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預 金 を 確 保 しつつ 資 金 調 達 手 段 も 確 保 する 収 益 性 を 示 す 指 標 として 営 業 利 益 率 を 採 用 し 営 業 利 益 率 の 目 安 となる 数 値 を 公 表 する 株 主 の 皆 様 への 還 元 については 持 続 的 な 成 長 による 配 当 可

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学校安全の推進に関する計画の取組事例

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 役 名 法 人 の 長 理 事 理 事 ( 非 常 勤 ) 平 成 25 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 16,936 10,654 4,36

●幼児教育振興法案

1 林 地 台 帳 整 備 マニュアル( 案 )について 林 地 台 帳 整 備 マニュアル( 案 )の 構 成 構 成 記 載 内 容 第 1 章 はじめに 本 マニュアルの 目 的 記 載 内 容 について 説 明 しています 第 2 章 第 3 章 第 4 章 第 5 章 第 6 章 林 地

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自衛官俸給表の1等陸佐、1等海佐及び1等空佐の(一)欄又は(二)欄に定める額の俸給の支給を受ける職員の占める官職を定める訓令

定款

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Microsoft Word 行革PF法案-0概要

公 的 年 金 制 度 について 制 度 の 持 続 可 能 性 を 高 め 将 来 の 世 代 の 給 付 水 準 の 確 保 等 を 図 るため 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 るための 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 に 基 づく 社 会 経 済 情

(5 ) 当 該 指 定 居 宅 介 護 事 業 所 の 新 規 に 採 用 し た 全 て の 居 宅 介 護 従 業 者 に 対 し 熟 練 し た 居 宅 介 護 従 業 者 の 同 行 に よ る 研 修 を 実 施 し て い る こ と (6 ) 当 該 指 定 居 宅 介 護 事 業

代 議 員 会 決 議 内 容 についてお 知 らせします さる3 月 4 日 当 基 金 の 代 議 員 会 を 開 催 し 次 の 議 案 が 審 議 され 可 決 承 認 されました 第 1 号 議 案 : 財 政 再 計 算 について ( 概 要 ) 確 定 給 付 企 業 年 金 法 第

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社会保険加入促進計画に盛込むべき内容

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6 構 造 等 コンクリートブロック 造 平 屋 建 て4 戸 長 屋 16 棟 64 戸 建 築 年 1 戸 当 床 面 積 棟 数 住 戸 改 善 後 床 面 積 昭 和 42 年 36.00m m2 昭 和 43 年 36.50m m2 昭 和 44 年 36.

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頸 がん 予 防 措 置 の 実 施 の 推 進 のために 講 ずる 具 体 的 な 施 策 等 について 定 めることにより 子 宮 頸 がんの 確 実 な 予 防 を 図 ることを 目 的 とする ( 定 義 ) 第 二 条 この 法 律 において 子 宮 頸 がん 予 防 措 置 とは 子 宮

目 次 表 紙... 1 目 次... 2 改 訂 記 録 目 的 対 象 製 造 部 門 品 質 部 門 組 織 PET 薬 剤 製 造 施 設 ( 施 設 長 )の 責 務 製 造 管 理 者 の 責 務... 7

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(2)大学・学部・研究科等の理念・目的が、大学構成員(教職員および学生)に周知され、社会に公表されているか

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参 考 様 式 再 就 者 から 依 頼 等 を 受 けた 場 合 の 届 出 公 平 委 員 会 委 員 長 様 年 月 日 地 方 公 務 員 法 ( 昭 和 25 年 法 律 第 261 号 ) 第 38 条 の2 第 7 項 規 定 に 基 づき 下 記 のとおり 届 出 を します この

(2) 検 体 採 取 に 応 ずること (3) ドーピング 防 止 と 関 連 して 自 己 が 摂 取 し 使 用 するものに 責 任 をもつこと (4) 医 師 に 禁 止 物 質 及 び 禁 止 方 法 を 使 用 してはならないという 自 己 の 義 務 を 伝 え 自 己 に 施 される

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平 成 27 年 11 月 ~ 平 成 28 年 4 月 に 公 開 の 対 象 となった 専 門 協 議 等 における 各 専 門 委 員 等 の 寄 附 金 契 約 金 等 の 受 取 状 況 審 査 ( 別 紙 ) 専 門 協 議 等 の 件 数 専 門 委 員 数 500 万 円 超 の 受

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新 行 財 政 改 革 推 進 大 綱 実 施 計 画 個 票 取 組 施 策 国 や 研 究 機 関 への 派 遣 研 修 による 資 質 向 上 の 推 進 鳥 インフルエンザ 等 新 たな 感 染 症 等 に 対 する 検 査 技 術 の 習 得 など 職 員 の 専 門

為 が 行 われるおそれがある 場 合 に 都 道 府 県 公 安 委 員 会 がその 指 定 暴 力 団 等 を 特 定 抗 争 指 定 暴 力 団 等 として 指 定 し その 所 属 する 指 定 暴 力 団 員 が 警 戒 区 域 内 において 暴 力 団 の 事 務 所 を 新 たに 設

〔自 衛 隊〕

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2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

(2) 地 域 の 実 情 に 応 じた 子 ども 子 育 て 支 援 の 充 実 保 育 の 必 要 な 子 どものいる 家 庭 だけでなく 地 域 の 実 情 に 応 じた 子 ども 子 育 て 支 援 の 充 実 のために 利 用 者 支 援 事 業 や 地 域 子 育 て 支 援 事 業 な

スライド 1

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1 特 別 会 計 財 務 書 類 の 検 査 特 別 会 計 に 関 する 法 律 ( 平 成 19 年 法 律 第 23 号 以 下 法 という ) 第 19 条 第 1 項 の 規 定 に 基 づき 所 管 大 臣 は 毎 会 計 年 度 その 管 理 する 特 別 会 計 について 資 産

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ていることから それに 先 行 する 形 で 下 請 業 者 についても 対 策 を 講 じることとしまし た 本 県 としましては それまでの 間 に 未 加 入 の 建 設 業 者 に 加 入 していただきますよう 28 年 4 月 から 実 施 することとしました 問 6 公 共 工 事 の

は 固 定 流 動 及 び 繰 延 に 区 分 することとし 減 価 償 却 を 行 うべき 固 定 の 取 得 又 は 改 良 に 充 てるための 補 助 金 等 の 交 付 を 受 けた 場 合 にお いては その 交 付 を 受 けた 金 額 に 相 当 する 額 を 長 期 前 受 金 とし

03 平成28年度文部科学省税制改正要望事項

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02【発出】280328福島県警察職員男女共同参画推進行動計画(公表版)

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(4) ラスパイレス 指 数 の 状 況 ( 各 年 4 月 1 日 現 在 ) ( 例 ) ( 例 ) 15 (H2) (H2) (H24) (H24) (H25.4.1) (H25.4.1) (H24) (H24)

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国 家 公 務 員 の 年 金 払 い 退 職 給 付 の 創 設 について 検 討 を 進 めるものとする 平 成 19 年 法 案 をベースに 一 元 化 の 具 体 的 内 容 について 検 討 する 関 係 省 庁 間 で 調 整 の 上 平 成 24 年 通 常 国 会 への 法 案 提

者 が 在 学 した 期 間 の 年 数 を 乗 じて 得 た 額 から 当 該 者 が 在 学 した 期 間 に 納 付 すべき 授 業 料 の 総 額 を 控 除 した 額 を 徴 収 するものとする 3 在 学 生 が 長 期 履 修 学 生 として 認 められた 場 合 の 授 業 料 の

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別 紙

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する ( 評 定 の 時 期 ) 第 条 成 績 評 定 の 時 期 は 第 3 次 評 定 者 にあっては 完 成 検 査 及 び 部 分 引 渡 しに 伴 う 検 査 の 時 とし 第 次 評 定 者 及 び 第 次 評 定 者 にあっては 工 事 の 完 成 の 時 とする ( 成 績 評 定

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就 業 規 則 ( 福 利 厚 生 ) 第 章 福 利 厚 生 ( 死 亡 弔 慰 金 等 ) 第 条 法 人 が 群 馬 県 社 会 福 祉 協 議 会 民 間 社 会 福 祉 施 設 等 職 員 共 済 規 程 に 基 づき 群 馬 県 社 会 福 祉 協 議 会 との 間 において 締 結 す

4 承 認 コミュニティ 組 織 は 市 長 若 しくはその 委 任 を 受 けた 者 又 は 監 査 委 員 の 監 査 に 応 じなければ ならない ( 状 況 報 告 ) 第 7 条 承 認 コミュニティ 組 織 は 市 長 が 必 要 と 認 めるときは 交 付 金 事 業 の 遂 行 の

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共 通 認 識 1 官 民 較 差 調 整 後 は 退 職 給 付 全 体 でみて 民 間 企 業 の 事 業 主 負 担 と 均 衡 する 水 準 で あれば 最 終 的 な 税 負 担 は 変 わらず 公 務 員 を 優 遇 するものとはならないものであ ること 2 民 間 の 実 態 を 考

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研 究 ノート 青 山 ローフォーラム 第 5 巻 第 1 号 2016 年 7 月 ドイツ 語 圏 と 中 国 の 刑 事 施 設 における 内 観 法 利 用 の 歴 史 的 経 緯 と 現 状 について 土 ヶ 内 一 貴 Ⅰ.はじめに 内 観 法 は 自 らを 見 つめる 修 養 法 として 日 本 で 生 まれ 他 に 類 を 見 ない 独 特 の 手 法 と 効 果 の 点 で 海 外 の 関 心 を 集 めてきた 内 観 法 が 本 格 的 にヨーロッパで 今 日 ある 形 で 導 入 されていったのは 1980 年 石 井 光 によってであった また 行 刑 機 関 に 対 して 石 井 光 やゲラルド = シュタインケ(Gerald Steinke)の 尽 力 によってニーダーザク セン 州 を 中 心 とするドイツ 行 刑 オーストリア 行 刑 の 中 に 矯 正 処 遇 法 の 一 つとして 定 着 していった ドイツ 語 圏 の 刑 事 施 設 の 中 に 内 観 法 が 定 着 して 10 年 後 今 度 は 中 国 で 内 観 法 への 関 心 が 徐 々に 高 まり 北 京 刑 事 施 設 で 試 験 的 な 内 観 研 修 施 行 を 経 て 現 在 中 国 の 刑 事 施 設 の 中 に 内 観 法 が 広 く 取 り 入 れられようとしている 本 稿 では 内 観 法 が 各 国 に 普 及 していった 簡 単 な 経 緯 と 処 遇 法 としての 内 観 法 が 刑 事 施 設 で 利 用 されるに 至 った 歴 史 的 展 開 について 端 的 にまとめている また 本 稿 は 青 山 学 院 大 学 判 例 研 究 所 重 点 課 題 研 究 プロジェクト ヨーロッパ 及 び 中 国 の 刑 事 施 設 における 処 遇 技 法 としての 内 観 法 の 現 状 と 課 題 の 研 究 成 果 報 告 である そし てプロジェクトの 補 助 金 によって 2014 年 にドレスデンで 行 われた 第 10 回 内 観 国 際 会 議 に 出 席 して 諸 報 告 に 接 し また 2015 年 春 と 2016 年 春 に 上 海 内 観 研 修 所 を 訪 問 した このときにスタン=トン 氏 ウェイ=シウェイ 氏 スー=シャオミン 氏 へ のインタビューを 行 い これらに 基 づいて 本 稿 は 書 かれている 世 界 中 の 内 観 関 係 者 の 尽 力 によって 内 観 法 は 多 分 野 に 渡 って 活 用 されているが 本 稿 では 特 に 刑 事 1

青 山 ローフォーラム 第 5 巻 第 1 号 司 法 関 連 に 絞 って 報 告 する Ⅱ. ドイツの 刑 事 施 設 における 内 観 法 の 導 入 過 程 ⅰ.ドイツ 語 圏 への 内 観 法 の 導 入 内 観 研 修 がドイツ 語 圏 で 初 めて 行 われたのは 1980 年 で オーストリアのニーダー エーステライヒ 州 シャイプスにおいてであった ここではフランツ=リッター (Franz Ritter) 主 催 の 元 で 5 名 のヨーロッパ 人 が 内 観 研 修 を 受 けた 1) このとき 面 接 を 担 当 したのは 石 井 光 で 主 催 のフランツ=リッターも 同 時 に 内 観 研 修 を 体 験 し た 2) この 時 まで 内 観 法 は 日 本 特 有 の 手 法 であり 日 本 文 化 になじまない 人 たちに は 効 果 が 薄 いと 考 える 者 もいたが このシャイプスでの 内 観 研 修 によって 内 観 は 日 本 文 化 にのみ 親 和 的 な 手 法 というわけではなく 国 際 文 化 的 にも 有 用 な 手 法 で あるということが 証 明 され 3) た シャイプスでの 内 観 研 修 は 個 人 の 主 催 によって 始 められたが ドイツ 語 圏 で 内 観 法 の 利 用 が 広 まりはじめてから 刑 事 施 設 で 特 定 の 矯 正 プログラムとして 採 用 されるまでにはかなり 長 い 年 月 が 経 過 している 海 外 の 刑 事 施 設 で 内 観 法 が 初 めて 利 用 されたのは 1976 年 オルデンブルグ 州 フェ ヒタ 刑 事 施 設 においてであった しかしこの 時 の 内 観 研 修 は 篤 志 面 接 員 であった ロター=フィンクバイナー(Lothar Finkbeiner) 牧 師 4) が 個 人 的 な 司 牧 活 動 として 面 接 を 行 っており 刑 事 施 設 で 行 われる 矯 正 プログラムの 一 つとして 行 われたわけ ではなかった この 後 も 例 えば 1986 年 にオーバーエーステライヒ 州 のエーレンホ フ 薬 物 依 存 施 設 で 薬 物 依 存 治 療 プログラムの 一 つとして 内 観 法 が 導 入 され 重 要 な 手 法 として 重 視 されるようになったり ウィーンのボーディングバッハにある 内 気 道 指 圧 学 校 では 指 圧 師 になるための 職 業 訓 練 学 校 の 教 育 課 程 の 一 つに 内 観 法 が 取 り 入 れられている 等 民 間 の 施 設 においては 内 観 法 が 利 用 されていたが 刑 事 施 設 で 内 観 法 が 利 用 されるのはより 後 のことであった 1995 年 にはヨゼフ=ハル 1) Sabine Kaspari/Margit Lendawitsch/Franz Ritter, Naikan Eintauchen ins Sein 50 Jahre Methode Naikan Neue Wege zu sich selbst finden, Norderstedt, 2015, S.299. 2) Bindzus,Dieter/Ishii Akira, Strafvollzug in Japan, Köln, u.a.1977, 76. 3) Kaspari/Lendawitsch/Ritter, 前 掲 注 (1)S.300. 4) フィンクバイナーは2006 年 から 南 アフリカ 連 邦 の 最 重 備 刑 事 施 設 で 定 期 的 に 内 観 研 修 を 行 っている 2

ドイツ 語 圏 と 中 国 の 刑 事 施 設 における 内 観 法 利 用 の 歴 史 的 経 緯 と 現 状 について テル(Josef Hartl)とフランツ=リッターにより オーストリアのゲラスドルフ 少 年 刑 務 所 で 内 観 研 修 が 行 われ 2005 年 と 2006 年 にも 内 観 研 修 が 行 われた 5) このよ うにして 内 観 法 の 利 用 は 内 観 法 が 初 めて 伝 えられてから 徐 々に 拡 大 していき 現 在 ドイツに 4 か 所 オーストリアに 5 か 所 の 内 観 研 修 所 が 作 られている 6) ⅱ.ドイツの 刑 事 施 設 (JVA)への 内 観 法 の 導 入 ドイツにおいて 内 観 法 が 矯 正 プログラムの 一 つとして 取 り 入 れられるように なったのは 2003 年 のことである ニーダーザクセン 州 矯 正 局 長 であるモニカ=シュ タインヒルパー(Monika Steinhilper)は 当 時 のニーダーザクセン 州 司 法 大 臣 ク リスティアーン=ファイファー(Christian Pfeiffer)の 指 示 により 2001 年 タル ムシュテット 内 観 研 修 所 長 のゲラルド=シュタインケのもとで 内 観 研 修 を 受 け た 7) シュタインヒルパーの 体 験 を 受 けて 2001 年 ニーダーザクセン 州 司 法 省 は 内 観 法 の 効 果 がドイツの 受 刑 者 に 対 しても 効 果 があるのか 否 かを 確 認 するために ゲラルド=シュタインケに 対 して 2001 年 12 月 17 日 から 23 日 までリンゲン 刑 事 施 設 で 4 人 の 施 設 職 員 とともに 計 11 名 の 男 性 受 刑 者 を 対 象 として 試 験 的 プロジェ クトを 行 うよう 命 じた 8) このプロジェクトにはブレーメン 総 合 大 学 所 属 ブレーメ ン 刑 事 政 策 研 究 所 (BRIK)のビルギッタ=コルテ(Bilgitta Kolte)が 学 術 研 究 員 として 同 行 し 学 術 的 調 査 を 行 った この 時 の 結 果 をコルテは 内 観 体 験 者 が 経 験 5) Kaspari/Lendawitsch/Ritter, 前 掲 注 (1)S.299. 6) ドイツ 国 内 で 定 期 的 に 内 観 研 修 を 行 っている 内 観 研 修 所 はタルムシュテット 内 観 研 修 所 ( 所 長 :ドーリ=シュタインケ) ドレスデンISISGmbH( 所 長 :アルミン=モーリッ ヒ) バイエルンの 森 内 観 研 修 所 ( 所 長 :ザビーネ=カスパリ) ヴァルテンベルグ 内 観 研 修 所 ( 所 長 :イングリッド=シュテンペル) オーストリア 国 内 では ザルツブルグ 内 観 研 修 所 ( 所 長 :ローランド=ディック) ノイエヴェルト( 所 長 :フランツ=リッタ ー) オーバーエーステライヒ 内 観 研 修 所 ( 所 長 :エルンスト=ストッキンガー) イン サイトヴォイス 内 観 研 修 所 ( 所 長 :ヨハンナ=シュー) 内 観 ハウス(ヘルガ=ハルテル) がある 2016 年 にタイで 初 となる 内 観 研 修 が 実 施 されたが タイのバンコク 内 観 研 修 所 はオーバ ーエーステライヒ 内 観 研 修 所 の 内 装 を 模 して 造 られている 7) Kaspari/Lendawitsch/Ritter, 前 掲 注 (1)S.303. 8) Beck Jonathan, Naikan im Strafvollzug "Jeder will was wissen, aber keiner wills so richtig glauben", Freiburg, 2012, S.33. 3

青 山 ローフォーラム 第 5 巻 第 1 号 したものは 極 めて 意 義 あるものである 9) と 結 論 付 け 報 告 している 10) このプロジェ クトの 結 果 を 受 けて ニーダーザクセン 州 司 法 省 は 内 観 法 を 学 術 的 な 内 容 を 伴 った 再 社 会 化 プログラムの 一 つとして 利 用 することを 決 定 し 2003 年 ブラウンシュバ イク 刑 事 施 設 で 正 式 なプログラムとして 内 観 法 が 行 われた 2005 年 にはブラウン シュバイク 刑 事 施 設 のパイネ 支 所 に 内 観 法 を 行 うための 専 用 棟 が 設 立 され 内 観 セ ンターとして 内 観 研 修 だけでなく 職 員 研 修 の 施 設 としても 利 用 されている そして 2010 年 内 観 センターはハノーヴァーのゼーンデ 刑 事 施 設 へと 移 転 し ニーダーザ クセン 州 全 体 の 内 観 研 修 をゼーンデの 内 観 センターで 引 き 受 けている ここの 内 観 センターには 内 観 を 体 験 した 施 設 職 員 が 常 駐 し センターの 1 画 には 内 観 研 修 のた めだけの 居 室 が 10 部 屋 確 保 されている 11) この 内 観 センターのシステムは 後 に 中 国 の 刑 事 施 設 でも 面 接 者 養 成 センターとして 取 り 入 れられ 職 員 研 修 と 内 観 研 修 の 場 として 重 要 な 役 割 を 果 たしている このシステムは 2013 年 に 中 国 の 北 京 監 獄 管 理 局 の 使 節 団 が ドイツのニーダーザクセン 州 とオーストリアの 刑 事 施 設 を 訪 れ た 際 に 中 国 使 節 団 が 見 学 しており 同 時 に 刑 事 施 設 への 内 観 法 導 入 を 図 るために 運 用 状 況 や 人 事 の 配 分 職 員 研 修 状 況 等 を 調 査 している 現 在 中 国 北 京 刑 事 施 設 にあ る 内 観 センターと 面 接 者 養 成 システムは この 時 の 訪 問 を 機 としたドイツ オース トリア 式 のものが 踏 襲 されていると 考 えられる また 各 刑 事 施 設 における 内 観 法 の 利 用 状 況 を 報 告 しあったり 内 観 経 験 者 の 体 験 報 告 や 内 観 法 の 研 究 報 告 を 行 う 集 会 である 内 観 フォーラムが 2008 年 に 第 1 回 内 9) Bilgitta Kolte, Naikan Weg der Selbsterkenntnis im Kontext von Resozialisierung, Bremer Institut für Kriminalpolitik, Bremen, 2002, S.43. 10) この 点 につき 詳 細 は 土 ヶ 内 一 貴 日 本 の 刑 事 施 設 処 遇 における 内 観 法 再 導 入 の 検 討 ドイツ 行 刑 を 参 考 に (2) 青 山 ローフォーラム 第 2 巻 第 2 号 37 頁 参 照 ここで 行 われた 学 術 調 査 の 結 果 は 中 国 が 内 観 法 の 導 入 を 検 討 する 際 に 資 料 として 一 部 引 用 されている その 他 の 資 料 としてNicole Ansorge, Naikan - Stand der Dinge, in: Forum Strafvollzug, 59, 2010, S.223.がある この 資 料 は 従 来 の 研 究 に 加 えて 内 観 研 修 1 週 間 前 内 観 研 修 1 週 間 後 内 観 研 修 終 了 6か 月 後 のそれぞれに 対 してどのような 変 化 があったかをデータ 化 している 結 果 は 研 修 終 了 後 6か 月 目 で 研 修 の 効 果 が 小 さくなる どころか 研 修 終 了 直 後 よりも 大 きな 効 果 が 表 れており この 点 が 内 観 法 と 他 の 処 遇 法 と 異 なる 点 であると 考 えられ 注 目 すべきである このデータも 簡 潔 にではあるが 中 国 にも 紹 介 されている 11) Gerhard Dierks, Strafvollzug, in:naikan Eintauchen Ins Sein 50 Jahre Methode Naikan Neue Wege zu sich selbst finden, Norderstedt, 2015, S.247. 4

ドイツ 語 圏 と 中 国 の 刑 事 施 設 における 内 観 法 利 用 の 歴 史 的 経 緯 と 現 状 について 観 フォーラムとしてニーダーザクセン 州 レーブルグ = ロックムで 開 かれ 2012 年 に 第 2 回 がニーダーザクセン 州 ツェレで 行 われる 等 行 刑 施 設 内 での 内 観 法 に 関 す る 情 報 交 換 も 活 発 である 12) 現 在 のところ ドイツ 国 内 でツェレ 刑 事 施 設 のほかに 内 観 法 が 他 の 処 遇 法 と 並 ん で 社 会 治 療 として 提 供 されているのは 以 下 の 10 か 所 である ニーダーザクセン 州 のブラウンシュヴァイク ツェレ ハーメルン ゼーンデ(ハノーヴァー) リ ンゲン ロスドルフ(ゲッティンゲン) フェヒタ ウェルツェンの 各 刑 事 施 設 と さらにラインラント プファルツ 州 のルートヴィヒスハーフェン 刑 事 施 設 ザクセ ン 州 のドレスデン 刑 事 施 設 ( 女 性 課 )の 計 10 施 設 である 13) また 2012 年 にツェレ で 行 われた 第 2 回 内 観 フォーラムによれば ニーダーザクセン 州 以 外 の 州 で 内 観 法 を 行 刑 に 導 入 している 州 は ヘッセン 州 ラインラント プファルツ 州 バーデン ヴュルテンベルク 州 ザクセン 州 と 報 告 されており さらにメークレンベルク フォ アポンメルン 州 バイエルン 州 ノルトライン ヴェストファーレン 州 といった 州 が 興 味 深 い 処 遇 法 であるとして 内 観 法 の 動 向 に 関 心 をもっている 14) Ⅲ. 中 国 の 刑 事 施 設 における 内 観 法 の 導 入 ⅰ. 内 観 法 が 心 理 教 育 手 法 として 採 用 されるまで 現 在 中 国 全 土 の 刑 事 施 設 のうち 内 観 法 が 導 入 されている 刑 事 施 設 は 北 京 第 一 刑 事 施 設 北 京 第 三 刑 事 施 設 新 疆 第 一 刑 事 施 設 の 3 か 所 である これらの 刑 事 施 設 の 中 に 内 観 法 が 導 入 されるにあたって 教 育 处 と 北 京 監 獄 管 理 局 の 職 員 が 中 心 的 な 役 割 を 担 って 推 進 してきた この 教 育 处 は 国 家 全 体 の 刑 事 施 設 の 処 遇 内 容 や 刑 事 政 策 を 決 定 する 機 関 で 同 時 に 刑 事 施 設 職 員 教 育 を 担 っている 機 関 でもある 中 国 の 刑 事 施 設 で 行 われている 処 遇 は 4 つの 種 類 に 分 かれており 1 管 理 2 労 働 3 教 育 4 心 理 に 大 別 できる 1 管 理 とは 受 刑 者 の 施 設 内 における 規 律 訓 練 や 出 所 12) Kaspari/Lendawitsch/Ritter, 前 掲 注 (1)S.304. 13) Johannes Wohlschlegel, Prävention und Rehabilitation im Strafvollzug - Die Naikan Methode, Mecklenburg-Vorpommern,2012, S.25.この 資 料 の 全 訳 は 土 ヶ 内 一 貴 訳 青 山 ロ ーフォーラム 第 1 巻 第 2 号 参 照 14) Jonathan, 前 掲 注 (8)S.34. 5

青 山 ローフォーラム 第 5 巻 第 1 号 後 に 社 会 の 規 則 や 法 律 を 遵 守 できるようにするための 訓 練 で 主 として 刑 事 施 設 の 安 全 な 管 理 運 営 を 目 的 とした 教 育 である 2 労 働 とは 日 本 でいう 刑 務 作 業 のこと で 施 設 内 で 一 定 の 作 業 を 行 う 3 教 育 は 職 業 訓 練 と 学 科 教 育 の 2 つにわかれ 職 業 訓 練 は 出 所 後 安 定 した 職 業 につけるようにするため 資 格 や 能 力 を 獲 得 する 機 会 と 学 習 場 所 を 提 供 する 教 育 である 学 科 教 育 は 最 低 限 度 の 学 校 教 育 を 身 に 着 けるた めに 提 供 される 教 育 である 4 心 理 が 内 観 法 の 導 入 と 深 く 関 係 しているもので 心 理 教 育 が 行 われる 心 理 教 育 は 1970 年 後 半 の 文 化 大 革 命 終 了 まで 心 理 学 と いう 学 問 分 野 がそもそも 中 国 国 内 では 学 問 として 認 められておらず 中 国 の 矯 正 教 育 の 中 には 存 在 していなかった しかし 1980 年 代 後 半 に 入 り 心 理 学 の 重 要 性 が 再 認 識 されるようになり 人 間 の 行 動 の 背 景 には 心 理 的 影 響 があると 学 者 や 専 門 家 が 再 び 唱 えるようになった そして 国 や 司 法 局 も 徐 々にそれを 認 めはじめ 政 策 に 反 映 するようになっていった 現 在 は 精 神 衛 生 法 の 中 で 心 理 衛 生 の 概 念 が 認 め られている そして 現 在 の 中 国 では 全 刑 事 施 設 職 員 のうち 一 定 の 割 合 の 職 員 が 心 理 カウンセラーの 資 格 ( 中 国 労 働 社 会 保 障 部 の 主 催 する 試 験 をパスする 必 要 がある) を 持 つ 専 門 の 技 官 でなければならないという 政 策 が 採 用 されている 現 在 中 国 の 刑 事 施 設 の 中 では 心 理 教 育 を 反 映 させるための 設 備 としてカウンセリングセンター 音 楽 ストレス 解 放 ルーム 心 理 学 的 深 化 へのアセスメントルームが 存 在 する 北 京 の 刑 事 施 設 では 職 員 の 10% が 心 理 カウンセラーの 資 格 を 持 っており 北 京 の どの 刑 事 施 設 にも 心 理 センターが 設 置 され カウンセラーの 資 格 を 持 った 心 理 職 員 が 5 名 常 駐 している 心 理 カウンセラーの 資 格 は 一 定 期 間 ごとに 更 新 が 必 要 で 資 格 習 得 後 も 訓 練 を 受 ける 義 務 があり 心 理 センターで 矯 正 教 育 手 法 として 採 用 され ている 心 理 劇 (サイコドラマ) 絵 画 療 法 (アートセラピー) 心 理 学 と 仏 教 を 合 わ せた 独 自 の 手 法 正 念 (マインドフルネス)といった 手 法 を 駆 使 できるよう 職 員 は 訓 練 されている 2000 年 頃 司 法 局 は 上 記 の 手 法 のほかに より 効 果 的 な 心 理 教 育 手 法 の 導 入 を 検 討 するようになり 新 しい 手 法 の 調 査 研 究 を 行 うよう 教 育 处 に 指 令 を 出 した 内 観 法 はこの 過 程 の 中 で 新 しい 心 理 教 育 手 法 の 一 つとして 北 京 教 育 訓 練 所 に 持 ち 込 まれ その 由 来 や 根 拠 刑 事 施 設 内 で 利 用 することができるか 否 か 等 が 検 討 され た 結 果 北 京 監 獄 管 理 局 が 採 用 し 北 京 刑 事 施 設 に 導 入 されることとなった 6

ドイツ 語 圏 と 中 国 の 刑 事 施 設 における 内 観 法 利 用 の 歴 史 的 経 緯 と 現 状 について ⅱ. 北 京 監 獄 管 理 局 に 内 観 法 が 紹 介 されるようになったきっかけ 中 国 行 刑 で 内 観 法 が 利 用 される 最 初 のきっかけとなったのは 現 上 海 内 観 研 修 所 長 のスタン=トンが 日 本 の 信 州 内 観 研 修 所 で 内 観 法 を 体 験 したことである トンは 自 身 の 内 観 体 験 から 内 観 法 に 強 い 関 心 を 持 つようになり 中 国 においても 内 観 法 が 利 用 できるようにならないかと 企 図 するようになった そこで 内 観 法 の 存 在 を 中 国 内 に 紹 介 し 学 術 的 に 研 究 するために 自 身 が 主 催 した 上 海 内 観 研 修 所 における 第 二 期 内 観 研 修 で 上 海 の 各 大 学 の 心 理 学 主 任 教 授 を 内 観 研 修 に 招 待 し 複 数 人 の 大 学 教 授 が 信 州 内 観 研 修 所 長 の 中 野 節 子 と 石 井 光 の 面 接 の 下 で 内 観 法 を 体 験 した こ の 時 の 内 観 研 修 を 受 けた 中 の 一 人 に 復 旦 大 学 の 心 理 学 主 任 教 授 である 孫 時 進 教 授 がいた 孫 教 授 は 自 身 の 体 験 をきっかけに 中 国 最 大 のカウンセラー 養 成 会 社 であ る 华 夏 心 理 社 のオーナーの 息 子 である 苏 丹 に 内 観 法 を 体 験 するよう 推 薦 した 中 国 の 刑 事 施 設 では 全 職 員 の 一 定 割 合 が 心 理 カウンセラーでなければならないが こ の 华 夏 心 理 社 は 刑 事 施 設 で 課 せられる 労 働 社 会 保 障 部 の 試 験 をパスさせるために 心 理 カウンセラーになるための 教 育 を 北 京 華 夏 心 理 培 訓 学 校 という 訓 練 施 設 で 行 っている 苏 が 内 観 研 修 を 受 けたところ 内 観 研 修 前 後 での 変 化 が 非 常 に 大 きく また 良 い 結 果 であったことに 気 づいた 华 夏 心 理 社 のオーナーである 苏 の 父 親 は 今 度 は 华 夏 心 理 社 の 社 長 である 魏 世 伟 を 研 修 所 に 派 遣 し 内 観 研 修 を 受 けさせた 魏 は 内 観 体 験 を 通 じて 中 国 の 刑 事 施 設 の 矯 正 教 育 にも 内 観 を 導 入 したほうが 矯 正 教 育 として 有 効 であると 考 え 職 員 教 育 を 担 当 している 华 夏 心 理 社 の 立 場 から 関 係 の 深 かった 北 京 教 育 訓 練 所 の 所 長 である 刘 に 内 観 法 を 受 けるよう 推 薦 した 刘 所 長 は 苏 と 魏 両 者 の 推 薦 を 受 け 内 観 法 は 効 果 的 な 処 遇 であると 感 じたが 新 しい 矯 正 教 育 法 として 正 式 に 導 入 することに 対 しては 慎 重 であった 15) そこで 刘 所 長 は 当 時 の 北 京 刑 事 施 設 心 理 センター 所 長 であった 曹 を 上 海 内 観 研 修 所 に 送 り 内 観 研 修 を 受 けさせ 曹 の 意 見 を 待 つこととした 曹 は 北 京 刑 事 施 設 副 所 長 である 孙 ととも に 上 海 内 観 研 修 所 で 研 修 を 終 え この 二 人 が 北 京 刑 事 施 設 に 内 観 法 を 2012 年 に 試 験 的 に 導 入 した この 時 点 ではまだ 内 観 法 は 北 京 刑 事 施 設 独 自 の 教 育 手 法 であり 北 京 監 獄 管 理 局 からの 命 令 で 行 われる 手 法 の 一 つとして 採 用 されているわけではな 15) 2015 年 3 月 29 日 より 筆 者 の 所 属 する 研 究 グループが 魏 苏 にインタビューを 行 った 際 の 記 録 による 7

青 山 ローフォーラム 第 5 巻 第 1 号 かった 16) 北 京 教 育 訓 練 所 の 所 長 刘 は 北 京 刑 事 施 設 での 内 観 法 の 試 験 的 導 入 を 見 て 内 観 法 を 新 しい 教 育 手 法 の 一 つに 採 用 すること 及 び 運 用 が 可 能 であるか 否 かを 検 討 し た この 後 正 式 に 内 観 法 を 処 遇 法 の 一 つとして 導 入 することを 検 討 するために すでに 内 観 法 を 矯 正 教 育 の 一 つとして 採 用 し 制 度 として 確 立 させているドイツの ニーダーザクセン 州 とオーストリアの 行 刑 を 2013 年 に 参 観 した ここで 参 加 した のは 北 京 刑 事 施 設 教 育 処 遇 所 長 の 尉 北 京 刑 事 施 設 教 育 訓 練 所 長 の 刘 らであった ニーダーザクセン 州 では 内 観 面 接 者 の 養 成 施 設 や 養 成 法 研 修 の 内 容 や 様 式 等 一 定 水 準 のものが 確 立 して 10 年 以 上 経 過 しており これらの 説 明 をシュタインヒル パーから 受 け 各 所 を 見 学 した 後 に 中 国 へと 戻 り 3 度 にわたる 会 議 を 開 き 具 体 的 に 内 観 法 を 導 入 する 方 法 を 検 討 した その 後 刑 事 施 設 内 で 実 際 に 面 接 を 担 当 する 者 を 養 成 するために 曹 は 2 人 の 刑 事 施 設 職 員 を 上 海 内 観 研 修 所 に 送 り その 後 研 修 所 で 面 接 助 手 を 経 て 面 接 者 としての 訓 練 を 積 ませた 内 観 体 験 を 経 た 後 面 接 助 手 を 体 験 するという 方 式 はドイツやオーストリアの 中 では 確 立 された 面 接 者 養 成 法 であり 中 国 でも 同 様 の 方 式 が 採 用 されている こうして 行 刑 現 場 で 内 観 の 面 接 を 行 える 準 備 が 整 い 2014 年 から 北 京 刑 事 施 設 で 内 観 研 修 が 正 式 に 行 われるように なった 2014 年 5 月 の 第 11 回 研 修 会 から これまで 刑 務 官 の 教 育 訓 練 を 行 っていた 華 夏 心 理 社 のオーナーと 社 長 とである 苏 と 魏 が 直 接 刑 事 施 設 の 中 で 面 接 と 面 接 者 の 指 導 を 行 うようになった この 時 に 北 京 刑 事 施 設 内 に 面 接 者 養 成 センターが 作 られ 17) このセンターで 面 接 訓 練 を 受 けた 刑 事 施 設 職 員 が 中 国 全 土 の 刑 事 施 設 で 面 接 者 を 担 当 することとなっているが これはドイツ オーストリアと 同 じ 様 式 のものである 2015 年 新 疆 第 一 刑 事 施 設 長 と 副 所 長 が 上 海 内 観 研 修 所 で 内 観 研 修 を 受 け 第 一 刑 事 施 設 と 第 三 刑 事 施 設 の 刑 事 施 設 職 員 計 3 名 に 対 し ウルムチ 内 観 研 修 所 で 研 修 を 受 けさせた 18) そして 2015 年 7 月 22 日 から 28 日 までの 間 北 京 以 外 の 刑 事 施 設 で 16) 北 京 監 獄 管 理 局 は 北 京 周 辺 地 方 の 各 刑 事 施 設 を 統 括 する 刑 事 施 設 の 上 位 組 織 2012 年 の 時 点 では 北 京 刑 事 施 設 が 施 設 内 で 独 自 に 内 観 法 を 利 用 していたに 過 ぎず 上 位 組 織 からの 命 令 で 内 観 法 を 提 供 していたわけではなかった 17) 内 部 資 料 による 18) ウルムチ 内 観 研 修 所 は2014 年 に 開 設 し 2015 年 8 月 までに3 回 の 研 修 が 行 われてい る この 研 修 の 中 で 刑 事 施 設 職 員 が 内 観 法 を 体 験 している 8

ドイツ 語 圏 と 中 国 の 刑 事 施 設 における 内 観 法 利 用 の 歴 史 的 経 緯 と 現 状 について は 初 めてとなる 内 観 研 修 が 新 疆 第 一 刑 事 施 設 で 行 われた 2016 年 中 に 中 国 教 育 处 は 中 国 内 に 内 観 法 を 心 理 教 育 の 一 つとして 導 入 する 刑 事 施 設 をあと 6 か 所 増 やす 意 向 で 少 年 刑 務 所 女 子 刑 務 所 等 異 なる 特 徴 の 刑 事 施 設 に 導 入 し さらに 中 国 内 の 東 西 南 北 の 地 域 にそれぞれ 振 り 分 ける 予 定 である そ の 後 各 刑 事 施 設 での 内 観 法 適 用 の 結 果 を 収 集 分 析 し 中 央 政 府 に 報 告 することを 予 定 している 全 国 に 配 置 される 新 たな 6 か 所 の 刑 事 施 設 の 中 で 内 観 面 接 を 担 当 する 者 は 北 京 刑 事 施 設 の 内 観 センターで 決 定 される 面 接 を 担 当 する 候 補 者 は 各 刑 事 施 設 から 6 名 選 ばれるが 内 観 センターで 内 観 研 修 を 受 けた 後 4 名 が 面 接 助 手 と して 選 抜 される 選 抜 された 面 接 助 手 は 内 観 研 修 所 や 内 観 センターで 魏 と 北 京 第 一 刑 事 施 設 心 理 センター 所 長 で 内 観 班 長 でもある 曹 の 監 督 の 元 1 回 の 面 接 者 養 成 訓 練 を 受 け その 後 に 正 式 に 各 刑 事 施 設 の 面 接 者 として 内 観 面 接 にあたることとな る 今 後 ドイツ オーストリアから 踏 襲 した 内 観 センターの 運 用 動 向 と 中 国 各 地 での 内 観 法 適 用 結 果 の 分 析 についての 報 告 を 待 ちたい Ⅳ.おわりに 最 後 に 本 稿 の 主 旨 からは 少 し 外 れるが 世 界 における 内 観 法 の 動 向 について 簡 単 に 報 告 したい 2014 年 バイエルン 内 観 研 修 所 長 のザビーネ=カスパリと 日 本 国 内 と 上 海 バイエルン 内 観 研 修 所 で 幾 度 となく 面 接 助 手 を 務 めている 村 上 里 奈 が ネパールで 内 観 研 修 を 行 った これを 契 機 として 今 後 ネパールでの 内 観 研 修 も 予 定 されている また 2015 年 にはタイで 内 観 研 修 が 行 われ 2016 年 に 2 度 目 の 内 観 研 修 が 行 われた これによって 2016 年 4 月 現 在 世 界 で 内 観 研 修 を 開 催 したことの ある 国 は ドイツ オーストリア スイス イタリア オランダ ベルギー スペ イン アメリカ カナダ ブラジル ネパール オーストラリア 韓 国 中 国 台 湾 フィリピン タイで これに 日 本 を 加 えて 18 か 国 となっている 現 在 世 界 で 内 観 法 が 矯 正 処 遇 法 として 刑 事 施 設 の 中 に 組 織 的 に 導 入 されているの はドイツと 中 国 であり 日 本 でも 少 年 院 で 利 用 されている ただ 国 外 の 刑 事 施 設 の 内 観 法 の 広 がりを 正 確 に 把 握 している 機 関 はほとんどないため 今 後 とも 本 プロ ジェクト 下 で 世 界 の 内 観 法 の 動 向 を 把 握 報 告 して 行 く 必 要 がある 9

青 山 ローフォーラム 第 5 巻 第 1 号 ( 追 記 ) 本 稿 は 青 山 学 院 大 学 判 例 研 究 所 2014 年 度 重 点 課 題 プロジェクト(ヨーロッパ 及 び 中 国 の 刑 務 所 における 処 遇 技 法 としての 内 観 法 の 現 状 と 課 題 ) 及 び 同 研 究 所 2015 年 度 ワークショップ( 薬 物 犯 罪 総 合 )による 研 究 成 果 の 一 部 である 10