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1.はじめに 英 国 では 欧 州 連 合 (EU)からの 離 脱 の 是 非 を 問 う 国 民 投 票 が 6 月 23 日 に 実 施 される 離 脱 後 の 英 国 と EU の 関 係 に 関 してはいくつかのパターンが 考 えられるが( 第 1 表 ) 本 レ ポートでは EU と 幅 広 い 分 野 で 個 別 協 定 を 締 結 していく スイス 型 について 考 察 する ( 注 1) ひと 口 に スイス 型 といっても 現 在 スイスが EU と 結 んでいる 約 120 に 及 ぶ 協 定 は スイスの 経 済 構 造 等 を 反 映 したものであり 英 国 にそのまま 適 用 できるものではない 例 え ば スイスの 金 融 機 関 の 秘 密 主 義 は 世 界 的 に 有 名 であるが 英 国 の 金 融 業 のあり 方 とは 合 致 しない こういった 様 々な 国 情 の 違 いも 念 頭 に 置 きつつ スイスと EU の 関 係 の 概 要 をまと めると 共 に 英 国 がスイス 型 を 採 用 した 場 合 のメリット デメリットを 考 察 する ( 注 1) 欧 州 経 済 領 域 (European Economic Area EEA)への 参 加 により EU との 緊 密 な 関 係 が 最 も 維 持 され 英 経 済 へのダメージも 最 小 になるとされる 所 謂 ノルウェー 型 については 当 室 発 行 BTMU Economic Brief, London~ 英 国 の EU 離 脱 シナリオ 考 察 : ノルウェー 型 のメリット デメリット (2016 年 6 月 )を 参 照 第 1 表 :EU 離 脱 後 に 想 定 される 英 国 EU 関 係 の 主 なパターン パターン 離 脱 後 の 形 態 英 財 務 省 試 算 による 英 GDPへの 影 響 度 ( 注 ) ノルウェー 型 EEA( 欧 州 経 済 領 域 ) 参 加 3.4~ 4.3% スイス 型 EUとの 広 範 囲 な 協 定 締 結 トルコ 型 EUの 関 税 同 盟 への 参 加 4.6~ 7.8% カナダ 型 EUと2 国 間 協 定 締 結 WTO 型 EUとの 協 定 は 特 に 締 結 せず 5.4~ 9.5% ( 注 )EUに 残 留 した 場 合 の15 年 後 のGDPとの 差 異 ( 資 料 ) 英 財 務 省 等 資 料 より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 高 低 EUとの 緊 密 度 2. スイスの EU 不 参 加 の 経 緯 スイスは 1960 年 欧 州 経 済 共 同 体 (EEC EU の 前 々 身 )に 加 わらなかった 英 国 スウェ ーデン ノルウェー デンマーク オーストリア ポルトガルと 共 に 欧 州 自 由 貿 易 連 合 (EFTA)を 結 成 した スイスは 1972 年 EEC と 工 業 製 品 に 関 する 自 由 貿 易 協 定 を 締 結 した ほか 1989 年 には 保 険 業 協 定 ( 損 保 のみ)を 締 結 するなど 早 い 段 階 から EU との 二 国 間 協 定 の 締 結 を 行 ってきた スイスと EU の 関 係 で 転 機 となったのは 1992 年 である 当 時 EFTA 加 盟 国 が 欧 州 共 同 体 (EC EU の 前 身 )の 単 一 市 場 に 参 加 できるようにする 欧 州 経 済 領 域 (EEA) 設 立 に 向 け た 動 きが 進 んでいた( 発 効 は 1994 年 ) しかし スイスでは 同 年 12 月 の EEA 参 加 の 是 非 を 問 う 国 民 投 票 において 反 対 が 50.3%と 僅 差 ではあったが EEA 参 加 が 否 決 された これを 受 け 政 府 は 翌 年 1 月 1992 年 5 月 に 表 明 していた EC への 加 盟 交 渉 についても 凍 結 を 決 定 し 二 国 間 協 定 を 通 じて EC との 連 携 を 図 る 方 向 に 舵 を 切 った 2

1999 年 には EU との 7 分 野 に 関 する 第 1 次 二 国 間 協 定 ( 人 の 移 動 の 自 由 陸 上 交 通 航 空 輸 送 農 業 貿 易 研 究 開 発 公 共 調 達 貿 易 における 技 術 的 障 壁 の 撤 廃 )が 締 結 された ま た 2004 年 には 第 2 次 二 国 間 協 定 (シェンゲン/ダブリン 協 定 不 正 防 止 環 境 保 護 年 金 等 )が 締 結 された これ 以 外 にも 警 察 司 法 協 力 や 教 育 分 野 等 においても 協 定 が 結 ばれ スイス EU 間 の 協 定 数 は 今 日 までに 大 小 合 わせて 約 120 に 上 っている 一 方 EU 加 盟 に ついては 1997 年 と 2001 年 に 加 盟 の 是 非 を 問 う 国 民 投 票 が 行 われているが 反 対 の 得 票 率 がそれぞれ 74.1% 76.8%という 圧 倒 的 多 数 で 加 盟 が 否 決 されている 3.スイス EU 関 係 および 英 国 へのメリット デメリット では スイスと EU の 関 係 は 具 体 的 にどのようなものであろうか 前 述 の 通 り スイスは 120 を 超 える 二 国 間 協 定 を EU と 締 結 している 以 下 では まず EU の 基 本 的 概 念 である 4 つの 自 由 ( 人 モノ サービス 資 本 の 移 動 の 自 由 )に 関 わる 財 サービス 貿 易 と 人 の 移 動 の 自 由 における 二 国 間 協 定 の 内 容 のほか( 資 本 の 移 動 の 自 由 については 協 定 無 し) EU の 法 規 制 への 準 拠 EU への 財 政 拠 出 の 状 況 等 を 確 認 する また それらを 踏 まえ スイスの ように 英 国 が EU と 二 国 間 協 定 に 基 づいた 関 係 を 構 築 しようとする 場 合 のメリットとデメリ ットを 考 察 する (1) 財 貿 易 スイスは 1972 年 に 当 時 の EEC と 自 由 貿 易 協 定 を 締 結 し 工 業 製 品 に 対 する 関 税 数 量 割 当 等 を 相 互 撤 廃 した その 後 も 第 1 次 第 2 次 二 国 間 協 定 等 を 結 び 現 在 財 貿 易 において は 一 部 農 産 品 を 除 き 関 税 率 ゼロ%かつ 数 量 制 限 無 しの 自 由 貿 易 を EU と 行 っている 一 方 で 通 関 手 続 きが 必 要 であるなど 非 関 税 障 壁 が 残 存 しており 原 産 地 証 明 の 提 出 等 が 義 務 付 けられている( 非 関 税 障 壁 の 詳 細 は 前 掲 ( 注 1)の 当 室 レポートを 参 照 ) (2)サービス 貿 易 1スイスの EU サービス 市 場 へのアクセスは 限 定 的 サービス 貿 易 におけるスイスから EU 市 場 への 自 由 なアクセスは 損 害 保 険 や 政 府 調 達 の 分 野 等 限 定 的 な 範 囲 に 止 まっている そのため スイス 型 をそのまま 英 国 が 採 用 する 場 合 最 も 打 撃 を 受 けるのは 金 融 サービス 業 とされる 前 述 の 損 害 保 険 関 連 を 除 き 銀 行 や 生 命 保 険 などの 金 融 サービス 業 は EU 市 場 への 直 接 的 なアクセスを 認 められていない 無 論 金 融 業 におけるパスポート 制 度 (EEA 域 内 の 一 つの 国 で 金 融 業 免 許 を 取 得 すれば 他 の 域 内 国 に おいてもサービスを 提 供 することができる)も 適 用 されない EU 域 内 において 金 融 業 を 営 む 場 合 は 域 内 で 免 許 を 取 得 することが 必 要 となる スイスの 二 大 銀 行 UBS とクレディ ス 3

イスはロンドンに 現 地 法 人 を 置 き EU 域 内 における 金 融 業 パスポートを 取 得 している なお ここでスイスの 産 業 構 造 をみると 名 目 GDP に 占 める 金 融 保 険 サービスの 割 合 は 9.5%である( 第 2 表 ) また 英 国 の GDP に 占 める 金 融 保 険 サービスの 割 合 も 7.1%と 高 く 両 国 の 経 済 にとっての 金 融 保 険 サービスの 重 要 さが 伺 える もっともスイスに 関 して は 主 に 二 つの 理 由 から EU と 金 融 分 野 での 包 括 的 な 相 互 協 定 を 結 んでいないとされている ひとつは スイスにはもともと EU 域 内 に 子 会 社 を 有 している 銀 行 が 多 かったことが 挙 げら れる また スイスの 銀 行 における 秘 密 主 義 を 背 景 に EU からの 干 渉 を 避 けるため 敢 えて 協 定 を 結 んでこなかったという 事 情 もある 第 2 表 :スイス 英 国 EUの 産 業 別 GDP(2014 年 ) GDPに 占 める 割 合 (%) 英 国 スイス EU 農 林 水 産 業 0.6 0.7 1.4 鉱 業 水 道 電 気 ガス 3.6 1.9 3.2 製 造 業 9.5 18.4 13.9 建 設 業 5.5 5.2 4.8 サービス 69.9 70.6 66.2 卸 小 売 運 輸 宿 泊 飲 食 16.3 19.6 16.9 情 報 通 信 5.5 3.9 4.4 金 融 保 険 7.1 9.5 4.9 不 動 産 10.0 1.0 10.0 専 門 支 援 サービス 10.9 9.6 9.5 公 的 サービス 16.2 18.4 17.3 その 他 サービス 3.9 8.6 3.2 ( 資 料 ) 欧 州 統 計 局 統 計 より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 2EU の 金 融 サービス 市 場 へのアクセスが 制 限 された 場 合 のデメリット では 金 融 サービスに 関 する 協 定 が 結 ばれない 場 合 の 英 国 にとってのデメリットは 何 か まず 英 系 金 融 機 関 が EU 市 場 で 営 業 を 継 続 するためには EU 域 内 で 免 許 を 取 得 しなければ ならず 追 加 的 なコストが 発 生 する また 英 国 への 直 接 投 資 にも 影 響 が 出 てくると 予 想 さ れる 英 国 の 対 内 直 接 投 資 残 高 全 体 に 占 める 金 融 保 険 セクターの 割 合 は 3 割 近 くと 最 大 で ある( 第 1 図 ) 更 に 金 融 保 険 セクター 向 け 直 接 投 資 を 国 別 にみると EU 域 外 特 に 米 国 やスイスなどを 中 心 に 世 界 的 な 大 手 金 融 機 関 を 有 する 国 からの 直 接 投 資 が 圧 倒 的 に 多 い ( 第 2 図 ) これは 英 国 のグローバルな 金 融 ハブとしての 地 位 だけでなく EU 市 場 にアク セスするための 拠 点 としての 役 割 が 大 きく 影 響 していると 考 えられる しかし 金 融 パスポ ート 制 度 の 適 用 から 外 れた 場 合 これらの 投 資 が 他 の EU 加 盟 国 にシフトするリスクがある このため 特 に 金 融 サービス 分 野 における EU との 協 定 締 結 は 英 国 にとって 必 要 性 が 大 き いと 言 えよう 4

第 1 図 : 英 国 の 対 内 直 接 投 資 残 高 内 訳 (2014 年 ) 事 務 サポート サービス 3.2% 専 門 科 学 技 術 サービス 5.1% その 他 サービス 2.7% 農 林 水 産 業 0.2% 鉱 業 9.6% 第 2 図 : 英 金 融 セクター 向 け 直 接 投 資 残 高 (2014 年 ) 中 南 米 4.0% 日 本 3.6% その 他 4.3% EU 17.0% 金 融 保 険 27.1% 製 造 業 20.3% スイス 9.8% 情 報 通 信 8.4% 運 輸 倉 庫 4.0% 卸 小 売 自 動 車 修 繕 13.2% ( 資 料 ) 英 国 統 計 局 統 計 より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 電 気 ガス 水 道 ゴミ 処 理 4.9% 建 設 業 1.3% 北 米 51.9% ( 資 料 ) 英 国 統 計 局 統 計 より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 非 EU 欧 州 (スイス 除 く) 10.3% (3) 人 の 移 動 の 自 由 1 近 年 スイスは 移 民 流 入 の 制 限 をめぐり EU と 対 立 スイスは EU と 人 の 移 動 の 自 由 に 関 しても 相 互 合 意 している これは 1999 年 に 結 ばれ た 第 1 次 二 国 間 協 定 における 陸 空 輸 送 や 農 産 品 貿 易 研 究 開 発 公 共 調 達 技 術 的 貿 易 障 壁 撤 廃 ( 相 互 認 証 など)に 関 する 合 意 の 条 件 として 人 の 移 動 の 自 由 を 受 け 入 れたためで ある スイスは 2008 年 にシェンゲン 協 定 にも 参 加 し 現 在 人 口 の 4 人 に 1 人 は 移 民 で 占 められている また 移 民 のうち EU からの 割 合 は 7 割 近 くと 非 常 に 高 く EU からの 移 民 流 入 問 題 は 長 く 政 治 的 な 論 争 の 一 つとなってきた 2014 年 2 月 には 右 派 政 党 が 主 導 して 移 民 流 入 規 制 に 向 けた 憲 法 改 正 に 関 する 国 民 投 票 が 行 われ 賛 成 50.3%と 僅 差 で 可 決 された この 結 果 を 受 け スイス 連 邦 憲 法 は 移 民 受 入 れ を 制 限 する 内 容 に 即 日 改 正 された( 第 3 表 ) 121.a 条 1 自 律 的 な 外 国 人 流 入 コントロールの 実 施 2 外 国 人 向 け 滞 在 許 可 発 効 数 に 年 間 上 限 を 設 定 3 永 住 や 家 族 の 呼 び 寄 せ 社 会 保 障 への 権 利 も 制 限 される 可 能 性 がある 4 滞 在 許 可 発 効 数 の 上 限 は スイスの 総 合 的 な 経 済 的 利 益 を 考 慮 して 決 定 されなければならない 5 企 業 は 雇 用 の 際 スイス 国 民 に 優 先 権 を 与 えなければならない 197.11 条 ( 資 料 )スイス 連 邦 政 府 資 料 より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 第 3 表 :スイス 連 邦 憲 法 改 正 の 主 な 内 容 121.a 条 に 反 する 国 際 協 定 の 締 結 は 許 されない これに 反 する 国 際 協 定 については 再 協 議 し 3 年 以 内 に 121.a 条 に 即 した 内 容 に 改 正 されなければならない 5

これに 対 し 欧 州 委 員 会 の 雇 用 社 会 問 題 社 会 共 生 担 当 のラースロー アンドル 委 員 ( 当 時 )は スイスは 既 存 の 二 国 間 協 定 の 合 意 内 容 全 てを 履 行 しなければならないと 批 判 す ると 共 に 人 の 移 動 の 自 由 は EU とスイスの 関 係 の 中 核 をなすものであり 移 民 流 入 への 上 限 設 定 はこれに 反 すると 強 調 した その 上 で 同 委 員 は 人 の 移 動 の 自 由 は EU 単 一 市 場 にお ける 財 やサービス 等 の 移 動 の 自 由 と 切 り 離 すことはできないとし スイスが 人 の 移 動 の 自 由 を 制 限 するようであれば 他 分 野 での 二 国 間 協 定 の 停 止 等 もありえることを 暗 に 示 唆 するな ど 厳 しい 姿 勢 を 示 した 現 在 スイスでは 実 際 には 移 民 の 流 入 制 限 は 行 われていないが 憲 法 改 正 に 基 づいた 移 民 制 限 策 の 導 入 期 限 である 2017 年 2 月 に 向 けて 準 備 が 進 められている スイス 政 府 が 今 年 3 月 に 提 出 した 移 民 受 入 れ 制 限 法 案 では 移 民 人 数 の 上 限 は 明 記 せず 新 設 する 移 民 委 員 会 の 勧 告 に 基 づいて 1 年 ごとに 上 限 を 定 めることが 示 されている また スイス 人 労 働 者 の 有 効 活 用 の 促 進 外 国 人 求 職 者 を 社 会 保 険 支 給 の 対 象 外 とすることなども 盛 り 込 まれた 2スイス EU 間 の 議 論 の 行 方 は EU を 離 脱 した 場 合 の 英 国 にも 影 響 を 及 ぼす 公 算 英 国 は 今 年 2 月 EU からの 移 民 流 入 に 対 する 緊 急 ブレーキ 措 置 について EU の 合 意 を 取 り 付 けたが スイスの 移 民 受 入 れ 制 限 法 案 は 英 国 案 から 更 に 踏 み 込 んだ 内 容 といえる 英 国 案 は 英 国 の 社 会 保 障 制 度 が 脅 かされると 判 断 された 場 合 に 限 り EU からの 移 民 に 対 する 福 祉 給 付 を 制 限 することで 間 接 的 に 移 民 の 流 入 抑 制 を 図 る 内 容 である 一 方 スイスの 法 案 は 景 気 動 向 などに 応 じてではあるが 具 体 的 な 移 民 数 の 上 限 を 設 置 して 流 入 を 直 接 制 限 するものである 現 在 移 民 受 入 れの 上 限 設 定 を 巡 るスイス 政 府 と EU の 交 渉 は 英 国 の 国 民 投 票 が 終 わる まで 一 旦 棚 上 げされた 状 態 にある しかし 移 民 制 限 策 の 導 入 期 限 である 2017 年 2 月 まで に EU と 合 意 に 至 らない 場 合 には EU の 合 意 なしに 新 たな 移 民 制 限 制 度 が 実 行 に 移 される EU が 重 視 する 人 の 移 動 の 自 由 に 反 する 当 該 制 度 を 施 行 すれば 他 の 二 国 間 協 定 が EU 側 か ら 停 止 されるリスクもある 英 国 も 仮 に EU を 離 脱 する 場 合 には 移 民 の 流 入 制 限 と EU と の 関 係 維 持 による 経 済 的 利 益 のバランスを 考 える 必 要 があり 現 在 のスイスと 同 様 の 立 場 に 置 かれることになる そのため スイスの 移 民 流 入 制 限 措 置 とそれに 対 する EU の 反 応 は 英 国 にとっても 大 きな 意 味 を 持 っている (4) 法 規 制 EU とスイスの 間 で 合 意 された 協 定 に 係 る 分 野 の 法 規 制 は 原 則 協 定 締 結 時 の 状 態 で 相 互 適 用 することとなっている 合 意 分 野 において 新 たな EU 法 規 制 が 制 定 された 場 合 には スイス 国 内 法 への 適 用 義 務 はない ただし 適 用 を 何 らかの 理 由 で 拒 否 した 場 合 EU 側 から 該 当 市 場 へのアクセスが 阻 止 されるリスクがある また EU 加 盟 国 ではないため EU の 意 6

思 決 定 執 行 機 関 である 欧 州 理 事 会 欧 州 委 員 会 並 びに 欧 州 議 会 における 代 表 権 は 認 めら れていない EEA に 参 加 するノルウェーは EU の 法 規 制 の 策 定 プロセスにおける 専 門 家 委 員 会 への 参 加 を 通 じて 間 接 的 な 影 響 力 を 及 ぼすことができるが スイスは 原 則 として 専 門 家 委 員 会 等 への 参 加 が 認 められていない 一 方 スイスと EU は 両 者 間 の 様 々な 協 定 の 合 意 内 容 の 監 督 等 を 行 う 各 種 の 共 同 委 員 会 を 設 置 しており 新 たな 法 規 制 が 制 定 される 場 合 には この 共 同 委 員 会 の 場 で 報 告 されることになっている しかし 委 員 会 の 開 催 は 年 に 一 度 であり 決 定 権 も 有 していないため 影 響 力 は 非 常 に 限 定 的 である 英 国 は 現 在 EU の 法 規 制 全 てに 対 する 準 拠 が 求 められており スイス 型 を 採 れば 二 国 間 協 定 の 内 容 次 第 では 準 拠 法 数 の 削 減 が 可 能 となる しかし 現 在 保 有 している EU の 意 思 決 定 執 行 機 関 における 代 表 権 は 全 て 放 棄 しなければならず 影 響 力 喪 失 という 大 きなデ メリットを 蒙 ることとなる (5) 財 政 拠 出 ( 注 スイスは EU 予 算 に 対 し 一 定 額 を 拠 出 している 英 下 院 資 料 2) によると スイスの 国 民 1 人 当 りの 拠 出 金 額 は 53 ポンドとなっており 英 国 の 同 128 ポンドと 比 べて 6 割 程 少 な い したがって 英 国 がスイス 型 を 採 用 した 場 合 拠 出 金 負 担 が 続 く 点 では 変 わりはないが 一 定 程 度 減 額 される 可 能 性 はある ただし 現 在 受 け 取 っている 農 業 漁 業 等 に 対 する EU からの 助 成 金 を 受 けられなくなり 関 連 産 業 へはマイナスの 影 響 が 及 ぼう ( 注 2) 英 下 院 リサーチペーパー Leaving the EU (2013 年 7 月 発 行 ) 4.EU ならびに 第 三 国 との 二 国 間 協 定 の 交 渉 と 締 結 (1) 第 三 国 との 交 渉 締 結 英 国 が EU から 離 脱 した 場 合 英 国 はスイスと 同 様 貿 易 協 定 等 の 自 由 な 交 渉 締 結 が 可 能 となる メリットとしては 交 渉 における 柔 軟 性 の 向 上 やより 英 国 の 国 益 に 沿 った 協 定 を 結 びやすくなることが 挙 げられる 一 方 EU という 大 きな 経 済 共 同 体 の 持 つ 交 渉 力 を 失 うこ とがデメリットとなろう (2)EU との 交 渉 締 結 EU と 二 国 間 協 定 を 締 結 する 場 合 懸 念 されるのは EU との 交 渉 の 複 雑 化 と 長 期 化 である スイス EU 間 の 第 1 次 二 国 間 協 定 を 例 に 取 ると 1994 年 の 交 渉 開 始 から 1999 年 の 締 結 まで 約 5 年 が 費 やされた また 締 結 から 施 行 までには 更 に 約 3 年 かかっており 合 計 で 約 8 年 を 要 したこととなる これ 以 降 に 結 ばれたスイスと EU の 主 要 な 二 国 間 協 定 を 見 ても 交 渉 には 少 なくとも 2 年 以 上 実 際 の 施 行 までには 合 計 で 3~10 年 など 長 期 間 に 及 ぶ 交 渉 と 調 7

整 が 必 要 となっている( 第 4 表 ) 第 4 表 :スイス-EU 間 の 主 な 二 国 間 協 定 競 争 法 欧 州 庇 護 支 援 事 務 所 (EASO) EUの 衛 星 航 法 プログラム ( 注 5) ガリレオ EGNOS 参 加 欧 州 防 衛 機 関 (EDA) 協 力 司 法 協 力 (Eurojust) 警 察 協 力 (Europol) ( 注 4) 教 育 ( 注 3) 不 正 対 策 第 二 次 二 国 間 協 定 シェンゲン/ダブリン 協 定 統 計 協 力 環 境 保 護 メディア 協 力 利 子 所 得 課 税 Creative Europe ( 注 2) AEOI ( 注 1) 年 金 第 一 次 二 国 間 協 定 加 工 農 産 物 (スイスで 加 工 されたコーヒー チョコレート ビスケット 等 の 関 税 撤 廃 ) 人 の 移 動 の 自 由 貿 易 における 技 術 的 障 壁 撤 廃 ( 相 互 認 証 等 ) 農 産 品 貿 易 の 促 進 (チーズ 生 鮮 品 肉 類 ワ イン 等 における 関 税 引 き 下 げ 等 ) 政 府 調 達 陸 上 輸 送 航 空 輸 送 科 学 技 術 研 究 協 力 自 由 貿 易 (1972 年 ) 保 険 ( 損 保 のみ 1989 年 ) 財 輸 送 における 通 関 手 続 き 簡 素 化 と 安 全 協 力 (1990 年 /2009 年 改 定 ) 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 交 渉 締 結 承 認 フェーズ 施 行 ( 注 1) 銀 行 口 座 情 報 の 自 動 交 換 (AEOI)により 脱 税 対 策 を 行 う 2017 年 から 口 座 情 報 の 収 集 を 開 始 し 2018 年 から 自 動 交 換 が 開 始 される 予 定 ( 注 2)EUの 文 化 映 像 分 野 への 支 援 プログラム ( 注 3)アイルランドの 未 批 准 により EU 側 は 未 発 効 スイスは2009 年 4 月 8 日 に 施 行 ( 注 4)2014 年 より EUの 教 育 プログラムへの 参 加 は 停 止 中 ( 注 5)2014 年 より 部 分 的 参 加 開 始 ( 資 料 )Swiss Directorate for European Affairs (DEA) 資 料 より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 5.まとめ スイスが EU と 締 結 している 協 定 は スイスの 経 済 構 造 等 を 反 映 したものである したが って 英 国 が EU 離 脱 のパターンとしてスイス 型 を 選 択 する 場 合 英 国 もまた 自 国 の 利 益 の 最 大 化 を 目 指 して EU との 交 渉 に 着 手 しよう しかし EU 側 は 28 ヵ 国 の 利 益 が 絡 み 合 うこ とから その 交 渉 は 複 雑 化 かつ 長 期 化 するリスクが 大 きい 英 国 と EU との 関 係 が 明 確 に 定 まらない 状 態 が 長 く 続 くことは 先 行 き 不 透 明 感 を 高 め 英 国 経 済 を 下 押 ししよう また EU との 交 渉 では 人 の 移 動 の 自 由 が 焦 点 となる 公 算 が 大 きい サービス 業 における 8

EU 市 場 へのアクセスが 限 定 的 であるスイスですら EU との 人 の 移 動 の 自 由 を 受 け 入 れてい る 英 国 については 金 融 サービスで 顕 著 なように EU 市 場 へのアクセスの 重 要 度 はスイス 以 上 に 大 きい 英 国 がスイス EU 間 の 協 定 を 上 回 る 広 範 な 協 定 を EU と 結 ぼうとした 場 合 EU からは 基 本 理 念 の 一 つである 人 の 移 動 の 自 由 の 受 入 れをより 強 く 求 められよう しかし 英 国 の EU 離 脱 派 にとって 移 民 の 流 入 抑 制 は 最 優 先 課 題 といっても 過 言 ではない 英 EU 間 で 容 易 に 妥 協 が 成 立 するとは 考 えにくく 交 渉 は 難 航 が 予 想 される (2016 年 6 月 17 日 ダーベル 暁 子 akiko.darvell@uk.mufg.jp) 以 上 当 資 料 は 情 報 提 供 のみを 目 的 として 作 成 されたものであり 金 融 商 品 の 販 売 や 投 資 など 何 らかの 行 動 を 勧 誘 するも のではありません ご 利 用 に 関 しては すべてお 客 様 御 自 身 でご 判 断 下 さいますよう 宜 しくお 願 い 申 し 上 げま す 当 資 料 は 信 頼 できると 思 われる 情 報 に 基 づいて 作 成 されていますが 当 室 はその 正 確 性 を 保 証 するものではあ りません 内 容 は 予 告 なしに 変 更 することがありますので 予 めご 了 承 下 さい また 当 資 料 は 著 作 物 であり 著 作 権 法 により 保 護 されております 全 文 または 一 部 を 転 載 する 場 合 は 出 所 を 明 記 してください また 当 資 料 全 文 は 弊 行 ホームページでもご 覧 いただけます 9