平 成 22 年 4 月 1 日 現 在 の 法 令 等 に 準 拠 UP!Consulting Up Newsletter TOBに 応 じた 株 主 の 会 計 税 務 処 理 企 業 買 収 ストラクチャーの 有 利 選 択 ( 法 人 株 主 と 個 人 株 主 の 財 務 戦 略 ) http://www.up-firm.com 1
TOBに 応 じた 株 主 の 会 計 税 務 処 理 1.みなし 配 当 の 課 税 関 係 上 場 会 社 が 株 式 公 開 買 付 で 自 己 株 式 を 取 得 する 場 合 は 市 場 取 引 で 取 得 するケースと 相 違 して 原 則 として 株 主 にみなし 配 当 課 税 と 有 価 証 券 の 譲 渡 損 益 課 税 が 発 生 します 市 場 外 での 相 対 取 引 になるからです しかし 個 人 株 主 に 配 当 所 得 として 課 税 すれば 最 高 税 率 50%の 総 合 課 税 の 負 担 が 重 いので 誰 も 買 付 けに 応 募 してくれません このため 政 策 的 に 譲 渡 所 得 とする 特 例 が 措 置 されています( 措 置 法 9 条 の 6 37 条 の 103 四 ) つ まり 上 場 株 式 を 市 場 売 却 した 場 合 と 同 様 の 課 税 関 係 となります 所 得 税 7%+ 住 民 税 3%=10%の 優 遇 税 率 で 分 離 課 税 となります この 特 例 は 個 人 株 主 に 限 定 で 適 用 されます 法 人 株 主 には 適 用 されません 法 人 株 主 の 場 合 は 売 却 損 益 として 課 税 されるよりもみなし 配 当 課 税 の 方 が 配 当 の 益 金 不 算 入 ができるため 有 利 だからです なお この 上 場 会 社 の 自 己 株 式 の 公 開 買 付 のみなし 配 当 課 税 の 特 例 は 平 成 22 年 度 税 制 改 正 により 平 成 22 年 12 月 31 日 まで 適 用 期 限 を 延 長 後 に 廃 止 される 予 定 です 自 己 株 式 の 公 開 買 付 けを 実 施 している 企 業 の 株 式 を 法 人 が 市 場 で 購 入 し その 後 のTOBに 応 じた 場 合 法 人 税 法 上 ではみなし 配 当 と 株 式 譲 渡 損 益 が 生 じます 2. 設 例 ( 法 人 株 主 を 前 提 ) 1 上 場 企 業 X 社 の 資 本 金 は 1,012,212 千 円 資 本 剰 余 金 のうちの 資 本 準 備 金 は 1,224,170 千 円 純 資 産 は 5,041,422 千 円 発 行 済 株 式 総 数 は 17,192,000 株 TOB 価 格 は@650 円 市 場 時 価 は@581 円 2 X 社 株 式 を 市 場 時 価 の@581 円 で 1,000,000 株 購 入 (581,000,000 円 ) 3 X 社 のTOBに 応 じて 1 ヵ 月 後 にX 社 株 式 全 部 をX 社 に@650 円 で 売 却 (650,000,000 円 ) 4 説 明 の 便 宜 上 法 人 株 主 の 当 期 利 益 は 投 資 有 価 証 券 売 却 益 のみとする 1 株 当 たりの 資 本 金 等 の 額 は(1,012,212 千 円 +1,224,170 千 円 )/17,192,000 株 =@130 円 となります よって @581 円 で 購 入 して@650 円 で TOB されると 会 計 上 は@650-@581=@69 円 の 売 却 益 が 発 生 します 税 務 上 は @581 円 -@130 円 =@451 円 の 売 却 損 と@650-@130=@520 円 のみなし 配 当 が 発 生 します 上 場 企 業 株 式 の 場 合 は みなし 配 当 520 百 万 円 に 所 得 税 7%+ 住 民 税 3%=10%の 源 泉 課 税 がされます 3. 法 人 株 主 の 会 計 上 税 務 上 の 取 り 扱 い 1 会 計 処 理 ( 金 額 単 位 : 円 ) 現 預 金 598,000,000 投 資 有 価 証 券 581,000,000 仮 払 金 ( 源 泉 所 得 税 ) 36,400,000 特 別 利 益 ( 投 資 有 価 証 券 売 却 益 ) 69,000,000 仮 払 金 ( 源 泉 住 民 税 ) 15,600,000 http://www.up-firm.com 2
2 税 務 処 理 この 場 合 の 税 務 処 理 は 以 下 の 通 りです 別 表 四 での 申 告 調 整 が 必 要 となります 現 預 金 598,000,000 投 資 有 価 証 券 581,000,000 仮 払 金 ( 源 泉 所 得 税 ) 36,400,000 受 取 配 当 金 520,000,000 仮 払 金 ( 源 泉 住 民 税 ) 15,600,000 特 別 損 失 ( 投 資 有 価 証 券 売 却 損 ) 451,000,000 3 申 告 調 整 特 別 利 益 ( 投 資 有 価 証 券 売 却 益 ) 69,000,000 受 取 配 当 金 520,000,000 特 別 損 失 ( 投 資 有 価 証 券 売 却 損 ) 451,000,000 借 方 は 別 表 四 で 減 算 留 保 貸 方 は 別 表 四 で 加 算 留 保 かつ 50% 分 は 減 算 できます 581 百 万 円 650 百 万 円 簿 価 売 却 価 格 130 百 万 円 資 本 金 等 の 額 1 簿 価 - 資 本 金 等 の 額 =451 百 万 円 = 税 務 上 の 投 資 有 価 証 券 売 却 損 2 売 却 価 格 - 簿 価 =69 百 万 円 = 会 計 上 の 投 資 有 価 証 券 売 却 益 3 売 却 価 格 - 資 本 金 等 の 額 =520 百 万 円 = 税 務 上 のみなし 配 当 金 額 4 別 表 四 五 の 記 載 例 < 別 表 四 > ( 金 額 単 位 : 千 円 ) 区 分 総 額 留 保 社 外 流 出 1 2 3 当 期 利 益 又 は 当 期 欠 損 の 額 69,000 加 算 受 取 配 当 金 計 上 漏 れ 520,000 520,000 受 取 配 当 の 益 金 不 算 入 260,000-260,000 減 算 投 資 有 価 証 券 売 却 損 451,000 451,000 投 資 有 価 証 券 売 却 益 否 認 69,000 69,000 - - 仮 計 191,000 http://www.up-firm.com 3
< 別 表 五 ( 一 )> 別 表 四 での 留 保 の 加 減 算 項 目 が 合 計 で 0 になるため 記 載 は 不 要 です 4. 自 己 株 式 の 取 得 会 社 の 留 意 点 1 資 本 金 等 の 額 が 減 少 します このため 事 業 税 の 外 形 標 準 課 税 が 適 用 される 資 本 金 1 億 円 超 の 法 人 では 資 本 割 額 が 減 少 します また 法 人 住 民 税 の 均 等 割 額 が 減 少 したり 寄 附 金 の 損 金 算 入 限 度 額 が 減 少 する 可 能 性 が あります 2 利 益 積 立 金 部 分 にはみなし 配 当 として 上 場 株 式 では 所 得 税 7%と 住 民 税 3%の 源 泉 徴 収 義 務 が 買 い 手 側 にあ ります みなし 配 当 日 と 1 株 当 りのみなし 配 当 金 額 を 株 主 に 通 知 する 必 要 もあります 源 泉 徴 収 した 所 得 税 等 は 翌 月 10 日 までに 納 付 する 必 要 があります 5. 自 己 株 式 の 売 却 会 社 の 留 意 点 1みなし 配 当 の 益 金 不 算 入 額 の 制 限 TOB に 応 じて 譲 渡 する 株 式 が 関 係 法 人 株 式 等 以 外 の 場 合 は みなし 配 当 額 の 100%ではなく 50%だけが 益 金 不 算 入 とすることが 出 来 ます タックス メリット 効 果 は この 分 減 少 します 連 結 法 人 株 式 または 関 係 法 人 株 式 (25% 以 上 を 6 ヶ 月 以 上 継 続 保 有 する 内 国 法 人 ) 上 記 以 外 100% 全 額 が 益 金 不 算 入 50%のみが 益 金 不 算 入 2 短 期 所 有 株 式 の 配 当 の 益 金 不 算 入 の 規 制 配 当 の 元 本 である 株 式 等 をその 支 払 いの 基 準 日 以 前 1 ヶ 月 以 内 に 取 得 し かつ その 株 式 等 を 基 準 日 以 後 2 ヶ 月 以 内 に 譲 渡 した 場 合 は 益 金 不 算 入 が 出 来 ません ただし みなし 配 当 の 場 合 は 配 当 計 算 期 間 の 概 念 がありません このため 配 当 落 ちの 現 象 を 利 用 した 租 税 回 避 行 為 の 可 能 性 がありません よって 短 期 所 有 株 式 にかかる 配 当 の 益 金 不 算 入 は 規 制 されません 3 所 得 税 額 控 除 配 当 から 源 泉 課 税 された 所 得 税 額 等 の 52 百 万 円 は 法 人 税 額 から 税 額 控 除 できます みなし 配 当 に 関 する 源 泉 徴 収 所 得 税 は 配 当 計 算 期 間 での 元 本 所 有 期 間 の 期 間 按 分 が 不 要 なためその 全 額 が 控 除 できます 法 人 税 額 が 0 の 場 合 は 翌 年 に 繰 り 越 しされずに 還 付 できます 誤 って 損 金 計 上 すると 不 利 です( 国 税 不 服 審 判 所 平 成 18 年 4 月 6 日 裁 決 事 例 ) 上 場 企 業 の 自 己 株 式 の 公 開 買 付 価 格 が 市 場 時 価 より 割 安 でも 成 立 する 理 由 は 法 人 株 主 の 応 募 誘 因 にあります http://www.up-firm.com 4
企 業 買 収 ストラクチャーの 有 利 選 択 ( 法 人 株 主 と 個 人 株 主 の 財 務 戦 略 ) 1. 企 業 買 収 ストラクチャーとみなし 配 当 の 関 係 みなし 配 当 の 金 額 が 5 万 円 や 10 万 円 といった 少 額 では 個 人 と 法 人 の 差 異 は 重 要 性 がありません しかし みなし 配 当 とされる 金 額 が 5 億 円 や 10 億 円 となると 個 人 の 場 合 は 大 きく 不 利 です つまり 配 当 所 得 は 総 合 課 税 されるため 税 負 担 が 重 くなります( 所 得 税 + 住 民 税 で 50% 課 税 配 当 控 除 後 で 43.6%) 仮 に 10 億 円 のみなし 配 当 の 場 合 では 4.36 億 円 も 所 得 税 と 住 民 税 で 課 税 されます これが 非 上 場 株 式 の 譲 渡 所 得 では 20%( 所 得 税 15%+ 住 民 税 5%) ですみます このため 相 続 人 やオーナー 個 人 が 金 庫 株 する 前 に まず 親 密 法 人 取 引 先 や 持 ち 株 会 社 へ 自 社 株 式 を 売 却 すれば 譲 渡 所 得 に 転 換 することができます そして 買 い 手 の 法 人 が 金 庫 株 して 上 記 のタックス メリットを 享 受 する 財 務 ストラクチャーがあります 個 人 株 主 が 金 庫 株 する 場 合 は みなし 配 当 課 税 を 考 慮 して 配 当 所 得 と 譲 渡 所 得 を 選 択 できるケースがあります 例 えば A 社 は 個 人 株 主 B(60% 所 有 )が 支 配 する 会 社 です A 社 が 個 人 株 主 の C(A 社 株 式 10% 所 有 )と 法 人 株 主 の D 社 (C がオーナーの 会 社 A 社 株 式 30% 所 有 )から 自 己 株 式 ( 合 計 40%)を 取 得 して 100% 化 するケースがあ ります 個 人 株 主 B の 資 金 繰 りの 事 情 で B が C や D から A 社 株 式 を 購 入 できない 場 合 です この 場 合 個 人 株 主 C は A 社 に 直 接 金 庫 株 すると みなし 配 当 となり 個 人 の 配 当 所 得 は C の 総 合 課 税 とされ C に 2,000 万 円 以 上 の 給 与 所 得 があれば 50% 近 い 税 負 担 となります 個 人 株 主 (B) 個 人 株 主 (C) 10% 60% 100% 会 社 (A) 30% 会 社 (D) 2. 財 務 戦 略 ストラクチャーの 構 築 そこで C の 支 配 する D 社 に 一 旦 A 社 株 式 10%を 売 却 して D 社 が 保 有 する 30%の A 社 株 式 を 金 庫 株 する 際 に 併 せて 40%を 売 却 するスキームを 企 画 します 個 人 株 主 C は A 社 の 株 式 譲 渡 を 配 当 所 得 ( 税 率 50% 総 合 課 税 )から 譲 渡 所 得 ( 税 率 20% 分 離 課 税 )にコンバージョン( 転 換 )することができます つまり C の 住 民 税 も 含 めた 税 負 担 は 50%から 20%に 軽 減 することが 可 能 です 一 方 の D 社 では みなし 配 当 が 益 金 不 算 入 になり 所 得 税 額 控 除 は 赤 字 の 場 合 還 付 もされ 投 資 有 価 証 券 売 却 損 も 損 金 計 上 が 可 能 です 税 務 上 は 上 記 のトリプルのメリットが あります http://www.up-firm.com 5
3. 平 成 22 年 度 税 制 改 正 通 常 の 経 済 合 理 的 な 個 人 法 人 は 実 際 の 経 済 行 動 や 投 資 活 動 を 起 こす 前 に 複 数 の 参 考 書 を 研 究 したり 法 律 上 の 効 果 や 会 計 処 理 税 務 処 理 を 弁 護 士 や 監 査 法 人 顧 問 税 理 士 に 確 認 します そして 極 端 に 不 自 然 でなければ コストが 最 も 有 利 な 選 択 肢 を 採 用 します 上 記 のようなコンバージョン 取 引 については 当 局 に 否 認 されるリスクは 低 いと 考 えられます 有 利 選 択 まで 租 税 回 避 行 為 と 認 定 されるならば 個 人 や 法 人 は 常 に 税 率 税 額 が 高 くなる 方 を 選 択 する 必 要 があることになってしまいます 平 成 22 年 度 税 制 改 正 では これらの 課 税 関 係 の 取 り 扱 いが 変 更 されました 自 己 株 式 として 取 得 されることを 予 定 して 取 得 した 株 式 が 自 己 株 式 として 取 得 された 場 合 はみなし 配 当 が 益 金 算 入 される 事 になりました( 法 法 233 法 令 20 条 の 2) 具 体 的 には TOB 公 告 がされている 場 合 や 組 織 再 編 成 が 公 表 されている 場 合 (すなわち 反 対 株 主 の 買 取 請 求 権 が 行 使 可 能 な 場 合 )です ただし 取 得 条 項 付 株 式 取 得 請 求 権 付 株 式 の 取 得 やベンチャービジネスと ベンチャーキャピタルの 出 資 契 約 で 3 年 以 内 の 上 場 見 込 が 無 い 等 の 一 定 事 由 が 生 じた 場 合 の 買 戻 特 約 がある 場 合 の 自 己 株 式 の 取 得 は 当 初 からの 事 由 であり 株 主 の 税 負 担 軽 減 目 的 ではないため 自 己 株 式 として 取 得 することが 予 定 されていた ケースには 該 当 しないものとされます( 法 基 通 3-1-8 平 成 22 年 度 税 制 改 正 の 解 説 P338) な お 外 国 子 会 社 の 配 当 益 金 不 算 入 制 度 においても 同 様 の 防 止 規 定 が 設 けられています( 法 法 23 条 の 2 2 法 令 22 条 の 43) 上 記 の 改 正 は 平 成 22 年 10 月 1 日 以 降 の 資 本 取 引 から 適 用 されます Reference Purpose Only 本 レターに 掲 載 している 情 報 は 一 般 的 なガイダンスに 限 定 されています この 文 書 は 個 別 具 体 的 ケースに 対 する 会 計 税 務 のア ドバイスをするものではありません 会 計 上 の 判 断 や 税 法 の 適 用 結 果 は 事 実 認 定 や 個 別 事 情 によって 大 幅 に 異 なることがありえます また 解 説 の 前 提 となる 会 計 規 則 や 税 制 が 変 更 されている 可 能 性 もあります 実 際 に 企 画 実 行 される 場 合 は 当 事 務 所 の 担 当 者 にご 確 認 ください http://www.up-firm.com 6