<4D F736F F D E9197BF33817A90C396AC8C8C90F0975C D836A B2E646F6378>

Similar documents
日本血栓止血学会誌 第18巻 第6号

褥瘡発生率 JA 北海道厚生連帯広厚生病院 < 項目解説 > 褥瘡 ( 床ずれ ) は患者さまのQOL( 生活の質 ) を低下させ 結果的に在院日数の長期化や医療費の増大にもつながります そのため 褥瘡予防対策は患者さんに提供されるべき医療の重要な項目の1 つとなっています 褥瘡の治療はしばしば困難

Microsoft PowerPoint 指標の定義[version1.4_1].ppt [互換モード]

対象と方法 本研究は 大阪医科大学倫理委員会で承認を受け 対象患者から同意を得た 対象は ASA 分類 1 もしくは 2 の下肢人工関節置換術が予定された患者で 術前に DVT の存在しない THA64 例 TKA80 例とした DVT の評価は 下肢静脈エコーを用いて 術前 術 3 日後 術 7

「             」  説明および同意書

葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd

2019 年 2 月 9 日 ( 土 ) 関西支部症例検討会 ( マンスリー ) スケジュール 関西支部症例検討会 ( マンスリー ) (1)~(5) 10:00~16:50 発表時間番号演題発表者 10:00~11:00 (1) 共通講習 ( 医療安全 ) モニターから医療安全を考える 大阪市立大


2017 年 9 月 14 日放送 第 80 回日本皮膚科学会東京支部学術大会 7 シンポジウム 7-1 下肢静脈瘤の治療 NTT 東日本関東病院皮膚科主任医長出月健夫 下肢静脈瘤とは下肢静脈瘤は とても患者数の多い疾患です 症状が目に見えますし ある程度重症になってくると湿疹 脂肪織炎 皮膚潰瘍な

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

プラザキサ服用上の注意 1. プラザキサは 1 日 2 回内服を守る 自分の判断で服用を中止し ないこと 2. 飲み忘れた場合は 同日中に出来るだけ早く1 回量を服用する 次の服用までに 6 時間以上あけること 3. 服用し忘れた場合でも 2 回量を一度に服用しないこと 4. 鼻血 歯肉出血 皮下出

Microsoft Word - No2-7血栓症医師.doc

平成 28 年度診療報酬改定情報リハビリテーション ここでは全病理に直接関連する項目を記載します Ⅰ. 疾患別リハビリ料の点数改定及び 維持期リハビリテーション (13 単位 ) の見直し 脳血管疾患等リハビリテーション料 1. 脳血管疾患等リハビリテーション料 (Ⅰ)(1 単位 ) 245 点 2

下肢静脈血栓症のマネージメント

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

「周術期肺塞栓症の予防」についての取り組み~当院で術後静脈血栓塞栓症(VTE)をきたした症例から学ぶ

Microsoft PowerPoint - 指導者全国会議Nagai( ).ppt

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

U 開腹手術 があります で行う腎部分切除術の際には 側腹部を約 腎部分切除術 でも切除する方法はほぼ同様ですが 腹部に があります これら 開腹手術 ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術を受けられる方へ 腎腫瘍の治療法 腎腫瘍に対する手術療法には 腎臓全体を摘出するU 腎摘除術 Uと腫瘍とその周囲の腎

rihabili_1213.pdf

ヒアルロン酸ナトリウム架橋体製剤 特定使用成績調査

タイトル(HGPゴシックM、16pt、文字間隔2pt、太字)

腹腔鏡下前立腺全摘除術について

を確認しました 本装置を用いて 血栓形成には血液中のどのような成分 ( 白血球 赤血球 血小板など ) が関与しているかを調べ 血液の凝固を引き起こす トリガー が何であるかをレオロジー ( 流れと変形に関わるサイエンス ) 的および生化学的に明らかにすることとしました 2. 研究手法と成果 1)

h29c04

概要 214 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症 215 ファロー四徴症 216 両大血管右室起始症 1. 概要ファロー四徴症類縁疾患とは ファロー四徴症に類似の血行動態をとる疾患群であり ファロー四徴症 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖 両大血管右室起始症が含まれる 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症は ファ

AC 療法について ( アドリアシン + エンドキサン ) おと治療のスケジュール ( 副作用の状況を考慮して 抗がん剤の影響が強く残っていると考えられる場合は 次回の治療開始を延期することがあります ) 作用めやすの時間 イメンドカプセル アロキシ注 1 日目は 抗がん剤の投与開始 60~90 分

TTP 治療ガイド ( 第二版 ) 作成厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 血液凝固異常症等に関する研究班 ( 主任研究者村田満 ) 血栓性血小板減少性紫斑病 (thrombotic thrombocytopenic purpura:ttp) は 緊急に治療を必要とする致死的疾患である

スライド 1

<4D F736F F F696E74202D20819A94788DC790F0835A837E B C815B >

透析看護の基本知識項目チェック確認確認終了 腎不全の病態と治療方法腎不全腎臓の構造と働き急性腎不全と慢性腎不全の病態腎不全の原疾患の病態慢性腎不全の病期と治療方法血液透析の特色腹膜透析の特色腎不全の特色 透析療法の仕組み血液透析の原理ダイアライザーの種類 適応 選択透析液供給装置の機能透析液の組成抗

<955C8E862E657073>

BV+mFOLFOX6 療法について 2 回目以降 ( アバスチン +5-FU+ レボホリナート + エルプラット ) 薬の名前アロキシ注吐き気止めです デキサート注 アバスチン注 エルプラット注 レボホリナート注 作用めやすの時間 5-FU の効果を強める薬です 90 分 2 回目から点滴時間が短

Microsoft Word - ジュビダームビスタ同意説明書_201602_JAP docx

<4D F736F F D D8ACC8D6495CF82CC96E596AC8C8C90F08FC782CC8EA197C32E646F6378>

貧血 

心臓血管外科カリキュラム Ⅰ. 目的と特徴心臓血管外科は心臓 大血管及び末梢血管など循環器系疾患の外科的治療を行う診療科です 循環器は全身の酸素 栄養供給に欠くべからざるシステムであり 生体の恒常性維持において 非常に重要な役割をはたしています その異常は生命にとって致命的な状態となり 様々な疾患

資料 1-1 Press Release 平成 29 年 8 月 9 日 医療事故調査制度の現況報告 (7 月 ) 医療事故調査 支援センター医療事故調査制度の現況について 平成 29 年 7 月末時点の状況をご報告いたします 1 医療事故報告および院内調査結果報告の件数 1 医療事故報告 22 件

適応病名とレセプト病名とのリンクDB

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

日本版敗血症診療ガイドライン2016 CQ17 静脈血栓塞栓症(VTE: venous thromboembolism)対策

2

本扉.indd

第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

医療機器に関わる保険適用決定区分案

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

188-189

日本臨床麻酔学会 vol.35

PT51_p69_77.indd

はじめに 緩和ケア期には四肢や顔面 体幹部に浮腫を発症することがあります また発症していたリンパ浮腫ががんの進行で悪化することもあります がんの進行を抑える抗癌剤の一部には 副作 用で重症の浮腫を来すことがあります 緩和ケア期の浮腫の要因 病態は複雑で 癌性疼痛や神経麻痺 しびれなど 浮腫を治療する

健康な生活を送るために(高校生用)第2章 喫煙、飲酒と健康 その2

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

09-1

検査項目情報 von Willebrand 因子 ( フォン ウィルレブランド因子 ) Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital 一次サンプル採取マニュアル 血液学的検査 >> 2B. 凝固 線溶関連検査

<4D F736F F D2089BB8A7797C C B B835888E790AC8C7689E6>

19シリーズ特集Dr.山田.indd

医療事故防止対策に関するワーキング・グループにおいて、下記の点につき協議検討する

saisyuu2-1

TAVIを受ける 患者さんへ

耐性菌届出基準

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02 - コピー.docx

リクシアナ錠は 血液を固まりにくくして 血管の中に血栓 ( 血液の塊 ) が できないようにするお薬です リクシアナ錠は 1 日 1 回服用するお薬です 医師の指示通りに毎日きちんと 服用してください しんぼうさいどう 心房細動は 不整脈のひとつです 心房細動になると 心臓が正しいリズムで拍動できな

2. 診断 どうなったら TTTS か? 以下の基準を満たすと TTTS と診断します (1) 一絨毛膜性双胎であること (2) 羊水過多と羊水過少が同時に存在すること a) 羊水過多 :( 尿が多すぎる ) b) 羊水過少 :( 尿が作られない ) 参考 ; 重症度分類 (Quintero 分類

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

胸痛の鑑別診断持続時間である程度の鑑別ができる 数秒から1 分期外収縮筋 骨格系の痛み 心因性 30 分以内 狭心症食道痙攣 逆流性食道炎 30 分以上 急性心筋梗塞 解離性大動脈瘤 肺塞栓症 急性心膜炎自然気胸 胸膜炎胃 十二指腸潰瘍 胆嚢炎 胆石症帯状疱疹 急性心筋梗塞の心電図変化 R P T

脳卒中に関する留意事項 以下は 脳卒中等の脳血管疾患に罹患した労働者に対して治療と職業生活の両立支援を行うにあ たって ガイドラインの内容に加えて 特に留意すべき事項をまとめたものである 1. 脳卒中に関する基礎情報 (1) 脳卒中の発症状況と回復状況脳卒中とは脳の血管に障害がおきることで生じる疾患

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

<4D F736F F D DC58F4994C5817A54524D5F8AB38ED28CFC88E396F B CF8945C8CF889CA92C789C1816A5F3294C52E646

S-1 急性肺血栓塞栓症の項参照 144 頁 緊張性気胸などをま 一過性意識障害 と失神 肺水腫 肺血栓塞栓症 ず鑑別する その他 COPD 増悪を含む などの呼吸器疾患 心不全 急性 慢性 急性心不全の項参照 139 頁 などの循環器疾患以外にも 貧血 神経筋疾患 代謝疾患 S-2 意識障害 精神

Microsoft Word - ガイド新規案_アダラートカプセル_PTPシート差替_final_150908R.docx

減量・コース投与期間短縮の基準

Microsoft Word _ソリリス点滴静注300mg 同意説明文書 aHUS-ICF-1712.docx

PowerPoint プレゼンテーション

エントリーが発生 真腔と偽腔に解離 図 2 急性大動脈解離 ( 動脈の壁が急にはがれる ) Stanford Classification Type A Type B 図 3 スタンフォード分類 (A 型,B 型 ) (Kouchoukos et al:n Engl J Med 1997) 液が血管

2 片脚での体重支持 ( 立脚中期, 立脚終期 ) 60 3 下肢の振り出し ( 前遊脚期, 遊脚初期, 遊脚中期, 遊脚終期 ) 64 第 3 章ケーススタディ ❶ 変形性股関節症ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Microsoft PowerPoint - 薬物療法専門薬剤師制度_症例サマリー例_HP掲載用.pptx

認定看護師教育基準カリキュラム

頭頚部がん1部[ ].indd

基準範囲の考え方 ph 7.35~ mmHg pco2 mmhg po2 mmhg HCO3 mmol/l BE mmol/l 35~45 85~105 60> 呼吸不全 21~28-2~+3 so2(%) 95~99% 静脈 pco2=45mmhg po2=40mmhg 動脈 pco

針刺し切創発生時の対応

受給者番号 ( ) 患者氏名 ( ) 告示番号 72 慢性心疾患 ( ) 年度小児慢性特定疾病医療意 書 新規申請用 経過 ( 申請時 ) 直近の状況を記載 2/2 薬物療法 強心薬 :[ なし あり ] 利尿薬 :[ なし あり ] 抗不整脈薬 :[ なし あり ] 抗血小板薬 :[ なし あり

より詳細な情報を望まれる場合は 担当の医師または薬剤師におたずねください また 患者向医薬品ガイド 医療専門家向けの 添付文書情報 が医薬品医療機器総合機構のホームページに掲載されています

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医


死亡率(人口10 万対1950 '55 '60 '65 '70 '75 '80 '85 '90 ' 心血管系疾患 ( 動脈硬化による ) とがんが死亡の大 部分を占める 脳血管疾患 悪性新生物 結核 心疾患 )肺炎 50 不慮の事故自殺 0 肝疾患昭和

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

あなたは大丈夫? 血栓症チェックリスト 血栓症はあなたに身近な病気です いくつ該当しますか? 以前に血栓症になったことがある 家族に血栓症になった人がいる 75 歳以上である 脚にまひがある 骨折などでギプスを巻いている がんの治療中である 心臓や肺 腎臓などに病気がある 最近大きな手術をしたり 病

用語 略語の確認 VTE: Venous thromboembolism 静脈血栓塞栓症 DVT: Deep Vein Thrombosis 深部静脈血栓症 PE: Pulmonary Embolism 肺塞栓症 UFH: unfrac<onated heparin 未分画ヘパリン LMWH: Lo

サーバリックス の効果について 1 サーバリックス の接種対象者は 10 歳以上の女性です 2 サーバリックス は 臨床試験により 15~25 歳の女性に対する HPV 16 型と 18 型の感染や 前がん病変の発症を予防する効果が確認されています 10~15 歳の女児および

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会


基本料金明細 金額 基本利用料 ( 利用者負担金 ) 訪問看護基本療養費 (Ⅰ) 週 3 日まで (1 日 1 回につき ) 週 4 日目以降緩和 褥瘡ケアの専門看護師 ( 同一日に共同の訪問看護 ) 1 割負担 2 割負担 3 割負担 5, ,110 1,665 6,

別紙様式 (Ⅱ)-1 添付ファイル用 商品名 : イチョウ葉脳内 α( アルファ ) 安全性評価シート 食経験の評価 1 喫食実績による食経験の評価 ( 喫食実績が あり の場合 : 実績に基づく安全性の評価を記載 ) 弊社では当該製品 イチョウ葉脳内 α( アルファ ) と同一処方の製品を 200

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

消化性潰瘍(扉ページ)

Microsoft PowerPoint - 新技術説明会配付資料rev提出版(後藤)修正.pp

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

Microsoft Word - ①【修正】B型肝炎 ワクチンにおける副反応の報告基準について

リハビリテーションを受けること 以下 リハビリ 理想 病院でも自宅でも 自分が納得できる 期間や時間のリハビリを受けたい 現実: 現実: リ ビリが受けられる期間や時間は制度で リハビリが受けられる期間や時間は制度で 決 決められています いつ どこで どのように いつ どこで どのように リハビリ

初版 血糖測定およびブドウ糖投与ガイドライン 2015 湘南地区メディカルコントロール協議会

Transcription:

静脈血栓予防マニュアル 1. 定義 2. 肺血栓塞栓予防管理料について 3. 発生因子 1) 血流の停滞 2) 血管内皮の障害 3) 血液凝固能の亢進 4. リスクファクター 5. 予防 実際 1) 十分な水分補給 2) 早期離床および積極的な運動 3) 弾性ストッキング 4) 間歇的空気圧迫装置 5) 抗凝固療法 6) 各種検査 資料 1) 肺血栓塞栓症予防に関する診療計画書 2) 身体拘束中の観察記録 3) 弾性ストッキングの使用方法 4) 弾性ストッキング ( ファインサポート ) のサイズ表 5) 間歇的空気圧迫装置の使用方法

1. 定義 深部静脈血栓症(DVT:Deep Venous Thrombosis) 深部静脈 ( 大腿静脈 膝窩静脈など 身体の深部にある静脈 ) に血栓ができた状態で 肺血栓塞栓症の主な原因 肺塞栓症(PE:Pulmonary Embolism) 塞栓子が静脈血流にのって肺動脈あるいはその分岐を閉塞し 肺循環障害をきたした状態 肺梗塞症(PTE:Pulmonary Thromboembolism) 肺塞栓症の結果塞栓子によって末梢肺動脈が完全に閉塞し 肺組織の壊死がおこった状態 2. 肺血栓塞栓症予防管理料について 診療報酬算定上 肺血栓塞栓症を発症する危険性が高く身体拘束が行われている患者に対し 予防を目的として必要な機器や材料を用いて計画的な医学管理を行った場合に 該当入院 1 回に限り算定する (305 点 ) 入院時リスクのある患者は 肺血栓塞栓症予防に関する診療計画書 を作成する 該当しない患者は カルテに計画書を保存しリスクが生じた時に作成する ( 資料 1) 3. 発生因子 何らかの要因により凝固系が働き 血管内で血栓が形成されると 線溶系が作動して血栓を分解するように働く このような凝固 線溶系のバランスが崩れる状況になると 血栓形成が爆発的に促進される 血栓形成の発生因子として Virchow の三主徴 ( 血流の停滞 血管内皮の障害 血液凝固能の亢進 ) が挙げられる 1) 血流の停滞長時間同一姿勢を続けることや下肢静脈瘤の存在 ( 精神科領域では向精神薬の投与による鎮静や身体拘束や昏迷状態など精神症状による無動 ) により血流が停滞すると 血小板からセロトニンが放出され血栓ができやすくなる 1

2) 血管内皮の障害手術 留置カテーテル 外傷などによる直接的な障害 血液中の酸素飽和度の低下 感染 栄養障害などがみられた場合 血管内皮に障害がおこる 血管内皮が障害されると血小板凝集がおこったり 内皮下組織から種々の物質 ( サイトカイン等 ) が放出されたりして 血栓形成が始まる 3) 血液凝固能の亢進血液凝固能が亢進する原因として 脱水 悪性腫瘍 手術 妊娠 心筋梗塞 感染症などがある また 先天性の凝固因子の異常である ATⅢ( アンチトロンビンⅢ) 欠損症 プロテイン C プロテイン S 欠損症 後天性の抗リン脂質抗体症候群などの血栓性素因も原因となる 4. リスクファクター 前項で述べた発生因子に関わる要因やこれまでの当センターでの経験 そして日本総合病院精神医学会教育 研究委員会が編集した 静脈血栓塞栓症予防指針 を踏まえたうえで 以下のようにリスクファクターを分類した 脱水 肥満 (BMI 28) 喫煙 治療前の臥床傾向 パーキンソン症候群 基本リスク 向精神薬の内服 70 歳以上の高齢者 * 緊張病 ( 症候群 ) 悪性症候群 静脈血栓塞栓症の既往 下肢静脈瘤 高リスク 血栓性素因 手術の既往 下記以外の身体拘束 下記以外の鎮静 夜間自力体動のない患者 身体拘束 24 時間以上の下肢を含む身体拘束 増強リスク 鎮静 24 時間以上の強い鎮静 ( 強い鎮静とは ほとんど体動が見られない状態を指す ) *: エビデンスとしては確立されていないが 当センターの経験上高齢の女性 はリスクが高いとされているため 注意が必要である 2

5. 予防 実際 リスクレベルはリスクファクターを評価することにより決定する 予防対策はリスクレベルに応じたものを的確に行う 再評価によってリスクレベルに変化があれば そのレベルに合った予防対策に変更する リスクレベル別予防対策 リスクレベル当センターにおける予防対策全リスク共通 (1~5) 十分な水分補給基本リスク (1) 早期離床及び積極的な運動基本リスク+ 弾性ストッキングあるいは間歇的空気圧迫装置増強リスク (3) の使用 弾性ストッキングあるいは間歇的空気圧迫装置の使用高リスク 場合によっては抗凝固療法 (2 4 5) 各種検査の施行( 特に手術の既往がある患者についてはD ダイマーを測定することが望ましい ) * 弾性ストッキングと間歇的空気圧迫装置とでは 当センターでは弾性ストッキングを第 1 選択とする 1) 十分な水分補給体内の水分不足により血液が濃縮し血栓ができやすくなるため 十分な水分補給が必要である 目安としては 補液の場合:2000ml/ 日 ( 心不全や腎不全などがない場合 ) 経口摂取の場合:1500ml/ 日 * ただし 発熱や発汗といった身体症状により補液量は調整が必要 となる 身体拘束や隔離などにより 患者が自由に水分を摂ることができない状態になりやすいこと また精神症状により水分を摂りたがらない患者もいるため 水分出納のチェックをこまめにおこなう必要がある 2) 早期離床および積極的な運動 (1) 身体拘束の解除方法 1 身体拘束中により下肢に深部静脈血栓ができていないかを症状 所見にて観察する 3

症状 所見 深部静脈血栓症: 下肢の発赤 疼痛 表在静脈拡張 Homan s サイン ( 足関節の背屈により腓腹部に疼痛が生じる ) Lowenberg のサイン ( 腓腹部をマンシェットで加圧すると低圧で疼痛が生じる ) など 肺血栓塞栓症: 呼吸困難 喘鳴 血痰 発熱 胸痛 失神 ショック 動悸 冷汗 頻脈 頻呼吸 頸静脈怒張 チアノーゼ SpO 2 低下など 観察方法 モニターの使用 バイタルサインの測定 イン アウトバランス 身体拘束中の患者に対しては 当センター所定の 身体拘束中の観察記録 を用いて 十分に観察を行う 2 身体拘束解除時に呼吸困難を訴えたり 急に失神発作をおこしたりした時は 肺血栓塞栓症を疑う 初回歩行時にはすぐに傍を離れず 様子を観察する またパルスオキシメーターの装着が望まれる 3 身体拘束解除後も 過鎮静であったり ふらつきがあったりして寡動状態であることもあるため十分な歩行が可能になるまで予防対策は継続する 臥床が長期化していた場合には 急な離床は肺血栓塞栓症を誘発しやすいため 段階を追って離床への援助をおこなうようにする (2) 積極的な運動 1 体位変換病状や身体拘束 鎮静により同一体位が続いてしまう あるいは自力体動がない場合においては 他動運動の一つとして有効な手段である 2 下肢の積極的な運動 ⅰ 自動または他動運動足関節の背屈と底屈を繰り返し行うことで 下肢の静脈還流を促す 自動的に行うことが難しければ他動的に行う ⅱ 下肢のマッサージ下腿腓腹部を足首から膝にかけて 血液を絞り出すようなつもりで力強くマッサージする 4

3) 弾性ストッキング下肢を圧迫し静脈の総断面積を減少させることにより 静脈の血流速度を増加させ 下肢への静脈うっ滞を減少させる 中枢側に向かって段階的に圧迫する力が弱くなるように作られており 静脈逆流を予防し 静脈血が心臓へ循環しやすいようにする 適応患者 どのような患者にも使用可 高リスク症例では弾性ストッキングによる予防効果は明確ではないため 間歇的空気圧迫法の実施も検討する 慎重使用 動脈の血行障害 ( 閉塞性動脈硬化症 バージャー病など ) 下肢の急性炎症 ( 皮膚化膿創 弾性ストッキングによる接触性皮膚炎 皮膚損傷など ) うっ血性心不全 自殺の可能性が高い ( 上肢を拘束するなど 自殺企図の道具として使われない状況であれば可 ) * 当センターでは 上記 については禁忌扱いとしている 使用方法 資料 弾性ストッキングの使用法 を参照 使用上の注意点 使用の際に弾性ストッキングの端が丸まったり 途中にしわができたりしてその部位を圧迫することで 静脈還流の阻害や動脈血行障害を引き起こす危険がある また 皮膚の発赤や水疱 びらんなどの皮膚損傷の可能性もあるため 適宜弾性ストッキングを外して足趾の色調や疼痛など 下肢全体の皮膚状態を観察する 4) 間歇的空気圧迫装置下肢にカフを巻き 機器を用いて空気を間歇的に送入して下肢をマッサージすることで静脈うっ滞を減少させる 能動的に静脈還流を促進させるため 弾性ストッキングよりも効果が高い 適応患者 禁忌以外 どのような患者にも使用可 5

高リスク症例にも有効 禁忌 既に下肢の深部静脈血栓症がある場合 ( 血栓を遊離させてしまい 肺血栓塞栓症を引き起こす可能性があるため ) 慎重使用 動脈血行障害 下肢の急性炎症 うっ血性心不全 深部静脈血栓が疑われる場合 ( 下肢麻痺 長期臥床後 下肢腫脹や周囲径の左右差がある場合など ) * 当センターでは 上記 については禁忌扱いとしている 使用上の注意点 カフの圧迫が強過ぎて 総腓骨神経麻痺やコンパートメント症候群にならないように注意が必要である 5) 抗凝固療法抗凝固薬を皮下注射することで血液を固まりにくくし血栓形成を予防する方法 単独使用でも高リスク症例に有効であり 致死的肺血栓塞栓症を含めた静脈血栓塞栓症のリスクを60~70% 減少させるとも言われている効果が高い方法であるが 一方で出血しやすいという副作用もあるため 他の方法と比較すると安全性の面では劣る 当センターでは転倒に伴う出血リスクの観点から原則行わない しかし行う場合も稀にあるため実施方法や注意点について把握しておく必要がある 適応患者 身体拘束中の患者 ( 特に動脈血行障害のある症例など 弾性ストッキングや間歇的空気圧迫法などの理学的予防法が実施できない場合 ) 過去に静脈血栓塞栓症の既往があるなど リスクが著しく高い患者 ( 抗凝固療法と理学的予防法の併用が望ましい ) * 過去に当センターで抗凝固療法を行った症例としては 精神運動興奮や昏迷等で身体拘束を要し かつ肥満という患者である 6

実施方法 当センターでは低用量未分画へパリン ( 一般名 : へパリンナトリウム ) を用いる 低用量未分画へパリンは簡便であること 高リスク症例で単独使用が可能であることが特徴である 8 時間あるいは12 時間ごとに5000 単位を皮下注射するという方法が取られるが 医師の指示に従って投与する 実施上の注意点 禁忌に該当していないか確認する ( 禁忌については 肺血栓塞栓症予防に関する診療計画書 内の5. 各種予防対策における禁忌のチェックを参照 ) 合併症の早期発見と対応が重要である 特に注意が必要なのは 出血とへパリン起因性血小板減少症である ( 下表を参照 ) へパリンの主な合併症 副作用と対応 出血 へパリン起因性血小板減少症(Ⅰ 型 Ⅱ 型 ) 合併症 副作用 皮下注射部位の局所皮膚過敏症 骨粗鬆症 肝機能障害 1へパリンの投与中止 2 出血源の検索および局所圧迫等出血への対応 3へパリン拮抗薬の投与 ( 生命を脅かす恐れがある場合 硫酸プロタミン投与 ) Ⅰ 型 : 自然回復するためへパリン投与の中止は不要へパリン起因性 Ⅱ 型 : 投与を中止しない限り血小板は減少し続けるため血小板減少症への速やかに投与を中止し 代替抗凝固薬としてアル対応ガトロバンの投与の検討 6) 各種検査高リスク症例 または肺血栓塞栓症の発症が疑わしい症例については 以下の検査を行い 発症の早期発見に努める (1) 血液検査血算 (WBC 上昇 ) 生化学( 発症後 10 時間以内に CRP 上昇 ) D ダイマー ( 正常値 :1.0ug/ml であれば発症はほぼ否定 ) 血液ガス (pco 2 と po 2 の低下を認める ) *D ダイマーの測定は特に手術の既往がある患者に対しては推奨する ( 測定の目安は1 週間に1 回 ) 7

(2)ECG12 誘導一般的には 第 Ⅰ 誘導で S 波 第 Ⅲ 誘導で Q 波と陰性 T 波を認めることが多い 代表的なのは 軽度の ST T 変化 (ST 下降 陰性 T 波 ) で不完全右脚ブロックが見られることもある (3) 胸部レントゲン発症時に見られる所見として 肺動脈主幹部陰影の拡大( 発症率約 70%) 片側 もしくは両側の横隔膜挙上( 同約 60%) 心陰影の肥大( 同約 60%) 少量の胸水( 同約 50%) といったことが挙げられる 8