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フライトサージャンと 航 空 医 学 緒 方 克 彦 防 衛 医 科 大 学 校 はじめに 空 を 飛 行 する 乗 り 物 には 飛 行 機 航 空 機 人 工 衛 星 などがあるが いずれも 操 縦 する 人 々 の 健 康 状 態 が 安 全 に 重 大 な 影 響 をもたらすという 理 由 から 操 縦 のための 資 格 と 身 体 検 査 適 合 という 資 格 の 双 方 が 求 められる また 前 者 を 技 能 証 明 後 者 を 航 空 身 体 検 査 証 明 と 呼 び ダブルライセンスを 満 たさなければ 操 縦 は 許 可 されないのが 世 界 共 通 民 間 軍 隊 共 通 の 基 準 である(1) そして 飛 行 を 職 業 とする 人 々が 航 空 環 境 等 の 中 で 受 ける 影 響 に 関 する 現 象 や 逆 に 疾 病 や 疲 労 など 人 体 の 生 理 学 的 変 化 が 飛 行 に 与 える 影 響 について 調 査 研 究 すること ま たそれらの 知 見 に 熟 知 し 航 空 身 体 検 査 等 の 基 準 判 定 を 行 う 分 野 を 航 空 医 学 と 総 称 し 特 にこれら 分 野 の 実 務 を 行 う 専 門 医 のことをフライトサージャン(FS)と 呼 ぶ 現 代 は ヘリ セスナ 大 型 旅 客 機 戦 闘 機 スペースシャトルと 実 に 様 々な 航 空 機 等 が 開 発 され その 用 途 も 商 業 任 務 患 者 搬 送 宇 宙 往 還 と 多 岐 に 亘 るようになり 幾 つかの 専 門 FS が 出 現 することになった 1 FSの 分 類 と 養 成 我 が 国 におけるFSには 主 として 1) 国 際 線 国 内 線 パイロットや 自 家 用 操 縦 士 等 の 身 体 検 査 判 定 を 行 う 国 土 交 通 省 航 空 局 (JCAB)が 定 める 指 定 航 空 身 体 検 査 医 2) 自 衛 隊 パイロットの 航 空 身 体 検 査 健 康 管 理 を 行 う 自 衛 隊 の 航 空 医 官 3) 日 本 宇 宙 航 空 研 究 開 発 機 構 (JAXA)において 宇 宙 飛 行 士 の 選 抜 養 成 身 体 検 査 健 康 管 理 を 行 うフライトサ ージャン の3 種 類 が 存 在 する しかしその 背 景 や 任 務 を 考 慮 に 入 れると 4)JAL や ANA などの 健 康 管 理 室 に 勤 務 する 産 業 医 の 医 師 も 航 空 医 学 に 熟 知 しパイロット 健 康 管 理 に 精 通 していることや 5)2004 年 から 開 始 された 宇 宙 航 空 認 定 医 (JSASEM)も FSの 一 分 野 と 考 えた 方 が 妥 当 と 私 は 考 えている 各 FSの 国 内 の 概 数 とその 養 成 方 法 について 図 1に 掲 げる 28

図 1.FSの 人 員 数 と 養 成 指 定 航 空 身 体 検 査 医 CAB 指 定 医 講 習 会 166 名 航 空 医 官 防 衛 省 航 空 医 官 課 程 約 200 名 健 康 管 理 医 JAXA 自 社 研 修 5 名 航 空 産 業 医 航 空 会 社 自 社 研 修 約 20 名 宇 宙 航 空 医 学 認 定 医 JSASEM 認 定 医 講 習 会 106 名 2 FSの 任 務 と 役 割 FSは パイロット ナビゲーター フライト エンジニア 等 の 航 空 業 務 従 事 者 だけ ではなく 乗 客 や 搬 送 患 者 など 航 空 機 等 に 搭 乗 する 全 ての 人 々に 関 わる 医 学 分 野 に 責 任 を 持 つ 可 能 性 がある 包 括 的 業 務 であり FSの 業 種 に 応 じてその 領 域 が 変 化 するため 全 体 として 明 確 な 規 定 は 困 難 だが 概 ね 図 2のような 分 野 に 分 かれる 図 2 FSが 関 与 する 各 分 野 航 空 身 体 検 査 判 定 (AME) 医 学 適 性 審 査 (ウェイバー 審 査 ) 健 康 管 理 カウンセラー( 航 空 産 業 医 ) 航 空 生 理 訓 練 L 航 空 事 故 調 査 航 空 医 学 研 究 救 命 装 備 品 開 発 (ヘルメット マスク 等 ) 緊 急 事 態 ストレスマネシ メント(CISM) 航 空 患 者 搬 送 (MEDEVAC) (1) 航 空 身 体 検 査 と 医 学 適 性 審 査 そして 健 康 管 理 航 空 身 体 検 査 基 準 は 各 国 及 び 民 間 軍 隊 によって 多 少 異 なるものの 大 枠 は 国 際 標 準 (ICAO)に 準 拠 しているため 共 通 部 分 も 多 く 以 下 のような 特 徴 を 有 する(2) パイロットは 飛 行 安 全 を 達 成 するために 自 ら 健 康 管 理 を 率 先 し その 状 態 に 異 常 を 自 覚 したり 服 薬 をした 場 合 は 申 告 しなければならない 判 定 医 (AME:Aeromedical Examiner)は 基 準 に 適 合 か 否 かの 判 断 を 担 当 また 適 合 しない 者 のうち ウェイバー 条 項 により 審 査 会 に 判 断 を 委 ねることができる 身 体 検 査 証 明 審 査 会 では 疾 病 の 状 況 パイロット 等 の 経 験 を 勘 案 し 基 準 には 不 合 格 であっても 適 合 と 判 断 する 場 合 がある このように 身 体 検 査 で 不 合 格 であっても 業 務 には 適 合 する という 考 え 方 は 一 般 医 師 には 理 解 し 難 いかもしれないが 航 空 医 学 上 は 世 界 共 通 の 考 え 方 である 身 体 検 査 基 準 に 合 致 するように またウェイバー 上 で 付 加 された 条 件 をクリアできるように 指 導 していく 事 は 航 空 産 業 医 の 主 要 な 業 務 である 29

JCAB では 航 空 身 体 検 査 対 象 者 総 数 の1 割 強 年 間 約 1,300 件 を 審 査 していることに なるが 主 要 先 進 国 はいずれも 同 様 のシステムにあり 空 の 安 全 を 守 る 重 要 な 手 段 とな っている( 審 査 対 象 の 内 訳 : 図 3) 一 方 で 医 学 水 準 の 向 上 に 伴 い 基 準 は 年 々 変 化 ( 緩 和 )しつつあり 今 や 気 分 障 害 等 の 精 神 疾 患 においても 回 復 した 戦 闘 機 パイロットを 復 帰 させるプログラムが 開 始 されている(3) 図 3で ウェイバー 審 査 申 請 の 対 象 (2007) 15.1% 3.3% 6.4% 3.8% 71.4% 定 期 運 送 用 操 縦 士 その 他 操 縦 練 習 許 可 事 業 用 操 縦 士 自 家 用 操 縦 士 (2) 航 空 環 境 の 危 険 因 子 と 航 空 生 理 訓 練 航 空 環 境 で 生 体 が 受 ける 影 響 としては 航 空 生 理 学 的 要 因 によるものが 大 で 高 々 度 低 圧 環 境 由 来 加 速 度 由 来 平 衡 覚 由 来 視 覚 聴 覚 由 来 に 大 別 されるが その 他 にも 放 射 線 被 曝 航 空 機 燃 料 やRI 等 の 部 品 による 化 学 物 理 学 的 因 子 によるものも 危 険 因 子 として 挙 げられる 図 4に 各 危 険 因 子 と 予 防 回 避 するために 現 在 行 われている 対 策 を 示 す このような 対 策 は 自 衛 隊 のみならず 民 間 パイロット 宇 宙 飛 行 士 にも 実 施 されている 航 空 自 衛 隊 で 経 験 した 低 圧 チャンバー 訓 練 時 における 航 空 減 圧 症 の 発 生 例 を 図 5 に 示 す 異 常 気 圧 症 候 群 (Dysbarism)が 約 11% 狭 義 の 減 圧 症 が 約 1%に 発 生 し その うち 数 例 は 高 圧 タンク 治 療 を 必 要 とした(4) 次 に 加 速 度 訓 練 時 に 訓 練 中 止 に 至 った 不 整 脈 発 生 例 を 図 6に 示 す 近 年 は 基 準 を 追 加 し EPS を 経 て RFCA(Radiofrequency Catheter Ablation)により 根 治 した 者 について は 訓 練 継 続 させるようにしている(5) 30

図 4 図 5 航 空 環 境 による 危 険 因 子 とその 対 策 高 々 度 低 圧 環 境 由 来 加 速 度 由 来 空 間 識 由 来 視 覚 聴 覚 由 来 物 理 化 学 因 子 由 来 低 圧 低 温 低 湿 度 低 酸 素 遠 心 加 速 度 衝 撃 振 動 空 間 識 失 調 飛 行 錯 覚 騒 音 夜 間 視 飛 行 錯 覚 放 射 線 被 曝 排 気 カ ス RI 部 品 低 圧 チャンハ ー 訓 練 加 速 度 訓 練 空 間 識 失 調 訓 練 ノイス キャンセラー 暗 視 眼 鏡 防 護 服 作 業 環 境 基 準 航 空 減 圧 症 発 生 例 (JASDF:1960 ~ 1999:30,763 名 ) Dysbarism Bends DCS Neurologic Skin bends Hypoxia HV Others 3468 236 6 1 44 17 64 11.27% 0.93% 0.14% 0.06% 0.21% 図 6 耐 G 訓 練 を 中 止 した 頻 脈 性 不 整 脈 の 種 類 診 断 名 n,$ 心 房 粗 動 4 心 房 細 動 6 # 心 房 頻 拍 3 EPS 実 施 潜 在 性 WPW 症 候 群 2 $,# 房 室 結 節 性 回 帰 性 頻 拍 4 EPS 未 実 施 病 的 回 路 同 定 できず 4 心 筋 症 1 不 明 (EPS 拒 否 ) 1 EPS: Electrophysiological Study( 電 気 生 理 検 査 ),$,#: 合 併 症 例 (3) 航 空 事 故 と 人 的 要 因 (ヒューマンファクター:HF) 1903 年 12 月 17 日 ノースカロライナ 州 キティホークで Wilbur & Orville Wright が 初 の 動 力 型 航 空 機 の 飛 行 に 成 功 した 僅 か5 年 後 に Selfridge 中 尉 がバージニア 州 フォート マイヤー 駐 屯 地 において Orville Wright との 飛 行 展 示 中 に 墜 落 し 頭 部 外 傷 にて 死 亡 し た * (6) 日 本 においても 1911 年 に 徳 川 好 敏 大 尉 による 初 フライトの 翌 年 に 所 沢 飛 行 場 の 近 傍 ( 現 所 沢 聖 地 霊 園 内 )で 木 村 徳 川 両 大 尉 が 墜 落 し 我 が 国 初 めての 死 亡 事 故 となった 航 空 機 の 運 航 には 多 くの 不 具 合 が 発 生 し 放 置 しておけば 容 易 に 大 事 故 に 繋 がるため 操 作 及 び 整 備 手 順 には 様 々なフェイル セーフが 導 入 され 航 空 事 故 調 査 の 手 法 が 確 立 されている 航 空 事 故 には 調 査 手 法 を 確 立 しやすい 背 景 もある( 図 7) 事 故 の 原 因 は 操 縦 監 督 整 備 器 材 気 象 等 の 因 子 に 分 類 されるが 操 縦 監 督 整 備 など 人 間 の 誤 認 や 誤 判 断 に 関 わる 要 素 をHFと 呼 ぶ(7) 操 縦 の 自 動 化 につれて 航 空 大 事 故 のHFに 起 因 する 割 合 が 上 昇 し 8 割 に 達 している( 図 8) 航 空 事 故 災 害 は 突 発 的 悲 惨 死 亡 率 が 高 いなど 社 会 的 影 響 が 大 きく 発 生 後 に 事 31

故 調 査 告 別 式 報 道 取 材 等 により 遺 族 や 同 僚 に 相 当 な 心 理 的 ストレス( 自 殺 事 故 に よるものの2 倍 程 度 )をもたらす(8) そのため USAF では 1997 年 から 2003 年 から CISM(Critical Incident Stress Management)を 実 施 している(AFI44-153) USAF-CIST(CISM Team)の 構 成 と 役 割 を 図 9に 示 す 防 衛 省 では 2003 年 から 陸 海 空 自 衛 隊 において ほぼ 同 様 の 手 順 で 実 施 している * )この 事 故 から アメリカ 陸 軍 のヘルメットやシートベルト 開 発 に 繋 がった 図 7 図 8 航 空 事 故 調 査 の 特 徴 1 機 体 内 環 境 が 一 定 2 緊 急 手 順 が 概 ね 確 立 行 動 分 析 が 可 能 3 運 航 要 員 の 経 歴 が 明 らか 4 器 材 面 の 不 具 合 事 象 も 調 査 可 能 非 関 与 18% (9) 事 故 へのHFsの 関 与 事 故 件 数 :50 件 (): 件 数 1 多 くの 要 素 が 複 雑 に 絡 み 合 う 2 飛 行 状 態, 気 象 条 件 により 全 く 異 なる 様 相 を 呈 する 3 個 人 の 特 性, 状 態, 経 験 により 反 応 が 異 なる HFsの 関 与 82% (41) 図 9 USAF-CISTの 役 割 Defusing: 発 生 後 8~12H 以 内 CISD: 発 生 後 24~72H 以 内 Follow-up (Medical) Units & Unit Leaders Care Family Care *CISTリータ ーは 活 動 に 先 立 って 事 故 調 査 とは 独 立 して 行 動 することを 告 知 する (4) 航 空 医 学 研 究 航 空 医 学 の 研 究 対 象 としては 上 述 した 1) 航 空 環 境 の 危 険 因 子 が 人 体 に 与 える 影 響 の 同 定 と 評 価 2) 人 的 要 因 による 事 故 のメカニズムを 分 析 し 事 故 予 防 の 方 法 を 確 立 する 等 に 加 えて 3) 航 空 身 体 検 査 基 準 やウェイバー 審 査 を 改 正 する 知 見 や パイロットが 服 薬 可 能 な 薬 剤 の 選 定 (9) 生 活 指 導 の 根 拠 * を 確 立 する 臨 床 上 のニーズによるものがあ る ここでは 分 野 1)のうち 空 間 識 失 調 (SD:Spatial Disorientation)の 研 究 について 簡 単 に 触 れる 空 間 識 失 調 はHFと 並 び 多 岐 に 亘 る 因 子 が 複 合 し 認 識 困 難 なことや 経 験 を 有 するパイロットでも 陥 り 易 いという 理 由 から 現 代 航 空 大 事 故 の2 大 要 因 とされて いる 空 間 識 失 調 の 発 生 機 序 には 視 覚 前 庭 感 覚 体 性 感 覚 聴 覚 による 知 覚 入 力 の 不 32

整 合 のために 発 生 すると 言 われているが このうち 体 性 感 覚 については 実 機 環 境 の 再 現 が 困 難 なため これまで 余 り 研 究 が 成 されてこなかった 2007 年 航 空 医 学 実 験 隊 に 新 規 導 入 された 空 間 識 失 調 訓 練 装 置 (ASDD:Advanced SD Device)を 用 いて 航 空 医 学 実 験 隊 と 奈 良 県 立 医 大 和 田 佳 郎 准 教 授 によるチームが 耳 石 機 能 発 現 の 際 に 頸 部 体 性 感 覚 入 力 が 加 わると 傾 斜 感 覚 の 増 強 を 生 じるという 知 見 を 得 た(10) いわゆる 同 乗 者 の 方 が 操 縦 者 よりも 乗 物 酔 いし 易 い 事 と 関 連 付 けると 興 味 深 い * ) 戦 闘 機 パイロットは 洞 性 徐 脈 にならぬよう ジョギングは1 日 5km 以 内 とすること などがある (5)その 他 このほかにも ヘルメット マスク 耐 Gスーツなどの 人 体 の 防 御 性 機 能 を 向 上 さ せる 救 命 装 備 品 の 開 発 や 近 年 特 にドクターヘリの 導 入 に 際 し 航 空 患 者 搬 送 時 に 患 者 に 与 える 影 響 の 評 価 や 医 療 能 力 の 向 上 を 図 る 搬 送 器 材 の 評 価 開 発 (11)といった 部 門 は 依 然 として 航 空 医 学 上 の 重 要 な 課 題 であり 航 空 自 衛 隊 では 2006 年 新 設 された 航 空 機 動 衛 生 隊 において これらの 試 験 評 価 に 携 わっているFSが 存 在 するが 今 回 は 割 愛 した おわりに 今 回 学 会 長 西 田 育 弘 教 授 にお 招 き 頂 き 余 り 世 に 出 る 機 会 の 少 ないFSの 実 状 を 紹 介 する 機 会 を 得 ることができました 本 当 に 感 謝 しています 今 後 とも 航 空 宇 宙 の 安 全 の ために 学 会 員 の 皆 様 が 航 空 医 学 の 世 界 に 興 味 をお 持 ち 頂 く 一 助 となれば 幸 いです 参 考 文 献 1. 山 口 真 弘 須 之 内 義 和 臨 床 航 空 医 学 鳳 鳴 堂 書 店 東 京 P45~52 1995 2. 須 之 内 義 和 臨 床 航 空 医 学 鳳 鳴 堂 書 店 東 京 P51~52 1995 3.B. D. Lollis, R.Marsh, T.W.Sowin: Descriptive Epidemiological Survey of Depression in USAF Pilots and Navigators Being Considered for Return to Flight Status, Aviation, Space, and Environmental Medicine, Boston, USA, 2008 4 緒 方 克 彦 井 手 祐 一 草 野 浩 幸 航 空 機 による 減 圧 症 日 本 高 気 圧 環 境 医 学 会 雑 誌 Vol.35 p227~228 2000 5. 宮 川 貴 史 久 田 哲 也 前 川 孝 一 酒 井 正 雄 緒 方 克 彦 桒 田 成 雄 耐 G 訓 練 により 誘 発 された 頻 脈 性 不 整 脈 に 対 する 高 周 波 カテーテルアブレーション 治 療 の 経 験 日 本 宇 宙 航 空 環 境 医 学 会 東 京 2008 6.Roy L. DeHart: Aerospace Medicine, Lea & Febiger, Philadelphia, USA, p17~18, 1985 7.Frank H. Hawkins: Human Factors in Flight, Gower Technical Press, Hampshire, England, p17~23, 1987 8. 緒 方 克 彦 澤 村 岳 人 竹 岡 俊 一 福 間 詳 航 空 事 故 アフターケア 活 動 の 概 要 日 本 ト ラウマティック ストレス 学 会 神 戸 2006 33

9. 小 林 朝 夫 防 衛 医 学 防 衛 医 学 振 興 会 埼 玉 p440~443 2007 10. 和 田 佳 郎 緒 方 克 彦 頸 部 体 性 感 覚 入 力 が 傾 斜 感 覚 に 及 ぼす 影 響 日 本 宇 宙 航 空 環 境 医 学 会 東 京 2008 11.K. Kato, N. Makino: Trial to Establish an Aero-medical Evacuation Troop in Japan Air Self Defense Force: Aviation, Space, and Environmental Medicine, Boston, USA, 2008 34