All rights are reserved and copyright of this manuscript belongs to the authors. This manuscript has been published without reviewing and editing as received from the authors: posting the manuscript to SCIS 2010 does not prevent future submissions to any journals or conferences with proceedings. SCIS 2010 The 2010 Symposium on Cryptography and Information Security Takamatsu, Japan, Jan. 19-22, 2010 The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers 痴 漢 冤 罪 対 策 の 一 方 式 の 提 案 A proposal of a defense against a false accusation of sexual molestation 藤 井 裕 樹 * 中 澤 優 美 子 ** 安 倍 史 江 ** 山 本 匠, 西 垣 正 勝, Yuki Fujii Yumiko Nakazawa Fumie Abe Takumi Yamamoto Masakatsu Nishigaki あらまし 痴 漢 被 害 が 被 害 者 の 証 言 のみで 簡 単 に 立 証 できるようになり, 痴 漢 被 害 の 受 理 件 数 が 増 加 するとともに, 痴 漢 冤 罪 という 新 たな 問 題 が 発 生 している. 痴 漢 冤 罪 は, 冤 罪 を 証 明 するための 客 観 的 証 拠 が 得 られることが 少 なく,また, 事 象 の 存 在 を 証 明 することに 比 べて 不 存 在 の 証 明 が 法 律 的 に 困 難 であることから, 容 疑 者 ( 冤 罪 被 害 者 )は 圧 倒 的 に 不 利 な 立 場 に 置 かれる.そこで 我 々は, 痴 漢 冤 罪 を 証 明 する 客 観 的 証 拠 の 確 保 を 技 術 的 にサポートするため,(i) 痴 漢 の 犯 行 により 当 事 者 に 生 じた 体 内 状 態 と(ii) 痴 漢 発 生 時 の 当 事 者 の 接 触 状 態 の 2 つの 観 点 から 冤 罪 対 策 方 式 を 提 案 する. キーワード 痴 漢 冤 罪 人 体 通 信 1 はじめに しかし, 痴 漢 の 立 証 が 容 易 に 行 えるようになったこと 近 年, 痴 漢 が 社 会 問 題 となっている. 痴 漢 行 為 とは 相 手 の 意 に 反 してわいせつな 行 為 を 働 くことを 意 味 する. 痴 漢 行 為 は 犯 罪 行 為 に 相 当 するため, 逮 捕 者 は 法 律 に 基 づいて 罰 せられる. 痴 漢 が 社 会 問 題 として 注 目 される 以 前 は, 痴 漢 事 件 が 発 生 しても 立 証 できた 事 例 が 稀 であり, 痴 漢 被 害 に 遭 っ ても 泣 き 寝 入 りをする 被 害 者 が 多 かった.しかし,1997 年 に 男 女 共 同 参 画 審 議 会 が 設 置 されたことが,この 問 題 に 大 きな 影 響 を 与 えることとなった. 男 女 平 等 の 動 きが 活 発 化 し, 特 に, 女 性 に 対 する 暴 力 嫌 がらせ 迷 惑 行 為 を 無 くす 運 動 が 盛 んに 行 われるようになった[1].これ により, 痴 漢 等 の 性 犯 罪 に 対 する 取 締 りが 強 化 されるよ うになり, 被 害 者 女 性 の 証 言 のみで 痴 漢 を 立 証 できるよ うになった. このような 背 景 から, 近 年, 痴 漢 被 害 の 受 理 件 数 が 急 増 している.さらに, 女 性 のみ 乗 車 可 能 な 女 性 専 用 車 両 [2]や, 容 易 に 目 撃 者 の 証 言 を 得 ることのできる 目 撃 者 カ ード[3]といった, 様 々な 痴 漢 対 策 が 導 入 され 始 めるよう になった. * 静 岡 大 学 情 報 学 部, 432-8011 浜 松 市 中 区 城 北 3-5-1,Faculty of Informatics, Shizuoka University, 3-5-1 Johoku, Naka, Hamamatsu, 432-8011 Japan * * 静 岡 大 学 大 学 院 情 報 学 研 究 科, 432-8011 浜 松 市 中 区 城 北 3-5-1, Graduate school of Information, Shizuoka University, 3-5-1 Johoku, Naka, Hamamatsu, 432-8011 Japan 静 岡 大 学 創 造 科 学 技 術 大 学 院, 432-8011 浜 松 市 中 区 城 北 3-5-1, Graduate School of Science and Technology, Shizuoka University, 3-5-1 Johoku, Naka, Hamamatsu, 432-8011 Japan 日 本 学 術 振 興 会 特 別 研 究 員 (DC) Research Fellow of the Japan Society for the Promotion of Science (DC) 独 立 行 政 法 人 科 学 技 術 振 興 機 構,CREST,Japan Science Technology and Agency, CREST で, 満 員 電 車 での 意 図 しない 接 触 を 痴 漢 と 誤 認 ( 勘 違 い) されたり, 真 の 痴 漢 加 害 者 と 間 違 えられることによって, 実 際 には 痴 漢 行 為 を 働 いてはいない 無 実 の 人 を 罪 人 ( 痴 漢 加 害 者 )として 逮 捕 し 立 件 する,いわゆる 痴 漢 冤 罪 の 問 題 が 新 たに 浮 上 した.また, 実 際 には 痴 漢 の 事 実 は 存 在 しないにも 関 わらず, 示 談 金 ストレス 解 消 個 人 的 な 恨 み 等 を 目 的 として, 痴 漢 被 害 をでっちあげる 虚 偽 告 訴 も 増 加 した. このような 誤 認 や 虚 偽 告 訴 によって, 痴 漢 冤 罪 が 起 き てしまう 主 な 原 因 は, 冤 罪 を 証 明 するための 客 観 的 証 拠 が 得 られにくいこと[4]や,そのような 客 観 的 証 拠 が 無 い 痴 漢 事 件 において, 被 害 者 に 対 する 情 動 から, 被 害 を 訴 える 人 間 の 証 言 が 最 も 優 先 度 の 高 い 証 拠 として 取 り 扱 われることが 多 いからと 考 えられる.また, 悪 魔 の 証 明 という 言 葉 が 示 すように, 法 律 の 観 点 から, 事 象 の 存 在 ( 痴 漢 行 為 を 行 った)を 証 明 することよりも, 事 象 の 不 存 在 ( 痴 漢 行 為 を 行 っていない)を 証 明 することの ほうがはるかに 困 難 であるため, 冤 罪 の 立 証 は 非 常 に 難 しいとされている. さらに 悪 いことに, 容 疑 者 を 取 り 調 べる 警 察 官 も, 被 害 を 訴 える 人 間 ( 痴 漢 被 害 者 や 冤 罪 加 害 者 )の 証 言 から, 容 疑 者 は 痴 漢 行 為 を 行 ったと 決 め 付 けて 捜 査 を 進 めるこ とも 少 なくないとされており, 長 時 間 にわたって 容 疑 者 を 拘 留 し 執 拗 に 取 り 調 べを 行 うとも 言 われている[5]. 長 期 にわたる 拘 留 の 末, 自 分 の 身 の 潔 白 を 証 明 できたとし ても, 長 い 間 痴 漢 の 容 疑 で 拘 留 されていたことが 周 りに 知 られるだけで, 自 分 や 親 族 の 社 会 的 立 場 まで 脅 かされ てしまう. 1
以 上 のような 理 由 から, 最 近 では, 関 係 者 の 証 言 だけ からではなく,DNA 鑑 定 [7], 指 紋 鑑 定 [8], 繊 維 鑑 定 [9] 等, 技 術 的 に 裏 付 けがされた 客 観 的 証 拠 を 積 極 的 に 収 集 し, 多 角 的 に 事 件 の 検 討 を 試 みることで, 痴 漢 冤 罪 事 件 を 撲 滅 していこうとする 動 きがみられている[6]. そこで 著 者 らは, 事 件 の 多 角 的 な 検 討 をサポートする 新 たな 技 術 として,(i) 痴 漢 の 犯 行 により 当 事 者 に 生 じた 体 内 状 態,(ii) 痴 漢 発 生 時 の 当 事 者 の 接 触 状 態,の 2 つ の 観 点 に 注 目 し, 痴 漢 事 件 の 客 観 的 証 拠 を 集 める 方 式 を 提 案 する. 以 下,2 章 で 現 状 取 り 組 まれている 客 観 的 証 拠 の 収 集 技 術 を 紹 介 する.3 章 および4 章 で 新 たな 客 観 的 証 拠 を 集 めるための2 種 類 のアプローチを 提 案 し,それぞれの 方 式 ついて 議 論 する. 最 後 に.5 章 で 本 稿 をまとめ, 今 後 の 課 題 を 示 す. 2 現 状 の 取 り 組 み 痴 漢 事 件 の 客 観 的 証 拠 を 集 める 技 術 的 なアプローチ として, 現 在 までのところ DNA 鑑 定 [7], 指 紋 鑑 定 [8], 繊 維 鑑 定 [9]の 3 種 類 がよく 知 られている. DNA 鑑 定 DNA 鑑 定 とは, 遺 伝 子 情 報 を 担 って いる DNA の 中 の 核 酸 塩 基 配 列 の 繰 り 返 し 回 数 が 個 人 により 差 があることを 利 用 し,その 繰 り 返 し 回 数 を 数 えることで 個 人 を 特 定 する 方 法 である[7]. DNA は 人 の 体 を 構 成 するすべての 細 胞 に 存 在 する ため, 他 人 の 皮 膚 に 触 れただけで 他 人 の DNA が 自 分 に 付 着 し, 他 人 にも 自 分 の DNA が 付 着 すると 言 われている.この DNA を 調 べることで 誰 が 触 れた かわかる 方 式 である. 指 紋 鑑 定 指 紋 鑑 定 とは, 指 先 の 皮 膚 にある 模 様 を 利 用 して 個 人 を 特 定 する 方 法 であり. 大 きく 分 けて 三 種 類 の 方 法 に 分 けられる. 指 紋 の 隆 線 の 形 で 鑑 定 する 隆 線 縁 鑑 定 法, 隆 線 にある 汗 腺 孔 の 形 や 間 隔 位 置 などで 鑑 定 する 汗 腺 孔 鑑 定 法, 特 徴 点 間 の 距 離 や 角 度 を 測 り 鑑 定 する 特 徴 点 鑑 定 法 が ある[8]. 手 の 表 皮 には 多 くのしわ 模 様 があり, 更 に 表 面 はいつも 無 色 透 明 な 汗 が 出 ている.この 汗 によ るしわ 模 様 が 触 れた 物 に 付 着 することで 指 紋 が 残 留 する.この 模 様 を 前 述 した 鑑 定 法 によって 鑑 定 し, 人 物 を 特 定 するのである. 繊 維 鑑 定 繊 維 鑑 定 とは, 身 体 を 触 られたと 訴 えて いる 人 間 の 衣 服 や 下 着 の 繊 維 が 容 疑 者 の 手 に 付 着 していないかどうかを 確 認 する 方 法 である. 訴 えて いる 人 間 の 衣 服 や 下 着 の 繊 維 が 容 疑 者 の 手 から 発 見 されれば, 容 疑 者 は 訴 えている 人 間 の 身 体 を 衣 服 の 上 から 意 図 的 に 強 く 触 れていた( 痴 漢 行 為 を 働 い た)と 推 測 することができる[9]. これらの 技 術 は, 痴 漢 冤 罪 を 撲 滅 していこうとする 社 会 的 な 動 きから, 現 在 積 極 的 に 取 り 入 れられつつある. しかし,これらの 客 観 的 証 拠 (DNA, 指 紋, 繊 維 等 )は, いつも 精 度 よく 収 集 することができるとは 限 らない.ま た, 満 員 電 車 の 中 で 意 図 せず 他 人 に 触 れてしまったこと で, 相 手 の 衣 服 の 繊 維 等 が 自 分 の 手 に 付 着 してしまった り, 相 手 の 衣 服 に 自 分 の 指 紋 が 残 ってしまったりするこ とも 考 えられる.そのような 状 況 で, 万 が 一 痴 漢 に 間 違 えられたら, 自 分 の 身 の 潔 白 を 証 明 するためには, 別 の 観 点 からの 客 観 的 な 証 拠 が 必 要 になってくると 考 えられ る.また, 客 観 的 な 証 拠 が 集 まれば 集 まるほど, 裁 判 で 間 違 った 判 決 がくだされることも 少 なくなると 考 えられ る. そこで 本 稿 では, 従 来 とは 異 なる 方 法 で, 客 観 的 な 証 拠 を 技 術 的 に 集 める 方 式 を 提 案 していく. 提 案 方 式 は 従 来 の 客 観 的 証 拠 と 併 用 することでも, 大 きな 効 果 を 発 揮 すると 考 えられる. 3 ドキドキ 検 知 方 式 3.1 コンセプト 痴 漢 事 件 の 客 観 的 な 証 拠 として, 著 者 らは, 丸 岡 らが 提 案 した 不 審 な 挙 動 の 検 知 による 内 部 犯 対 策 [10-12] に 注 目 した. 丸 岡 らの 方 式 は, 不 審 者 が 不 正 を 行 う 際 の 通 常 とは 異 なる 心 理 状 態 ( 緊 張 感 や 罪 悪 感 )を, 生 理 的 側 面 ( 心 拍 数 の 変 化 )および 行 動 的 側 面 ( 横 目 で 周 囲 を 確 認 する(チラ 見 ))から 観 測 することによって, 不 正 検 知 を 試 みた 方 式 である. 同 様 に, 痴 漢 加 害 者 にも 痴 漢 行 為 を 働 く 際 に, 通 常 と は 異 なる 心 理 状 態 が 起 こりうると 推 測 できる.つまり 容 疑 者 の 心 理 状 態 を 生 理 的 側 面 および 行 動 的 側 面 から 観 測 することで, 容 疑 者 が 本 当 に 痴 漢 行 為 を 働 いたかどうか を 明 らかにすることができると 考 えられる. 3.2 心 理 状 態 の 観 測 による 不 正 検 知 痴 漢 加 害 者 は 痴 漢 行 為 を 働 く 際 に, 罪 を 犯 すことへの 緊 張 感 や 罪 悪 感 を 覚 えたり, 性 的 興 奮 を 得 たりすると 考 えられる.それに 伴 い, 痴 漢 加 害 者 の 身 体 には, 生 理 的 または 行 動 的 に 何 らかの 変 化 ( 脈 拍 数 の 上 昇, 視 線 をキ ョロキョロさせる 等 )が 生 じると 考 えられる( 図 1). 2
変 化 した 状 態 体 温 脈 拍 数 発 汗 量 表 情 ( 視 線 など ) 脈 拍 数 発 汗 量 痴 漢 加 害 者 痴 漢 被 害 者 乗 客 脈 拍 数 一 定 発 汗 量 一 定 変 化 した 状 態 変 化 無 し 図 1 検 出 したい 容 疑 者 の 状 態 変 化 通 常 電 車 内 では 起 こりにくい 異 常 な 心 理 状 態 を 測 る 生 理 的 または 行 動 的 尺 度 として, 以 下 に 示 す 情 報 等 が 挙 げられる. (1) 心 拍 数 の 変 化 (2) 体 温 の 変 化 (3) 発 汗 量 の 変 化 (4) 表 情 ( 視 線 など)の 変 化 上 記 のような 情 報 を 乗 車 中 漏 れなくログとして 残 し, 痴 漢 被 害 が 起 きたとされる 時 間 帯 には, 心 理 状 態 には 問 題 は 無 かった( 脈 拍 数 発 汗 量 体 温 視 線 の 動 きに 変 化 が 見 られない 等 )ことを 示 すことで, 万 が 一 痴 漢 に 間 違 われたときでも, 容 疑 者 の 身 の 潔 白 を 示 す 客 観 的 な 証 拠 として 利 用 することができると 考 えられる. さらに, 被 害 者 に 注 目 すると, 痴 漢 行 為 を 受 けている 間 は, 恐 怖 感 や 緊 張 感 を 覚 えたり, 性 的 ストレスを 感 じ たりしているはずである.それに 伴 い, 被 害 者 の 身 体 に も, 生 理 的 または 行 動 的 に 何 らかの 変 化 が 起 こると 考 え られる. 痴 漢 被 害 が 起 きたとされる 時 間 帯 の, 被 害 を 訴 える 人 間 の 心 理 状 態 のログを 確 認 することで, 本 当 に 痴 漢 の 被 害 を 受 けていたのか,すなわち, 痴 漢 被 害 をでっ ちあげていないのかを 確 認 することも 可 能 だと 考 えられ る. また, 痴 漢 の 容 疑 者 と 被 害 を 訴 える 人 間 の 心 理 状 態 の ログを 照 らし 合 わせ, 両 者 の 間 の 同 期 を 検 査 することで, 両 者 の 間 に 痴 漢 の 事 実 ( 加 害 者 と 被 害 者 の 関 係 )が 存 在 したかどうかを 確 認 することも 可 能 であると 考 えられる ( 図 2). 以 上 から, 本 方 式 では 以 下 のことがいえる. 1). 痴 漢 が 発 生 したとされる 時 間 帯 の 痴 漢 容 疑 者 の 心 理 状 態 のログに,( 性 的 興 奮 や 罪 悪 感 等 から 生 じ る) 生 理 的 または 行 動 的 変 化 が 確 認 されなければ, 容 疑 者 が 痴 漢 加 害 者 である 可 能 性 が 低 く, 変 化 が 確 認 されれば, 容 疑 者 は 痴 漢 加 害 者 である 可 能 性 が 高 いと 言 える. 2). 痴 漢 が 発 生 したとされる 時 間 帯 の 被 害 を 訴 える 人 間 の 心 理 状 態 のログに, 性 的 ストレス 等 から 生 じる) 生 理 的 または 行 動 的 変 化 が 確 認 されなけれ ば, 痴 漢 被 害 をでっちあげている( 虚 偽 告 訴 ) 可 能 性 が 高 く, 変 化 が 確 認 されれば, 痴 漢 被 害 が 実 際 に 存 在 した 可 能 性 が 高 いと 言 える. 3). 痴 漢 が 発 生 したとされる 時 間 帯 において, 痴 漢 の 容 疑 者 と 被 害 を 訴 える 人 間 の 心 理 状 態 のログが 時 間 的 に 同 期 していなければ, 両 者 は 無 関 係 である ( 痴 漢 加 害 者 と 痴 漢 被 害 者 の 関 係 ではない) 可 能 性 が 高 い. 一 方, 同 期 が 確 認 されれば, 両 者 には 関 係 があった( 痴 漢 加 害 者 と 痴 漢 被 害 者 の 関 係 で ある) 可 能 性 が 高 いと 言 える. 脈 拍 数 などのログ 脈 拍 数 など 一 定 3.3 検 討 考 察 脈 拍 数 などのログ 図 2 検 出 したログの 比 較 脈 拍 数 の 上 昇 ログの 同 期 がない 0 5 10 15 20 二 人 の 間 に 痴 漢 事 件 は 無 かった 本 方 式 は, 電 車 に 乗 っている 人 間 の 心 理 状 態 ( 生 理 的 または 行 動 的 な 変 化 )を 常 時 観 測 しログに 残 しておくこ とで, 被 害 者 側 と 容 疑 者 側 の 双 方 から 客 観 的 証 拠 を 得 る ことができると 考 えられる. 本 方 式 を 導 入 することで 以 下 のような 効 果 が 期 待 される. 1). 女 性 が 悪 人 ( 痴 漢 冤 罪 加 害 者 )の 場 合, 虚 偽 告 訴 の 抑 止 力 となる 2). 男 性 が 悪 人 ( 痴 漢 加 害 者 )の 場 合, 痴 漢 の 抑 止 力 となる 3). 女 性 が 善 人 の( 痴 漢 被 害 者 ) 場 合, 痴 漢 があった ことの 証 明 となる 4). 男 性 が 善 人 の 場 合 ( 痴 漢 冤 罪 被 害 者 ), 痴 漢 冤 罪 3
の 証 明 となる 以 上 に 挙 げる 4 つの 条 件 から, 本 方 式 は 痴 漢 冤 罪 対 策 としてだけではなく, 痴 漢 対 策 としても 効 果 が 期 待 でき ると 考 えられる. 以 下 では, 提 案 方 式 において 考 慮 すべ き 点 にについて 簡 単 に 議 論 する. 提 案 方 式 では, 痴 漢 事 件 が 起 こり 易 い 環 境 ( 電 車 内 等 ) において, 常 時 心 理 状 態 のログを 取 得 する 装 置 を 身 につ ける 必 要 があり,ユーザの 負 荷 や 抵 抗 感 は 大 きいように 感 じられる.しかし, 携 帯 電 話 のように, 多 くの 人 達 が 常 時 携 帯 している 機 器 に, 心 理 状 態 を 観 測 する 機 能 やロ グ 記 録 機 能 を 追 加 することができれば, 乗 客 の 負 荷 や 抵 抗 感 はそれほど 大 きくならないと 考 えられる.また, 痴 漢 に 間 違 われた 際 の 社 会 的 な 立 場 への 影 響 を 考 慮 すれば, 自 己 防 衛 のために 本 方 式 の 導 入 ( 心 理 状 態 のログを 取 得 する 装 置 を 装 着 すること)をそれほど 躊 躇 しないのでは ないかとも 考 えられる. 痴 漢 や 冤 罪 加 害 者 が 自 身 の 心 理 状 態 ログの 改 ざんを 試 みる 可 能 性 もあるだろう.ログの 改 ざんについては 既 存 のデジタル フォレンジック[13]により 対 策 が 可 能 で あると 考 えられる. 提 案 方 式 は, 電 車 内 等 の 公 共 の 場 では 通 常 起 こりえな い 異 常 な 心 理 状 態 ( 性 的 興 奮 や 性 的 ストレス)により 引 き 起 こされる 生 理 的 または 行 動 的 変 化 が,その 他 の 通 常 起 こりうる 心 理 状 態 ( 怒 りや 興 味 等 )によって 引 き 起 こ されるものと 有 意 に 差 があることを 前 提 として 話 を 進 め ている.この 前 提 が 正 しくなければ 提 案 方 式 は 正 しく 機 能 しない. 今 後, 痴 漢 を 働 いたとき,および, 痴 漢 被 害 に 遭 ったときの 生 理 的 または 行 動 的 変 化 が,その 他 の 場 合 と 比 べ 有 意 に 差 があるのかについて 調 査 を 行 う 必 要 が ある. 4 接 触 状 態 検 知 方 式 4.1 コンセプト 痴 漢 事 件 では 一 般 的 に, 加 害 者 は 被 害 者 の 身 体 に 触 れ ると 考 えられる.そこで, 著 者 らは 電 車 に 乗 っている 間, 誰 と 誰 が 接 触 していたのかを 示 す 情 報 をログ( 接 触 ログ) に 残 しておく 方 式 を 検 討 する. 万 が 一 痴 漢 に 間 違 えられ た 際 には, 痴 漢 が 発 生 したとされる 時 間 帯 に, 被 害 を 訴 える 人 間 に 接 触 したことを 示 す 接 触 ログが 存 在 しなけれ ば, 容 疑 者 は 痴 漢 加 害 者 ではない 可 能 性 が 高 いと 言 える. 事 実 が 存 在 したかを 示 すことができる. 図 3 人 体 通 信 技 術 を 用 いた 通 信 以 下 に 人 体 通 信 技 術 を 利 用 した 本 方 式 の 前 提 および, ログの 記 録 検 証 手 順 を 簡 潔 に 示 す. 前 提 全 ての 乗 客 は 人 体 通 信 装 置 を 予 め 装 着 している ものとする. 全 ての 人 体 通 信 装 置 には 異 なる 固 有 番 号 が 割 り 振 られている. 人 体 通 信 装 置 は, 人 体 通 信 機 能 の 他 に 接 触 ログ 記 録 機 能 を 持 っている. 電 車 に 乗 り 始 めてから 降 りるまでの 間, 漏 れなく ログが 記 録 されているものとする. 接 触 ログの 記 録 手 順 1). 痴 漢 加 害 者 が 乗 客 の 身 体 に 触 れると, 痴 漢 加 害 者 と 乗 客 の 間 に 人 体 通 信 路 が 形 成 される. 2). 通 信 路 形 成 後,2つの 人 体 通 信 装 置 は 通 信 相 手 に 自 身 の 固 有 番 号 を 送 信 する. 3). 人 体 通 信 装 置 は 受 信 した 相 手 の 固 有 番 号 を 通 信 路 形 成 時 刻 とともにログとして 記 録 する. 4). 痴 漢 加 害 者 がその 乗 客 との 接 触 を 止 めれば, 人 体 通 信 路 が 消 え, 人 体 通 信 装 置 はその 時 刻 をログに 記 録 する( 図 4). 4.2 人 体 通 信 技 術 を 用 いた 接 触 検 知 誰 と 誰 が 接 触 したかを 検 知 するために, 著 者 らは 人 体 を 通 信 路 とする 人 体 通 信 技 術 [14,15]に 着 目 した. 人 体 通 信 技 術 に 着 目 したのは, 人 体 通 信 装 置 を 所 持 した2 人 が お 互 いを 触 れるだけで,2 人 の 間 に 通 信 路 を 形 成 するこ とができるためである( 図 3).すなわち,2 人 の 間 に 通 信 路 が 形 成 されたかを 確 認 することで,2 人 の 間 に 接 触 の 図 4 接 触 することで 互 いの 固 有 番 号 を 送 受 信 接 触 ログの 検 証 手 順 A が B に 痴 漢 されたと 訴 える 場 面 を 想 定 する. 4
1). 痴 漢 が 発 生 したとされる 時 間 帯 の 2 人 の 接 触 ロ グを 照 らし 合 わせる. 2). ログの 確 認 の 結 果, 接 触 の 事 実 が 無 かった 場 合, B が A に 対 して 痴 漢 行 為 を 働 いた 可 能 性 は 低 い と 考 えられ,B の 身 の 潔 白 を 証 明 することができ ると 考 えられる.(ただし,A と B の 人 体 通 信 装 置 が 安 定 的 にログを 記 録 していたことが 保 証 さ れていることを 前 提 とする.) なお, 接 触 の 事 実 があった 場 合,その 結 果 によって 痴 漢 行 為 があったと 判 断 することは 危 険 である.なぜなら, それが 故 意 によるものなのか,どちらが 触 れてきたのか, ということまでは 本 方 式 では 把 握 することはできないか らである. 4.3 検 討 考 察 提 案 方 式 は, 人 体 通 信 技 術 を 用 いることで, 痴 漢 の 被 害 を 訴 える 人 間 と 容 疑 者 との 間 に, 接 触 の 事 実 があるか どうかを 示 すことが 可 能 である.ただし, 満 員 電 車 の 中 で 偶 然 接 触 してしまった 場 合 にも 接 触 のログが 記 録 され てしまうことや,どちらが 触 れてきたかを 判 断 すること が 難 しい.すなわち 本 方 式 は,DNA 鑑 定, 指 紋 鑑 定, 繊 維 鑑 定 等 の 手 法 とほぼ 同 等 の 証 拠 を 電 子 的 に 取 得 する 技 術 であると 言 えよう. 乗 客 は, 本 方 式 の 機 能 を 有 する 装 置 を 身 に 着 けることによって,DNA, 指 紋, 繊 維 に 匹 敵 する 客 観 的 証 拠 を 自 動 的 かつ 定 常 的 に 取 得 することが できる. 以 下 では, 提 案 方 式 において 考 慮 すべき 点 にに ついて 簡 単 に 議 論 する. 提 案 方 式 においては 全 ての 乗 客 が 人 体 通 信 装 置 を 持 っていることを 前 提 にしている. 装 置 の 所 持 に 関 する 乗 客 の 負 荷 に 関 しては,ドキドキ 検 知 方 式 同 様, 携 帯 電 話 のように 多 くの 人 達 が 常 時 携 帯 している 機 器 に 人 体 通 信 およびログ 記 録 機 能 を 追 加 することができれば, 乗 客 の 負 荷 もそれほど 大 きくならないと 考 えられる.また, 提 案 方 式 では 電 車 内 で 接 触 した 乗 客 どうしの 間 でお 互 いの ログが 自 動 的 に 交 換 されてしまうため,プライバシに 関 する 乗 客 の 負 荷 が 発 生 する.これに 対 処 するために, RFID 情 報 の 匿 名 化 技 術 等 を 導 入 する 必 要 があると 考 え られる. 痴 漢 加 害 者 はログを 残 す 機 能 をオフにした 上 で 犯 行 に 及 ぶかもしれない.しかし 提 案 方 式 は, 万 が 一 痴 漢 加 害 者 に 間 違 えられたときに 自 分 の 身 の 潔 白 を 証 明 するた めのものである.このため,ドキドキ 検 知 方 式 同 様, 自 己 防 衛 のために 本 装 置 を 所 持 するという 状 況 が 期 待 でき るものと 思 われる. 提 案 方 式 はどちらが 触 れたかまでは 判 断 することが できないため, 逆 に 被 害 をでっちあげようとしている 人 間 から 積 極 的 に 接 触 を 試 みるかもしれない.そのような 場 合 を 考 慮 し, 提 案 方 式 だけでなく,ドキドキ 検 知 方 式 の 併 用 によって 対 応 することが 必 要 となってくるのでは ないかと 考 えられる. 痴 漢 が 自 身 の 接 触 ログの 改 ざんを 試 みる 可 能 性 もあ るだろう.ログの 改 ざんについてはドキドキ 検 知 方 式 同 様, 既 存 のデジタル フォレンジック[13]により 対 策 が 可 能 であると 考 えられる. 5 まとめと 今 後 の 課 題 本 稿 では, 現 在 社 会 問 題 となっている 痴 漢 冤 罪 を 撲 滅 していくために,DNA 鑑 定, 指 紋 鑑 定, 繊 維 鑑 定 とは 異 なる 方 法 で, 客 観 的 な 証 拠 を 技 術 的 に 集 める 方 式 のコ ンセプトを 提 案 した. 提 案 方 式 により 新 たに 客 観 的 な 証 拠 が 増 えることは, 取 り 調 べや 裁 判 において 間 違 った 判 決 がくだされることも 少 なくなると 考 えられ, 社 会 への 大 きな 貢 献 が 期 待 される. ただし,ドキドキ 検 知 方 式 においては, 痴 漢 行 為 や 痴 漢 被 害 によって 引 き 起 こされた, 加 害 者 および 被 害 者 の 生 理 的 または 行 動 的 変 化 が,その 他 の 通 常 起 こりうる 心 理 状 態 ( 怒 り, 興 味 等 )によって 引 き 起 こされるものと 比 べ, 有 意 に 差 があることを 十 分 調 査 していく 必 要 があ る. 接 触 状 態 検 知 方 式 においては, 人 体 通 信 によってど の 程 度 精 度 よく 接 触 の 有 無 を 検 知 することができるかに ついても 調 査 していく 必 要 があるだろう. 一 方, 接 触 状 態 検 知 方 式 においては,プライバシ 保 護 技 術 の 導 入 が 必 須 となると 考 える. また, 提 案 方 式 で 取 得 するログの 信 頼 性 についても 考 慮 すべきである.ログの 信 頼 性 を 保 証 するようなデジタ ル フォレンジック 対 策 についても 十 分 検 討 を 行 ってい く 必 要 があるだろう. これらの 提 案 方 式 のおける 多 くの 課 題 については 今 後, 早 急 に 調 査 検 討 を 行 っていく 予 定 である. 謝 辞 本 研 究 に 関 する 議 論 に 対 し,NTT 情 報 流 通 プラットホー ム 研 究 所 間 形 文 彦 様 に 感 謝 致 します.また, 本 研 究 は 一 部,( 財 )セコム 科 学 技 術 振 興 財 団 の 研 究 助 成 を 受 けた. 参 考 文 献 [1] 男 女 共 同 参 画 審 議 会 http://www.gender.go.jp/danjo-kaigi/boryoku/houkoku/ index_hbo04.html [2]ありがたい 女 性 専 用 車 両 http://www.yomiuri.co.jp/donna/do_050517.htm [3] 神 戸 新 聞 社 会 痴 漢 目 撃 情 報 のカード 作 成 県 警 http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/0002520405. shtml [4] 朝 日 新 聞, 痴 漢 事 件 で 逆 転 無 罪 被 害 者 証 言 に 疑 問 東 京 高 裁,2009 年 06 月 12 日,pp.38 [5] 長 崎 事 件 弁 護 団, なぜ 痴 漢 えん 罪 は 起 こるのか 検 証 長 崎 事 件, 現 代 人 文 社,2002/02 5
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