シリーズ 漢方診療外来 久留米大学医療センター 先進漢方治療外来 専門性を踏まえた漢方治療を発信する 漢方EBMの構築 そして最後の砦としての役割 久留米大学医療センター 写真下 左から久留米大学病院 久留米大学本館 2009年4月 久留米大学医学部に 先進漢方医学講座 Department of Innovative Kampo Medicine が誕生した 同時に久留米大学医療センターに 先進漢方治療外来 が開設され 現在 漢方精神科 漢方小児科 漢方産婦 人科を標榜し 地域住民の広範な医療需要に応えているその誕生から現在の診療活動 将来展望まで 尽力される学内 4人の医師 薬師寺道明 学長 伊藤雄平 医療センター病院長 八木実 外科学講座主任教授 恵紙英昭 先進漢方医 学講座准教授 神経精神医学講座兼務 の各氏にそれぞれの立場からお話をうかがった 古い話ですが いわゆる大正末 講座開設の大きな理由 本を薬師寺学長はこう語る 期の大学令の意図は 当時の大学間 本学の医学教育の原点は創立の 格差の是正にあったわけですが 既 趣旨に基づき実践的医師の養成に 久留米市は福岡県の南部 広大な 存の医学専門学校が大学に昇格し ありますが その教育理念は初代 筑後平野の中心部にある市内を水 た反面 急速に医療の地域間格差が 伊東祐彦校長の言葉 学医必ずしも 量の豊かな筑後川がゆったりと蛇行 生じ 福岡県でも無医地区が増えま 良医にあらず良医必ずしも学医に する水と緑に恵まれた都市だまた したこのような状況を憂えた当時 あらずただ善良なる人のみが良医 石橋美術館や坂本繁二郎 青木繁な の福岡県医師会会長 溝口喜六氏 となり得 にあります ど わが国近代の代表的洋画家を輩 はじめ県医師会の有志は 久留米市 私の専門分野は産婦人科学です 出した文化の香り高い市でもある ならびに地元財界の石橋徳次郎 が 人間の生命の誕生から終末まで 久留米大学医学部は筑後川のほとり 正二郎氏らの支援を得て 1928年 関与せざるを得ませんそのさまざ にあり 今年創立82周年を迎えた 九州医学専門学校を創立しました まなステージで 患者さんが私たち 2009年4月には 関係者の努力が結実 これが本学の前身です 医師に本当は一体なにを求めてい し 先進漢方医学講座 が誕生した 一貫して地域や患者とともに歩 るのか 考えざるを得ませんここ まず 本学の特徴 講座誕生の経緯 む久留米大学の特徴は この創立時 から学んだことは 医療はあくまで を薬師寺学長にうかがった から継承されてきた医学教育の基 社会のなかにある という認識です 282 72 Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.34 No.3 2010
福岡県久留米市 学問偏差値向上もさることながら ます 表1 2009年度には 神経精神 人間偏差値向上の教育も大切です 医学講座の恵紙英昭准教授を専任 昨年 先進漢方医学講座 を開設し として先進漢方医学講座を立ち上げ た大きな理由は 患者さんが求めて ましたまだ緒についたばかりです いることを評価し 具体的に解決す が 大学でこそ推進できる漢方医学 る手段の1つを漢方医学が提供して の新しい展開を期待しているところ くれると考えたからです です 一方 講座誕生とともに久留米大 世界に発信できる Innovativeな漢方を 目指す 薬師寺学長は産婦人科領域で漢 学医療センターに 先進漢方治療外 来 が開設された 現在 八木実先生 恵紙英昭先生 佐野智美先生 藤本剛史先生の4人で 連日外来を開いています 表2 また 方治療がしばしば奏効する経験をし 緩和ケア領域でも恵紙先生 佐野先 てきたこと また全国的にも漢方医学 生 麻酔科学 中心に 癌患者の化学 教育が普及発展してきたことから 久 療法や放射線療法に起因する副作用 留米大学でもより充実させる必要性 に六君子湯を用いたアプローチをし を感じたという講座開設までの学 ています複数診療科共同による各種 内の経緯 教育の現状をうかがった 方剤の客観的評価 漢方薬のエビデン 久留米大学には東洋医学研究会 ス も行っていますさらに精神疾患の が組織されていましたが 2006年度よ 神経科学的 消化器疾患の治療的基 り医学部内で漢方医学に興味を抱く 礎研究を行い 世界に発信できる 医師を募りましたそして内輪の勉強 Innovativeな漢方を目指しています Development を形成し 自主的に集 まった学生を教育しながら 具体的 な教材や教えるコツを評価し合い漢 方医学教育の基礎を築きました 2008年度より1 3 4年次合わせて 11コマの漢方医学教育を開始してい やくしじ みちあき 久留米大学 学長 からなる久留米大学病院から少し 会からスタートし 漢方医学選択性セ ミナーなどを開催しFD Faculty 薬師寺 道明 西洋医学と漢方医学を 統合したオリジナルな 診療に期待 離れた国分町地区にあり 2007年に 完成した瀟洒な病棟が青空と緑にひ ときわ映える伊藤雄平病院長 小児 科教授 にうかがった 久留米大学医療センターは現在18 久留米大学医療センターは1994 の診療科 ベッド数300床 医師50人 年 全国の国公立病院の統廃合の際 看護師 コメディカル 事務職員400人 国立久留米病院が久留米大学に移管 されて誕生しました私は2008年4月 表1 久留米大学医学部 漢方医学教育 に病院長に就任して以来 患者さん 1年次 3コマ 中国医学の歴史 日本漢方の歴史 漢方薬と西洋薬の対比 など にクオリティの高いトータルケアを提 3年次 4コマ 漢方医学基礎編 病態把握として陰陽 虚実 表裏 寒熱 病態把握法とし 供できるよう あらゆる職種を1つの チームとして チーム医療センター ての気血水 五臓 六病位 漢方診察法 四診 随証治療など 4年次 4コマ 漢方医学応用編 生薬の基本的性質 生薬の薬性 薬能分類 治法の基本八 法 汗吐下和清温消補 代表的な 身近な 漢方エキス方剤の治法 保険適応 をコンセプトに掲げてきました また 筑後地域の病院 病床数は 全国的にも密度が高く 300床規模の エキス製剤処方 適応症 副作用 など 病院を効率的に運営していくために 選択性セミナー 1 4年次 13コマ/年 2008年度より 73 283 Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.34 No.3 2010
シリーズ 漢方診療外来 久留米大学医療センター 先進漢方治療外来 また久留米大学病院との機能分担を 心がけています 久留米大学病院ではなく久留米大 学医療センターに先進漢方治療外来 外科学講座 小児外科部門 八木 が開設された大きな理由は よりボリ 実主任教授は毎週木曜日 漢方小児 ュームのある形で外来を提供できる 科 を標榜し診療にあた ことにあったという るその現状をうかがった 当センターでは特色ある外来づ 私は以前から専門が小児外科と くりを心がけていましたので その意 いうこともあり 子どもを対象とした 味で一致しました大学の特質を活 漢方治療を行ってきました卒後11 かしEBMを踏まえた漢方という意味 年まで消化器外科医として一般病院 で 先進 という名が冠され これは での成人症例の経験もあったので 当センター内のニーズとも合致しまし 漢方治療も経験を重ねるうち成人例 た現在 開設約1年 地域住民に浸 も診られるようになり 現在 当外来 透するに従い 受診者数も右肩上が ではも担当しています小 りで推移しています 児でよくみられる疾患や病態には虚 今後 当センター内への認知度を 伊藤 雄平 いとう ゆうへい 久留米大学医療センター 病院長 弱体質や食思不振 排便障害 機能 拡大し 今ある18科がより連携して 性胃腸障害 FD アレルギー疾患 いきたいと思います私の専門は小 夜尿症 軽度の精神神経疾患 多動 児科ですが 心身症などでかつ漢方 児 などがあります 治療が適応と考えられる例では 漢 また 乳幼児では夜泣きや疳症な 方精神科に紹介して診ていただいて ども診ています最近では小児の直 います 腸肛門疾患に漢方治療の有用性が 小さな総合病院より特色ある病院 づくり を目指してきましたその一環 外来ではすべての世代の 患者を診る 医療センター病院長としての今後 報告され 当外来でも多く診ています 一方 女性ではどの世代でも冷え症 の抱負をうかがった として2008年に 整形外科 関節外科 どの診療科であれ 久留米大学 が多く 更年期障害の方も多く来院さ センター 大学病院 脊椎 スポー 医療センターの存在を全国に発信で れます男性では基本的に加齢によ ツ医学中心 当センター 関節関連 きるクオリティの高い診療を目指して る腰 下肢の脱力感 しびれなどや 疾患中心と機能分担 2009年に が います特に先進漢方治療外来のよ 泌尿器系症状に対する漢方治療が中 んワクチン外来 消化器系がん対 うな新しい診療形態をとっているとこ 心です 表3 応 先進漢方治療外来 乳幼児か ろは期待が大きいです西洋医学と 八木教授は1日の外来で10 15人の ら高齢者まで対応 など 地域の患者 漢方医学を統合したオリジナルな診 患者の診察にあたるが 特に漢方小児 さんのニーズに沿った診療科づくり 療を開発してほしいですね 科での漢方治療適応例をうかがった 表2 先進漢方治療外来 標榜科 担当医 月曜日 午 前 担当医 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 漢方精神科 漢方精神科 漢方産婦人科 漢方精神科 漢方小児科 恵紙英昭 恵紙英昭 藤本剛史 恵紙英昭 八木 実 佐野智美 久留米大学医療センター 284 74 Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.34 No.3 2010
福岡県久留米市 最近の経験例では 器質的病変 がみられないのに嚥下状態が悪く食 ブ クリョウイ ン ゴ ウ ハ ン 事が摂れない子どもに 茯苓飲合半 ゲ コウボクトウ 漢方薬の新しい用い方 ダ イ ケ ンチュウト ウ 夏厚朴湯を投与したところ 嚥下状態 最近 八木教授は大建中湯が小児 が著明に改善し摂食状況もよくなった の便排出力改善に働くエビデンスを 例があります半夏厚朴湯が嚥下状 海外誌に投稿しアクセプトされたと 態改善に働き 茯苓飲が胃の食中食 のことで その概要をうかがった 後の早期膨満感改善に働いたと考え 大建中湯は現在 小児消化器外 られます実は今日 この子の胃電図 科領域では術後排便障害 直腸肛門 を測定したところ正常に近い波形に 奇形術後などでしばしば遭遇 に用 改善されたことを確認できました いていますこの場合 単に下剤だ また 小児でもFDで食事が摂れ けでは便秘を改善できません体力 ない例に 私は当外来でも病棟でも が低下し便を排出する力がない子 リックン シ トウ 六君子湯を中心に投与しています どもの場合 少量の酸化マグネシウ さらに 私たちの小児外科領域では ムなどの緩下剤と大建中湯を併用 胆道閉鎖症という難病があります しますこれで日常の排便習慣がス 手術後は胆汁が分泌され減黄もされ ムーズになり QOLが大幅に改善す 総ビリルビン値も改善しているにもか る例を経験しましたそこで模擬便 かわらず しだいに線維化が進行す の直腸内注入を直腸肛門内圧検査 る例にしばしば遭遇しますこれらに の後に併用して フェコフロメトリー インチンコウトウ は茵 蒿湯を投与していますまた 測定にて大建中湯投与群 非投与群 減黄したものの 学童期 成人期に で検討してみましたその結果 投 なって感冒等が誘因で総ビリルビン 与群で便の排出力が著明に改善す サイレイトウ 値が再上昇するような例では柴苓湯 るエビデンスが得られたのですこ を加え奏効した経験があります の他 小児の腹痛 便秘などに桂枝 ケイ シ 八木 実 やぎ みのる 久留米大学医学部 外科学講座 主任教授 小児外科部門 カ シャクヤ ク ト ウ ショウケ ンチュウト ウ 加 薬湯 小建中湯をベースとした 治療を行っています 表3 先進漢方治療外来 主な対象疾患 症状 乳幼児の肛門周囲膿瘍には従 ジュウ ゼ ン タ イ ホ トウ 精神科関連 うつ病 不安障害 動悸 イライラ 不眠 不登校 自律神経失調症 など 来 十 全大 補 湯 が推奨されてきた 小児科関連 疳症 風邪をひきやすい お腹を痛がる虚弱児 夜尿症 夜泣き など が 八木教授は排膿散 及 湯 を用い 消化器疾患 食欲不振 機能性胃腸症 胃腸障害で腹痛 下痢 便秘など 痔 など 良好な結果を得ているという 呼吸器疾患 かぜ症候群 咳 痰 など 産婦人科疾患 月経不順 月経痛 更年期の症状 不妊 習慣性流産 など 投与したところ 数日で赤味が消失 耳鼻科疾患 鼻炎 めまい ふらつき のどの痞え 耳鳴 など し 軽症例では排膿せず自然消失 緩和ケア関連疾患 がんによる全身 怠感や吐き気などの体の不調 体力低下 など 発赤腫脹が強い例でも内服後2 3 疼痛性疾患 リウマチなどの膠原病の痛み 神経痛や歯痛や西洋医学で制御できない 痛み など ハ イ ノ ウ サ ンキュウト ウ 当外来で数例に排膿散及湯を 日して自然排膿し短期に炎症が治 った例を経験しています乳幼児 老化関連疾患 膝関節痛 しびれ かすみ目 認知症 など の肛門疾患には排膿散及湯を中心 泌尿器科関連疾患 頻尿 慢性膀胱炎 前立腺肥大症 など とした漢方治療が非常に有用だと アレルギー疾患 アトピー性皮膚炎 喘息 花粉症 蕁麻疹 など 思います その他 冷え症 手足のほてり 体力低下 にきび 頭痛 肩こり むくみや肥満 など 久留米大学医療センター 75 285 Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.34 No.3 2010
シリーズ 漢方診療外来 久留米大学医療センター 先進漢方治療外来 大学病院は最後の砦 一方 成人の慢性的な病態に対し て 漢方診療の工夫や利点をこう語 る 整形外科的に明確でない難治性 ヂ ダ 疼痛を抱えた高齢者の場合 治打 ボクイッポウ 撲一方を基本として駆 血剤である 残る場合 漢方治療の有用性を十分 どの世代も満遍なく受診していま 説明した上で これを導入すれば患 す現在もこの傾向は変わりません 者さんの愁訴を軽減もしくは解消す 漢方精神科では神経症 うつ病が多 ることができます く では冷えや加齢などにと 大学病院は西洋医学的に幾多の もなう末梢循環不全 整形外科 神経 施設でベストを尽くしても難治性で 内科的疾患 漢方産婦人科では更年期 あった患者さんの最後の砦としても 障害 冷え症などの患者さんが多く訪れ 機能すべきです乳幼児から高齢者 ます 表4 最終的に漢方治療の有用 まで この外来で西洋医学と漢方医 度も調べましたが 全体を通して著明改 桂枝茯苓丸 痛みを緩和するブシ末 学を融合させた形での漢方治療を 善 中等度改善 軽度改善を合計すると を加え軽減できる例を多く経験して 一人でも多くの方に享受していただ 84 の患者さんで効果が認められてい います きたいと思います ます 図1 ケ イ シ ブ クリョウガ ン また 変形性膝関節症で整形外科 的処置が済んでいても具合が悪い ボウ イ 人も多く来院しますこれには防己 オウ ギ トウ 黄耆湯が有効ですが 桂枝茯苓丸を 漢方精神科で多いうつ病に対し 全体を通して84 に 漢方治療の効果 て 漢方治療の適用をうかがった 症状評価尺度で軽症から中等度 までは漢方薬中心でコントロールで 加え より効果がみられる例を多く 先進漢方医学講座の恵紙英昭准 きますが 中等度以上ではファース 経験していますこのように上手に 教授は月 水曜日 漢方精神科 漢 トチョイスは抗うつ薬で漢方薬を併 駆 血剤を併用すると効果を増強で 方内科の診療にあたる先進漢方 用しながら ある程度症状が落ち着 きますまた 外来では冷えに伴う 治療外来がスタートした2009年4月か いた時点から漢方薬のみに置き換 ら7月末まで 約4カ月間の外来の診 えていきます ト ウ キ シャクヤ ク サ ン 愁訴のある女性が多く 当帰 薬散 カ ミ ショウヨ ウ サ ン 桂枝茯苓丸をベースに 加味逍遙散 療データをまとめているが そのア 症状に合わせた方剤を加えて著効 ウトラインをうかがった たとえば向精神薬を漢方薬に置 換した例のうち 消化器が強く体力 ダイサイ コ トウ オウレン ゲ 受診患者総数は183人 男性33 があるケースでは大柴胡湯と黄連解 女性67 で 新患102人 55.7 毒湯を併用し イライラがあれば就 久留米大学病院からの紹介51人 寝前に抑肝散加陳皮半夏 冷えてく 2 7. 9 院 内 からの 紹 介 1 3 人 れば当帰四逆加呉茱萸生姜 湯 少 大学は最終病院であるという性 7.1 地域連携での紹介17人 し体がつらい場合には補中益気湯 格も考慮し 十分な現代医学的手段 9.3 となっています受診者の年 を加え それぞれ先の2剤を減量す を示す例が多くあります 近年 科学的な根拠に基づく医療 が推奨されているが 大学病院のも う1つの大切な役割をうかがった を尽くしてもなお患者さんに愁訴が 齢分布は70 79歳台をピークとして ドクトウ ヨクカンサン カ チン ピ ハン ゲ トウ キ シ ギャク カ ゴ シ ュ ユ ショウキョウ ト ウ ホ チュウエ ッ キ ト ウ るというように使い分けるなど なる 表4 先進漢方治療外来 疾患分類 受診者総数183人 男性33 女性67 漢方精神科 79人 神経症性障害圏36人 45 感情障害圏25人 32 器質性脳症候群6人 8 統合失調症圏5人 6 アルコール関連障害3 人 4 不眠 いびき3人 4 発達障害圏1人 1 小児科 108人 末梢循環不全24人 22 整形外科 神経内科16人 15 小児科12人 11 皮膚科9人 8 消化器科9人 8 耳鼻科8 人 7 婦人科7人 7 呼吸器科5人 5 膠原病4人 4 循環器科3人 3 精神科領域3人 3 その他8人 7 漢方産婦人科 14人 婦人科6人 43 消化器科3人 22 産科2人 14 末梢循環不全2人 14 精神科領域1人 7 2009年4月6日 7月31日まで 重複あり久留米大学医療センター 286 76 Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.34 No.3 2010
福岡県久留米市 べく漢方薬のみでコントロールして 院内でも思春期外来 緩和ケアチーム います でも漢方治療研究に取り組んでいる 私は久留米大学病院精神神経科 外来で思春期も診ていますここでは 癌患者の嘔気 嘔吐 食 思不振に 氷六君子湯 よく立ちくらみがして朝が起きられな い 登校できないという症状を訴える 恵紙准教授は先進漢方医学講座が 子どもが多く受診しますこのような 誕生する以前から 精神神経科で漢 自律神経失調症状に対して 以前か 方外来を開いてきた 2006年より 久 ら苓桂朮甘湯を投与しその効果を確 留米大学病院での漢方治療の認知度 認しています最近 国際神経精神薬 をうかがった 理学会 CINP2010/2010年6月6 10日/ リョウケ イジュツカ ン ト ウ 久留米大学病院内で調査した結 香港 が開催され そこで苓桂朮甘湯 果 意外に漢方を処方する医師が多 の研究報告をしました今後 久留米 くいますしたがって漢方の必要性は 大学内で少し規模の大きい臨床研究 多くの医師が認識していますたとえ をしたいと思います また 私は久留米大学病院内の緩 ば東北大学の岩崎鋼先生がBPSDに ヨクカンサン 対する抑肝散の有用性についての論 和ケアチームにも参加していますが 文を発表 2005年 される以前ですが 癌治療において化学療法や放射線療 循環器外科医の後輩から術後せん妄 法の副作用として嘔気 嘔吐 食思不 がとれず困っているという相談を受 振を訴える患者さんが多くいます制 け 抑肝散を投与したところ翌日せん 吐薬でも効果がない あるいは服用 妄がすっきり改善しました久留米大 できない 患者さんの嘔気 嘔吐 食 学病院内他科の医師もこういう経験 思不振をどう改善するか 臨床上重 例が増えるにつれ 大建中湯 六君子 要な課題となっていますその患者さ 湯 補中益気湯などの用いやすい処 んもアイスクリームや氷は喉を通るこ 方から使うようになりましたつまり漢 とが多いのですそこで漢方薬の新 改善することが可能です現在 がん 方治療の導入では 最初は難しい 証 しい用い方として 六君子湯エキス剤 診療連携拠点病院 総合病院など4病 を考慮せず 薬物療法の選択肢の1 恵紙 英昭 えがみ ひであき 久留米大学医学部 先進漢方医学 講座 准教授 神経精神医学講座兼 務 を水に溶かし凍らせて 飲み込みや 院で 氷六君子湯 による治療を開始 つと考え 薬理学的な知識から用い すい大きさの氷にする方法を取って しているところです てもよいと推奨しています いますこの方法で患者さんの嘔気 現在 恵紙准教授は久留米大学病 嘔吐 食思不振 さらに脱水症状まで 漢方精神科 漢方小児 科 漢方産婦人科を標榜し それぞ 0.5 0.5 1.6 13.8 22.8 28.0 32.8 図1 著明改善 中等度改善 軽度改善 変化なし 軽度悪化 中等度悪化 著明悪化 判定不能 先進漢方治療外来での漢方治療の有用性 れの専門領域を踏まえた医師がチ ームで漢方診療にあたるケースは 大学病院でもそれほど多くはない 大学病院漢方外来の望ましいあり方 だEBM構築への努力 診療へのさ まざまな工夫が融合して ここでは現 代医療の幅を拡げ その質を高める 漢方治療が確かに誕生している 受診者総数183人 2009年4月6日 7月31日まで久留米大学医療センター 77 287 Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.34 No.3 2010