民 法 ( 相 続 関 係 ) 部 会 資 料 8 遺 留 分 制 度 の 見 直 し 第 1 遺 留 分 減 殺 請 求 権 の 法 的 性 質 についての 見 直 し 甲 案 1 遺 留 分 を 侵 害 された 者 は, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 に 対 し, 相 当 の 期 間 を 定 めて, 遺 留 分 侵 害 額 に 相 当 する 金 銭 の 支 払 を 求 めることができる( 注 ) ( 注 ) 受 遺 者 又 は 受 贈 者 に 対 する 請 求 の 順 序 及 び 割 合 については,とりあえず 現 行 法 と 同 様 の 規 律 ( 民 法 第 1033 条 から 第 1035 条 まで)によることを 想 定 しているが, 後 記 第 2の 方 策 との 組 合 せによっては 現 行 法 の 規 律 とは 異 なり 得 る 2 受 遺 者 又 は 受 贈 者 は,1の 請 求 を 受 けた 場 合 には,その 請 求 者 に 対 し,1 の 金 銭 債 務 の 全 部 又 は 一 部 の 支 払 に 代 えて, 遺 贈 又 は 贈 与 の 目 的 財 産 の 一 部 を 返 還 する 旨 の 抗 弁 を 主 張 することができる ただし,5の 請 求 がされた 場 合 はこの 限 りでない 3 1で 定 めた 期 間 内 に1の 金 銭 債 務 の 全 部 又 は 一 部 について 履 行 がなかった ときは, 遺 留 分 を 侵 害 された 者 も,その 支 払 に 代 えて, 遺 贈 又 は 贈 与 の 目 的 財 産 の 一 部 を 返 還 するよう 請 求 することができる 4 2 及 び3によって 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 返 還 すべき 遺 贈 又 は 贈 与 の 目 的 財 産 について 当 事 者 間 に 協 議 が 調 わないときは, 裁 判 所 がこれを 定 める 5 1で 定 めた 期 間 内 に 履 行 がなかったときは, 遺 留 分 を 侵 害 された 者 は, 民 法 第 1033 条 から 第 1035 条 までの 規 定 に 従 い, 遺 贈 及 び 贈 与 の 減 殺 を 請 求 することができる ただし,2 又 は3の 請 求 がされたときはこの 限 りで ない 6 2から4までの 規 律 に 従 って 遺 贈 又 は 贈 与 の 目 的 財 産 が 返 還 されたとき は,1の 金 銭 債 務 は, 当 事 者 間 の 協 議 で 定 められた 額 又 は 裁 判 所 が 定 めた 額 の 限 度 で 消 滅 する 7 5による 減 殺 請 求 がされたときは,1の 金 銭 債 務 は 消 滅 する 乙 案 遺 留 分 を 侵 害 された 者 は, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 に 対 し, 遺 留 分 を 保 全 するの に 必 要 な 限 度 で 財 産 の 分 与 を 請 求 することができるが,その 具 体 的 な 権 利 は, 当 事 者 間 の 協 議 又 は 審 判 等 において 分 与 の 方 法 を 具 体 的 に 定 めることによっ て 初 めて 形 成 されるものとする 丙 案 1 相 続 人 でない 受 遺 者 又 は 受 贈 者 に 対 して 減 殺 請 求 をする 場 合 には, 甲 案 に よる 2 相 続 人 である 受 遺 者 又 は 受 贈 者 に 対 して 減 殺 請 求 をする 場 合 には, 乙 案 に 1
よる ( 補 足 説 明 ) 1 甲 案 について (1) 部 会 資 料 4からの 変 更 点 甲 案 は, 遺 留 分 減 殺 請 求 権 の 効 果 について, 遺 留 分 権 利 者 の 意 思 表 示 によ って 当 然 に 物 権 的 な 効 力 が 生 ずるとされている 点 を 改 め, 遺 留 分 権 利 者 が 取 得 する 権 利 を 原 則 として 金 銭 債 権 とするものである その 基 本 的 な 考 え 方 は, 部 会 資 料 4の 第 2 1の 甲 案 の 考 え 方 と 同 様 である もっとも, 第 4 回 部 会 においては,ア 遺 留 分 権 利 者 が 取 得 する 権 利 を 金 銭 債 権 化 することは 遺 留 分 権 利 者 の 地 位 を 弱 めることにつながるため,それに 対 する 手 当 てが 必 要 である,イ 例 外 的 に 現 物 返 還 を 認 める 場 合 には,その 要 件 及 び 効 果 を 明 確 にする 必 要 があり,また, 多 数 の 財 産 について 共 有 関 係 が 発 生 するなど 法 律 関 係 の 複 雑 化 を 招 くことがないよう 配 慮 すべきである,と いった 指 摘 がされた そこで,これらの 指 摘 を 踏 まえ, 次 のような 修 正 を 加 えた まず,アの 指 摘 を 踏 まえ, 遺 留 分 権 利 者 は, 相 当 の 期 間 を 定 めて 遺 留 分 侵 害 額 に 相 当 する 金 銭 の 支 払 を 求 めることができるが(1),その 期 間 内 に 履 行 がない 場 合 には, 金 銭 の 支 払 に 代 えて 現 物 返 還 を 求 めることができるものと している(5) これにより, 例 えば, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 について 破 産 手 続 開 始 決 定 がされた 場 合 でも, 現 物 返 還 を 求 めていれば 取 戻 権 を 行 使 することが できることになる 次 に,イの 指 摘 を 踏 まえ, 遺 留 分 権 利 者 又 は 受 遺 者 若 しくは 受 贈 者 は,そ のいずれの 側 からも, 遺 留 分 権 利 者 に 対 して 返 還 すべき 財 産 を, 一 部 金 銭, 一 部 現 物 とするよう 求 めることができることとし, 当 事 者 間 でその 内 容 につ いて 協 議 が 調 わない 場 合 には 裁 判 所 がこれを 定 めることとしている(2~ 4) これにより, 遺 留 分 権 利 者 と 受 遺 者 又 は 受 贈 者 との 間 で 代 物 弁 済 ( 民 法 第 482 条 )の 合 意 が 成 立 しない 場 合 であっても, 裁 判 所 の 裁 量 的 な 判 断 に よって 適 切 に 現 物 返 還 の 対 象 が 定 められることになる (2) 先 取 特 権 について 第 4 回 部 会 では, 遺 留 分 権 利 者 の 地 位 が 弱 められないような 手 当 てとして, 遺 留 分 権 利 者 に 遺 贈 又 は 贈 与 の 目 的 財 産 について 特 別 の 先 取 特 権 を 取 得 させ ることが 考 えられるとの 指 摘 がされた このような 規 律 を 設 ける 場 合 には, 例 えば, 遺 贈 又 は 贈 与 の 目 的 財 産 が 不 動 産 である 場 合 には, 遺 留 分 権 利 者 の 受 遺 者 又 は 受 贈 者 に 対 する 登 記 請 求 権 に 関 する 規 律 を 置 く 必 要 があるが,そのような 規 律 を 設 けたとしても,どの 程 度 実 効 的 なものとして 機 能 するか 疑 問 がある( 不 動 産 保 存 の 先 取 特 権 や 不 動 産 工 事 の 先 取 特 権 においても,その 効 力 を 保 存 するためには 登 記 が 必 要 と されているが,ほとんど 利 用 されていないといわれている ) そこで, 甲 案 2
では, 遺 留 分 権 利 者 に 特 別 の 先 取 特 権 を 取 得 させるのではなく, 一 定 の 期 間 内 に 金 銭 債 務 の 支 払 がされない 場 合 には, 現 行 法 と 同 様 に 現 物 返 還 を 求 める ことができることとしたものである (3) 現 物 返 還 の 対 象 について 現 物 返 還 の 対 象 については, 民 法 第 1033 条 から 第 1035 条 までの 規 定 に 従 って 減 殺 される 遺 贈 及 び 贈 与 の 目 的 財 産 とすることも 考 えられるが, そうすると, 複 数 の 財 産 についての 共 有 等 の 複 雑 な 法 律 関 係 が 生 ずるといっ た 事 態 を 避 けることができない このような 事 態 を 避 けるためには, 遺 留 分 権 利 者 と 受 遺 者 又 は 受 贈 者 のいずれか 一 方 に 現 物 返 還 の 対 象 についての 選 択 権 を 認 めることが 考 えられるところ, 部 会 資 料 4では 受 遺 者 又 は 受 贈 者 にの み 限 定 的 な 選 択 権 を 認 める 方 策 を 掲 げていたが, 第 4 回 部 会 では, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 にのみ 選 択 権 を 与 えることについて 消 極 的 な 意 見 が 多 かった また, 第 4 回 部 会 では, 複 数 の 財 産 についての 共 有 等 の 複 雑 な 法 律 関 係 ができるだ け 生 じないように 配 慮 すべきであるが, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 合 理 的 な 選 択 を するとは 限 らないといった 指 摘 もされた そこで, 甲 案 では,これらの 指 摘 を 踏 まえ, 遺 留 分 権 利 者 と 受 遺 者 又 は 受 贈 者 のいずれか 一 方 に 選 択 権 を 与 えることとはせずに, 最 終 的 には 裁 判 所 が 後 見 的 な 見 地 から 裁 量 権 を 行 使 することにより 現 物 返 還 の 範 囲 を 定 めること ができることとしている 具 体 的 には,まず, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 は,1の 金 銭 請 求 について,その 請 求 者 に 対 し,その 支 払 に 代 えて 遺 贈 又 は 贈 与 の 目 的 財 産 の 一 部 を 返 還 する 旨 の 抗 弁 を 主 張 することができ,1で 定 められた 期 間 内 に 金 銭 債 務 の 履 行 がない 場 合 には, 遺 留 分 権 利 者 も 同 様 の 請 求 をすること ができることとし( 注 1), 遺 留 分 権 利 者 に 返 還 すべき 財 産 について 当 事 者 間 に 協 議 が 調 わないときは, 裁 判 所 がこれを 定 めることとしている これによ り, 裁 判 所 は, 民 法 第 1033 条 から 第 1035 条 までの 規 定 に 従 って 減 殺 される 遺 贈 及 び 贈 与 の 目 的 財 産 からだけではなく, 遺 留 分 算 定 の 基 礎 となる 遺 贈 又 は 贈 与 の 目 的 財 産 の 中 から, 現 物 返 還 の 対 象 財 産 を 選 択 することがで きることとなり, 複 数 の 財 産 についての 共 有 等 の 複 雑 な 法 律 関 係 が 生 ずると いった 事 態 を 避 けることができる ( 注 ) 共 有 物 分 割 訴 訟 と 同 様 に, 地 方 裁 判 所 が 管 轄 する 形 成 の 訴 えとなることを 想 定 し ている この 考 え 方 を 採 用 する 場 合 には,この 訴 えにおいて, 前 提 となる 金 銭 債 権 の 額 を 確 定 させるなどの 工 夫 をすることが 必 要 になるものと 考 えられる (4) その 他 第 4 回 部 会 においては, 遺 留 分 に 関 する 事 件 ついては 調 停 前 置 主 義 を 採 用 すべきであるとの 指 摘 がされた この 点 については, 現 行 法 上 も 遺 留 分 に 関 する 事 件 については 調 停 前 置 主 義 が 妥 当 するところではあるが( 家 事 事 件 手 続 法 第 257 条, 第 244 条 ), 調 停 前 置 主 義 に 違 反 して 判 決 がされても, その 効 力 に 影 響 はないと 解 されていることから, 更 に 強 制 力 を 持 たせるよう な 形 で 規 律 することも 考 えられなくはない しかし, 遺 留 分 に 関 する 事 件 に 3
ついてのみ,より 強 力 な 形 での 調 停 前 置 主 義 を 採 用 することについては, 合 理 的 な 説 明 をすることは 困 難 であると 考 えられる また, 遺 留 分 に 関 する 事 件 については, 複 雑 な 法 律 上 の 争 点 が 複 数 存 在 することも 想 定 されることか ら, 家 事 調 停 の 手 続 を 経 ることによってかえって 紛 争 の 解 決 が 長 期 化 する 事 案 もあり 得 なくはないように 思 われる 2 乙 案 について 乙 案 については, 部 会 資 料 4から 変 更 した 点 はない 乙 案 については, 第 4 回 部 会 において, 民 事 保 全 手 続 を 利 用 することができ なくなる, 既 判 力 が 生 じない, 主 位 的 に 遺 言 無 効 確 認, 予 備 的 に 遺 留 分 減 殺 請 求 といった 訴 えを 提 起 することができなくなるなどの 問 題 点 が 指 摘 されたとこ ろである 仮 にこれらの 問 題 点 を 解 消 しようとすれば, 乙 案 を 採 用 する 場 合 にも,その 手 続 は 訴 訟 手 続 によるものとするほかはないと 考 えられるが, 乙 案 は, 遺 留 分 権 利 者 に 返 還 する 財 産 の 内 容 を 裁 判 所 の 裁 量 的 判 断 によって 決 めるとすること に 特 徴 があり,その 意 味 では 非 訟 的 な 要 素 が 強 いため, 訴 訟 手 続 による 解 決 が 適 切 といえるか 疑 問 もある 最 終 的 には, 乙 案 を 採 用 することによるメリット と 上 記 の 問 題 点 等 を 勘 案 して 判 断 するしかないものと 考 えられる なお, 乙 案 においても, 甲 案 と 同 様 に,より 強 力 な 形 での 調 停 前 置 主 義 を 採 用 することは 困 難 であると 考 えられるが, 家 事 審 判 事 件 となることから,より 積 極 的 に 付 調 停 ( 家 事 事 件 手 続 法 第 274 条 )が 活 用 されることを 期 待 するこ とができる 3 丙 案 について 第 4 回 部 会 においては, 乙 案 について 前 記 のような 問 題 点 が 指 摘 されたが, 他 方 で, 相 続 人 間 における 遺 留 分 減 殺 請 求 の 場 合 に 限 ればメリットがあるとい った 指 摘 や, 相 手 が 相 続 人 であるかそれ 以 外 の 第 三 者 であるかに 応 じて 手 続 を 変 えることも 考 えられるのではないかといった 指 摘 がされた 丙 案 は,これらの 指 摘 を 踏 まえ, 相 続 人 でない 受 遺 者 又 は 受 贈 者 に 対 する 減 殺 の 請 求 については 甲 案 により, 相 続 人 である 受 遺 者 又 は 受 贈 者 に 対 する 減 殺 の 請 求 については 乙 案 によるとするものである 第 2 遺 留 分 の 算 定 方 法 等 の 見 直 し 1 A 案 ( 相 続 人 に 対 する 請 求 と 第 三 者 に 対 する 請 求 とを 分 ける 考 え 方 ) Ⅰ 第 三 者 に 対 する 請 求 1 遺 留 分 権 利 者 は, 相 続 人 以 外 の 第 三 者 に 対 しては, 以 下 の 計 算 式 によって 算 出 された 額 (ウの 額 )を 遺 留 分 侵 害 額 として 主 張 することができる ( 計 算 式 ) ア 遺 留 分 算 定 の 基 礎 となる 財 産 の 額 =( 被 相 続 人 が 相 続 開 始 時 に 有 していた 財 産 の 価 額 ) +( 相 続 開 始 前 1 年 間 にされた 贈 与 の 目 的 財 産 の 価 額 ) 4
-( 相 続 債 務 の 額 ) イ 個 別 的 遺 留 分 額 = アの 額 ( 個 別 的 遺 留 分 の 割 合 ) ウ 遺 留 分 侵 害 額 = イの 額 -( 遺 留 分 権 利 者 が 被 相 続 人 から 遺 贈 又 は 贈 与 を 受 けた 財 産 の 額 ) -( 民 法 第 903 条 の 規 定 によって 算 定 した 相 続 分 の 額 )( 注 1) -(Ⅱ3の 遺 留 分 侵 害 額 )( 注 2) +( 遺 留 分 権 利 者 が 負 担 する 相 続 債 務 の 額 ) ( 注 1)いわゆる 具 体 的 相 続 分 とほぼ 同 義 であるが,ここでは 寄 与 分 による 修 正 は 考 慮 しない( 持 戻 し 免 除 の 意 思 表 示 は 考 慮 する ) なお, 相 続 人 間 でこれとは 異 なる 内 容 の 遺 産 分 割 協 議 又 は 調 停 等 が 成 立 した 場 合 であっても, 遺 留 分 侵 害 額 の 算 定 には 影 響 しない ( 注 2) 実 際 に, 相 続 人 に 対 して 請 求 したか 否 か, 請 求 した 場 合 にその 額 がいくらであ ったのかについては 問 わない 2 相 続 人 以 外 の 第 三 者 は, 遺 留 分 権 利 者 に 対 し, 民 法 第 1033 条 から 第 1 035 条 までと 同 様 の 規 律 に 従 い,1の 遺 留 分 侵 害 額 について 責 任 を 負 う Ⅱ 相 続 人 に 対 する 請 求 3 遺 留 分 権 利 者 は, 他 の 相 続 人 に 対 しては, 以 下 の 計 算 式 によって 算 出 され た 額 (ウの 額 )を 遺 留 分 侵 害 額 として 主 張 することができる ( 計 算 式 ) ア 遺 留 分 算 定 の 基 礎 となる 財 産 の 額 =( 遺 産 分 割 におけるみなし 相 続 財 産 の 額 ) -( 相 続 債 務 の 額 ) =( 被 相 続 人 が 相 続 開 始 時 に 有 していた 財 産 の 価 額 )( 注 3) +( 特 別 受 益 の 価 額 ) -( 相 続 債 務 の 額 ) イ 個 別 的 遺 留 分 額 = アの 額 ( 個 別 的 遺 留 分 の 割 合 ) ウ 遺 留 分 侵 害 額 = イの 額 -( 遺 留 分 権 利 者 が 被 相 続 人 から 遺 贈 又 は 贈 与 を 受 けた 財 産 の 額 ) -( 民 法 第 903 条 の 規 定 によって 算 定 した 相 続 分 の 額 ) +( 遺 留 分 権 利 者 が 負 担 する 相 続 債 務 の 額 ) ( 注 3) 第 三 者 に 対 する 遺 贈 の 目 的 財 産 の 価 額 を 除 く 4 他 の 相 続 人 は, 遺 留 分 権 利 者 に 対 し, 以 下 の 計 算 式 によって 算 出 された 額 ( 法 定 相 続 分 超 過 額 )の 割 合 に 応 じて,3の 遺 留 分 侵 害 額 について 責 任 を 負 う 法 定 相 続 分 超 過 額 5
=( 当 該 相 続 人 が 受 けた 遺 贈 又 は 贈 与 の 額 ) (1- 当 該 相 続 人 の 法 定 相 続 分 ) 2 B 案 ( 遺 留 分 減 殺 請 求 によって 遺 贈 等 の 目 的 財 産 が 遺 産 に 復 帰 するものとし, 相 続 人 間 の 取 得 額 の 調 整 は 遺 産 分 割 手 続 によって 行 うこととする 考 え 方 ) Ⅰ 遺 留 分 減 殺 請 求 の 効 果 等 の 見 直 し 1 遺 留 分 権 利 者 の( 総 体 的 ) 遺 留 分 侵 害 額 は, 以 下 の 計 算 式 によって 算 出 された 額 (ウの 額 )とする ( 計 算 式 ) ア 遺 留 分 算 定 の 基 礎 となる 財 産 の 額 =( 被 相 続 人 が 相 続 開 始 時 に 有 していた 財 産 の 価 額 ) +( 相 続 開 始 前 1 年 間 にされた 贈 与 の 目 的 財 産 の 価 額 ) -( 相 続 債 務 ) イ ( 総 体 的 ) 遺 留 分 額 = アの 額 ( 総 体 的 遺 留 分 の 割 合 )( 注 1) ウ ( 総 体 的 ) 遺 留 分 侵 害 額 = イの 額 +( 相 続 債 務 の 額 ) -( 遺 産 分 割 の 対 象 財 産 の 額 ) -( 相 続 人 が 受 けた 遺 贈 又 は 贈 与 の 額 ) ( 当 該 相 続 人 の 法 定 相 続 分 ) ( 注 1) 現 行 の 総 体 的 遺 留 分 の 割 合 ( 民 法 第 1028 条 )と 同 じものを 想 定 しており, 直 系 尊 属 のみが 相 続 人 である 場 合 を 除 き,2 分 の1となる 2 遺 留 分 権 利 者 が 受 遺 者 又 は 受 贈 者 に 対 して 遺 留 分 減 殺 請 求 をした 場 合 に は, 当 該 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 受 けた 遺 贈 又 は 贈 与 のうち1の 遺 留 分 侵 害 額 に 相 当 する 部 分 は 無 効 となり, 遺 産 に 復 帰 する( 注 2) ( 注 2)2では, 現 行 法 と 同 様, 遺 留 分 減 殺 請 求 によって 物 権 的 効 果 が 生 ずることを 前 提 としているが,ここでも, 遺 留 分 権 利 者 が 取 得 する 権 利 を 金 銭 債 権 とし,そ の 価 値 相 当 額 を 返 還 させることとすることも 考 えられる 3 減 殺 の 順 序 及 び 割 合 については, 現 行 法 と 同 様 の 規 律 ( 民 法 第 1033 条 から 第 1035 条 まで)による 4 2によって 復 帰 した 遺 産 は, 遺 産 分 割 によってこれを 分 割 する(この 場 合 における 具 体 的 相 続 分 の 算 定 方 法 は 現 行 法 に 同 じ) Ⅱ 相 続 人 間 における 具 体 的 相 続 分 の 調 整 5 遺 留 分 権 利 者 が 被 相 続 人 から 取 得 した 財 産 の 額 ( 注 3)が 以 下 の 計 算 式 に よって 算 出 された 額 (イの 額 以 下 最 低 限 相 続 分 額 という )に 達 しな い 場 合 には, 遺 留 分 権 利 者 は, 遺 産 分 割 ( 注 4)において, 他 の 相 続 人 に 対 し,その 差 額 の 支 払 又 はこれに 相 当 する 財 産 の 返 還 を 求 めることができる ( 計 算 式 ) ア 遺 産 分 割 におけるみなし 相 続 財 産 の 額 6
=( 被 相 続 人 が 相 続 開 始 時 に 有 していた 財 産 の 価 額 )( 注 5)+( 特 別 受 益 の 額 ) イ 最 低 限 相 続 分 額 = アの 額 ( 法 定 相 続 分 ) 1/2( 注 6) ( 注 3)ここでの 遺 留 分 権 利 者 が 被 相 続 人 から 取 得 した 財 産 の 額 は, 遺 留 分 権 利 者 が 遺 産 分 割 (1によるものを 含 む )によって 取 得 すべき 財 産 の 評 価 額 + 当 該 遺 留 分 権 利 者 が 被 相 続 人 から 遺 贈 又 は 贈 与 を 受 けた 財 産 の 評 価 額 ( 特 別 受 益 の 額 ) の 合 計 額 をいう ( 注 4) 一 部 分 割 がされた 場 合 には, 残 部 についての 遺 産 分 割 ( 最 終 の 遺 産 分 割 )に おいて,Ⅱ1の 請 求 を 認 めることを 想 定 している また,この 額 等 について 当 事 者 間 に 争 いがあり, 遺 産 分 割 協 議 が 成 立 しない 場 合 には, 家 庭 裁 判 所 が 遺 産 分 割 の 審 判 の 中 で,これを 定 めることを 想 定 している ( 注 5) 第 三 者 に 対 する 遺 贈 の 目 的 財 産 の 価 額 を 除 く また,Ⅰにより 遺 産 に 復 帰 し た 財 産 がある 場 合 には,その 額 を 加 算 する 必 要 がある ( 注 6)この 割 合 は, 現 行 の 総 体 的 遺 留 分 と 同 じ 割 合 ( 民 法 第 1028 条 )にするこ とを 想 定 しており, 原 則 として2 分 の1となるが, 直 系 尊 属 のみが 相 続 人 である 場 合 には3 分 の1となる 6 5の 場 合 には, 他 の 相 続 人 は, 遺 留 分 権 利 者 に 対 し, 以 下 の 計 算 式 によ って 算 出 された 額 ( 法 定 相 続 分 超 過 額 )の 割 合 に 応 じて,5の 差 額 につい て 責 任 を 負 う 法 定 相 続 分 超 過 額 =( 当 該 相 続 人 が 受 けた 遺 贈 又 は 贈 与 の 額 ) (1- 当 該 相 続 人 の 法 定 相 続 分 ) ( 補 足 説 明 ) 1 A 案 とB 案 の 概 要 について A 案 とB 案 は,いずれも 遺 留 分 の 算 定 方 法 を 見 直 すことによって, 遺 留 分 に 関 する 紛 争 を 合 理 的 に 解 決 しようとするものであるが,その 方 向 性 が 異 なる すなわち,A 案 は, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 第 三 者 である 場 合 と 相 続 人 である 場 合 とを 区 別 しようとするものであるのに 対 し,B 案 は, 総 体 的 遺 留 分 を 侵 害 する 財 産 を 遺 産 に 復 帰 させた 上 で, 遺 産 分 割 の 手 続 において 相 続 人 間 の 調 整 を 図 る というものである また,A 案 とB 案 の 特 徴 を 簡 潔 に 掲 げるとすると,まず,A 案 は, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 第 三 者 である 場 合 と 相 続 人 である 場 合 とで 完 全 に 分 離 することがで きるものの, 遺 留 分 の 算 定 方 法 が 複 雑 となる 点 が 難 点 である 次 に,B 案 は, 遺 留 分 の 算 定 方 法 が 現 行 法 よりも 簡 易 なものとなり, 予 測 可 能 性 が 高 まるもの の, 遺 留 分 減 殺 請 求 によって 遺 産 に 復 帰 した 財 産 について 別 途 遺 産 分 割 の 手 続 が 必 要 となるため, 遺 留 分 に 関 する 事 件 と 遺 産 分 割 事 件 とを 同 一 の 手 続 におい て 合 理 的 に 解 決 することができるかという 点 が 課 題 となる 7
A 案 及 びB 案 における 技 術 的 な 問 題 点 については, 様 々なものが 考 えられる ところであるが,まずは 大 まかな 方 向 性 を 検 討 すべく, 本 資 料 においては 詳 細 な 点 は 割 愛 している 2 A 案 について (1) 部 会 資 料 4からの 変 更 点 部 会 資 料 4 第 3の2の 方 策 ( 以 下 前 回 案 という )は, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 相 続 人 である 場 合 と 第 三 者 である 場 合 とでは 問 題 状 況 が 異 なるという 問 題 意 識 に 基 づくものであったが, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 相 続 人 である 場 合 と 第 三 者 である 場 合 とで 規 律 を 完 全 に 分 けていないものであった この 点 につい て, 第 4 回 部 会 では, 複 数 の 委 員 から, 前 回 案 では 受 遺 者 又 は 受 贈 者 に 相 続 人 と 第 三 者 の 双 方 が 含 まれる 場 合 の 規 律 が 複 雑 となり, 分 かりにくい 制 度 と なるため, 両 者 を 完 全 に 分 けて 規 律 することを 検 討 すべきであるとの 指 摘 が された A 案 は,これらの 指 摘 を 踏 まえ, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 相 続 人 である 場 合 と 第 三 者 である 場 合 とを 完 全 に 分 けて 規 律 することとしたものである 部 会 資 料 4からの 主 な 変 更 点 は, 次 のとおりである まず,A 案 のⅠは, 前 回 案 のⅠとほぼ 同 様 の 算 定 方 法 を 採 用 しているもの であるが,その 対 象 を 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 第 三 者 である 場 合 に 限 定 するとと もに,Ⅰの 遺 留 分 侵 害 額 (Ⅰ1)を 算 定 するに 当 たり,Ⅰの 個 別 的 遺 留 分 額 (Ⅰ1)からⅡの 遺 留 分 侵 害 額 ( 注 1)を 控 除 することとしている これによ り, 両 制 度 をそれぞれ 独 立 した 制 度 とすることが 可 能 となる 次 に,A 案 のⅡは, 前 回 案 のⅡとほぼ 同 様 の 算 定 方 法 を 採 用 しているもの であるが, 現 行 法 と 同 様, 相 続 債 務 を 考 慮 することとしている これにより, 前 回 案 のⅡの 問 題 点 ( 注 2)を 克 服 することができ( 注 3),その 結 果, 相 続 人 間 の 紛 争 については,A 案 のⅡの 中 で 完 結 することが 可 能 となる ( 注 1)A 案 のⅡ1の 遺 留 分 侵 害 額 は, 被 相 続 人 が 相 続 開 始 の 時 において 有 していた 財 産 や 贈 与 した 財 産 の 価 額 及 び 債 務 の 額 が 確 定 すれば 客 観 的 に 算 定 することが 可 能 である ( 注 2) 前 回 案 のⅡでは, 相 続 開 始 時 に 積 極 財 産 の 額 が 消 極 財 産 の 額 を 上 回 る 状 態 ( 資 産 超 過 の 状 態 )にある 場 合 でも, 遺 留 分 侵 害 額 の 算 定 において 相 続 債 務 が 考 慮 され ない 結 果, 遺 留 分 権 利 者 が 法 定 相 続 分 の 割 合 によってその 負 担 する 債 務 を 弁 済 する と,その 弁 済 額 が 遺 留 分 額 を 上 回 る 事 態 が 生 じ 得 ることになる ため,そのような 事 態 を 回 避 するため, 相 続 債 務 を 考 慮 する 前 回 案 のⅠについては, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 第 三 者 である 場 合 だけでなく, 相 続 人 である 場 合 も 適 用 されることとしていた しかし,A 案 のⅡのように, 相 続 債 務 を 考 慮 することとすれば, 上 記 のような 事 態 は 生 じないことになるため,その 結 果, 相 続 人 間 の 遺 留 分 と 第 三 者 との 関 係 を 分 離 することが 可 能 になるものと 考 えられる ( 注 3) 前 回 案 のⅡの 問 題 点 を 克 服 するためには, 相 続 人 間 の 遺 留 分 においても 相 続 債 務 について 一 定 の 配 慮 をしなければならないと 考 えられるところ,その 具 体 的 8
な 方 法 としては,A 案 のⅡで 記 載 した 以 外 にも 考 えられる 別 案 としては, 遺 留 分 による 調 整 後 のみなし 相 続 財 産 の 最 終 的 な 取 得 額 に 応 じて 相 続 債 務 の 内 部 負 担 割 合 が 定 まるという 考 え 方 を 採 用 した 場 合 にも, 前 回 案 のⅡの 問 題 点 を 克 服 する ことができる この 考 え 方 は, 積 極 財 産 の 取 得 割 合 に 応 じて 消 極 財 産 の 負 担 割 合 を 定 めるというものであり, 相 続 人 間 の 公 平 に 資 するものと 考 えられるが, 他 方 で, 相 続 人 間 の 求 償 問 題 を 頻 発 させることになるという 難 点 がある (2) Ⅰの 制 度 ( 第 三 者 に 対 する 請 求 )について ア 特 別 受 益 について 相 続 人 に 対 する 特 別 受 益 については, 判 例 上, 民 法 第 1030 条 は 適 用 されないこととされており( 最 高 裁 平 成 10 年 3 月 24 日 判 決 民 集 52 巻 2 号 433 頁 ), 原 則 として 何 十 年 も 前 の 特 別 受 益 であっても 遺 留 分 算 定 の 基 礎 となる 財 産 になると 解 されている しかし, 少 なくとも 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 第 三 者 である 場 合 には, 自 らの 知 り 得 ない 特 別 受 益 の 存 在 によっ て, 予 想 を 超 える 遺 留 分 減 殺 請 求 を 受 けるといったことにもなりかねず, そのような 結 論 は, 遺 贈 又 は 贈 与 の 無 償 性 を 考 慮 してもなおその 合 理 性 に は 疑 問 が 残 るところである そこで,A 案 のⅠでは, 前 回 案 と 同 様, 相 続 人 に 対 する 特 別 受 益 につい ても 民 法 第 1030 条 前 段 が 適 用 されることとしている( 注 ) ( 注 ) 遺 留 分 算 定 の 基 礎 となる 財 産 (Ⅰの 制 度 )に 含 まれる 生 前 贈 与 を 相 続 開 始 前 1 年 間 のものに 限 定 した 理 由 は, 以 下 のとおりである 現 行 の 民 法 第 1030 条 に 規 定 する 当 事 者 双 方 が 遺 留 分 権 利 者 に 損 害 を 加 えることを 知 って という 要 件 について, 判 例 は, 加 害 の 認 識 で 足 りるとしつ つ, 当 事 者 双 方 が 相 続 開 始 時 までに 財 産 の 増 加 がないことを 予 見 していたこと が 必 要 であるとしているが( 大 判 昭 和 11 年 6 月 17 日 民 集 15 巻 1246 頁 ), このような 判 例 の 立 場 を 前 提 にすると,1 年 以 上 前 の 贈 与 が 遺 留 分 算 定 の 基 礎 となる 財 産 に 含 まれる 事 案 はかなり 限 定 されるものと 考 えられ,このような 要 件 を 設 ける 意 義 はさほど 大 きくないと 考 えられる 他 方, 受 贈 者 としては, 民 法 第 1030 条 後 段 の 規 定 があることにより, 贈 与 を 受 けた 後 1 年 が 経 過 してもその 目 的 財 産 の 帰 属 が 確 定 しないことになる そして, 遺 留 分 減 殺 請 求 権 の 行 使 期 間 の 始 期 は 遺 留 分 権 利 者 の 主 観 面 によって 左 右 されるため( 民 法 第 1042 条 ), 結 局 のところ, 受 贈 者 は,いつの 時 点 で 贈 与 の 目 的 財 産 を 確 定 的 に 取 得 できるかはっきりせず, 法 的 に 不 安 定 な 地 位 に 置 かれることになる さらに, 現 行 法 上 は, 前 記 判 例 があるために, 相 続 人 に 対 する 贈 与 が 民 法 第 1030 条 後 段 に 該 当 するか 否 かを 争 う 実 益 はないが,Ⅰの 規 律 についてこれ と 同 趣 旨 の 規 律 を 設 けると, 相 続 人 に 対 する 贈 与 がこの 要 件 に 該 当 するか 否 か を 争 う 意 義 が 大 きくなり,これによって 紛 争 が 増 えるおそれがある A 案 では,これらの 点 を 考 慮 して, 遺 留 分 算 定 の 基 礎 となる 財 産 (Ⅰの 制 度 ) に 含 まれる 生 前 贈 与 を 相 続 開 始 前 1 年 間 のものに 限 定 することとしたものであ 9
る イ 算 定 上 の 問 題 点 について Ⅰの 制 度 によった 場 合 には,Ⅰの 遺 留 分 侵 害 額 の 算 定 に 当 たり,Ⅱの 遺 留 分 侵 害 額 を 控 除 することとなるが,この 額 は,その 前 提 となる 財 産 関 係 ( 被 相 続 人 が 相 続 開 始 の 時 において 有 していた 財 産 や 贈 与 した 財 産 の 価 額 及 び 債 務 の 額 )が 確 定 すれば 客 観 的 に 算 定 することができるところ,その 前 提 となる 財 産 関 係 については, 現 行 法 上 においても 確 定 しなければなら ない 事 項 である したがって,A 案 を 採 用 したからといって, 現 行 の 規 律 と 比 較 して 遺 留 分 の 算 定 が 困 難 になるというわけではない (3) Ⅱの 制 度 ( 相 続 人 に 対 する 請 求 )について ア 遺 産 分 割 との 関 係 について Ⅱの 遺 留 分 については, 遺 留 分 算 定 の 基 礎 となる 財 産 を 遺 産 分 割 におけ るみなし 相 続 財 産 と 同 じにしているため(ただし, 遺 留 分 において 相 続 債 務 を 考 慮 するという 点 は 異 なる ), 第 1の 乙 案 と 組 み 合 わせることにより, 遺 留 分 を 遺 産 分 割 と 同 一 の 手 続 で 処 理 することが 可 能 となる Ⅱの 制 度 は, みなし 相 続 財 産 を 基 礎 として 遺 留 分 を 算 定 するものであることから, 遺 産 分 割 に 関 する 手 続 及 び 遺 留 分 に 関 する 手 続 の 両 者 を 経 ることによって,み なし 相 続 財 産 全 体 に 対 する 各 相 続 人 の 承 継 割 合 が 定 まることになる した がって,Ⅱの 制 度 については, 家 事 審 判 事 項 とすることがより 自 然 である と 考 えられる もっとも, 事 案 によっては, 遺 産 分 割 と 遺 留 分 を 同 一 の 手 続 で 処 理 する ことによってかえって 紛 争 が 複 雑 化 することも 考 えられることから, 両 手 続 の 併 合 を 必 要 的 なものとすることについては 慎 重 な 検 討 を 要 するもの と 考 えられる イ 寄 与 分 との 関 係 について A 案 では, 相 続 人 間 の 遺 留 分 は, 寄 与 分 に 影 響 を 受 けないものとしてい る これは, 寄 与 分 による 貢 献 よりも 最 低 限 保 証 すべき 遺 留 分 を 優 先 させ るという 価 値 判 断 に 基 づくものである この 考 え 方 によると, 寄 与 分 は, 現 行 法 と 同 様, 被 相 続 人 が 相 続 開 始 の 時 において 有 した 財 産 の 価 額 から 遺 贈 の 価 額 を 控 除 した 残 額 を 超 えては 認 められず, 遺 産 分 割 における 具 体 的 相 続 分 を 修 正 するという 以 上 の 意 味 を 持 たないことになる これに 対 して, 寄 与 分 による 貢 献 を 相 続 人 間 の 遺 留 分 に 優 先 させるとい う 考 え 方 もあり 得 る その 場 合 には,みなし 相 続 財 産 又 は 被 相 続 人 が 相 続 開 始 の 時 において 有 した 財 産 ( 遺 贈 された 財 産 も 含 む )の 中 から 寄 与 分 を 認 定 し,そこから 寄 与 分 を 控 除 した 上 で,その 残 額 について 遺 留 分 等 を 検 討 することになる ただし,その 場 合 であっても, 第 三 者 に 対 する 遺 留 分 を 検 討 する 際 には, 手 続 上, 寄 与 分 はないものとして 算 定 せざるを 得 な いものと 考 えられる(そのようにしないと, 第 三 者 に 対 する 遺 留 分 の 手 続 を 独 立 したものとすることができなくなる ) 10
(4) 前 記 第 1の 考 え 方 との 関 係 A 案 を 採 った 場 合 には, 前 記 第 1の 甲 案, 乙 案 及 び 丙 案 のいずれの 考 え 方 とも 組 み 合 わせることが 可 能 であるが,A 案 は, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 相 続 人 である 場 合 と, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 第 三 者 である 場 合 とで 規 律 を 変 えるもの であるため, 丙 案 とより 親 和 性 があると 考 えられる A 案 と 丙 案 を 組 み 合 わ せた 場 合 には, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 第 三 者 である 場 合 には 地 方 裁 判 所 におけ る 民 事 訴 訟 手 続 でこれを 取 り 扱 い, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 相 続 人 である 場 合 に は 家 庭 裁 判 所 における 家 事 事 件 手 続 でこれを 取 り 扱 うことが 可 能 であるため, 手 続 的 な 問 題 は 少 ない 3 B 案 について (1) 部 会 資 料 4からの 変 更 点 現 行 の 遺 留 分 制 度 は, 相 続 財 産 等 の 一 定 割 合 を 遺 留 分 権 利 者 に 留 保 する 制 度 であるが, 総 体 的 遺 留 分 は 被 相 続 人 が 相 続 開 始 の 時 において 有 した 財 産 の 価 額 にその 贈 与 した 財 産 の 価 額 を 加 えた 額 から 債 務 の 全 額 を 控 除 して,こ れを 算 定 する こととされている( 民 法 第 1029 条 第 1 項 ) したがって, 現 行 の 遺 留 分 制 度 は, 相 続 財 産 等 の 純 資 産 額 ( 積 極 財 産 から 相 続 債 務 を 控 除 した 残 額 )の 一 定 割 合 を 遺 留 分 権 利 者 に 留 保 する 制 度 ということになる 他 方, 前 記 のとおり, 判 例 上, 受 贈 者 が 相 続 人 である 場 合 には, 民 法 第 1 030 条 の 規 定 は 適 用 されないこととされているが,これは,このような 解 釈 をとらないと, 各 相 続 人 が 被 相 続 人 から 受 け 取 った 財 産 の 額 に 極 めて 大 き な 格 差 がある 場 合 にも, 特 別 受 益 の 時 期 如 何 によってはこれを 是 正 すること ができなくなること 等 を 考 慮 したものであると 考 えられる このように, 現 行 の 遺 留 分 制 度 は, 遺 留 分 権 利 者 に 相 続 財 産 等 の 純 資 産 額 の 一 定 割 合 に 相 当 する 財 産 を 留 保 するという 要 請 と, 被 相 続 人 から 受 領 した 財 産 額 に 関 する 相 続 人 間 の 不 平 等 を 是 正 するという 要 請 を 実 現 するためのも のと 考 えられるが,これらの 要 請 は, 全 く 別 の 観 点 に 基 づくものであり,こ れを 同 一 の 制 度 の 中 で 実 現 しようとしているために, 判 例 による 規 律 の 補 充 が 各 所 で 必 要 となるなど, 部 会 資 料 4の 第 1 1に 記 載 したような 問 題 が 生 じているのではないかと 思 われる そこで,B 案 は, 前 記 2つの 要 請 を 別 の 制 度 において 実 現 するという 前 回 案 を 前 提 としつつ,その 効 果 についても, 前 記 2つの 要 請 を 端 的 に 実 現 する ことを 意 図 したものである すなわち,Ⅰの 制 度 は, 遺 留 分 権 利 者 に 相 続 財 産 等 の 純 資 産 額 の 一 定 割 合 に 相 当 する 財 産 を 確 保 させるという 前 者 の 要 請 に 対 応 することを 目 的 とするものであるが,その 効 果 については, 総 体 的 遺 留 分 を 侵 害 する 部 分 を 無 効 として,これを 遺 産 に 復 帰 させることに 留 めるもの であり, 遺 産 に 復 帰 した 財 産 の 分 配 については, 通 常 の 遺 産 分 割 において 処 理 することとするものである 他 方,Ⅱの 制 度 は, 遺 留 分 権 利 者 が 被 相 続 人 から 取 得 した 財 産 の 額 がその 具 体 的 相 続 分 額 の2 分 の1( 注 )に 満 たない 場 合 に,その 差 額 の 取 戻 しを 認 めるものである 11
( 注 )ここでの 具 体 的 相 続 分 額 は, 民 法 第 903 条 第 1 項 に 規 定 する 相 続 分 を 意 味 し, 相 続 人 の 中 にいわゆる 超 過 特 別 受 益 がある 者 がいる 場 合 には, 超 過 特 別 受 益 による 調 整 前 のものをいう また,ここでの 2 分 の1 は, 厳 密 には, 現 行 の 総 体 的 遺 留 分 の 割 合 を 意 味 するものとして 用 いており, 直 系 尊 属 のみが 相 続 人 であ る 場 合 には 3 分 の1 となる (2) Ⅰの 制 度 について ア 請 求 権 者 現 行 の 遺 留 分 制 度 では, 遺 留 分 権 利 者 のうち, 現 にその 遺 留 分 ( 個 別 的 遺 留 分 )を 侵 害 された 者 のみが 請 求 権 者 となるが,Ⅰの 制 度 は, 現 行 制 度 とは 異 なり, 総 体 的 遺 留 分 に 相 当 する 財 産 を 遺 留 分 権 利 者 全 員 のために 確 保 する 制 度 であるため, 遺 留 分 権 利 者 ( 兄 弟 姉 妹 以 外 の 相 続 人 )であれば 誰 でも, 保 存 行 為 として,Ⅰの 請 求 をすることができることとしている このため, 現 行 の 遺 留 分 制 度 よりも 請 求 権 者 の 範 囲 が 広 がることになる が,Ⅰの 制 度 によって 遺 産 に 復 帰 した 財 産 は,その 後 に 行 われる 遺 産 分 割 手 続 では, 特 別 受 益 の 額 が 少 ない 相 続 人 に 分 配 されることになるため, 実 際 には,この 請 求 をする 者 の 多 くは 特 別 受 益 の 額 が 少 ない 相 続 人 になると 考 えられる( 注 1) 他 方, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 にとっても, 過 去 の 特 別 受 益 の 有 無 及 びその 額 によって 減 殺 される 財 産 の 範 囲 が 大 きく 変 わるということがなくなり, 現 行 の 規 律 よりも, 減 殺 される 範 囲 に 関 する 予 測 可 能 性 が 高 まるものと 考 え られる( 注 2) ( 注 1)このように,B 案 は, 遺 留 分 権 利 者 が 各 自 保 存 行 為 として 遺 留 分 減 殺 請 求 を することができるとするものであるが, 遺 留 分 権 利 者 の1 人 が 原 告 として 訴 訟 を 提 起 した 場 合 には, 他 の 遺 留 分 権 利 者 は,その 訴 訟 に 当 事 者 として 参 加 すること はできるものの, 別 訴 を 提 起 することはできないこととする 必 要 がある( 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 ) ( 注 2) 受 遺 者 又 は 受 贈 者 にとっては, 相 続 開 始 の1 年 以 上 前 の 特 別 受 益 がない 事 案 では 減 殺 される 範 囲 が 現 行 の 規 律 よりも 大 きくなるか, 変 わらないのに 対 し, 相 続 開 始 の1 年 以 上 前 の 特 別 受 益 が 多 い 事 案 では 減 殺 される 範 囲 が 縮 小 すること になる イ 減 殺 の 対 象 となる 被 相 続 人 の 処 分 行 為 について 前 記 のとおり,B 案 は, 被 相 続 人 の 処 分 行 為 ( 遺 贈, 贈 与 等 )のうち, 総 体 的 遺 留 分 を 侵 害 する 部 分 を 無 効 とするものであるが,その 処 分 行 為 が 相 続 人 に 対 してされた 場 合 には, 当 該 相 続 人 の 法 定 相 続 分 に 相 当 する 部 分 についてはその 処 分 行 為 がなかったとしても 当 該 相 続 人 に 帰 属 することに なることに 鑑 み,その 法 定 相 続 分 を 超 過 する 部 分 のみを 減 殺 の 対 象 にする ことを 想 定 している ウ 遺 産 復 帰 の 効 果 について (ア) 遺 産 に 復 帰 した 財 産 が 受 遺 者 又 は 受 贈 者 に 対 する 金 銭 債 権 となる 場 合 12
の 処 理 Ⅰ2では, 遺 留 分 減 殺 請 求 権 が 行 使 された 場 合 には, 遺 贈 又 は 贈 与 の 一 部 が 遺 産 に 復 帰 することとしているが, 金 銭 の 贈 与 の 一 部 が 無 効 とな った 場 合 のように, 復 帰 する 財 産 が 受 遺 者 又 は 受 贈 者 に 対 する 金 銭 債 権 となる 場 合 には,その 取 扱 いをどうすべきかが 問 題 となる( 第 1の 乙 案 又 は 丙 案 を 採 用 して 遺 留 分 権 利 者 が 取 得 する 権 利 を 金 銭 債 権 とする 場 合 も 同 様 の 問 題 が 生 ずる ) この 点 について, 何 らの 手 当 てもしないと, 遺 産 に 復 帰 する 財 産 が 可 分 債 権 である 場 合 には, 法 定 相 続 分 に 従 って 相 続 人 に 当 然 分 割 されることになるが, 前 記 のとおり,Ⅰの 遺 留 分 減 殺 請 求 は, 遺 留 分 権 利 者 が 保 存 行 為 として 行 うものであり, 各 遺 留 分 権 利 者 がその 全 額 を 行 使 することができるようにする 必 要 がある (イ) 遺 産 分 割 との 関 係 ア 遺 留 分 減 殺 請 求 がされる 前 に 遺 産 分 割 協 議 等 が 成 立 していた 場 合 遺 留 分 減 殺 請 求 によって 遺 贈 又 は 贈 与 の 目 的 財 産 ( 又 はその 価 値 ) の 一 部 が 遺 産 に 復 帰 するという 効 果 が 生 ずるものの, 遡 及 効 を 認 める ものではないため, 遺 留 分 減 殺 請 求 の 前 に 遺 産 分 割 協 議 等 が 既 に 成 立 していた 場 合 にも,その 効 力 に 影 響 は 生 じないものと 考 えられ,この 点 について 特 段 の 手 当 てをする 必 要 はないと 考 えられる イ 遺 産 分 割 協 議 等 が 成 立 する 前 に 遺 留 分 減 殺 請 求 がされた 場 合 この 場 合 には, 遺 留 分 減 殺 請 求 によって 復 帰 した 遺 産 と 合 わせて 遺 産 分 割 を 行 うべきこととなるが, 遺 留 分 侵 害 の 有 無 やその 範 囲 等 につ いて 争 いがあり,その 確 定 に 相 当 程 度 の 期 間 を 要 することが 予 想 され るような 場 合 には, 遺 留 分 減 殺 請 求 によって 遺 産 に 復 帰 した 財 産 を 除 外 して, 遺 産 分 割 を 行 うことを 可 能 とする 方 策 を 講 ずる 必 要 がある ( 注 ) ( 注 )これは, 可 分 債 権 を 遺 産 分 割 の 対 象 とする 見 直 しをした 場 合 に, 可 分 債 権 の 中 に, 不 法 行 為 に 基 づく 損 害 賠 償 請 求 権 のように,その 債 権 の 有 無 及 び 額 につき 当 事 者 間 で 争 いがある 債 権 が 含 まれる 場 合 と 同 様 の 問 題 である と 考 えられる このような 問 題 を 解 決 するためには, 一 部 分 割 を 可 能 とす る 要 件 の 明 確 化, 柔 軟 化 を 図 るとともに, 残 部 の 遺 産 分 割 における 規 律 の 明 確 化 を 図 る 必 要 があると 考 えられるが,その 点 については, 次 回 の 部 会 資 料 において 検 討 する ウ 他 に 遺 産 分 割 すべき 財 産 がない 場 合 の 処 理 他 に 遺 産 分 割 すべき 財 産 がない 事 案 では,その 後 の 遺 産 分 割 手 続 に おいて,Ⅰの 請 求 者 が 遺 産 に 復 帰 した 財 産 の 全 てを 取 得 すべき 場 合 が 多 く 存 在 するものと 考 えられる そのような 場 合 に,Ⅰの 請 求 者 が 遺 産 分 割 の 申 立 てをすることなく,その 財 産 を 確 定 的 に 取 得 することが できるようにするため,Ⅰの 請 求 者 が 他 の 相 続 人 に 対 して 相 当 の 期 間 を 定 めて 遺 産 に 復 帰 した 財 産 についてその 分 配 を 求 めるかどうかを 催 13
告 し,その 期 間 内 にその 求 めがなかった 場 合 には,Ⅰの 請 求 者 が 遺 産 に 復 帰 した 財 産 の 全 てを 取 得 することを 内 容 とする 遺 産 分 割 協 議 が 成 立 したものとみなすなどの 方 策 を 講 ずることが 考 えられる (3) Ⅱの 制 度 について Ⅱの 制 度 は, 遺 留 分 権 利 者 が 被 相 続 人 から 取 得 した 財 産 の 額 が 当 該 遺 留 分 権 利 者 の 具 体 的 相 続 分 額 の2 分 の1に 満 たない 場 合 に, 多 額 の 特 別 受 益 があ る 他 の 相 続 人 に 金 銭 債 務 を 負 担 させるなどして,その 差 額 を 補 填 させること を 意 図 したものである すなわち, 現 行 の 規 律 では, 相 続 人 の 中 に 遺 贈 や 贈 与 を 受 けた 者 がいる 場 合 には,これを 特 別 受 益 とすること( 民 法 第 903 条 )によって, 相 続 人 間 の 取 得 額 における 不 平 等 を 是 正 することとされているが, 特 別 受 益 の 制 度 で は, 多 額 の 特 別 受 益 がある 者 が 遺 贈 又 は 贈 与 の 一 部 ( 又 はその 価 値 相 当 額 ) を 現 実 に 返 還 することまでは 想 定 されておらず,その 者 の 具 体 的 相 続 分 を 零 にするにとどまる(=この 者 の 特 別 受 益 がその 具 体 的 相 続 分 を 上 回 る 場 合 に も,これを 返 還 することを 要 しない 講 学 上,この 場 合 の 超 過 額 は, 超 過 特 別 受 益 と 呼 ばれている ) これに 対 し,Ⅱの 制 度 は, 遺 留 分 権 利 者 の 取 得 額 が 具 体 的 相 続 分 額 の2 分 の1に 満 たない 場 合 に, 超 過 特 別 受 益 がある 者 からその 一 部 を 現 実 に 返 還 させるものということができる このように,Ⅱの 制 度 は, 必 ずしもⅠの 制 度 の 利 用 を 前 提 としたものでは なく,Ⅰの 制 度 の 要 件 を 満 たさない 場 合 でも,Ⅱの 要 件 を 満 たすことがあり 得 ることになる なお, 寄 与 分 については,A 案 と 同 様, 最 低 限 相 続 分 額 を 算 定 するに 当 た り 考 慮 しないこととしている (4) Ⅰの 事 件 と 遺 産 分 割 事 件 を 一 体 的 に 処 理 する 方 策 について B 案 によった 場 合 には,Ⅰの 事 件 では, 遺 贈 等 の 目 的 財 産 の 一 部 が 遺 産 に 復 帰 するだけであり,その 後 その 財 産 について 別 途 遺 産 分 割 を 行 う 必 要 があ ることになるため,Ⅰの 事 件 と 遺 産 分 割 事 件 とを 一 体 的 に 処 理 することがで きるようにすべき 必 要 性 が 高 いと 考 えられる 他 方,Ⅰの 事 件 は, 基 本 的 には, 一 定 の 要 件 を 満 たせば 当 然 に 遺 産 への 復 帰 の 効 果 が 生 じ, 実 体 的 な 権 利 義 務 の 内 容 について 裁 判 所 の 裁 量 が 入 る 余 地 はないと 考 えられるから( 注 1), 憲 法 上 公 開 の 裁 判 で 行 うことが 必 要 となる 純 然 たる 訴 訟 事 件 に 当 たることになるものと 考 えられる そして,その 手 続 についても, 現 行 の 遺 留 分 減 殺 請 求 訴 訟 と 同 様, 基 本 的 には 弁 論 主 義 等 が 妥 当 する 民 事 訴 訟 手 続 になじむものと 考 えられる そうすると,Ⅰの 事 件 と 遺 産 分 割 事 件 とを 一 体 的 に 処 理 するためには,Ⅰ の 事 件 の 職 分 管 轄 を 家 庭 裁 判 所 とした 上 で( 注 2), 遺 産 分 割 事 件 との 併 合 的 処 理 を 可 能 とする 方 策 を 講 ずる 必 要 があることになる この 点 については, 弁 論 主 義 等 が 妥 当 する 民 事 訴 訟 事 件 と 職 権 探 知 主 義 等 が 妥 当 する 家 事 審 判 事 件 の 併 合 を 認 めた 場 合 に, 適 切 に 事 件 処 理 を 行 うことができるかどうかが 問 14
題 となるが, 現 行 法 の 下 でも, 離 婚 における 財 産 分 与 事 件 ( 家 事 審 判 事 件 ) と 離 婚 に 伴 う 慰 謝 料 請 求 事 件 ( 民 事 訴 訟 事 件 )とは, 併 合 的 処 理 がされるこ とがあり 得 るところ, 両 事 件 の 関 係 は,Ⅰの 事 件 と 遺 産 分 割 事 件 との 関 係 と 類 似 する 面 があると 考 えられる そうであるとすれば, 具 体 的 な 制 度 設 計 については 慎 重 な 検 討 が 必 要 とな るものの,Ⅰの 事 件 と 遺 産 分 割 事 件 とを 併 合 して 行 うことも 可 能 ではないか と 考 えられる ( 注 1)もっとも,Ⅰの 事 件 についても, 例 えば, 前 記 第 1の 乙 案 を 採 用 した 場 合 には, 財 産 の 分 与 の 方 法 については, 裁 判 所 に 一 定 の 裁 量 の 余 地 があり 得 ることになるた め, 純 然 たる 訴 訟 事 件 ではなくなるものと 考 えられる ( 注 2)このほか,Ⅰの 事 件 のうち, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 に 第 三 者 を 含 む 場 合 については 地 方 裁 判 所 の 管 轄 とし, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 相 続 人 だけである 場 合 のみ 家 庭 裁 判 所 の 管 轄 とすること 等 も 考 えられる (5) 前 記 第 1の 考 え 方 との 関 係 B 案 では,Ⅰの 事 件 が 遺 留 分 に 関 する 事 件 ということになるが,Ⅰの 考 え 方 については, 前 記 第 1の 甲 案, 乙 案 及 び 丙 案 のいずれとも 組 み 合 わせるこ とが 可 能 であると 考 えられる 第 3 その 他 1 円 滑 な 事 業 承 継 等 の 障 害 となり 得 る 点 を 緩 和 する 方 策 について 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 遺 留 分 権 利 者 の 承 継 した 相 続 債 務 について 弁 済 をし, 又 は 免 責 的 債 務 引 受 をするなど,その 債 務 を 消 滅 させる 行 為 をした 場 合 には, 遺 留 分 権 利 者 の 権 利 は,その 消 滅 した 債 務 額 の 限 度 で 減 縮 する ( 補 足 説 明 ) (1) 部 会 資 料 4からの 変 更 点 部 会 資 料 4では, 円 滑 な 事 業 承 継 等 の 障 害 となり 得 る 点 を 緩 和 する 方 策 と して,1 遺 留 分 の 放 棄 等 に 関 する 規 定 の 明 確 化,2 遺 留 分 権 利 者 が 承 継 する 相 続 債 務 額 を 加 算 する 取 扱 いという2つの 観 点 から 問 題 提 起 をしていたが, 今 回 の 提 案 は,2の 観 点 から, 遺 留 分 侵 害 額 を 算 定 するに 当 たって 考 慮 すべ き 債 務 の 額 についての 規 律 を 設 けようとするものである 1の 観 点 については, 部 会 資 料 4では, 中 小 企 業 経 営 承 継 円 滑 化 法 の 除 外 合 意 に 類 する 効 力 を 一 般 的 にも 認 めることも 視 野 に 入 れつつ, 遺 留 分 権 利 者 がその 権 利 の 全 部 又 は 一 部 の 放 棄 ないしこれに 類 する 処 分 をすることができ る 場 合 やその 要 件 を 整 理 し,これを 法 律 上 明 確 化 することを 提 案 した しか し,これに 対 しては, 第 4 回 部 会 において, 中 小 企 業 経 営 承 継 円 滑 化 法 の 除 外 合 意 等 の 制 度 はあまり 使 われておらず,そのような 制 度 が 必 要 とされてい るのかについて 疑 問 があるとの 指 摘 がされたところである また, 遺 留 分 権 利 者 が 特 定 の 贈 与 の 効 力 を 承 認 することによって 遺 留 分 算 定 の 基 礎 となる 財 15
産 から 除 外 するとともに 減 殺 の 対 象 からも 除 外 するということも 考 えられる ところではあるが, 第 2のA 案 のように, 相 続 人 間 の 遺 留 分 について,いわ ゆるみなし 相 続 財 産 を 基 礎 に 遺 留 分 を 算 定 することとして 遺 産 分 割 手 続 との 整 合 性 を 取 ろうとする 場 合 には,かえって 計 算 が 複 雑 になるといった 問 題 点 もある これらを 考 慮 した 結 果, 今 回 の 提 案 においては,1の 観 点 からの 見 直 しの 提 案 は 掲 げていない (2) 遺 留 分 侵 害 額 を 算 定 するに 当 たって 考 慮 する 債 務 の 額 について 現 行 法 上, 遺 留 分 侵 害 額 の 算 定 において 遺 留 分 権 利 者 が 承 継 する 相 続 債 務 の 額 を 加 算 する 取 扱 いがされているのは, 遺 留 分 権 利 者 が 承 継 した 相 続 債 務 を 弁 済 した 後 にも, 遺 留 分 権 利 者 に 一 定 の 財 産 が 残 るようにするためである が, 実 際 には, 遺 留 分 権 利 者 が 承 継 した 相 続 債 務 の 弁 済 等 をせずに, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 の 行 為 ( 弁 済 や 免 責 的 債 務 引 受 等 )によって 消 滅 するという 事 態 も 生 じ 得 る このような 場 合 に, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 別 途 求 償 権 を 行 使 する というのは 迂 遠 であり, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 相 続 債 務 を 消 滅 させたことを 遺 留 分 権 利 者 が 取 得 する 権 利 の 内 容 に 直 接 反 映 させるのが 簡 便 であると 考 えら れる そのような 観 点 から, 今 回 の 提 案 では, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 相 続 債 務 について 弁 済 をし, 又 は 免 責 的 債 務 引 受 をした 場 合 には, 遺 留 分 権 利 者 が 取 得 する 権 利 は,その 消 滅 した 額 の 限 度 で 減 縮 するものとしている( 注 ) ( 注 ) 部 会 資 料 4の 第 4 1(2)で 記 載 したケースのうち, 1 相 続 債 権 者 の 同 意 を 得 て 免 責 的 債 務 引 受 をした 場 合, 3 遺 留 分 権 利 者 が 承 継 した 債 務 について 相 続 債 権 者 に 第 三 者 弁 済 をした 場 合 については, 今 回 の 提 案 で 対 応 することができるが, 2 重 畳 的 債 務 引 受 をして, 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 引 き 受 けた 債 務 について 相 当 の 担 保 を 供 した 場 合 については, 今 回 の 提 案 では 応 することはできない 部 会 資 料 4 の 第 4 1(2)に 記 載 した2のケース( 重 畳 的 債 務 引 受 をして 相 当 の 担 保 を 提 供 した 場 合 )においても 同 様 の 規 律 を 設 ける 場 合 には, 次 にような 問 題 が 生 ずる す なわち,ア 遺 留 分 権 利 者 が 自 ら 債 務 の 弁 済 をする( 又 は 強 制 執 行 を 受 ける) 可 能 性 があり,その 場 合 には, 追 加 で 遺 留 分 減 殺 を 認 める 必 要 が 生 じ 得 る,イ 受 遺 者 又 は 受 贈 者 が 提 供 した 担 保 が 実 行 された 場 合 には, 特 段 の 手 当 てをしなければ 受 遺 者 又 は 受 贈 者 は 遺 留 分 権 利 者 に 対 して 求 償 権 を 得 ることになるため,その 行 使 を 制 限 す る 必 要 がある,ウ 提 供 した 担 保 が 十 分 であるかどうかを 判 断 する 必 要 があるが,そ の 判 断 をどのように 行 うこととするかといった 困 難 な 問 題 が 生 ずる そこで, 今 回 の 提 案 においては, 部 会 資 料 4の 第 4 1(2)に 記 載 した2のケース( 重 畳 的 債 務 引 受 をして 相 当 の 担 保 を 提 供 した 場 合 )については 新 たな 規 律 の 対 象 としていな い 2 遺 産 の 属 性 に 応 じて 遺 留 分 の 範 囲 を 定 める 考 え 方 について 部 会 資 料 4の 第 3では, 遺 留 分 算 定 の 基 礎 となる 財 産 を 実 質 的 夫 婦 共 有 財 産 と 被 相 続 人 の 固 有 財 産 とに 分 けた 上 で,その 財 産 の 属 性 に 応 じて 遺 留 分 の 範 囲 を 決 めることとする 方 策 を 掲 げていた しかし, 前 記 方 策 については, 実 質 的 夫 婦 共 有 財 産 と 被 相 続 人 の 固 有 財 産 と 16
を 截 然 と 区 別 することができるか 疑 問 であり,この 点 に 関 する 紛 争 が 増 加 する おそれがあるや, 前 記 方 策 では, 例 えば, 実 質 的 夫 婦 共 有 財 産 と 固 有 財 産 の 両 方 を 原 資 として 取 得 した 財 産 や, 退 職 金 請 求 権 のように, 婚 姻 前 の 労 働 の 対 価 と 婚 姻 中 の 労 働 の 対 価 の 両 方 が 含 まれ 得 る 財 産 など, 実 質 的 夫 婦 共 有 財 産 と 固 有 財 産 の 両 方 の 性 質 を 含 む 財 産 をどのように 扱 うべきかといった 困 難 な 問 題 が 生 ずる, 遺 産 の 多 くが 実 質 的 夫 婦 共 有 財 産 である 場 合 には, 子 の 遺 留 分 が 極 め て 低 額 になり,その 結 論 の 妥 当 性 にも 疑 問 があるといった 指 摘 がされ,このよ うな 考 え 方 に 否 定 的 な 意 見 が 大 半 を 占 めた また, 前 記 方 策 は, 配 偶 者 の 貢 献 に 応 じた 遺 産 分 割 を 実 現 するための 方 策 と して, 部 会 資 料 3に 掲 げた 実 質 的 夫 婦 共 有 財 産 と 被 相 続 人 の 固 有 財 産 とを 分 け る 考 え 方 を 採 用 することと 密 接 に 関 連 していたところ, 部 会 資 料 7では, 部 会 資 料 3に 掲 げた 前 記 の 考 え 方 を 修 正 し, 配 偶 者 の 貢 献 に 応 じてその 相 続 分 に 加 算 される 額 の 法 的 性 質 を 寄 与 分 ( 配 偶 者 寄 与 分 )と 整 理 したことから( 部 会 資 料 7 3 頁 参 照 ), 仮 に 部 会 資 料 7に 掲 げた 前 記 方 策 をとったとしても,それ に 伴 い 遺 留 分 の 範 囲 等 を 見 直 す 必 要 性 はなくなったところである このため, 本 資 料 では, 前 記 方 策 のような 考 え 方 (その 修 正 案 を 含 む )は 採 らないこととしている 3 直 系 尊 属 の 遺 留 分 について 第 4 回 部 会 においては, 直 系 尊 属 の 遺 留 分 は 廃 止 すべきであるとの 指 摘 がさ れた 一 般 に, 配 偶 者 や 子 が 扶 養 を 受 けることと 比 べると, 直 系 尊 属 がその 子 から 扶 養 を 受 けることは 少 ないものと 考 えられるし, 民 法 上 の 扶 養 義 務 につい ても, 配 偶 者 や 子 に 対 するそれと 直 系 尊 属 に 対 するそれとでは 程 度 に 差 がある とされていることからすると, 遺 留 分 において 直 系 尊 属 の 生 活 保 障 を 考 慮 する 必 要 性 は 高 くないということもできる また, 直 系 尊 属 が 遺 産 の 形 成 に 貢 献 し たということも, 一 般 的 にはそう 多 くはないものと 考 えられる もっとも, 例 えば, 被 相 続 人 が 父 母 から 多 額 の 生 前 贈 与 を 受 けていた 場 合 に は 父 母 にも 遺 留 分 が 認 められるべきとも 考 えられるし, 父 が 死 亡 した 際 に 母 が その 相 続 を 放 棄 したことによって 被 相 続 人 が 父 の 遺 産 の 全 てを 相 続 したという 場 合 には 母 にも 遺 留 分 が 認 められるべきとも 考 えられる( 注 ) 直 系 尊 属 の 遺 留 分 については,これらを 踏 まえて 検 討 する 必 要 があると 考 え られるが,どのように 考 えるか ( 注 ) 例 えば, 直 系 尊 属 の 遺 留 分 は 廃 止 しないこととした 上 で, 直 系 尊 属 から 受 けた 贈 与 又 は 相 続 の 限 度 でのみ 減 殺 を 請 求 することができるものとすることも 考 えられる 4 特 殊 な 類 型 における 事 件 処 理 の 明 確 化 について 現 行 法 上, 相 続 分 の 指 定 と 持 戻 し 免 除 の 意 思 表 示 については, 遺 留 分 に 関 す る 規 定 に 違 反 することができないとの 規 定 はあるが( 相 続 分 の 指 定 については 民 法 第 902 条 第 1 項 ただし 書, 持 戻 し 免 除 の 意 思 表 示 については 民 法 第 90 3 条 第 3 項 ), 減 殺 の 対 象 になるのか 否 か, 仮 に 減 殺 の 対 象 になるとして,そ の 場 合 の 減 殺 の 順 序 や 減 殺 された 場 合 の 効 果 等 については, 解 釈 に 委 ねられて 17
いる もっとも, 前 記 第 2の 方 策 によった 場 合 には,そのいずれにおいても, 相 続 分 の 指 定 や 持 戻 し 免 除 の 意 思 表 示 に 対 する 減 殺 について 別 途 検 討 する 必 要 はな いこととなり,この 点 に 関 する 現 行 法 上 の 問 題 点 は 解 消 されるものと 考 えられ る 18