2014 年 1 月 第 10 回 その 贈 与 と 預 金 大 丈 夫 ですか? 事 例 4 税 理 士 内 田 麻 由 子 概 要 相 続 対 策 のつもりでやっていたことが 実 は 全 く 対 策 になっていなかったということがあります 今 回 は 生 前 贈 与 や 家 族 名 義 の 預 金 について 勘 違 いをしていたというご 家 族 の 事 例 です <ワンポイント アドバイス>では 生 前 贈 与 をするときの 注 意 点 などについて 述 べています < 相 続 の 基 礎 知 識 >では 生 前 贈 与 の 2 つの 制 度 暦 年 課 税 制 度 相 続 時 精 算 課 税 制 度 の 概 要 について 述 べています ( 相 続 時 精 算 課 税 制 度 については 第 9 回 エッセーも 併 せてご 覧 ください) < 事 例 > 東 京 都 内 に 住 む 桜 井 幸 子 さん(75 歳 )は 結 婚 以 来 ずっと 専 業 主 婦 として 夫 の 義 男 さん(78 歳 )を 支 え 2 人 の 息 子 を 育 て 家 計 をやりくりしてきたしっかりものの 妻 趣 味 と 実 益 を 兼 ねた 株 式 投 資 歴 は 40 年 の ベテランです 仕 事 一 筋 だった 義 男 さんが 定 年 退 職 してからは 夫 婦 で 毎 年 旅 行 することを 楽 しみにしてい て 昨 年 は 金 婚 式 の 記 念 に 夫 婦 でヨーロッパ 旅 行 をしました ところが 帰 国 後 しばらくして 義 男 さんにガンがみつかり 医 師 に 余 命 6 ヶ 月 と 宣 告 されました 義 男 さんは 最 期 は 自 宅 で 家 族 に 看 取 られて 亡 くなり 長 男 の 達 也 さんは 弟 の 直 也 さんと 共 に 母 の 幸 子 さんを 助 けて 葬 儀 を 執 り 行 いました 葬 儀 から 3 ヶ 月 後 相 続 のことが 心 配 になった 達 也 さん ちょうど 都 内 で 開 催 され る 相 続 セミナーの 案 内 をみつけたので 参 加 してみることに 桜 井 家 = 被 相 続 人 父 母 義 男 幸 子 78 歳 で 死 亡 75 歳 = 相 続 人 長 男 二 男 達 也 直 也 48 歳 45 歳 1 / 6
私 ( 内 田 )が 相 続 セミナーの 講 演 を 終 えると 一 番 前 の 席 で 熱 心 に 聴 いていた 男 性 が 先 日 亡 くなった 父 の 相 続 のことでご 相 談 したいのですが と 話 しかけてこられました 数 日 後 達 也 さんと 母 親 の 幸 子 さんが 事 務 所 へ 相 談 にいらっしゃいました 亡 くなった 義 男 さんの 経 歴 に 続 いて 財 産 の 状 況 を 伺 うと 義 男 さん 名 義 の 財 産 は 東 京 都 内 の 自 宅 土 地 家 屋 のほかに 預 金 が 400 万 円 ほ どとのことです 亡 くなる 前 に 預 金 を 引 き 出 したら? お 父 様 のご 経 歴 に 比 べて 預 金 が 少 なすぎますね と 聞 くと 達 也 さんが 実 は 父 が 亡 くなる 前 に 1,000 万 円 を 引 き 出 して 実 家 の 金 庫 に 保 管 していたのです そのうち 葬 儀 費 用 に 200 万 円 と お 墓 の 購 入 費 用 とし て 300 万 円 を 使 いました とのこと 本 人 が 亡 くなると 預 金 口 座 は 凍 結 されて 入 出 金 ができなくなってしまいます 相 続 財 産 は 相 続 人 全 員 の 共 有 財 産 ですので 遺 産 分 割 が 決 まるまでは 相 続 人 のうち 誰 か 一 人 が 勝 手 に 預 金 を 引 き 出 すことは 原 則 として できません そうであれば 亡 くなる 前 に 引 き 出 してしまえと 思 うかもしれませんが 亡 くなる 前 に 銀 行 からあまり 多 額 の 現 金 を 引 き 出 すと かえって 相 続 財 産 を 把 握 するのが 煩 雑 になってしまいます 私 ( 内 田 )が 相 続 申 告 書 類 を 作 成 する 際 には 預 貯 金 については 亡 くなった 日 現 在 の 残 高 証 明 書 を 確 認 するだけではなく 過 去 5 年 分 ほどの 大 きな 入 出 金 も 通 帳 などで 確 認 するようにしています 達 也 さん 父 の 生 前 に 引 き 出 した 1,000 万 円 と 亡 くなってから 支 払 った 葬 儀 費 用 やお 墓 の 購 入 費 用 は 相 続 の 際 にどのような 扱 いになるのですか? 内 田 まず 1,000 万 円 については 手 許 現 金 として 相 続 財 産 に 含 める 必 要 があります その 上 で 葬 儀 費 用 200 万 円 については 相 続 財 産 から 控 除 できます お 墓 や 仏 壇 は 非 課 税 財 産 ですので 亡 くな る 前 に 購 入 したのならば 相 続 税 がかからないのですが 亡 くなった 後 に 買 ったということですので 残 念 ながら 相 続 財 産 から 差 し 引 くことはできません 妻 名 義 の 預 金 は 相 続 に 関 係 ない? 内 田 幸 子 さん 名 義 の 財 産 はどのくらいありますか? 幸 子 さん 株 式 と 投 資 信 託 が 約 4,000 万 円 あります 内 田 幸 子 さんは 結 婚 以 来 ずっと 専 業 主 婦 で 収 入 はありませんでしたね 幸 子 さんの 親 から 贈 与 や 相 続 でもらった 財 産 はありますか? 幸 子 さん ありません 両 親 の 財 産 は 実 家 を 継 いだ 兄 がすべて 相 続 しました 4,000 万 円 は 主 人 のお 給 料 2 / 6
と 退 職 金 をこれまでコツコツと 運 用 してきたものです 内 田 それでは 幸 子 さん 名 義 の 財 産 についても 実 質 的 には 義 男 さんの 財 産 として 相 続 財 産 に 含 めて 考 える 必 要 がありますね 幸 子 さん えっ そうなのですか?! 夫 名 義 の 財 産 だけが 相 続 税 の 対 象 になるのかと 思 っていました 相 続 財 産 については 誰 の 名 義 になっているかにかかわらず 実 質 的 に 誰 の 財 産 であるかで 判 断 します 税 務 調 査 で 申 告 漏 れとなるのが 多 いのは 家 族 名 義 の 金 融 資 産 ( 名 義 預 金 といいます)です 相 続 税 の 申 告 を した 人 すべてに 税 務 調 査 が 来 るわけではありませんが 調 査 がある 場 合 には 税 務 署 は 亡 くなった 本 人 名 義 の 資 産 はもちろんのこと 相 続 人 名 義 の 資 産 についても 事 前 に 綿 密 に 調 べてから 調 査 に 来 ます 相 続 税 の 申 告 をしていない 場 合 でも 申 告 が 必 要 と 思 われるケースでは 税 務 調 査 をすることもあります 子 供 名 義 にしておけば 贈 与 になる? 内 田 達 也 さんは これまでにお 父 様 やお 母 様 から 贈 与 を 受 けたことはありますか? 達 也 さん これまで 父 や 母 から 贈 与 を 受 けたことはありません 贈 与 税 の 申 告 をしたこともないです 幸 子 さん あの 実 は 達 也 と 直 也 には 内 緒 で 2 人 の 名 義 で 預 金 してきたものが 合 わせて 1,000 万 円 ほ どあるのです 息 子 たちが 困 ったときに 使 えばよいと 思 って 少 しずつ 貯 めてきたものです 通 帳 と 印 鑑 は 私 が 持 っています 達 也 さん えー お 母 さん 本 当 なの? 達 也 さんは 驚 いた 様 子 です 相 続 対 策 のつもりもあって 子 供 名 義 で 預 金 していたと 幸 子 さんは 言 いますが 残 念 ながら あげた つもり では 贈 与 にはならないのです あげる 人 ともらう 人 がお 互 いに あげますよ もらいますよ ということを 確 認 してはじめて 贈 与 になり ます 通 帳 と 印 鑑 を 幸 子 さんが 持 っていて お 子 さんたちがその 預 金 の 存 在 すら 知 らなかったということで すと 贈 与 したことにはならないのです 幸 子 さん それでは 子 供 たち 名 義 の 預 金 についてはどうなのるのですか? 内 田 お 子 さん 名 義 の 預 金 1,000 万 円 についても 実 質 的 には 義 男 さんの 財 産 として 相 続 財 産 に 含 めて 考 える 必 要 がありますね 正 しい 贈 与 と 申 告 を 預 貯 金 の 名 義 や 生 前 贈 与 について 勘 違 いをしていたために 相 続 税 の 申 告 をしなくてもよいと 思 い 込 んでし まったり 申 告 後 の 税 務 調 査 で 申 告 漏 れを 指 摘 され 相 続 税 が 追 加 でかかってしまったりという 話 を 聞 きま す 名 義 を 変 えただけでは 相 続 対 策 にはならないのです 正 しく 生 前 贈 与 して 必 要 な 場 合 には 贈 与 税 の 申 告 納 税 をすることが 大 切 です また 相 続 税 の 申 告 を 依 頼 する 税 理 士 には 過 去 の 贈 与 の 状 況 についても 正 確 に 伝 えましょう 3 / 6
< 相 続 税 申 告 の 要 否 ( 本 事 例 より)> 1) 正 味 遺 産 額 自 宅 土 地 5,000 万 円 自 宅 家 屋 300 万 円 義 男 名 義 の 預 金 400 万 円 手 許 現 金 1,000 万 円 幸 子 名 義 の 株 式 投 資 信 託 4,000 万 円 達 也 直 也 名 義 の 預 金 1,000 万 円 葬 式 費 用 200 万 円 小 計 1 億 1,500 万 円 A 小 規 模 宅 地 の 評 価 減 4,000 ( ) 万 円 差 引 7,500 万 円 B 自 宅 土 地 (200 平 米 妻 幸 子 が 相 続 ) 5,000 万 円 80%=4,000 万 円 2) 基 礎 控 除 額 5,000 万 円 +1,000 万 円 3 人 =8,000 万 円 3) 相 続 税 申 告 の 要 否 判 定 1 億 1,500 万 円 (A) > 基 礎 控 除 8,000 万 円 相 続 税 の 申 告 が 必 要 7,500 万 円 (B) 基 礎 控 除 8,000 万 円 相 続 税 はかからない 小 規 模 宅 地 の 評 価 減 の 特 例 の 適 用 を 受 けることにより 相 続 税 はかかりませんが 相 続 税 の 申 告 はする 必 要 があります <ワンポイント アドバイス> 贈 与 の 証 拠 を 残 すこと 贈 与 した 事 実 を 客 観 的 に 証 明 できる 証 拠 を 残 すことが 大 切 です 具 体 的 には 次 のようなことに 注 意 しましょう 1) 贈 与 の 都 度 贈 与 契 約 書 を 作 る 2) 現 金 ではなく 振 り 込 みで 贈 与 する 3) 通 帳 と 印 鑑 は 財 産 をもらう 人 が 管 理 する 4) 基 礎 控 除 額 110 万 円 を 超 えて 贈 与 を 受 けた 場 合 には 贈 与 税 の 申 告 納 税 をする 贈 与 税 を 払 ってでも 贈 与 したほうがトクになる 場 合 も 生 前 贈 与 は 早 く 始 めて 時 間 をかけて 少 しずつ 贈 与 することで 少 ない 税 負 担 で 多 くの 財 産 を 子 や 孫 へ 移 転 できます 相 続 税 が 高 い 税 率 でかかるほどの 財 産 がある 場 合 には 多 少 贈 与 税 を 払 ってでも 基 礎 控 除 額 年 間 110 万 円 を 超 えて 贈 与 しておくことで 将 来 の 相 続 税 が 大 幅 に 軽 減 される 場 合 があります 4 / 6
生 活 費 等 の 贈 与 は 非 課 税 扶 養 義 務 のある 者 に 必 要 な 都 度 生 活 費 又 は 教 育 費 に 充 てるために 贈 与 した 財 産 のうち 通 常 必 要 と 認 められ るものについては 贈 与 税 がかかりません お 墓 や 仏 壇 は 生 前 に 購 入 した 方 がトク お 墓 や 仏 壇 は 非 課 税 財 産 ですので 相 続 税 がかかりません 生 前 に 購 入 しておけば その 分 だけ 相 続 財 産 を 減 らすことができます < 相 続 の 基 礎 知 識 > 生 前 贈 与 の 2 つの 制 度 について 確 認 しておきましょう 暦 年 課 税 制 度 1 年 間 に 贈 与 を 受 けた 財 産 の 価 額 の 合 計 額 が 贈 与 税 の 基 礎 控 除 額 110 万 円 を 超 える 場 合 には その 超 える 部 分 の 金 額 に 対 して 10%~ 50%の 贈 与 税 がかかります 1 月 1 日 から 12 月 31 日 までに 贈 与 を 受 けた 財 産 に ついて 翌 年 3 月 15 日 までに 贈 与 税 の 申 告 と 納 税 をします なお 相 続 開 始 前 3 年 以 内 に 贈 与 を 受 けた 財 産 については 相 続 財 産 に 含 めて 相 続 税 を 計 算 し すでに 納 付 し た 贈 与 税 があれば 相 続 税 から 差 し 引 きます 相 続 時 精 算 課 税 制 度 65 歳 以 上 の 父 母 から 20 歳 以 上 の 子 ( 代 襲 相 続 人 である 孫 を 含 む)への 贈 与 については 累 計 で 2,500 万 円 までは 贈 与 した 時 に 贈 与 税 がかからないという 制 度 です 累 計 2,500 万 円 を 超 える 部 分 の 金 額 に 対 しては 一 律 20%の 贈 与 税 がかかります ただし 将 来 相 続 が 発 生 した 時 には たとえ 何 年 前 の 贈 与 であっても 相 続 時 精 算 課 税 制 度 により 贈 与 され た 財 産 を 含 めて 相 続 税 を 計 算 します すでに 納 付 した 贈 与 税 があれば 相 続 税 から 控 除 し 控 除 しきれない 場 合 には 還 付 されます なお 相 続 財 産 に 加 算 するのは 贈 与 時 の 価 額 です つまり 相 続 時 に 価 額 が 下 がっていれば 不 利 になり 価 額 が 上 がっていれば 有 利 になります この 制 度 は 贈 与 者 ごと かつ 受 贈 者 ごとに 選 択 することができます たとえば 1) 父 から 長 男 への 贈 与 は 相 続 時 精 算 課 税 制 度 を 選 択 2) 母 から 長 男 への 贈 与 は 暦 年 課 税 制 度 3) 父 母 から 二 男 への 贈 与 は 暦 年 課 税 制 度 ということも 可 能 です 5 / 6
この 制 度 の 適 用 を 受 ける 場 合 には 制 度 を 選 択 する 旨 の 届 出 書 を 税 務 署 へ 提 出 する 必 要 があります ただし 一 度 この 制 度 を 選 択 すると 暦 年 課 税 制 度 には 戻 れませんので 注 意 が 必 要 です 注 事 例 はフィクションです 本 稿 は 2013 年 9 月 1 日 現 在 の 税 制 に 基 づいています 今 後 の 税 制 改 正 により 制 度 が 変 わる 可 能 性 があります 実 際 の 運 用 に 際 しては 税 理 士 等 の 専 門 家 にご 相 談 ください 平 成 25 年 度 税 制 改 正 の 内 容 については 第 2 回 のレポートをご 覧 ください 相 続 時 精 算 課 税 制 度 については 第 9 回 のエッセーも 併 せてご 覧 ください 内 田 麻 由 子 / Mayuko Uchida 所 属 内 田 麻 由 子 会 計 事 務 所 代 表 税 理 士 一 般 社 団 法 人 日 本 想 続 協 会 代 表 理 事 略 歴 都 内 大 手 税 理 士 法 人 勤 務 を 経 て 2003 年 開 業 港 区 赤 坂 にて 相 続 資 産 税 に 特 化 した 税 理 士 事 務 所 を 経 営 2010 年 に 一 般 社 団 法 人 日 本 想 続 協 会 を 設 立 円 満 想 続 の3K~ 感 謝 絆 供 養 をスローガンに 財 産 の 相 続 と 心 の 相 続 ( 想 続 ) を 楽 しく 学 ぶ 想 続 塾 を 毎 月 主 催 エンディングノート 愛 する 家 族 へ 想 いを 伝 える 想 続 ノート も 好 評 税 理 士 として 相 続 事 業 承 継 対 策 税 務 申 告 で 多 くの 法 人 個 人 のお 客 様 へサービスを 提 供 するかたわら 相 続 税 務 会 計 に 関 するセミナー 研 修 講 師 の 実 績 多 数 楽 しくわかりやすい 講 演 に は 定 評 がある 著 書 ( 監 修 ) FP 知 識 シリーズ 相 続 贈 与 編 (セールス 手 帖 社 保 険 FPS 研 究 所 ) 6 / 6