任 意 整 理 において 全 国 統 一 基 準 に 従 った 和 解 に 応 じることを 求 める 意 見 書 第 1 意 見 の 趣 旨 1 貸 金 業 者 各 社 は, 利 息 引 き 直 し 計 算 後 に 貸 金 業 者 に 対 して 残 債 務 を 有 する 多 重 債 務 者 と の 和 解 交 渉 において, 多 重 債 務 者 に 対 する 任 意 整 理 を 処 理 するための 全 国 統 一 基 準 を 遵 守 し, 誠 実 に 業 務 遂 行 されたい 2 日 本 貸 金 業 協 会 は, 貸 金 業 者 に 対 し, 全 国 統 一 基 準 を 遵 守 し 誠 実 に 業 務 遂 行 するよう 強 く 指 導 監 督 されたい 第 2 意 見 の 理 由 1 多 重 債 務 救 済 方 法 としての 任 意 整 理 の 重 要 性 ⑴ 高 金 利, 過 剰 与 信 及 び 過 酷 な 取 立 てが 主 たる 原 因 となって 発 生 するいわゆる 多 重 債 務 問 題 は, 長 年 社 会 問 題 として 取 り 上 げられてきた 多 重 債 務 問 題 は, 債 務 者 の 経 済 的 困 窮 だけでなく 家 庭 の 崩 壊 や 犯 罪 などを 引 き 起 こす 原 因 ともなってしまうため, 国 民 全 体 の 生 活 を 守 るという 観 点 からもその 救 済 が 必 要 不 可 欠 である ⑵ 多 重 債 務 者 の 代 表 的 な 救 済 手 段 としては, 法 的 手 続 ( 破 産, 個 人 再 生 )のほか, 従 来 から 弁 護 士 等 の 法 律 専 門 家 が 交 渉 して 返 済 金 額, 返 済 条 件 を 交 渉 する 任 意 整 理 がある 任 意 整 理 は, 債 権 者 間 の 平 等 を 図 りながらも 個 々の 債 権 者 との 交 渉 によりある 程 度 柔 軟 な 返 済 計 画 が 立 てられるため, 法 的 手 続 よりも 簡 易 迅 速 に 経 済 的 再 出 発 を 図 ることが できる また, 自 己 破 産 手 続 などにより, 一 切 の 債 務 の 支 払 いをしないよりは, 債 権 者 に 対 する 一 定 の 配 慮 をできたという 意 味 で, 債 務 者 の 心 情 を 満 たすことができるので, 心 理 的 にも 多 重 債 務 者 の 救 済 につながっている このように 任 意 整 理 は, 社 会 的 妥 当 性 も 有 する 手 段 であることなどから, 今 日 においても 多 重 債 務 者 の 救 済 のため 非 常 に 重 要 な 手 段 であると 位 置 づけられている 2 任 意 整 理 における 全 国 統 一 基 準 ⑴ 任 意 整 理 は,このように 重 要 な 役 割 を 持 つものであるが,かつては, 担 当 弁 護 士 によ 1
り 処 理 内 容 が 一 致 せず, 急 増 する 多 重 債 務 問 題 に 必 ずしも 適 切 に 対 処 することができな かった しかし, 平 成 8 年, 東 京 三 弁 護 士 会 の 法 律 相 談 センターが クレジット サラ 金 処 理 の 東 京 三 弁 護 士 会 統 一 基 準 を 定 め, 弁 護 士 が 任 意 整 理 に 取 り 組 むにあたっての 統 一 的 な 処 理 方 針 を 示 した そしてこれを 全 国 に 広 める 形 で, 平 成 12 年 に, 日 本 弁 護 士 連 合 会 における 多 重 債 務 者 救 済 事 業 拡 大 に 関 する 協 議 会 において 採 択 され,その 後 当 会 を 含 む 全 国 の 単 位 弁 護 士 会 において 全 国 的 な 統 一 基 準 として 確 認 され 現 に 運 用 され てきたのが 多 重 債 務 者 に 対 する 任 意 整 理 を 処 理 するための 全 国 統 一 基 準 ( 以 下, 全 国 統 一 基 準 という ) である ⑵ 全 国 統 一 基 準 は,1 取 引 開 始 時 点 からのすべての 取 引 経 過 の 開 示 を 求 めること,2 利 息 制 限 法 所 定 の 制 限 利 率 によって 元 本 充 当 計 算 を 行 い, 最 終 取 引 日 における 残 元 本 を 確 定 すること,3 弁 済 の 提 示 にあたっては,それまでの 遅 延 損 害 金 や 将 来 利 息 はつけない ことを 内 容 としている ⑶ 全 国 統 一 基 準 制 定 以 降, 全 国 の 弁 護 士 の 大 半 が 貸 金 業 者 に 対 して 同 基 準 に 従 った 和 解 の 提 案 をし,そしてほとんどの 貸 金 業 者 との 間 において 同 基 準 に 沿 った 和 解 が 行 われる ようになった また, 裁 判 所 の 和 解 や 特 定 調 停 の 手 続 においても, 全 国 統 一 基 準 に 沿 った 解 決 がなさ れるように 努 力 されている このように, 全 国 統 一 基 準 は, 任 意 整 理 の 手 続 及 び 和 解 の 基 準 として 広 く 実 務 的 に 運 用 されている 3 全 国 統 一 基 準 の 妥 当 性 ⑴ 債 務 者 は, 多 額 の 利 息 が 支 払 いきれないため 多 重 債 務 になり 整 理 を 余 儀 なくされてい るのであるから, 任 意 整 理 をしても 従 前 の 契 約 内 容 と 変 わらない 金 額 の 返 済 を 求 められ るようでは 任 意 整 理 が 有 効 に 機 能 する 場 面 は 非 常 に 限 られてしまう 任 意 整 理 にメリッ トが 無 ければ, 債 務 者 は 法 的 整 理 を 選 択 せざるを 得 ない 一 方, 債 務 者 が 法 的 整 理 をした 場 合, 債 権 者 は 貸 付 金 を 全 く 回 収 できないか,ごくわ ずかな 配 当 しか 受 け 取 れない 債 務 者 が 法 的 整 理 をすることは, 債 権 者 にとって 必 ずし 2
も 利 益 にならないのである したがって, 任 意 整 理 について 債 務 者 の 経 済 的 更 生 を 可 能 とする 明 確 な 基 準 を 設 ける ことは, 債 務 者, 債 権 者 の 双 方 にとってメリットがある ⑵ 全 国 統 一 基 準 は, 利 息, 遅 延 損 害 金 を 免 除 し 元 金 のみを 返 済 させるというものである これは 返 済 ができなくなった 債 務 者 の 負 担 を 減 らして 返 済 をしやすくし 債 務 者 の 経 済 的 更 生 の 可 能 性 を 広 げる 一 方, 債 権 者 側 にとっては 投 下 資 本 である 元 金 は 回 収 でき, 利 益 こそ 出 ないものの 損 失 は 限 りなく 少 なくなる,というバランスがとれた 社 会 的 妥 当 性 を 有 する 基 準 である 全 国 統 一 基 準 は,このようにバランスの 取 れた 社 会 的 妥 当 性 を 有 する 基 準 であったか らこそ, 今 日 まで 広 く 全 国 に 受 け 入 れられていたのである 4 一 部 業 者 が 全 国 統 一 基 準 を 遵 守 していないこと 等 について ⑴ 近 時, 貸 金 業 者 による 債 権 回 収 の 場 面 において, 一 部 の 貸 金 業 者 が 債 務 者 の 支 払 能 力 について 何 ら 配 慮 することなく, 全 国 統 一 基 準 に 基 づく 和 解 案 を 一 切 受 け 入 れずに 支 払 日 までの 遅 延 損 害 金 を 付 した 一 括 返 済 を 求 め,これを 受 け 入 れない 場 合 にはたとえ 相 手 が 生 活 保 護 受 給 者 であっても 多 重 債 務 者 を 提 訴 するという 強 硬 手 段 に 出 るという 案 件 が 散 見 される また, 消 滅 時 効 期 間 を 経 過 した 貸 金 債 権 を 譲 り 受 けて 貸 金 債 権 の 取 り 立 てを 行 うという 不 当 な 手 段 に 出 る 業 者 も 少 なからず 存 在 する 他 方 で, 貸 金 業 者 からの 過 払 金 返 還 の 場 面 では, 過 払 金 の 返 還 を 命 じる 判 決 が 確 定 し ても 任 意 に 支 払 をしようとせず, 強 制 執 行 を 潜 脱 する 手 法 を 繰 り 返 したり,あるいは 代 理 人 が 就 いている 借 主 の 預 貯 金 口 座 あてに 直 接 送 金 を 行 い, 全 国 統 一 基 準 を 遵 守 してい る 貸 金 業 者 に 対 する 任 意 整 理 の 原 資 を 散 逸 させて 任 意 整 理 の 妨 害 をするなど, 自 社 の 権 利 利 益 のみを 主 張 し 続 けているケースもある こうした 業 者 には, 多 重 債 務 問 題 が 大 きな 社 会 問 題 と 化 した 原 因 が, 貸 金 業 者 による 高 金 利, 過 剰 融 資 及 び 過 酷 な 取 り 立 てにあったことについて, 反 省 の 姿 勢 が 全 く 見 られ ず, 誠 実 な 業 務 遂 行 とはいい 難 い ⑵ 破 産, 民 事 再 生 等 の 法 的 整 理 では, 制 度 上 債 権 者 間 の 平 等 が 重 要 視 されており, 任 意 3
整 理 においても, 債 権 者 を 平 等 に 取 り 扱 うことが 求 められている そのような 中, 一 部 といえども 全 国 統 一 基 準 を 遵 守 しない 貸 金 業 者 が 現 れると, 債 務 者 の 任 意 整 理 による 解 決 が 困 難 になる また,かかる 状 況 を 放 置 すると, 全 国 統 一 基 準 を 遵 守 している 他 の 貸 金 業 者 との 間 で 不 平 等 が 生 じる 今 後,これまで 全 国 統 一 基 準 を 遵 守 してきた 貸 金 業 者 がその 意 を 翻 す ことになれば, 任 意 整 理 という 手 法 そのものが 崩 壊 しかねない ⑶ 全 国 統 一 基 準 が 広 く 浸 透 し, 多 くの 貸 金 業 者 が 同 基 準 を 遵 守 してきたこれまでの 状 況 下 において, 債 務 整 理 を 行 っている 債 務 者 に 対 し, 形 式 的 根 拠 のみに 基 づいて 利 息, 遅 延 損 害 金 を 請 求 することはいわば 抜 け 駆 けであり,それだけで 倫 理 的 に 非 難 されてしか るべきである また 前 述 したように 債 務 者 を 法 的 整 理 に 追 い 込 むことは, 結 局 債 権 者 にとっても 投 下 資 本 回 収 の 可 能 性 を 大 きく 減 じるものであるから, 当 該 業 者 自 体 はもちろん, 貸 金 業 界 全 体 にとっても, 経 済 的 合 理 性 を 有 する 行 動 とはいえない そして, 任 意 整 理 そのものの 存 続 が 危 うくなれば, 家 庭 の 崩 壊, 犯 罪 の 増 加 などの 社 会 問 題 が 増 加 するおそれもある ⑷ 以 上 のことから, 貸 金 業 者 が 任 意 整 理 において 全 国 統 一 基 準 を 遵 守 しないことは 適 正 な 業 務 運 営 とはいえない 5 各 貸 金 業 者 に 対 して 貸 金 業 者, 特 に 全 国 統 一 基 準 を 遵 守 していない 一 部 業 者 は, 広 く 実 務 的 に 運 用 されてい る 全 国 統 一 基 準 を 遵 守 する 利 益 を 改 めて 確 認 し, 同 基 準 を 遵 守 すべきである また, 生 活 保 護 受 給 者 に 対 する 提 訴 等 支 払 能 力 を 超 えるような 請 求 を 行 うとか,あるいは, 消 滅 時 効 期 間 を 経 過 した 貸 金 債 権 を 譲 り 受 けその 貸 金 債 権 を 取 立 てるといった 不 当 な 方 法 による 取 立 てを 中 止 し, 過 払 金 の 返 還 にあたってはこれを 命 じる 判 決 を 遵 守 し, 代 理 人 が 就 いて いる 場 合 に 借 主 の 預 貯 金 口 座 あて 直 接 送 金 をするといった 不 誠 実 な 対 応 をすることは 控 え,もって 誠 実 に 業 務 遂 行 すべきである 6 日 本 貸 金 業 協 会 の 指 導 監 督 義 務 について, 日 本 貸 金 業 協 会 は, 貸 金 業 者 の 業 務 の 適 4
正 な 運 営 を 確 保 し,もって 貸 金 業 の 健 全 な 発 展 と 資 金 需 要 者 等 の 利 益 の 保 護 を 図 るととも に, 国 民 経 済 の 適 切 な 運 営 に 資 すること を 目 的 としている 前 述 のとおり, 貸 金 業 者 が 任 意 整 理 にあたり 全 国 統 一 基 準 を 遵 守 しないことは, 適 正 な 業 務 運 営 とはいえない また, 任 意 整 理 が 維 持 できなくなることは 貸 金 業 界 だけでなく 一 般 国 民 ひいては 社 会 全 体 にとっても 大 きな 損 失 である よって, 日 本 貸 金 業 協 会 は, 貸 金 業 者 に 対 し, 全 国 統 一 基 準 を 遵 守 し 誠 実 に 業 務 を 遂 行 するように 強 い 態 度 で 指 導, 監 督 すべきである 7 まとめ 以 上 のとおり, 任 意 整 理 は, 債 務 者 の 経 済 的 更 生 に 資 する 重 要 な 方 法 であり, 全 国 統 一 基 準 は 任 意 整 理 の 要 である 各 貸 金 業 者 は, 全 国 統 一 基 準 を 遵 守 し, 任 意 整 理 に 協 力 して 誠 実 に 業 務 遂 行 すべきであり, 日 本 貸 金 業 協 会 も 各 貸 金 業 者 に 全 国 統 一 基 準 を 遵 守 し 誠 実 に 業 務 遂 行 するよう 強 く 指 導 監 督 をすべきである 貸 金 業 界 が, 国 民 からの 信 頼 を 失 わないよう 誠 実 な 対 応 を 求 める 平 成 24 年 11 月 19 日 宮 崎 県 弁 護 士 会 会 長 松 田 幸 子 5