Economic Trends テーマ: 団 塊 世 代 のリタイアと212 年 問 題 発 表 日 :1 年 5 月 27 日 ( 木 ) ~ 消 費 市 場 への 影 響 と 社 会 保 障 財 政 逼 迫 のインパクト~ 第 一 生 命 経 済 研 究 所 経 済 調 査 部 主 席 エコノミスト 永 濱 利 廣 (3-5221-4531) 副 主 任 エコノミスト 鈴 木 将 之 (3-5221-4547) エコノミスト 梅 崎 知 恵 (3-5221-4573) ( 要 旨 ) 1947 年 から 1949 年 に 生 まれた 団 塊 世 代 が 定 年 を 迎 えはじめることで 27 年 から 経 済 に 大 き な 影 響 が 生 じるといわれてきた しかし 27 年 以 降 の 6 代 前 半 の 労 働 参 加 率 は 急 上 昇 しており 団 塊 世 代 の 多 くは 6 歳 になっても 退 職 せず 働 き 続 けている 団 塊 世 代 は 27~9 年 度 にかけて 毎 年 15 兆 円 以 上 3 年 間 合 計 で 5 兆 円 にも 及 ぶ 退 職 一 時 金 を 受 け 取 ると 見 込 まれていたが 早 期 退 職 や 退 職 一 時 金 の 削 減 等 により 実 際 は 3 兆 円 程 度 にと どまった 団 塊 世 代 の 多 くは 社 会 的 接 触 の 継 続 を 望 んだことや 年 金 不 安 から 働 き 続 けたことに 加 え 7 年 以 降 の 資 源 高 や 株 安 等 もあり 団 塊 消 費 は 期 待 外 れとなった 26 年 時 点 で 6 歳 以 降 の 支 出 が 増 加 していた 費 目 は 保 健 医 療 サービス 健 康 保 持 用 摂 取 品 医 薬 品 といった 保 健 医 療 費 の 他 パック 旅 行 等 の 教 養 娯 楽 サービス 工 事 その 他 サー ビスや 設 備 材 料 といった リフォーム 関 連 自 動 車 等 購 入 であった しかし 年 時 点 では 保 険 医 療 費 や 教 養 娯 楽 サービス 支 出 は 期 待 ほど 増 加 しておらず リフォーム 関 連 や 自 動 車 等 購 入 支 出 はむしろ 減 少 している 一 方 これまでのエコカー 補 助 金 やエコポイントの 政 策 効 果 は 6 代 がけん 引 役 となっている 住 宅 版 エコポイントの 導 入 により 今 後 はリフォーム 関 連 市 場 の 拡 大 も 期 待 される 団 塊 世 代 は 消 費 性 向 や 金 融 資 産 の 水 準 が 高 いことから 個 人 消 費 のけん 引 役 となる 可 能 性 を 秘 めており 団 塊 ジュニア 世 代 の 消 費 性 向 が 低 いことからも 団 塊 消 費 への 期 待 は 大 きい ただし 212 年 度 から 団 塊 世 代 の 公 的 年 金 受 給 が 始 まれば 213~215 年 にかけて 毎 年 2 兆 円 以 上 の 社 会 保 障 費 の 自 然 増 が 見 込 まれる 景 気 に 配 慮 した 上 で 世 代 間 の 負 担 の 偏 りが 小 さい 社 会 保 障 財 源 目 的 の 消 費 税 率 引 き 上 げを 早 急 に 実 施 し 将 来 への 安 心 感 や 信 頼 感 のもてる 社 会 保 障 制 度 を 早 急 に 構 築 することが 求 められる 労 働 市 場 から 退 出 しなかった 団 塊 世 代 1947 年 から 1949 年 に 生 まれた 団 塊 世 代 が 27 年 から 定 年 年 齢 を 迎 え 経 済 面 で 大 きな 影 響 を 与 え ることが 指 摘 されてきた 中 でも 最 も 大 きな 影 響 を 受 けるのは 労 働 市 場 と 言 われ 総 数 の 多 い 団 塊 世 代 が 27 年 から 年 にかけて 労 働 市 場 から 退 出 することにより 企 業 の 新 規 採 用 増 加 などにより 若 年 失 業 の 改 善 が 予 想 された しかし 6 64 歳 人 口 の 労 働 参 加 率 は 27 年 から 急 激 に 上 昇 してお り 多 くの 団 塊 世 代 は 定 年 を 過 ぎても 働 き 続 けている( 資 料 1) この 背 景 には 26 年 4 月 に 改 正 高 年 齢 者 雇 用 安 定 法 が 施 行 され 9 割 の 企 業 が 継 続 雇 用 制 度 や 再 1
雇 用 制 度 を 導 入 したことがある これに 企 業 側 の 人 材 不 足 への 対 応 も 相 まって 高 齢 者 側 も 社 会 的 接 触 の 継 続 や 年 金 不 安 から 就 労 を 望 んだことから 労 働 参 加 率 が 上 昇 したといえる こうした 雇 用 継 続 義 務 化 によって 技 能 や 経 験 が 企 業 内 で 保 持 されるといったプラス 面 があった 一 方 で 新 卒 採 用 を 抑 制 するといったマイナス 面 もあったと 考 えられる 61 6 資 料 1 6-64 歳 の 労 働 力 率 59 58 (%) 57 56 55 54 53 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 21 23 25 27 ( 出 所 ) 総 務 省 資 料 より 第 一 生 命 経 済 研 究 所 作 成 退 職 金 は 予 想 の6 割 一 方 団 塊 世 代 が 定 年 を 迎 えると 主 に2つの 点 から 消 費 市 場 に 質 的 変 化 が 起 きると 予 想 された まず 団 塊 世 代 は 定 年 退 職 に 伴 って 多 くの 退 職 一 時 金 を 受 け 取 るといわれた しかし 内 閣 府 国 民 経 済 計 算 国 立 社 会 保 障 人 口 問 題 研 究 所 将 来 人 口 推 計 等 をもとに 退 職 一 時 金 を 推 計 すれば 団 塊 世 代 が 退 職 する 27~9 年 度 にかけて 毎 年 15 兆 円 以 上 3 年 間 合 計 で 5 兆 円 にも 及 ぶとも 言 わ れていた 退 職 一 時 金 は 3 兆 円 程 度 にとどまったと 見 込 まれる この 背 景 としては 早 期 退 職 者 の 増 加 により 退 職 一 時 金 の 受 給 が 前 倒 しで 行 われたことや 一 人 当 たりの 退 職 一 時 金 が 削 減 されたことが 指 摘 できる ( 兆 円 ) 14 13 12 11 1 9 12.5 11.5 1.6 1.5 資 料 2 退 職 一 時 金 の 推 移 12.8 11.5 1.1 11.2 11. 11.2 11.4 12.1 1.6 11. 1.31.21.1 9.4 9.8 8 1991 1993 1995 1997 1999 21 23 ( 出 所 ) 内 閣 府 9 年 は 総 務 省 資 料 より 筆 者 推 計 25 27 また 定 年 退 職 後 時 間 的 ゆとりを 得 る 団 塊 世 代 は 新 たな 消 費 機 会 が 増 えることから 消 費 市 場 に 大 きな 影 響 を 及 ぼすと 言 われていた 特 に 引 退 後 は 時 間 をとって 旅 行 をする 等 従 前 とは 異 なる 2
消 費 行 動 をとることが 考 えられていた そこで 総 務 省 の 家 計 調 査 を 用 いて 世 帯 主 の 年 齢 が 5 代 後 半 と 6 代 前 半 の 月 平 均 費 目 別 支 出 額 を 比 べてみた 資 料 3は 26 年 時 点 で 6 代 前 半 の 支 出 額 が 相 対 的 に 大 きな 費 目 を 抽 出 したもので ある これを 見 ると 26 年 時 点 の 6 代 前 半 が 5 代 後 半 より 支 出 が 多 かった 費 目 は 保 健 医 療 サービ ス 健 康 保 持 用 摂 取 品 医 薬 品 といった 保 健 医 療 費 の 他 パック 旅 行 等 の 教 養 娯 楽 サービス 工 事 その 他 サービスや 設 備 材 料 といった リフォーム 関 連 自 動 車 等 購 入 であった しかし 年 時 点 では 保 険 医 療 費 や 教 養 娯 楽 サービス 支 出 は 期 待 ほど 増 加 しておらず リフォー ム 関 連 や 自 動 車 等 購 入 支 出 はむしろ 減 少 している 世 代 の 違 いによる 影 響 も 考 えられるが 団 塊 世 代 と 一 つ 上 の 世 代 の 6 代 前 半 を 比 べると 団 塊 世 代 の 方 が 消 費 を 抑 制 している 可 能 性 が 高 い このように 27 年 に 始 まった 団 塊 世 代 の 定 年 で 団 塊 世 代 の 消 費 が 事 前 の 予 想 ほど 盛 り 上 がらな かったといえる 要 因 としては 27 年 以 降 にサブプライムローン 問 題 が 顕 在 化 し 株 価 が 下 落 した ことがある それと 同 時 に 資 源 高 も 悪 影 響 を 及 ぼしたようだ 例 えば 燃 油 サーチャージの 高 騰 によ り 旅 行 が 控 えられ ガソリン 価 格 の 高 騰 で 自 動 車 購 入 が 抑 制 されたことが 想 定 される また 資 材 価 格 の 高 騰 でリフォームも 先 送 りされた 可 能 性 がある そのほか 政 府 が 28 年 3 月 までにやり 遂 げ ると 公 約 していた 宙 に 浮 いた 年 金 記 録 の 特 定 作 業 が 困 難 になったことで 年 金 制 度 への 不 安 が 高 まっ たことも 指 摘 できよう 資 料 3 5 代 後 半 6 代 前 半 の 世 帯 支 出 変 化 額 ( 円 / 月 ) -4-3 -2-1 1 2 3 4 保 健 医 療 サービス パック 旅 行 費 工 事 その 他 のサービス 設 備 材 料 自 動 車 等 購 入 他 の 教 養 娯 楽 サービス 健 康 保 持 用 摂 取 品 医 薬 品 ( 出 所 ) 総 務 省 -2,864-2,268-815 -35 1,17 864 769 721 515 35 245 28 28 3161 2689 2577 6 年 9 年 一 方 で 経 済 対 策 効 果 のけん 引 役 に ただ もう 一 方 で 人 口 の 多 い 団 塊 ジュニア 世 代 の 消 費 が 委 縮 する 中 わが 国 消 費 市 場 の 活 性 化 のた めには 引 き 続 き 団 塊 世 代 の 消 費 に 期 待 するところは 大 きい 資 料 4は 各 世 代 の 消 費 性 向 の 推 移 を 見 たものである これを 比 較 すると 若 い 世 代 になるにつれ て 消 費 性 向 が 低 くなる 傾 向 が 見 て 取 れる 中 でも 団 塊 世 代 は 比 較 的 高 い 消 費 性 向 を 持 つことが 特 徴 であり 一 つ 上 の 世 代 とほぼ 同 じような 推 移 を 辿 ってきた 特 に 55-59 歳 時 における 団 塊 世 代 と 一 つ 上 の 世 代 の 消 費 性 向 を 比 べると 団 塊 世 代 のほうが 高 くなっており 今 後 も 高 い 消 費 意 欲 を 保 つと すれば 積 極 的 な 消 費 支 出 が 期 待 される 世 代 といえる 更 に 団 塊 世 代 は 金 融 資 産 の 水 準 が 高 いことからも 今 後 は 個 人 消 費 のけん 引 役 になる 可 能 性 を 秘 めている 資 料 5は 世 帯 主 年 齢 別 の 金 融 資 産 保 有 額 を 見 たものである 金 融 資 産 保 有 額 を 見 ると 3
年 代 が 上 がるにつれて 高 くなる 傾 向 が 見 て 取 れる 一 方 で 借 入 金 残 高 は 4 代 をピークに 低 下 傾 向 にある 27 年 以 降 の 株 安 で 目 減 りしたことを 考 慮 しても 年 代 別 で 6 代 が 最 高 水 準 の 純 資 産 を 保 有 していることも 消 費 の 裏 づけとなろう (%) 95 9 85 8 75 7 65 ~24 歳 ( 出 所 ) 総 務 省 25~29 歳 資 料 4 世 代 別 消 費 性 向 の 推 移 41~45 年 生 まれ 46~5 年 生 まれ( 団 塊 ) 51~55 年 生 まれ 56~6 年 生 まれ 61~65 年 生 まれ 66~7 年 生 まれ 71~75 年 生 まれ( 団 塊 ジュニア) 76~8 年 生 まれ 3~34 歳 35~39 歳 4~44 歳 45~49 歳 5~54 歳 55~59 歳 6~64 歳 2, 1,5 1, ( 万 円 ) 5-5 資 料 5 世 帯 主 年 齢 別 の 金 融 資 産 保 有 額 ( 年 ) 金 融 資 産 保 有 額 借 入 金 残 高 純 資 産 保 有 額 974 83 771 458 248 361-113 -23-345 1,86 597 489 1,677 1,379 1,415 1,225 262 154 2 歳 代 3 歳 代 4 歳 代 5 歳 代 6 歳 代 7 歳 以 上 ( 出 所 ) 金 融 広 報 中 央 委 員 会 実 際 これまでのエコカー 補 助 金 やエコポイントの 政 策 効 果 は 6 代 がけん 引 役 となってきた 資 料 6は 一 例 としてテレビと 自 動 車 の 世 帯 平 均 支 出 額 の 前 年 比 について 世 帯 主 の 年 齢 別 に 寄 与 度 分 解 したものである いずれも 世 帯 主 が 5 代 以 降 の 中 高 年 世 帯 の 支 出 で 最 近 の 伸 びの 殆 どが 説 明 できる が その 中 でも 団 塊 世 代 が 含 まれる 6 代 の 寄 与 度 が 最 も 大 きいことがわかる 更 に 今 年 度 から 住 宅 版 エコポイントが 導 入 されたことから かつて 期 待 されていた 団 塊 世 代 のリフォーム 関 連 需 要 を 大 きく 促 す 可 能 性 もあろう 資 料 6 世 帯 あたり 支 出 額 の 世 帯 主 年 代 別 寄 与 度 分 解 ( 前 年 比 %) テレビ 1 ~29 歳 3~39 歳 8 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳 ~ 6 平 均 4 2-2 ( 前 年 比 %) 5 4 3 2 1-1 -2-3 自 動 車 ~29 歳 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳 ~ 平 均 28 21 28 21 ( 出 所 ) 総 務 省 家 計 消 費 状 況 調 査 団 塊 世 代 の 年 金 需 給 で 毎 年 2 兆 円 以 上 の 社 会 保 障 費 増 以 上 より 27 年 問 題 とされてきた 団 塊 世 代 の 退 職 は 団 塊 世 代 が 65 歳 を 迎 える 212 年 以 降 に 本 格 化 するといえよう しかし 65 歳 から 公 的 年 金 が 支 給 されることからすれば 212 年 度 から 社 会 保 障 財 政 が 急 速 に 悪 化 することも 想 定 される 年 金 だけではなく 団 塊 世 代 の 高 齢 化 に 伴 ってより 多 くの 医 療 費 や 介 護 費 がかかることもその 理 由 として 挙 げられる 事 実 内 閣 府 国 民 経 済 計 算 国 立 社 会 保 障 人 口 問 題 研 究 所 将 来 人 口 推 計 等 をもとに 社 会 保 4
障 費 の 増 加 額 を 推 計 1 すると 団 塊 世 代 の 年 金 受 給 が 本 格 化 する 213~215 年 にかけて 毎 年 2 兆 円 以 上 の 新 たな 社 会 保 障 費 の 自 然 増 が 見 込 まれる( 資 料 7) これは 団 塊 世 代 の 社 会 保 障 給 付 につい て 毎 年 消 費 税 率 1% 分 に 近 い 新 たな 財 源 が 必 要 となることを 意 味 する また こうしたことで 将 来 の 社 会 保 障 への 不 安 が 更 に 高 まれば 団 塊 世 代 の 消 費 拡 大 効 果 が 限 定 的 になる 可 能 性 もあろう 従 って 景 気 に 配 慮 2 した 上 で 世 代 間 の 負 担 の 偏 りが 小 さい 社 会 保 障 財 源 目 的 の 消 費 税 率 引 き 上 げ を 早 急 に 実 施 し 将 来 への 安 心 感 や 信 頼 感 のもてる 社 会 保 障 制 度 を 早 急 に 構 築 することが 求 められる ( 兆 円 ) 資 料 7 人 口 動 態 から 見 た 社 会 保 障 費 増 加 額 3. 2.5 2. 1.5 2.7 2.7 2.4 1. 1.5 1.6 1.9 1.5.5.9 1.1.8.6. 21 211 212 213 214 215 216 217 218 219 22 ( 出 所 ) 内 閣 府 総 務 省 第 一 生 命 経 済 研 究 所 1 社 会 保 障 費 を 年 金 医 療 介 護 の3つに 分 類 し 将 来 推 計 人 口 ( 中 位 推 計 )にあわせて 推 計 した このうち 医 療 費 は 世 代 によって 大 きく 異 なるため -14 歳 15-64 歳 65 歳 以 上 の3つの 世 代 毎 に 平 均 医 療 費 に 人 口 を 乗 じた こ こで 対 象 とした 医 療 費 には 国 民 健 康 保 険 組 合 管 掌 健 康 保 険 全 国 健 康 保 険 協 会 高 齢 者 医 療 などの 給 付 が 含 まれて いる また 年 金 については 国 民 年 金 厚 生 年 金 共 済 組 合 ( 国 家 地 方 公 務 員 その 他 )を 対 象 にし 介 護 保 険 と 同 様 に 65 歳 以 上 の 推 計 人 口 の 動 向 に 比 例 するように 分 類 した 2 詳 細 は 第 一 生 命 経 済 研 究 所 Economic Trends 消 費 税 引 き 上 げの 影 響 (21 年 4 月 2 日 ) (http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/naga_index.html) 参 照 5