無料冊子 賃貸トラブル解決法 知らなきゃ損する! A. 10 のポイント こんにちは 弁護士の渡邉智宏です 私は 賃貸管理トラブルの解決を専門のひとつとしており これまでに様々な事例を担 当してきました その中で感じたことは 賃貸トラブルは 賃貸人と賃借人の利害が鋭く対立する ということです 賃貸人は 不動産を他人に貸すことによって収入を得ます 不動産の維持管理費やローン 修繕費なども その賃貸収入でまかなわれますので きわめて重要な収入源です 他方 賃借人は 賃貸人から借りた不動産に住んだり 仕事の本拠としたりします つまり 生活に密接にかかわる本拠地となるため その不動産には精神的にも経済的にも深く依存するのです したがって 家賃滞納や立ち退き 使用方法の違反などのトラブルが生じた時には 賃貸人の賃借人双方にとって重大な問題として 鋭い対立が発生することになるのです この小冊子では 私が今までに遭遇したトラブルについて 最大公約数的な事例をピッ クアップし 咄嗟の対応時に役立ててもらえる作りを試みました もちろん そのまま簡単に交渉成立するケースばかりではありません 法の専門家同士 が代理で争う場面も出てきます そうした場合にも 初期の対応が的確なものであれば 有利に交渉 裁判を進められるのです 賃貸トラブルには 法的な知識が武器となります 知っていると知らないとでは その 後の処理に雲泥の差が出てきます 専門家に依頼することはもちろん大切ですが まず は 賃貸人自らが法的知識を身につけて 理論武装することが大切です この小冊子が そのための一助となれば幸いです ふたば総合法律事務所弁護士渡邉智宏 TEL 03-3353-1728 FAX 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com http://www.futabalaw.com/
目 次 Q1 息子夫婦に住まわせるために契約解除できる? Q2 入居者が破産したら契約は解除できる? Q3 壁と床にキズをつけられた! Q4 職業 身分を偽って入居された! Q5 借主が行方不明の場合は無断で入室してもよい? Q6 貸した部屋が暴力団の組事務所になっていた! Q7 他の住人に迷惑をかける入居者 契約を解除できる? Q8 許可なく壁紙を張り替えた借主 契約解除できる? Q9 天井からの水漏れで貸した部屋が水浸しに! 賠償責任はある? Q10 契約者本人が死亡 その内縁の妻と契約解除したい ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 2
Q.1 息子夫婦を住まわせるために契約解除できる? A さんは建物の1 階部分を貸していたのですが まもなく賃貸借契約期間が終わります 近々息子が結婚して実家に戻ってくるので 1 階部分の賃貸借契約を終了させたいと思っています 期間満了により契約を終了させることはできるでしょうか? A. 契約期間が終わっても契約を終了できない? 貸主が期間満了により賃貸借契約を解除するためには 期間満了の 1 年前から 6 カ月前 までの間に 借主に対し 更新拒絶の通知または条件を変更しなければ更新をしない旨 の通知をしなければなりません ( 借地借家法 26 条 ) この通知をしない場合には 契約は前と同じ条件で自動的に更新されますから 契約を 終了させたい貸主は 更新拒絶の通知を 配達証明付きの内容証明郵便 で行っておく 必要があります では 入居者が居座り続けたらどうすればいいでしょうか 契約期間が終わってからも 引き続き借主が建物に住み続けている場合 貸主はまず 借主に対して 異議 を述べなければいけません 建物の使用を認めないという意思表示をするのです このとき 貸主がすぐに異議を述べなければ 契約が更新されたとみなされてしまいま す ( 借地借家法 26 条 2 項 ) ですから 更新を望まない貸主は 期間満了後 直ちに異議を述べることを くれぐれも忘れないようにしてください ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 3
争点は 正当事由 借地借家法 の適用のある賃貸借契約では 契約期間が満了したときに 貸主側に更新を拒否するやむを得ない事情 ( 正当事由 ) がなければ 契約はそのまま継続されることになっています ( 借地借家法 28 条 ) そうなると このケースで正当事由があると言えるかどうかが争点になります 正当事由は 貸主と借主がそれぞれ建物をどの程度必要としているのかという点を中心に さらにいくつかの事情を考慮して判断されるものです このケースでは 建物の使用を必要としているのは貸主の息子であり 貸主自身ではありません そう考えると 建物使用の必要性を貸主と借主とで比べた場合 貸主自身の必要性のほうが高いと考えるのは難しそうです とはいえ 貸主自身が建物を使用する場合にしか正当事由を認めないというのも杓子定 規でしょう 息子を住ませるために賃貸借契約の更新を拒否したいという貸主の考えは ある程度の合理性があり 十分理解できます この点については 貸主 借主双方に経済的余裕があり 建物を使用する必要性が同程 度であれば 貸主の長男の結婚が近いという事情を決め手として 正当事由を認めた判 例があります ( 最高裁 / 昭和 29 年 3 月 9 日判決 ) したがって 貸主と関係のある第三者 ( 典型的な例としては貸主の家族 ) が建物を使用 する必要性は 正当事由を判断する材料として十分考慮されることになります 後は あなたの方で 建物を使用する必要性が高いことをどうやって立証できるか と いう点で勝負が決まるでしょう ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 4
Q. 2 入居者が破産したら契約を解除できる? B さんが建物を貸している会社の破産手続きが開始されました これまでに家賃の滞納はなかったのですが 契約書には 賃借人の破産手続き開始の申し立てがされたときは 賃貸人は直ちに契約を解除できる と定められているので B さんとしては契約を解除したい考えです この場合 認められるのでしょうか? A. 契約の解除 継続は破産管財人が決める 改正前の民法では 借主が破産した場合には 貸主が契約を解除できる (621 条 ) と定めていましたが 法改正によりこの条文は廃止されました したがって 契約書に 賃借人の破産手続きが開始されたときは 賃貸人は直ちに契約を解除できる と特約で定めていても この取り決めは無効だと考えられています 貸主 B さんとしては 借主が破産した場合 家賃の支払いや原状回復が心配です すぐにでも契約を解除したいところでしょう しかし破産法では 破産者の財産は破産管財人が管理すると定められているため 契約を続けていくか解除するかは この破産管財人が選択する ( 破産法 53 条 1 項 ) ことになるのです ここで解除が選択されれば 後は順次明け渡しの手続きが進むことになりますが ( 敷金 や原状回復の問題は別途解決が必要 ) 破産管財人から契約を続ける ( 履行 ) といわれて しまえば 賃貸人は従わざるを得ません ただし 契約が続けられることになれば B さんは賃料を得られることになります ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 5
回答請求期限の目安は 30 日 いずれにしても 破産管財人が解除 履行のどちらを選択するかはっきりしないと 貸 主側としても困るので 破産管財人に対して 期限を定めて回答を求められます もし 決められた期限内に回答がなければ解除されたとみなされるので 後は順次明け渡しの手続きを進められます なお この回答を求める期限には はっきりとした決まりはありません 前の会社更生法で定められていた 30 日 という日数が参考になると思います 破産管財人 : 破産手続き開始決定後に破産者の財産を管理し それをお金に換えて 配当していく人 ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 6
Q.3 333 壁と床にキズをつけられた! C さんが長年貸していた建物の契約が終了します 壁には絵を掛けるためにクギ穴を打ち込んだキズがあり 下地のボードにまで及んでいます また カーペットには家具の設置による凹みがあります C さんはこれらの修復費用を借主に請求できるのでしょうか? A. 通常使用による損耗 とそれ以外の区別 借主は 原則として 通常の使用により生じた損耗 についての修繕義務は負わず 故意 過失により 通常の使用を超えて生じた損耗 についてのみ修繕義務を負います そこで この2つがどう違うのか また どのように区別するのかが問題となります この点については 旧建設省が平成 11 年に発行した 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン ( 平成 16 年 2 月に国土交通省住宅局が改訂 ) で一定の基準が示されています C さんのケースも このガイドラインを参考にしながら確認していきましょう まず 壁のキズです 表面的なキズを通り越して下地ボードの交換まで必要な場合は もはや 通常の使用による損耗 とはいえません ですから 下地ボードの張り替え費用は借主に請求できるでしょう 次にカーペットの凹み これは 家具を設置したことで生じるカーペットの凹みは 室内で家具を使う以上 必然的にできてしまうものです ですから この凹みに関しては 通常使用による損耗 と考えられます ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 7
したがって この凹みを理由にカーペットの張り替え費用を請求することは難しいでし ょう ポスター類を留めた際の画鋲やピンの穴について 更に このケースに関連する同じようなキズについて見ていきましょう 普通に生活をしてつく壁のキズ たとえば ポスターやカレンダーを画鋲やピンで留め たキズはどうでしょう 修繕費用は 請求できるのでしょうか この点については ポスターやカレンダーなどの掲示など 生活のなかで日常的に行わ れることに使用した画鋲やピンの穴は通常の損耗と考えられますので 借主に請求はで きません では キャスター付きのイスをフローリングの上で使用した場合はどうでしょうか この場合 イスを動かすことによって フローリングにキズがつくことは容易に予測されます 借主には賃貸物件を傷つけないように十分な注意を払って使用する義務が課せられていますから この結果発生したキズは 通常の使用を超える損耗 とみなされる可能性があり その場合 修復費用は借主に請求できます 以上の点については 国土交通省が出しているガイドラインも詳しいので そちらもご 確認下さい 旧建設省が平成 11 年に発行した 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン ( 平成 16 年 2 月に国土交通省住宅局が改訂 ) 損耗 毀損の事例区分( 部位別 ) 一覧表と借主の原状回復義務等負担一覧表をご参照ください http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/genzyokaifukugaido.pdf ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 8
Q. 4 職業 身分を偽って入居された! D さんはマンションの一室を 大手銀行の行員だという方に貸しています その人が実は身分を偽っており 定職にも就いていない人であることが判明しました D さんとしては 定職に就いていない人が今後きちんと家賃を払ってくれるか不安です 身分を偽られたことを理由に契約の解除はできるのでしょうか? A. 嘘の申告だけでは契約解除できない 賃貸借契約を解除するためには 何らかの契約違反があるだけでは不十分で 信頼関係が破壊されたといえなければいけません このケースでは 職業や身分を偽っていたということですが その事実だけを理由に信頼関係が破壊されたということは困難なのです 賃貸借契約における借主の基本的な義務は 家賃を支払うこと 部屋の使用に関するルールを守ることです そうである以上 こうした決まりに違反せず その他の契約上の義務についても確実に守っている限りは いくら職業や身分を偽られたとしても 信頼関係が破壊されたとまではいえないでしょう D さんの場合も 銀行員ではなく定職に就いていなかったことが判明しただけでは 契約の解除はできません 信頼関係が破壊されたと認められるためには その後に家賃を滞納した あるいは部屋の使用規定を守らなかった などの事実が必要となるのです もっとも実際に家賃が滞納されれば 定職に就いていないことによってさらに滞納が起 きることが予測されますし 契約時についたような嘘がエスカレートして 信頼関係の 破壊をきたすことは十分に考えられます このような事態を起こさないためには 賃貸借契約の締結時に就業先の身分証明書を提 示させる等 本人や連帯保証人の確認作業を行っておくことが大切です ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 9
Q. 5 借主が行方不明 特約があれば無断入室しても大丈夫? E さんが貸しているマンションの借主が 無断で2カ月も不在となっています 賃貸借契約書では 借主が1カ月以上無断で不在の場合は契約を解除できる と特約で定められているので E さんはこの特約によって契約解除したい考えです 認められるでしょうか A. 無断で不在にしていただけでは契約解除できない まず 同じ長期不在の問題でも 長期の不在を理由に契約を解除できる という特約がある場合 契約解除が認められるか という点について考えてみましょう 賃貸借契約は当事者間の信頼関係のもとに成り立っており 契約解除が認められるためには 賃貸借契約書の条項に違反するだけでは足りず さらに 信頼関係を破壊した と言える場合でなければいけません したがって 今回もいくら特約があるからとはいえ 解除が認められて当然だと考えるのは難しいでしょう では 借主が無断で不在の場合は どのような事情があれば信頼関係が破壊されている といえるでしょうか 判例では 築 35 年以上の木造 2 階建ての共同住宅を貸していたところ 借主が無断で長 期間 (1 年のうち 3 カ月 ) 留守にすることが多かった事案において 信頼関係が破壊さ れたことを認めています ( 東京地裁 / 平成 6 年 3 月 16 日判決 ) このケースでは 契約書に 借主が 1 カ月以上無断で不在の場合は契約を解除できる と いう特約がありました ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 10
この事例では 建物の性質上 普段から通風や日照などに配慮しなければならないのに 借主が雨戸を閉め切ったまま長期間留守にしたため 湿気が充満し 部屋を損傷させた点 また 不在中にガス漏れが起きたり 合カギをずさんな状態で管理するなど 借主側に協調性が余りに欠けていたとして 信頼関係は修復が不可能なほど破壊されていると判断しました 借主側は長期の無断不在は正当だと主張していましたが この事例に関しては単に不在 が続いていただけでなく 建物の性質上必要な協力を借主側が怠っていたということが 考慮に入れられています 借主が無断で不在にしていたことを理由に契約を解除したい場合は その不在が 建物や貸主 そして他の借主に対してどのような不利益をもたらしたかを検討し 信頼関係が破壊されたといえるかどうかを検討することになります これらが破壊されたと言えるなら 契約解除は可能でしょう 長期の不在なら入室してもよいか 信頼関係の破壊が認められなくても 借主が長期不在のまま家賃が何カ月も滞納され その不払いによって信頼関係が破壊されていると言えれば 契約解除は可能です ただし いくら借主が無断で部屋を空けているとはいえ 勝手に部屋に立ち入り そこ に置かれているものを撤去したりすることは許されません こうしたトラブルが起きた場合 貸主は裁判所を通じた手続きにしたがって 処理をすることになります この手続きを踏まずに自力で解決 ( 法的には 自力救済 という ) することは禁止されていますから 勝手に部屋に入ることは違法になるのです 借主から後で プライバシー侵害などを理由に損害賠償請求をされるおそれもあります ので 気をつけましょう ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 11
Q. 6 貸した部屋が暴力団の組事務所になっていた! マンションの1 室を住居用に貸していたのですが 知らないうちに暴力団の組事務所として使われていることがわかりました これから何が起こるか非常に不安なので 今すぐにでも出て行ってもらいたいと思っています 賃貸借契約を解除できないでしょうか A. 暴力団の入居を未然に防止する 暴力団排除条項 使用目的を偽っていたといっても それが暴力団の組事務所ということになれば 学習塾やキャバクラなどとは事情が違ってきます 貸室が暴力団の組事務所として使用されれば 抗争事件の拠点となることや 近隣住民や他の借主に対する嫌がらせ 威嚇が起きることが予想されるため 貸主としても不安がつきないでしょう そこで貸主は 暴力団が入居することを未然に防止するために あらかじめ契約書に 暴 力団の入居を認めない条文 いわゆる 暴力団排除条項 を入れておくべきです これは 賃借人あるいは同居人が暴力団の構成員 これに準ずる者と判明したとき ある いはその事務所や宿泊所に使用したときは 賃貸人は 賃借人に対し 何らの催告を要し ないで直ちに契約を解除できる というものです もっとも この暴力団排除条項に反して暴力団が入居してきた場合には 条項違反という 点とあわせて 信頼関係の破壊 が認められなければいけません 暴力団の入居が抗争事件を招くこと 他の暴力団から攻撃対象となれば他の借主や近隣住 民が巻き添えをくらう危険があること そこに出入りする暴力団員が嫌がらせや威嚇をす る危険があることなどを考えれば 入居したという事実だけでも信頼関係が破壊されてい ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 12
るという結論は導かれやすいでしょう 暴力団排除条項がなければ他の契約違反を検討 契約書に暴力団排除条項がなかった場合にも 最終的には他の契約違反や信頼関係の破 壊を検討し 解除できるかどうかどうかを考えることになります 例えば 次のような ことが考えられます 1. 質問の事例のように 住居として貸していたのに 暴力団事務所として使用されて いたとすると 使用目的違反 ( 用法遵守義務違反 ) になります 2. はじめの借主が貸主の承諾なくして勝手に暴力団関係者に貸したとなれば 無断転 貸や賃借権の譲渡にあたり 解除の原因となります ( 民法 612 条 613 条 ) 3. 物件を勝手に事務所用に改造したとなれば 増改築に関する義務の違反を問えます 4. 当然 家賃や管理費の未払いがあれば これによる解除も考えられます 裁判では 契約違反があったことや 信頼関係の破壊を導く事実を主張立証しなければ なりません 裁判例では 1 会社の事務所の目的であったのに暴力団事務所として使用 2 物件に頻繁に暴力団関係者らしい者が出入り 3 他の住民からも苦情が寄せられている 4 暴力団抗争で物件のドアに銃弾 3 発が打ち込まれたなどの事情がある事例において 信頼関係の破壊を認めて解除を有効としています ( 東京地裁 / 平成 7 年 10 月 11 日判決 ) また 別の裁判例 ( 宇都宮地裁 / 昭和 62 年 11 月 27 日判決 ) は 1 食品販売業の店舗兼事務所という用途に反して暴力団事務所として使用 2 防御壁のようなコンクリート塀を無断で設置 3 建物内で暴力行為が起こされているという事案で やはり信頼関係の破壊を認めて契約解除を有効としています ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 13
Q. 7 他の住人に迷惑をかける入居者 契約を解除できる? F さんは 何人かにアパートの部屋を貸しているのですが ある入居者が共用通路に木材や植木鉢などを置き 他の入居者の通行を妨害しています それ以外にも 騒音を立てたり怒鳴ったりして 他の入居者からの苦情が絶えません 繰り返し注意をしても まったく態度を変えないのです 家賃の不払いなどはないのですが F さんはこの入居者と契約を 解除できるでしょうか A. 近隣への迷惑禁止 を定めた特約を設けておく 貸主はすべての借主に対して その契約目的に従って建物を使用収益させる義務を負っ ています ですから ひとりの借主が我慢の限界を超える騒音を出し続けたり 目に余る身勝手な 行動をとって周囲に迷惑をかけるようであれば 他の借主が安心して生活 ( 営業 ) でき るように 適切に対処しなければいけません もっとも 注意や話し合いだけで問題の行動がなくなればよいのですが そう簡単には 解決できないでしょう 問題の借主の行動が度を過ぎていれば やはり契約を解除して 契約関係を終了させなければなりません このような場合に対処するために 賃貸借契約書には あらかじめ禁止事項として 近隣及び居住者に迷惑を及ぼしてはならない という一文を盛り込み これに違反した場合には契約を解除できるという特約を設けることが多いようです この特約は法律的にも有効とされています ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 14
1. 借主がアパートの通路に木材などを置いて他の居住者の通行を妨害したり 他の居住者に嫌がらせを繰り返した事例について 庭や物置などを近隣に迷惑をかけないように使用する という特約に違反したとして 裁判所は契約の解除を認めました ( 東京地裁 / 昭和 51 年 5 月 27 日判決 ) 2. 同様のケースとして 貸主から再三の注意を受けたにもかかわらず 2 年以上にわたり社会常識の範囲をはるかに超える量のゴミを部屋の中に放置したことが 近隣の迷惑となるべき行為 であるとして契約解除を認めた例 ( 東京地裁 / 平成 10 年 6 月 26 日判決 ) 3. アパートの廊下に汚物を放置したり ラジオを大音量で鳴らし続けたりしたため 他の居住者が不眠 ノイローゼになって全員が退去した事案において 近隣への迷惑禁止行為 の特約違反で 問題の借主の契約解除を認めた例 ( 東京地裁 / 昭和 54 年 11 月 27 日判決 ) 迷惑の程度がひどければ特約なしでも契約解除できる もし 迷惑行為禁止特約がなくても 借主の常軌を逸した行為が信頼関係を破壊してい ると認められれば 契約を解除することは可能です 裁判所は ある借主が近隣の居住者に対して騒音を立てたり 怒鳴ったり 下着で廊下を歩いたり 廊下に大きな私物を置いて他の住人の通行を妨害したりした事案において 迷惑行為禁止 の特約がなくとも 信頼関係が破壊されたとして契約解除を認めています ( 東京高裁 / 昭和 61 年 10 月 28 日判決 ) F さんの場合も まずは特約を確認することでしょう 近隣に迷惑をかける行為を禁止し 違反した場合には契約を解除できるという特約があ れば たとえ借主に家賃の未払いがなくとも 解除はできます ただし F さんのケースでは 先の裁判例からすれば 特約がなくとも 信頼関係が破壊 されているといえる可能性が十分あるでしょう ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 15
Q. 8 許可なく壁紙を張り替えた借主 契約解除できる? 借主が G さんの承諾を得ずに 部屋の壁紙を全面的に張り替えて貸室の模様替えをしてしまいました 模様替えは契約違反だから契約を解除する すぐに貸室から出ていってくれ! と言ったのですが 出ていく気配がありません G さんは やはり借主に出て行ってはもらえないのでしょうか A. 重要なのは貸主と借主との信頼関係 通常 賃貸借契約書には 借主は 貸主の承諾なく借家の増築 改築 改装 模様替え をしてはならないと記載されています 賃貸借契約書にそのような規定があるにもかかわらず 貸主の承諾を得ないで部屋の模 様替えをすると 貸主は契約違反を問うことができます とはいっても カーテンの付け替えのようなごく簡単な模様替えであれば たとえ賃貸借契約書に 承諾のない模様替えが禁止 という規定があっても 契約違反にはあたらないでしょう 問題となるのは G さんのケースのように 壁紙を全面的に変える あるいは部屋の壁を塗り替えるといった 部屋の本体に手を加えてなされる模様替えです では このような模様替えを貸主の承諾なく行われた場合 賃貸借契約を直ちに解除で きるのでしょうか 賃貸借契約書では 通常 契約に違反する行為を借主がとった場合には 貸主は 直ち に賃貸借契約を解除できると規定されています ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 16
しかし これでは契約違反行為の程度がささいなものであっても契約が解除できること になり 借主にとってあまりに酷な結果となってしまいます そこで判例は 借主が契約違反行為を行った場合でも 契約解除を直ちに有効なものと せず 貸主と借主との間の信頼関係が破壊されたといえる場合に 初めて契約解除を有 効とするとしています さて 承諾をしていないのに壁紙を全面的に張り替えられてしまった G さんのケースに ついては どう考えればいいでしょうか? 壁紙を替えたからといって ただちに貸主と借主の信頼関係が破壊されるとまではいえ ないと考えるのが普通でしょう したがって 貸主の契約解除は認められないと判断さ れることが多いと思われます もっとも 借主には 賃貸借契約が終了した際 貸室を元通りの状態にして返還する義 務 ( 原状回復義務 ) があります そこで 貸主の承諾を得ないで壁紙を張り替えた場合 貸主は元の壁紙に再度張り替え るよう要求したり あるいは再度の張り替え費用を請求できます ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 17
Q.9 天井からの水漏れで貸した部屋が水浸しに! 先日 H さんが貸している部屋の天井から水が漏れて室内が水浸しになりました 借主のじゅうたんや衣類 アルバムの中の写真が汚れ しばらくホテル生活をしたとのこと 原因はマンションの配水設備の欠陥にあったようです H さんは借主に対して損害賠償をしなければならないでしょうか A. 貸主には排水設備を直す義務がある 居住用のマンションの部屋を貸す場合 貸主には その部屋を 住むのに適切な状態 にしたうえで貸す義務があります そのため 万が一 部屋の使用に支障をきたすような欠陥が生じた場合には これを修繕しなければいけません ( 民法 606 条 1 項 ) マンションの配水設備の欠陥は 借主が居住するのに 不適切な状態 だといえます ですから 貸主は欠陥が生じないよう維持管理する責任があり 万が一 問題が発生した場合には これを修繕しなければなりません まれに 賃貸借契約書に 修繕は借主が行うものとする という特約が設けられていることがあります しかし 貸主が大修繕を行う義務まで放棄することは認められませんから そのような特約は 無効となります ( 東京高裁 / 昭和 51 年 9 月 14 日判決など ) マンションの配水設備の欠陥を修理するのは 大修繕といえますので たとえこのような特約があっても 貸主は修繕義務を免れることはできません H さんのケースでは マンションの配水設備の欠陥を修繕すべき義務があったのにそれを 果たさなかった つまり 債務不履行 があったことになります ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 18
ですから貸主には 修繕を怠ったことによって被った借主の損害を賠償する義務があり ます ( 民法 415 条 ) 損害を賠償しなければならない範囲は? では 貸主は 具体的にどの範囲まで損害を賠償しなければならないのでしょうか 損害賠償の範囲について 判例は 債務不履行と相当な因果関係にある損害について債務者には賠償責任がある としています つまり この場合でいえば 貸主は排水設備の欠陥が直接の原因となって発生した被害 に限り 賠償しなければならないということです 質問のケースでは 漏水事故により 借主のじゅうたんや衣類が汚れたということですから まずはそのクリーニング代です クリーニング代は 排水設備の欠陥及び水漏れが直接の原因となって発生した損害だといえるからです また じゅうたんや衣類の汚れがひどく 買い換えを余儀なくされた場合には これら の代価も賠償しなければならない可能性があります ただし この場合の損害額は 買い換えたじゅうたんや衣類の購入価格そのものではな く 漏水事故当時の 時価 となります 次に H さんのケースでは 借主は漏水事故によりしばらくの間ホテル生活を余儀なくさ れたということですから ホテルの宿泊費を請求してくることが想定できます ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 19
ただし 漏水事故がたいしたものではなく ホテルに宿泊するほどではなかったという 場合には その宿泊費は 貸主の債務不履行と相当な因果関係にある損害 とはいえな いため 認められません 問題は 請求できるとしても この宿泊費が妥当なものだったかどうかです あまりに高級なホテルであれば 宿泊費全額についての損害賠償請求は認められず 相 当程度まで減額されることになるでしょう さらに 質問のケースでは 漏水事故により借主の写真が汚れてしまったということで すから その写真が借主にとって非常に大事な物だった場合には 慰謝料を請求される 可能性も考えておきましょう ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 20
Q.10 契約者本人が死亡 その内縁の妻と契約解除した I さんは内縁関係の夫婦に家を貸していましたが 先日 その旦那さんが亡くなられました 借家は旦那さん名義で貸していたため 奥さんに あなたには貸していないのだから すぐに明け渡してほしい と言ったところ粘られています I さんは借家を明け渡してもらえるのでしょうか A. 夫に相続人がいなければ明け渡す必要はない 人が死亡した場合 その者の相続財産は 原則として すべて相続人が相続することに なります ( 民法 896 条 ) 借家権 も相続財産のひとつですから 当然 相続人に相続されます 役所に婚姻届 を届け出ている法律上の妻であれば 借家権を相続により取得することになります たとえ借家を夫名義で借りていたとしても 通常は契約解除できません ところが 事実上の夫婦であっても まだ婚姻届を届け出ていない内縁の夫 ( 妻 ) には 相続権が認められていません ( 民法 887 条 889 条 890 条 ) つまり 内縁の妻は 夫の借家権を相続により取得することはできないのです そうな ると 借家を夫名義で貸していた場合には 内縁の妻から借家を明け渡してもらえるよ うに思えます しかし そう簡単にはいきません というのも 借地借家法 36 条で 居住用建物の借主が死亡し その者に相続人がいなかった場合には 借家に同居していた内縁の妻 ( 夫 ) は 借主の権利義務を受け継ぐと規定されているからです ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 21
解説 したがって 質問のケースでは 内縁関係にあった夫に相続人がいなかった場合には 内縁の妻は 夫の借家権を受け継ぐことになりますから 借家の明け渡しを請求できな いことになります では 内縁関係にあった夫に相続人がいた場合は どうでしょうか この場合 内縁の妻には借地借家法 36 条は適用されますから 内縁の妻には 原則とし て借家に居住する権利がないことになります しかし これもやはり 相続人と内縁の妻が必ずしも人間関係を築けているとは限りません 判例は この場合でも内縁の妻の居住権を認めようとしています 内縁関係にあった夫にたまたま相続人がいるかいないかによって結論が異なってしまうのを避けようとするものです 最高裁は このような場合でも 内縁の妻は内縁関係にあった夫の相続人の借家権を援 用できる と判断しました ( 昭和 42 年 2 月 21 日判決 ) したがって 内縁関係にあった夫に相続人がいた場合でも 内縁の妻は 貸主に対して 夫の相続人の借家権を自分の権利として主張 ( 援用する と言います ) して借家権を主 張することができますので 貸主は借家の明け渡しを請求できません 相続人が契約を解約してしまったら? ところで 内縁関係にあった夫の相続人が 貸主との合意により賃貸借契約を解約して しまった場合はどうでしょうか この場合 内縁の妻は借家権を援用しようと思っても 借家権そのものが存在しません から 原則として 内縁の妻は借家を貸主に明け渡さなければならないことになります このような事例について判断した判例はありませんが 最高裁判決 ( 昭和 39 年 10 月 13 日 ) が参考になります ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 22
この事例は 家屋の所有権を相続した相続人が 内縁関係にあった配偶者に対して家屋 を明け渡すよう請求した事例ですが 最高裁は 相続人の配偶者に対する明け渡し請求 は 権利の濫用 ( 民法 1 条 3 項 ) に該当するため 認められないと判断しました この判例は 相続人が配偶者に対して明け渡し請求をした事例であり 賃貸人が明け渡し請求をした事例ではありません したがって この場合の判例が固まっているわけではありません 結局 ケースバイケースで判断せざるを得なくなると思われます ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 23
いかがでしたでしょうか? ここに取り上げたのは あくまでも一般的なトラブル事例です 実際はもっと複雑な事情が絡み合っていることは 当事者であるオーナー様が一番身にし みていらっしゃると思います 家賃滞納に関しては 1~2 か月なら目をつぶってやれ というのが判例の傾向です しかし 話し合いで部屋を明け渡してくれる家賃滞納者などほとんどいません 最終的に裁判で判決が下り 明け渡しを強制できるようになるまで 長い場合は 2 年もかかることがあります しかも その間 損失は広がる一方です 私たちは 初期の段階で有効な手を打たなかったために 深刻化してしまった実例に多く関わってきました オーナー様としては まだ 滞納も 2~3 カ月だから 専門家に相談するほどではないだろう という気持ちがあるかも知れません 実は その段階で相談することが リスクを最小限に抑える秘訣なのです 私たちの事務所では 個々の事情に応じたノウハウを伝授し 対策を探り スピード解決に向けて尽力いたします また 賃貸オーナー様のために顧問制度もご提案しています 今は何事もなく平穏な日々でも いつトラブルに見舞われるかわからないのが賃貸経営です いざトラブルが起きてから弁護士を探すより 普段からアドバイスを受け 物件の カルテ を記録している専門家へ相談することでより迅速な解決を図れます さらに 顧問弁護士がいることは 不良入居者のブロックやトラブルの予防にもつながるのです このような有形無形の効用をお伝えしたいという思いで この小冊子を作成しました 私たちは物件の主治医としてオーナー様に関わっていきたいと考えています 相談は初回 1 時間まで無料です お気軽にご連絡ください 平成 22 年 6 月吉日 ふたば総合法律事務所 弁護士渡邉智宏 ふたば総合法律事務所 TEL:03-3353-1728 FAX: 03-3353-1628 Email: chintai@futabalaw.com 24
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