( ) 第 回 FP 向上のための小論文コンクール 入賞作品 ( 年 日本 FP 協会 ) 佳作 貯蓄ゼロ世帯増加の要因と そこにある FP の役割 廣田士郎. はじめに わが国の家計における金融資産は 約 兆円 ) とされている 一方で 貯蓄ゼロ世帯 が増加し続けている 二人以上の全世帯における貯蓄ゼロ世帯の割合は 年代前半には % 程度であった 年以降は % 超に増加している 実に 世帯に 世帯が無貯蓄ということである ( 図 を参照 ) < 図 > 貯蓄ゼロ世帯割合の推移 ( 二人以上の全世帯 ) < 二人以上の全世帯 > ( 平成 年以降 ) 時系 列データ ( 昭和 年から平成 年まで ). 金融資産 の状況等. 貯蓄の有無 預貯金口座または証券会社 等の口座の有無 から筆者作成 本論文は この貯蓄ゼロ世帯問題が全世代にわたる問題であること また世帯の収入面だけでは測れない部分があることを明らかにする これら貯蓄ゼロ世帯増加の要因について 貯蓄を成し得る前提 貯蓄の意義 などの観点から考察を行う 考察した要因について検証を加え そこに与えられる FP の役割 重要性について論じることにする 昨今の不況 雇用環境悪化の下では 貯蓄をしたくともできない家計があることは否定しえない しかしながら 家計管理やライフプランニングなど FP の基本的な考え方が 貯蓄ゼロ世帯問題の 解消に有効であると主張する さらにこれらの分野における FP の活動が生活者に FP の有用性を知ってもらえることになると主張する. 貯蓄ゼロ世帯に関する分析 近年 貯蓄 ( すべての金融資産を含む ) ゼロ世帯が増加している 二人以上の全世帯における貯蓄ゼロ世帯の割合は 年から 年まで 年連続で % を超えている ( 図 を参照 ) 現在 国 地方は財政難の状況である また今後 少子高齢化の進行が予測される これらの影響により老齢年金などの公的年金制度 医療費など社会保障制度の維持が困難になってきている この状況において 貯蓄できない あるいは貯蓄しない 世帯が増加していることは 個々の世帯が大きなリスクに晒されている状態と言える 本章では 近年の貯蓄ゼロ世帯の実態について 年齢別 年収別 から分析する 図 は 年から 年までの世帯主の年齢別貯蓄ゼロ世帯割合を示すデータである 貯蓄ゼロ世帯割合は 歳代 歳代において若干多く見られる しかし 意外なことに 歳代という中高齢世代においても 各年の全体平均値に近い割合で貯蓄ゼロ世帯が存在している < 図 > 世帯主年齢別の貯蓄ゼロ世帯割合 ( 年 - 年 ) 貯蓄ゼロ世帯割合 % 世帯主年齢別の 歳代 歳代 歳代 歳代 歳代 歳以上全体平均 年 年 年 年 年 年 各種分類別データ ( 平成 年 ). 金融 - -
第 回 FP 向上のための小論文コンクール 入賞作品 ( 年 日本 FP 協会 ) 資産の状況等 および金融広報中央委員会 家計の金融資産に関する世論調査 [ 二人以上世帯調査 ] 全国階層別データ( 平成 年 ) 金融資産の保有状況 人以上世帯 から筆者作成 以上から 今日の貯蓄ゼロ世帯増加は全世代に及ぶ問題であることが確認できた また貯蓄ゼロ世帯化の要因は収入だけでは捉えきれない面があることもわかった 次章では 貯蓄を成し得る前提 や 貯蓄の意義 の観点から貯蓄ゼロ世帯増加の要因を考察する 次に表 は 年から 年までの世帯主の年間収入別の貯蓄ゼロ世帯割合を示すデータである 収入はない および 万円未満 と回答した世帯での貯蓄ゼロ世帯割合は 各年とも非常に高くなっている やはり 収入が少ない ( ない ) 状態は 貯蓄ゼロ世帯化に大きく影響している 一方 ~, 万円未満,~, 万円未満, 万円以上 と回答した世帯でも 平均値よりは低い数値であるが ある程度の貯蓄ゼロ世帯が存在している 比較的高収入の世帯でも 世帯に約 世帯程度が無貯蓄であるというデータが見受けられる ( 表 :% 以上の数値を色付きで表示 ) < 表 > 世帯主年収別の貯蓄ゼロ世帯割合 ( 年 - 年 ) 世帯主の年収 年 年 年 年 年 年 収入はない...... 万円未満...... ~ 万円 未満 ~ 万円 未満 ~, 万 円未満,~, 万円未満, 万円 以上.............................. 全体平均...... 各種分類別データ ( 平成 年 ). 金 融資産の状況等 および 金融広報中央委員会 家計の金融資産に関する世論調 全国階層別データ ( 平成 年 ) 金融資 産の保有状況 人以上世帯 から筆者作成. 貯蓄ゼロ世帯増加の要因 ~ 貯蓄に対する意志の度合い 強弱度 ~ () 貯蓄を成し得る前提 昭和期に出版された酒枝義旗氏の 貯蓄への意志に関する一考察 貯蓄の論理貯蓄に関する論説集 ( 日本銀行貯蓄推進部編 ) ) には 次のように記されている 貯蓄 ) それがなされるためには 少なくとも二つのことが前提されねばならぬ すなわち 第一には その世帯に何等かの生活余裕分が在るということ 第二には その余裕分を貯蓄に振り向けようとする意志が存すること これである いうまでもなく 何等の余裕も存しない世帯 すなわちその収入が辛うじて家族の生活を維持するに足る程度の世帯には 貯蓄をなしうる余地は存しないであろう しかし 余裕分さえあれば それは当然に貯蓄に振り当てられるとはいえない ) つまり 貯蓄を成し得るためには 貯蓄に振り向けられるだけの生活余裕分 と 貯蓄に振り向ける意志 の両方が必要ということになる () 貯蓄に対する意志の度合い 強弱度 貯蓄を成し得る上で 貯蓄に振り向けられるだけの生活余裕分 が存在することは必須の条件である しかし いかに収入に恵まれていても 貯蓄に振り向ける意志 が皆無であれば 貯蓄ゼロ世帯化 するケースが当然にあり得る 章で取り上げた比較的高収入であるにも拘わらず 貯蓄ゼロとなっている家計には その可能性もあると思われる また 貯蓄に振り向ける意志 は 貯蓄に振り向けられるだけの生活余裕分 が存在すること以上に重要な一面もある なぜなら元々 貯蓄に振り向ける意志 が強ければ 限られた収入でも支出を見直し 貯蓄に振り向けられるだけの生活余裕分 を生み出すことも可能な場合があるからである では 貯蓄に振り向ける意志 その度合い 強弱度はどのようなものによって左右されているの - -
第 回 FP 向上のための小論文コンクール 入賞作品 ( 年 日本 FP 協会 ) であろうか これについて検討したい () 貯蓄に対する意志の度合い 強弱度を左右するもの 貯蓄に対する意志の度合い 強弱度を左右するもの の考察にあたって そもそもの 貯蓄の意義 について確認しておきたい おそらく およそ二つの点が挙げられるのではないか 第一には もっとも原始的で基本的な貯蓄の意義とは何かということである 人類史上最初になされた 貯える 行為は 食糧の貯蔵であると考えられる この場合の貯蔵の意義とは 明日 ( 将来 ) の 生活に備える ということである 現代は 様々な社会保険や民間保険などが発達している それらが将来の生活保障の一部となっている側面もある しかし 今日でも 貯蓄する意義 は 将来の生活に備える ためであると言えよう 第二には 貯蓄の意義 = 欲しいものを手に入れる手段 ということである クレジットカードや割賦販売などの消費者信用産業が登場するまでの社会では 欲しいものを手に入れるためには 現金を貯めてから物を購入することが当たり前であった 金額的に小額な物であれば 毎月の収入の範囲でその他の支出とのバランスを考慮しながら購入することができる しかし 高額な消費財などであれば 購入前から計画的にお金を貯めていくことが当然であった つまり 以前は 欲しいものを手に入れる手段 としても 貯蓄の意義が認められる時代であった クレジットカードや分割払いのシステムなど家計や個人が ローンを利用できる仕組みが広く普及していった 手元にお金がなくても 欲しいものを手に入れること が実現できる世の中となった 個人や家計にとって実に便利な時代である だが これらには 欲しいものを手に入れるには まずお金を貯める という意識や 概念を希薄化させる面もある 未だ実現していない 将来の収入を取り崩す ことが可能なキャッシュレス時代の到来は 貯蓄に対する意志の度合いを左右する ひとつのマイナス要因になっていると言えよう これらクレジット社会の発達が貯蓄ゼロ世帯の増加と大いに関連していると考えた 以降この点について考察する. 貯蓄ゼロ世帯増加の要因 ~ クレジット社会との関連 ~ クレジット 個品割賦販売など消費者に対し 商品の販売 サービスの提供等を行うに際して 対価の支払いを繰り延べるために与えられる信用 ) は販売信用と言われる 表 は 年から 年までの販売信用供与額 家計可処分所得 家計可処分所得に占める販売信用供与額の割合 貯蓄ゼロ世帯の割合を一覧にしたものである < 表 > 販売信用供与額 家計可処分所得 家計可処分所得に占める販売信用供与額の割合 貯蓄ゼロ世帯の割合一覧表 ( 年 - 年 ) 販売信用 供与額 家計可処 分所得 供与額 / 所得 貯蓄ゼロ A ( 兆円 ) B ( 兆円 ) A/B(%) 世帯割合 (%)...%.%...%.%...%.%...%.%...%.%...%.%..%.%..%.%...%.%...%.%..% %...%.%..%.%...%.%...%.%..%.%...%.%..%.%..%.%...%.%...%.%...%.%...%.%...%.%...%.%..%.%..%.%...%.% ( 社 ) 日本クレジット産業協会 日本の消費者信用 統計 平成 年版 平成 年版 および - -
第 回 FP 向上のための小論文コンクール 入賞作品 ( 年 日本 FP 協会 ) 内閣府 国民経済計算確報 平成 年度確報 - 昭和 年までの遡及結果を含む - 制度部門別所 得支出勘定 家計 ( 個人企業を含む ) 所得の第 次分配勘定 可処分所得 ( 純 ) および 金融広報中央委員会 家計の金融行動に関する世論 調 ( 平成 年以降 ) 時 系列データ ( 昭和 年から平成 年まで ). 金融資産の状況等. 貯蓄の有無 預貯金口座また は証券会社等の口座の有無 から筆者作成 表 から 年 ~ 年の間に家計可処分所得は約 倍弱 (. 兆円. 兆円 ) に増加している 一方で 販売信用供与額は 年 ~ 年の間に約. 倍 (. 兆円. 兆円 ) に増加している また 年 年の家計可処分所得に占める販売信用供与額の割合は % を超えている ( 表 に色付き表示 ) 次に表 から この 年間の 家計可処分所得に占める販売信用供与額の割合 と 貯蓄ゼロ世帯の割合 との相関を調べてみた 結果は図 に示した 決定係数が. 相関係数が. という高い数値が得られた 以上のように 家計可処分所得に占める販売信用供与額の割合 と 貯蓄ゼロ世帯の割合 との間には 非常に強い相関があることがわかった < 図 > 家計可処分所得に占める販売信用供与額の割合 と 貯蓄ゼロ世帯の割合 に関する回帰分析 相関係数 ( 年 - 年 ) 発達 との因果関係を証明するものではない しかしながら 強い相関が認められることは事実である 貯蓄ゼロ世帯問題の解消 には 改めて しっかりした 家計管理 や ライフプランニング の考え方が重要だと言えるのではないか 今日のクレジット社会 ( 個人借入が比較的容易な社会 ) は 我々に ファイナンスの自由 を与えてくれている 企業におけるファイナンスの概念では 負債を利用する ( レバレッジ ) ことも重要視される それは 負債の元利払いが十分に行える 負債の元利払いを上回る事業の利益がある という計画や見通しが当然にあっての話である この点においては コーポレート ファイナンスも パーソナル ファイナンスも全く同じである 我々個人に与えられている ファイナンスの自由の利用 にも 計画や見通し 知識が不可欠である それには学びが必要である この点特に 若い世代には十分な教育機会が求められる この種の役割の担い手となる 最も相応しい職業はファイナンシャル プランナーに他ならない 現在 日本 FP 協会は社会教育にも取り組んでいる 主に高校などへのパーソナル ファイナンス教育インストラクターの派遣等がそれである また各都道府県の支部も様々な社会教育に取り組んでいる これらの取り組みを個々の FP が行うことは容易ではない 今後もっと これらの取り組みをより広く 大きく そして組織的に 試行錯誤しながらでも続けることが FP の認知に繋がると考える もっと多くの学校などでパーソナル ファイナンスの分野が学ばれるべきである そのことが求められる根拠の一端は示せたと考える 家計可処分所得に占める販売信用供与額割合と貯蓄ゼロ世帯割合 y =.x -. R =. 相関係数. 家計可処分所得に占める販売信用供与額の割合 (%). 貯蓄ゼロ世帯問題に関する考察と FP の役割 これまでの論は 貯蓄ゼロ世帯の増加 と クレジット 個品割賦販売などの消費者信用産業の ) 金融広報中央委員会ホームページ 金融と経済のしくみ 暮らしに身近な統計集 暮らしと金融なんでもデータ ( 平成 年 ) 金融資産と負債 - 金融資産 ) 酒枝義旗 貯蓄への意志に関する一考察 日本銀行貯蓄推進部編 貯蓄の論理 貯蓄に関する論説集 貯蓄増強中央委員会 - 年 ) 筆者が追加表記 ) 酒枝義旗 貯蓄への意志に関する一考察 日本銀行貯蓄推進部編 貯蓄の論理 貯蓄に関する論説集 貯蓄増強中央委員会 - 年 ページ )( 社 ) 日本クレジット産業協会 日本の消費者信用統計 平成 年版 ページ - -
第 回 FP 向上のための小論文コンクール 入賞作品 ( 年 日本 FP 協会 ) < 回帰分析の概要 > 分散分析表 回帰統計 自由度 変動 分散 有意 F 重相関 R. 回帰....E- 重決定 R. 残差.. 補正 R. 合計. 標準誤差. 観測数 係数標準誤差 t P- 値 切片 -.. -..E- X 値....E- 下限 % 上限 % 下限.% 上限.% -. -. -. -..... [ 参考文献 参考ホームページ ] 外山茂 勤勉と貯蓄の哲学 : 日本資本主義の精神 貯蓄増強中央委員会 年 酒枝義旗 貯蓄への意志に関する一考察 日本銀行貯蓄推進部編 貯蓄の論理 貯蓄に関する論説集 貯蓄増強中央委員会 - 年 鈴木亘 どのような人々が無貯蓄化しているのか 金融広報中央委員会調査 アンケート 個票データを用いた研究成果 金融広報中央委員会 年 鈴木久清 クレジット社会虚像と実像 新日本出版社 年 社団法人日本クレジット産業協会 日本の消費者信用統計平成 年版 社団法人日本クレジット産業協会 日本の消費者信用統計平成 年版 福住正兄筆記 佐々井信太郎校訂 二宮翁夜話 岩波書店 年 貝塚啓明監修 FP テキストパーソナルファイナンス 日本 FP 協会発行 年 大屋幸輔 コア テキスト統計学 新世社 年 知るぽると金融広報中央委員会 金融と経済のしくみ 調査 アンケート http://www.saveinfo.or.jp/finance/chosa/ind ex.html 内閣府 統計情報 調査結果 SNA http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html 日本 FP 協会 日本 FP 協会について 社会教育への取り組み 高校生向け学習教材 代から学ぶパーソナルファイナンス http://www.jafp.or.jp/about/personal_financ e/personal_finance.shtml - -