平 成 26 年 9 月 30 日 報 道 関 係 各 位 東 京 工 業 大 学 広 報 センター 長 大 谷 清 光 強 度 の 増 加 とともに 吸 収 効 率 が 向 上 する 材 料 を 開 発 概 要 東 京 工 業 大 学 大 学 院 理 工 学 研 究 科 の 平 田 修 造 助 教 とバッハ マーティン 教 授 ら は 太 陽 光 などの 弱 い 非 コヒーレント( 用 語 1) 連 続 光 ( 用 語 2)でも 光 の 照 射 強 度 が 強 くなるに 従 い 吸 収 効 率 が 大 きく 増 加 する 材 料 の 開 発 に 成 功 した 生 体 内 に 含 まれるヒドロキシステロイド( 用 語 3)の 中 に 光 増 感 剤 ( 用 語 4)と 縮 環 芳 香 族 ( 用 語 5)を 分 子 レベルで 分 散 することにより 実 現 した この 材 料 に 光 を 照 射 すると 縮 環 芳 香 族 の 励 起 状 態 ( 用 語 6)が 蓄 積 され 蓄 積 された 励 起 状 態 が 光 をさらに 効 率 よく 吸 収 することにより 吸 収 効 率 の 大 きな 上 昇 が 生 じることを 確 認 した 光 の 強 さに 応 じて 色 の 濃 さが 変 化 する 色 剤 や 調 光 素 子 ( 用 語 7)など 新 しい 光 学 材 料 への 応 用 が 期 待 される 従 来 光 の 照 射 強 度 の 増 加 とともに 吸 収 効 率 が 増 加 する 現 象 は 大 型 かつ 高 強 度 のレーザーパルス( 用 語 8)を 照 射 した 時 にのみ 生 じるものとして 知 られていた 今 回 の 研 究 では 非 コヒーレント 連 続 光 で その 現 象 が 生 じる 材 料 を 開 発 した 研 究 は 日 本 学 術 振 興 会 住 友 財 団 コスメトロジー 研 究 振 興 財 団 科 学 技 術 振 興 機 構 新 化 学 技 術 推 進 協 会 の 支 援 で 行 った 成 果 は 国 際 学 術 雑 誌 ネイチャーマテ リアルズ(Nature Materials) のオンライン 版 に 9 月 7 日 掲 載 された 研 究 成 果 平 田 助 教 とバッハ 教 授 は 室 温 大 気 中 で 励 起 状 態 の 寿 命 が 長 くなる 材 料 に 関 する 研 究 を 進 めた 生 体 分 子 であるヒドロキシステロイド 中 に 光 増 感 剤 と 縮 環 芳 香 族 の 2 種 類 の 分 子 を 添 加 した 材 料 を 作 成 した この 材 料 に 非 コヒーレント 白 色 光 を 強 度 を 増 加 させながら 照 射 したところ 強 度 の 増 加 とともに 可 視 域 の 吸 収 効 率 が 大 きく 上 昇 し 色 が 濃 くなる 逆 過 飽 和 吸 収 ( 用 語 9) 現 象 を 見 出 した さらに この 現 象 が 光 照 射 時 に 縮 環 芳 香 族 の 励 起 状 態 が 蓄 積 されることで 生 じることを 突 き 止 めた
逆 過 飽 和 吸 収 は これまで 強 いレーザーパルスを 照 射 した 時 にのみ 生 じる 現 象 とし て 知 られていた 太 陽 光 などの 非 コヒーレント 連 続 光 レベルの 弱 い 光 でその 機 能 が 発 現 する 材 料 の 開 発 は 逆 過 飽 和 吸 収 材 料 の 応 用 を 飛 躍 的 に 拡 張 する 可 能 性 を 示 すと 期 待 される 研 究 の 背 景 光 照 射 により 励 起 状 態 が 蓄 積 され それにより 吸 収 効 率 が 増 加 する 材 料 ( 逆 過 飽 和 吸 収 材 料 )は 古 くから 研 究 されてきた しかし 励 起 状 態 の 寿 命 は 室 温 大 気 中 では 通 常 1 ミリ 秒 以 下 と 短 いため そのような 現 象 は 大 型 で 高 額 の 高 強 度 パルスレーザーか らの 光 を 照 射 した 時 にのみ 瞬 間 的 に 生 じる 現 象 として 知 られていた そのため この ような 機 能 を 有 する 材 料 は 実 験 室 用 途 や 一 部 高 額 な 光 学 機 器 に 搭 載 されるにとどま っており 一 般 消 費 者 に 広 く 用 いられてこなかった 研 究 の 経 緯 平 田 助 教 とバッハ 教 授 らはこれまでに さまざまな 縮 環 芳 香 族 を 生 体 分 子 であるヒ ドロキシステロイド 中 に 分 散 すると 各 種 縮 環 芳 香 族 の 励 起 状 態 の 寿 命 が1 秒 以 上 に 延 びることを 発 表 してきた(Adv. Funct. Mater. 2013, 23, 3386) 平 田 助 教 とバッハ 教 授 らは 今 回 ヒドロキシステロイド 中 に 光 増 感 剤 と 縮 環 芳 香 族 の 2 種 類 の 分 子 を 添 加 した 材 料 を 作 成 した( 図 1) この 材 料 に 白 色 の 非 コヒーレント 光 の 強 度 を 変 化 させて 照 射 したところ 白 色 光 の 強 度 の 増 加 とともに 吸 収 効 率 が 大 きく 上 昇 し 色 が 濃 くなっていくことを 見 出 した( 図 2) 図 1. 材 料 の 概 要 図 2. 白 色 光 の 照 射 強 度 の 増 加 に 伴 う 吸 光 度 の 増 大 写 真 は 白 色 光 の 照 射 強 度 の 増 加 に 伴 う 材 料 粉 末 の 色 の 変 化
またその 材 料 の 薄 膜 に 照 射 する 青 色 や 緑 色 の 光 を 強 めていったところ 照 射 強 度 の 増 加 とともに 透 過 率 が 大 きく 減 少 した このような 吸 収 の 増 大 は 従 来 の 過 飽 和 吸 収 体 と 比 較 して 100 万 分 の1 程 度 の 弱 い 光 の 照 射 により 生 じた また 九 州 大 学 東 京 農 工 大 学 そして 東 京 工 科 大 学 との 共 同 研 究 により この 現 象 は 光 増 感 剤 で 吸 収 された 光 が 縮 環 芳 香 族 に 受 け 渡 され 長 い 寿 命 を 有 する 縮 環 芳 香 族 の 励 起 状 態 が 材 料 中 に 蓄 積 されていくことにより 生 じることを 明 らかにした( 図 3) 図 3. 光 の 照 射 強 度 の 増 加 とともに 縮 環 芳 香 族 の 励 起 状 態 が 材 料 中 に 蓄 積 されていく 様 子 のイメージ 今 後 の 展 開 この 成 果 は 過 飽 和 吸 収 体 の 応 用 を 大 きく 拡 張 する 可 能 性 を 示 すものである この ような 材 料 は 例 えば 屋 外 のような 明 るい 場 所 でより 発 色 する 色 剤 スキャナーの 強 い 光 で 読 み 取 り 時 に 発 色 することで 偽 造 を 防 止 するような 紙 媒 体 ポータブルのレー ザーポインターの 光 線 から 目 を 守 るコンタクトレンズ 日 差 しの 強 い 場 合 に 自 動 的 に 斜 光 してくれるスマートウィンドウなどへの 応 用 が 期 待 される 用 語 説 明 ( 用 語 1) 非 コヒーレント: 波 の 位 相 や 進 行 方 向 に 秩 序 性 がないことを 指 す コヒ ーレントの 対 比 語 である 太 陽 光 や 発 光 ダイオード(LED)などの 光 は 非 コヒーレントな 光 に 相 当 する ( 用 語 2) 連 続 光 :パルスは 途 切 れる 時 間 域 が 存 在 する 光 であるのに 対 して 連 続 に 放 射 され 続 ける 光
( 用 語 3)ヒドロキシステロイド: 下 図 に 示 すステロイド 環 の 骨 格 を 有 する 化 合 物 のいずれかに 水 酸 基 を 有 する 分 子 の 総 称 ホルモンやコレステロールな どもヒドロキシステロイドの 分 類 に 属 する 筋 肉 増 強 剤 やアトピー 性 皮 膚 炎 の 薬 剤 などにも 用 いられる ( 用 語 4) 光 増 感 剤 : 光 を 吸 収 した 際 に 他 の 材 料 とエネルギーや 電 子 の 供 受 を 効 率 よく 行 うことで 周 囲 の 材 料 の 機 能 を 効 率 よく 引 き 出 す 際 に 用 いられる 分 子 もしくは 添 加 剤 色 素 増 感 太 陽 電 池 光 水 素 発 生 フォトレジスト などの 高 性 能 化 の 際 にも 用 いられる ( 用 語 5) 縮 環 芳 香 族 : 下 図 のようにベンゼン 環 が 連 なった 構 造 を 有 する 分 子 ( 用 語 6) 励 起 状 態 : 分 子 が 光 を 吸 収 した 時 に 分 子 の 中 の 電 子 の 位 置 が 変 化 する ことにより 形 成 される 準 安 定 状 態 の 分 子 の 状 態 を 指 す 通 常 光 材 料 や 光 機 能 デバイスでは 分 子 の 最 低 励 起 一 重 項 状 態 と 最 低 励 起 三 重 項 状 態 の 制 御 が 材 料 やデバイスの 機 能 に 直 接 的 に 繋 がる 場 合 が 多 いため 着 目 さ れる 通 常 の 有 機 材 料 では 室 温 大 気 中 において 分 子 の 最 低 励 起 一 重 項 状 態 の 寿 命 はマイクロ 秒 以 下 最 低 励 起 三 重 項 状 態 の 寿 命 は1ミリ 秒 以 下 である ( 用 語 7) 調 光 素 子 : 外 部 から 照 射 された 光 の 強 度 を 調 節 する 素 子 液 晶 シャッタ ーやフォトクロミック 材 料 をコートした 薄 膜 なども 広 い 意 味 で 調 光 素 子 である ( 用 語 8)レーザーパルス:レーザーが 連 続 的 に 放 射 されずに 瞬 間 的 に 何 度 も 繰 り 返 して 放 射 される 光 ( 用 語 9) 逆 過 飽 和 吸 収 : 照 射 される 光 の 強 度 の 増 加 とともに 吸 収 効 率 が 増 加 す る 現 象 この 現 象 は 広 い 意 味 では 非 線 形 光 学 現 象 の 一 つであり 過 飽 和 吸 収 ( 光 の 強 度 が 増 加 すると 吸 収 効 率 が 低 下 する 現 象 )の 対 比 語 である
論 文 情 報 掲 載 誌 : Nature Materials 2014, 13, 938-946. 論 文 タイトル: Large reverse saturable absorption under weak continuous incoherent light. 著 者 : Shuzo Hirata, Kenro Totani, Takashi Yamashita, Chihaya Adachi, and Martin Vacha ( 平 田 修 造 戸 谷 健 朗 山 下 俊 安 達 千 波 矢 バッハ マーティン) DOI : 10.1038/nmat4081 掲 載 誌 : News and Views, Nature Materials 2014, 13, 917 918. タイトル: Nonlinear optics: Modulating optical power. 著 者 : Anjun Qin and Ben Zhong Tang DOI : 10.1038/nmat4096 研 究 支 援 本 研 究 は 以 下 の 支 援 を 受 けて 行 われました 日 本 学 術 振 興 会 若 手 研 究 (A) 10 秒 を 超 える 室 温 長 寿 命 励 起 子 による 非 コヒーレ ント 光 応 答 型 非 線 形 吸 収 材 料 の 構 築 (2014 2017 年 度 予 定 ) 代 表 : 東 京 工 業 大 学 平 田 修 造 課 題 番 号 26708010 公 益 財 団 法 人 住 友 財 団 基 礎 科 学 研 究 助 成 10 mw/cm 2 以 下 の 非 コヒーレント 光 照 射 で 大 きな 非 線 形 吸 収 を 示 す 材 料 への 挑 戦 (2013 年 度 ) 代 表 : 東 京 工 業 大 学 平 田 修 造 公 益 財 団 法 人 コスメトロジー 研 究 振 興 財 団 平 成 25 年 度 研 究 助 成 明 るい 環 境 でよ り 鮮 やかに 着 色 する 有 機 材 料 の 開 発 (2013 年 度 ) 代 表 : 東 京 工 業 大 学 平 田 修 造 東 京 工 業 大 学 平 成 25 年 度 工 学 系 共 通 経 費 による 顕 彰 と 研 究 助 成 低 パワーの 非 コヒ ーレント 光 に 応 答 する 非 線 形 吸 収 材 料 の 開 発 (2013 年 度 ) 代 表 : 東 京 工 業 大 学 平 田 修 造 科 学 技 術 振 興 機 構 研 究 成 果 最 適 展 開 支 援 プログラムフィージビリティスタディ FS ステージ 探 索 タイプ 非 コヒーレント 光 型 非 線 形 吸 収 材 料 を 用 いた 偽 造 防 止 媒 体 の 開 発 (2013 年 度 ) 代 表 : 東 京 工 業 大 学 平 田 修 造 課 題 番 号 AS251Z02454M 公 益 社 団 法 人 新 化 学 技 術 推 進 協 会 第 2 回 新 化 学 技 術 研 究 奨 励 賞 メタルフリーの 低 閾 値 非 線 形 吸 収 材 料 の 開 発 (2013 年 度 ) 代 表 : 東 京 工 業 大 学 平 田 修 造 日 本 学 術 振 興 会 若 手 研 究 (B) 低 パワー 非 コヒーレント 光 による 有 機 非 線 形 吸 収 の 実 現 と 調 光 材 料 への 応 用 (2010 2011 年 度 ) 代 表 : 九 州 大 学 平 田 修 造 課 題 番 号 22750132 問 い 合 わせ 先 東 京 工 業 大 学 大 学 院 理 工 学 研 究 科 有 機 高 分 子 物 質 専 攻 助 教 平 田 修 造 Email: hirata.s.af@m.titech.ac.jp TEL: 03-5734-3643 FAX: 03-5734-2725