第 32 回 漢 方 教 室 ( 漢 方 ) 漢 方 でがんと 向 き 合 う- 心 と 体 の 免 疫 力 をアップ- Ⅰ. 日 本 における 漢 方 治 療 の 現 状 西 洋 医 学 を 学 んだ 医 師 と 薬 剤 師 だけが 漢 方 治 療 を 実 践 できる( 免 許 の 一 本 化 ) 保 険 医 療 制 度 の 中 で 西 洋 医 学 治 療 と 同 時 に 漢 方 治 療 を 行 うことができる 漢 方 エキス 製 剤 が 広 く 普 及 している エキス 治 療 も 生 薬 治 療 ( 煎 じ 薬 )も 健 康 保 険 で 取 り 扱 われる 地 域 医 療 に 携 わる 医 師 の 97%が 漢 方 薬 の 使 用 経 験 を 持 つ Ⅱ.がん 治 療 の 方 法 主 な 西 洋 医 学 治 療 (3 大 療 法 ) 外 科 療 法 放 射 線 療 法 抗 がん 剤 治 療 ( 化 学 療 法 分 子 標 的 治 療 ) その 他 の 西 洋 医 学 治 療 温 熱 療 法 (ハイパーサーミア) サイトカイン 療 法 ホルモン 療 法 ( 内 分 泌 療 法 ) 遺 伝 子 治 療 免 疫 療 法 ( 細 胞 免 疫 療 法 活 性 化 リンパ 球 リンパ 球 移 入 法 ) 抗 体 療 法 穿 刺 療 法 凍 結 療 法 ワクチン 療 法 生 体 応 答 調 節 剤 (BRM) 療 法 ステント 留 置 術 造 血 幹 細 胞 移 植 療 法 ( 骨 髄 移 植 臍 帯 血 移 植 ) 肝 動 脈 塞 栓 術 (TAE)など 代 替 医 療 漢 方 鍼 灸 植 物 療 法 (メシマコブ アガリスクなど) アロマテラピー 気 功 など Ⅲ. 西 洋 医 学 におけるがん 治 療 の 標 準 的 な 考 え 方 1) 西 洋 医 学 的 に 治 療 法 が 確 立 しているものはそれを 優 先 する 外 科 切 除 術 と 補 助 的 治 療 ( 放 射 線 療 法 化 学 療 法 ホルモン 療 法 など) 放 射 線 療 法 抗 がん 剤 治 療 ( 化 学 療 法 分 子 標 的 治 療 ) 骨 髄 移 植 など 2) 根 治 でなくても 症 状 緩 和 のために 西 洋 医 学 治 療 が 有 効 なものは 積 極 的 に 行 う 姑 息 手 術 ( 人 工 肛 門 胃 瘻 など) 癌 性 疼 痛 に 対 する 緩 和 医 療 3) 補 助 的 治 療 を 適 宜 行 う 化 学 療 法 ( 抗 がん 剤 )の 副 作 用 に 対 する 治 療 手 術 による 後 遺 症 ( 腸 閉 塞 など)の 治 療 機 能 障 害 に 対 するリハビリテーション 精 神 的 ケア 1
Ⅳ.がん 治 療 に 漢 方 薬 が 使 えるか 1 漢 方 治 療 の 適 応 2 漢 方 と 西 洋 医 学 の 使 い 分 け 治 療 の 主 たる 目 標 西 洋 医 学 : 病 変 部 検 査 異 常 漢 方 : 自 覚 症 状 がん( 早 期 も 含 む) 第 一 義 的 には 西 洋 医 学 の 適 応 Ⅴ. 漢 方 治 療 の 特 徴 西 洋 医 学 と 異 なった 体 系 を 持 つ もう1つの 医 学 である 1 自 覚 症 状 の 軽 減 が 治 療 の 主 目 標 である 生 活 の 質 (Quality of life : QOL)を 高 めることができる 2 局 所 だけではなく 全 身 をみる 特 に 消 化 管 機 能 の 向 上 に 優 れた 効 果 がある 3 免 疫 能 を 向 上 させて 自 然 治 癒 力 を 高 める 補 剤 ( 補 中 益 気 湯 十 全 大 補 湯 人 参 養 栄 湯 など)を 用 いる 機 会 が 多 い 4 証 と 言 われる 複 数 の 症 候 を 同 時 に 治 療 する 5 副 作 用 が 少 ない 2
Ⅵ. 未 病 を 治 す 1 西 洋 医 学 からみた 未 病 1) 定 義 病 気 と 健 康 の 中 間 東 洋 医 学 において 検 査 を 受 けても 異 常 が 見 つからず 病 気 と 診 断 されないが 健 康 ともいえない 状 態 放 置 すると 病 気 になるだろうと 予 測 される 状 態 をいう 場 合 が 多 い ( 大 辞 泉 ) 病 気 ではないが 健 康 でもない 状 態 自 覚 症 状 はないが 検 査 結 果 に 異 常 がある 場 合 と 自 覚 症 状 はあるが 検 査 結 果 に 異 常 がない 場 合 に 大 別 される 骨 粗 鬆 症 肥 満 な ど (スーパー 大 辞 林 ) 2) 未 病 システム 学 会 の 定 義 西 洋 型 未 病 自 覚 症 状 はないが 検 査 で 異 常 が ある 状 態 東 洋 型 未 病 自 覚 症 状 はあるが 検 査 で 異 常 が ない 状 態 以 上 を 合 わせて 未 病 と している 病 気 自 覚 症 状 でも 検 査 でも 異 常 が ある 状 態 病 気 予 備 軍 = 未 病 期 2 東 洋 医 学 でいう 未 病 未 病 を 治 す 疾 病 発 症 前 のどの 段 階 を 治 療 対 象 としているかで 少 なくとも 3 つの 意 味 を 持 つ 1 疾 病 に 対 する 予 防 疾 病 を 引 き 起 こす 原 因 となる 邪 気 がまだ 人 体 にまったく 関 与 していない 段 階 で あらかじめ 身 体 側 の 生 体 防 御 機 構 を 高 めて 備 える 予 防 医 学 的 公 衆 衛 生 学 的 な 意 義 2 早 期 治 療 疾 病 が 明 らかな 徴 候 となって 身 体 や 精 神 に 現 れる 前 の 段 階 において わずかな 予 兆 からそれを 察 知 し その 段 階 で 治 してしまう 早 期 発 見 早 期 治 療 という 意 義 ( 時 間 的 広 がりとしての 未 病 ) 3
3 疾 病 の 発 展 的 傾 向 を 掌 握 すること 疾 病 は 発 症 した 後 にもさらに 進 展 して 他 の 臓 腑 を 侵 すため この 発 展 傾 向 を 掌 握 して 先 手 を 打 つ 全 身 管 理 的 な 意 義 ( 空 間 的 広 がりとしての 未 病 ) 病 的 部 位 に 過 度 にとらわれず 未 病 的 部 位 にも 着 目 し その 部 位 の 予 防 予 備 力 維 持 健 康 増 進 を 図 ることができる 3 未 病 を 治 す( 治 未 病 ) のがん 治 療 への 応 用 1 疾 病 に 対 する 予 防 漢 方 薬 は 全 般 に 身 体 の 免 疫 力 を 高 める 2 早 期 治 療 がん 自 体 ではなく 背 景 病 態 の 早 期 発 見 早 期 治 療 という 意 味 で 漢 方 は 役 立 つ 3 疾 病 の 発 展 的 傾 向 を 掌 握 すること 漢 方 は 局 所 にとらわれない 全 身 を 診 る 治 療 法 ( 全 人 的 医 療 )である 特 に 消 化 器 系 ( 胃 腸 )の 補 強 を 重 視 している Ⅶ.がん 治 療 における 漢 方 治 療 の 役 割 4
Ⅷ. 東 洋 医 学 から 考 える 治 療 の 基 本 方 針 1) 気 の 充 実 気 功 生 き 方 の 変 換 プラス 思 考 2) 精 神 的 な 安 定 リラックスした 気 分 で 過 ごす ( 副 交 感 神 経 優 位 な 状 態 を 作 る) 楽 しい 気 分 にする 笑 いの 健 康 法 3) 漢 方 薬 の 服 用 主 として 補 剤 を 用 いる エキス 剤 を 白 湯 に 溶 いて 味 わって 飲 む 笑 いと 免 疫 能 - 笑 いの 体 験 による 免 疫 能 の 変 化 - 対 象 はがんや 心 臓 病 の 人 を 含 む 男 女 19 人 (20 歳 から62 歳 ) 吉 本 新 喜 劇 の 開 演 前 後 に 採 血 し 3 時 間 後 の 笑 いの 効 果 を 調 べた 4) 鍼 灸 特 にお 灸 が 効 果 的 NK 活 性 の 変 動 データ 5) 食 の 充 実 栄 養 のバランスが 取 れた 食 事 内 容 ( 肉 類 を 少 なめ ビタミンやミネラルが 豊 富 なもの アルコールは 適 量 可 など) 食 べ 方 の 工 夫 (よく 噛 んで 食 べる ゆっくりと 味 わって 食 べる ありがたく 感 じて 食 べる など) 6) 日 常 生 活 の 改 善 規 則 正 しい 生 活 身 体 を 冷 やさない タバコは 不 可 伊 丹 仁 朗 他. 心 身 医 学 34(7): 565-571 Ⅸ.がん 患 者 の 漢 方 的 病 態 と 治 療 進 行 がん 最 終 的 に 気 虚 血 虚 陰 証 に 陥 る 十 全 大 補 湯 の 病 態 に 近 づく 5
Ⅹ.よく 用 いる 漢 方 薬 と 使 い 方 1 気 力 や 体 力 の 増 強 1 十 全 大 補 湯 [48](じゅうぜんたいほとう) 悪 性 腫 瘍 の 第 一 選 択 薬 / 栄 養 状 態 不 良 / 貧 血 傾 向 / 皮 膚 枯 燥 がんが 進 行 すると 漢 方 的 には 気 虚 (ききょ) 血 虚 (けっきょ)の 状 態 に 陥 りやすい 十 全 大 補 湯 を 長 期 的 に 服 用 することで 病 態 が 改 善 することがある 2 補 中 益 気 湯 [41](ほちゅうえっきとう) 人 参 黄 耆 剤 の 中 心 的 処 方 ( 気 虚 )/だるさが 強 い 場 合 の 一 般 的 な 第 一 選 択 薬 3 人 参 養 栄 湯 [108](にんじんようえいとう) 咳 や 痰 などの 呼 吸 器 症 状 / 微 熱 4 加 味 帰 脾 湯 [137](かみきひとう) 気 力 体 力 の 甚 だしい 低 下 / 抑 うつ 不 眠 不 安 など 精 神 症 状 5 半 夏 白 朮 天 麻 湯 [37](はんげびゃくじゅつてんまとう) めまい/ 立 ちくらみ/ 頭 痛 ( 頭 重 ) 6 清 心 蓮 子 飲 [111](せいしんれんしいん) 頻 尿 / 排 尿 時 不 快 感 / 冷 え/ 膀 胱 神 経 症 人 参 黄 耆 剤 (にんじんおうぎざい) 人 参 と 黄 耆 を 含 む 処 方 群 だるい/ 疲 れやすい/ 寝 汗 / 胃 腸 が 弱 い 2 胃 腸 症 状 の 改 善 1 六 君 子 湯 [43](りっくんしとう) 食 欲 低 下 / 胃 もたれ 抑 うつ 気 分 には 香 蘇 散 [70](こうそさん) 腹 痛 には 柴 胡 桂 枝 湯 [10](さいこけいしとう)を 併 用 2 人 参 湯 [32](にんじんとう) 慢 性 下 痢 / 手 足 の 冷 え/ 食 欲 低 下 3 真 武 湯 [30](しんぶとう) 慢 性 下 痢 ( 未 消 化 便 排 便 後 倦 怠 感 )/ 身 体 が 重 い/ 顔 色 不 良 6
4 大 建 中 湯 [100](だいけんちゅうとう) 腸 閉 塞 / 腹 部 膨 満 (ガス 貯 留 ) 腹 痛 が 強 いものや 効 果 が 不 十 分 なものには 桂 枝 加 芍 薬 湯 [60](けいしかしゃくやくとう)を 併 用 5 半 夏 厚 朴 湯 [16](はんげこうぼくとう) 再 発 不 安 感 / 胸 部 圧 迫 感 / 咽 喉 頭 異 物 感 / 吐 き 気 6 半 夏 瀉 心 湯 [14] (はんげしゃしんとう) 胃 部 膨 満 感 / 腹 鳴 /げっぷ/ 抗 癌 剤 による 下 痢 3 免 疫 能 の 維 持 向 上 1 小 柴 胡 湯 [9](しょうさいことう) 比 較 的 体 力 がある/ 胃 腸 が 丈 夫 / 胸 脇 苦 満 ( 季 肋 部 が 重 苦 しい) 桂 枝 茯 苓 丸 [25](けいしぶくりょうがん)や 四 物 湯 [61](しもつとう)と 合 方 して 効 果 的 なことがある 2 十 全 大 補 湯 [48](じゅうぜんたいほとう) 栄 養 状 態 不 良 / 貧 血 / 皮 膚 枯 燥 Ⅺ. 十 全 大 補 湯 を 用 いたがん 治 療 の 臨 床 研 究 1 胃 癌 術 後 の 5-FU 経 口 剤 投 与 時 特 に Stage III および Stage IV の 症 例 に 対 しては 十 全 大 補 湯 投 与 群 に 有 意 な 生 存 期 間 の 延 長 が 認 められた ( 山 田 卓 也 :Prog.Med.24 2746-2747, 2004) 2 放 射 線 治 療 を 受 けた 子 宮 頸 癌 症 例 ( 十 全 大 補 湯 併 用 群 74 例 非 併 用 群 231 例 )に 対 し 十 全 大 補 湯 は 延 命 効 果 を 認 めた ( 居 村 暁 ほか: 消 化 器 外 科 3199-108, 2008) 3 肝 癌 術 後 十 全 大 補 湯 投 与 群 (11 例 )では 非 投 与 群 (36 例 )に 比 べて 再 発 率 が 有 意 に 低 く 肝 癌 再 発 抑 制 効 果 が 確 認 された ( 河 野 寛 : 消 化 器 外 科 31 99-108, 2008) Ⅻ. 漢 方 によるがん 治 療 の 臨 床 治 験 例 1 炎 症 性 乳 がんの 痛 みと 熱 感 に 温 清 飲 [57](うんせいいん) 2 急 性 リンパ 性 白 血 病 の 化 学 療 法 による 副 作 用 ( 発 熱 と 嘔 気 )に 柴 胡 桂 枝 湯 [10](さいこけいしとう) 新 井 信 著 症 例 でわかる 漢 方 薬 入 門 ( 日 中 出 版 )に 掲 載 7