Research Report 2015 年 8 月 7 日 経 営 サポートセンター リサーチグループ 主 査 浅 野 俊 医 療 法 人 の 経 営 状 況 について( 平 成 20 年 度 - 平 成 25 年 度 ) 福 祉 医 療 機 構 のデータに 基 づき 平 成 20 年 度 から 平 成 25 年 度 までにわたる 医 療 法 人 の 経 営 状 況 について 経 年 分 析 を 行 った 収 支 の 状 況 については 平 成 22 年 度 以 降 人 件 費 率 が 上 昇 傾 向 にあることを 要 因 として 医 業 収 益 対 医 業 利 益 率 は 続 落 の 状 態 にあり 平 成 25 年 度 においては 3.1%と 過 去 6 年 間 で 最 低 となるな ど 厳 しい 結 果 にあった 黒 字 法 人 赤 字 法 人 割 合 については 平 成 21 年 度 を 境 に 赤 字 法 人 割 合 が 拡 大 傾 向 にあり また 医 業 収 益 規 模 が 小 さい 法 人 ほど 赤 字 の 割 合 が 拡 大 していた 黒 字 法 人 赤 字 法 人 経 営 状 況 については 収 支 の 状 況 については 人 件 費 率 の 上 昇 を 主 な 要 因 と して 医 業 収 益 対 医 業 利 益 率 が 低 下 しており 財 務 の 状 況 については 赤 字 法 人 はもとより 黒 字 法 人 も 資 金 繰 りは 年 々 逼 迫 していることが 分 析 結 果 として 得 られた 法 人 が 赤 字 へと 転 落 する 大 きな 要 因 としては 医 業 収 益 の 減 少 があげられ あわせて 収 益 と 費 用 のバランスを 保 つことが 重 要 であることがわかったが 収 益 の 減 少 に 見 合 った 費 用 の 抑 制 を 図 るこ とが 難 しいコスト 構 造 であることもみてとれた 最 後 に 医 業 収 益 規 模 の 増 加 率 別 にみた 経 営 状 況 を 分 析 した 結 果 医 業 収 益 増 加 率 が 高 い 法 人 ほ ど 規 模 のメリットを 活 かして 費 用 を 低 く 抑 えており その 結 果 として 医 業 利 益 の 獲 得 につながっ ている 様 子 がうかがわれ 利 益 獲 得 のためには 医 業 収 益 規 模 拡 大 のための 設 備 投 資 と 効 率 的 な 費 用 コントロールが 欠 かせないとの 結 果 が 得 られた はじめに 福 祉 医 療 機 構 では 毎 年 度 貸 付 先 の 経 営 状 況 について 調 査 を 行 っており このほど 貸 付 先 より 提 出 された 財 務 諸 表 データを 用 いて 平 成 20 年 度 から 平 成 25 年 度 までにわたる 医 療 法 人 の 経 営 状 況 について 分 析 を 行 った 具 体 的 には 第 一 に 近 年 の 医 療 法 人 の 経 営 状 況 ( 収 支 財 務 の 状 況 )について 概 観 するとと もに 第 二 に 黒 字 法 人 赤 字 法 人 別 に 経 営 状 況 を 比 較 し さらに 掘 り 下 げて 黒 字 法 人 赤 字 法 人 別 にみた 近 年 の 資 金 繰 り 状 況 について 検 証 を 行 った また 第 三 に 黒 字 法 人 が 赤 字 へと 転 落 す る 要 因 について 検 証 を 行 い 第 四 に 設 備 投 資 の 際 のヒントとなることを 期 待 し 医 業 収 益 規 模 の 増 加 率 別 にみた 医 療 法 人 の 経 営 状 況 につき 分 析 を 行 った 今 後 医 療 法 人 経 営 を 取 り 巻 く 環 境 はますま す 厳 しくなることが 予 測 されるが 本 レポート が 医 療 法 人 の 安 定 経 営 に 幾 ばくかでも 寄 与 でき ることを 期 待 して 以 下 に 分 析 結 果 を 述 べさせ ていただく 1. 収 支 財 務 の 状 況 平 成 25 年 度 の 医 業 収 益 対 医 業 利 益 率 は 3.1%と 過 去 最 低 に 診 療 報 酬 は 平 成 14 年 度 から 四 期 連 続 でマイ ナス 改 定 となったが 平 成 22 年 度 の 改 定 では 平 成 12 年 度 以 来 10 年 ぶりのプラス 改 定 となり 1
以 降 はほぼ 横 ばいで 推 移 している( 図 表 1) 平 成 20 年 度 から 平 成 25 年 度 までの 過 去 6 年 間 の 医 療 法 人 の 経 営 状 況 について 収 支 の 状 況 をみてみると 医 業 収 益 対 医 業 利 益 率 ( 以 下 医 業 利 益 率 という )は 平 成 20 年 度 から 平 成 22 年 度 まで 上 昇 傾 向 にあったものが 以 降 は 下 落 の 状 態 にあり 平 成 25 年 度 にいたっては 3.1% と 過 去 6 年 間 で 最 低 の 医 業 利 益 率 となるまでに 低 下 している 主 な 要 因 として 人 件 費 率 が 平 成 22 年 度 は 54.2%であったものが 平 成 25 年 度 には 55.9%と 上 昇 していることがあげられる 同 様 に 労 働 分 配 率 も 上 昇 を 続 けており 平 成 22 年 度 に 91.5%であったものが 平 成 25 年 度 は 94.8%となり 人 件 費 が 医 業 利 益 率 を 圧 迫 して いる 傾 向 にあることがわかる( 図 表 2) ( 図 表 1) 診 療 報 酬 改 定 の 推 移 ( 単 位 :%) 3.0 本 体 部 分 2.0 薬 価 部 分 1.0 0.0 1.0 2.0 1.5 1.3 2.8 改 定 率 ( 総 額 ) 1.9 0.2 0.0 0.38 1.3 1.4 1.0 1.2 1.36 1.7 1.8 0.82 1.0 1.55 1.379 0.19 0.004 0.73 0.1 0.63 1.36 1.375 3.0 4.0 2.7 3.16 H10 年 度 H12 年 度 H14 年 度 H16 年 度 H18 年 度 H20 年 度 H22 年 度 H24 年 度 H26 年 度 資 料 出 所 : 厚 生 労 働 省 ( 図 表 2) 医 療 法 人 の 経 営 状 況 ( 平 成 20-25 年 度 ) 区 分 平 成 20 年 度 平 成 21 年 度 平 成 22 年 度 平 成 23 年 度 平 成 24 年 度 平 成 25 年 度 (n=1,119) (n=1,404) (n=1,510) (n=1,469) (n=1,544) (n=1,216) 人 件 費 率 % 54.3 53.4 54.2 54.2 54.9 55.9 経 費 率 % 21.3 21.7 21.4 21.7 21.5 21.1 減 価 償 却 費 率 % 4.9 4.8 4.6 4.6 4.7 4.6 医 療 材 料 費 率 % 10.8 10.6 10.5 10.8 10.7 11.4 給 食 材 料 費 率 % 4.6 4.6 4.3 4.2 4.2 4.0 労 働 分 配 率 % 93.0 91.7 91.5 92.2 93.3 94.8 医 業 収 益 対 医 業 利 益 率 % 4.1 4.8 5.0 4.6 4.0 3.1 収 益 率 % 3.4 4.4 4.7 4.5 3.9 2.9 自 己 資 本 比 率 % 34.2 33.4 35.7 36.2 37.7 38.2 流 動 比 率 % 255.8 242.8 245.4 241.6 243.9 228.2 固 定 長 期 適 合 率 % 79.9 79.9 78.8 78.1 78.3 79.7 借 入 金 比 率 % 67.6 64.8 59.7 58.3 57.4 55.3 資 料 出 所 : 福 祉 医 療 機 構 ( 以 下 記 載 がない 場 合 は 同 じ) 2
財 務 の 状 況 をみると 自 己 資 本 比 率 は 上 昇 傾 向 借 入 金 比 率 も 低 下 傾 向 にあることから 総 じて 財 務 の 状 況 は 改 善 しているようにみてとれ るが 平 成 22 年 度 以 降 の 医 業 利 益 率 は 低 下 傾 向 にあり 経 営 状 況 は 厳 しい 様 子 がうかがえる 2. 黒 字 法 人 赤 字 法 人 別 にみた 経 営 状 況 2.1 収 支 財 務 の 状 況 赤 字 法 人 の 割 合 は 拡 大 傾 向 医 業 収 益 が 小 規 模 の 法 人 ほど 赤 字 割 合 が 拡 大 年 度 別 の 黒 字 法 人 赤 字 法 人 1 の 割 合 の 推 移 をみてみると 平 成 21 年 度 を 境 に 赤 字 法 人 の 割 合 が 増 加 傾 向 にある( 図 表 3) 診 療 報 酬 は 平 成 22 年 度 に 10 年 ぶりのプラス 改 定 となり 以 降 はほぼ 横 ばいで 推 移 しているが 平 成 25 年 度 の 赤 字 割 合 は 23.4%にまで 拡 大 した また 医 業 収 益 規 模 別 の 赤 字 法 人 割 合 の 推 移 をみてみると 医 業 収 益 規 模 が 小 さい 法 人 ほど 赤 字 の 割 合 が 大 きくなっていることがわかる ( 図 表 4) ( 図 表 3) 黒 字 法 人 赤 字 法 人 割 合 の 推 移 ( 平 成 20-25 年 度 ) ( 単 位 :%) 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 17.1 12.0 12.6 14.7 16.5 23.4 82.9 88.0 87.4 85.3 83.5 76.6 H20 年 度 H21 年 度 H22 年 度 H23 年 度 H24 年 度 H25 年 度 赤 字 黒 字 ( 図 表 4) 医 業 収 益 規 模 別 の 赤 字 法 人 割 合 の 推 移 ( 平 成 20-25 年 度 ) 30.0% 25.0% 20.0% 15.0% 10.0% 5.0% 0.0% H20 年 度 H21 年 度 H22 年 度 H23 年 度 H24 年 度 H25 年 度 ~1,000 1,000~2,000 2,000~3,000 3,000~4,000 4,000~ ( 百 万 円 ) 1 収 益 率 が 0.0% 以 上 のものを 黒 字 法 人 0.0% 未 満 のものを 赤 字 法 人 とする 3
収 支 の 状 況 については 平 成 22 年 度 以 降 は 黒 字 法 人 赤 字 法 人 ともに 医 業 利 益 率 が 低 下 傾 向 にあり 赤 字 法 人 については 人 件 費 率 が 高 止 まって 改 善 されないことが 慢 性 的 な 医 業 利 益 率 の 低 迷 につながっているものと 考 えられる( 図 表 5) 黒 字 法 人 についても 全 体 の 傾 向 と 同 様 に 平 成 25 年 度 の 医 業 利 益 率 は 4.4%と 過 去 6 年 間 で 最 低 となるほど 落 ち 込 みが 大 きくなって おり 主 な 要 因 としては 人 件 費 率 が 上 昇 してい ることがあげられる また 労 働 分 配 率 についてみてみると 赤 字 法 人 については 6 年 間 にわたり 100%を 超 えて おり 慢 性 的 に 人 件 費 が 医 業 利 益 率 を 圧 迫 して いる 様 子 がうかがえる 一 方 黒 字 法 人 の 労 働 分 配 率 は 100% 以 下 に 収 まっているものの 平 成 23 年 度 以 降 は 上 昇 傾 向 にあり 平 成 25 年 度 は 92.6%と 過 去 6 年 間 で 最 高 となっていることは 注 視 される 点 である 昨 今 の 人 材 確 保 難 を 背 景 に 人 件 費 の 負 担 が 増 加 していることから 人 件 費 の 抑 制 は 容 易 ではないことが 推 察 されるため 医 業 利 益 率 の 改 善 にあたっては 収 益 規 模 の 拡 大 が 欠 かせないものと 思 われる ( 図 表 5) 黒 字 法 人 赤 字 法 人 別 にみた 経 営 状 況 ( 平 成 20-25 年 度 ) 黒 字 法 人 区 分 平 成 20 年 度 平 成 21 年 度 平 成 22 年 度 平 成 23 年 度 平 成 24 年 度 平 成 25 年 度 (n=928) (n=1,236) (n=1,320) (n=1,253) (n=1,289) (n=931) 人 件 費 率 % 53.8 53.0 54.0 53.8 54.3 55.1 経 費 率 % 21.1 21.5 21.1 21.5 21.2 20.7 減 価 償 却 費 率 % 4.8 4.7 4.5 4.5 4.5 4.3 医 療 材 料 費 率 % 10.6 10.6 10.5 10.8 10.7 11.3 給 食 材 料 費 率 % 4.5 4.6 4.3 4.2 4.1 4.1 労 働 分 配 率 % 91.3 90.5 90.5 91.1 91.4 92.6 医 業 収 益 対 医 業 利 益 率 % 5.1 5.6 5.6 5.3 5.1 4.4 収 益 率 % 4.8 5.3 5.7 5.5 5.4 4.7 自 己 資 本 比 率 % 36.4 34.5 37.0 37.5 39.1 40.5 流 動 比 率 % 270.9 248.5 251.9 246.1 253.4 237.4 固 定 長 期 適 合 率 % 78.5 79.4 78.1 77.4 77.4 78.5 借 入 金 比 率 % 64.5 63.2 57.8 56.1 55.5 51.9 赤 字 法 人 区 分 平 成 20 年 度 平 成 21 年 度 平 成 22 年 度 平 成 23 年 度 平 成 24 年 度 平 成 25 年 度 (n=191) (n=168) (n=190) (n=216) (n=255) (n=285) 人 件 費 率 % 57.3 57.4 56.0 57.1 58.9 58.7 経 費 率 % 22.5 22.9 23.8 23.6 24.1 22.6 減 価 償 却 費 率 % 5.7 6.0 5.6 5.4 5.7 5.6 医 療 材 料 費 率 % 11.5 11.1 10.8 10.9 10.7 11.5 給 食 材 料 費 率 % 4.8 4.9 4.7 4.5 4.5 3.9 労 働 分 配 率 % 103.3 104.0 101.7 102.7 107.0 104.4 医 業 収 益 対 医 業 利 益 率 % 1.8 2.2 0.9 1.5 3.8 2.5 収 益 率 % 4.5 4.7 4.7 4.8 5.7 4.6 自 己 資 本 比 率 % 22.5 23.5 24.8 25.8 29.4 29.8 流 動 比 率 % 185.3 195.7 191.9 206.2 193.1 196.1 固 定 長 期 適 合 率 % 87.4 84.9 85.2 83.5 83.7 84.0 借 入 金 比 率 % 85.5 80.4 78.7 77.1 69.9 69.3 財 務 の 状 況 については 黒 字 法 人 赤 字 法 人 ともに 同 じ 傾 向 であった 自 己 資 本 比 率 を 確 認 すると 黒 字 法 人 は 平 成 20 年 度 36.4%であっ たのが 平 成 25 年 度 は 40.5%に 赤 字 法 人 は 平 成 20 年 度 22.5%であったのが 平 成 25 年 度 29.8%となっており 指 標 上 は 改 善 している し 4
かしながら 前 述 のとおり 医 療 利 益 率 が 落 ち 込 んでいることを 考 慮 すると 財 務 指 標 の 数 字 上 の 改 善 をもって 経 営 が 安 定 しているとは 言 い がたい 状 況 にある 2.2. 資 金 繰 り 状 況 資 金 繰 り 状 況 は 赤 字 法 人 はもとより 黒 字 法 人 も 逼 迫 の 状 態 黒 字 法 人 赤 字 法 人 ともに 自 己 資 本 比 率 は 上 昇 し 負 債 の 返 済 が 進 んでいる 様 子 がうかがえ ( 図 表 6) 黒 字 法 人 赤 字 法 人 別 の 償 還 率 の 推 移 ( 平 成 20-25 年 度 ) たが ここで 黒 字 法 人 赤 字 法 人 別 に 医 業 収 益 と 長 期 借 入 金 の 返 済 状 況 について 検 証 を 行 った 長 期 借 入 金 元 金 償 還 額 のデータを 得 られた 法 人 について 黒 字 法 人 赤 字 法 人 別 に 本 業 であ る 医 業 収 益 に 占 める 長 期 借 入 金 元 金 償 還 額 の 割 合 ( 以 下 償 還 率 という )を 集 計 のうえ 年 間 の 長 期 借 入 金 元 金 償 還 額 と 返 済 財 源 の 差 引 過 不 足 額 を 試 算 する 方 法 で 借 入 金 の 償 還 余 裕 度 ( 借 入 金 の 返 済 状 況 の 実 態 )を 検 証 した ( 図 表 7) 黒 字 法 人 赤 字 法 人 別 の 返 済 財 源 差 引 過 不 足 額 の 推 移 ( 平 成 23-25 年 度 ) 10.0 9.5 40,000 9.5 9.0 8.8 20,000 19,019 16,012 8.5 8.0 7.8 7.6 0 522 H23 年 度 H24 年 度 H25 年 度 7.5 7.2-20,000 7.0 6.5 7.3 7.3 7.1 6.8 6.8 6.9 7.3-40,000 34,064 6.0 5.5-60,000 53,595 59,406 5.0 H20 年 度 H21 年 度 H22 年 度 H23 年 度 H24 年 度 H25 年 度 黒 字 償 還 率 (%) 赤 字 償 還 率 (%) -80,000 黒 字 返 済 財 源 差 引 過 不 足 額 ( 千 円 ) 赤 字 返 済 財 源 差 引 過 不 足 額 ( 千 円 ) < 返 済 財 源 差 引 過 不 足 額 の 算 出 について> 借 入 金 の 償 還 財 源 については 課 税 後 償 却 前 利 益 ( 当 期 純 損 益 + 減 価 償 却 費 )が 一 つの 基 準 になる したがって 返 済 財 源 差 引 過 不 足 額 を 算 出 するにあたっては 法 人 税 等 の 支 払 いを 加 味 して 算 出 していること また 減 価 償 却 費 は 費 用 として 計 上 されるが 支 出 は 伴 わないので 内 部 留 保 され 返 済 財 源 に 見 込 まれることを 考 慮 している 算 出 方 法 1 年 間 の 長 期 借 入 金 元 金 償 還 額 = 医 業 収 益 各 年 度 償 還 率 ( 平 均 ) 2 返 済 財 源 = 経 常 利 益 -( 経 常 利 益 法 人 税 等 (40%と 仮 定 ))+ 減 価 償 却 費 1-2= 返 済 財 源 差 引 過 不 足 額 赤 字 法 人 の 場 合 は 法 人 税 等 を 加 味 していない 5
黒 字 法 人 と 比 較 して 赤 字 法 人 の 自 己 資 本 比 率 は 低 く 借 入 金 比 率 は 高 くなっており また 赤 字 法 人 の 償 還 率 は 黒 字 法 人 と 比 較 して 高 くなっ ており 借 入 金 に 依 存 した 経 営 状 況 にあること がわかる( 図 表 6) 平 成 23 年 度 以 降 の 黒 字 法 人 と 赤 字 法 人 の 償 還 率 は 差 がほとんどなくなってきているが 黒 字 法 人 赤 字 法 人 別 の 返 済 財 源 差 引 過 不 足 額 を みてみると 赤 字 法 人 については 慢 性 的 にマ イナスからの 脱 却 を 図 ることができておらず 悪 化 の 一 途 をたどっていることがわかる( 図 表 7) なお 黒 字 法 人 の 返 済 財 源 差 引 過 不 足 額 に ついても 低 下 傾 向 にあり 平 成 25 年 度 にいたっ ては 急 激 に 減 少 しているため 資 金 繰 り 状 況 は 年 々 厳 しくなっている 様 子 がみてとれる このように 実 態 としては 資 金 繰 り 状 況 は 好 転 しておらず 近 年 の 収 支 状 況 は 悪 化 傾 向 にあ ることがわかる 実 際 の 財 務 取 引 の 状 態 として は 決 して 余 裕 があるわけではなく 負 債 の 返 済 を 短 期 借 入 金 および 手 元 の 現 預 金 で 賄 っている ものと 思 われ 資 金 繰 り 状 況 は 逼 迫 している 様 子 がうかがえる 3. 法 人 の 赤 字 転 落 要 因 の 分 析 恒 常 黒 字 法 人 も 収 益 規 模 の 変 動 次 第 では 赤 字 法 人 へ 転 落 する 可 能 性 ここで 法 人 が 赤 字 へと 転 落 する 傾 向 を 分 析 するために 平 成 23 年 度 から 平 成 25 年 度 まで の 3 か 年 連 続 黒 字 法 人 ( 以 下 恒 常 黒 字 法 人 という )と 3 か 年 目 に 赤 字 に 転 落 した 法 人 ( 以 下 赤 字 転 落 法 人 という )の 経 営 状 況 につき 医 業 収 益 医 業 費 用 および 医 業 利 益 の 関 係 をグ ラフ 化 してそれぞれの 特 性 を 検 証 した( 図 表 8) ( 図 表 8) 恒 常 黒 字 法 人 と 赤 字 転 落 法 人 の 収 支 の 状 況 ( 平 成 20-25 年 度 ) 恒 常 黒 字 法 人 (n=441) ( 単 位 : 千 円 ) 赤 字 転 落 法 人 (n=95) ( 単 位 : 千 円 ) 医 業 収 益 医 業 費 用 医 業 利 益 医 業 収 益 医 業 費 用 医 業 利 益 1,750,000 120,000 1,440,000 70,000 1,700,000 100,000 1,420,000 60,000 50,000 1,650,000 80,000 1,400,000 1,380,000 40,000 30,000 60,000 20,000 1,600,000 40,000 1,360,000 1,340,000 10,000 0 1,550,000 20,000 1,320,000 10,000 20,000 1,500,000 H23 年 度 H24 年 度 H25 年 度 0 1,300,000 H23 年 度 H24 年 度 H25 年 度 30,000 医 業 収 益 医 業 費 用 医 業 利 益 医 業 収 益 医 業 費 用 医 業 利 益 6
比 較 すると 赤 字 転 落 法 人 については 平 成 25 年 度 の 医 業 収 益 が 減 少 しているにもかかわ らず 医 業 費 用 が 伸 び 続 けているため 減 少 傾 向 にあった 医 業 利 益 が 赤 字 に 転 落 している 実 態 がみてとれる 医 業 収 益 規 模 が 小 さい 法 人 ほど 赤 字 の 割 合 が 大 きくなることは 前 述 のとおりで あるが 外 的 要 因 ( 患 者 不 足 など) 内 的 要 因 ( 医 師 看 護 師 等 のスタッフ 不 足 施 設 の 老 朽 化 な ど)のいずれかにより 医 業 収 益 規 模 が 減 少 し それに 伴 い 医 業 利 益 が 減 少 している 可 能 性 が 考 えられる 医 療 法 人 の 経 営 にあたっては 建 物 や 医 療 機 器 などについて 多 額 の 設 備 投 資 を 行 う 必 要 があることから 収 益 が 減 少 しても 費 用 の 増 加 を 容 易 に 抑 制 できないコスト 構 造 にあるこ とを 踏 まえると 恒 常 黒 字 法 人 の 医 業 利 益 率 も 減 少 傾 向 にあるなかにあっては 今 後 医 業 収 益 規 模 が 減 少 の 方 向 へ 向 かった 場 合 費 用 の 抑 制 が 効 かないと たとえ 前 年 度 に 黒 字 であった としても 赤 字 法 人 へと 急 激 に 転 落 する 事 業 者 が 増 加 する 可 能 性 があるものと 思 われる したがって 今 般 の 厳 しい 医 療 経 営 環 境 にあ っては 常 に 中 長 期 的 な 経 営 ビジョンを 持 ち 利 益 獲 得 のために 増 収 策 を 講 じること ひいて は 収 益 規 模 拡 大 のための 設 備 投 資 を 行 うことが 必 要 であり 収 益 と 費 用 のバランスを 保 つこと が 重 要 であることがわかる 次 項 ではこの 点 に ついての 検 証 を 行 う 4. 医 業 収 益 増 加 率 別 にみた 経 営 状 況 医 業 収 益 の 増 加 率 が 高 い 法 人 ほど 費 用 を 抑 制 し 利 益 を 獲 得 している 傾 向 最 後 に 前 項 で 述 べたポイント 収 益 の 増 加 と 費 用 のコントロールという 観 点 から 平 成 20 年 度 から 平 成 25 年 度 までの 医 業 収 益 の 増 加 率 別 ( 医 業 収 益 の 増 加 率 を 25% 以 上 0~25% 0% 未 満 の 3 分 類 に 区 分 )にみた 医 療 法 人 の 経 営 状 況 を 分 析 する まず 医 業 収 益 の 増 加 率 と 医 業 費 用 の 増 加 率 との 関 係 について 病 院 事 業 を 主 な 実 施 事 業 と する 423 法 人 の 個 別 データを 層 別 に 散 布 図 でみ てみると まずその 関 係 性 には 強 い 相 関 がみら れ(r=.89) 医 業 収 益 の 増 加 率 が 高 くなると 費 用 の 増 加 率 も 高 くなっていることがわかる( 図 表 9) ( 図 表 9) 医 業 収 益 増 加 率 と 医 業 費 用 増 加 率 の 相 関 ( 単 位 :%) 120.0 100.0 80.0 R² = 0.6813 n=423 60.0 医 業 費 用 増 加 率 40.0 20.0 0.0 40.0 20.0 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 120.0 140.0 20.0 40.0 医 業 収 益 増 加 率 25% 以 上 25% 未 満 7
次 に 平 成 20 年 度 から 平 成 25 年 度 までの 医 業 収 益 増 加 率 別 にみた 経 営 状 況 をみる 医 業 収 益 の 増 加 率 が 高 いほど 医 業 費 用 の 増 加 率 も 高 くなることがわかったが 平 成 20 年 度 比 で 平 成 25 年 度 の 医 業 収 益 が 25% 以 上 増 加 し た 法 人 の 経 営 状 況 をみると 収 益 の 増 加 率 が 非 常 に 高 いにもかかわらず 人 件 費 率 の 上 昇 は 0.1 ポイントと 他 の 法 人 に 比 べて 低 く 抑 えられ ており また 経 費 率 についても 1.8 ポイント と 大 きく 低 下 している 結 果 医 業 利 益 率 は 2.4 ポイント 上 昇 している( 図 表 10) 一 方 医 業 収 益 増 加 率 が 低 い 法 人 ほど 費 用 の 増 加 率 を 抑 えることができていないため 医 業 収 益 の 増 加 率 が 0% 未 満 の 法 人 の 医 業 利 益 率 は 2.5 ポイ ント 0% 以 上 25% 未 満 の 法 人 については 1.0 ポイントと 低 下 している また 医 業 収 益 増 加 率 が 高 い 法 人 ほど 労 働 生 産 性 は 高 くなっていることから 医 業 収 益 の 拡 大 に 伴 う 人 件 費 や 材 料 費 等 の 増 加 は 免 れないも のの 規 模 のメリットを 活 かし 効 率 的 に 費 用 コントロールがなされている 結 果 として 医 業 利 益 の 獲 得 につながっている 様 子 がうかがえる なお 財 務 状 況 についても 医 業 収 益 が 25% 以 上 増 加 した 法 人 は 設 備 投 資 の 規 模 が 大 きい 分 他 の 法 人 に 比 べ 自 己 資 本 比 率 は 低 くなって おり また 借 入 金 比 率 および 固 定 長 期 適 合 率 も 高 くなっているが ともに 危 険 水 域 である 100%を 超 えることなく 収 まっている したがっ て 設 備 投 資 が 過 大 ということはなく 医 業 収 益 規 模 の 拡 大 にうまく 結 びついている 様 子 がう かがえる ( 図 表 10) 医 業 収 益 増 加 率 別 にみた 経 営 状 況 0% 未 満 0%~25% 25% 以 上 (n=91) (n=262) (n=70) 区 分 増 減 増 減 増 減 H20 H25 H20 H25 H20 H25 ポイント ポイント ポイント 人 件 費 率 % 54.3 58.5 4.3 55.3 58.0 2.7 55.0 55.2 0.1 経 費 率 % 20.7 20.9 0.3 20.9 20.2 0.7 20.4 18.6 1.8 減 価 償 却 費 率 % 4.4 4.1 0.3 4.7 4.3 0.4 5.2 5.0 0.2 医 療 材 料 費 率 % 12.8 10.9 1.9 11.1 10.6 0.4 13.6 13.4 0.2 給 食 材 料 費 率 % 4.7 4.8 0.1 4.1 3.9 0.2 3.4 3.0 0.4 労 働 分 配 率 % 94.6 98.9 4.3 93.4 95.2 1.8 95.8 91.9 3.9 労 働 生 産 性 千 円 5,478 5,024 453 5,212 5,256 44 5,367 5,779 411 資 本 生 産 性 % 47.0 46.5 0.6 48.0 51.6 3.6 44.2 52.0 7.8 医 業 収 益 対 医 業 利 益 率 % 3.1 0.6 2.5 3.9 2.9 1.0 2.4 4.8 2.4 収 益 率 % 2.8 0.6 2.1 3.7 2.8 1.0 1.1 4.4 3.2 自 己 資 本 比 率 % 38.1 44.5 6.3 37.6 46.2 8.6 26.2 34.9 8.7 流 動 比 率 % 293.4 294.5 1.1 272.1 261.9 10.1 197.4 217.4 20.0 固 定 長 期 適 合 率 % 76.6 75.7 0.9 77.8 76.1 1.8 86.1 80.1 6.0 借 入 金 比 率 % 60.6 53.4 7.2 61.0 45.5 15.5 76.7 55.3 21.3 増 減 ポイント は 平 成 25 年 度 数 値 から 平 成 20 年 度 数 値 を 差 し 引 いた 増 減 差 を 表 す さらに 医 業 収 益 増 加 率 別 の 医 業 収 益 規 模 の 割 合 および 黒 字 法 人 赤 字 法 人 の 構 成 割 合 をみ てみると 医 業 収 益 の 増 加 率 が 高 いほど 医 業 収 益 規 模 が 大 きい 法 人 の 割 合 が 多 くなり( 図 表 11) また 赤 字 法 人 の 割 合 が 減 少 していること がわかる( 図 表 12) 設 備 投 資 などにより 医 業 収 益 を 拡 大 すること で 安 定 経 営 に 上 手 くつなげている 法 人 が 相 対 的 に 多 いことが 結 果 としてみてとれる 以 上 の 分 析 より 医 業 収 益 拡 大 に 伴 う 費 用 の 増 加 は 免 れないが 利 益 獲 得 のためには 効 率 的 な 費 用 コ ントロールを 行 うことはいうまでもなく やは り 医 業 収 益 規 模 拡 大 のための 設 備 投 資 が 欠 かせ ないといえる 結 果 が 得 られた 8
( 図 表 11) 医 業 収 益 増 加 率 別 にみた 法 人 の 医 業 収 益 規 模 の 割 合 ( 図 表 12) 医 業 収 益 増 加 率 別 にみた 黒 字 法 人 赤 字 法 人 の 構 成 割 合 100% 90% 80% 3.3 5.6 10.0 10.3 12.2 28.6 100% 90% 80% 32.2 21.8 12.9 70% 19.5 70% 60% 44.4 22.9 60% 50% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 40.8 24.3 36.7 17.1 17.2 7.1 0% 未 満 0%~25% 25% 以 上 0~1,000 1,000~2,000 2,000~3,000 3,000~4,000 4,000~ ( 百 万 円 ) 40% 30% 20% 10% 0% 87.1 78.2 67.8 0% 未 満 0%~25% 25% 以 上 黒 字 赤 字 おわりに 高 齢 化 の 進 展 によって 医 療 介 護 の 需 要 は 増 大 する 現 在 各 都 道 府 県 における 地 域 医 療 構 想 (ビジョン)の 策 定 が 進 むなか 医 療 機 関 のさらなる 機 能 分 化 に 伴 う 病 床 機 能 の 特 化 や 転 換 の 必 要 性 に 迫 られるなど 経 営 者 にとっては 設 備 投 資 タイミングの 見 極 めなどの 経 営 判 断 が ますます 求 められる 時 代 になり 医 療 法 人 の 経 営 を 取 り 巻 く 環 境 はいっそう 厳 しくなるものと 思 われる 当 機 構 の 融 資 先 医 療 法 人 の 財 務 収 支 状 況 からは 本 業 である 医 業 収 益 の 増 加 率 が 高 い 法 人 ほど 費 用 の 増 加 率 を 抑 制 しつつ 利 益 の 獲 得 を 図 っている 傾 向 がみてとれた 先 が 見 通 しづらい 今 般 の 経 営 環 境 にあって 設 備 投 資 を 行 いつつも 効 率 的 な 費 用 コントロールを 行 うことは 安 定 経 営 を 続 けるうえで 必 須 であ る 今 後 経 営 の 持 続 可 能 性 を 高 めていくため には 地 域 全 体 の 医 療 ニーズを 把 握 し そのう えで 地 域 から 求 められる 自 法 人 自 施 設 のポジ ショニングを 確 認 することが 重 要 になってくる さらにそのポジショニングを 将 来 にわたり 維 持 するためには 政 策 動 向 などを 注 視 したうえで 外 部 環 境 および 内 部 環 境 の 両 側 面 から 中 長 期 的 視 野 に 立 って 経 営 分 析 を 行 い つねに 次 の 一 手 を 考 えて 対 処 していくことが 不 可 欠 になる そ のひとつの 方 策 として 資 本 投 下 による 規 模 の 拡 大 も 選 択 肢 になり それが 地 域 に 求 められる 機 関 としての 立 ち 位 置 を 確 立 するものになろう 以 上 本 レポートの 分 析 結 果 が 各 医 療 法 人 の 経 営 分 析 の 参 考 となれば 幸 いである なお 今 回 は 医 療 法 人 の 財 務 諸 表 データについ ての 分 析 を 行 ったが 当 機 構 では 毎 年 度 病 院 9
を 一 般 病 院 療 養 型 病 院 および 精 神 科 病 院 の 3 種 類 に 分 類 したうえで 機 能 性 等 に 着 目 した 経 営 分 析 も 行 っており こちらにつ いては 別 途 報 告 させていただく 予 定 である 本 資 料 は 情 報 の 提 供 のみを 目 的 としたものであり 借 入 など 何 らかの 行 動 を 勧 誘 するものではあ りません 本 資 料 は 信 頼 できると 思 われる 情 報 に 基 づいて 作 成 されていますが 情 報 については その 完 全 性 正 確 性 を 保 証 するものではありません 本 資 料 における 見 解 に 関 する 部 分 については 著 者 の 個 人 的 所 見 であり 独 立 行 政 法 人 福 祉 医 療 機 構 の 見 解 ではありません 本 件 に 関 するお 問 合 せ 独 立 行 政 法 人 福 祉 医 療 機 構 経 営 サポートセンター リサーチグループ TEL:03-3438-9932 FAX:03-3438-0371 E-mail:wam_sc@wam.go.jp 10