悪 化 した 企 業 収 益 が 雇 用 と 所 得 に 与 える 影 響 国 内 の 消 費 は 政 府 の 景 気 対 策 の 効 果 もあって このところ 持 ち 直 しの 動 きが 続 いている が 雇 用 所 得 環 境 は 依 然 として 厳 しい 情 勢 が 続 いている 以 下 では 昨 年 末 以 降 の 景 気 後 退 による 製 造 業 を 中 心 とした 企 業 収 益 の 急 激 な 悪 化 と その 後 の 回 復 過 程 において 国 内 の 賃 金 や 雇 用 がどのような 影 響 を 受 けているのかを 分 析 し 国 内 の 消 費 につながる 雇 用 及 び 所 得 が 依 然 として 厳 しい 状 況 にあることを 示 す (1) 製 造 業 で 急 速 に 悪 化 する 企 業 収 益 我 が 国 では 昨 年 秋 のリーマンショック 以 降 の 急 速 な 景 気 悪 化 による 売 上 高 の 急 減 を 受 注 けて 製 造 業 を 中 心 に 収 益 が 大 幅 に 悪 化 している 大 企 業 製 造 業 ) では 昨 年 秋 から21 年 1~3 月 期 までの 大 幅 な 売 上 高 の 落 ち 込 みに 人 件 費 等 固 定 費 の 削 減 が 追 いつかなか ったため( 損 益 分 岐 点 の 下 落 が 売 上 高 の 下 落 に 追 いつかず) 2 年 1~12 月 期 以 降 損 益 分 岐 点 売 上 高 比 率 は 1%を 超 え 企 業 収 益 は 赤 字 となった 同 様 に 中 小 製 造 業 に おいても 昨 年 秋 以 降 の 売 上 高 の 急 激 な 減 少 と 同 時 に 損 益 分 岐 点 を 引 き 下 げたものの 売 上 高 の 減 少 ペースがあまりにも 急 激 だったため 21 年 1~3 月 期 には 損 益 分 岐 点 売 上 高 比 率 は 1%を 超 え 企 業 収 益 は 赤 字 となっている( 第 Ⅱ-1-13 図 ) 足 下 の21 年 4~6 月 期 は 大 企 業 及 び 中 小 企 業 ともに 売 上 高 が 回 復 に 転 じる 兆 しを 見 せているが 売 上 高 の 回 復 が 低 い 水 準 にとどまっているため 損 益 分 岐 点 売 上 高 比 率 は 依 然 として 1% 前 後 の 高 い 水 準 にあり 企 業 収 益 は 極 めて 厳 しい 状 況 が 続 いている 他 方 非 製 造 業 は 製 造 業 とは 大 きく 異 なった 状 況 にある 景 気 悪 化 の 影 響 を 受 けて 昨 年 秋 以 降 非 製 造 業 においても 大 企 業 を 中 心 に 売 上 高 の 急 激 な 落 ち 込 みがみられるが 損 益 分 岐 点 を 引 き 下 げることによって 収 益 の 確 保 が 図 られており 大 企 業 及 び 中 小 企 業 と もに 損 益 分 岐 点 売 上 高 比 率 は 目 立 った 上 昇 を 見 せていない こうした 製 造 業 及 び 非 製 造 業 の 間 で 収 益 状 況 が 大 きく 異 なる 背 景 には 今 回 の 景 気 悪 化 が 主 に 輸 出 数 量 の 急 激 な 後 退 を 直 接 の 要 因 とするものであったことが 挙 げられる 注 ) ここではデータの 制 約 から 製 造 業 非 製 造 業 ともに 大 企 業 は 資 本 金 1 億 円 以 上 中 小 企 業 は 資 本 金 1 億 円 未 満 の 企 業 としている - 4 -
第 Ⅱ-1-13 図 産 業 別 企 業 規 模 別 にみた 損 益 分 岐 点 売 上 高 比 率 の 推 移 ( 季 調 済 兆 円 ) 大 企 業 ( 季 調 済 %) 9 製 造 業 14 ( 季 調 済 兆 円 ) 大 企 業 ( 季 調 済 %) 145 非 製 造 業 14 8 7 損 益 分 岐 点 売 上 高 比 率 ( 目 盛 り 右 ) 売 上 高 損 益 分 岐 点 13 12 135 125 115 13 12 11 15 11 6 95 1 85 1 5 9 75 9 4 8 65 55 8 3 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 年 7 45 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 年 7 ( 季 調 済 兆 円 ) 35 中 小 企 業 製 造 業 ( 季 調 済 %) 14 ( 季 調 済 兆 円 ) 中 小 企 業 ( 季 調 済 %) 16 非 製 造 業 14 13 14 13 3 12 11 12 1 12 11 8 25 1 9 6 4 1 9 8 2 8 2 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 年 ( 注 ) 1. 損 益 分 岐 点 = 固 定 費 / 限 界 利 益 率 固 定 費 = 人 件 費 + 減 価 償 却 費 + 純 営 業 外 費 用 + 販 管 費.7 限 界 利 益 率 =1- 変 動 費 比 率 =1-( 売 上 高 固 定 費 - 経 常 利 益 )/ 売 上 高 2. 製 造 業 非 製 造 業 とも 大 企 業 は 資 本 金 1 億 円 以 上 中 小 企 業 は 資 本 金 1 億 円 未 満 とした 資 料 : 法 人 企 業 統 計 ( 財 務 省 ) 7 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 年 7 (2) 製 造 業 で 急 上 昇 する 単 位 労 働 コスト 売 上 高 の 急 速 な 減 少 に 対 応 して 多 くの 製 造 業 では 給 与 カットや 人 員 削 減 等 のコスト 削 減 努 力 が 行 われているが 急 速 な 売 上 高 の 減 少 にこれらコスト 削 減 が 追 いつけない 結 果 2 年 1~12 月 期 以 降 製 造 業 の 単 位 労 働 コストは 大 幅 な 上 昇 を 続 けている( 第 Ⅱ-1-14 図 ) 単 位 労 働 コストとは 物 やサービスを1 単 位 生 み 出 すのに 必 要 な 労 働 費 用 であり 人 件 費 ( 名 目 雇 用 者 報 酬 )を 実 質 付 加 価 値 額 で 除 すことで 得 られる 単 位 労 働 コストが 上 昇 するとき 一 般 に 企 業 はそれを 販 売 価 格 に 転 嫁 しないと 収 益 が 悪 化 してしまう - 41 -
また 単 位 労 働 コスト( 人 件 費 / 実 質 付 加 価 値 額 )の 分 子 と 分 母 を 雇 用 者 数 で 除 せば 賃 金 と 労 働 生 産 性 の 比 率 となり 単 位 労 働 コストの 変 動 が 賃 金 上 昇 率 と 生 産 性 上 昇 率 の 差 で 説 明 できることがわかる( 付 注 1 参 照 ) 製 造 業 の 単 位 労 働 コストは 21 年 1~3 月 期 には 前 年 比 34.8%という 記 録 的 な 上 昇 を 示 し た 足 下 の21 年 4~6 月 期 には 前 年 比 26.4%とやや 上 昇 率 は 鈍 化 したものの 引 き 続 き 高 い 伸 びが 続 いている 他 方 非 製 造 業 をみると 製 造 業 とは 対 照 的 に 単 位 労 働 コストの 上 昇 は21 年 1~3 月 期 が 前 年 比.8% 4~6 月 期 が 同 4.1%とわずかなものにとどまっている ( 前 年 比 %) 4 第 Ⅱ-1-14 図 単 位 労 働 コストの 動 向 ( 製 造 業 非 製 造 業 ) 3 製 造 業 非 製 造 業 34.8 26.4 2 1 4.1.8 1 2 63 元 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 年 ( 注 ) 単 位 労 働 コスト= 人 件 費 / ただし 基 準 年 の 品 目 ウェイトの 算 定 に 使 用 する 付 加 価 値 額 について 鉱 工 業 指 数 は 減 価 償 却 費 を 除 いた 付 加 価 値 額 を 第 3 次 産 業 活 動 指 数 では 減 価 償 却 費 を 含 めた 粗 付 加 価 値 額 を 使 用 していることに 留 意 資 料 : 法 人 企 業 統 計 ( 財 務 省 ) 鉱 工 業 指 数 第 3 次 産 業 活 動 指 数 実 際 単 位 労 働 コストの 変 動 ( 前 年 比 )を 賃 金 上 昇 率 と 労 働 生 産 性 上 昇 率 に 分 解 してみる と 製 造 業 では2 年 後 半 以 降 売 上 の 急 減 を 受 けて 賃 金 の 削 減 が 行 われているものの 労 働 生 産 性 が 賃 金 減 少 率 を 上 回 って 大 幅 に 低 下 していることから 単 位 労 働 コストの 急 上 昇 を 招 いていることがわかる( 第 Ⅱ-1-15 図 ) 他 方 非 製 造 業 では 賃 金 は 同 様 に 下 落 して いるものの 労 働 生 産 性 の 低 下 がそれほど 大 きくなかったことから 単 位 労 働 コストの 上 昇 が 製 造 業 に 比 べ 低 く 抑 えられていることがわかる( 第 Ⅱ-1-16 図 ) - 42 -
第 Ⅱ-1-15 図 単 位 労 働 コストの 変 動 要 因 分 解 ( 製 造 業 ) ( 前 年 比 % %ポイント) 4 3 34.8 26.4 2 1 1 2 3 賃 金 上 昇 率 労 働 生 産 性 上 昇 率 ( 逆 符 号 ) 単 位 労 働 コスト 4 61 62 63 元 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 年 ( 注 ) 単 位 労 働 コストの 分 解 については 付 注 1を 参 照 資 料 : 法 人 企 業 統 計 ( 財 務 省 ) 労 働 力 調 査 ( 総 務 省 ) 鉱 工 業 指 数 - 43 -
( 前 年 比 % %ポイント) 4 第 Ⅱ-1-16 図 単 位 労 働 コストの 変 動 要 因 分 解 ( 非 製 造 業 ) 3 2 1 賃 金 上 昇 率 労 働 生 産 性 上 昇 率 ( 逆 符 号 ) 単 位 労 働 コスト 4.1 1 2 3 4 元 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 年 ( 注 ) 単 位 労 働 コストの 分 解 については 付 注 1を 参 照 資 料 : 法 人 企 業 統 計 ( 財 務 省 ) 労 働 力 調 査 ( 総 務 省 ) 第 3 次 産 業 活 動 指 数 なお 売 上 高 の 増 減 は 稼 働 率 の 増 減 を 通 じて 産 業 の 労 働 生 産 性 に 大 きな 影 響 を 与 え る( 付 注 2 参 照 ) 第 Ⅱ-1-17 図 は 製 造 業 及 び 非 製 造 業 について 稼 働 率 と 労 働 生 産 性 の 関 係 を 示 したものであるが これをみると 両 者 は 極 めて 相 似 した 動 きを 示 しており 短 期 的 な 労 働 生 産 性 の 変 動 がおもに 稼 働 率 の 変 動 によるものであることがわかる そのうえで 過 去 からの 稼 働 率 の 変 動 幅 をみると 製 造 業 では 毎 期 の 変 動 が 大 きい 一 方 非 製 造 業 では 変 動 は 相 対 的 に 小 さいことがみてとれる このようなことから 非 製 造 業 は 製 造 業 に 比 べ 景 気 循 環 に 対 する 感 応 度 が 低 いと 言 える - 44 -
第 Ⅱ-1-17 図 労 働 生 産 性 と 稼 働 率 ( 前 年 比 %) 2 製 造 工 業 ( 前 年 比 % ) 2 非 製 造 業 1 1 1 1 2 2 労 働 生 産 性 3 労 働 生 産 性 稼 働 率 指 数 3 稼 働 率 指 数 4 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 年 ( 注 ) 製 造 工 業 の 稼 働 率 は 鉱 工 業 生 産 指 数 の 稼 働 率 指 数 ( 原 指 数 )を 使 用 した 非 製 造 業 の 稼 働 率 は 第 3 次 産 業 活 動 指 数 ( 原 指 数 )を 非 製 造 業 の 資 本 ストック( 取 付 けベース)で 除 したものから 下 方 トレンドを 除 いたものを 使 用 した 資 料 : 資 本 ストック 統 計 ( 内 閣 府 ) 鉱 工 業 指 数 第 3 次 産 業 活 動 指 数 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 年 生 産 のグローバル 化 によって 耐 久 消 費 財 を 中 心 に 販 売 価 格 の 急 速 な 下 落 が 中 長 期 的 に 持 続 するなかで( 第 Ⅱ-1-18 図 ) 足 下 での 世 界 的 な 消 費 需 要 の 落 ち 込 みは 我 が 国 製 造 業 の 国 内 での 価 格 転 嫁 を 一 層 困 難 なものとしている 第 Ⅱ-1-18 図 消 費 者 物 価 指 数 の 推 移 ( 平 成 17 年 =1) 14 13 12 総 合 サービス 耐 久 消 費 財 11 1 9 8 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 年 資 料 : 消 費 者 物 価 指 数 ( 総 務 省 ) - 45 -
第 Ⅱ-1-19 図 及 び 第 Ⅱ-1-2 図 は 企 業 の 価 格 転 嫁 の 動 向 をみるために 製 造 業 並 びに 非 製 造 業 について 単 位 販 売 価 格 の 変 動 を 単 位 労 働 コスト 単 位 非 労 働 コスト(= 資 本 コス ト) 及 び 単 位 利 益 に 分 解 したものである 単 位 販 売 価 格 ( 名 目 粗 付 加 価 値 額 / )とは 実 質 付 加 価 値 1 単 位 あたり の 採 算 で 産 出 価 格 とも 呼 ばれる 名 目 粗 付 加 価 値 額 は 人 件 費 減 価 償 却 費 支 払 利 息 等 及 び 税 引 前 利 益 の 合 計 であるから 単 位 販 売 価 格 は 単 位 労 働 コスト( 人 件 費 / 実 質 粗 付 加 価 値 額 ) 単 位 非 労 働 コスト( 資 本 コスト/ ) 及 び 単 位 利 益 ( 税 引 前 利 益 / 実 質 粗 付 加 価 値 額 )の3つに 分 解 できる すなわち 単 位 販 売 価 格 = 単 位 労 働 コスト+ 単 位 非 労 働 コスト( 資 本 コスト)+ 単 位 利 益 となる( 付 注 3 参 照 ) コスト( 単 位 労 働 コスト 及 び 単 位 非 労 働 コスト)の 上 昇 局 面 であっても コストの 増 加 分 を 価 格 に 転 嫁 することができれば 単 位 利 益 はプラスを 維 持 することができるが コスト 上 昇 分 を 価 格 に 転 嫁 できない 場 合 単 位 利 益 はマイナスとなる 実 際 製 造 業 の 単 位 利 益 の 動 きをみると 単 位 販 売 価 格 が 大 きく 低 下 した19 年 から2 年 ま での 間 は 単 位 利 益 を 大 幅 に 減 少 させることで 対 応 していたことがみてとれる 21 年 以 降 は 単 位 販 売 価 格 は 改 善 に 転 じたものの 単 位 労 働 コスト 及 び 単 位 非 労 働 コストが 急 増 した 結 果 単 位 利 益 は 引 き 続 き 大 きく 減 少 している 販 売 価 格 の 下 落 やコストの 上 昇 に 対 して 価 格 転 嫁 ではなく 利 益 の 圧 縮 削 減 で 対 応 しなければならない 我 が 国 製 造 業 の 苦 しい 立 場 がみてとれ る 他 方 非 製 造 業 についてみてみると 製 造 業 と 同 様 19 年 以 降 単 位 販 売 価 格 が 下 落 する なか 単 位 利 益 は 減 少 しているが 減 少 幅 は 製 造 業 に 比 べ 小 幅 にとどまっており 足 下 での 価 格 転 嫁 は 製 造 業 ほど 困 難 ではないことがみてとれる 非 製 造 業 のこうした 動 きの 背 景 には サービス では 1 供 給 (サービスの 提 供 )と 消 費 (サ ービスの 受 け 取 り)が 同 時 かつ 相 対 で 行 われる 必 要 があることから 製 造 業 とは 異 なり グ ローバル 化 の 影 響 を 受 けにくいこと 2 家 計 支 出 の 中 で 家 賃 や 電 力 ガス 水 道 など 人 件 費 と は 関 係 なく 価 格 が 決 定 されている 費 目 が 比 較 的 大 きなウェイトを 占 めていること などといった 非 製 造 業 としての 特 徴 が 挙 げられる 注 ) 注 ) 実 際 の 計 算 にあたっては データの 制 約 から 資 本 コストには 減 価 償 却 費 及 び 支 払 利 息 等 の 合 計 税 引 前 利 益 には 経 常 利 益 を 使 用 した - 46 -
( 前 年 比 % %ポイント) 4 第 Ⅱ-1-19 図 単 位 販 売 価 格 の 変 動 要 因 分 解 ( 製 造 業 ) 3 2 単 位 利 益 単 位 非 労 働 コスト 単 位 労 働 コスト 単 位 販 売 価 格 1.3 1 2 3 4 54 55 56 57 58 59 6 61 62 63 元 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 年 ( 注 ) 単 位 販 売 価 格 の 分 解 については 付 注 1 及 び3を 参 照 資 料 : 鉱 工 業 指 数 法 人 企 業 統 計 ( 財 務 省 ) 労 働 力 調 査 ( 総 務 省 ) ( 前 年 比 % %ポイント) 4 第 Ⅱ-1-2 図 単 位 販 売 価 格 の 変 動 要 因 分 解 ( 非 製 造 業 ) 3 2 単 位 利 益 単 位 非 労 働 コスト 単 位 労 働 コスト 単 位 販 売 価 格 1 1.1 1 2 3 4 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 年 ( 注 ) 単 位 販 売 価 格 の 分 解 については 付 注 1 及 び3を 参 照 資 料 : 法 人 企 業 統 計 ( 財 務 省 ) 労 働 力 調 査 ( 総 務 省 ) 第 3 次 産 業 活 動 指 数 - 47 -
(3) 雇 用 賃 金 の 動 向 すでにみたように 製 造 業 における 単 位 労 働 コストは21 年 1~3 月 期 にいったん 大 幅 に 上 昇 した 後 4~6 月 期 には 大 きく 伸 びを 鈍 化 させている こうした 製 造 業 の 動 きを 受 けて 全 産 業 ベースでみた 単 位 労 働 コストも4~6 月 期 には 上 昇 率 が 大 きく 鈍 化 しているが 失 業 率 ( 完 全 失 業 率 ) 及 び 賃 金 ( 名 目 雇 用 者 報 酬 )の 悪 化 には 依 然 として 歯 止 めがかかっていない( 第 Ⅱ -1-21 図 ) 単 位 労 働 コストの 上 昇 分 を 価 格 転 嫁 などによって 吸 収 することができずに 収 益 の 急 速 な 悪 化 に 直 面 した 企 業 は 人 件 費 等 コストの 削 減 によって 対 応 せざるを 得 ず その 場 合 には 雇 用 賃 金 情 勢 の 一 段 の 悪 化 は 避 けられなくなる 実 際 単 位 労 働 コストの 水 準 が 足 下 でも 引 き 続 き 高 水 準 にあることに 鑑 みれば 改 善 に 転 じた 企 業 収 益 とは 対 照 的 に 雇 用 や 賃 金 の 厳 しさは 今 後 もしばらくの 間 続 くことが 予 想 される 第 Ⅱ-1-21 図 単 位 労 働 コストと 雇 用 者 報 酬 失 業 率 (σ) 4 7 9 月 期 3.7σ 3 2 名 目 雇 用 者 報 酬 ( 前 年 比 ) 単 位 労 働 コスト( 前 年 比 ) 完 全 失 業 率 ( 前 年 差 ) 1 1 2 3 4 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 年 ( 注 ) 各 データは 平 均 値 と 標 準 偏 差 を 用 いて 正 規 化 してある 資 料 : 労 働 力 調 査 ( 総 務 省 ) 国 民 経 済 計 算 ( 内 閣 府 ) 以 下 では 製 造 業 を 中 心 に 厳 しい 雇 用 環 境 が 続 くなか リーマンショックの 前 後 で 非 製 造 業 を 含 めた 我 が 国 全 体 の 雇 用 環 境 がどのように 変 化 しているのかをみてみる 第 Ⅱ-1-22 図 は リーマンショックの2 年 9 月 以 降 21 年 8 月 までの 間 の 農 林 業 を 除 く 産 業 別 雇 用 者 数 の 増 減 をみたものであるが この 間 製 造 業 が 93 万 人 減 少 した 一 方 で 非 製 造 業 における 雇 用 者 増 加 数 は 医 療 福 祉 サービスを 中 心 に 計 21 万 人 にとどまっている - 48 -
これは 非 製 造 業 では 医 療 福 祉 サービスなどで 雇 用 が 大 幅 に 増 加 する 一 方 で 卸 小 売 業 ( 13 万 人 )や 職 業 紹 介 労 働 者 派 遣 業 ( 13 万 人 ) 他 に 分 類 されないサービス 業 ( 1 9 万 人 )などで 雇 用 が 大 きく 減 少 しているためである こうして 短 期 的 には 製 造 業 での 急 激 な 雇 用 喪 失 が 非 製 造 業 での 雇 用 創 出 を 大 きく 上 回 っていることがわかる しかしながら リーマンショック 以 前 の19 年 1 月 から21 年 8 月 までのより 長 期 間 での 産 業 別 雇 用 者 数 ( 農 林 業 を 除 く)の 増 減 をみると( 第 Ⅱ-1-23 図 ) 製 造 業 ( 15 万 人 ) 及 び 建 設 業 ( 22 万 人 )が 雇 用 を 計 127 万 人 減 少 させた 一 方 で 非 製 造 業 における 雇 用 者 数 は 医 療 注 福 祉 サービスや 宿 泊 業 飲 食 サービス 業 を 中 心 に 計 133 万 人 も 増 加 している ) 第 Ⅱ-1-22 図 産 業 別 業 種 別 雇 用 者 数 増 減 (2 年 9 月 21 年 8 月 ) ( 万 人 2 年 9 月 21 年 8 月 の 増 減 ) 8 4 鉱 業, 採 石 業, 砂 利 採 取 業 3 建 設 業 2 非 製 造 業 21 電 気 ガス 熱 供 給 水 道 業 8 運 輸 業, 郵 便 業 13 金 融 業, 保 険 業 3 学 術 研 究, 専 門 技 術 サービス 業 5 宿 泊 業, 飲 食 サービス 業 4 生 活 関 連 サービス 業, 娯 楽 業 4 医 療, 福 祉 42 機 械 等 修 理 業 2 4 8 12 非 農 林 業 8 漁 業 2 製 造 業 93 情 報 通 信 業 6 卸 売 業, 小 売 業 13 不 動 産 業, 物 品 賃 貸 業 3 教 育, 学 習 支 援 業 6 郵 便 局 協 同 組 合 1 サービス 業 ( 他 に 分 類 されないもの) -19 廃 棄 物 処 理 業 3 職 業 紹 介 労 働 者 派 遣 業 13 その 他 の 事 業 サービス 業 4 公 務 1 資 料 : 労 働 力 調 査 ( 総 務 省 ) 注 ) 同 図 では この 間 郵 便 局 協 同 組 合 の 雇 用 が 19 万 人 減 少 する 一 方 で 運 輸 業 郵 便 業 における 雇 用 が 同 数 増 加 しているが これは 日 本 郵 政 公 社 が19 年 1 月 1 日 に 民 営 分 社 化 されたことに 伴 い 産 業 分 類 間 の 移 動 が 行 われたためであることに 留 意 - 49 -
第 Ⅱ-1-23 図 産 業 別 業 種 別 雇 用 者 数 増 減 (19 年 1 月 21 年 8 月 ) ( 万 人 19 年 1 月 21 年 8 月 の 増 減 ) 16 12 8 4 非 農 林 業 5 漁 業 3 鉱 業, 採 石 業, 砂 利 採 取 業 2 非 製 造 業 133 情 報 通 信 業 2 運 輸 業, 郵 便 業 19 卸 売 業, 小 売 業 9 金 融 業, 保 険 業 1 不 動 産 業, 物 品 賃 貸 業 3 宿 泊 業, 飲 食 サービス 業 29 生 活 関 連 サービス 業, 娯 楽 業 13 医 療, 福 祉 72 サービス 業 ( 他 に 分 類 されないもの) 2 機 械 等 修 理 業 8 その 他 の 事 業 サービス 業 19 4 8 12 建 設 業 22 製 造 業 15 電 気 ガス 熱 供 給 水 道 業 3 学 術 研 究, 専 門 技 術 サービス 業 3 教 育, 学 習 支 援 業 13 郵 便 局 協 同 組 合 19 廃 棄 物 処 理 業 1 職 業 紹 介 労 働 者 派 遣 業 4 公 務 6 資 料 : 労 働 力 調 査 ( 総 務 省 ) さらに 第 Ⅱ-1-24 図 は2 年 1 月 以 降 の 産 業 別 の 雇 用 者 数 の 増 減 ( 前 年 同 月 差 )を 示 したものであるが これをみると 低 迷 を 続 けていた 製 造 業 雇 用 者 数 の 伸 びが21 年 3 月 以 降 大 幅 な 減 少 に 転 じている 反 面 非 製 造 業 の 雇 用 はほぼ 一 貫 して 増 加 を 続 けている そして 21 年 3 月 以 降 製 造 業 の 雇 用 が 大 幅 な 減 少 に 転 じた 後 は 逆 に 非 製 造 業 は 増 加 幅 を 拡 大 さ せており 製 造 業 で 失 業 した 雇 用 者 の 一 部 が 非 製 造 業 によって 吸 収 されている 実 態 がうかが える - 5 -
第 Ⅱ-1-24 図 産 業 別 雇 用 者 数 増 減 ( 前 年 同 月 差 万 人 ) 8 6 4 非 製 造 業 35 2 2 建 設 業 11 4 6 8 1 12 1 2 3 4 5 6 2 年 資 料 : 労 働 力 調 査 ( 総 務 省 ) 7 8 9 1 11 12 1 2 3 4 5 6 21 年 非 農 林 業 83 製 造 業 16 7 8 9 1 11 12 その 一 方 で 完 全 失 業 者 から 非 労 働 力 (15 歳 以 上 人 口 から 就 業 者 及 び 完 全 失 業 者 を 除 いたもの)に 移 動 した 者 の 数 はリーマンショックの2 年 秋 以 降 急 増 している( 第 Ⅱ-1-25 図 ) 一 般 に 景 気 後 退 期 における 失 業 者 から 非 労 働 力 への 移 動 は なかなか 就 職 先 が 見 つか らないことによる 就 業 意 欲 の 低 下 を 反 映 したものとされるが 実 際 に 非 労 働 力 となった 原 因 を 把 握 するためには ストックとしての 失 業 者 数 の 増 加 による 効 果 と 就 業 状 態 間 のフローの 注 変 化 による 効 果 ( 推 移 確 率 という この 場 合 は 完 全 失 業 者 が 非 労 働 力 に 移 動 する 確 率 ) ) の2 つに 分 解 してみることが 必 要 である 注 ) 就 業 状 態 間 のフローとは 15 歳 以 上 人 口 のうち 就 業 している 者 ( 就 業 者 ) 失 業 している 者 ( 完 全 失 業 者 ) 及 び それらのいずれにも 属 さない 者 ( 非 労 働 力 )の 3 つの 状 態 間 の 人 の 移 動 を 指 す また 推 移 確 率 とは ある 状 態 の 者 が 別 の 状 態 に 移 動 する 確 率 をいう ここでは 前 月 に 完 全 失 業 者 で 当 月 非 労 働 力 となった 者 の 数 を 前 月 の 完 全 失 業 者 数 で 割 ったものを 使 用 した この 数 値 が 上 昇 していれば 何 らかの 理 由 によって 就 業 意 欲 が 低 下 していることが 疑 われる - 51 -
第 Ⅱ-1-25 図 就 業 状 態 間 のフロー( 全 産 業 ベース) ( 万 人 ) 完 全 失 業 者 非 労 働 力 31. 3.5 3. 29.5 29. 28.5 28. 27.5 27. 26.5 18 年 19 年 2 年 21 年 ( 注 ) 中 心 化 12か 月 移 動 平 均 資 料 : 労 働 力 調 査 ( 総 務 省 ) そこで 完 全 失 業 者 が 非 労 働 力 に 移 動 する 確 率 ( 推 移 確 率 )をみてみると( 第 Ⅱ-1-26 図 ) リーマンショックの2 年 秋 までは 推 移 確 率 の 変 動 が 完 全 失 業 者 から 非 労 働 力 に 移 動 した 者 の 数 の 変 動 と 極 めて 近 い 動 きを 示 している これは 完 全 失 業 者 の 数 が 低 位 で 推 移 す るなか 推 移 確 率 の 変 動 が そのまま 完 全 失 業 者 から 非 労 働 力 に 移 動 する 者 の 数 の 変 動 に 表 れていることを 示 している 他 方 2 年 秋 以 降 は 推 移 確 率 が 低 下 を 続 ける 中 で 完 全 失 業 者 から 非 労 働 力 に 移 動 する 者 の 数 が 反 転 上 昇 しており 両 者 の 相 関 は 完 全 に 失 われている 推 移 確 率 が 低 下 しているにもかかわらず 非 労 働 力 に 移 動 する 者 の 数 が2 年 秋 以 降 増 加 に 転 じているのは 推 移 確 率 の 低 下 傾 向 を 上 回 って 新 たに 失 業 者 となる 者 の 数 が 急 増 してい るからにほかならない こうしたことから 完 全 失 業 者 から 非 労 働 力 に 移 動 した 者 の 数 が 増 加 に 転 じた 理 由 は 完 全 失 業 者 が 非 労 働 力 に 移 動 する 確 率 ( 割 合 )が 高 まったのではなく 完 全 失 業 者 の 数 自 体 が 急 増 したことによるものであることがわかる そして 完 全 失 業 者 が 非 労 働 力 に 移 動 する 確 率 が 低 下 していることは 雇 用 環 境 が 厳 しさ を 増 すなか 人 々の 求 職 意 欲 がますます 高 まっていることを 表 している - 52 -
第 Ⅱ-1-26 図 就 業 状 態 間 のフローと 推 移 確 率 ( 全 産 業 ベース) ( 万 人 ) 完 全 失 業 者 非 労 働 力 31 2 年 9 月 12% 3 29 11% 28 1% 27 26 前 月 完 全 失 業 者 で 当 月 非 労 働 力 となった 者 の 数 推 移 確 率 ( 目 盛 り 右 ) 18 年 19 年 2 年 21 年 9% ( 注 )1.t 期 に 完 全 失 業 者 であった 者 の 数 を U t 非 労 働 力 であった 者 の 数 を N t 前 月 の 状 態 X から 当 月 の 状 態 Y へ 移 動 した 者 の 数 をXY t とすれば t-1 期 に 完 全 失 業 者 であった 者 がt 期 に 非 労 働 力 になる 確 率 ( 推 移 確 率 )un t は un t =UN t /U t-1 と 表 される 2. 前 月 完 全 失 業 者 で 当 月 非 労 働 力 となった 者 の 数 は 中 心 化 12か 月 移 動 平 均 を 施 している 資 料 : 労 働 力 調 査 ( 総 務 省 ) (5) まとめ 以 上 のように 個 人 消 費 を 取 り 巻 く 雇 用 所 得 環 境 は 依 然 厳 しい 状 況 にある 輸 出 の 回 復 や 政 府 の 景 気 対 策 等 を 背 景 に 企 業 収 益 は 底 打 ちから 回 復 に 向 かっているが 生 産 活 動 は 依 然 として 極 めて 低 い 水 準 にある こうしたことから 企 業 は 引 き 続 き 人 件 費 等 のコスト 削 減 を 進 めている 賃 金 や 雇 用 の 先 行 き 不 安 が 広 がるなか 国 内 の 消 費 にとっては 依 然 厳 しい 環 境 が 続 いている - 53 -
付 注 1 単 位 労 働 コスト 単 位 非 労 働 コスト 及 び 単 位 利 益 単 位 労 働 コスト ULC 人 件 費 人 件 費 雇 用 者 数 雇 用 者 数 賃 金 労 働 生 産 性..(1) 単 位 非 労 働 コスト UNLC 資 本 コスト 減 価 償 却 費 支 払 利 息 等..(2) 単 位 利 益 UP 経 常 利 益..(3) 付 注 2 売 上 高 稼 働 率 及 び 生 産 性 の 関 係 売 上 高 と 付 加 価 値 (Y )は 異 なる 概 念 であり 両 者 は 明 確 に 区 別 して 考 える 必 要 がある 売 上 高 と 付 加 価 値 は 必 ずしも 比 例 関 係 にはない( 売 上 高 が 増 えても それを 上 回 って 労 働 投 入 等 生 産 要 素 の 投 入 量 が 増 加 してしまえば 付 加 価 値 は 逆 に 減 少 し てしまう) 売 上 高 の 増 加 が 労 働 生 産 性 の 上 昇 をもたらすのは 短 期 的 には 稼 働 率 の 上 昇 を 通 じてのみである 以 下 はその 過 程 の 概 略 である 1) 売 上 高 稼 働 率 の 関 係 企 業 が 稼 働 率 Z を 上 げるのは 売 上 ( 出 荷 及 び 在 庫 )を 増 加 させるために 生 産 を 拡 大 するときである そして 生 産 を 拡 大 させるとき 企 業 は まず 既 存 設 備 の 稼 働 率 Z を 上 げる ことで 対 応 する 逆 に 売 上 高 の 減 少 を 受 けて 生 産 を 縮 小 させるとき 企 業 は まず 稼 働 率 を 下 げることによって 対 応 する よって 売 上 高 稼 働 率 の 関 係 が 成 立 する 2) 稼 働 率 労 働 生 産 性 の 関 係 一 般 的 なコブ ダグラス 型 の 生 産 関 数 に 明 示 的 に 稼 働 率 Z を 組 み 込 んだ 生 産 関 数 を 以 下 のように 定 義 する - 54 -
Y = A (ZK ) α L (1-α ), <α<1 ただし Y A L Z K α : 実 質 付 加 価 値 : 全 要 素 生 産 性 : 労 働 投 入 : 稼 働 率 : 資 本 ストック 残 高 : 資 本 分 配 率 Y は 一 次 同 次 であるから Y /L = A (1/L ZK ) α (1/L L ) (1-α ) = A ( ZK/L ) α が 成 立 する 左 辺 の Y /L は 労 働 生 産 性 右 辺 の ZK /L は 資 本 装 備 率 を 示 す すなわち 労 働 生 産 性 Y /L は 全 要 素 生 産 性 A 稼 働 率 Z 及 び 資 本 ストッ ク K に 比 例 し 労 働 投 入 L に 反 比 例 する ここで A K 及 び L が 一 定 とすると 稼 働 率 Z の 上 昇 ( 低 下 )は 左 辺 の 増 大 ( 減 少 ) すなわち 労 働 生 産 性 の 上 昇 ( 低 下 )をもたらす 3) 結 論 以 上 から 売 上 高 の 増 加 ( 減 少 ) 稼 働 率 の 上 昇 ( 低 下 ) 労 働 生 産 性 上 昇 ( 低 下 ) という 関 係 が 成 立 する 付 注 3 単 位 販 売 価 格 の 変 動 要 因 分 解 単 位 販 売 価 格 名 目 粗 付 加 価 値 額..(1) 人 件 費 減 価 償 却 費 支 払 利 息 等 経 常 利 益..(2) 単 位 労 働 コスト 単 位 非 労 働 コスト 単 位 利 益..(3) - 55 -