Ⅵ. 血 管 平 滑 筋 の 収 縮 ( 分 子 細 胞 情 報 学 分 野 : 心 臓 血 管 研 究 施 設 ) (1) 実 験 の 目 的 一 般 目 標 血 管 平 滑 筋 の 収 縮 及 び 弛 緩 反 応 におけるカルシウムシグナルと カルシウム 感 受 性 の 役 割 について 理 解 する 血 管 平 滑 筋 の 収 縮 は 細 胞 内 カルシウムシグナルによ って 調 節 される しかしながら 細 胞 質 カルシウム 濃 度 と 発 生 張 力 の 関 係 は 一 定 ではない 例 えば αアドレナ リン 受 容 体 を 刺 激 しておくと 同 じ 細 胞 質 カルシウム 濃 度 に 対 して 得 られる 収 縮 力 が 大 きくなる この 現 象 を 平 滑 筋 収 縮 装 置 のカルシウム 感 受 性 の 亢 進 あるいは 増 強 と 呼 ぶ すなわち 血 管 平 滑 筋 の 収 縮 は 細 胞 質 カル シウム 濃 度 と 収 縮 装 置 のカルシウム 感 受 性 の2 重 調 節 を 受 ける Tension (% of 3x10-6 mol/l Ca 2+ -induced contraction) 150 100 phenylephrine (+) 50 phenylephrine (-) 0 10-8 10-7 10-6 10-5 [Ca 2+ ] (mol/l) 行 動 目 標 平 滑 筋 収 縮 機 序 を 説 明 できる 脱 分 極 刺 激 による 収 縮 と 受 容 体 刺 激 による 収 縮 の 機 序 の 違 いを 説 明 できる 血 管 弛 緩 反 応 における Ca 2+ シグナルの 役 割 を 説 明 できる 蛍 光 試 薬 を 用 いた 細 胞 質 カルシウム 濃 度 の 測 定 原 理 を 説 明 できる 脱 膜 化 平 滑 筋 標 本 の 作 製 法 とその 原 理 及 び 用 途 を 説 明 できる Ca 2+ -EGTA 緩 衝 液 の 原 理 と 目 的 を 説 明 できる (2)Key words 血 管 平 滑 筋 (vascular smooth muscle) 細 胞 内 情 報 伝 達 (intracellular signal transduction) 受 容 体 (receptor) G 蛋 白 質 (GTP-binding protein/g protein) phospholipase C(PLC) inositol trisphosphate(ip 3 ) diacylglycerol(dag) カルシウム 放 出 (Ca 2+ release) IP 3 -reeptor(ip 3 R) ryanodine receptor(ryr) protein kinase C (PKC) カルシウム 流 入 (Ca 2+ infulux) 細 胞 質 カルシウム 濃 度 (Cytosolic Ca 2+ concentration ([Ca 2+ ] i ) ミオシ ン 軽 鎖 リン 酸 化 酵 素 (myosin light chain kinase: MLCK) ミオシン( 軽 鎖 ) 脱 リン 酸 化 酵 素 (myosin (light chain) phosphatase; MLCP) カルシウム 感 受 性 (Ca 2+ sensitivity) 収 縮 (contraction) 脱 膜 化 血 管 標 本 (permeabilized preparations skinned fibers) -1-
(3) 実 験 概 要 Intact 実 験 Skinned 実 験 標 本 ウサギ 大 腿 動 脈 Intact preparations/fibers Permeabilized preparations/skinned fibers 実 験 内 容 細 胞 質 カルシウム 濃 度 と 張 力 の 同 時 測 定 (1) カルシウム 拮 抗 薬 と NO ドナーによる 弛 緩 反 応 を 比 較 観 察 する (2) 受 容 体 刺 激 による 収 縮 反 応 と 脱 分 極 刺 張 力 測 定 カルシウム 濃 度 を 段 階 的 に 上 昇 させた 際 に 生 じる 収 縮 反 応 を 受 容 体 刺 激 および 弛 緩 薬 の 有 無 で 比 較 観 察 する 激 による 収 縮 反 応 を 比 較 観 察 する 観 察 の ポイント 1. 脱 分 極 刺 激 による 収 縮 と 受 容 体 刺 激 に よる 収 縮 の 違 い 1. カルシウム 感 受 性 に 及 ぼす 受 容 体 刺 激 及 び 弛 緩 薬 の 効 果 の 違 い 2. 2 種 類 の 弛 緩 反 応 における 細 胞 質 Ca 2+ 濃 度 変 化 の 違 い 実 験 場 所 蛍 光 測 定 室 スキンド 標 本 実 験 室 日 程 9:00~10:00 オリエンテーション( 医 療 系 統 合 教 育 実 習 センター2F セミナー 室 ) A 班 B 班 10:15~12:45 Intact 実 験 Skinned 実 験 昼 食 13:45~16:15 Skinned 実 験 Intact 実 験 16:15~16:30 実 習 のまとめ( 医 療 系 統 合 教 育 実 習 センター2F セミナー 室 ) * 午 前 中 の 実 験 終 了 時 間 によって 午 後 の 実 験 開 始 時 間 を 調 節 します -2-
(4) 実 験 方 法 1. 実 験 試 薬 溶 液 など 1) Intact 実 験 に 用 いる 溶 液 : 生 理 的 食 塩 水 : Physiological Saline Solution (PSS) 15.9K-PSS 2118K-PSS NaCl 123.0 11.0 KCl 4.7 116.8 5.9K-PSS 118K-PSS CaCl 2 1.25 1.25 K + : 5.9 118.0 MgCl 2 1.2 1.2 Na + : 138.6 26.5 KH 2 PO 4 1.2 1.2 K + +Na + : 144.5 144.5 NaHCO 3 15.5 15.5 D-glucose 11.5 11.5 (in mm) 2) Skinned 実 験 に 用 いる 溶 液 ( 実 習 の 背 景 参 照 ) I. Stock solutions (1) 10 G stock: 125 mm K-methansulfonate, 25 mm Tris-maleate (ph 6.8), 12.5 mm EGTA (2) 10-4 Ca 2+ stock: 125 mm K-methansulfonate, 25 mm Tris-maleate (ph 6.8), 12.5 mm EGTA, 12.5 mm CaCl 2 (3) ATP-CP stock: 94.7 mm Creatine phosphate, 11 mm ATP, 16.9 mm MgCl 2 II. Working solution( 実 験 に 使 用 する 溶 液 ) Free [Ca 2+ ] i Ca 2+ solution 10-4 Ca 2+ stock 10 G stock ATP-CP stock 10 G 0 L 1000 L 250 L 1 x 10-7 M 100 L 1000 L 275 L 3 x 10-7 M 300 L 999 L 324.75 L 5 x 10-7 M 500 L 1000 L 375 L 1 x 10-6 M 500 L 500 L 250 L 3 x 10-6 M 750 L 250 L 250 L 1 x 10-5 M 1000 L 100 L 275 L Final concentrations 100 mm K-methansulfonate 20 mm Tris-maleate 10 mm EGTA 10 mm creatine phosphate 2 mm Mg-ATP 1 mm free Mg 2+ + indicated concentrations of free Ca 2+ Ca 2+ solution : ATP-CP stock = 4 : 1 で 混 合 して 最 終 溶 液 を 調 整 する 3) 収 縮 刺 激 弛 緩 薬 : 収 縮 刺 激 : 118 mm K + 脱 分 極 刺 激 フェニレフリン (αアドレナリン 受 容 体 刺 激 薬 : 最 終 濃 度 10 μm で 使 用 する) ジルチアゼム[diltiazem(Dil)] 弛 緩 薬 : L 型 電 位 依 存 性 Ca 2+ チャネル 阻 害 剤 細 終 濃 度 1μM で 使 用 する ニトロプルシドナトリウム[sodium nitroprusside (SNP)] NO ドナー 最 終 濃 度 1μM で 使 用 する * 刺 激 薬 弛 緩 薬 を 標 本 に 投 与 する 時 は 高 濃 度 のストック 溶 液 (Intact 実 験 は 最 終 濃 度 の 1000 倍 濃 度 Skinned 実 験 は 100 倍 濃 度 )を 適 当 量 ( L)を 投 与 して 上 記 の 濃 度 が 得 られるようにする -3-
(5) 実 験 手 順 1. 標 本 作 製 1) 日 本 白 色 ウサギ( 体 重 2.5~3.0kg)をペントバルビタール 静 注 及 び 頸 動 脈 からの 脱 血 にて 安 楽 死 させる 2) 直 ちに 大 腿 動 脈 を 摘 出 し 5.9K-PSS 中 に 置 く 3) 周 辺 の 脂 肪 組 織 を 実 体 顕 微 鏡 下 に はさみを 用 いて 機 械 的 に 削 除 する 4) Intact 実 験 用 には 幅 1 mm の 血 管 条 片 Skinned 実 験 用 には 幅 0.3 mm のリング 標 本 を 作 製 する 2.Intact 実 験 カルシウム 指 示 蛍 光 色 素 Fura-2 の 負 荷 :アセトキシメチルエステル(AM) 法 50 M Fura-2/AM を 含 む 培 養 液 中 で 4 時 間 処 理 し 血 管 標 本 Ca 2+ 蛍 光 指 示 色 素 Fura-2 を 負 荷 する ( 実 習 の 背 景 参 照 ) 標 本 の 装 着 ~ 測 定 準 備 1) 6 ml 5.9K-PSS を 満 たした 水 槽 の 中 で 血 管 標 本 を 張 力 歪 み 計 に 装 着 し 静 止 張 力 300 mg を 加 える 2) 蛍 光 測 定 装 置 を 設 定 する ( 光 学 繊 維 束 測 定 装 置 は 精 密 器 機 取 り 扱 いに 注 意 ) 測 定 1) 118K-PSS を 用 いて 脱 分 極 刺 激 を 行 う 収 縮 が 安 定 したら 5.9K-PSS に 換 えて 静 止 状 態 に 戻 す (この 118 mm K + 脱 分 極 刺 激 を 数 回 繰 り 返 して 収 縮 反 応 の 再 現 性 を 確 認 する ) 2) 再 び 118K-PSS を 用 いて 脱 分 極 刺 激 を 行 う 定 常 状 態 に 達 するまで 待 つ 3) 定 常 状 態 に 達 したら ニトロプルシドを 最 終 濃 度 1μM になるように 投 与 し 弛 緩 反 応 を 観 察 する -4-
4) 弛 緩 反 応 が 最 大 に 達 したら( 安 定 したら) 弛 緩 薬 を 除 く(118 mm K + 脱 分 極 刺 激 は 続 ける) 5) 収 縮 のレベルが 元 のレベルに 回 復 したら 5.9K-PSS に 変 え 静 止 状 態 に 戻 す 6) 静 止 レベルに 戻 ったら 再 び 118K-PSS を 用 いて 脱 分 極 刺 激 を 行 う 7) 定 常 状 態 に 達 したら ジルチアゼムを 最 終 濃 度 1μM になるように 投 与 し 弛 緩 反 応 を 観 察 する 8) 弛 緩 反 応 が 最 大 に 達 したら( 安 定 したら) 5.9K-PSS に 変 え 静 止 状 態 に 戻 す 9) 静 止 レベルに 戻 ったら 5.9K-PSS にフェニレフリンを 最 終 濃 度 10 μm になるように 投 与 し 収 縮 反 応 を 観 察 する 118 mm K + 脱 分 極 刺 激 による 収 縮 反 応 と 比 較 する 弛 緩 反 応 の 程 度 は 弛 緩 薬 を 投 与 する 直 前 の 細 胞 質 カルシウム 濃 度 と 張 力 のレベルを 100% 静 止 レベルを 0%と して %で 表 示 する ( 実 習 レポート 参 照 ) フェニレフリン 収 縮 の 測 定 データは 直 前 の 118 mm K 収 縮 の 細 胞 質 カルシウム 濃 度 と 張 力 のレベルを 100% 静 止 レベルを 0%として %で 表 示 する ( 実 習 レポート 参 照 ) 3.Skinned 実 験 Skinned 標 本 の 作 製 測 定 準 備 ( 実 習 の 背 景 参 照 ) 1) 幅 0.3 mm のリング 標 本 を 10G relaxation solution 中 で αトキシン(5,000 U/mL)で 1 時 間 処 理 し 脱 膜 化 標 本 を 作 製 する 処 理 標 本 は 10G relaxation solution に 浸 して 室 温 に 保 存 する 2) 10 G relaxation solution 中 で 脱 膜 化 標 本 を 張 力 測 定 装 置 に 装 着 する 静 止 時 の 長 さの 1.5 倍 に 引 き 延 ばし 静 止 張 力 を 設 定 する 測 定 1) 溶 液 中 のカルシウム 濃 度 を 3 x10-6 M に 上 昇 させて 収 縮 を 観 察 する 2) 10 G relaxation solution に 換 えて 静 止 状 態 に 戻 す この 収 縮 を 数 回 繰 り 返 し 再 現 性 を 確 認 する この 収 縮 のレベルを 100% 静 止 レベル(10 G relaxation solution)を 0%として 測 定 データを% 表 示 する 3) 次 の6つの 条 件 で 遊 離 Ca 2+ 濃 度 を 0 1 x10-7 M 3 x10-7 M 5 x10-7 M 1 x10-6 M 3 x10-6 M 1 x10-5 M 1 x10-4 M と 段 階 的 に 上 昇 させて 収 縮 反 応 を 観 察 する グループ 弛 緩 薬 収 縮 刺 激 1 2 3 コントロール 1μM ジルチアゼム 存 在 下 1μM ニトロプルシド 存 在 下 10μM フェニレフリン(-) 10μM フェニレフリン(+) 10μM フェニレフリン(-) 10μM フェニレフリン(+) 10μM フェニレフリン(-) 10μM フェニレフリン(+) -5-
* 薬 剤 は 最 終 濃 度 の 100 倍 濃 度 の 溶 液 (ストック 溶 液 )を 準 備 する 1 x10-3 M フェニレフリン 1 x10-4 M ジルチアゼム 1 x10-4 M ニトロプルシド * 200 L Ca 2+ 溶 液 (0, 1 x10-7, 3 x10-7, 5 x10-7, 1 x10-6, 3 x10-6, 1 x10-5, 1 x10-4 M)の 作 製 1 2 3 コントロール 1μM ジルチアゼム 存 在 下 1μM ニトロプルシド 存 在 下 フェニレフリン(-) + 2 L ジルチアゼム + 2 L ニトロプルシド フェニレフリン(+) + 2 L フェニレフリン 196 L Ca2+ 溶 液 + 2 L フェニレフリン + 2 L ジルチアゼム + 2 L フェニレフリン + 2 L ニトロプルシド (6)レポート A4 サイズの 用 紙 で 以 下 の 要 領 で レポートを 提 出 しなさい 実 習 日 学 籍 番 号 氏 名 を 明 記 すること 結 果 観 察 結 果 を 記 述 せよ (1)Intact 実 験 細 胞 質 Ca 2+ 濃 度 と 張 力 に 及 ぼすジルチアゼムの 作 用 を 記 述 せよ 細 胞 質 Ca 2+ 濃 度 と 張 力 に 及 ぼすニトロプルシドの 作 用 を 記 述 せよ 脱 分 極 刺 激 による 収 縮 の 値 を 100%として フェニレフリン 収 縮 が 最 大 に 達 した 時 の (2)Skinned 実 験 細 胞 質 Ca 2+ 濃 度 と 張 力 のレベルを%で 示 し フェニレフリン 収 縮 の 特 徴 を 記 述 せよ 全 ての 実 験 条 件 で Ca 2+ 濃 度 と 張 力 の 関 係 をグラフに 表 せ(Ca 2+ 濃 度 は 対 数 軸 で 表 示 ) グラフを 元 に フェニレフリン ジルチアゼム ニトロプルシドの 効 果 を 記 述 せよ 考 察 Intact 実 験 及 び Skinned 実 験 で 得 られた 結 果 に 基 づいて 考 察 せよ 受 容 体 刺 激 の 作 用 を 収 縮 装 置 の Ca 2+ 感 受 性 の 観 点 から 考 察 せよ カルシウム 拮 抗 薬 と NO ドナーによる 弛 緩 反 応 の 機 序 を 考 察 せよ 提 出 〆 切 日 : 次 回 実 習 日 あるいは1 週 間 後 ( 〆 切 を 遅 れたレポートは 減 点 採 点 ) 実 習 日 10 月 2 日 10 月 9 日 10 月 16 日 10 月 23 日 10 月 30 日 11 月 6 日 提 出 〆 切 10 月 9 日 10 月 16 日 10 月 23 日 10 月 30 日 11 月 6 日 11 月 13 日 提 出 先 : 統 合 教 育 実 習 センター1 階 分 子 細 胞 情 報 学 分 野 平 野 まで ( 実 習 を 行 った 研 究 室 ) -6-