生殖補助医療の際の黄体補充療法ハンドブック ~ ルテウム 腟用坐剤を使用される方へ ~ 監修 : セント ルカ産婦人科院長 宇津宮隆史先生
妊娠のしくみ 妊娠は以下のようなステップで成立します Step1 卵胞発育脳にある下垂体から分泌される 卵胞刺激ホルモン (FSH) が卵巣内の卵胞を発育させます Step2 射精 精子の子宮内侵入性交により精液が腟内に入ります 腟に入った精子は 子宮を通過して 卵管を登っていきます Step3 排卵卵胞が成熟すると 黄体形成ホルモン (LH) が分泌され 卵子が卵巣を飛び出します( 排卵 ) そして 排卵された卵子は卵管に取り込まれます Step4 受精卵管で卵子と精子が受精します Step5 着床受精した卵 ( 受精卵 ) が分割しながら卵管を下り 子宮内膜に着床します また 卵胞は排卵後に黄体に変化します この黄体から分泌される 黄体ホルモン ( プロゲステロン ) が着床をサポートします 排卵 受精 着床の様子 視床下部 下垂体 脳 LH ( 排卵を起こす ) 卵管 FSH ( 卵胞を育てる ) Step4 受精 Step1 卵胞発育 卵胞 Step5 着床 子宮内膜 卵巣 黄体 Step3 排卵 黄体から分泌されるプロゲステロンが着床をサポートします Step2 射精 精子の子宮内侵入 2
不妊治療について 妊娠は 避妊をしないで定期的に性交をしていれば 1 年で8 割のカップルに成立するといわれていますが 1 年以上経っても妊娠しない場合は 不妊症 と定義され 治療が必要になることがあります 不妊治療は 不妊の原因に応じて治療法が異なります 具体的には 排卵時期を予測して性交の時期を指導するタイミング療法や お薬で排卵を起こさせる排卵誘発法 子宮の中に精子を注入する人工授精法 体外で精子と卵子を受精させ 子宮に移植する生殖補助医療まで様々な方法があります また 不妊原因となっている部分を手術で取り除く方法 ( 手術療法 ) もあります タイミング療法 性交のタイミングを医師が指導します 排卵誘発法 排卵がない方に 排卵誘発剤で排卵を起こさせます 人工授精法 精子の数が少ない場合などに 排卵時期に合わせて精子を子宮内に注入します 手術療法 卵管の癒着や子宮筋腫 子宮内膜症がある場合などに 手術が行われることがあります 生殖補助医療 (ART) 生殖補助医療 (Assisted Reproductive Technology:ART) は 精子と卵子を体の外で受精 ( 体外受精 ) させ 受精卵を発育させた後に子宮に戻す方法です この方法は 卵管が詰まっていて妊娠することができない場合 精子の数が少なくて受精しにくい場合 ( 人工授精が無効な場合 ) 他の治療法で妊娠が成立しない場合などに行われます 精子 採卵 子宮内移植 他に 精子と卵子を受精前に卵管内に移植する 配偶子卵管内移植 (GIFT) 法もあります 媒精 受精 卵分割 3
ARTの基本的な実施方法 施設によって異なります ARTでは卵子を体外に取り出して 体外で精子と受精させた後に数日間培養してから子宮に戻します 通常 排卵誘発剤で卵巣を刺激することが多く このときに複数の卵子が採取され たくさんの胚が得られた場合は 別の機会に子宮に戻せるように胚を凍結して保存することがあります ( 施設によっては卵巣刺激をした後には子宮に戻さず 全て凍結してから別の機会に戻すこともあります ) 受精卵は 2~5 日間くらい培養してから子宮に戻します また 培養した受精卵を凍結して保存した場合は子宮に戻すときに 排卵の時期に合わせるか 女性ホルモン ( エストロゲン ) 剤を使用して子宮内膜を厚くしてから戻します どのような方法で行うかは 患者さんの状態や希望 先生の治療に対するお考えなどによって異なるので 詳細は主治医にご相談ください 排卵誘発剤 Step1 卵巣刺激 Step6 胚移植 Step2 採卵 Step5 胚の確認 Step4 培養 Step3 体外受精 卵子 精子 採精 プロゲステロン 媒精 プロゲステロンの補充 ARTを行う場合は 子宮の環境を整え 妊娠を維持するために 黄体補充療法 を行います 女性の身体では排卵の後に黄体ホルモン ( プロゲステロン ) が卵巣から分泌され 妊娠維持に働くので 黄体補充療法としてプロゲステロンがよく使用されます 凍結胚移植の場合胚の凍結 融解 4
Step1 卵巣刺激 排卵誘発剤を使用して卵巣を刺激し 複数の卵胞の発育を促します 患者さんの状態によって注射剤を使う場合と作用がマイルドな飲み薬を使う場合などがあります Step2 採卵 超音波で確認しながら 腟から卵巣内の卵胞に針を刺して採卵します 採卵した周期に移植を行う場合は 採卵した日から黄体補充療法としてプロゲステロンを投与します Step3 体外受精 媒精または顕微授精 により精子と卵子 を受精させます 精子の数が少ない場合や運動率が低い場合に 顕微授精が行われます 主な方法に卵細胞質内 精子注入法 ICSI があります 精子 卵子 卵子 媒精 培養液の中で 精子と 卵子を一緒にします 精子 ICSI 顕微鏡下で精子 1匹 を 直接卵子の中に注入します Step4 培養 受精を確認し 受精できた卵を体外で数日間培養します Step5 胚の確認 受精3日目頃の良好分割期胚 受精5日目頃の良好胚盤 胞期胚 を顕微鏡で確認します 良好分割期胚 不良な胚 良好胚盤胞期胚 卵子は受精後に細胞分裂 分割 を繰り返していき 受精3日後には 良好分割期胚 5 6 日後には 良好胚盤胞期胚 と呼ばれるよう になります 新鮮胚移植の場合 Step6 胚移植 胚を子宮に戻します 凍結胚移植の場合 胚の凍結 胚を液体窒素で凍結し 後日移植するために 保存しておきます 子宮内膜の厚さの調整 月経の後 子宮内膜が厚くなる のを待つか 女性ホルモン エス トロゲン 剤を使って子宮内膜 を厚くします 女性ホルモン エストロゲン 剤 子宮内膜が厚くなったら 黄体補充療法としてプロゲステロンを投与します Step6 胚の融解 移植 保存しておいた胚を融解し 子宮に戻します 良好分割期胚 良好胚盤胞期胚 または 5
お薬による黄体補充について ルテウム 腟用坐剤とは このお薬は ARTで黄体補充を行う際に使用する天然型の黄体ホルモン製剤です 胚盤胞の子宮内膜への 着床 や 妊娠維持 に重要な働きをするプロゲステロンを補充する目的で 腟内に挿入して使用します ルテウム 腟用坐剤 400mg( 有効成分 : プロゲステロン ) 2.94cm 実物大です このお薬は 油脂性の腟用坐剤です 腟内に挿入すると体温で溶けて有効成分が溶け出し 腟から吸収されて子宮に届きます このお薬は 1 日 2 回 1 回につき1 個を腟内に挿入して使用します 使用開始日 と いつまで続けるか については 主治医にご確認ください いつから開始? いつまで続ける? 新鮮胚移植の場合凍結胚移植の場合 採卵日から 子宮内膜が十分な厚さになった時点から 最長 10 週間または妊娠 12 週まで使うことが可能 妊娠 12 週頃には 胎盤からプロゲステロンが十分に分泌されるようになります そのため 妊娠 12 週以降は このお薬を続ける必要はありません 6
ルテウム 腟用坐剤の使用にあたって注意すること 25 以下で保管 飲まない ( 腟に入れる ) このお薬は 体温に近い温度になると溶けてしまうので 25 以下の涼しい場所 ( 夏場は冷蔵庫など ) で保管してください 一度溶けたお薬は 使用しないでください このお薬は 腟内に挿入します 決して飲まないでください また 肛門に挿入しないでください ルテウム 腟用坐剤の副作用 腟からの子宮出血 外陰部 腟のかゆみ 下腹部痛などの症状が現れることがあります 眠気やめまいが起きることがあるので 自動車の運転などをする場合はご注意ください 不安や気分の変化が起こりやすくなることもあります まれに 血栓症 が現れることがあります 次のような症状が現れた場合はすぐに主治医に連絡してください ふくらはぎの痛み 腫れ 手足のしびれ 鋭い胸の痛み 突然の息切れ 押しつぶされるような胸の痛み 激しい頭痛 脱力 まひ めまい 失神 目のかすみ 舌のもつれ しゃべりにくいなど その他 気になる症状がある場合は 主治医に相談してください 7
ルテウム 腟用坐剤の挿入方法 はじめに トイレは済ませておき 手指を石けんできれいに洗いましょう 爪は切っておいてください Step1 お薬 ( 腟用坐剤 ) を取り出します Step2 お薬を腟の入口にあて 少し挿入します パッケージを開けてお薬を取り出し 先の細い部分を上にしてお薬を持ちます 開封のとき 指を切らないように気をつけてください 楽な姿勢でお薬を腟の入口にあて お薬の先を少し腟へ挿入します 腟の入口 < お薬の持ち方 > 先の細い部分 < 挿入時の姿勢 > 挿入時の楽な姿勢は 人によって異なります ご自身に合った姿勢で お薬を入れてください 片膝をついて入れると入りやすくなります しゃがむ 立位 ご注意くださいお薬を長い間 手で持っていると 体温で溶けることがあるので 開封後はすみやかに挿入してください 仰向け 挿入後も手を洗いましょう 8
Step3 お薬を押し込みます おなかの力を抜いてリラックスし 指でお薬を腟の奥まで押し込みます < 挿入位置 > 挿入位置が浅いと違和感を感じることがあります 図のように腟の一番奥に入れてください ポイント 指は根元 ( 第 3 関節 ) まで入れて できるだけ腟の奥に押し込んでください ご注意ください挿入後 20~30 分は 歩行や入浴 激しい運動を避けて なるべく安静にしてください 挿入後すぐにトイレに行くと お薬が腟から出てくることがあります 9
Q&A Q1: このお薬を使用できない人はいますか? A: このお薬に含まれる成分によって 過去にアレルギーを起こした経験があるなどの理由で使用できない人がいます 副作用を起こさないためにも 主治医等の質問には正確に答えてください Q2: 外陰部や腟のかゆみなどの症状が現れたらどうしたらいいですか? A: 主治医に相談してください このお薬は 自己判断で使用を中止したり 使用する回数や量を変更したりすると本来の効果が得られません Q3: うまく挿入するにはどうしたらいいですか? A: 挿入しやすい姿勢は人によって異なりますので いろいろな姿勢 (8ページ 挿入時の姿勢 参照 ) を試したり 挿入する角度を変えたりしてみましょう お薬を挿入するときに不安や緊張があると 無理な力が入り 痛みを感じやすくなったり うまく挿入できなかったりすることがあります なるべくリラックスした状態で ゆっくり息を吐きながら挿入すると 力が抜けて挿入しやすくなります Q4: お薬を腟の奥まで挿入したときに子宮の中に入ることはありませんか? A: 腟の奥には子宮口がありますが ここは通常は閉じられているので 奥に挿入しても子宮の中にお薬が入ることはありません Q5: お薬が出てきてしまいました どうしたらいいですか? A: 挿入したお薬がすぐに出てきてしまったときは 再度 そのお薬を挿入してください また 挿入後しばらくしてから溶けたお薬が出てくることがありますが 少量の場合はすでにお薬の有効成分が吸収されているので問題ありません たくさん出てきてしまった場合は 主治医に相談してください 10
Q6: お薬挿入後は安静にした方がいいのですか? すぐに動いても大丈夫ですか? A: 通常通りの生活をして差し支えありませんが 挿入後 20 30 分は 歩行や入浴 激しい運動は避けてなるべく安静にしてください また 挿入後すぐにトイレに行くと お薬が腟から出てくることがあります Q7: お薬挿入後に入浴してもいいですか? A: お薬の挿入後 30 分以上経っていれば入浴してもかまいません Q8: お薬を使用し忘れてしまったときは どうすればよいですか? A: 主治医の指示に従ってください 一般的には 忘れたことに気づいた時点で使用しますが 次の使用時に気づいたときは1 回分のみを使用します (2 回分を挿入しない ) Q9: お薬はどのように保管すればよいですか? A:25 以下の涼しい場所で保管してください 保管場所の温度が25 を超える場合は 冷蔵庫で保管してください 0 以下で保管するとひび割れが起きることがあるので 冷凍庫での保管は避けてください また お子さんの手の届かないところに保管してください Q10: お薬を持ち運ぶときの注意点はありますか? A: このお薬は体温で溶けるようになっているため 気温が体温に近くなるとお薬が溶けてしまうことがあります 暑い日にお薬を持ち歩く際は 保冷剤と保冷袋を用意すると安心です 車の中など高温になりやすい場所には 置き忘れないようにしてください 一度溶けてしまったお薬は使用しないでください Q11: 他科でお薬をもらったのですが 飲んでも大丈夫ですか? A: 他のお薬 ( 他の腟剤を含む ) を使用される場合は 主治医または薬剤師に相談してください 11
LTM005 2016 年 4 月作成