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グローバル 化 された 法 世 界 における 世 界 主 義 ウルフリット ノイマン *** 佐 伯 和 也 *** 共 訳 前 嶋 匠 *** 1. 序 : 越 境 する 刑 法 における 法 治 国 家 的 諸 欠 陥 あらゆる 法 分 野 の 中 で 刑 法 はおそらく 最 も 議 論 されている 法 律 であろう 不 変 的 に 正 当 でな ければならないということから 国 家 による 刑 罰 は 人 の 自 由 または 身 体 生 命 財 産 の 適 切 な 侵 害 として 存 在 する いずれにせよ 人 権 および 市 民 権 に 過 敏 な 時 代 において 刑 法 は 社 会 的 論 議 の 中 で 悪 心 の 明 確 な 徴 候 を 示 している 国 際 化 という 名 の 下 刑 法 は 再 び 自 己 の 良 心 を 見 つけたように 思 われる 刑 事 国 際 法 典 (Völkerstrafgesetzbuch)のプロジェクト 以 外 の 点 では 多 くの 刑 法 専 門 家 や 素 人 たちは 刑 法 の 拡 大 的 展 開 に 対 して 懐 疑 的 な 態 度 をとるものの このプロジェクトに 対 しては 彼 らも 支 持 している ローマ 規 程 1 ) に 基 づく 常 設 国 際 刑 事 裁 判 所 の 設 立 という 進 歩 は 圧 倒 的 に 支 持 され 満 足 をもっ て 認 められた まさに 名 だたる 刑 法 懐 疑 家 からみても 刑 法 はここでようやく 正 しいものに 出 く わしたようである 実 直 な 市 民 ではなく かつての 支 配 者 やその 協 力 者 に 責 任 を 問 おうとする 刑 法 に 対 するこの 良 心 は 理 解 できるが 危 険 がないわけではない というのは 国 際 的 な 展 開 によって 惹 き 起 こされ 刑 法 を 適 用 することによって 得 られる 陶 酔 という 波 は 従 来 安 全 と 考 えられていた 法 治 国 家 的 な 防 波 堤 を 突 き 崩 すように 思 われるからである 最 も 重 大 な 被 害 者 は 罪 刑 法 定 主 義 であるか もしれない ドイツにとどまらず 憲 法 ランクに 位 置 するこの 原 則 は 刑 事 国 際 法 上 の 諸 構 成 要 件 および 人 権 侵 害 にとって 国 内 の 刑 事 裁 判 権 に 関 しても 明 らかに 疑 問 視 されている 2 ) したが って ドイツ 刑 事 裁 判 所 は 憲 法 の 明 確 な 文 言 ( 基 本 法 103 条 ₂ 項 )に 反 して 被 告 人 を 国 際 慣 習 法 規 範 に 基 づくのみで 有 罪 とするかもしれない 3 ) そうこうするうちに 行 われた 国 際 法 上 の 犯 編 集 部 注 * Ulfrid Neumann フランクフルト アム マイン 大 学 教 授 ** 関 西 大 学 法 学 部 助 教 授 *** 奈 良 産 業 大 学 法 学 部 専 任 講 師 ₁ ) 国 際 刑 事 裁 判 所 に 関 するローマ 規 程 は1998 年 ₇ 月 17 日 に 採 択 され 2002 年 ₇ 月 ₁ 日 に 施 行 された ₂ )それに 関 して 詳 細 かつ 批 判 的 なのは Ebert, Völkerstrafrecht und Gesetzlichkeitsprinzip, in: Grundfragen staatlichen Strafens. Festschrift für Heinz Müller-Dietz zum 70. Geburtstag, 2001, S.171ff. ₃ ) 当 時 のドイツ 国 内 の 国 境 での 致 命 的 発 砲 に 関 して Silke Buchner, Die Rechtswidrigkeit der Taten von Mauerschützen im Lichte von Art. 103 Ⅱ GG unter besonderer Berücksichtigung des Völkerrechts, 1996, 73

罪 構 成 要 件 のドイツ 刑 事 国 際 法 典 4 ) の 枠 内 での 国 内 刑 法 構 成 要 件 への 変 型 は その 限 りでは 宣 言 的 意 義 し か も た な い で あ ろ う 確 か に 連 邦 通 常 裁 判 所 は い わ ゆ る 壁 の 射 手 (Mauerschützen) の 処 罰 に 関 する 判 決 において 罪 刑 法 定 主 義 をあからさまに 否 定 はしていな いものの この 原 則 を 無 理 に 解 釈 したためこの 原 則 の 違 反 と 区 別 しがたくなった 5 ) 法 治 国 家 的 刑 法 のその 他 の 基 本 原 理 つまり 誰 かを 同 一 の 行 為 について 重 ねて 処 罰 することの 禁 止 ( 一 事 不 再 理 (ne bis in idem) 基 本 法 103 条 ₃ 項 )は 若 干 の 諸 国 においてのみ 国 境 の 枠 を 越 えた 領 域 に 対 しても それ 故 他 の 諸 国 において 下 された 有 罪 判 決 との 関 係 においても 妥 当 する 6 ) シェンゲン 協 定 と 関 連 し ヨーロッパ 諸 国 に 対 してとにかくこの 原 理 を 国 家 という 枠 を 越 えても 適 用 させようとする 最 近 の 試 み 7 ) は この 点 で 一 つの 前 進 である しかし その 試 みは わずかな 国 家 に 限 定 されており しかもこれらの 国 家 間 での 関 係 においてでさえ 互 いに 多 くの 留 保 や 例 外 によって 制 限 されている 8 ) 越 境 する 刑 法 の 法 治 国 家 的 諸 欠 陥 のリストはさら に 続 く 9 ) S.265ff., 302f. 国 家 によって 強 化 された 犯 罪 の 場 合 遡 及 処 罰 禁 止 ( 基 本 法 103 条 ₂ 項 )が 管 轄 外 で あることに 対 してNaucke, Die strafjuristische Privilegierung staatsverstärkter Kriminaität, 1996, S.47ff. ₄ )2002 年 ₆ 月 26 日 の 刑 事 国 際 法 施 行 法 (BGBl. Ⅰ S.2254) 法 律 の 構 想 と 成 立 史 について Claus Kreß, Vom Nutzen eines deutschen Völkerstrafgesetzbuch, 2000; Lüder / Vormbaum, Materialien zum Völkerstrafgesetzbuch, 2002; Satzger, Das neue Völkerstrafgesetzbuch, NStZ 2002, 125; Werle, Konturen eines deutschen Völkerstrafrechts, Juristenzeitung (JZ) 2001, 885ff.; Werle / Jeßberger, Das Völkerstrafgesetzbuch, Juristenzeitung (JZ)2002, 725ff.; Zimmermann, Auf dem Weg zu einem deutschen Völkerstrafgesetzbuch, in: Zeitschrift für Rechtspolitik (ZRP)2002, S.97ff. を 参 照 せよ 刑 事 国 際 法 総 則 に おける 解 釈 学 の 包 括 的 説 明 はAmbos, Der allgemeine Teil des Völkerstrafrechts, 2002に 見 られる ₅ )それに 関 して 詳 細 は Ebert (Fn.2), S.176ff.; Neumann, Rechtspositivismus, Rechtsrealismus und Rechtsmoralismus in der Diskussion um die strafrechtliche Bewältigung politischer Systemwechsel, in: Festschrift für Klaus Lüderssen zum 70. Geburstag, 2002, S.109ff., 115ff. ₆ ) 例 えばオランダがそうである それに 関 して Radtke / Busch, Transnationaler Strafklageverbrauch in den sog. Schengen-Staaten?, EuGRZ 2000, S.421ff., 421, 431. ₇ )1990 年 ₆ 月 19 日 のシェンゲン 協 定 (1985 年 ₆ 月 14 日 ) 実 施 協 定 54 条 それに 関 して 例 えばBeulke in: Löwe-Rosenberg, StPO, 25. Aufl., 2002 (Stand 1. 9. 2001), 153c Rn.17ff; Gleß, Zum Prinzip der gegenseitigen Anerkennung, Zeitschrift für die gesamte Strafrechtswissenschaft (ZStW)116(2004), S.353, 362ff.; Hecker, Das Prinzip Ne bis in idem im Schengener Rechtsraum(Art. 54 SDÜ), Strafverteitiger (StV)2001, 306ff.; Radtke / Busch, (Fn. 6); Helmut Satzger, Die Europäisierung des Strafrechts, 2001, S.688ff.; Schomburg, Die Europäisierung des Verbots doppelter Strafverfolgung Ein Zwischenbericht, Neue Juristische Wochenschrift (NJW)2000, 1833ff.; Herbert Thomas, Das Recht auf Einmaligkeit der Strafverfolgung. Vom nationalen zum internationalen ne bis in idem, 2002 を 参 照 せよ ここで 定 められた 二 重 処 罰 の 禁 止 の 射 程 に 関 して Juristenzeitung (JZ)2003, 303 m. Anm. Kühe におけるヨーロッパ 裁 判 所 (EuGH)の 判 決 を 参 照 せよ また Jung, Zur Internationalisierung des Grundsatzes ne bis in idem, in: Festschrift für Horst Schüler-Springorum zum 65. Geburtstag, 1993, S.493 ならびに Biehler, ZStW 116 (2004), S.256 と Stein, ZStW 115 (2003), S.983 による 会 議 の 報 告 も 参 照 せよ ₈ )それに 関 して 詳 細 は Beulke (Fn. 7), Rn.20. ₉ ) 例 えば Satzger, Die Internationalisierung des Strafrechts als Herausforderung für den strafrechtlichen Bestimmtheitsgrundsatz, Juristische Schulung (JuS)2004, 943ff.; Werle / Jeßberger, Das Völkerstrafgesetz, 74

国 内 刑 法 のレベルでは 法 政 策 的 憲 法 的 な 論 証 の 的 として 容 赦 なく 干 渉 されるような 法 治 国 家 としての 不 備 が なぜ 越 境 する 刑 法 の 領 域 においては 甘 受 されるのかという 問 いに 一 言 で 答 えることはできない 国 際 法 上 の 犯 罪 領 域 において 法 律 主 義 を 制 限 するにあたり 刑 法 史 から 習 熟 した 思 考 モデルがそこに 手 を 貸 すかもしれない 行 為 の 悪 質 さ(Schrecklichkeit)に 鑑 みれば 形 式 的 な 処 罰 諸 要 件 に 固 執 することは 固 定 された 犯 罪 構 成 要 件 の 存 在 と 同 様 不 適 切 であり 実 に 不 平 不 満 が 多 いように 思 われる 法 治 国 家 的 諸 原 理 を 軽 視 するという 圧 力 が 非 常 に 強 くなる ところではまさに その 諸 原 理 を 確 証 することは 脇 へ 追 いやられる 刑 事 国 際 法 上 の 犯 罪 を 残 虐 な 犯 罪 (delicta atrocissima) として 位 置 づけることと 並 び 国 際 法 上 の 諸 構 成 要 件 の 実 証 化 (Positivierung)が 最 近 になってようやく 行 われ しかも 国 際 刑 事 裁 判 所 による 諸 構 成 要 件 の 適 用 によって 行 われていることが 重 要 であろう それ 故 罪 刑 法 定 主 義 の 遵 守 要 求 に 対 して ま さにこの 原 理 を 停 止 することによって 刑 事 国 際 法 は 貫 徹 される と 反 論 することができる 10) 国 際 領 域 において 一 事 不 再 理 原 則 を 伝 統 的 に 軽 視 するには 別 の 諸 理 由 がある その 軽 視 は 国 家 主 権 という 伝 統 的 な 観 念 に 起 因 している それによると 主 権 には ある 国 の 司 法 上 の 行 為 は 他 の 国 にとって 何 ら 重 要 なデータではないという 意 味 が 含 まれている 主 権 国 家 は 自 ら 干 渉 できない 他 国 の 司 法 システムの 判 決 によって 自 国 の 刑 事 訴 追 が 侵 害 されることをよしとは しない 行 為 者 の 二 重 処 罰 の 可 能 性 という 帰 結 はやむをえない この 考 えに 映 し 出 されている 法 治 国 家 的 な 田 舎 者 根 性 (Provinzialismus)は 次 の 立 場 に 関 係 している つまり 決 定 的 なのは 二 重 処 罰 の 回 避 ではなく この 二 重 処 罰 がこの 国 家 (のみ)の 責 任 ではない ということにすぎ ない 行 為 者 の 利 益 および 越 境 的 な 刑 事 司 法 への 理 解 は せいぜいのところ 量 刑 に 際 して 考 慮 される それ 故 ドイツ 刑 法 においては 同 一 行 為 で 外 国 において 執 行 された 刑 罰 が 算 入 される にすぎない( 刑 法 51 条 ₃ 項 ) 実 際 国 家 間 における 一 事 不 再 理 の 問 題 は これまであまり 重 要 ではなかった そのことは 将 来 思 い 切 って 変 更 されるかもしれない 11) いっそう 一 体 化 しているヨーロッパやいっそう 密 接 に 結 び 付 いた 世 界 において ますます 国 民 が 移 動 することによって 他 諸 国 の 国 民 へ 実 際 に 介 入 す る 可 能 性 は 著 しく 増 加 する したがって 実 際 このような 介 入 を 可 能 にする 法 的 な 諸 ルールが ますます 重 要 になる それと 同 時 に それらは 正 当 なものでなければならないといういっそうの プレッシャーを 受 けることになる なぜなら これらのルール すなわちいわゆる 国 際 刑 法 の 諸 ルールが 従 来 異 議 を 唱 えられなかったのは その 調 和 性 (Ausgewogenheit)よりも むしろ その 限 定 的 な 実 務 上 の 重 要 性 にあったからである いずれにせよ そのことは 越 境 する 刑 法 的 介 入 に 広 い 余 地 を 認 めているドイツ 刑 法 に 妥 当 する Juristenzeitung (JZ)2002, S.425ff., 429 は 刑 事 国 際 法 の 構 成 要 件 のために 刑 法 の 明 確 性 の 要 請 ( 基 本 法 103 条 ₂ 項 )の 妥 当 性 に 関 して 制 限 的 である 10) 刑 事 国 際 法 規 則 におけるその 原 理 の 制 限 に 関 して 例 えば Buchner (Fn.3)S.274ff. を 参 照 せよ 11)それに 関 して Radtke / Busch (Fn.6)S.421. 75

2. 世 界 主 義 a)ドイツ 法 による 射 程 とりわけ 一 定 の 犯 罪 に その 犯 罪 地 に 関 係 なく また 国 内 利 益 とのすべての 正 当 な 関 係 を 放 棄 して 世 界 主 義 によって 国 内 刑 法 を 適 用 するという 主 張 は 徐 々に 批 判 の 的 となっている 世 界 主 義 の 下 におかれるのは 例 えば 新 たに 制 定 されたドイツ 刑 事 国 際 法 典 (VStGB) 12) のすべ ての 犯 罪 構 成 要 件 である そのことは 次 のことを 意 味 する ドイツ 刑 法 およびドイツ 刑 事 司 法 は 行 為 者 が 犯 罪 地 の 国 家 によって あるいはさらにそれ 以 外 の 国 家 によって 同 一 行 為 のゆえ にすでに 裁 判 がなされたかどうかに 関 係 なく 武 力 紛 争 あるいは 一 般 市 民 に 対 する 組 織 的 な 攻 撃 という 限 度 で 世 界 中 で 行 われたすべての 性 的 強 要 に 対 して 管 轄 があることとなる しかし 世 界 主 義 は 国 際 法 上 の 犯 罪 に 制 限 されてはいない ドイツ 法 によれば 補 助 金 詐 欺 ( 刑 法 264 条 )の 構 成 要 件 ならびに 麻 酔 剤 の 不 法 販 売 の 構 成 要 件 も 世 界 主 義 に 含 まれている( 刑 法 ₆ 条 ₅ 号 および ₈ 号 ) 13) それ 故 連 邦 共 和 国 は 世 界 のどこかで 行 われ さらにドイツ 法 によっ て 麻 酔 剤 の 販 売 として 罰 っせられるすべての 行 為 に 対 する 処 罰 を 主 張 している その 際 行 為 が 犯 罪 地 自 体 で 可 罰 的 であるか 否 か 取 引 された 品 物 が 犯 罪 地 でそもそも 麻 酔 剤 とみなされてい るのか 否 か そして 行 為 が 何 らかの 形 で 連 邦 共 和 国 あるいはドイツ 国 民 の 利 益 に 関 わりがあるの か 否 かは 重 要 ではない そのことは 不 合 理 であるようにみえるが 机 上 の 出 来 事 のみならず 司 法 の 現 状 でもある ドイツでは オランダの 法 律 によれば 昔 から 不 可 罰 であった 業 務 をオラン ダで 行 ったオランダ 国 民 の 有 罪 判 決 もしくはオランダですでに 同 一 行 為 のかどで 有 罪 とされて いたオランダ 国 民 の 有 罪 判 決 が 何 度 か 下 されている 終 審 として 連 邦 通 常 裁 判 所 (BGHSt 34,334)が 判 決 を 下 した 周 知 の 事 件 は オランダ 司 法 当 局 の 激 しい 抗 議 とオランダ 刑 法 学 におけ る 憮 然 とした 姿 勢 を 受 けることとなった 14) 実 際 何 をもって 連 邦 共 和 国 は 処 罰 という 威 嚇 の 下 で 自 分 たちの 抑 圧 的 な 薬 物 刑 法 を 拘 束 力 のある 世 界 基 準 にすることができるのかという 問 い が 提 起 される 一 般 化 して 言 うと 何 をもって 国 家 は 他 国 の 領 土 での 行 為 に 対 して 処 罰 とい う 威 嚇 の 下 で その 国 の 国 民 に 行 為 規 範 を 命 じることができるのか b) 正 当 化 の 試 み 現 今 の 刑 法 解 釈 学 はこの 問 いに 答 えておらず それどころか 理 論 的 な 分 類 で 問 いをごまかして 12) 脚 注 4 )を 参 照 せよ 13)それに 関 して 批 判 的 なのは 例 えば Keller, Zu Weltrechtspflege und Schuldprinzip, in: Festschrift für Klaus Lüderssen zum 70. Geburstag, 2002, S.425ff., 435. 14)それに 関 して Rüter, Ein Grenzfall: Die Bekämpfung der internationalen Drogenkriminalität im Spannungsfeld zwischen den Niederlanden und der Bundesrepublik Deutschland, Juristische Rundschau (JR)1988, 136ff. および Vogler, JR 1988, 139ff. の あとがき を 参 照 せよ さらに Merkel, Universale Jurisdiktion bei völkerrechtlichen Verbrechen. Zugleich ein Beitrag zur Kritik des 6 StGB, in: Klaus Lüderssen (Hrsg.), Aufgeklärte Kriminalpolitik oder Kampf gegen das Böse? Bd. Ⅲ (Makrodelinquenz), 1998, S.237ff., 242f. 76

いる 国 際 刑 法 のルールは もし 解 釈 できるならば 不 法 中 立 な 客 観 的 処 罰 条 件 15) であり 国 内 刑 法 を 拡 大 ではなく 限 定 するものとして 理 解 されうる 16) しかしそのことは 根 拠 がない 17) な ぜなら 行 為 を 処 罰 するには あらかじめこの 行 為 が 拘 束 力 ある 行 為 規 範 に 違 反 していなければ ならないからである つまり 不 法 とは 決 して 行 為 の 属 性 ではなく 行 為 と 一 定 の 規 範 シス テムとの 関 係 だからである 国 外 行 為 の 処 罰 は したがって 刑 罰 を 科 す 国 家 の 法 秩 序 が 他 国 の 領 土 にも 妥 当 性 を 主 張 することが 前 提 である かつての 刑 法 解 釈 学 は そのことを 明 らかに 認 め てきたし はっきりと 述 べてきた 例 えば ビンディンクは 国 家 主 権 の 観 念 が 国 家 の 原 則 的 に 無 制 限 の 処 罰 管 轄 (Bestrafungskompetenz) 要 求 を 根 拠 づけているとする 18) さらに 注 釈 者 と して 後 に 登 場 することとなるホルスト シュレーダーは 連 邦 共 和 国 成 立 以 前 の 論 文 において 世 界 のすべての 人 的 行 為 は ドイツ 法 秩 序 によって 価 値 あるいは 反 価 値 (Unwert)として 規 準 化 19) されると 述 べている 国 家 主 権 に 関 する 我 々の 今 日 的 理 解 によれば もはや 刑 法 のそのような 上 からの 諸 要 求 (imperiale Ansprueche)は 支 持 されない 今 日 では 逆 に 他 国 の 刑 法 秩 序 を 押 しつけられるこ とへの 防 衛 要 求 が まさに 国 家 主 権 から 導 き 出 されるのである したがって 他 国 の 領 土 でのそ の 国 の 国 民 の 行 為 を 自 国 の 刑 法 規 範 によってコントロールするといった 国 家 の 要 求 は 正 当 な 利 益 に 基 づいてこの 要 求 が 認 められるのでない 限 り 国 際 法 上 の 不 干 渉 主 義 (Nichteinmischungsprinzip)と 抵 触 することとなる 20) そのような 利 益 として 考 慮 されるのは 国 家 の 集 団 的 法 益 の 保 護 あるいはその 国 家 の 国 民 の 個 人 的 権 利 である それ 故 いわゆる 保 護 主 義 に 依 拠 しうる 処 罰 諸 要 求 は 是 認 される 21) したがって 例 えば 他 国 の 領 土 から 作 戦 行 動 をとった 外 国 のスパイ たちに 有 罪 判 決 を 下 すことはできる 言 うまでもなく この 処 罰 要 求 は 犯 罪 地 の 法 にかかわりな く 存 在 する 自 国 の 法 益 保 護 を 他 国 の 法 益 保 護 に 一 貫 して 何 ら 関 心 がない 他 国 の 法 秩 序 に 任 せ るべきではないからである ここでは 友 好 国 の 間 でもふつうに 行 われている 産 業 スパイ 15)Gribbohm in Leipziger Kommentar zum StGB (LK), 11. Aufl. 1997 (Stand 1.3.1997), Rn. 415 vor 3; Schönke / Schröder / Eser, StGB, 26. Aufl. 2001, Rn. 61 vor 3; Jescheck / Weigend, Lehrbuch des Strafrechts Allgemeiner Teil, 5. Aufl. 1996, S.180. 16)Lackner / Kühl, StGB, 24. Aufl. 2001, Rn. 1 vor 3; Hoyer in: Systematischer Kommentar zum StGB, Rn. 4 vor 3. 17)それに 関 してすでに 批 判 的 なのは Neumann, Normtheoretische Aspekte der Irrtumsproblematik im Bereich des Internationalen Strafrechts, in: Grundfragen staatlichen Strafens. Festschrift für Heinz-Dietz zum 70. Geburstag, 2001, S.589ff., 593, 601ff. 18)Karl Binding, Handbuch des Strafrechts, 1885, S.372. 19)Schröder, Die Teilnahme im internationalen Strafrecht, Zeitschrift für die gesamte Strafrechtswissenschaft (ZStW)61(1942), S.57ff., 94. 20)それに 関 して Jescheck / Weigend (Fn. 15), S.165; Michael / Köhler, Strafrecht Allgemeiner Teil, 1997, S.102. 21) 保 護 主 義 およびそれと 異 なる 特 徴 に 関 して 詳 細 は Lemke in Kindhäuser / Neumann / Paeffgen (Hrsg.), Nomos-Kommentar zum StGB, 2. Aufl. 2005, Rn. 12 vor 3; Alexandra Schmitz, Das aktive Personalitätsprinzip im Internationalen Strafrecht, 2002, S.136ff.; Wolfgang Zieher, Das sog. Internationale Strafrecht nach der Reform, 1977, S.77ff. 77

行 為 ( 刑 法 ₅ 条 ₇ 号 )の 諸 事 例 を 想 起 しさえすればよい 保 護 主 義 は 干 渉 禁 止 の 点 において 問 題 がない なぜなら 他 諸 国 の 領 土 への 行 為 規 範 の 拡 大 は ここでは 一 般 に 認 められた 自 国 の 利 益 および 処 罰 国 の 法 益 を 正 当 に 防 衛 する 反 射 的 作 用 にすぎ ないからである もちろん 自 国 の 法 規 範 によればその 国 の 領 土 では 全 く 正 しく 行 動 したにもか かわらず 他 の 国 家 の 刑 法 的 介 入 にさらされた 行 為 者 を 処 罰 することは 十 分 には 正 当 化 できな い この 問 題 が 先 鋭 化 するのは 行 為 者 が 自 国 の 規 範 に 従 えば 行 為 してもよい 場 合 にとどまらず 例 えば 国 家 秘 密 情 報 部 員 のように それがむしろ 義 務 であったときである 22) 行 為 者 に 対 する 処 罰 は ここでは 正 義 を 基 準 とする 刑 事 司 法 の 執 行 としてではなく 国 家 的 自 己 防 衛 行 為 として の み 根 拠 づ け ら れ る に す ぎ な い ギ ュ ン タ ー ヤ コ ブ ス の 用 語 に お け る 市 民 刑 法 (Bürgerstrafrecht) ではなく 敵 対 的 刑 法 (Feindstrafrecht) が 問 題 となっているのであ る 23) これらすべての 正 当 化 および 正 当 化 の 試 みは 世 界 主 義 の 適 用 領 域 において 役 に 立 たない と いうのは ここでは 処 罰 国 は はっきりと 行 為 による 自 国 の 法 益 の 侵 害 や 危 殆 化 という 要 件 を 放 棄 しているからである それ 故 世 界 主 義 により 処 罰 を 正 当 化 するには 二 つの 前 提 が 必 要 であ る 処 罰 国 は 一 方 で 犯 罪 地 国 における 法 的 評 価 に 関 係 なく 行 為 が 当 罰 的 不 法 であることを 主 張 しなければならず 他 方 で まさに 自 国 がこの 不 法 の 処 罰 に 適 任 であることを 根 拠 づけなけ ればならない いずれにせよ ドイツ 法 において 世 界 主 義 に 属 する 一 部 の 犯 罪 に 関 して この 二 つの 課 題 は 国 家 にとって 荷 が 重 すぎる そのことは 薬 物 の 取 引 の 例 で 説 明 されうる 包 括 的 な 犯 罪 構 成 要 件 および 刑 罰 威 嚇 をもつド イツの 薬 物 刑 法 を 薬 物 政 策 上 正 当 とみなす 者 でさえ 例 えばハシッシュの 単 純 所 持 は 国 内 法 秩 序 のルールに 依 存 せず 自 然 法 規 範 あるいは 普 遍 的 な 法 原 理 によって 当 罰 的 な 不 法 である 行 為 の 問 題 である といった 大 胆 な 主 張 をしない 他 国 の 法 秩 序 例 えばオランダ 法 におけるこの 行 為 の 不 処 罰 は 他 と 異 なる 法 政 策 的 決 定 の 帰 結 として 受 け 入 れられなければならない それを 法 倫 理 的 な 分 別 の 欠 如 あるいは 立 法 権 (Rechtssetzungskompetenz)の 不 備 を 明 らかにしたものと 評 価 することはできない いわんや 本 国 での 行 為 に 際 してドイツ 法 の 規 範 に 従 うことを オラン ダの 国 民 に 期 待 することはできない 行 為 が 犯 罪 地 の 法 によっても 可 罰 的 であるとしても 第 二 の 観 点 刑 事 訴 追 に 関 する 任 意 の 他 国 の 管 轄 は 根 拠 づけられえない せいぜい 他 の 国 家 が 犯 罪 地 の 国 家 の 代 わりに 国 際 協 調 の 一 環 として 刑 事 訴 追 を 引 き 受 けることは 犯 罪 地 国 自 らが そうすることができないとき 正 当 化 されるであろう したがって 世 界 主 義 は このような 諸 構 成 22)それに 関 してNeumann, Strafrechtliche Verantwortlichkeit für die DDR-Spionage gegen die Bundesrepublik nach der Wiedervereinigung, in: Ernst-Joachim Lampe (Hrsg.), Deutsche Wiedervereinigung, Bd. II 1993, S.161ff., 168ff. 23) 基 本 的 なものとして Jakobs, Kriminalisierung im Vorfeld einer Rechtsgutsverletzung, Zeitschrift für die gesamte Strafrechtswissenschaft (ZStW)97(1985), S.751ff. 783ff.; Jakobs, Das Selbstverständnis der Strafrechtswissenschaft vor den Herausforderungen der Gegenwart, in: Eser / Hassemer / Burkhardt (Hrsg.), Die deutsche Strafrechtswissenschaft vor der Jahrtausendwende, 2000, S.47ff. も 参 照 せよ 78

要 件 の 領 域 においては 代 理 処 罰 主 義 (Prinzip der stellvertretenden Strafrechtspflege)に 還 元 されなければならない 24) 国 際 法 上 の 犯 罪 構 成 要 件 の 場 合 重 要 な 点 において 事 態 は 異 なっている 例 えば ジェノサイ ドの 禁 止 は 今 日 少 なくとも 表 向 き 争 いえない 理 解 によれば 普 遍 的 に 国 内 立 法 に 関 係 なく 妥 当 する ジェノサイドが 行 われていても それを 世 界 主 義 によって 訴 追 するすべての 国 家 の 権 限 は 25) 人 類 に 対 する 犯 罪 としてのジェノサイドの 性 質 から 導 き 出 される 26) 理 由 書 によると 全 世 界 に 対 する (erga omnes) 犯 罪 にかかわっているのであって 当 然 の 結 果 としてすべての 国 家 によっても 裁 判 されうる 27) この 論 証 は まさに 政 府 を 批 判 する 声 においても 大 いに 共 感 を 呼 ぶことができる それにもかかわらず ここでも 疑 問 符 が 付 け 加 えられる 28) 24) 同 じく Merkel (Fn. 14). 世 界 主 義 と 異 なり 代 理 処 罰 主 義 は 行 為 が 犯 罪 地 で 処 罰 されている(またはこ れがいかなる 刑 罰 権 にも 服 していない)ということを 前 提 とする 刑 法 ₇ 条 を 参 照 せよ 代 理 処 罰 主 義 の 現 れとしての 世 界 主 義 の 一 般 的 理 解 に 対 して Stratenwerth / Kuhlen, Strafrecht Allgemeiner Teil Ⅰ, 5. Aufl. 2004, 4 Rn. 25. 代 理 処 罰 主 義 に 関 して 詳 細 は Eser, Grundlagen und Grenzen stellvertretender Strafrechtspflege, Juristenzeitung (JZ)1973, S.875ff.; Claudia Pappas, Stellvertretende Strafrechtspflege: zugleich ein Beitrag zur Ausdehnung deutscher Strafgewalt nach 7 Abs. 2 Nr. 2 StGB, Freiburg im Breisgau, 1995. 25)ドイツ 刑 事 国 際 法 ( 脚 注 ₄ )は 判 例 (BGHSt 45, 64, 66)によって 展 開 された 要 件 すなわち 国 内 関 連 として 正 当 な 接 点 ( 国 内 における 被 疑 者 の 滞 在 )が 存 在 しなければならないという 旧 刑 法 ₆ 条 1 項 の 世 界 主 義 によるジェノサイドの 訴 追 可 能 性 のために 展 開 された 要 件 ( 賛 成 するものとして 例 えば Weiß, Völkerstrafrecht zwischen Weltprinzip und Immunität, Juristenzeitung (JZ)2002, 696ff., 701; Oehler, NStZ 1994, 485; 否 定 するものとして 例 えば Eser, Festgabe aus der Wissenschaft, Bd. Ⅳ, München 2000, S.3ff., 26ff.)を はっきりと しかも 判 例 から 意 識 的 に 離 れることで(これに 関 して die Gesetzesbegründung, BT-Dr. 14 / 8524 S. 14を 参 照 せよ) 放 棄 した すでにBGHSt 46, 292, 306f. 判 決 が 同 じ 傾 向 を 示 していた 26)Eser, Völkermord und deutsche Strafgewalt. Zum Spannungsverhältnis von Weltrechtsprinzip und legitimierendem Inlandsbezug, in: Strafverfahrensrecht in Theorie und Praxis. Festschrift für Lutz Meyer- Goßner zum 65. Geburtstag, 2001, S.3ff., 17ff.; Merkel, (Fn. 14)S.247ff.; さらに Ambos, NStZ 1999, 404, 405f.; Lagodny / Nill-Theobald, JR 2000, 205f.; Werle, JZ 1999, 1181, 1183. 27) 特 にはっきりさせているのは Eser (Fn. 26), S.17ff. しばしば 国 際 犯 罪 は 行 為 によって 侵 害 された 世 界 共 同 体 の 利 益 の 受 託 者 と し て の 個 々 の 国 家 に 関 係 す る と い う 表 現 が 見 ら れ る( 例 え ば Kreß, Völkerstrafrecht in Deutschland, NStZ 2000, 617, 624 を 参 照 せよ) 28) 以 下 では (もっぱら) 国 内 刑 法 秩 序 において 編 纂 された 世 界 主 義 から 管 轄 が 生 じるような 国 内 刑 事 裁 判 所 によって 国 際 犯 罪 に 有 罪 判 決 を 下 す 法 倫 理 的 法 政 策 的 問 題 が 重 要 である コンゴ 民 主 共 和 国 対 ベルギー の 裁 判 (イエロディア ヌドンバシ 事 件 )における2002 年 ₂ 月 14 日 の 国 際 司 法 裁 判 所 (IGH) 判 決 と 関 連 させ 世 界 主 義 の 国 際 法 的 問 題 に つ い て 論 じ た も の と し て 例 え ば Kreß, Völkerstrafrecht und Weltrechtspflegeprinzip im Blickfeld des Internationalen Gerichtshof, Zeitschrift für die gesamte Strafrechtswissenschaft (ZStW)114(2002), S.818f. 79

3. 刑 事 国 際 法 の 領 域 における 世 界 主 義 a) 禁 止 規 範 の 普 遍 妥 当 性 最 初 の 疑 問 符 は 規 範 の 普 遍 妥 当 性 に 関 してである 29) この 普 遍 妥 当 性 は いかなる 法 秩 序 も ジェノサイドを 明 確 に 合 法 とはみなさないというありふれた 意 味 においてのみ 問 題 がない この 広 範 囲 に 及 ぶが 内 容 の 乏 しい 一 致 を 超 えたところに 困 難 が 生 じる 例 えば 1948 年 の 集 団 殺 害 罪 の 防 止 及 び 処 罰 に 関 する 国 際 条 約 30) の 参 照 指 示 は アメリカ 合 衆 国 がこの 条 約 にかなりの 留 保 をつけて 批 准 したという 事 実 に 鑑 みると 相 対 化 される 31) 多 数 の 国 内 法 秩 序 において 構 成 要 件 を 承 認 することでは この 構 成 要 件 の 普 遍 的 妥 当 性 は 基 礎 づけられえない この 承 認 が 完 全 で 例 外 なきものであったとしてもそうすることはできないであろう 32) したがって 規 範 の 普 遍 妥 当 性 は 実 際 上 の 承 認 によってというよりもむしろバーチャル 的 な 承 認 によって 基 礎 づけられな ければならないであろう ここでは いずれにせよ 構 成 要 件 の 中 核 領 域 つまり 国 民 的 集 団 を 破 壊 する 意 図 をもってその 集 団 構 成 員 を 殺 害 することは 討 議 において 根 拠 づけうるであろうと いう 見 込 みは 十 分 にある すでに 反 射 的 な 自 己 利 益 に 基 づいて すべての 討 議 参 加 者 たちは 何 らかの 国 民 的 人 種 的 宗 教 的 または 民 族 的 集 団 の 構 成 員 としてこの 構 成 要 件 に 賛 成 するに 違 い ない 33) このような 方 法 では 構 成 要 件 を 正 確 に 輪 郭 づけることはできないという 点 は 討 議 理 論 (Diskurstheorie)のみならず 刑 法 的 規 範 を 合 理 的 に 根 拠 づけようとするすべての 試 みの 弱 点 で ある b) 個 々の 国 家 の 普 遍 的 処 罰 権? ジェノサイドおよびその 他 の 国 際 法 上 の 犯 罪 に 対 する 普 遍 的 処 罰 権 を 正 当 化 する 際 の 問 題 は ジェノサイドの 一 般 的 禁 止 を 正 当 化 する 際 の 問 題 より 重 要 である まず 正 しいのは ジェノサ イドは 被 害 者 被 害 者 の 本 国 および 犯 罪 地 の 国 家 にのみ 関 わりがあるわけではないという 論 証 で ある 国 民 的 宗 教 的 人 種 的 あるいは 民 族 的 集 団 に 生 存 権 が 認 められず このような 理 由 から これらの 集 団 の 破 壊 に 着 手 されるならば それは 人 種 宗 教 国 民 あるいは 民 族 の 相 違 に 関 係 な く すべての 人 間 の 共 同 体 として 構 成 される 人 類 全 体 に 関 係 するものである それ 故 ジェノサ イドによって 個 々の 人 間 としての 価 値 の 担 い 手 や 擁 護 者 としての 人 類 が 個 々の 人 間 によって 攻 撃 (OGHSt 1,15) 34) されていると 記 述 されるのは 単 なるレトリックに 留 まらない このことはジェノサイドの 構 成 要 件 にのみ 妥 当 するのではなく 同 じようにすべての 人 道 に 対 29)それに 関 して 詳 細 は Keller (Fn. 13), S.426ff. 30)1948 年 12 月 ₉ 日 の 集 団 殺 害 罪 の 防 止 及 び 処 罰 に 関 する 条 約 31)Keller (Fn. 13), S.429. 32)それに 関 して Keller (Fn. 13), S.429. 33) 刑 事 国 際 法 における 禁 止 規 範 の 普 遍 妥 当 性 を 基 礎 づける 際 の 討 議 倫 理 的 論 証 の 可 能 性 に 関 して Keller, a. a.o. を 参 照 せよ 34)Eser (Fn. 26), S.17 によって 好 意 的 に 引 用 されている 80

する 罪 にも 妥 当 する この 文 脈 において 人 道 とは 人 間 らしい 配 慮 やいたわり 以 上 のものを いう 人 道 とは ここではその 語 義 において 理 解 されなければならない この 概 念 はタブー の 根 本 的 な 構 成 要 素 であり その 違 反 は 仲 間 としての 他 者 に 対 する 尊 敬 すなわち 規 範 的 諸 条 件 によって 構 成 されている 人 類 の 理 念 を 打 ち 消 す 35) 人 道 に 対 する 罪 のこのような 解 釈 から 国 内 法 秩 序 において 世 界 主 義 に 反 映 されているように 世 界 すべての 国 家 に 処 罰 権 限 を 承 認 すること は 小 さな 一 歩 にすぎない これに 実 際 上 の 観 点 が 付 け 加 わる ジェノサイドおよび 人 道 に 対 する 罪 は 国 家 に 委 任 されて あるいは 国 家 の 代 表 者 自 身 によってとはいわないまでも しばしば 国 家 の 黙 認 の 下 で 行 われる 刑 事 訴 追 に 関 する 犯 罪 地 国 の 第 一 次 的 管 轄 ( 属 地 主 義 )は これら の 事 情 の 下 では 無 駄 のように 思 われる 36) 第 三 国 による 刑 罰 権 の 行 使 は ここでは 効 率 的 な 刑 事 訴 追 のための 条 件 として 認 められる 世 界 主 義 は ここでは 犯 罪 地 国 家 との 国 際 協 調 の 表 明 ではなく むしろこの 国 家 に 対 する 不 信 感 の 表 れなのである 37) 以 上 によって 刑 事 国 際 法 上 の 構 成 要 件 の 領 域 に 対 して 世 界 主 義 は 名 誉 回 復 したのか おそ らくまだであろう 38) というのは 人 類 のすべてが 被 害 を 被 るということからすべての 国 家 の 処 罰 管 轄 を 推 論 することは 規 範 的 ならびに 実 際 的 な 諸 理 由 から 短 絡 的 である 規 範 的 観 点 から 人 類 すべてが 被 害 を 被 ることは すべての 個 々の 人 間 すべての 人 的 集 団 およびそれらを 代 表 する 国 家 の 諸 機 関 が 被 害 を 被 ったことを 根 拠 づけないという 異 論 がある 人 類 の 理 念 は 国 家 的 あるいは 非 国 家 的 組 織 における 人 的 結 合 のそれとは 論 理 的 レベルが 異 なって いる それ 故 人 類 としての 処 罰 要 求 は 個 々の 国 家 のそれとは 水 準 が 異 なる 処 罰 要 求 は 個 々 の 国 家 の 司 法 によって いわば 社 会 のための 行 為 (actio pro socio)という 方 法 においてのみ 主 張 されうる 第 一 次 的 な 管 轄 があるのは 世 界 共 同 体 それ 自 体 である 具 体 的 に 言 うと 国 際 法 上 の 犯 罪 は 直 接 被 害 を 被 った 犯 罪 地 国 によって 裁 判 されない 場 合 いずれにせよ 人 類 そのも のを 代 表 しているということをより 強 く 主 張 できる 国 際 司 法 裁 判 所 において 審 理 されうる この ようにして ローマ 規 程 による 常 設 国 際 刑 事 裁 判 所 の 設 立 は 重 要 な 一 歩 である しかし 一 歩 以 上 ではない なぜなら この 裁 判 所 には 個 々の 諸 国 による 刑 事 訴 追 との 関 係 において まさに 補 完 的 に 管 轄 権 が 認 められているにすぎないからである 39) 世 界 主 義 による 個 々の 国 家 の 管 轄 に 対 する 実 際 的 疑 念 は 刑 事 国 際 法 上 の 諸 構 成 要 件 の 領 域 に おいて 刑 法 を 適 用 することが 著 しく 不 確 実 であることから 生 じる これらの 不 確 実 性 は 一 方 で 35)いくつかある 中 で 例 えば ローマ 規 程 ( 脚 注 ₁ )の 前 文 は 国 際 社 会 全 体 の 関 心 事 である 犯 罪 を 引 き 合 いに 出 している 36)それに 関 して 例 えば Kreß, Völkerstrafrecht in Deutschland, NStZ 2000, 617, 625. 37)Merkel (Fn. 14), S.261. 38) 刑 事 国 際 法 (これに 関 しては 脚 注 25) ₁ 条 における 刑 事 国 際 法 の 犯 罪 構 成 要 件 に 対 して 無 制 限 の 世 界 主 義 の 構 築 を 非 常 に 歓 迎 するドイツの 圧 倒 的 通 説 はこれと 異 なる( 例 えば Satzger, NStZ 2002, S.131) 刑 事 国 際 法 がジェノサイドの 訴 追 可 能 性 に 対 して 世 界 主 義 の 規 定 をさらに 命 じるかどうかの 問 題 に 関 してEser (Fn. 26), S.22ff.; Lagodny / Nill-Theobald, JR 2000, 205 を 参 照 せよ 39)とりわけローマ 規 程 ( 脚 注 ₁ )17 条 参 照 これに 関 して 詳 細 は Triffterer, Der ständige Internationale Strafgerichtshof Anspruch und Wirklichkeit, in: Gedächtnisschrift für Heinz Zipf, 1999, S.496ff., 527ff. 81

主 要 な 構 成 要 件 的 要 素 が 一 般 条 項 のように 漠 然 としていることから 生 じる ここでは 人 道 に 対 する 罪 の 犯 罪 構 成 要 件 における 文 民 たる 住 民 に 対 する 広 範 な 又 は 組 織 的 な 攻 撃 ( 刑 事 国 際 法 ₇ 条 ₁ 項 )というメルクマールを 指 摘 することで 充 分 である 不 確 実 性 は 他 方 で 刑 事 国 際 法 における 行 為 が 通 常 その 全 体 構 造 が 行 為 の 最 終 的 な 刑 法 上 の 評 価 を 下 すようなきわめて 複 雑 な 関 連 に 取 り 込 まれているということから 生 じる 一 定 の 国 民 集 団 を 破 壊 する 目 的 において 行 為 が 行 われたかどうかは 異 なったふうにも 解 釈 可 能 な 政 治 的 関 係 からのみ 推 論 される この 点 で 刑 事 手 続 の 偏 向 性 と 片 面 性 の 危 険 がとりわけ 重 大 である この 危 険 を 直 接 的 な 政 治 的 諸 利 益 の 影 響 に つまり 政 治 的 にコントロールされた 判 事 の 従 順 性 に 帰 責 するのは 非 常 に 単 純 であろう 政 治 的 な 期 待 を 意 識 的 に 考 慮 する 前 に 存 在 する 解 釈 モデ ル(Deutungsmuster)の 潜 在 的 影 響 の 方 がはるかに 危 険 である 具 体 的 に 言 うと 西 側 諸 国 において 決 して 西 側 諸 国 の 元 首 や 首 相 に 対 する 侵 略 戦 争 のかどでの 刑 事 訴 追 にいたらないのは 検 事 や 裁 判 所 は 法 と 正 義 に 関 する 自 分 たちの 観 念 によってではなく 政 治 的 な 便 宜 によって 決 定 するであろう という 理 由 からではない 当 然 西 側 諸 国 の 元 首 や 首 相 は 決 して 侵 略 戦 争 をし ないという 理 由 からでもない しかし そのような 刑 事 手 続 の 開 始 は 西 側 諸 国 における 裁 判 官 ならびに 市 民 の 集 団 的 な 解 釈 モデルおよび 行 動 モデル(Handlungsmuster)と 一 致 しないであろ う 一 定 の 行 為 が 本 来 あるいは それ 自 体 で 侵 略 戦 争 の 構 成 要 件 をみたすであろうと 主 張 する 者 でさえ こう 表 示 することによって いわば 自 らの 大 胆 な 言 動 に 驚 き 自 己 の 主 張 を 一 部 撤 回 するであろう しかし この 者 が 実 際 に 告 発 するならば それは 真 摯 には 検 討 されないであ ろうし その 者 自 らが 訴 え 好 きの 烙 印 を 押 されるであろう リビアやイラクにおいては 裁 判 所 はほとんど 躊 躇 しないであろうということを 強 調 する 必 要 はない 40) もう 一 度 強 調 して 言 っておこう 刑 法 的 評 価 においてこのような 差 がある 場 合 司 法 の 恣 意 が 重 要 なのではなくて 熟 慮 を 重 ねた そして 公 平 に 判 断 しようとする 法 学 者 も 逃 れることができ ない 集 合 的 な 解 釈 モデルが 重 要 なのである 現 行 法 の 集 団 的 な 誤 った 適 用 も 重 要 ではない なぜなら 法 秩 序 の 内 容 は 血 の 通 っていない 法 実 証 主 義 の 外 では 法 秩 序 が 根 ざしている 生 活 世 界 の(lebensweltlich) 基 盤 と 切 り 離 すことができないからである 41) それ 故 政 治 的 な 枠 組 みとなる 諸 条 件 によって 初 めて 法 の 適 用 が 決 定 されるのではなく 法 秩 序 の 内 容 それ 自 体 がす でに 決 定 されているのである したがって ベルリンの 壁 での 発 砲 は 旧 東 ドイツの 法 によっても 可 罰 的 であったとする 主 張 は 誤 りであったが 42) ドイツの 裁 判 所 が 西 側 諸 国 の 元 首 や 首 相 を 国 際 法 上 の 犯 罪 のゆえに 有 罪 の 判 決 を 下 すであろうという 期 待 は 幻 想 であろう もちろん このこと は 政 治 的 に 変 化 する 兆 しがあるとしても すべての 国 内 法 秩 序 に 妥 当 する したがって 世 界 主 40) 無 制 限 の 世 界 主 義 によってドイツ 刑 事 裁 判 権 に 国 際 法 上 の 犯 罪 を 訴 追 する 権 限 を 認 める 者 は あくまで こ の 世 界 のすべての 主 権 国 家 に 同 じ 権 限 を 認 めなければならない この 世 界 のいくつかの 国 に 若 干 単 純 で それにもかかわらず 政 治 的 に 明 らかに 有 効 な ならず 者 国 家 (Schurkenstaaten) というレッテルを 張 るこ とは 国 際 法 上 有 効 な 個 別 化 基 準 ではほとんどないであろう 41)これに 関 して 詳 細 は Neumann (Fn. 5), S.123f. 42)それに 関 して Neumann (Fn. 5), S.121ff. 82

義 は 構 造 的 に 条 件 付 けられた それ 故 刑 事 司 法 の 不 可 避 的 な 政 治 問 題 化 (Politisierung)に いたることはさけられない 国 際 司 法 裁 判 所 に 対 して 実 際 何 か 別 のことが 妥 当 するのかという 問 題 が 依 然 として 残 って いる そのことは 排 除 されえない ここでは 例 えば 超 国 家 的 観 点 に 基 づいて 義 務 づけられて いる 裁 判 官 の 特 別 な 役 割 の 理 解 を 指 摘 することができる 異 なった 政 治 的 特 徴 は 裁 判 合 議 体 の 集 団 的 決 定 過 程 において 中 立 化 されるということを 想 起 することは 容 易 であろう しかし それ はそれとして いずれにせよ 国 内 の 刑 事 裁 判 所 における 偏 った 評 価 や 決 定 の 危 険 は 傾 向 とし て 多 国 籍 的 に 構 成 される 国 際 司 法 裁 判 所 における 場 合 より 大 きい なんなら はるかに 大 き い という 確 定 は ほとんど 争 いえないといえよう それ 故 世 界 主 義 によって 国 際 法 上 の 犯 罪 に 判 決 を 下 すことについての 国 内 刑 事 裁 判 所 の 管 轄 権 は 暫 定 的 解 決 にすぎないといえよう 43) 同 じ 権 限 をもつ 諸 国 家 が 一 体 となった 世 界 において 国 内 刑 事 裁 判 所 の 管 轄 権 の 原 理 としての 世 界 主 義 は 永 続 的 に 何 ら 正 当 な 地 位 をもたない 43) 同 様 に Oellers-Frahm, Erfolg Kongos gegen Belgien: Immunität eines Außenministers vor strafrechtlicher Verfolgung im Ausland durch dortige nationale Gerichte. Problematik einer universellen Zuständigkeit, Vereinte Nationen, 2002, 121. ローマ 規 程 により 国 内 裁 判 所 に 与 えられている 優 先 管 轄 権 (これに 関 して 脚 注 36)の 広 範 な 放 棄 に 対 して 例 えば Kreß (Fn. 36), S.617, 625. 83