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Vol.15, pp.125 135, 2014.3 軽度聴覚障害児の聴力管理に関する配慮事項の検討 柄田 * 毅 この研究は, 軽度聴覚障害または聴力が正常範囲の子どもに対する聴力管理に関する配慮事項を得るために,2 つの研究の結果を分析, 検討した. まず, 単語 50 語の聞きとり課題に関して回答方法の違いによる聴覚障害児 32 名の聞きとり特徴を検討した. 次に, 概ね通常の聞こえを示す幼児 1 名に関する聴力レベルの経時的変化について検討した. その結果, 単語了解度が 90% 以上の聞きとり成績を示す聴覚障害児でも, 単語の聞きとりに不確実な側面があることや, 幼児の聞こえが概ね正常を示しても軽度の程度まで聴力レベルが変動することがわかった. そのため, 聞こえに困難があると想定できる子どもの聴覚管理に関しては, 聴力レベルの把握, 語音の聞きとり能力の確認, 聴力の変動の確認が配慮事項として必要であることが示唆された. Key Words: 軽度聴覚障害, 単語の聞きとり特徴, 聴力レベルの変動 Ⅰ. はじめに 子どもが保育 教育の場面で自発的に能力を発揮して生活し, 学習などの活動するとき, 話ことばを使用したコミュニケーションは重要である.Brackett(1990) は, 年代に応じたコミュニケーション支援の目標に関して, 就学前の子どもでは社会性 相互作用が主になると示し, 学齢児では教科学習に関することばと社会性 相互作用に関することばが同等であり, そして青年期では再び社会性 相互作用が主要な目標となると示している. こうしたことから, 話ことばの主要な経路である聴覚に障害があり, 聞こえの能力に困難を示す聴覚障害のある子どもに対して, 話ことばの聞きとりを補償する支援のために, 聞こえの能力の一部である聴力の管理を行うことが重要である. * 人間学部児童発達学科 - 125 -

軽度聴覚障害児の聴力管理に関する配慮事項の検討 ( 柄田毅 ) 聴覚障害の程度を示す値として, 聴力検査によって得られる聴力レベルのうち,500Hz, 1000Hz,2000Hz の域値から算出する平均聴力レベルがある ( 単位は dbhl). 例えば, 正常は 0 ~ 25dBHL, 軽度の障害は 25 ~ 40dBHL と示し, これらの他に最重度までの分類がある (Madell,1990a). こうした聴力レベルによる聴覚障害の程度とその影響に関して,Plante & Beeson(2008) が, 程度ごとに要約している. このなかで, 最重度の聴覚障害などと共に, 軽度の障害や, 軽微な障害程度 (16-25dBHL) に関する困難について述べている. 加えて, 片側が軽度で他方が正常範囲の場合についても示している. これらのうち, 障害程度では正常範囲となる軽微な難聴や, 一方が正常範囲である片側の聴覚障害についても, 話ことばの語音の聞き誤りや聞きとりの困難があることを述べている. さらに, 障害程度が軽度, 軽微, そして片側の聴覚障害に関して, これら一般的には障害程度が軽度な場合, 騒音による聞きとりの困難について示している. 聴覚障害児の語音の聞きとりに対する騒音と残響に関する研究 (Tillman, Carhart & Olsen,1970; Finitzo-Hieber & Tillman,1978) から, 騒音と残響が話ことばの聞きとり成績に多大な影響を与えることがわかっている. さらに,Madell(1990b) は, 幼稚園や学校の教室音響に関する研究をまとめ, 実際に児童などがいる教室の騒音レベルが学習などに適しているレベルよりも大きかったことを述べている. これらの見解から, 保育 教育の場面にいる聴覚障害児のなかでも軽度の程度である子どもや, 概ねの様子から聞こえには困難を示していないようにみえる子どもに関しても, 保育 教育場面の環境によっては話ことばの聞きとりが十分でないときがあることが想定できるであろう. また,Brooks(1989) は軽微な聴力の障害について見解を示しており, 話ことばの聞きとりと言語発達, 認知発達, 行動への影響について述べている. そして, 軽微な聞こえの困難に関して, その主な要因の 1 つに滲出性中耳炎を挙げている. 滲出性中耳炎は中耳で発生する疾患であるため, 外見上の変化から周囲が気づくことに困難であり, 聴力の状態を把握することは必要なことと考える. こうしたことから, 聴覚障害のある子どもや, 聴覚障害があると想定できる子どもに対して, 聴力レベルの把握, 語音の聞きとりに関する確認, 中耳機能の確認は, こうした子どもに対する支援において必要なことである. 一方, 現在の特別支援教育において注目される支援の対象として, 発達障害がある. これに関連して, 平成 19 年 3 月に文部科学省初等中等教育局特別支援教育課は, 軽度発達障害 という表記は, その意味する範囲が必ずしも明確でないこと等の理由から, 今後当課においては原則として使用しないことを示している. つまり, 軽度という語が示すことによって, 発達障害による困難の理解と必要な支援に結びつかないことは避けなくてはならないことを表していると考える. また, この発達障害のある子どもは通常学級に 6.3% 在籍している ( 文部科学省, 2002) ことから, 知的な能力に遅れがない, もしくは知的な能力の困難は考慮しないと捉えて, 発達障害による困難は軽度であるという印象に結びつくことが想定できる. しかしながら, 発達障害による学習の困難や行動の困難は一般的な印象として軽度であっても, 必要な支援は行 - 126 -

文京学院大学人間学部研究紀要 Vol.15 わなくてはならない. こうしたことは, 聴覚障害のある子どもにおいても同様に, 軽度よりも良好な聴力の程度ということから想定した, 話ことばの聞きとり能力の困難に関する理解不足や, 必要な支援が提供されずに不十分なものとなることは避けなくてはならないと思う. そのため, 聴覚障害のうち, 軽度とそれよりも良好な聴力の程度である子どもに関して, 話ことばの聞きとり能力や, 中耳炎などによる聴力レベルへの影響を確認する必要があると考える. このような聴覚障害児の聴力管理に関して,Madell(1990a) は基本的な聴覚評価として, 純音による聴力検査 ( 気導 骨導 ), インピーダンス オージオメトリー, 語音聴力検査 ( 単語による了解度検査など ) を挙げている. つまり, 聴覚障害児に対する語音の聞きとり能力に関する検討や, 中耳炎などの指摘を受けている子どもの聴力レベルに関する経時的な推移に関する検討は, 軽度とそれよりも良好な聞こえの程度をもつ子どもに対する聴覚管理に関する配慮事項について, 具体的な資料を得ることになるであろう. そこで, 軽度聴覚障害児に対する聴覚管理の重要性から, その配慮事項に関する検討を行うため, 聴覚障害児に対する単語の聞きとり課題に関する研究と, 中耳炎を指摘されている子どもに対する継続的な聴力検査による聴力レベルの推移に関する研究を行い, 軽度聴覚障害児に対する聴覚管理に関する配慮事項を得ることを, 本研究の目的とした. Ⅱ. 目的 軽度聴覚障害児に対する聴覚管理に関する配慮事項を検討し, 具体的な資料を得ることを総合目標とした. 研究 1 として, 柄田 小川 (2000; 2001) が試作し, 検討した単語 50 語の聞きとり課題 ( 回答方法は選択肢 書き取りの 2 つ ) を実施し, 聞きとり成績が相対的に良好である聴覚障害児に関して単語の聞きとり特徴からの検討を行うこととした. また, 研究 2 として, 聴力に変動を示した幼児の聴力レベルに関する経時的変化からの検討を行うこととした. これらの研究から, 保育 教育の場面における生活や活動などで重要となるコミュニケーションやことばの学習に関する支援につながる軽度聴覚障害児の聴覚管理について示唆を得ることを目指した. Ⅲ. 研究 1: 相対的に良好な聞きとり成績を示す聴覚障害児の単語の聞きとり特徴からの検討 聴覚障害のある児童に対する単語の聞き取り課題に関して, 選択肢と書き取りという回答方法の違いによる単語の聞きとり成績について, その成績が相対的に良好な対象児童の聞き誤りの具体例を中心に検討する. - 127 -

軽度聴覚障害児の聴力管理に関する配慮事項の検討 ( 柄田毅 ) 1. 方法 (1) 対象児童の概要通常小学校の難聴 言語学級で指導を受けている 1 ~ 6 年生の難聴児 32 名 ( 男 16 名, 女 16 名 ). 対象児の聴力レベル, 装用時聴力域値などのプロフィール情報は, 指導担当者から得た. 対象児童の平均聴力レベルのうち低い値を示した耳に関する聴力レベルを, 良耳の聴力レベルとした. 対象児童に関する良耳の平均聴力レベルは平均 65dBHL( レンジ :1 ~ 108dBHL) であった. また, 補聴器を装用したときに測定した音場聴力検査による聴力域値を装用時聴力域値とした. この装用時聴力域値の平均値は,37dBSPL( レンジ :19 ~ 59dBSPL) であった. (2) 提示単語提示単語は, 柄田 小川 (2000) による 2 モーラ単語 40 語,3 モーラ単語 10 語の計 50 個であった. これらの単語 1つに対して, 一部の子音や母音が異なる 4 つ単語を組み合わせた選択肢リストを構成した. 検査単語 50 語を表 1 に示した. 表 1 検査単語 50 語 おかし さらだ しお ふえ ほね さかな くし うえ かな さか たまご いけ さけ ひげ さら かいしゃ ゆき いしゃ なし つき いえ こめ あした きみ つめ いか かご しか あし かぶ かたな みみ くち おたま たま はなび かみ わし なつ はけ はな いし ひも たわし あな うで あめ うし はこ たな (3) 実施単語 50 語について, 成人女性による音声を収録した CD を作成した. 単語 50 語をランダムな順に, 音場スピーカから平均音圧 70dB となるように騒音計で校正し, 提示した. 対象児童に対して, 補聴器を装用している者は日常使用している補聴器を装用するように指示し, 個別に聞きとり課題を実施した. また, 対象児童それぞれに関して, 選択肢課題と書き取り課題をそれぞれ別の日程で実施した. - 128 -

文京学院大学人間学部研究紀要 Vol.15 (4) 結果の分析選択肢課題と書き取り課題における対象児童のそれぞれの回答に関して, 正答数から単語の聞きとりに関する正答割合 ( 以下, 単語了解度とする ) を算出した. また, 対象児童による各提示単語に対する誤答に関して, 子音と母音それぞれに関する異聴傾向を分析した. 対象児童の単語了解度に関して, 選択肢課題の結果または書き取り課題の結果が 90% 以上の者を 90% 以上グループ,90% 未満の者を 90% 未満グループとして分けた. これらの 2 グループのうち, 日常的に補聴器を装用しない児童が,90% 以上グループに 3 名,90% 未満グループに 1 名含まれていた. 両グループそれぞれに関して, 良耳の聴力レベル, 装用時聴力域値, 単語了解度, 誤答パターンを分析した. 2. 結果 この研究で対象となった聴覚障害児の単語了解度は,90% 以上グループの選択肢課題は 93.9%, 同グループの書き取り課題は 92.4% であった. 一方,90% 未満グループの単語了解度のうち, 選択肢課題は 59.3%, 書き取り課題は 40.4% であった. 両グループの良耳聴力レベルと装用時聴力域値に関して,90% 以上グループを表 2 a に,90% 未満グループを表 2 b に示した. これらの結果から, 回答方法に依らず 90% を超える成績であった 90% 以上グループの児童は, 装用時聴力域値が概ね 40dB よりも低い値であった. 一方,90% 未満グループでは, 装用時聴力域値が 40dB 付近から高い周波数では約 60dB であり, 単語了解度に関しては選択肢課題の方が書き取り課題に比べて高い値となった. これら聴力に関する検討から, 聴覚障害のある対象児童の聞こえの程度が単語の聞きとり課題の成績に影響することや, 回答方法の違いによって単語の聞きとり成績に違いがあることがわかった. 表 2 a 90% 以上グループの良耳聴力レベルと装用時聴力域値 125 250 500 1000 2000 4000 8000 (Hz) 良耳 平均 39 37 44 48 49 47 43 (dbhl) SD 21 20 19 19 21 17 25 装用時 平均 - 33 33 32 36 40 - (dbspl) SD - 13 11 8 8 9 - - 129 -

軽度聴覚障害児の聴力管理に関する配慮事項の検討 ( 柄田毅 ) 表 2 b 90% 未満グループの良耳聴力レベルと装用時聴力域値 125 250 500 1000 2000 4000 8000 (Hz) 良耳 平均 60 70 77 84 84 83 86 (dbhl) SD 20 19 18 21 23 19 26 装用時 平均 - 40 38 40 47 58 - (dbspl) SD - 13 9 8 8 10 - 次に,90% 以上グループの示した誤答のうち, 選択肢課題で誤答したが書き取り課題では正答した回答の例を表 3 a に,90% 未満グループの示した誤答例を表 3 b に示した. 表 3 a 90% 以上グループにおける回答方法の違いによる異なる回答を示した例 No 回答方法 単語了解度 (%) うし 検査単語例たま はけ 1 選択肢書き取り 90 92 いし たな さけ 2 選択肢書き取り 90 86 いし たなたな たけ 3 選択肢書き取り 94 98 いし 表 3 b 90% 未満グループにおける回答方法の違いによる異なる回答を示した例 No 回答方法 単語了解度 (%) うし 検査単語例たま はけ 4 選択肢聞き取り 62 60 あすうし はくさい 5 選択肢聞き取り 66 34 なしうし 6 選択肢聞き取り 76 26 かき あった 特に 90% 以上グループの示した誤答例に関して, 特に書き取りの誤答に関する異聴パターンは,/u/ /i/ 間,/m/ /n/ 間,/h/ /s/ または /t/ 間であった. これらの異聴パターンは聴覚障害児が異聴しやすいと言われるもの ( 柄田 小川,2000; 2001) で, これらの子音を含む単語が選択肢にあることで, 正しく聞きとった場合であっても正答単語の選択の際に混乱が生じた - 130 -

文京学院大学人間学部研究紀要 Vol.15 と想定した. このことは, 相対的に良好な聞こえの能力を示した 90% 以上グループの聴覚障害児であることから, 相対的に聞こえの程度が良好で, 書き取り課題で示す良好な成績を示す聴覚障害児であっても, 単語の聞きとりの実態に関して十分な配慮を要することが明らかとなった. Ⅳ. 研究 2: 聴力に変動を示した幼児の聴力レベルに関する経時的変化からの検討 通常の生活や活動のなかでは聞こえに関して困難を示すと想定できない, または概ね正常範囲である聞こえが, 中耳炎などによる影響により聴力レベルが変動する実態について, 幼稚園年長クラスに在籍する幼児 1 名の経時的な聴力検査の結果から検討した. 1. 方法 (1) 対象ある幼稚園の年長クラスに在籍した男児 1 名 ( 年齢は 5 歳台 ). 医師から中耳炎の診断を受けた歴のあることなどから, 聴力変動の管理と助言を目的に,A 大学設置の相談機関に通った. 調査の期間は,20XX 年 5 月から 20XX + 1 年 1 月まで, 概ね月 1 回の検査を行い, 計 9 回であった. なお, 本報告にあたり, 報告の目的と記載情報に関して報告者から保護者に説明した上で, 保護者から同意を得た. (2) 検査言語聴覚士資格を有する指導者による純音気導聴力検査, または音場聴力検査を実施した. 使用機材は, オージオメータ (RION AA-76) を使用した. 検査室は, 個別指導室であり, 十分な静寂を保った環境で実施した. 聴力検査の実施手順は, 標準的な手順 ( 日本聴覚医学会,2011) で行った. 対象児による提示音に対する応答は, 聞こえた という音声と, それに伴う挙手によって判断した. 標準純音聴力検査と音場聴力検査ともに, 十分な練習の後に本検査を実施した. すべての聴力検査において, 対象幼児からの応答は聴力レベルを決定できるものであった. (3) 結果の分析対象幼児の示した周波数別の聴力レベルについて, 検査日程それぞれに関する経過を分析した. - 131 -

軽度聴覚障害児の聴力管理に関する配慮事項の検討 ( 柄田毅 ) 2. 結果 対象幼児の経時的な聴力検査から得られた聴力レベルに関して, 純音気導聴力検査による結果 ( 検査日程は,1 回 5 回 6 回 7 回 8 回 ) を表 4 a に, 音場聴力検査による結果 ( 検査日程は,2 回 3 回 4 回 9 回 ) を表 4 b に示した. これらの検査結果のうち, 特に純音気導聴力検査による聴力レベルをみると, 平均聴力レベルでは 10dB という正常範囲から, 約 30dB の軽度難聴の範囲まで変動していることがわかった. 一方で, これらの範囲は, 通常の場面では話ことばの聞きとりの困難さを想定しにくく, 他の子どもや指導者が一緒にいる場面における一般的な活動などでは周囲からの助言や他児の行動などをみて行うことから, 聞こえの変動による話ことばの聞きにくさを想定しにくい結果と考えることができる. また,2000Hz から 表 4 a 対象幼児の聴力レベルの推移 ( 純音気導聴力検査 ) 回 検査耳 平均聴力 レベル 125 250 500 1000 2000 4000 8000 Hz 1 5 6 7 8 右 20.0 - - 25 20 15 - - 左 32.5 - - 40 30 30 - - 右 12.5 20 12 10 15 10 10 10 左 10.0 15 15 10 5 20 15 10 右 20.0 40 25 20 20 20 5 10 左 27.5 35 35 35 25 25 15 40 右 16.3 25 20 25 15 10 10 15 左 22.5 25 20 25 20 25 20 20 右 20.0 35 20 20 20 20 15 20 左 30.0 30 30 30 30 30 30 30 ( 単位 :dbhl) 表 4 b 対象幼児の聴力レベルの推移 ( 音場聴力検査 ) 回 検査耳 平均聴力 レベル 125 250 500 1000 2000 4000 8000 Hz 2 両耳 38.8-35 40 40 35 30 35 3 両耳 30.0-25 25 30 35 35-4 両耳 20.0-25 15 20 25 20-9 両耳 22.5-25 20 25 20 25 20 ( 単位 :dbhl) - 132 -

文京学院大学人間学部研究紀要 Vol.15 4000Hz,8000Hz という高周波数の範囲では 30 ~ 40dB の聴力レベルに達することがわかった. これらの周波数は話ことばの聞きとりのうち, 子音の聞きとりに貢献する周波数であり, その重要性が指摘されている (Madell,1990). そのため, 話ことばの確実な聞きとりに関して, 一定の聞こえが保たれないことの影響が想定できた. つまり, 対象幼児の示した聴力レベルの変化は正常から軽度難聴の範囲で, 一見すると話ことばの聞きとりに大きな影響がなくても, 聞こえの変動の実態を想定した配慮が必要なことが想定できた. Ⅴ. 考察 軽度聴覚障害児の聴力管理に関する具体的な配慮事項を得ることを目標に行った研究 1 と研究 2 の結果から, 聴覚障害の程度が軽度やそれに満たない程度と判断できる児童に関して, 実際の話ことばの聞きとりや, 聴力レベルの変動について実際に確認することの重要性が明らかとなった. このことは, 聴覚障害児だけでなく, 聞こえに関する困難を想定する子ども ( 例えば, まわりの友だちをキョロキョロ見て動く や 人の言うことを聞いていないことがある など ) に対して, 聴力レベルの把握, 話ことばの聞きとり能力の確認, 中耳炎などによる聞こえの変動の確認が, こうした子どもの支援に対して有益な資料を得られるものと考えることができる. 現在実施されている様々な聴力検査のうち, 純音気導 骨導聴力検査の実施は基本的事項であり, 特に純音気導聴力検査だけであっても, 継続的に実施して聴力レベルの推移を把握し, 聴力の変動を確認することは有益なことである. また, 様々な聴力検査のなかには語音聴力検査もあり ( 日本聴覚医学会,2011), 代表的な語音聴力検査の提示語音は単音節で構成されている. こうした語音聴力検査は有用なものである一方, 会話語音は調音結合によって単音節語音のもつ音響手がかりとは情報が異なる (Ross, Brackett, Maxon,1982) ため, 単語による聞きとり能力の確認は有効であると考える. そして, 単語の聞きとり課題では, 聴覚障害児 ( 者 ) の示す異聴傾向を考慮した単語とそれを含めた選択肢による課題と, 書き取りによる課題を実施することによって得られる回答方法の違いによる聞きとり成績の違いが, 実際の子どもの支援に際して有用な情報が得られることがわかった. この研究で得られた結果から, 正常範囲から軽度の程度の聴力を有する子どもにおいて, 話ことばの聞きとりの不確実さや, 聴力の変動が大きく安定しない場合があることが明らかとなったことは, 重要なことである. 単語の聞きとり成績が 90% 以上を示すことから普段の生活では大きな問題を想定しない聴覚障害児が, 実際の聞きとりの一部に不確実な側面が明らかになったことは, こうした子どもに対する言語理解に関する個別的配慮に関して, 子どもの能力の実際に即していない課題で指導を行う可能性があることを示唆しているであろう. また, 継続的な聴覚管理からほぼ正常範囲の幼児であっても, 時には軽度障害の範囲に変動することがあるため, 聞こえているだろうという思い込みで保育 教育における指導を行う可能性も示 - 133 -

軽度聴覚障害児の聴力管理に関する配慮事項の検討 ( 柄田毅 ) 唆できた. そのため, 軽度聴覚障害児や正常範囲と考える聞こえの子どもへの聴覚管理の重要性は, 保育 教育の場面で実際に指導などを行う担任などに対して実際的な助言や示唆を示すことができるように取り組むことが必要になるであろう. Ⅵ. 今後の課題 現在, 聴覚障害児の聞こえに関しては, 発達障害を有する聴覚障害児に関する報告 ( 濱田 大鹿,2012) や通常学級にいる児童の聞こえの困難さに関する研究 ( 小川 原島 堅田, 2013) など, 聴力に関する事項だけでなく, 話ことばを聞きとめて処理する能力やことばの理解に関する能力についても注目が集まっている. こうした能力に関する障害については, 伝音性聴覚障害や感音性聴覚障害などの末梢の聴覚システムに対して, 中枢性聴覚処理障害 [Central Auditory Proscessing Diosorders] と知られている (DeConde,1984; Bellis,2003). こうした中枢性聴覚処理に関する障害に関しても, この研究で扱った聴覚管理から得られる支援資料は有効であると期待できることから, 今後も継続した検討を行うこととする. 引用文献 Bellis T.J.(2003)Assessment and Management of Central Auditory Processing Disorders in the Educational Setting : From Science to Practice 2nd Edition,Delmar Cengage Learning. Brackett D.(1990)Communication Management of the Mainstreamed Hearing-Impaired Student, Ross M., Hearing-Impaired Children in the Mainstream, 119-130, York Press. Brooks D.N.(1989) Slight Hearing Loss: A Cause for Concern, Journal of British Association of Teacher of the Deaf, 13, 3, 73-81. DeConde C.(1984)Children with Central Auditory Processing Disorders, Hull R.H. & Dilka K.L.,The Hearing-Impaired Child in School, 141-162, Grune & Stratton. Finitzo-Hieber T. & Tillman T.(1978)Room Acoustics Effects on Mono-Syllabic Word Discrimination Ability for Normal and Hearing-Impaired Children, Journal of Speech and Hearing Research, 21, 440-458. 濱田豊彦 大鹿綾 (2012) 特別支援教育における発達障害を有する聴覚障害児の現状と支援の実際 : 手話活用児を中心に, コミュニケーション障害学,29,2,114-121. Madell J.R.(1990a)Audiological Evaluation of the Mainstreamed Hearing-Impaired Child, Ross M., Hearing- Impaired Children in the Mainstream, 27-44, York Press. Madell J.R.(1990b)Managing Classroom Amplification, Ross M., Hearing-Impaired Children in the Mainstream, 95-118, York Press. 文部科学省 (2002) 通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査, 文部科学省. 日本聴覚医学会編集 (2011) 聴力検査の実際改訂 3 版, 南山堂. 小川征利 原島恒夫 堅田明義 (2013) 通常学級に在籍する児童のきこえの困難さ検出用チェックリストの作成 - 因子分析的検討を通して-, 特殊教育学研究,51(1),21-29. Plante E.M. & Beeson P.M.(2008)Communication and Communion Disorder 3rd Editon: A Clinical - 134 -

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