Japan Tax Newsletter

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Global Tax Update

「図解 外形標準課税」(仮称)基本構想

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税務情報 固定資産の加速減価償却の範囲が拡大 ~ 財税 [2014]75 号の施行 ~ 2014 年 10 月 20 日付けで 固定資産の加速減価償却に係る企業所得税政策の完備に関する通知 ( 財税 [2014]75 号 以下 75 号通知 と表記 ) が公布され 2014 年 1 月 1 日から遡

雇用促進税制に関する Q&A 雇用促進税制について Q1 雇用促進税制とはどのような制度か ( 平成 28 年 4 月 1 日現在 ) Q2 雇用促進税制の適用要件を一度でも満たした場合には その後 適用年度中であれば継続して雇用促進税制の適用を受けることができるのか Q3 雇用者の採用を複数回に分

要件① 雇用者給与等・・・・ (ざっくり) 平成24年度の給与総額と比べて、平成25年以降毎年、一定割合以上給与総額が増えていること。 <雇用者給与等支給額とは> <一定割合とは>

商業 サービス業環境関連投資得拡大各要件の計算方法 まず 前事業年度 の つの事業年度について確認します 月末決算の会社の場合 月末以外の決算の場合 平成 年 大企業の場合 ( 月末以外の決算 ) 適用 1 年目 平成 年 平成 年 平成 年 < 要件 1> 雇用者給与等支給額がより一定割合増加して

目次 国内企業の事例から学ぶこと これからの課題 GRC Technology の活用 なぜデロイトがクライアントから選ばれているのか 本資料の意見に関する部分は私見であり 所属する法人の公式見解ではありません 2

統合型リゾート (IR:Integrated Resort) ~ ゲーミング ( カジノ ) 市場及び主要 IR 施設の概要 ~ 2014 年 11 月 IR ビジネス リサーチグループリーダー 有限責任監査法人トーマツパートナー 仁木一彦 当該資料中 意見に亘る部分は著者の私見であり 著者の属する

Q10 適用年度の前事業年度末日に雇用者がいない場合には 雇用増加割合が算出できないため 適用年度において雇用促進税制の適用を受けることはできないのか Q11 新設法人や新たに事業を開始した個人事業主は いつから雇用促進税制の適用を受けることができるのか Q12 法人が適用年度において決算期変更を行

所得拡大促進税制 のガイドライン

統合型リゾート (IR:Integrated Resort) ~ マネーロンダリング防止の取組み ~ 2014 年 12 月 IR ビジネス リサーチグループリーダー 有限責任監査法人トーマツパートナー 仁木一彦 当該資料中 意見に亘る部分は著者の私見であり 著者の属する法人等のものではありません

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平成30年3月決算における税務上の留意事項

Tax Analysis

国外転出時課税制度に関する改正「所得税基本通達」の解説

図 起床してから携帯電話を確認するまでの時間 日本では 起床後直ちに携帯電話を確認するユーザーの比率が であり 他の先進国より高い Q. 起床してから携帯電話 * を確認するまでの時間は? 0 8 わからない 3 時間以上 6 2~3 時間以内 時間以内 30 分以内 5 分以内 5 分以内 34%

2. 中小企業のための主な優遇制度 注 : 各項目に付記している番号は 関連する参考資料です 番号に対応する資料名などは 5~6 ページに掲載していますのでご参照ください [1] 中小法人等 に適用される主な優遇制度 紙面の都合により ここでは制度の種類と それに関連する参考資料の番号を紹介していま

改正 ( 事業年度の中途において中小企業者等に該当しなくなった場合等の適用 ) 42 の 6-1 法人が各事業年度の中途において措置法第 42 条の6 第 1 項に規定する中小企業者等 ( 以下 中小企業者等 という ) に該当しないこととなった場合においても その該当しないこととなった日前に取得又

税額控除限度額の計算この制度による税額控除限度額は 次の算式により計算します ( 措法 42 の 112) 税額控除限度額 = 特定機械装置等の取得価額 税額控除割合 ( 当期の法人税額の 20% 相当額を限度 ) 上記算式の税額控除割合は 次に掲げる区分に応じ それぞれ次の割合となります 特定機械

目 次 問 1 法人税法における当初申告要件及び適用額の制限に関する改正の概要 1 問 2 租税特別措置法における当初申告要件及び適用額の制限に関する改正の概要 3 問 3 法人税法における当初申告要件 ( 所得税額控除の例 ) 5 問 4 法人税法における適用額の制限 ( 所得税額控除の例 ) 6

第三者割当増資について

Tax Analysis

Japan Tax Newsletter

下では特別償却と対比するため 特別控除については 特に断らない限り特定の機械や設備等の資産を取得した場合を前提として説明することとします 特別控除 内容 個別の制度例 特定の機械や設備等の資産を取得して事業の用に供したときや 特定の費用を支出したときなどに 取得価額や支出した費用の額等 一定割合 の

試験研究費 9,, 7,, Check7 14,, 14,, Check8 7,, 2,, 14,, 6,, 6,, 税務弘報

平成23年度税制改正の主要項目

第一法基通改正7

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税理士法人トーマツ Newsletter

労働基準法が改正されます

企業中小企(2) 所得拡大促進税制の見直し ( 案 ) 大大企業については 前年度比 以上の賃上げを行う企業に支援を重点化した上で 給与支給総額の前年度からの増加額への支援を拡充します ( 現行制度とあわせて 1) 中小企業については 現行制度を維持しつつ 前年度比 以上の賃上げを行う企業について

タイの医療市場の現状と将来性~医薬品業界の市場動向と M&A・参入事例~

法人税における役員特有の取扱いには 主に次のようなものがあります この取扱いは みなし役 員も対象となります 項目 役員給与 損金算入制限 過大役員給与 特有の取扱い 定期同額給与 ( 注 1) や事前確定届出給与 ( 注 2) など一定のもの以外は損金不算入 実質基準 ( 職務内容 収益状況など

投資情報 中国への短期出張におけるビザの取扱い情報 2015 年 1 月 1 日より中国において 外国人が入国して短期業務を遂行する際の関連手続き手順 ( 試行 ) ( 以下 78 号通達 と表記 ) が施行されたことに伴い 中国への短期出張者に関するビザの取扱いが一部変更されています 1 78 号

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2004年7月

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M&A会計の解説 第11回 事業分離に関する税効果会計

租税特別措置法 ( 昭和三十二年法律第二十六号 ) 第十条の二 第四十二条の五 第六十八条の十 租税特別措置法 ( 昭和三十二年法律第二十六号 ) ( 高度省エネルギー増進設備等を取得した場合の特別償却又は所得税額の特別控除 ) 第十条の二青色申告書を提出する個人が 平成三十年四月一日 ( 第二号及

営業秘密とオープン&クローズ戦略

平成 31 年度 税制改正の概要 平成 30 年 12 月 復興庁

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1 繰越控除適用事業年度の申告書提出の時点で判定して 連続して 提出していることが要件である その時点で提出されていない事業年度があれば事後的に提出しても要件は満たさない 2 確定申告書を提出 とは白色申告でも可 4. 欠損金の繰越控除期間に誤りはないか青色欠損金の繰越期間は 最近でも図表 1 のよ

法人会の税制改正に関する提言の主な実現事項 ( 速報版 ) 本年 1 月 29 日に 平成 25 年度税制改正大綱 が閣議決定されました 平成 25 年度税制改正では 成長と富の創出 の実現に向けた税制上の措置が講じられるともに 社会保障と税の一体改革 を着実に実施するため 所得税 資産税についても

(2) 青色申告書を提出する中小企業者等 ( 平成 3 年 4 月 日以後開始する事業年度については 適用除外事業者 ( 注 4) を除く ) が 平成 30 年 4 月 日から平成 33 年 3 月 3 日までの間に開始する各事業年度において 国内雇用者に対して給与等を支給する場合に継続雇用者給与

1: とは 居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの ( 青色事業専従者等に該当する者を除く ) のうち 合計所得金額 ( 2) が 38 万円以下である者 2: 合計所得金額とは 総所得金額 ( 3) と分離短期譲渡所得 分離長期譲渡所得 申告分離課税の上場株式等に係る配当所得の金額 申告分

注 1 認定住宅とは 認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいう 注 2 平成 26 年 4 月から平成 29 年 12 月までの欄の金額は 認定住宅の対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が 8% 又は 10% である場合の金額であり それ以外の場合における借入限度額は 3,000 万円とする

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Manage As One グローバル経営時代における海外異動者の最適税務マネジメント

第11 源泉徴収票及び支払調書の提出

目次 サマリ 3 アンケート集計結果 5 回答者属性 12

6 課税上の取扱い日本の居住者又は日本法人である投資主及び投資法人に関する課税上の一般的な取扱いは 下記のとおりです なお 税法等の改正 税務当局等による解釈 運用の変更により 以下の内容は変更されることがあります また 個々の投資主の固有の事情によっては異なる取扱いが行われることがあります (1)

Q1 法人事業税の負担変動の軽減措置とは どのような制度ですか? A. 平成 27 年度税制改正により導入された 外形標準課税の拡大 ( 所得割の税率引き下げ及び付加価値割 資本割の税率引き上げ ) によって生じる税負担の変動の影響を緩和する措置で 付加価値額が一定以下の法人を対象に税負担の増加につ

平成20年2月

2. 制度の概要 この制度は 非上場株式等の相続税 贈与税の納税猶予制度 とは異なり 自社株式に相当する出資持分の承継の取り扱いではなく 医療法人の出資者等が出資持分を放棄した場合に係る税負担を最終的に免除することにより 持分なし医療法人 に移行を促進する制度です 具体的には 持分なし医療法人 への

はじめに 会社の経営には 様々な判断が必要です そのなかには 税金に関連することも多いでしょう 間違った判断をしてしまった結果 受けられるはずの特例が受けられなかった 本来より多額の税金を支払うことになってしまった という事態になり 場合によっては 会社の経営に大きな影響を及ぼすこともあります また

経 [2] 証券投資信託の償還 解約等の取扱い 平成 20 年度税制改正によって 株式投資信託等の終了 一部の解約等により交付を受ける金銭の額 ( 公募株式投資信託等は全額 公募株式投資信託等以外は一定の金額 ) は 譲渡所得等に係る収入金額とみなすこととされてきました これが平成 25 年度税制改

投資法人の資本の払戻 し直前の税務上の資本 金等の額 投資法人の資本の払戻し 直前の発行済投資口総数 投資法人の資本の払戻し総額 * 一定割合 = 投資法人の税務上の前期末純資産価額 ( 注 3) ( 小数第 3 位未満を切上げ ) ( 注 2) 譲渡収入の金額 = 資本の払戻し額 -みなし配当金額

目次 調査趣旨 概要等 3 適用初年度の開示事例分析 6 補足調査 コーポレートガバナンスガイドラインの開示状況 18 ( 参考資料 ) コーポレートガバナンス コードの概要 24 本資料は当法人が公表情報を基に独自の調査に基づき作成しております その正確性 完全性を保証するものではございませんので

平成27年3月決算における税務上の留意事項

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Global Tax Update

措置法第 69 条の 4(( 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例 )) 関係 ( 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲 ) 69 の 4-7 措置法第 69 条の 4 第 1 項に規定する被相続人等の居住の用に供されていた宅地等 ( 以下 69 の 4-8 までにおいて 居

【表紙】

コーポレート機能の仕組みが企業変革の障壁に グローバルでの競争激化とデジタル化の進展により 日本企業を取り巻く事業環境は急速に変化しています 従来の市場の枠組みが壊れ他業種プレイヤーがテクノロジーを武器に新たに市場参入してくる中 戦い方を大きく変えなければなりません また顧客のニーズや価値観の変化に

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基礎からのM&A 講座 第3 回 M&A の実行プロセス概要

9 試験研究費の額に係る法人税額の特別控除額 2 10 還付法人税額等の控除額 3 11 退職年金等積立金に係る法人税額 4 12 課税標準となる法人税額又は個別帰属法人税額及びその法人税割額 の5の欄 ) リース特別控除取戻税額( 別表 1(2) の5の欄又は別表 1(3)

平成30年3月期決算の留意事項(税務)

事業活動の縮小に伴い雇用調整を行った事業主の方への給付金

目次 調査の背景と調査の意義 3 システム会社依存度の次元分解 ~ 因子分析 11 本調査の概要 4 推定システム会社依存度の 3 因子と経験年数からの分析 12 経験年数との相関分析 5 各因子の 推定システム会社依存度への影響を解析 13 経験年数との相関分析結果の解釈 6 システム会社の手配す

土地建物等の譲渡損失は 同じ年の他の土地建物等の譲渡益から差し引くことができます 差し引き後に残った譲渡益については 下記の < 計算式 2> の計算を行います なお 譲渡益から引ききれずに残ってしまった譲渡損失は 原則として 土地建物等の譲渡所得以外のその年の所得から差し引くこと ( 損益通算 )

税効果会計シリーズ(3)_法定実効税率

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う というコスト意識を持った提案が出てくることはほとんどないことに不満と不安を抱いていたのである しかし これまでは業績も右肩上がりであったこともあり あえて社員のやる気に水を差すようなやり方はすまいと 目をつぶってきた しかし 今回の話は別だ このグローバル化が実現しなければ A 社は将来的に衰退

作成する申告書 還付請求書等の様式名と作成の順序 ( 単体申告分 ) 申告及び還付請求を行うに当たり作成することとなる順に その様式を示しています 災害損失の繰戻しによる法人税 額の還付 ( 法人税法 805) 仮決算の中間申告による所得税 額の還付 ( 法人税法 ) 1 災害損失特別勘

2. 改正の趣旨 背景 (1) 問題となっていたケース < 親族図 > 前提条件 1. 父 母 ( 死亡 ) 父の財産 :50 億円 ( すべて現金 ) 財産は 父 子 孫の順に相続する ( 各相続時の法定相続人は 1 名 ) 2. 子 子の妻 ( 死亡 ) 父及び子の相続における相次相続控除は考慮

ブロックチェーン技術によるプラットフォームの実現 デロイトトーマツコンサルティング合同会社 2016 年 4 月 28 日 For information, contact Deloitte Tohmatsu Consulting LLC.

平成20年度の税制改正により、地域間の税源偏在を是正するため、消費税を含む税体系の抜本的な改革が行われるまでの間の暫定的措置として、法人事業税の一部を分離し、地方法人特別税及び地方法人特別譲与税が創設されました

改正された事項 ( 平成 23 年 12 月 2 日公布 施行 ) 増税 減税 1. 復興増税 企業関係 法人税額の 10% を 3 年間上乗せ 法人税の臨時増税 復興特別法人税の創設 1 復興特別法人税の内容 a. 納税義務者は? 法人 ( 収益事業を行うなどの人格のない社団等及び法人課税信託の引

日本におけるジェネリック医薬品 ~ 今後の展望と対策

上場株式等の配当等に対する課税

5 配偶者控除等 配偶者控除 配偶者特別控除 扶養控除及び勤労学生控除の合計所得金額の要件 について 一律 10 万円ずつ引き上げられます 6 青色申告特別控除正規の簿記の原則により記帳している者に係る控除額が 55 万円に引き下げられ 正規の簿記の原則により記帳し かつ e5tax 等により確定申

「恒久的施設」(PE)から除外する独立代理人の要件

住宅取得等資金の贈与に係る贈与税の非課税制度の改正

収益事業開始届出 ( 法人税法第 150 条第 1 項 第 2 項 第 3 項 ) 1 収益事業の概要を記載した書類 2 収益事業開始の日又は国内源泉所得のうち収益事業から生ずるものを有することとなった時における収益事業についての貸借対照表 3 定款 寄附行為 規則若しくは規約又はこれらに準ずるもの

投資後の事業運営を見据えた投資案件の分析ポイントと手法

事前確定届出給与に関する届出書

平成16年10月1日発行

健康経営とは 2 健康経営への取り組み方

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支給開始日以前に カ月の標準報酬月額がある場合 06 年 月 日まで 06 年 4 月 日以降 休んだ日の標準報酬月額 0 日 / 支給開始日以前の継続した カ月間の各月の標準報酬月額の平均額 0 日 / ( 例 ) 支給開始日以前の継続した カ月間に 標準報酬月額が 6 万円の月が カ月 0 万円

Ⅰ. よくあるご質問 ( 平成 29 年度と同様 ) Q1. 本制度の利用に際し 事前に認定を受けたり 書類の提出 届出を行う必要はあるか A1. 税務申告より前に特段の手続きを行う必要はありません ただし 本制度の適用を受けるためには 法人税 ( 個人事業主の場合は所得税 ) の申告の際に 確定申

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図表 1 中期経営計画と要員計画 年における 対 11 年比 売り上げ ( 百万円 ) 79,200 91, , , , 海外売上高 15,849 26,163 39,900 52,272

[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

平成19年12月○日

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Japan Tax Newsletter 税理士法人トーマツ 2014 年 11 月 1 日号 東京事務所 マネジャー 西野拓 福井絢 所得拡大促進税制 1 はじめに個人の所得水準の底上げを税制面から支援することを目的として 平成 25 年度税制改正において所得拡大促進税制が導入されている 当税制は課税の繰延べではなく 減免措置である点に特徴がある また 導入翌年の平成 26 年度税制改正では 適用期限の延長や支給額増加率に関する要件の段階的緩和などの措置が取られた結果 適用の可能性はより広がっていると考えられる 本ニュースレターでは 法人に対して適用される所得拡大促進税制の概要について解説する なお 組織再編や連結納税に関連する項目は紙幅の都合上割愛するほか 本文中の意見に関する部分は筆者の私見であることを申し添える 2 制度の概要 所得拡大促進税制は 国内雇用者に対する給与等支給額を増加させた場合に 増加額の一定割合の税額控除を適用することができる制度であり その内容は以下のとおりである ( 措法 42 の 12 の 41) 適用対象法人適用対象期間選択適用となる制度適用要件 青色申告書を提出する法人 2013 年 4 月 1 日から 2018 年 3 月 31 日までの間に開始する各事業年度 ( ただし 雇用促進税制その他一定の税額控除制度 1 は当制度との選択適用となり これらの制度を適用した事業年度においては当制度を適用できない ) 以下の 3 つの要件をすべて満たしていること 1 適用年度における雇用者給与等支給増加額 ( 雇用者給与等支給額 - 基準雇用者給与等支給額 ) の 基準雇用者給与等支給額に対する割合が以下の割合以上であること 2013 年 4 月 1 日から 2015 年 3 月 31 日までに開始する各事業年度 2% 2015 年 4 月 1 日から 2016 年 3 月 31 日までに開始する各事業年度 3% 2016 年 4 月 1 日から 2018 年 3 月 31 日までに開始する各事業年度 5% 2 適用年度における雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額以上であること 3 適用年度における平均給与等支給額が 比較平均給与等支給額を超えていること 1

適用年度において要件を満たす場合 雇用者給与等支給増加額の 10% 相当額の税額控除を受けることができる ( ただし 適用年度の法人税額の 10% 相当額 ( 中小企業者等 2 は 20%) が限度 ) ( 注 1) 当税制における用語の定義は 以下のとおりである ( 措法 42 の 12 の 42 措令 27 の 12 の 41~3 11~14) 雇用者給与等支給額国内雇用者給与等基準雇用者給与等支給額比較雇用者給与等支給額平均給与等支給額比較平均給与等支給額継続雇用者 適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される 国内雇用者に対する給与等の支給額をいう ただし 出向元法人が出向先法人から受取る給与負担金等 その給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額は 給与等の支給額から控除する 法人の使用人 ( 使用人兼務役員及び 使用人兼務役員を含む役員の親族など特殊の関係のある者を除く ) のうち その法人の国内の事業所に勤務する雇用者として 労働基準法第 108 条に規定する賃金台帳に記載された者をいう 所得税法第 28 条第 1 項に規定する給与等をいう 2013 年 4 月 1 日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度の開始の日の前日を含む事業年度 ( 基準事業年度 ) の所得の金額の計算上損金の額に算入される 国内雇用者に対する給与等の支給額をいう 3 適用年度の前事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される 国内雇用者に対する給与等の支給額をいう 4 平均給与等支給額 適用年度における以下の金額をいう 1( 分子 : 継続雇用者給与等支給額 ) 2( 分母 :1に係る給与等支給者数) 比較平均給与等支給額 適用年度の前事業年度における以下の金額をいう 1( 分子 : 継続雇用者比較給与等支給額 ) 2( 分母 :1に係る給与等支給者数 ) ただし 1に算入する金額は 平均給与等支給額の計算上分子の金額に算入されている者に係るもの ( 継続雇用者給与等支給額に係るもの ) に限る 1 給与等支給額のうち 継続雇用者に係る金額 ( 雇用保険法に規定する一般被保険者に該当する者に対し支給したものに限り 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に規定する継続雇用制度の対象者に対して支給したものを除く ) 2 給与等月別支給対象者 ( 各月ごとの給与等の支給の対象となる継続雇用者 (1の金額に係るものに限る ) をいう ) の数を合計した数 ( 注 1) 平均給与等支給額の計算上 1が 0 である場合には 1 円とする ( 注 2) 平均給与等支給額 比較平均給与等支給額の計算上 1が 0 である場合には 2を 1 として計算する 適用年度及び 適用年度の前事業年度のいずれにおいても給与等の支給を受けた国内雇用者をいう ( 注 2) 雇用者給与等支給額の計算雇用者給与等支給額とは 適用年度において損金の額に算入される 国内雇用者に対する給与等の支給額をいうものとされている 事業税 ( 外形標準課税 ) の計算における報酬給与額の範囲に類似しているが 雇用者給与等支給額には役員給与が含まれないほか 退職金など所得税法上の退職所得に該当するもの ( 給与所得に該当しないもの ) も含まれないなどの差異があるため 申告に当たってはあらかじめこれらの点に留意する必要があると考えられる 使用人兼務役員に対する給与は 役員分給与 使用人分給与のいずれも雇用者給与等支給額に含めない取扱いとなる ( 措法 42 の 12 の 42 一 ) なお 2014 年 6 月 27 日に以下の通達が新設されており 賃金台帳に記載されている支給額 ( 非課税通勤手 2

当を含む ) を雇用者給与等支給額として計算する方法も 継続適用を条件に認められることが示された 租税特別措置法関係通達 42 の 12 の 4-1 の 2( 給与等の範囲 ) 措置法第 42 条の 12 の 4 第 2 項第 2 号の給与等とは 所得税法第 28 条第 1 項に規定する給与等 ( 以下 給与等 という ) をいうのであるが 例えば 労働基準法第 108 条に規定する賃金台帳に記載された支給額 ( 措置法第 42 条の 12 の 4 第 2 項第 1 号の国内雇用者において所得税法上課税されない通勤手当等の額を含む ) のみを対象として同項第 3 号から第 5 号までの 国内雇用者に対する給与等の支給額 を計算するなど 合理的な方法により継続して国内雇用者に対する給与等の支給額を計算している場合には これを認める 3 制度適用上の留意点 ( 平均給与等支給額 比較平均給与等支給額の計算について ) 平均給与等支給額および比較平均給与等支給額の計算は 国内雇用者のうち継続雇用者に係る部分を抜き出して行うこととなる したがって 申告に際し継続雇用者に係る給与等支給額や人数を把握する必要があるが これらの作業を申告の直前に短期間で行うことは困難なケースも想定され 可能な部分から早期に進めることが望ましいと考えられる 平均給与等支給額 比較平均給与等支給額の計算対象に含めるか否かの具体例として 次頁 1~4の事例を挙げる 1 所得拡大促進税制との選択適用となる制度は 雇用促進税制 ( 措法 42 の 12) のほか 以下の各税制である 復興産業集積区域において被災雇用者等を雇用した場合の法人税額の特別控除制度( 震災特例法 17 の3) 避難解除区域等において避難対象雇用者等を雇用した場合の法人税額の特別控除制度( 震災特例法 17 の 3 の 3) 企業立地促進区域において避難対象雇用者等を雇用した場合の法人税額の特別控除制度( 震災特例法 17 の 3 の 2) 2 中小企業者等とは 1 資本金または出資金の額が 1 億円以下の法人 2 資本金または出資金を有しない法人のうち 常時使用する従業者数が 1,000 人以下の法人 または3 農業協同組合等をいう ( 措法 42 の 412 五 42 の 12 の 41 措令 27 の 410) ただし 1に該当する場合であっても以下のいずれかに該当する法人は除外される その発行済株式又は出資の総数又は総額の 2 分の 1 以上が同一の大規模法人の所有に属している法人 その発行済株式又は出資の総数又は総額の 3 分の 2 以上が複数の大規模法人の所有に属している法人 ( 上記において 大規模法人とは資本金の額若しくは出資金の額が1 億円を超える法人又は資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が 1,000 人を超える法人をいい 中小企業投資育成株式会社を除く ) 3 適用年度と基準事業年度の月数が異なる場合は 以下の月数按分を行う必要がある ( 措法 42 の 12 の 4 四ロ ) ( 基準事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額 ) ( 適用年度の月数 ) ( 基準事業年度の月数 ) このほか 2013 年 4 月 1 日以後に設立された法人など一定の場合には計算方法が異なる ( 措法 42 の 12 の 4 四ハほか ) 4 適用年度と適用年度の前事業年度の月数が異なる場合は 以下の月数按分を行う必要がある ( 措法 42 の 12 の 4 五ロ ) ( 適用年度の前事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額 ) ( 適用年度の月数 ) ( 当該前事業年度の月数 ) また 設立事業年度に所得拡大促進税制を適用する場合 前事業年度がないことにより比較雇用者給与等支給額は 0 として判定を行うことから 適用年度における雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額以上である要件は必ず満たすことになる 3

事例 平均給与等支給額 比較平均給与等支給額の計算対象に含めるか否かの判定 前事業年度 (2014 年 3 月期 ) 適用年度 (2015 年 3 月期 ) 1 2014 年 3 月 1 日に新規雇用雇用保険法上の一般被保険者に該当 2 雇用保険法上の一般被保険者に該当 2014 年 2 月 28 日に 60 歳に達し定年退職 2014 年 3 月 1 日以後 継続雇用制度に基づき勤務 3 雇用保険法上の一般被保険者に該当 2014 年 1 月 31 日に 65 歳に達し定年退職 2014 年 5 月 1 日に再雇用雇用保険法上の被保険者に該当せず 4 学生アルバイトとして 2014 年 3 月 31 日まで勤務 雇用保険法上の被保険者に該当せず 卒業に伴い正社員として採用雇用保険法上の一般被保険者に該当 計算対象に含めるもの 計算対象に含めないもの ( 判定 ) 1について 平均給与等支給額 比較平均給与等支給額いずれの計算対象にも含まれる 適用年度 適用年度の前事業年度のいずれにおいても給与等の支給があり 継続雇用者としての要件を満たしている 2について 1と同様に 適用年度 適用年度の前事業年度のいずれにおいても給与等の支給があることから継続雇用者としての要件は満たしているが 適用年度における給与等支給額はそのすべてが継続雇用制度の対象者に対してのものであるため 平均給与等支給額の計算対象に含めない また 前事業年度分である比較平均給与等支給額の計算対象にも含めない これは 平均給与等支給額の計算対象に含まれていない ( 継続雇用者給与等支給額に係るものではない ) ためである 3について 2と同様に 適用年度 適用年度の前事業年度のいずれにおいても給与等の支給があることから継続雇用者としての要件は満たしているが 適用年度における給与等支給額はそのすべてが雇用保険の一般被保険者に対してのものではないため 平均給与等支給額の計算対象に含めない また2と同様に 平均給与等支給額の計算対象に含まれていない ( 継続雇用者給与等支給額に係るものではない ) ことから 前事業年度分である比較平均給与等支給額の計算対象にも含めない 4について 適用年度 適用年度の前事業年度のいずれにおいても給与等の支給があり 継続雇用者としての要件を満たしているため 適用年度における給与等支給額は平均給与等支給額の計算対象となる 5 一方 前事業年度分については 給与等支給額が雇用保険の一般被保険者に対してのものではないため 比較平均給与等支給額の計算対象に含めない 5 比較平均給与等支給額とは異なり 平均給与等支給額の計算対象に含めることについて 継続雇用者比較平均給与等支給額に係るものに限る 旨の要件は設けられていない 4

( 参考 ) 平成 26 年度税制改正における変更点及び 改正に伴う経過措置 1. で既に述べたとおり 平成 26 年度税制改正では所得拡大促進税制について 適用期限の延長などの措置 が行われている 主な変更点は 下表のとおりである 改正前の規定 ( 旧規定 ) 改正後の規定 ( 新規定 ) 適用期限の延長 2013 年 4 月 1 日から 2016 年 3 月 31 日までの間に開始する各事業年度 2013 年 4 月 1 日から 2018 年 3 月 31 日までの間に開始する各事業年度 支給額増加率に関する要件の段階的緩和 雇用者給与等支給増加額の 基準雇用者給与等支給額に対する割合が 5% 以上であること 雇用者給与等支給増加額の 基準雇用者給与等支給額に対する割合が以下の割合以上であること 2013 年 4 月 1 日から 2015 年 3 月 31 日までに開始する各事業年度 2% 2015 年 4 月 1 日から 2016 年 3 月 31 日までに開始する各事業年度 3% 2016 年 4 月 1 日から 2018 年 3 月 31 日までに開始する各事業年度 5% 平均給与等支給額の計算に関する要件の変更 平均給与等支給額が 前事業年度の平均給与等支給額以上であること ( 継続雇用者給与等支給額に関する要件は考慮しない ) 平均給与等支給額が 比較平均給与等支給額を超えていること ( 継続雇用者給与等支給額に関する要件を織り込んで判定する ) これにより 旧規定では適用要件を満たさなかったが 新規定では適用要件を満たすこととなるケースが生じる 一方 上記の改正は 2014 年 4 月 1 日以後に終了する事業年度から適用することとされている ( 改正法附則 821) ため 3 月決算法人の 2014 年 3 月期における申告では旧規定が適用されることになる そこで 2013 年 4 月 1 日以後に開始し 2014 年 4 月 1 日前に終了する事業年度 ( 経過年度 ) において 旧規定は適用されないが新規定の要件をすべて満たす事業年度がある場合には 2014 年 4 月 1 日以後最初に終了する事業年度において 各経過年度を新規定の適用年度とみなした場合の雇用者給与等支給増加額の合計額の 10% 相当額が控除税額に上乗せされることとされている ( 改正法附則 822) 5

図表 所得拡大促進税制の改正に伴う経過措置 (3 月決算法人の場合 ) 2015 年 3 月期 ( 適用年度 ) に係る控除税額 60,000 円 10%=6,000 円 経過措置による控除税額 40,000 円 10%=4,000 円 給与等支給額 1,000,000 円 給与等支給額 1,040,000 円 ( 基準事業年度からの増加額 :40,000 円 ) 給与等支給額 1,060,000 円 ( 基準事業年度からの増加額 :60,000 円 ) 基準事業年度 (2013 年 3 月期 ) 経過年度 (2014 年 3 月期 ) 2014 年 4 月 1 日以後最初に終了する事業年度 ( 適用年度 :2015 年 3 月期 ) 経過措置の適用要件 2014 年 3 月期において 旧規定は適用されないが 新規定の要件をすべて満たしている 2015 年 3 月期においても 新規定の要件をすべて満たしている 2015 年 3 月期の控除税額 (6,000 円 ) に 経過年度である 2014 年 3 月期の雇用者給与等支給増加額 10% 相当額 (4,000 円 ) が上乗せされる ( 税額控除の上限は 2015 年 3 月期の法人税額 10%( 中小企業者等の場合 20%) 24/12 6 となる ) 当経過措置を適用するに当たって 経過年度の法人税確定申告書に別表が添付されていることなどの要件は課されていない一方 経過年度において旧規定が適用されなかったことが要件とされているため 以下のような場合には経過措置を適用できないことに留意が必要である 経過年度において本来旧規定が適用可能であったものの申告を失念していた場合 旧規定の要件をすべて満たしていたものの 経過年度が欠損事業年度であるため法人税額が発生せず 結果として控除される税額がなかった場合 6 (2014 年 4 月 1 日以後最初に終了する事業年度の月数及び 各経過年度の月数の合計 )/(2014 年 4 月 1 日以後最初に終了する事業年度の月数 ) として計算する ( 改正法附則 822) 6

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