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8. 砂岩 泥岩互層泥岩互層よりなるよりなる斜面斜面の風化風化によるによる不安定化不安定化と後退過程 Increasing of the instability of steep slopes of alternative beds of sandstone and mudstone due to weathering, and their regression process 吾郷裕輔 横田修一郎 ( 島根大学 ) Yusuke AGOU and Shuichiro YOKOTA(Shimane Univ.) 1. はじめにわが国には砂岩 泥岩互層が急崖を構成している地域は少なくないが, そのような急崖では, 砂岩, 泥岩それぞれの風化 劣化過程の差異が急崖上に凹凸を形成する 1,2). こうした突出部は時間とともに不安定化し, 崩落し, 結果として急崖は後退していくと考えられる ( 図 -1). ただし, 砂岩と泥岩とでは力学的 水理的コントラストが大きいことに加え, 風化の進行をもたらす外的要因が多様であるため, 実際の崩落の予測は容易ではない. こうした予測には, 砂岩, 泥岩それぞれの風化 劣化過程と, 結果として出現する凹凸の形成過程, さらに解体していく過程の解明が不可欠である. ここでは, こうした研究の試みとして, 島根半島にて海岸に面した新第三系砂岩 泥岩互層の急崖を対象に, 凹凸の形成 解体過程を検討した. 凹凸の形成 図 -1 砂岩 泥岩互層泥岩互層よりなるよりなる斜面斜面におけるにおける凹凸凹凸の形成 2. 砂岩 泥岩互層泥岩互層よりなるよりなる波食棚波食棚と急崖表面急崖表面の凹凸一般に, 砂岩 泥岩互層であれば, 波食棚でも急崖斜面でも凹凸が形成されている. それぞれの力学性などの違いと外的営力下での劣化過程の違いを反映したものと考えられる. ただし, 風化 劣化 崩落に関与する営力は波食棚と急崖では同一ではない. 両者に共通する営力として, 日照 降雨による温度変化や乾燥 湿潤変化, 強風, 地震動, 重力加速度等が挙げられる. 波食棚では波浪による直接破壊 浸食や海水 ( 塩水 ) の作用が加わり, 湿潤 乾燥や温度変化には日照 降雨の他に干満による潮位変化が関与する. 一方, 急崖では, 降雨水 ( 真水 ) の浸透と流下による浸食, 湿潤 乾燥は日照 + 降雨のみによるといった違いがある. 対象地域の地形 地質概要を図 -2 に示す. 海岸線の入り組んだ内湾に位置しており, 中新世牛切層の砂岩 泥岩互層よりなる. 波食棚 (Loc.1) は東西約 200m, 南北約 50m で, 背後は斜面となっている. 砂岩 泥岩互層はほぼ東西走向で約 30 で北傾斜している. 一方, 急崖部 (Loc.2) は, 南北約 50m の海食崖である. 走向 傾斜は上記と同様であるため, 緩やかな受け盤構造をなす. 急崖直下には, 径 1~2m の砂岩のブロックが散在しており, 凹凸に起因した崩壊発生を裏付けている. 地形的には当急崖はこのような崩落の繰り返しで形成されつつあると推定される. 凹凸形成機構と過程に差異はあるが, 波食棚では観察, 計測が比較的容易であるため, 急崖に先だって波食棚をも対象とした. 波食棚および急崖での凹凸の実測結果を図 -3,4 に示す.

Loc.1 波食棚 Loc.2 急崖図 -2 測定対象としたとした地域 (Loc.1 波食棚と Loc.2 急崖 ) 図 -3 波食棚におけるにおける実測実測で得られたられた凹凸 (A-A A,B-B ) B )

図 -4 急崖 (Loc.2) にて実測実測で得られたられた凹凸 3. 凹凸形状からから推定推定されるされる波食棚波食棚でのでの風化風化 劣化劣化プロセス Loc.1 の波食棚を構成するのは泥岩の他, 砂岩は粗粒, 中粒, 細粒に分けられる. 凸部は主に粗粒 ~ 中粒砂岩で形成され, 単層に対応して板状を呈するのに対し, 凹部は泥岩 ( 一部細粒砂岩 ) よりなり, なだらかな凹面状を呈する. また, 粗粒 ~ 中粒砂岩では層理面に斜交する 2~3 方向の節理面が発達している. 図 -6 は波食棚と急崖における砂岩の層厚 d と隣接部分に対する突出長 L の関係を示す.d と L の間にはある程度の正の相関があり,d/L=0.94 であった. これは, 突出長 L が, 基部の強度に対応して, 重力や波浪などの営力下にて自立できる長さを反映したためと推定される. 砂岩の突出部は, 傾斜していることから, 突出が増大し, かつ劣化してゆけば, 重力の他, 波浪や地震動等によって崩落すると考えられる. なお, 砂岩には一般に層理面に直交する節理が発達しているが, こうした節理間隔も突出長を規定する要素となっていると考えられる. 平均海面からの突出高さとそのバラツキをみると ( 図 -6), 粗粒砂岩 > 中粒砂岩 > 細粒砂岩 > 泥岩の順で小さくなっている. これは, 乾湿繰り返しを主要因とする岩石の風化 劣化の違いを反映したものと考えられ, とりわけ泥岩が平均海面近くに限定されているのは, 干満による乾湿繰り返しが劣化過程に大きく関与していることを示している. したがって, 波食棚での凹凸の程度は砂岩, 泥岩それぞれの岩石が有する強度の違いと劣化過程の違いを反映したものといえよう. (a) (b) 図 -5 波食棚, 急崖の凹凸凹凸におけるにおける突出突出長さ L と層厚 d の関係 (a) 波食棚 (b) 急崖

(a) (b) (c) (d) 図 -5 波食棚におけるにおける平均海面平均海面からのからの突出長度数分布 (a) 粗粒砂岩 (b) 中粒砂岩 (c) 細粒砂岩 (d) 泥岩 4. 急崖でのでの凹凸凹凸と風化風化 劣化劣化プロセス 70 前後の急崖にてレーザー距離計を用いた実測による凹凸形状を図 -4 に示す. 砂岩, 泥岩の風化状態は波食棚と同様であったが, 泥岩表面の風化部が厚く, 深度 10cm 近くになるものもみられた. ここでも, 砂岩の層厚 d と突出長 L との間にはわずかに正の相関が認められた ( 図 -5). ただし, d/l 比は波食棚のそれよりも小さく, かつ L=0 では必ずしも d=0 ではない. 波食棚との違いは波浪などの突出部を破壊する外的要因の違いによるものと考えられる. 波食棚と違って急崖での泥岩が凹部を形成するのは, 降雨水等に起因したものであり, とくに受け盤構造では降雨水は急崖露岩上部からの流下のみと考えられる. そこで, 急崖を構成する凸部, 凹部の何カ所かで赤外線水分計 (KJT-100) を用いて水分吸収程度から表面の含水状態を測定した 3,4). 測定は前日の深夜に約 30mm の降雨があった翌日である. これには含水比 w の値に換算して表現している. 凹部を形成する泥岩表面の含水状態も崖面からのいくつかの凹み深度のものを測定した. 結果を図 -6 に示す. 崖面近くでは降雨後の日照によって含水比 w は急速に低下するが, 凹み深度の大きい部分では緩慢に低下していくことが確認された. これは,w の時間的変化を w = w0 exp( - kt) のように表現すれば, 低減係数 k は深度 X によって異なり, 小さくなる ( 図 -8). 乾湿に伴う泥岩の劣化はスレーキングあるいは塩類風化が考えられるが, 上記のような乾湿速度の違いが泥岩の劣化速度にどのように影響するかは明らかではない. おそらく変化が急速であるほど劣化速度も速い可能性がある.

図 -7 急崖におけるにおける泥岩含水比の時間的変化 図 -8 急崖表面からのからの深度深度と含水比変化率の関係 5. 考え得る砂岩砂岩 泥岩互層急崖泥岩互層急崖の崩落崩落 後退過程一方, 泥岩の劣化進行によって凹部が大きくなれば, 砂岩の凸部は増大する. ただし, 重力下では突出部の自重によるも転倒モーメントが増大し, それが凸部の基部での引張応力の増大となって, いずれ崩落する. 崩落すれば, 下位の泥岩は再び急崖表面に現れることから, 劣化は急速に進行していくであろう. 急崖での崩落はこのようなプロセスによると考えられ, これらの繰り返しが急崖斜面を後退させていく. 以上のことをもとに, 凹凸の形成, 崩壊過程と急崖の後退過程を概念的に描けば, 図 -9 のようなものとなるであろう. 急崖での泥岩の劣化速度に関しては, これまでにもいくつかの報告があるが, 互層斜面では, 泥岩の劣化とともに砂岩突出部の不安定化も同時に考慮することで, 将来的には崩落予測ができるであろう. 図 -9 考え得る乾湿繰乾湿繰り返しにしに伴う突出部突出部の崩落崩落と急崖急崖の後退過程後退過程のイメージ

6. まとめ (1) 波食棚でも急崖でも, 砂岩の層厚 d と隣接部分に対する突出長 L との間にはある程度の正の相関があり,d//L 比は波食棚の方が急崖よりも大きい. これは, 突出長 L は基部の強度に対応して重力や波浪などの営力下で自立できる長さを反映しているためと推定される. (2) 平均海面からの突出高さh とそのバラツキは, 粗粒砂岩 > 中粒砂岩 > 細粒砂岩 > 泥岩の順で小さくなっている. これは, 干満による乾湿繰り返しが主要因となって岩石の風化 劣化の違いに反映したものと考えられ, とりわけ泥岩の劣化過程には大きく関与していることを示している. (3) 崖面近くでは降雨後の日照によって含水比 w は急速に低下するが, 凹み深度の大きい部分では緩慢に低下していくことが確認された. これに対応して, 泥岩の劣化速度は急崖露出部では大きく, 凹部になるほど小さくなると推定される. (4) 上記に基づくと, 砂岩 泥岩互層の急崖では, 乾湿変化による劣化の進行で凹部が深くなれば, 上位の砂岩凸部の突出増大に対応して重力下での転倒モーメントが増大し, 崩落を発生させる. その後, 下位の泥岩は再び急崖表面に現れることから, 劣化が進行する. 急崖後退に関してはこのようなプロセスが推定される. (5) したがって, このようなプロセスを前提とし, 泥岩 砂岩のそれぞれの劣化速度が推定できれば, 崩落発生頻度と規模を予測できる. 文献 1) 鈴木隆介 高橋健一 砂村継夫 寺田稔 (1970): 三浦半島荒崎海岸の波蝕棚にみられる洗濯板状起伏の形成について, 地理学評論,Vol.43, No.4,pp.211-220. 2) 高橋健一 (1976): 波蝕棚における差別侵蝕 -とくに日南海岸青島の波蝕棚について-, 中央大学理工学部紀要,No.19,pp.253-316. 3) Matsukura,Y.and Takahashi,K.(1999):A new technique for rapid and non-destructive measurement of rock-surface moisture content ; preliminary application to weathering studies of sandstone blocks,engineering Geology,Vol.55,pp.113-120. 4) 水野恵司 松倉公憲,(1999): 和歌山県田辺市の ひき岩群 に見られるケスタ地形形成に関与する岩石物性と風化の影響, 地形,Vol.20, No.5, pp.571-588.