従業員 10 数名の会社から1,000 人近くの会社まで 売上高 5,000 万円規模の会社から150 億円超規模の会社までそれこそ多種多様な会社の事業承継に携わってきた執筆陣が 日頃の経験から知っておいて欲しい数字 取りうる選択肢及びその理由をあますことなく解説します また 身内による事業承継に絞った部分では その得難い有利さとその前に立ちはだかる障害の克服手法まで他にないユニークな視点をもって展開していきます 第 4 回目の今回は自社株の後継者への移転や相続による事業用資産の移転の手法等 事業承継の具体的な方法について解説していきます 目 次 1 経営権 の承継とは 71 (1) 経営権 とは 71 (2) 中小企業固有の 経営権 における課題と影響 71 (3) 経営権 承継のポイントとプロセス 71 2 事業用不動産の承継の取組みの必要性 77 (1) 事業用不動産を取り巻く課題 77 (2) 事業用不動産を保有しない場合のリスク 77 3 個人保証の承継の取組みの必要性 79 (1) 個人保証 79 (2) 担保提供 80 4 自社株式の承継の取組みの必要性 82 (1) 株主の権利 82 (2) 株式を保有しない場合のリスクと対処法 82 (3) 自社株式の承継への対応策 84 5 経営権 財産 事業 の承継バランスと事業承継プラン 85 70 スタッフアドバイザー 2012.7
1 経営権 の承継とは 1 1 自社株式 多くの中小企業の特性である経営者はオーナー株主である 2 事業用不動産 事業に必要な不動産の保有が必要 3 連帯保証 事業に必要な借入金への保証の必要性 2 図表 1 中小企業の 経営権 における特性と事業承継への影響 中小企業の特性 経営者を中心とした同族関係者が 自社株式の大半を保有している 会社の所有と経営が一致している 資金調達を借入金に頼る割合が高い 借入に対して経営者の個人保証や個人資産の担保を提供している場合が多い 経営者個人名義の不動産を事業のために使用するなど 家業と企業が密接な関係を持つことが多い 事業承継への影響 後継者に代表取締役社長の地位を譲っただけでは事業承継にならず 同時に会社の経営権 (= 自社株式 ) も譲る必要がある 経営者が負担するリスクが大きいため 後継者を探す際に大きな障害となる 資産の引継ぎ 切り分けの問題で 親族外への事業承継がリスクとなることがある 3 1 経営権承継の あるべき姿 2012.7 スタッフアドバイザー 71
図表 2 経営権の承継 のモデルプロセス STEP1 STEP2 2/3 STEP3 STEP1 STEP2 72 スタッフアドバイザー 2012.7
STEP3 図表 3 遺言によっても排除できない相続人の権利 = 遺留分 2 後継者への移転方法 相続人 相続財産 ( ) に対する遺留分の割合 ( 子 直系尊属は下記割合を頭数で割る ) 配偶者 配偶者のみ 1/2 子 子のみ 1/2 直系尊属 ( 父母 祖父母 ) のみ 兄弟姉妹のみ 配偶者と子 1/4 1/4 直系尊属 1/3 配偶者と直系尊属 1/3 1/6 兄弟姉妹 配偶者と兄弟姉妹 1/2 無 相続財産 = ( 相続時の財産 + 原則 被相続人死亡の 1 年前までに贈与した財産 )- ( 被相続人の相続時の負債 ) 無 (a) 売買による場合 2012.7 スタッフアドバイザー 73
(b) 売買先の検討 図表 4 自社株式の売買先毎のメリット デメリット ( 個人株主からの買取の場合 ) 売却先売買価額メリットデメリット 後継者 会社 ( 自社 ) 財産評価基本通達による評価額 法人税法上の時価 持株会社 法人税法 ( 後継者に上の時価よる新設 ) 直接持株比率が増大 売買価格が他の手法に比べて安くなりやすい 発行済株式総数の減少による後継者の持株比率の増大 間接的に持株比率が増大 間接保有による将来の株価上昇の軽減 後継者自身での資金手当てが必要 売買価格が高くなりやすい みなし配当 課税により納税額が増加しやすい 会社の純資産額が減少し 信用力が下がる 売買価額が高くなりやすい 借入を実施した場合 返済原資の検討が必要 74 スタッフアドバイザー 2012.7
(c) 贈与による場合 図表 6 相続時精算課税制度のイメージ図 図表 5 株式に対する贈与税と所得税等の税率比較表 65 20 20 2,500 贈与の場合 基礎控除後の課税価格 税率 控除額 200 万円以下 10% - 300 万円以下 15% 10 万円 400 万円以下 20% 25 万円 600 万円以下 30% 65 万円 1,000 万円以下 40% 125 万円 1,000 万円超 50% 225 万円 売買の場合 譲渡所得に対して一律 20%( 所得税 15 % + 地方税 5%) 2012.7 スタッフアドバイザー 75
(d) まとめ 図表 7 自社株式等の移転手段別のメリット等比較表 移転手段 売 買 贈与暦年課税相続時精算課税 対象者 誰でも良い 誰でも良い 直系卑属 関連税目 所得税 贈与税 相続税 取得者 譲渡者の資金負担 取得者は 譲渡代金を支払うため負担は多大 譲渡者は 譲渡益に対して所得税が課される 贈与税のみの負担だが 税率が高いため 負担も大きい 相続税が適用されるため 負担する税率は贈与税より低い 生前贈与税が 2,500 万円超となると贈与税が一旦課されるため 資金負担が重くなる可能性もある メリット 譲渡代金が譲渡者に入るため 納税資金が確保できる 相続時の財産が減少するため 贈与時 の価格で相続することになるため 節税対策としては有効である価値の上昇が見込める財産には有効 デメリット 相続税上の節税対策にはならない 基礎控除額毎年 110 万円しかないため 財産移転に時間がかかる 価値が減少しても 贈与時 の価格で相続税の支払いをすることになる このほか 贈与者や受贈者の年齢等一定の要件があります 76 スタッフアドバイザー 2012.7
2 事業用不動産の承継の取組みの必要性 1 8 100 80 60 40 20 0 34.3 7.9 10.1 20.5 27.2 31.9 6.8 8.9 21.8 30.6 38.0 11.2 17.8 33.0 0.0 2006 10 2 2012.7 スタッフアドバイザー 77
図表 9 事業用不動産が事業に関係のない親族の手に渡った場合のリスク 1 賃料の大幅な増額要求リスク 2 第三者への売却リスク 3 金融機関への担保提供の拒否 4 高額な価格での買取請求 5 非換金資産であるため相続時の納税資金リスク 図表 10 事業用不動産の所有状況とその移転について 26.2 N=3,003 51.4 N=5,234 28.3 28.3 85.6 31.1 2009 12 図表 11 事業用不動産の移転先毎のメリット デメリット 移転先 メリット デメリット 会社 ( 自社 ) 直接保有による経営基盤の安定化 買取資金流出による資金繰り懸念 財務状況の脆弱化 後継者 間接保有による経営基盤の安定化 買取資金の確保 将来の相続税の権利分散懸念 78 スタッフアドバイザー 2012.7
図表 12 事例事業用借地契約 対策 下記条項の契約 ( 事業用借地権等 ) を ( 事業用不動産の所有者である ) 現経営者と会社で締結しておく 効果 後継者以外の相続人がその不動産を相続した 場合でも 会社の借地権は存続する 3 個人保証の承継の取組みの必要性 1 13 40 37.5 36.6 35 33.8 32.8 30 28.4 26.5 25 20 1 5 6 20 21 50 51 100 101 300 301 2006 2012.7 スタッフアドバイザー 79
14 40 36.6 30 22.5 20 11.6 10 7.3 4.5 1.3 0 1 5 6 20 21 50 51 100 101 300 301 2006 2 図表 15 個人保証切り替えイメージ H24.7.31 現在 後継者のみの保証に切り替わる 債務保証借入日返済期日現在 1 年後 2 年後 3 年後 4 年後 5 年後 6 年後 7 年後 8 年後 9 年後 10 年後 A 銀行証書借入 H21.1.31 H26.1.31 現経営者現経営者現経営者 - - - - - - - - A 銀行手形借入 H24.5.31 H24.11.30 現経営者 - - - - - - - - - - B 銀行証書借入 H22.8.31 H25.8.31 現経営者現経営者 - - - - - - - - - C 銀行証書借入 H25.7.31 H32.7.31 - D 銀行手形借入 H24.3.31 H25.3.31 - E 銀行社債 H26.1.31 H32.1.31 - - - - - - - - - - - - - - - - - F 銀行証書借入 H29.1.31 H32.1.31 - - - - - 後継者後継者後継者後継者後継者 - 80 スタッフアドバイザー 2012.7
16 40 30 20 10 0 37.6 33.0 11.7 17 5 60 50 40 30 20 10 0 6.1 10.6 12.5 26.5 15.1 54.4 8.3 17.8 図表 18 対処策例 1 ( 対象資産を引き継いだ者と協議の上 ) 従来から担保提供されていた資産を引続き担保提供してもらう 2 3 4 後継者の個人資産など代替の担保物件を用意する 金融機関に担保を外してもらう 承継前に債務を圧縮する 5 後継者の個人保証等の負担を軽減できるよう金融機関と粘り強く交渉する 6 後継者に対して個人保証などの負担に応じた報酬を用意する ただし 1~3 は ハードルが高いので 4~6 等で 後継者の負担を 減少させるための準備をすることが大切です 1. 2. 2007 3. 2006 2001 5 2012.7 スタッフアドバイザー 81
4 自社株式の承継の取組みの必要性 1 図表 19 主な株式の権利 権利の内容概要 配当請求権 議決権 株式の譲渡承認請求 ( 及びそれに伴う買取請求権 ) ( 反対株主の ) 買取請求権 ( 役員に対する ) 違法行為等の差止請求権 定款 計算書類等の閲覧請求権 配当を受ける権利 株主総会において議決権を行使する権利 非公開会社 ( 株式譲渡制限会社 ) において 株式を譲渡等する際に会社にその承認を求める権利及び承認しない場合にその株式を買い取るよう請求する権利 組織再編 一部定款変更等の際にその行為に反対する株主が会社に対して保有株式を買い取るよう請求する権利 非公開会社 ( 株式譲渡制限会社 ) においては保有期間を問わず 原則として 1 株でも有する株主は提訴可能 ( 公開会社においては 6 か月前から株式を保有していることが条件 ) 定款 貸借対照表等の計算書類などの閲覧を求める権利 ( 役員に対する ) 責任追及等の訴え 非公開会社 ( 株式譲渡制限会社 ) においては保有期間を問わず 原則として 1 株でも有する株主は提訴可能 ( 公開会社においては 6 か月前から株式を保有していることが条件 ) 請求額の多寡にかかわらず 裁判所に納める費用は一律 1 万 3,000 円 図表 20 主な議決権数ごとの決議内容一覧 種類決議要件主な決議事項 普通決議 特別決議 原則 議決権の過半数を有する株主が出席して その株主の議決権の過半数 原則 議決権の過半数を有する株主が出席して その株主の議決権の 3 分の 2 以上 役員報酬等の決議 剰余金の配当決議 役員の選任決議 定款変更決議 事業譲渡決議 解散決議 組織再編決議 ( 組織変更を除く ) 2 82 スタッフアドバイザー 2012.7
図表 21 少数株主が存在することで起こり得る リスク と予想されるコスト 想定時少数株主の権利行使予想されるコスト備考 現経営者死亡後 現経営者死亡後 経営者 変更後 ( 後継者経営時 ) 組織再編時 ( 合併 分割等 ) 株券発行会社 非公開会社 ( 株式譲渡制限会社 ) における株式の譲渡承認請求権 ( 買取請求権 ) 株主から 会社もしくは後継者に対する保有株式買取の要求 ( 無益な ) 株主代表訴訟 計算書類等の閲覧請求その他株主としての権利行使の 濫用 ( 反対株主による ) 株式買取請求権 株券の占有者からの 株主 としての権利主張や保有株式買取の要求 株式の購入コスト 株価算定のための訴訟コスト ( 弁護士コスト 鑑定コストなど ) 相手方との交渉 訴訟遂行における労力 株式の購入コスト 相手方との交渉における労力 訴訟継続のためのコスト ( 弁護士コストなど ) 訴訟遂行における労力 株主への対応における労力 株式の購入コスト 株価算定のための訴訟コスト ( 弁護士コスト 鑑定コストなど ) 相手方との交渉 訴訟遂行における労力 相手方との交渉における労力その他 株主への対応における労力 株式の購入コスト 会社にとって好ましくない第三者への売買を阻止するためには会社もしくは後継者が買い取らざるを得ない 拒否した場合には その株主から株主の権利を濫用されるリスクその他後継者の円滑な経営を阻害する行為を行う可能性がある 経営に関与していない株主との間に感情的な対立が生まれた場合 金銭的なメリットの有無にかかわらず 円滑な経営を阻害する行為を行う可能性がある 円滑な事業承継の一環として株式交換その他の組織再編を行う場合があるが 買取請求権の行使により その手法を選択することが困難になる 無権利者 ( 株券を拾った人や盗んだ人 ) の所持する株券を譲り受けた場合に 譲受人が 譲渡人が無権利であること を知らず かつ知らないことに重過失がなければ その譲受人は株主としての権利を取得する 図表 22 経営に関与しない少数株主が存在する主な例 主な例 平成 2 年以前設立の株式会社 大株主の相続 少数株主の相続 株式の生前贈与 内容その他 当時 株式会社設立のためには発起人 7 名以上必要だったため 経営に関与しない者の名義を借りて設立するケースが存在した ( 名義借りの状態が続いている もしくは 持ち合い状態がそのままになっている ) 相続税や法定相続分を考慮しすぎて 株式が複数の相続人に分散した 株主の変更により 新しい株主の把握ができず 放置されている 相続税対策のみを考えて 経営に関与する予定のない者を含めた複数の親族 ( 推定相続人 ) に 贈与税が出ない範囲で株式を贈与 2012.7 スタッフアドバイザー 83
図表 23 会社法上の買取請求における株価決定の流れ 当事者間での合意 裁判所による 決定 お互いの主張の折り合った株価となる ( 当事者間で合意できない場合 ) 1 当事者が株価評価の鑑定書を裁判所に提出し株価算定を求める 自己に有利な株価の算定方法を主張 2 裁判所の裁量により株価を決定する 株価算定方式 ( 時価純資産方式 類似業種比準方式など ) のうちどれを採用するか その他どのような前提条件を考慮するかなどは 裁判所自身が検討し 決定する 当事者の予期しない株価が決定される可能性もある 3 図表 24 株式買取請求 67 3 9 3 2/3 1/3 2/3 1/3 84 スタッフアドバイザー 2012.7
5 経営権 財産 事業 の承継バランスと 事業承継プラン 事業承継プラン案 ( 抜粋 ) 生前に後継者へ株式集約をさせます ( プラン抜粋 ) 2012/7/31 現在 項目現在 1 年後 2 年後 3 年後 4 年後 5 年後 6 年後 7 年後 8 年後 9 年後 10 年後 親族 15% 15% 15% 15% 15% 15% 15% 15% 15% 15% 0% 現経営者 70% 70% 35% 35% 35% 35% 0% 0% 0% 0% 0% 後継者 10% 15% 50% 50% 50% 50% 85% 85% 85% 85% 100% その他 5% 0% 0% 0% 0% 0% 0% 0% 0% 0% 0% 移転方法 - 売買売買売買売買売買売買売買売買売買売買 債務保証 A 銀行証書借入現経営者現経営者現経営者 - - - - - - - - A 銀行手形借入現経営者 - - - - - - - - - - B 銀行証書借入現経営者現経営者 - - - - - - - - - C 銀行証書借入 - D 銀行手形借入 - E 銀行社債 - - - - - - - - - - - - - - - - - F 銀行証書借入 - - 後継者後継者後継者後継者後継者 - 随時 個人保証を後継者へスライドさせていきます 2012.7 スタッフアドバイザー 85