子どもの発達障害について RabbitDevelopmentalResearch 独立行政法人国立成育医療研究センター理事東京大学医学部小児科学教室非常勤講師日本小児保健協会理事 副会長平岩幹男 発達障害 発達の過程で明らかになる行動やコミュニケーションなどの障害で 根本的な治療は現在ではないが 適切な対応により社会生活上の困難は軽減される障害 自閉症スペクトラム障害 ADHD( 注意欠陥多動性障害 ) 学習障害 発達障害を抱えていると 行動やコミュニケーションの問題を抱えるので 注意されたり叱られたりしやすい めったにほめられない そしてうまくいかなくなる Self-esteem( 自己肯定感 自尊感情 ) の低下 明るい笑顔が消える 自己評価が下がり二次障害へ 薬物療法だけに頼ってもなかなかうまくいかない 発達障害は治るか? 治ることはないが目立たなくはできる そうすれば社会で生きていける 知的な問題はないので 能力を生かそう しかし障害となる症状は薄めよう 目標を決めて少しずつ コミュニケーションは技術と蓄積 二次障害が出たら早めに対応しよう 早めの対応が社会生活を可能にする 診断を受けるリスク 診断すら受けられない場合もある 診断を受けて 希望 をなくすかもしれない しばしば対応については教えてもらえない 療育的対応のできる社会資源が少ない 薬剤投与を勧められる 何か問題があるたびに 障害 のせいにする 将来の心配が増える 診断を受けないリスク 療育や対応には適した時期がある 様子をみているうちに子どもは大きくなる 何とかなるだろう という期待感が消えてくる 二次障害が出てくる まわりのせいにする 育て方のせいにする 治らないから診断せず経過を見る医療機関も すなわち診断をしないリスクを知らない 結局なにもしないであとで後悔することも多い 1
乳幼児健診と発達障害 1 歳 6 か月児健診 3 歳児健診 5 歳児健診 1 歳 6 か月児健診と発達障害 自閉症の一部は発見される (Kanner 型 ) 言語発達の遅れ通常は自発言語での判定 非言語的なコミュニケーションの遅れ正確なスクリーニングが難しい ADHD は発見されない 学習障害も発見されない 疑ったり診断するなら対応を! 3 歳児健診と発達障害 Kanner 型の自閉症は見逃せない 療育の遅れは発達の遅れに直結する 高機能自閉症 対人関係 話し方から一部が診断可能 ADHD 多動 衝動型の一部が診断可能 : 割り込み 学習障害 : 基本的に診断できない 言語発達の遅れを見逃さないこと 4-5 歳ころの健診 肥満と低身長には要注意 視聴覚のチェックが重要 乱視 近視 浸出性中耳炎 アレルギー 発達障害への対応高機能自閉症 ADHD などの疑いが可能 永久歯萌出を控えている う歯 には治療を 歯磨き確認を 問題は適切なフォローができるかということ 健診のフォローアップ 健診で発達障害が疑われた 専門医あるいは療育センターを紹介する 専門医は少なく 予約が取れない 療育センターは個別療育に慣れていない発達障害にも慣れていない そこで難民が発生する 障害の可能性や診断だけで終わることは 児童虐待の リスクを増やす 2
Kanner の自閉症 : 症状 少しだけ各論 自閉症スペクトラム障害 ADHD( 注意欠陥多動性障害 ) 学習障害 言語発達の遅れ 対人関わりの興味や行動の希薄さ こだわり : 常同行動 感覚過敏など クレーン現象 視線が合いにくい 本のページだけをめくる PARS 9 点以上 言葉が遅れる自閉症と知的障害 自閉症は知的障害を伴うものと考えられた 自閉症は言葉の遅れを伴う 言葉の遅れは知的障害 知的障害は治らないから自閉症は治らない しかし個別療育によって変化がでてきた 古典的な自閉症は 25~35% 300~500 人に 1 人以上 男女比 3~5:1 自閉症へのこれまでの多くの対応 診察をして病歴を聴取する しばしば子どもの観察は不十分 脳波 MRI 血液検査など 器質的疾患を考えて検査する 診断する 治療的対応がないと考えれば様子見も どうすればよいかが知りたい保護者には しばしば no idea 自閉症にこう対応してみたら まずは診断をするより何が困難かを考える 必要があれば検査もする 診断名ではなく実際の生活上の問題を把握 将来的な目標も聴取する 無発語 = 知的障害とは限らない 実際の問題点に合わせて対応方法を伝える 改善状況を見ながら課題設定を変える 場合によっては療育の専門家の手を借りる 自閉症が疑われると 発達検査をしてみる 早期診断 = 早期絶望のはじまり 通所支援サービス 基本的には知的障害が対象であり 自閉症に特化した公的施設はない 保育園や幼稚園では加配など 必ずしも認められないし 教育もない 多くの人はこの子が普通に就学すると思わない 3
小学校就学の内訳 (Kanner) ADHD 一次性の症状 不注意性 衝動性 多動性 これらの症状により社会生活に困難がある 2 つ以上の場面で 6 か月以上続いている 12 歳以下に症状が明らかになる 自閉症との併存例もある 適切に対応しないと早期から二次症状 ADHD へのこれまでの多くの対応 診察をして病歴を聴取する しばしば子どもの観察は不十分 診断する 投薬を開始する 定期的な検査を行い投薬を継続する 個人個人あるいは集団での SST などは 資源もないしできない 学校との協調もしない ADHD にこう対応してみたら 診断よりも実際の社会生活上の問題を把握 家庭だけではなく学校などの状況も それをどう改善するかを話し合う 技術的な対応や SST を開始する エージェントに依頼する場合もある 重要なことは self-esteem の上昇 実際の問題点に合わせて対応方法を伝える 改善状況を見て必要であれば投薬する 学習障害で最も多いのは 発達性読み書き障害 ( ディスレクシア ) 読みの障害 : 音韻障害が見つかりやすい かえる を反対から言わせて見よう 書きの障害 : 複雑な図形の書写ができない 龍 を写させてみよう 算数障害 しばしば空間認識の障害もある 2+3 5+3 8+3 11-4 学習障害へのこれまでの多くの対応 ほとんどのケースは診断すらされていない 会話能力とテストの差があれば疑うべき テストができなければ知的障害? 脳波 MRI 血液検査など 器質的疾患を考えて検査する 診断する フォローは経過観察のみ 治療的対応がないと考えれば様子見 4
学習障害にこう対応してみたら まずは診断をする テストの点数が低くても知的障害ではない この子だけに対応するのは無理といわれる しかし学校との協調は欠かせない DAISY 小枝研究室の HP などを教える http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/about/ http://www.dyslexiakoeda.jp/user/monotony_index.php 技術的対応も含めて練習する 学習障害への対応 まず きちんと 診断すること 保護者に子どもの病態を理解させること 子どもにとって必要なこと必要でないことを見分ける 適切な教育的アプローチをする 語彙不足には留意する 子どもが自信を失わないことが大切 社会で暮らしてゆくためには 我慢が必要なときに我慢する 交通ルールなど最低限必要な社会的ルールは守る あいさつなど基本的な社会習慣は守る パワーを発揮できる場所を作る 将来を考える 子どもたちでは 25 歳のときに何をしているか 大人たちの場合には 3 年後 5 年後 具体的に考えよう どうやって食べて行くか どんなところで生活するか そのためには何が必要か 今のことだけではなく 将来目標が大切 子どもの発達障害診療が目指しているのは 20 歳の時の生活の質を高めること そのための努力と方策 http://rabbit.ciao.jp/ http://autism-park.sunnyday.jp/ みんなに知ってもらいたい発達障害診断と治療社 2007 幼稚園 保育園での発達障害の考え方と対応役に立つ実践編少年写真新聞社 2 09 あきらめないで自閉症! 講談社 2010 親子保健 24 のエッセンス医学書院 2011 自閉症スペクトラム障害岩波新書 2012 5