相 談 ~ 改 正 に 伴 い 改 めて 整 理 しておきたい~ 法 人 税 における 繰 越 欠 損 金 制 度 米 澤 潤 平 部 東 京 室 平 成 27 年 度 および28 年 度 の 税 制 改 正 による 法 人 税 率 引 き 下 げに 伴 う 課 税 ベース 拡 大 の 一 環 として 繰 越 欠 損 金 制 度 についても 大 改 正 が 行 われました 今 回 は 繰 越 欠 損 金 制 度 の 概 要 を 改 めて 整 理 し 平 成 27 年 度 および28 年 度 税 制 改 正 の 重 要 論 点 である 以 外 の 法 人 に 対 する 控 除 限 度 額 の 引 き 下 げや 繰 越 期 間 の 延 長 のほか 実 務 上 多 大 の 影 響 があると 思 われる 新 設 法 人 の 特 例 などを 解 説 します 1. 欠 損 金 の 繰 越 控 除 [1] 概 要 適 用 要 件 法 人 税 法 上 青 色 申 告 を 行 っている 法 人 ( 注 )が 欠 損 金 ( 損 金 が 益 金 を 超 える 場 合 の 超 過 部 分 で 税 務 上 の 赤 字 額 のこと)を 有 することとなった 場 合 は その 欠 損 金 を 翌 事 業 年 度 以 後 一 定 期 間 繰 り 越 し 翌 事 業 年 度 以 後 の 所 得 金 額 の 計 算 上 損 金 算 入 ( 繰 り 越 した 欠 損 金 を 所 得 金 額 から 控 除 )する ことができます( 図 ) この 制 度 を 一 般 に 青 色 欠 損 金 の 繰 越 控 除 といい 翌 事 業 年 度 以 降 に 繰 り 越 す 欠 損 金 を 繰 越 欠 損 金 といいます 欠 損 金 の 繰 越 控 除 は 住 民 税 や 事 業 税 においても 同 様 の 取 り 扱 いがされますが 本 稿 では 法 人 税 の 規 定 について 説 明 します なお この 制 度 の 適 用 を 受 けるには 欠 損 金 の 生 じた 事 業 年 度 において 青 色 申 告 書 を 提 出 し かつ その 後 も 連 続 して 確 定 申 告 書 を 提 出 しており 欠 損 金 の 生 じた 事 業 年 度 に 係 る 帳 簿 書 類 を 保 存 していることが 要 件 となります 注 : 本 稿 では 株 式 会 社 を 前 提 として 説 明 繰 越 欠 損 金 のイメージ ( 欠 損 金 控 除 前 ) 所 得 金 額 繰 越 欠 損 金 ( 欠 損 金 控 除 後 ) 所 得 金 額 法 人 税 率 = 法 人 税 額 1
[2] 控 除 限 度 額 繰 越 欠 損 金 を 有 する 法 人 において 欠 損 金 発 生 事 業 年 度 の 翌 事 業 年 度 以 後 の 欠 損 金 の 繰 越 控 除 にあ たっては 平 成 27 年 度 税 制 改 正 により 次 ページ 以 降 で 解 説 する の 特 例 ( 第 2 項 )や 新 設 法 人 の 特 例 ( 第 3 項 )などの 適 用 がある 場 合 を 除 き 各 事 業 年 度 の 所 得 金 額 に 下 記 の 控 除 限 度 割 合 を 乗 じた 金 額 が 控 除 限 度 額 とされることとなりました 事 業 年 度 控 除 限 度 割 合 繰 越 期 間 平 成 24 年 4 月 1 日 ~ 平 成 27 年 3 月 31 日 開 始 事 業 年 度 80% 平 成 27 年 4 月 1 日 ~ 平 成 29 年 3 月 31 日 開 始 事 業 年 度 65% 9 年 間 平 成 29 年 4 月 1 日 以 後 開 始 事 業 年 度 50% 10 年 間 その 後 平 成 28 年 度 税 制 改 正 により 控 除 限 度 割 合 などについて 以 下 のような 見 直 しが 行 われ 現 在 は 下 表 が 適 用 されます 事 業 年 度 控 除 限 度 割 合 繰 越 期 間 平 成 27 年 4 月 1 日 ~ 平 成 28 年 3 月 31 日 開 始 事 業 年 度 65% 平 成 28 年 4 月 1 日 ~ 平 成 29 年 3 月 31 日 開 始 事 業 年 度 60% 9 年 間 平 成 29 年 4 月 1 日 ~ 平 成 30 年 3 月 31 日 開 始 事 業 年 度 55% 平 成 30 年 4 月 1 日 以 後 開 始 事 業 年 度 50% 10 年 間 控 除 限 度 額 について の 特 例 ( 第 2 項 )や 新 設 法 人 の 特 例 ( 第 3 項 )を 踏 まえた 適 用 関 係 をまとめると 下 表 のようになります 大 法 人 ( 注 1)による 完 全 支 配 関 係 ( 注 2)なし 大 法 人 による 完 全 支 配 関 係 あり 資 本 金 1 億 円 以 下 100% 控 除 可 能 ( ) 65% 等 制 限 あり 資 本 金 1 億 円 超 100% 控 除 可 能 ( 新 設 法 人 ) 65% 等 制 限 あり 注 1: 資 本 金 5 億 円 以 上 の 法 人 等 注 2: 一 の 者 が 法 人 の 発 行 済 株 式 等 の 全 部 を 直 接 若 しくは 間 接 に 保 有 する 関 係 ( 当 事 者 間 の 完 全 支 配 の 関 係 ) または 一 の 者 との 間 に 当 事 者 間 の 完 全 支 配 の 関 係 がある 法 人 相 互 の 関 係 簡 単 にいえば 100%の 持 株 関 係 ということになる [3] 繰 越 期 間 繰 越 欠 損 金 の 繰 越 期 間 は 欠 損 金 が 発 生 した 翌 事 業 年 度 以 後 9 年 間 とされています(すでに 控 除 ( 損 金 算 入 )された 部 分 と 繰 戻 し 還 付 の 計 算 の 基 礎 とされた 部 分 は 除 く) 繰 越 欠 損 金 は その 残 高 のうち 最 も 古 い 事 業 年 度 に 生 じたものから 順 次 控 除 されていき 繰 越 期 間 内 に 控 除 しきれなかった 繰 越 欠 損 金 は 切 り 捨 てられることになります 繰 越 欠 損 金 の 発 生 事 業 年 度 ご との 残 高 は 法 人 税 の 確 定 申 告 書 別 表 7(1) において 確 認 できます 2
なお 平 成 27 年 度 税 制 改 正 により 平 成 29 年 4 月 1 日 以 後 開 始 する 事 業 年 度 において 発 生 した 繰 越 欠 損 金 については 9 年 間 だった 繰 越 期 間 が 10 年 間 に 延 長 されることとされました これに 関 連 し 前 回 繰 越 期 間 が7 年 から9 年 に 延 長 された 平 成 23 年 12 月 の 税 制 改 正 では 改 正 法 の 施 行 日 前 に 発 生 した 一 定 の 繰 越 欠 損 金 についても 延 長 後 の 繰 越 期 間 が 適 用 されていましたが 平 成 27 年 度 税 制 改 正 で はこのような 取 り 扱 いはありません ただし 平 成 28 年 度 税 制 改 正 により 平 成 30 年 4 月 1 日 以 後 開 始 事 業 年 度 に 発 生 した 繰 越 欠 損 金 については 繰 越 期 間 を 10 年 間 に 延 長 する 措 置 を 適 用 するよう 見 直 しが 行 われています 2. の 特 例 とは 各 事 業 年 度 末 において 資 本 金 の 額 が1 億 円 以 下 であり かつ 次 に 掲 げる 法 人 に 該 当 しない 法 人 等 のことをいいます 一 の 大 法 人 による 完 全 支 配 関 係 がある 法 人 完 全 支 配 関 係 がある 複 数 の 大 法 人 に 発 行 済 株 式 等 の 全 部 を 保 有 されている 法 人 には 法 人 税 法 上 さまざまな 特 例 優 遇 規 定 が 設 けられており 欠 損 金 の 繰 越 控 除 制 度 においても 特 例 が 設 けられています 欠 損 金 の 繰 越 控 除 制 度 における の 特 例 とは 前 項 1 -[2]において 説 明 した 控 除 限 度 額 について 65%の 制 限 がないことです 言 い 換 えれば 繰 越 欠 損 金 を 繰 越 控 除 適 用 前 の 所 得 金 額 の 100% 相 当 額 まで 控 除 できるということです 以 外 の 法 人 と の 控 除 限 度 額 等 について 以 下 に 計 算 例 を 示 して 比 較 を 行 います なお 事 業 年 度 は 平 成 27 年 4 月 1 日 ~ 平 成 28 年 3 月 31 日 開 始 事 業 年 度 であるものとし ます 例 1:< 繰 越 欠 損 金 の 残 高 200 欠 損 金 の 繰 越 控 除 適 用 までの 所 得 金 額 240>の 場 合 以 外 の 法 人 繰 越 限 度 額 下 線 が 限 度 額 200 > 240 65%=156 156 200 < 240 100%=240 200 欠 損 金 の 繰 越 控 除 適 用 後 の 所 得 金 額 240-156=84 240-200=40 繰 越 控 除 後 の 繰 越 欠 損 金 残 高 200-156=44 200-200=0 例 2:< 繰 越 欠 損 金 の 残 高 200 欠 損 金 の 繰 越 控 除 適 用 までの 所 得 金 額 400>の 場 合 以 外 の 法 人 繰 越 限 度 額 下 線 が 限 度 額 200 < 400 65%=260 200 200 < 400 100%=400 200 欠 損 金 の 繰 越 控 除 適 用 後 の 所 得 金 額 400-200=200 400-200=200 繰 越 控 除 後 の 繰 越 欠 損 金 残 高 200-200=0 200-200=0 3
例 3:< 繰 越 欠 損 金 の 残 高 500 欠 損 金 の 繰 越 控 除 適 用 までの 所 得 金 額 400>の 場 合 以 外 の 法 人 繰 越 限 度 額 下 線 が 限 度 額 500 > 400 65%=260 260 500 > 400 100%=400 400 欠 損 金 の 繰 越 控 除 適 用 後 の 所 得 金 額 400-260=140 400-400=0 繰 越 控 除 後 の 繰 越 欠 損 金 残 高 500-260=240 500-400=100 3. 新 設 法 人 の 特 例 平 成 27 年 度 税 制 改 正 では 新 設 法 人 については 前 項 の 特 例 と 同 様 に 繰 越 欠 損 金 を 繰 越 控 除 適 用 前 の 所 得 金 額 の100% 相 当 額 まで 控 除 できる 旨 の 改 正 が 行 われました ここでいう 新 設 法 人 とは 当 該 事 業 年 度 が 設 立 日 から 同 日 以 後 7 年 を 経 過 する 日 までの 期 間 内 の 日 が 属 する 事 業 年 度 ( 適 用 事 業 年 度 )に 該 当 する 法 人 のことをいいます すなわち 法 人 の 設 立 から7 年 間 は 繰 越 欠 損 金 を 繰 越 控 除 適 用 前 の 所 得 金 額 の100% 相 当 額 まで 控 除 できるということです なお この 特 例 は 平 成 27 年 4 月 1 日 以 後 開 始 する 事 業 年 度 分 の 法 人 税 について 適 用 されますが 同 日 前 に 設 立 されている 法 人 についても 適 用 があります この 新 設 法 人 の 特 例 は 対 象 となる 法 人 自 身 について 資 本 金 の 額 に 関 する 要 件 はありませんが 対 象 と なる 法 人 が に 該 当 する 場 合 や 大 法 人 による 完 全 支 配 関 係 がある 法 人 である 場 合 などは その 法 人 は 新 設 法 人 から 除 かれるものとされています また 新 設 法 人 に 該 当 する 場 合 でも 適 用 事 業 年 度 中 にその 法 人 が 上 場 等 した 場 合 は 上 場 等 の 日 以 後 に 終 了 する 事 業 年 度 についてこの 特 例 は 適 用 されないも のとされています 下 表 は 3 月 31 日 が 決 算 日 ( 事 業 年 度 末 )の 会 社 について 設 立 日 資 本 金 株 主 ( 設 立 日 から 不 動 ) のそれぞれが4つのケースの 場 合 に 新 設 法 人 の 特 例 が 平 成 27 年 度 決 算 ( 平 成 28 年 3 月 31 日 )におい て 適 用 されるかどうかを 検 討 した 結 果 です ケース1 ケース2 ケース3 ケース4 設 立 日 平 成 27 年 10 月 1 日 平 成 24 年 6 月 1 日 平 成 20 年 2 月 1 日 平 成 27 年 8 月 1 日 資 本 金 2 億 円 2 億 円 2,000 万 円 8,000 万 円 株 主 社 長 およびその 親 族 社 長 およびその 資 産 管 理 会 社 ( 資 本 金 3 億 円 ) 社 長 およびその 親 族 上 場 企 業 A 社 ( 資 本 金 5 億 円 ) 適 用 あり あり なし なし 備 考 平 成 35 年 3 月 31 日 ま でが 適 用 事 業 年 度 平 成 32 年 3 月 31 日 ま でが 適 用 事 業 年 度 設 立 後 7 年 を 経 過 し ているため 対 象 外 ただし に 該 当 するため 結 果 的 に100% 控 除 可 大 法 人 による 完 全 支 配 関 係 があるため 適 用 対 象 外 4
4. 税 効 果 会 計 との 関 係 これまで 見 てきたように 繰 越 欠 損 金 は 将 来 の 所 得 金 額 を 減 額 させる 効 果 ( 将 来 の 法 人 税 額 を 軽 減 させる 効 果 )を 有 しており これは 税 効 果 会 計 における 将 来 減 算 一 時 差 異 ( 注 )と 同 様 の 性 格 と 考 えられるため 繰 越 欠 損 金 は 将 来 減 算 一 時 差 異 に 準 ずるものとして 税 効 果 会 計 の 適 用 対 象 となります そのため 会 計 上 は 期 末 における 繰 越 欠 損 金 の 残 高 のうち 回 収 可 能 性 がある 部 分 ( 簡 単 にいえば 翌 期 以 降 の 一 定 期 間 内 に 活 用 ( 繰 越 控 除 )することが 見 込 まれる 金 額 )について これに 係 る 繰 延 税 金 資 産 を 計 上 する 必 要 があります そして 資 産 計 上 された 繰 越 欠 損 金 に 係 る 繰 延 税 金 資 産 は 所 得 金 額 が 発 生 し 欠 損 金 の 繰 越 控 除 が 行 われた 場 合 に 取 崩 します また 繰 延 税 金 資 産 の 回 収 可 能 性 がないと 判 断 された 場 合 などにおいても 取 崩 しを 行 うことになります 繰 越 欠 損 金 に 係 る 繰 延 税 金 資 産 を 計 上 または 取 崩 しを 行 う 際 には その 相 手 勘 定 として 法 人 税 等 調 整 額 が 損 益 計 算 書 の 法 人 税 住 民 税 及 び 事 業 税 の 下 に 計 上 されることになります 注 : 一 時 差 異 ( 会 計 と 税 務 の 資 産 負 債 の 残 高 の 差 異 )のうち 差 異 の 解 消 時 に 所 得 金 額 を 減 額 させる 効 果 を 有 するもの 内 容 は2016 年 8 月 1 日 時 点 の 情 報 に 基 づいて 作 成 されたものです 本 情 報 は 法 律 会 計 税 務 などの 一 般 的 な 説 明 です 個 別 具 体 的 な 法 律 上 会 計 上 税 務 上 等 の 判 断 や 対 策 などについては 専 門 家 ( 弁 護 士 公 認 会 計 士 税 理 士 など)にご ください また 本 情 報 の 全 部 または 一 部 を 無 断 で 複 写 複 製 (コピー)することは 著 作 権 法 上 での 例 外 を 除 き 禁 じられています みずほ 総 合 研 究 所 部 東 京 室 03-3591-7077 / 大 阪 室 06-6226-1701 http://www.mizuho-ri.co.jp/service/membership/advice/ 5