21 世紀社会デザイン研究 2002 ③ No.1 治療期 1996 年5 月14 日 MMMA は前連邦政府労働長官のリン マーチン女史を団長とする社外 調査団を設置したが 同女史は調査団の独立性をアピールしている MMMA はこの調査団 にセクシュアル ハラスメント対策を含む経営改善策を作成させることになる また同時に 三菱自動車工業本社としてもMMMA に対し社内調査および改善策の作成を指示している 6 月にはNOW のアイランド氏およびジャクソン師が三菱自動車工業本社に対して性と人 種差別に対する抗議活動を行うと発表 これに対し三菱自動車工業の中村会長 当時 はジ ャクソン師との会談に応じる旨表明した また MMMA はEEOC と初めて本格的交渉を開 いた さらに 日本では本社首脳および当時の永井労働大臣が来日したリン マーチン女史と会 談し 同女史からは7 月中旬を目途に職場改善計画を作成するとの説明があり 7 月16 日に は改善計画の最初のプランが発表された 一方 ジャクソン師はセクシュアル ハラスメント訴訟が和解するまで不買運動と抗議を 拡大する方針であったが 11 月13 日にリン マーチン女史からMMMA の職場改善計画が 予定通り順調に進行中との報告があり 翌1997 年1 月15 日ジャクソン師の虹の連合とNOW はMMMA 対する不買運動を終結した ④ 回復期 1997 年2 月13 日 MMMA はリン マーチン女史ら社外調査団の34 項目におよぶ改善計 画 マーチン レポート を公表した 4 月にはMMMA の大井上氏が退任 その後現地メ デイアの報道も漸次減少する中 MMMA は1997 年8 月28 日に従業員との訴訟で和解し 最 終的に翌1998 年6 月11 日 EEOC と和解した 和解金額はセクシュアル ハラスメント訴 訟史上最高額の3400 万ドル 邦貨換算 約48 億円 であった 2 問題点の提起 MMMA のセクシュアル ハラスメント事件における問題点は以下のとおりである ① 事実認識のズレ 事件の第一報に対して 先ず セクシュアル ハラスメントとは格好悪い と三菱ブランド のイメージダウンを懸念する日本の親会社の反応に対し MMMA は米国人同士の問題であ り 日本人は関与していないから問題ない と説明している点 セクシュアル ハラスメントを放置した職場管理上の責任に対する認識には セクシュア ル ハラスメントに対する当時の日米間の認識ギャップが明らかである アメリカにおける 平等 の概念は 自由 と同様 国家統合の重要な一要素である この 平等 概念の中に セクシュアル ハラスメントも含まれ 単に男女間の平等のみならず 多元的 多層的にとら えて性別 人種 ルーツ 年齢などに及ぶ一切の差別を禁止するものとして捉えられている 公民権法第7 編参照 日本ではこうした考え方や国家的背景に馴染みが薄く 単一民族という事情とあいまって 単純に男女間のセクシュアル ハラスメントと理解されている節がある また 米国が訴訟 社会であるにもかかわらず 訴訟に対する危機管理の欠落と意識の希薄さを表わしている さらに ダイヤモンドスター社当時の全米自動車労組 以下UAW とする と締結した労 働協約には平等条項が欠落していたが MMMA となった後においても是正されておらず 31
21 世紀社会デザイン研究 2002 No.1 ては社会諸制度や文化の違いを認識し 日本本社の経営理念がそのまま適用できないなら現 地版を作るなど 管理 運営体制の基本を正すべきであろう 3 対策と提言 上記の問題点を踏まえ 以下のような対策と提言が考えられる 経営者として企業全体の中で問題意識を持ち続ける必要性と 組織として風通しの良い 環境とシステム構築の必要性 教育研修による職場改善の必要性 労働協約について定期的に検討 改定をしていくシステムづくり 同上のための調査 点検のための具体的組織づくり 緊急時に迅速な判断と対応を可能にする組織づくり 緊急時における権限委譲の仕組みづくり 現地経営陣にアメリカ社会に通じている人材を確保する必要性 日常の良好なコミュニケーションと危機管理体制 危機に際してのメディアへの明確なアピール 海外進出に際してマーケット分析に社会的環境分析を導入すべきこと 注 社会的環境分析とは 当該国の司法制度分析 企業訴訟事件の前例分析 政治的意向と社会運動の関連性分析 進出予定事業と組織の適応性 司法制度対応 組織構成 事業領域 社会的禁忌 以上を法規 社会運動 文化 歴史の各面からチェックすること 海外事業所および工場管理部門の創設 海外における訴訟等の事件に関し 一元的に指揮する部署を設け 能動的に情報を収集 する他 平時には予防措置を講じ教育研修を実施する リスク対策を統括する専任部署を設置し関連部門をコーディネートする リスク認識と管理能力を昇進の必須項目とする 標準マニュアルの作成と社内徹底 弁護士 社会理論専門家 グローバルな経営戦略スキルを持つ人材の確保 経営トップのコミットメント 最悪の状況を想定した戦略の策定 情報フィードバックシステムの確立 社内リソースの集中と分散 分極 問題発見の仕組みづくり 情報ネットワーク ISO 規格から学ぶシステムづくり Plan Do Check Action のPDCA サイクルで継続的に改善していく 33