 行 する 株 式 全 部 (400 株 )の 交 付 を 受 けており 計 算 上 は 本 件 会 社 分 割 の 前 後 において 被 告 ユニ ピーアールの 財 産 に 増 減 がないともいい 得 る しかしながら 詐 害 行 為 取 消 権 は 総 債 権 者 の 共 同 担 保 となるべき 債 務 者 の 一 般 財 産 ( 責 任 財 産 )を 保 全 するための 制 度 であるから 無 資 力 である 債 務 者 が 一 般 財 産 を 減 少 させ 得 る 法 律 行 為 をした 場 合 に これが 債 権 者 を 害 する 債 務 者 の 一 般 財 産 減 少 行 為 すなわち 詐 害 行 為 となるか 否 かについては 単 に 当 該 法 律 行 為 の 前 後 において 計 算 上 一 般 財 産 が 減 少 したか 否 かという 観 点 からだけではなく たとえ 計 算 上 は 一 般 財 産 が 減 少 したとはいえないときでも 一 般 財 産 の 共 同 担 保 としての 価 値 を 実 質 的 に 毀 損 し て 債 権 者 が 自 己 の 有 する 債 権 について 弁 済 を 受 けることがより 困 難 となったと 認 められる 場 合 には 詐 害 行 為 に 該 当 すると 解 するのが 相 当 である これを 本 件 会 社 分 割 についてみると 本 件 会 社 分 割 の 結 果 被 告 ユニ ピーアールの 保 有 するほとんどの 無 担 保 の 残 存 資 産 ( 合 計 1 億 5592 万 3259 円 相 当 の 受 取 手 形 前 払 費 用 短 期 貸 付 金 差 入 保 証 金 長 期 貸 付 金 及 び 固 定 資 産 )と 負 債 の 一 部 ( 合 計 6983 万 9630 円 相 当 の 長 期 預 り 金 及 び 預 り 保 証 金 )が 被 告 クレープハウス ユニに 承 継 されたのに 対 し(ただし 上 記 承 継 された 負 債 について 被 告 ユニ ピーアールは 重 畳 的 債 務 引 受 をした ) 被 告 ユニ ピー アールがその 対 価 として 取 得 したのは 被 告 クレープハウス ユニの 株 式 全 部 (400 株 )である 45
M. Nakamura CHUKYO LAWYER このように 本 件 会 社 分 割 により 一 方 で 被 告 ユニ ピーアールの 保 有 する 債 権 を 中 心 とす るほとんどの 無 担 保 の 残 存 資 産 が 逸 出 して 同 被 告 は 会 社 としての 実 体 がなくなり 他 方 で 同 被 告 が 対 価 として 取 得 した 被 告 クレープハウス ユニの 株 式 は 非 上 場 株 式 会 社 の 株 式 であり 株 主 が 廉 価 で 処 分 することは 容 易 であっても 一 般 的 には 流 動 性 が 乏 しく 被 告 ユニ ピーアー ルの 債 権 者 にとっては 株 主 名 簿 を 閲 覧 する 権 利 もなく( 会 社 法 125 条 2 項 ) 株 券 が 発 行 され ればより 一 層 これを 保 全 することには 著 しい 困 難 が 伴 い さらに 強 制 執 行 の 手 続 において も その 財 産 評 価 や 換 価 をすることには 著 しい 困 難 を 伴 うものと 認 めることができる そうす ると 本 件 会 社 分 割 により 同 被 告 の 一 般 財 産 の 共 同 担 保 としての 価 値 を 実 質 的 に 毀 損 して その 債 権 者 である 原 告 が 自 己 の 有 する 本 件 被 保 全 債 権 について 弁 済 を 受 けることがより 困 難 と なったといえるから 本 件 会 社 分 割 には 詐 害 性 が 認 められるといわざるを 得 ない 被 告 ユニ ピーアールが 取 得 した 被 告 クレープハウス ユニの 株 式 が 本 件 会 社 分 割 によって 被 告 ユニ ピーアールから 逸 出 した 資 産 の 対 価 として 相 当 であるかどうかにかかわらず 本 件 会 社 分 割 は 原 告 ら 同 被 告 の 債 権 者 を 害 するものと 認 められる(アンダーラインは 著 者 による) ( 4 ) 詐 害 の 意 思 ( 請 求 原 因 4) 被 告 ユニ ピーアールの 代 表 取 締 役 乙 山 は 本 件 会 社 分 割 により 原 告 を 含 む 同 被 告 の 債 権 者 が 有 する 債 権 について 債 務 超 過 にあった 同 被 告 の 一 般 財 産 から 弁 済 を 受 けることがより 困 難 となり 債 権 者 が 害 されるとの 認 識 を 有 していたこと すなわち 詐 害 の 意 思 を 有 していた ものと 認 めることができる ( 5 ) 取 消 しの 範 囲 及 び 原 状 回 復 の 方 法 新 設 分 割 は 新 設 分 割 会 社 がその 事 業 に 関 して 有 する 権 利 義 務 の 全 部 又 は 一 部 を 新 設 分 割 設 立 会 社 に 承 継 させることであり 本 件 会 社 分 割 においては 被 告 ユニ ピーアール( 新 設 分 割 会 社 )が 被 告 クレープハウス ユニ( 新 設 分 割 設 立 会 社 )に 対 し 資 産 ( 権 利 )として 金 銭 債 権 である 受 取 手 形 前 払 費 用 短 期 貸 付 金 差 入 保 証 金 及 び 長 期 貸 付 金 ( 以 上 合 計 1 億 1776 万 3872 円 相 当 ) 並 びに 固 定 資 産 (3815 万 9387 円 相 当 ) 負 債 ( 義 務 )として 長 期 預 り 金 及 び 預 り 保 証 金 を 承 継 させている このうち 詐 害 行 為 となる 本 件 会 社 分 割 の 目 的 物 である 上 記 資 産 ( 金 銭 債 権 及 び 固 定 資 産 )が 可 分 であることは 明 らかである したがって 本 件 会 社 分 割 を 詐 害 行 為 として 取 り 消 す 範 囲 は 詐 害 行 為 の 目 的 物 が 可 分 である 場 合 として 債 権 者 であ る 原 告 の 本 件 被 保 全 債 権 の 額 すなわち 1911 万 5040 円 を 限 度 とするというべきである 本 件 会 社 分 割 が 詐 害 行 為 として 取 り 消 されたときの 原 状 回 復 の 方 法 としては 本 件 会 社 分 割 により 承 継 させた 資 産 を 現 物 返 還 させることが 可 能 であればできるだけこれを 認 めるべきであ るが 本 件 会 社 分 割 により 承 継 させた 資 産 は 別 紙 4 承 継 権 利 義 務 明 細 表 に 記 載 されたとおり に 特 定 されるのみで 個 別 の 権 利 として 特 定 されておらず さらに 本 件 会 社 分 割 の 後 被 告 クレープハウス ユニ( 新 設 分 割 設 立 会 社 )が 事 業 を 継 続 していることからすると 上 記 資 産 に 変 動 が 生 じていることは 容 易 に 推 測 できるのであり 債 権 者 である 原 告 にとって 承 継 され 46
CHUKYO LAWYER Vol. 17 2012 た 上 記 資 産 を 特 定 してこれを 返 還 させることは 著 しく 困 難 であると 認 めることができる した がって 原 告 は 同 被 告 に 対 し 逸 出 した 財 産 の 現 物 返 還 に 代 えてその 価 格 賠 償 を 請 求 するこ とができる(アンダーラインは 著 者 による) ( 6 ) 方 法 2 を 選 択 した 理 由 ( 私 見 ) この 事 案 は 方 法 1 で 取 り 上 げた 事 案 の 被 告 と 同 一 の 被 告 ではある しかし 新 設 分 割 会 社 であるユニ ピーアールが 複 数 有 していたクレープ 店 舗 のうち 原 告 の 債 権 が 発 生 したクレー プハウスの 店 舗 は 承 継 されなかった そのことが 方 法 1 の 要 件 に 影 響 を 与 える 可 能 性 があり 方 法 2 を 選 択 した 一 つの 要 素 と 考 えられる また 事 案 の 概 要 の 中 には 出 ていないが 裁 判 に あらわれていない 事 情 として 原 告 がリース 会 社 であったことから 個 別 通 知 がなされている 可 能 性 があり そのことも 方 法 2 を 選 択 した 要 素 の 一 つに 考 えられる 本 判 決 は 取 消 しの 対 象 を 会 社 分 割 自 体 とし かつ 会 社 分 割 が 可 分 であるという 処 理 をし た 本 件 会 社 分 割 では クレープ 飲 食 事 業 という 規 模 で 権 利 義 務 の 承 継 が 行 われていることか ら 個 別 の 権 利 義 務 の 移 転 に 注 目 するのではなく クレープ 飲 食 事 業 というパッケージで 詐 害 性 を 認 定 するのに 適 していたことから 本 判 決 は 上 記 のような 処 理 をしたと 考 えられる 5.その 他 の 事 案 で 注 目 すべき 点 ( 1 ) 大 阪 地 方 裁 判 所 平 成 21 年 8 月 26 日 判 決 本 判 決 は 取 消 しの 対 象 を 会 社 分 割 自 体 ではなく 会 社 分 割 によって 移 転 した 個 別 の 不 動 産 を 取 消 しの 対 象 とし 原 状 回 復 処 理 を 行 った 点 に 注 目 すべきである そのため 詐 害 行 為 の 認 定 においても 専 ら 不 動 産 の 移 転 の 観 点 に 絞 って 行 われている 詐 害 行 為 の 認 定 の 冒 頭 で 抵 当 不 動 産 の 処 分 行 為 については 当 該 処 分 行 為 時 における 目 的 不 動 産 の 価 額 から 当 該 不 動 産 が 負 担 すべき 抵 当 権 又 は 根 抵 当 権 の 被 担 保 債 権 額 を 控 除 した 残 額 の 部 分 が 責 任 財 産 から 逸 失 することになり その 残 額 部 分 について 詐 害 性 が 認 められる と 述 べ 本 件 における 不 動 産 の 処 分 が 詐 害 行 為 に 該 当 するかを 具 体 的 事 実 に 照 らして 検 討 して いった なお 本 事 案 において 不 動 産 の 個 別 の 移 転 を 詐 害 行 為 の 対 象 とした 理 由 としては 本 判 決 が Z には 平 成 19 年 10 月 1 日 当 時 販 売 用 不 動 産 であった 本 件 Q 土 地 及 び 遊 戯 施 設 営 業 を 行 っ ていた 本 件 P 不 動 産 のほかに 債 務 の 引 当 てになるような 特 段 の 資 産 はなく 本 件 保 証 契 約 に 基 づく 保 証 債 務 を 除 いても 債 務 超 過 の 状 態 にあった と 認 定 していることから 他 の 事 案 と 異 なり 対 象 とできる 資 産 が 不 動 産 しかなかったからではないかと 考 えられる ( 2 ) 福 岡 高 等 裁 判 所 平 成 23 年 10 月 17 日 判 決 本 判 決 は 詐 害 行 為 取 消 権 の 制 度 的 限 界 を 示 した 点 に 注 目 すべきである (8) 第 一 審 判 決 では 法 人 格 否 認 の 法 理 の 適 用 を 認 めて 原 告 が 新 設 分 割 会 社 に 対 して 有 してい た15 億 円 の 債 権 と 同 額 を 被 告 である 新 設 分 割 設 立 会 社 に 対 して 請 求 できると 判 断 した 47
M. Nakamura CHUKYO LAWYER しかし 本 判 決 は 法 人 格 否 認 の 法 理 の 適 用 を 否 定 し 詐 害 行 為 取 消 権 を 肯 定 した 上 で 原 状 回 復 の 内 容 判 断 で 被 告 Y 1 から 控 訴 人 に 移 転 されて 逸 出 したのは P 2 店 舗 の 事 業 である ところ 事 業 継 続 を 前 提 とするその 事 業 価 値 としては 丙 原 補 充 意 見 書 を 基 にするのが 妥 当 で あるけれども それには 一 定 程 度 の 前 提 条 件 や 仮 定 的 条 件 が 含 まれており 厳 密 性 において 必 ずしも 十 分 とはいい 難 いこと そこで 用 いられているインカム アプローチの 手 法 は 将 来 生 み 出 すと 期 待 されるキャッシュ フローに 基 づいて 評 価 対 象 会 社 の 価 値 を 評 価 するものであっ て その 予 測 と 実 績 とが 乖 離 することも 考 えられないではなく 客 観 性 の 確 保 に 課 題 があるこ と( 証 拠 略 ) 控 訴 人 においては 相 応 の 営 業 利 益 を 上 げているが( 証 拠 略 ) パチンコ 業 界 を 取 り 巻 く 経 営 環 境 が 厳 しい 状 況 にあること( 証 拠 略 ) 等 を 勘 案 すると 丙 原 補 充 意 見 書 にいう 下 限 である12 億 4826 万 8000 円 の 3 分 の 2 弱 である 8 億 円 程 度 と 認 めるのが 相 当 である として 本 件 会 社 分 割 行 為 が 持 つ 詐 害 性 の 範 囲 を 認 定 した 詐 害 行 為 取 消 権 は 債 務 者 の 行 為 のうち 詐 害 性 が 認 められる 範 囲 についてのみ 取 り 消 すことができる 権 利 であることから 結 果 として 原 告 が 本 裁 判 によって 回 復 できる 債 権 の 範 囲 が 減 少 することになった 第 4 法 人 格 否 認 の 法 理 に 基 づく 回 収 方 法 ( 以 下 方 法 3 という ) 1. 方 法 1 の 概 要 法 人 格 否 認 の 法 理 とは 法 人 格 の 独 立 性 を 当 該 事 案 限 りで 否 認 する 法 理 をいう 詐 害 的 会 社 分 割 において 同 法 理 の 適 用 が 認 められると 新 設 分 割 が 独 立 した 法 人 格 を 有 することが 否 認 され 新 設 分 割 会 社 と 新 設 分 割 設 立 会 社 とを 同 一 視 でき 債 権 者 は 新 設 分 割 設 立 会 社 の 財 産 から 債 権 を 回 収 することができる 以 下 方 法 3 による 債 権 回 収 を 認 めた 福 岡 地 方 裁 判 所 平 成 23 年 2 月 17 日 判 決 を 中 心 に 検 討 する 2. 事 案 の 概 要 原 告 は 債 権 回 収 や 企 業 再 生 等 を 目 的 とする 会 社 である 株 式 会 社 国 際 企 画 ( 以 下 国 際 企 画 という )は パチンコ 店 の 経 営 等 を 目 的 とする 会 社 であり 5 店 舗 経 営 していた 被 告 ら は 国 際 企 画 が 新 設 分 割 を 行 って 設 立 した 会 社 であり パチンコ 店 の 経 営 を 引 き 継 いだ 国 際 企 画 は 乙 山 春 夫 その 息 子 である 乙 山 夏 彦 及 びその 親 族 が 株 式 を 有 する 同 族 会 社 である 国 際 企 画 は 平 成 14 年 12 月 31 日 時 点 で 債 務 超 過 の 状 態 にあった そこで 会 社 再 建 の 方 法 とし て 新 設 分 割 のスキームを 用 いることにし 出 資 口 数 全 てを 国 際 企 画 とする 新 設 分 割 を 行 い 被 告 らが 設 立 された 新 設 分 割 設 立 会 社 の 代 表 者 は 乙 山 夏 彦 の 妻 乙 山 花 子 である 乙 山 花 子 は 国 際 企 画 の 株 主 や 債 務 の 保 証 人 等 に 一 切 なっていな 者 であった 国 際 企 画 は 所 有 する 不 動 産 を 被 告 に 売 り 渡 した 被 告 は 原 告 に 対 し 抵 当 権 抹 消 請 求 を 行 った 被 告 設 立 の 経 緯 を 知 らない 原 告 は 請 求 に 応 じざるを 得 なかった 国 際 企 画 の 経 営 は 各 店 舗 に 信 頼 できる 店 長 を 配 置 し 代 表 者 である 夏 彦 は 東 京 に 居 住 し ファックスを 使 って 各 店 舗 の 状 況 を 把 握 していた そして 必 要 があればその 都 度 指 示 を 出 した 国 際 企 画 は 経 営 が 悪 化 した その 際 原 告 及 び 他 の 金 融 機 関 から 多 額 の 借 入 金 があった( 原 48
CHUKYO LAWYER Vol. 17 2012 告 は 借 入 金 の 総 額 の 半 分 に 当 たる 約 53 億 円 を 貸 していた ) なお 原 告 以 外 の 債 権 者 は 不 動 産 に 数 億 円 の 根 抵 当 権 を 設 定 したのに 対 し 原 告 は 後 順 位 の 根 抵 当 権 の 設 定 しかなく 根 抵 当 権 からの 配 当 は 見 込 めなかった 国 際 企 画 は 銀 行 等 の 債 権 者 に 再 建 方 法 のスキームに 関 する 交 渉 を 行 った しかし 原 告 に 対 しては スキームに 関 する 資 料 の 送 付 はなされていない スキームの 内 容 は 原 告 以 外 の 債 権 者 に 対 しては 借 入 金 の 返 済 を 行 ったり 担 保 権 の 抹 消 を 求 めたりするものであるが 原 告 に 対 し ては 単 に 担 保 権 の 抹 消 を 求 めるにすぎなかった その 後 一 店 舗 あたり 数 百 万 円 の 担 保 権 抹 消 料 を 支 払 うとして 交 渉 した 3. 要 件 事 実 等 の 整 理 ( 1 ) 訴 訟 物 X が A に 対 して 有 する 請 求 権 (9) ( 2 ) 請 求 原 因 1 2 3 XA 間 の 債 権 発 生 原 因 事 実 A が Y の 法 人 格 を 意 のままに 道 具 として 支 配 していること A に Y の 法 人 格 を 取 得 するにあたり 違 法 または 不 当 な 目 的 が 認 められること ( 3 ) 方 法 3 の 法 的 効 果 Y の 独 立 の 法 人 格 が 否 認 され X は Y に 対 して 請 求 することができる 4. 判 決 内 容 及 び 方 法 3 を 選 択 した 理 由 ( 私 見 ) ( 1 ) 支 配 要 件 について 国 際 企 画 は その 株 式 の70パーセントを 有 する 夏 彦 を 含 む 親 族 がすべての 株 式 を 所 有 する 完 全 な 同 族 会 社 であったところ その 経 営 再 建 のために 本 件 会 社 分 割 を 行 うことを 計 画 し そ の 際 株 主 や 連 帯 保 証 人 となっている 夏 彦 やその 他 の 親 族 は 新 会 社 の 所 有 及 び 経 営 には 直 接 関 与 せず 後 方 にて 支 援 することとされ( 乙 23) 株 主 にも 連 帯 保 証 人 にもなっていなかった 花 子 を 新 会 社 の 代 表 者 としたというのである( 代 表 者 を 親 族 以 外 の 第 三 者 にすることが 具 体 的 に 検 討 された 形 跡 はうかがわれない ) また 花 子 は 専 業 主 婦 をしていたもので 夏 彦 の 妻 と して 国 際 企 画 の 仕 事 を 手 伝 った 以 外 には 経 営 に 関 与 した 経 験 は 全 くないところ 出 資 持 分 取 得 や 抵 当 権 消 滅 請 求 の 具 体 的 経 緯 もほとんどわからないというのである さらに 花 子 が 新 会 社 の 経 営 に 関 与 しているとしても 花 子 及 び 夏 彦 の 自 宅 に 経 営 状 況 の 報 告 がファックス 送 付 され 花 子 と 夏 彦 が 適 宜 相 談 の 上 で 必 要 に 応 じて 指 示 を 出 しているとい うのであって ファックスの 宛 先 や 指 示 の 名 義 が 変 わった 以 外 は 実 質 的 には 本 件 会 社 分 割 前 とほぼ 変 わらない 方 式 によって 新 会 社 の 経 営 が 行 われているというのである 加 えて 国 際 企 画 が 経 営 していたパチンコ 店 舗 で 経 営 の 統 廃 合 等 により 営 業 を 止 めたもの 49
M. Nakamura CHUKYO LAWYER 以 外 は 花 子 が 代 表 者 を 務 める 各 新 会 社 によって それぞれ 従 前 の 同 一 の 施 設 を 利 用 して 同 一 の 屋 号 で 経 営 されており 上 記 会 社 分 割 によっても 営 業 を 中 断 することなく 中 心 となる 従 業 員 等 も 変 わらずに 営 業 を 継 続 しているというのである 上 記 事 情 に 照 らせば 本 件 会 社 分 割 前 の 国 際 企 画 と 本 件 会 社 分 割 後 の 被 告 らでは その 事 業 態 様 や 支 配 実 態 は 実 質 的 に 変 化 がないと 評 価 せざるをえず 法 人 格 が 支 配 者 ( 夏 彦 及 びその 親 族 )により 意 のままに 道 具 として 支 配 されている( 支 配 要 件 )というべきである(アンダーラ インは 著 者 による) ( 2 ) 目 的 要 件 について 国 際 企 画 は 経 営 する 各 パチンコ 店 舗 自 体 の 収 益 力 はあるものの 巨 額 の 金 融 機 関 に 対 する 負 債 を 抱 えて 各 債 権 者 と 協 議 を 行 って 分 割 返 済 を 行 っており 特 に 債 務 額 の 半 分 近 くを 占 める 最 大 債 権 者 の 原 告 には 毎 月 1000 万 円 近 い 分 割 返 済 を 行 っていたため このままではいずれ 倒 産 するとして パチンコ 店 舗 の 経 営 は 温 存 しつつ 本 件 会 社 分 割 を 利 用 した 債 務 整 理 を 行 お うと 計 画 したが 本 件 会 社 分 割 を 行 うにあたっては 原 告 に 対 して 何 らかの 再 建 スキームを 行 うことを 伝 えたものの その 具 体 的 内 容 は 本 件 会 社 分 割 から 4 か 月 経 過 するまで 一 切 明 ら かにしていない その 国 際 企 画 は 配 当 の 見 込 みがある 先 順 位 の 担 保 権 を 有 する 他 の 金 融 機 関 に 対 しては 債 務 の 弁 済 等 について 何 度 も 交 渉 を 行 っている( 最 終 的 には 担 保 権 による 配 当 見 込 金 額 を 遙 かに 超 える 債 務 引 受 に 応 じている ) 一 方 国 際 企 画 は 原 告 に 対 して 債 務 額 の 半 分 程 度 を 有 する 最 大 の 債 務 者 であるにもかかわらず 担 保 抹 消 料 以 外 には 全 く 支 払 は 行 わ ないという 態 度 を 一 貫 してとり 弁 済 についての 交 渉 にも 一 切 応 じていない さらに 国 際 企 画 は パチンコ 店 舗 の 不 動 産 は 新 会 社 には 承 継 しないという 前 提 で 本 件 会 社 分 割 を 行 いながら その 後 の 金 融 機 関 との 交 渉 等 の 都 合 によって 不 動 産 を 新 会 社 に 承 継 させる 必 要 が 生 じると 原 告 に 対 する 説 明 を 変 え 本 件 会 社 分 割 当 初 から 上 記 不 動 産 が 譲 渡 されていたかのような 移 転 登 記 手 続 を 行 って 最 終 的 には 原 告 に 対 する 抵 当 権 消 滅 請 求 を 行 っているというのである 上 記 経 緯 等 に 照 らせば 国 際 企 画 が 行 おうとした 今 回 の 再 建 スキームの 主 な 目 的 は 国 際 企 画 の 債 務 の 半 分 近 くを 占 める 原 告 の 債 務 の 支 払 を 免 れることにあったといわざるをえない そして 原 告 に 対 する 説 明 や 交 渉 の 態 度 は 他 の 債 権 者 に 対 する 態 度 とは 明 らかに 異 なって おり 当 初 は 再 建 スキームの 具 体 的 内 容 を 明 らかにしなかったばかりか 説 明 の 具 体 的 内 容 に も 明 らかな 変 遷 があり また 資 料 等 の 提 供 は 行 うものの 他 の 債 権 者 と 異 なって 抹 消 料 以 外 には 一 切 交 渉 に 応 じないというものであって 後 記 のとおりの 各 債 権 者 ヘの 弁 済 見 込 み 等 に 照 らせば 原 告 への 対 応 はあまりに 不 誠 実 というべきである また 国 際 企 画 が 行 った 本 件 会 社 分 割 手 続 も その 後 の 他 の 金 融 機 関 との 交 渉 の 都 合 等 に 応 じて 事 後 的 に 変 更 しているなど 国 際 企 画 が 会 社 分 割 についての 法 律 上 手 続 を 遵 守 していない 可 能 性 が 高 く 本 件 会 社 分 割 制 度 を 上 記 再 建 スキームの 単 なる 道 具 として 利 用 しようとした 意 図 がうかがわれる 国 際 企 画 は 田 布 施 国 際 ニュー 国 際 夢 ひろばに 承 継 されたものだけでも 3 億 5000 万 円 を 50
CHUKYO LAWYER Vol. 17 2012 超 える 担 保 権 の 負 担 がない 資 産 を 有 していたところ 原 告 は 国 際 企 画 の 債 務 の 半 分 近 く( 担 保 権 による 配 当 の 見 込 みがない 債 権 に 限 れば 半 分 を 超 えることは 明 らかである )を 有 していた というのであるから 本 件 会 社 分 割 が 行 われずに 破 産 手 続 が 行 われた 場 合 でも 少 なくとも 1 億 円 を 超 える 配 当 が 期 待 できる 状 態 にあったといえる しかし 本 件 会 社 分 割 (その 後 の 不 動 産 の 移 転 登 記 や 新 会 社 の 株 式 譲 渡 を 含 む )によって 国 際 企 画 から 弁 済 や 配 当 を 受 けられる 可 能 性 はほぼないに 等 しい 状 態 となっており 国 際 企 画 からの 担 保 抹 消 料 の 申 出 も 当 初 で900 万 円 最 大 でも4500 万 円 であったというのである 一 方 原 告 以 外 の 債 権 者 の 債 務 は 本 件 会 社 分 割 が 行 われずに 破 産 手 続 が 行 われた 場 合 には 担 保 不 動 産 からの 配 当 見 込 金 額 を 除 いて 原 告 よりも 少 ない 配 当 額 を 原 告 以 外 の 債 権 者 で 債 権 額 に 応 じて 配 分 せざるをえない 状 態 であった ところ 本 件 会 社 分 割 によって 営 業 上 必 要 な 債 務 についての 債 権 者 は 担 保 権 を 有 さなくて も その 全 額 が 新 会 社 に 承 継 されて 弁 済 を 受 ける 見 込 みがあり また 先 順 位 の 担 保 権 を 有 す る 金 融 機 関 ( 東 山 口 信 用 金 庫 三 井 住 友 銀 行 西 京 銀 行 )の 債 務 も 担 保 不 動 産 からの 配 当 見 込 金 額 ( 約 9 億 0950 万 円 )を 大 きく 超 える 約 20 億 円 が 新 会 社 に 承 継 されて 各 パチンコ 店 舗 の 収 益 や 債 務 状 況 等 に 照 らせば その 相 当 部 分 の 回 収 が 期 待 できる 状 態 となっているというのであ る 上 記 結 果 は 破 綻 状 態 にあった 国 際 企 画 について 破 産 手 続 あるいは 民 事 再 生 手 続 が 行 われ た 場 合 と 比 較 して 明 らかに 債 権 者 間 の 公 平 を 欠 く 極 めて 恣 意 的 なものであり 担 保 権 の 順 位 及 び 状 況 民 事 再 生 手 続 において 営 業 上 必 要 な 債 務 がある 程 度 優 先 される 面 があることなどを 考 慮 しても 著 しく 公 平 性 を 欠 くものであって 信 義 則 に 反 するというべきである 以 上 によれば 国 際 企 画 は 債 権 者 のうち 原 告 に 対 する 債 務 支 払 を 恣 意 的 に 免 れることを 意 図 して 会 社 分 割 制 度 を 形 式 的 に 利 用 あるいは 濫 用 して 再 建 スキームを 実 行 したといわざるを えず 違 法 または 不 当 な 目 的 を 有 していた( 目 的 要 件 )というべきである(アンダーラインは 著 者 による) ( 3 ) 方 法 3 を 選 択 した 理 由 ( 私 見 ) この 事 案 は 詐 害 行 為 取 消 権 の 行 使 が 可 能 な 事 案 であった しかし 民 法 426 条 の 消 滅 時 効 に 抵 触 するため 詐 害 行 為 取 消 権 で 争 うことができる 事 案 ではなかった また 会 社 分 割 を 繰 り 返 し 行 うという 複 雑 なことが 行 われていたり 債 権 者 への 通 知 があったりしたため 会 社 法 22 条 1 項 類 推 適 用 による 請 求 が 難 しい 事 案 であった そのため 主 たる 請 求 方 法 として 法 人 格 否 認 の 法 理 による 請 求 しか 残 されていなかったといえる 事 案 であったのではないかと 考 える (10) 5.その 他 の 事 案 で 注 目 すべき 点 ( 1 ) 福 岡 高 等 裁 判 所 判 決 平 成 23 年 10 月 17 日 本 判 決 は 第 一 審 判 決 が 適 用 を 認 めた 法 人 格 否 認 の 法 理 について しかしながら 控 訴 人 は P 2 店 舗 を 承 継 して 被 告 Y 1 とは 別 個 の 事 業 体 として 独 立 して 営 業 活 動 をしているのであ り 一 方 被 告 Y 1 においては P 2 店 舗 以 外 にも 4 店 舗 を 有 し 相 応 の 不 動 産 も 保 有 して 営 業 活 動 を 行 っていたが 平 成 19 年 11 月 末 に 閉 店 して 廃 業 するに 至 り 平 成 22 年 6 月 25 日 解 散 し 51
M. Nakamura CHUKYO LAWYER て 清 算 中 である( 証 拠 略 ) そして 控 訴 人 の 代 表 者 と 被 告 Y 1 の 代 表 者 との 間 に 親 子 関 係 が あることは 認 められるものの それ 以 上 に 被 告 Y 1 が 控 訴 人 を 支 配 や 支 配 している 事 業 を 認 めるに 足 りる 確 たる 事 情 は 証 拠 上 窺 うことができない そうであれば 本 件 貸 金 の 関 係 に 限 っ たとしても 控 訴 人 を 被 告 Y 1 と 同 視 し 控 訴 人 の 法 人 格 を 否 認 して 同 被 告 と 同 様 の 責 任 を 負 担 させるのが 相 当 とは 解 することができない また 上 記 のような 事 情 に 加 えて 前 記 認 定 の 本 件 会 社 分 割 に 至 る 一 連 の 経 緯 に 照 らすと 被 告 Y 1 と 被 控 訴 人 との 本 件 貸 金 債 務 の 返 済 や 会 社 分 割 に 関 する 交 渉 を 主 導 的 主 体 的 に 行 っていたのは 被 告 Y 1 であって 控 訴 人 ではな いこと 等 からすれば 控 訴 人 自 身 が 被 控 訴 人 との 関 係 で 信 義 則 上 何 らかの 責 任 や 義 務 を 負 うと までは 解 し 難 いというべきである と 述 べて 適 用 を 否 定 した(アンダーラインは 著 者 によ る ) 本 判 決 は 本 件 詐 害 的 会 社 分 割 を 主 体 的 に 行 ったのが 新 設 分 割 会 社 であることから その 責 任 を 負 うべきは 新 設 分 割 会 社 であり 新 設 分 割 設 立 会 社 が 責 任 を 負 うべきではないという 観 点 から 法 人 格 否 認 の 法 理 の 適 用 を 否 定 している 新 設 分 割 を 行 う 段 階 では 新 設 分 割 設 立 会 社 は 存 在 しておらず 新 設 分 割 設 立 会 社 が 主 体 的 に 行 うことは 不 可 能 となるため 法 人 格 否 認 の 法 理 を 適 用 する 請 求 を 認 める 余 地 がなくなるのではないかと 考 える ( 2 ) 大 阪 地 方 裁 判 所 判 決 平 成 22 年 10 月 4 日 本 件 は 原 告 が 会 社 法 22 条 1 項 類 推 適 用 と 併 せて 法 人 格 否 認 の 法 理 に 基 づく 請 求 も 行 ったも のであり 結 果 として 両 請 求 を 棄 却 した 本 判 決 で 注 目 すべきは 詐 害 的 会 社 分 割 における 目 的 要 件 を 認 定 するための 間 接 事 実 を 示 し ている 点 である 本 判 決 は 会 社 分 割 について 目 的 の 要 件 が 推 認 できるのは 1 倒 産 状 況 にないにもかかわらずこれを 偽 装 して 行 われた 2 会 社 分 割 の 内 容 が 実 質 的 にみても 債 権 者 平 等 原 則 の 要 請 に 著 しく 反 する 3 会 社 分 割 の 内 容 が 分 割 会 社 の 債 権 者 に 対 する 配 当 の 見 込 みを 明 らかに 減 少 させる 4 会 社 分 割 の 手 続 において 財 産 状 況 等 について 明 らか に 虚 偽 の 説 明 を 行 った 等 特 段 の 事 情 がある 場 合 というべきである ということを 明 確 に 述 べ た(アンダーラインは 著 者 による) 冒 頭 で 検 討 した 福 岡 地 方 裁 判 所 平 成 23 年 2 月 17 日 判 決 は 2 及 び 3 に 該 当 する 事 実 が 認 められることを 根 拠 に 法 人 格 否 認 の 法 理 の 適 用 を 認 めたといえる 第 5 債 権 回 収 方 法 の 使 い 分 け 1. 方 法 1 の 長 短 裁 判 を 通 じて 債 権 を 回 収 するとなると 請 求 原 因 に 該 当 する 事 実 を 原 告 が 主 張 立 証 しなければ ならない この 点 方 法 1 は 請 求 原 因 事 実 が 客 観 的 要 件 のみで 構 成 されており 主 観 的 要 件 が 存 在 する 方 法 より 主 張 立 証 し 易 い 側 面 がある また 詐 害 的 会 社 分 割 によって 多 くの 財 産 が 移 っ た 新 設 分 割 設 立 会 社 に 対 して 連 帯 債 務 の 請 求 ができることから 金 銭 で 回 収 できる 見 込 みが 高 く かつ 債 権 者 が 有 する 債 権 全 額 の 責 任 追 及 を 新 設 分 割 設 立 会 社 に 請 求 することができる 52
CHUKYO LAWYER Vol. 17 2012 他 方 会 社 法 22 条 1 項 が 有 する 制 度 趣 旨 から 以 下 の 二 つの 制 度 的 限 界 が 認 められる 一 つ 目 は 商 号 ないし 屋 号 を 続 用 しない 場 合 である この 場 合 も 債 権 者 が 信 頼 する 外 観 が 存 在 せず 請 求 原 因 5を 満 たさなくなり 方 法 1 による 請 求 ができなくなる 二 つ 目 は 特 段 の 事 情 が 存 在 (11) する 場 合 である この 場 合 会 社 分 割 に 関 する 被 告 の 主 観 的 な 意 図 等 にかかわらず 原 告 の 債 権 が 新 設 分 割 設 立 会 社 に 承 継 されていないことについて 債 権 者 に 対 する 一 定 程 度 の 説 明 がなされれ ば 債 権 者 が 信 頼 する 外 観 が 存 在 しないことなり 抗 弁 が 成 立 し 請 求 棄 却 となる この 抗 弁 に ついて 最 高 裁 判 所 平 成 20 年 6 月 10 日 判 決 では なお 会 社 分 割 においては 承 継 される 債 権 債 務 等 が 記 載 された 分 割 計 画 書 又 は 分 割 契 約 書 が 一 定 期 間 本 店 に 備 え 置 かれることとなっているが ( 本 件 会 社 分 割 に 適 用 される 旧 商 法 においては 同 法 374 条 2 項 5 号 374 条 の 2 第 1 項 1 号 374 条 の17 第 2 項 5 号 374 条 の18 第 1 項 1 号 ) ゴルフクラブの 会 員 が 本 店 に 備 え 置 かれた 分 割 計 画 書 や 分 割 契 約 書 を 閲 覧 することを 一 般 に 期 待 することはできないので 上 記 判 断 は 左 右 されな い と 述 べている この 一 文 からするとゴルフクラブの 会 員 である 一 般 債 権 者 ではなく 商 人 の ような 者 が 債 権 者 の 場 合 は 計 画 書 の 記 載 をもって 抗 弁 が 成 立 すると 読 むことも 可 能 といえる 余 地 (12) がある しかし 当 該 判 決 が 出 た 後 の 裁 判 例 では 銀 行 から 債 権 を 譲 り 受 けた 合 同 会 社 が 債 権 者 という 事 案 において 被 告 Y 1 が 主 張 する 分 割 計 画 書 の 別 紙 承 継 権 利 義 務 明 細 表 を 本 店 に 備 え 置 いたという 程 度 では 免 責 を 認 めるべき 特 段 の 事 情 とは 到 底 いえない と 述 べていることか ら 一 般 債 権 者 以 外 の 者 との 関 係 でも 単 に 計 画 書 を 閲 覧 可 能 にしただけでは 抗 弁 は 成 立 しない といえる 方 法 1 については 債 権 者 に 対 する 個 別 通 知 という 逃 げ 道 が 存 在 する そのため ゴルフクラ ブの 会 員 のように 債 務 者 側 が 債 権 者 を 特 定 し 個 別 通 知 を 行 うことが 難 しい 事 案 ではない 限 り 現 在 では 詐 害 的 会 社 分 割 の 債 権 回 収 方 法 として 機 能 しにくい 方 法 と 言 わざるを 得 ない (13) 2. 方 法 2 の 長 短 新 設 分 割 を 用 いた 詐 害 的 会 社 分 割 の 場 合 通 常 の 詐 害 行 為 の 認 定 と 比 して 主 観 的 要 件 の 立 証 が 容 易 である さらに 新 設 分 割 を 用 いた 場 合 は 債 務 者 である 新 設 分 割 会 社 に 新 設 分 割 設 立 会 社 の 株 式 が 対 価 として 与 えられるのが 通 常 であることから 前 述 のように 裁 判 例 が 述 べている 理 論 を 使 えば 詐 害 性 の 立 証 も 容 易 となる また 詐 害 的 会 社 分 割 に 対 しては 立 法 担 当 者 も 詐 害 行 為 取 消 権 によるべきとの 見 解 を 出 している 他 方 詐 害 行 為 取 消 権 では 会 社 分 割 行 為 による 財 産 移 転 の 中 で 詐 害 性 のある 部 分 のみが 取 消 しの 対 象 となる その 結 果 被 保 全 債 権 の 額 が 詐 害 行 為 による 財 産 移 転 の 額 を 上 回 る 場 合 そ の 差 額 分 については 詐 害 行 為 取 消 権 では 保 護 されないという 制 度 的 限 界 がある また 詐 害 行 為 取 消 権 の 効 果 の 原 則 は 現 物 返 還 であることから 詐 害 行 為 取 消 権 の 効 果 として 新 設 分 割 設 立 会 社 から 不 動 産 を 新 設 分 割 会 社 に 戻 す 場 合 もある また 移 転 財 産 について 同 判 決 のように 責 任 財 産 の 引 き 当 てが 不 動 産 に 限 られるような 場 合 も 不 動 産 のみが 取 消 しの 対 象 となりかねない そ して 現 物 返 還 の 場 合 に 債 権 者 が 債 務 者 である 新 設 分 割 会 社 から 債 権 を 回 収 するには 競 売 等 を 経 なければならず 金 銭 債 権 の 回 収 方 法 としては 煩 雑 と 言 わざるを 得 ない さらに 詐 害 行 為 取 53
M. Nakamura CHUKYO LAWYER 消 権 の 場 合 は 債 権 の 消 滅 時 効 だけではなく 詐 害 行 為 取 消 権 独 自 の 消 滅 時 効 ( 民 法 426 条 )の 問 題 もある 3. 方 法 3 の 長 短 法 人 格 否 認 の 法 理 の 最 大 の 長 所 は 原 告 である 債 権 者 が 債 務 者 に 対 して 有 する 権 利 をそのまま 主 張 できる 点 である また 新 設 分 割 を 用 いたスキームの 場 合 新 設 分 割 設 立 会 社 の 株 式 が 新 設 分 割 会 社 に 渡 ることが 大 半 であることから 要 件 の 一 つである 支 配 要 件 の 認 定 が 容 易 である 他 方 目 的 要 件 という 主 観 的 要 件 の 認 定 が 最 大 の 争 点 となり そこをクリアしなければならな い また 福 岡 高 等 裁 判 所 平 成 23 年 10 月 27 日 判 決 のような 理 由 づけが 定 着 してしまうと 法 人 格 否 認 の 法 理 の 適 用 が 著 しく 困 難 となるおそれがある (14) 以 上 ( 1 ) 最 一 小 判 昭 和 29 年 10 月 7 日 民 集 8 巻 10 号 1795 頁 最 一 小 判 昭 和 47 年 3 月 2 日 民 集 26 巻 2 号 183 頁 ( 2 ) 最 二 小 判 平 成 16 年 2 月 20 日 民 集 58 巻 2 号 367 頁 ( 3 ) 最 三 小 判 平 成 20 年 6 月 10 日 裁 判 所 時 報 1461 号 225 頁 ( 4 ) 要 件 事 実 を 示 す 際 債 権 者 である 原 告 を X 新 設 分 割 会 社 を A 被 告 である 新 設 分 割 設 立 会 社 を Y とする ( 5 ) 大 連 判 明 治 44 年 3 月 24 日 民 録 17 輯 117 頁 ( 6 ) 大 判 明 治 42 年 6 月 8 日 民 録 15 輯 579 頁 最 三 小 判 昭 和 30 年 10 月 11 日 民 集 9 巻 11 号 1626 頁 ( 7 ) 最 一 小 判 昭 和 54 年 1 月 25 日 民 集 33 巻 1 号 12 頁 最 大 判 昭 和 36 年 7 月 19 日 民 集 15 巻 7 号 1875 頁 ( 8 ) 福 岡 地 方 裁 判 所 平 成 22 年 1 月 14 日 判 決 ( 9 ) 最 二 小 判 昭 和 48 年 10 月 26 日 民 集 27 巻 9 号 1240 頁 (10) この 点 が 存 在 したため 被 告 は 自 身 の 主 張 の 中 で 必 要 があれば 詐 害 行 為 取 消 権 の 行 使 等 の 方 法 も 選 択 できる という 点 に 触 れたと 考 えられる しかし 本 判 決 では 法 人 格 否 認 の 法 理 は 詐 害 行 為 取 消 権 とはその 要 件 及 び 効 果 を 異 にするものであって 詐 害 行 為 取 消 権 が 行 使 できない 場 合 でなければ 法 人 格 否 認 の 法 理 が 適 用 できないこともない と 述 べ 一 蹴 している (11) 大 阪 地 方 裁 判 所 平 成 22 年 7 月 9 日 判 決 名 古 屋 地 方 裁 判 所 平 成 23 年 7 月 22 日 判 決 参 照 (12) 東 京 地 方 裁 判 所 平 成 22 年 11 月 29 日 判 決 (13) 詐 害 的 会 社 分 割 に 対 する 債 権 回 収 の 事 案 で 債 権 者 が 裁 判 を 起 こし かつ 判 決 に 至 るような 事 案 はやり 方 が 強 引 な 事 案 が 多 いため 詐 害 行 為 取 消 権 の 適 用 を 否 定 した 裁 判 例 は 見 当 たらなかっ た そのため 詐 害 行 為 取 消 権 の 主 張 を 行 えば 債 権 者 は 債 権 を 回 収 できるという 現 状 がある そこ で 一 定 程 度 の 歯 止 めも 必 要 となるのではと 考 える (14) 大 阪 地 方 裁 判 所 平 成 22 年 10 月 4 日 判 決 は 旧 Y は 被 告 の 株 式 全 部 を 保 有 している また 乙 山 は 被 告 設 立 時 被 告 の 取 締 役 の 地 位 にあった 以 上 から 支 配 の 要 件 を 充 足 する と 述 べ あっさりと 支 配 要 件 を 認 定 している 54