[ 論 文 No.10] 名 古 屋 港 西 五 区 耐 震 強 化 岸 壁 (-14m) 築 造 工 事 における 桟 橋 杭 の 根 入 れ 長 の 変 更 ( 独 ) 港 湾 空 港 技 術 研 究 所 菊 池 喜 昭 ( 株 ) 地 盤 試 験 所 西 村 真 二 1. 事 例 の 概 要 名 古 屋 港 の 西 五 区 に-14mコンテナ 船 用 の 桟 橋 式 の 耐 震 強 化 岸 壁 が 計 画 され 建 設 された 本 工 事 においては 桟 橋 式 岸 壁 の 支 持 杭 の 根 入 れ 深 度 の 設 定 にあたって 杭 支 持 力 の 詳 細 な 検 討 を 経 て 杭 の 載 荷 試 験 を 実 施 することにより 大 きな 経 済 的 な 効 果 と 事 前 に 地 質 リスク の 解 消 を 実 現 した 例 である 2. 事 例 分 析 のシナリオ 名 古 屋 港 西 五 区 の 地 盤 条 件 は 上 部 は 軟 弱 な 沖 積 粘 性 土 層 NP-40m 付 近 に5m 前 後 の 中 間 砂 層 その 下 は 洪 積 粘 性 土 で NP-68mに 支 持 層 となる 砂 層 がある この 地 盤 条 件 における 桟 橋 式 の 岸 壁 の 当 初 設 計 はNP-70mまで 根 入 れするものであった が 杭 の 支 持 力 が 過 大 設 計 となることから NP-40mの 中 間 砂 層 に 止 めることの 可 能 性 が 検 討 された 中 間 砂 層 に 打 ち 止 めるに 際 しては 杭 の 支 持 力 不 足 によるリスクが 問 題 となった 中 間 砂 層 における 開 端 鋼 管 杭 の 先 端 支 持 力 を 様 々な 方 法 で 検 討 した 結 果 Meyerhofの 方 法 によるものが 最 も 低 い 値 となり この 値 でも 必 要 な 支 持 力 をギリギリで 満 足 することが わかった 工 費 については 杭 の 打 ち 止 め 深 度 をNP-70mとNP-42mとで 比 較 した 結 果 350 本 の 支 持 杭 に 対 して 鋼 管 杭 の 材 料 費 で 約 7 億 円 施 工 費 で 約 3 億 円 の 差 であった これらの 検 討 を 踏 まえて 中 間 砂 層 で 打 ち 止 める 方 針 とし ただし 支 持 力 不 足 のリスクを 避 けるために 事 前 に 中 間 砂 層 で 打 ち 止 めた 杭 に 対 し 載 荷 試 験 を 実 施 し 実 杭 によって 支 持 力 性 能 を 確 認 することとなった 載 荷 試 験 においては 相 対 的 に 中 間 砂 層 が 薄 い 地 点 で 杭 先 端 条 件 が 開 端 と 十 字 リブをつけたもの 中 間 砂 層 が 厚 い 地 点 で 先 端 開 端 のものを 試 験 した 試 験 方 法 は 反 力 杭 を 必 要 とし ない 急 速 載 荷 試 験 で 実 施 した 試 験 の 結 果 中 間 砂 層 において 所 定 の 支 持 力 が 得 られ 実 杭 による 支 持 力 性 能 が 証 明 された 試 験 費 用 は 約 1 億 円 であった これにより 当 初 設 計 と 比 較 して 大 きな 経 済 効 果 が 得 られるとともに 支 持 力 不 足 のリスクも 回 避 すること ができた なお 経 済 効 果 については 本 工 事 に 隣 接 する 工 区 についても 同 様 の 設 計 が 採 用 されさらに 大 きなも のが 得 られた 1 基 本 計 画 2 杭 の 支 持 力 検 討 3 杭 の 載 荷 試 験 実 施 4 杭 の 根 入 れ 長 決 定 当 初 設 計 NP-70mの 支 持 層 まで 根 入 れ ( 利 点 ) 大 きな 支 持 力 が 確 保 できる ( 欠 点 ) 過 大 設 計 となる 工 費 工 期 が 大 きくなる 必 要 支 持 力 の 2.5 倍 以 上 の 過 大 設 計 費 用 差 約 10 億 円 提 案 設 計 NP-40mの 中 間 砂 層 で 止 める ( 利 点 ) 工 費 工 期 が 抑 えられる ( 欠 点 ) 支 持 力 不 足 のリスクが 生 じる Mayerhofの 方 法 で ぎりぎり 確 保 支 持 力 不 足 のリスク NP-40mで 急 速 載 荷 試 験 実 施 費 用 約 1 億 円 支 持 力 確 認 支 持 力 不 足 リスクの 回 避 図 -1 支 持 杭 の 根 入 れ 長 設 定 フロー 本 工 事 の 計 画 から 杭 の 根 入 れ 長 設 定 のフローを 図 -1に 示 すとともに 以 降 で 詳 細 について 述 べる 1
3. データ 収 集 分 析 (1) 当 初 設 計 杭 をNP-68mの 支 持 砂 層 に 根 入 れす る 場 合 の 桟 橋 断 面 を 図 -2に 示 す こ の 断 面 による 鋼 管 杭 の 支 持 力 を 港 湾 基 準 等 によって 計 算 すると 極 限 支 持 力 は 海 側 列 杭 で29,376kN 陸 側 列 杭 で30,679kNとなった それらを 設 計 荷 重 と 比 較 した 結 果 を 表 -1に 示 す 表 によるとこの 設 計 においては 必 要 な 支 持 力 に 対 して2.5~5.0 倍 の 過 大 設 計 となることがわかった (2) 提 案 設 計 当 初 設 計 では 過 大 設 計 となること がわかり NP-40m 付 近 の 中 間 砂 層 で の 打 ち 止 めの 可 能 性 が 検 討 されるこ とになった 中 間 砂 層 に 打 ち 止 める に 際 しては 中 間 砂 層 における 鋼 管 杭 の 先 端 支 持 力 の 確 保 と 砂 層 直 下 の 洪 積 粘 性 土 層 の 強 度 の 有 無 が 過 大 であ 表 -1 当 初 設 計 による 杭 の 支 持 力 図 -2 当 初 設 計 海 による 側 列 杭 桟 橋 式 護 岸 陸 断 側 列 面 杭 鋼 管 杭 φ1500 鋼 管 杭 φ1500 極 限 支 持 力 (kn) 29,376 30,679 設 計 条 件 常 時 地 震 時 常 時 地 震 時 設 計 荷 重 (kn) 3,930 3,940 3,430 4,410 安 全 率 7.5 7.5 8.9 7.0 必 要 安 全 率 3 1.5 3 1.5 安 全 率 の 比 率 2.5 5.0 3.0 4.6 った 中 間 砂 層 に 打 ち 止 める 場 合 の 桟 橋 断 面 を 図 -3に 示 す 杭 の 先 端 支 持 力 の 検 討 については 薄 層 に 杭 を 止 めた 場 合 の 検 討 方 法 としてMeyerhohの 方 法 JRの 方 法 阪 神 高 速 道 路 公 団 による 方 法 道 路 橋 示 方 書 による 方 法 が 試 みられた そ の 中 で 最 も 安 全 側 すなわち 小 さい 計 算 結 果 となったMeyerhohの 方 法 により 設 計 荷 重 と 比 較 した その 結 果 かろうじて 必 要 支 持 力 を 確 保 できると 推 定 された Meyerhohの 方 法 を 図 -4 に その 計 算 結 果 を 表 -2に 示 す なお 検 討 の 中 で 中 間 砂 層 直 下 の 洪 積 粘 性 土 層 の 強 度 については 図 -5に 示 すとおり200 ~600kN/m 2 の 一 軸 圧 縮 強 度 を 持 つ 地 盤 であるが250 kn/m 2 として 計 算 した 図 -3 中 間 砂 層 に 打 ち 止 める 場 合 の 桟 橋 式 護 岸 断 面 2
表 -2 Meyerhohの 方 法 による 杭 の 支 持 力 図 -4 Meyerhohによる 薄 層 支 持 力 の 算 定 方 法 海 側 列 杭 陸 側 列 杭 極 限 支 持 力 (kn) 12,634 13,936 設 計 条 件 常 時 地 震 時 常 時 地 震 時 設 計 荷 重 (kn) 3,930 3,940 3,430 4,410 安 全 率 3.2 3.2 4.1 3.2 必 要 安 全 率 3 1.5 3 1.5 図 -5 粘 性 土 地 盤 の 一 軸 圧 縮 強 度 (3) 費 用 比 較 と 設 計 方 針 当 初 設 計 と 提 案 設 計 との 費 用 の 比 較 は 本 工 事 の 護 岸 延 長 300mに 対 して 試 算 した 鋼 管 杭 350 本 の1 本 あたり 杭 径 φ1500 板 厚 15mm 部 分 が28m 長 くなった 場 合 の 材 料 費 および 施 工 費 を 試 算 した その 結 果 材 工 で 約 10 億 円 の 差 があることがわかった 材 料 費 7 万 円 /m 28m 350 本 = 6.86 億 円 施 工 費 3 万 円 /m 28m 350 本 = 2.94 億 円 計 9.8 億 円 経 済 効 果 と 支 持 力 検 討 の 結 果 から 中 間 砂 層 に 打 ち 止 める 方 針 となった ただし 万 が 一 支 持 力 不 足 のリスクが 顕 在 化 した 場 合 は その 損 害 は 数 十 億 となることが 考 えられ 事 前 に 実 杭 による 載 荷 試 験 を 実 施 して 支 持 力 性 能 を 確 認 することとなった (4) 載 荷 試 験 の 実 施 杭 の 載 荷 試 験 を 実 施 するに 際 しては 相 対 的 に 薄 い 地 点 ( 砂 層 厚 さ4.5m)と 厚 い 地 点 ( 厚 さ6.5m)の2 地 点 で 実 施 し 薄 い 地 点 においては 通 常 の 開 端 杭 と 先 端 支 持 力 を 増 大 させるた めの 十 字 リブを 設 けた 杭 を 厚 い 地 点 では 通 常 の 開 端 杭 での 載 荷 試 験 が 計 画 された 載 荷 試 験 方 法 は 急 速 載 荷 試 験 方 法 が 採 用 された 急 速 載 荷 試 験 は 反 力 杭 を 必 要 とせず 異 なる 地 点 で 複 数 回 の 試 験 を 実 施 する 場 合 に 経 済 的 に 有 利 となる 載 荷 試 験 杭 の 条 件 を 図 -6に 示 す 杭 の 載 荷 試 験 結 果 として 中 間 砂 層 が4.5mの 地 点 で 実 施 した 開 端 杭 (V-1)の 急 速 載 荷 試 験 結 果 を 図 -7に 示 す また 他 の 杭 も 合 わせた 急 速 載 荷 試 験 結 果 を 表 -3に 示 す 急 速 載 荷 試 験 の 結 果 中 間 砂 層 に 打 ち 止 めた 試 験 杭 は 必 要 な 支 持 力 を 十 分 に 満 足 することが 確 認 された 3
V-3 V-2 V-1 (6.5- 開 端 ) (4.5-リブ) (4.5- 開 端 ) φ1500 φ1500 φ1500 N.P.4.6 砂 質 土 層 -7.50 上 部 粘 性 土 層 -40.00-41.50 50000 十 字 リブ 2000 礫 混 り 砂 層 -46.50-44.50 下 部 粘 性 土 層 -60.00-70.00 砂 層 図 -6 載 荷 試 験 杭 条 件 50000 8000 32300 16000 16000 12000 4000 50000 2000 1000 2000 ひずみゲージ 加 速 度 計 (50G) 間 隙 水 圧 計 (5kgf/cm 2 ) 間 隙 水 圧 計 (20kgf/cm 2 ) Displacement (mm) Force (kn) 0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 急 速 荷 重 静 的 抵 抗 図 -7 急 速 載 荷 試 験 結 果 ( 荷 重 ~ 沈 下 曲 線 ) 表 -3 急 速 載 荷 試 験 のまとめ NO. 試 験 条 件 周 面 抵 抗 先 端 抵 抗 合 計 抵 抗 必 要 支 持 力 V-1 層 厚 4.5m 開 端 15,300 5,100 20,400 V-2 層 厚 4.5m 十 字 リブ 15,600 7,100 22,700 11,790 V-3 層 厚 6.5m 開 端 15,600 5,100 20,700 4. マネジメントの 効 果 本 工 事 においては 当 初 設 計 による 杭 長 を 大 幅 に 短 くする 提 案 を 行 い それを 地 盤 調 査 結 果 に 基 づいた 詳 細 な 設 計 検 討 を 行 い 中 間 砂 層 に 打 ち 止 めることになった 中 間 砂 層 に 打 ち 止 めることにより 生 じた 支 持 力 不 足 のリスクについては 実 杭 による 載 荷 試 験 を 実 施 する ことにより 回 避 することができた 本 工 事 におけるコスト 面 でのまとめは 以 下 の 通 りである 60 3 杭 長 を 短 くすることによるコストダウン:9.8 億 円 40 2 発 生 費 用 載 荷 試 験 実 施 費 用 ( 材 工 で):1 億 円 支 持 力 不 足 が 生 じた 場 合 の 損 失 : 数 十 億 円 20 1 本 稿 は 杭 の 載 荷 試 験 を 実 施 することにより 調 査 費 用 地 質 リスクを 回 避 するとともに 経 済 設 計 を 実 0 0 現 した 例 として 記 述 した なお 本 稿 で 挙 げ たコストの 算 定 根 拠 については 公 式 なもので -20-1 桟 橋 に 不 具 合 が 発 生 当 初 設 計 中 間 層 支 持 はなく 定 量 化 のために 概 算 の 単 価 を 仮 定 した ものである 図 -8 建 設 コストの 比 較 発 生 費 用 ( 億 円 ) 載 荷 試 験 費 用 ( 億 円 ) 4
5. データ 様 式 の 提 案 表 -4 様 式 Aへの 記 入 大 項 目 小 項 目 データ 対 象 工 事 発 注 者 国 土 交 通 省 中 部 地 方 整 備 局 名 古 屋 港 湾 空 港 整 備 事 務 所 工 事 名 名 古 屋 港 西 5 区 岸 壁 (-14m) 鋼 管 杭 載 荷 試 験 工 事 工 種 下 部 工 工 事 概 要 鋼 管 杭 による 桟 橋 式 の 耐 震 強 化 岸 壁 1 当 初 工 事 費 不 明 当 初 工 期 不 明 リスク 回 避 事 象 予 測 されたリスク 発 現 時 期 1 発 注 時 2 竣 工 後 予 測 されたトラブル 1 杭 をNP-70mまで 根 入 れした 場 合 の 過 大 設 計 による 高 コスト 2 杭 を 中 間 層 に 打 ち 止 めた 場 合 の 支 持 力 不 足 による 構 造 の 不 具 合 回 避 した 事 象 工 事 への 影 響 リスク 管 理 の 実 際 判 断 した 時 期 1 計 画 時 2 計 画 時 判 断 した 者 発 注 担 当 者 判 断 の 内 容 杭 を 中 間 層 に 打 ち 止 めるが 事 前 に 杭 の 載 荷 試 験 を 実 施 し 支 持 力 性 能 の 確 認 を 行 う 判 断 に 必 要 な 情 報 土 質 柱 状 図 一 軸 圧 縮 強 度 データ 工 事 コスト 載 荷 試 験 コスト リスク 対 応 の 実 際 内 容 追 加 調 査 杭 の 載 荷 試 験 修 正 設 計 対 策 工 費 用 追 加 調 査 材 工 で 約 1 億 円 修 正 設 計 対 策 工 2 合 計 1 億 円 変 更 工 事 の 内 容 工 事 変 更 の 内 容 杭 長 を28m 短 縮 3 変 更 後 工 事 費 当 初 工 事 費 -9.8 億 円 5
リスクマネジメントの 効 果 変 更 工 期 間 接 的 な 影 響 項 目 受 益 者 費 用 (1-3-2) 工 期 その 他 発 注 者 8.8 億 円 ( 杭 長 変 更 により) 数 十 億 円 ( 支 持 力 不 足 が 生 じた 場 合 ) 参 考 文 献 1) Meyerhoh.G.G.:Bearing Capacity and settlement of pile foundations, Proc. of ASCE, Vol.102, 1976 2) 菊 池 ほか: 中 間 薄 層 で 支 持 された 大 口 径 鋼 管 杭 の 載 荷 試 験 第 35 回 地 盤 工 学 研 究 発 表 会, 2000 3) 菊 池 ほか: 名 古 屋 港 西 五 区 耐 震 強 化 岸 壁 (-14m) 築 造 工 事 における 杭 の 根 入 れ 長 の 変 更, 基 礎 工 6