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Transcription:

疑似 GSM 網を用いた ecall 試験ソリューションの開発 Development of ecall test solution using GSM network emulation 川崎恵治 Keiji Kawasaki, 佐川祐希 Yuki Sagawa [ 要 旨 ] 欧州では,2015 年 10 月より自動車の緊急通報システム (ecall) が導入される そこで, 車載器 (IVS) の ecall 通信シーケンスを試験するソリューションを開発した 本ソリューションは,MD8475A シグナリングテスタと MX703330A ecall Tester を用いることで GSM 網が存在しない場所でも IVS と緊急通報センター (PSAP) 間における ecall 通信シーケンスの試験を可能とするものである [Summary] The ecall (emergency call) will be implemented for automobiles in Europe from October 2015. We have developed a solution to test the ecall communication sequence of IVS (In-Vihecle System). This solution is possible to communication sequence test between IVS and PSAP (Public Safety Answering Point) by using MD8475A Signalling Tester and MX703330A ecall Tester even if test place is not in GSM network area. 1 まえがき 急通報センターに緊急通報を行う 欧州では, 自動車事故が発生した場合の迅速な救助活動を目的とした ecall(emergency call) というシステムの運用を 2015 年 10 月から開始する これに伴い,2015 年 10 月以降に発売される新型自動車には,eCall に対応した車載器の搭載が義務付けられる ecall とは, 自動車による緊急通報システムであり, 通信方式として GSM(Global System for Mobile communications) という無線通信方式を用いている ecall のシーケンスは, 欧州規格である EN(European Norm) の EN 16062 で規定されており, 以下の 3 つのステップにより実行される (1) ステップ 1: 緊急通報の発信自動車事故が発生した時のエアバッグの作動や緊急通報ボタンの押下を契機に, 自動車に搭載された車載器が緊 ecall では車載器を IVS(In-Vehicle System), 緊急通報センターを PSAP(Public Safety Answering Point) と表現する (2) ステップ 2:MSD(Minimum Set of Data) の転送 IVS と PSAP の通信が開始されると,IVS は MSD と呼ばれる事故情報を PSAP に転送する MSD には, 自動車の車種や乗車人数, 位置情報など救助活動に必要な最低限の情報が含まれる (3) ステップ 3: オペレーターによる状況確認 MSD の転送が実施されると,PSAP のオペレーターは搭乗者と通話を行い, 事故の状況に応じて緊急車両の出動を要請する GPS Automobile Cellular Network PSAP 実環境 IVS GSM 基地局 PSAP 本ソリューション IVS MX703330A ecall Tester 試験対象 シグナリングテスタ 図 1 ソリューション構成 Solution structure アンリツテクニカル No. 89 Mar. 2014 29 (1) 疑似 GSM 網を用いた ecall 試験ソリューションの開発

ecall の義務化により, 欧州へ自動車を発売する自動車メーカーや IVS を開発する自動車部品メーカーは,GSM の無線通信網 (GSM 網 ) を使用した ecall の試験環境が必要になった そこで我々は, 図 1 に示すシグナリングテスタおよび MX703330A を用いた ecall 試験ソリューションを開発した 本ソリューションでは,GSM 網である Cellular Network を MD8475A シグナリングテスタ ( 以下,MD8475A) を用いて疑似するとともに, PSAP をパーソナルコンピューター上で動作する MX703330A ecall Tester( 以下,MX703330A) で疑似することにより, 実環境に近い状態で IVS の ecall 通信シーケンスを試験する環境を実現した 本稿では,eCall 試験における課題について述べ, それら課題の解決手段, および本ソリューションの実現に向け検討した技術的要件とその効果について解説する 2 従来の ecall 試験環境とその課題従来は, 実運用中の GSM 網を利用して IVS の ecall 通信シー さらに, 試験地域の国や通信事業者が規定する認定試験に合格していない IVS は, 実運用中の GSM 網に接続することができないという法律的問題もあった 3 課題解決の手段従来の ecall 試験環境の課題に対して, 以下の手段を提案する (1) 疑似 GSM 網の構築により試験場所を限定しないソリューションを実現 GSM 網が整備されていない場所でも試験を実現できるよう, シグナリングテスタを使用して疑似 GSM 網の通信環境を構築する シグナリングテスタとは, 携帯端末の基地局を疑似し, 基地局と携帯端末間のさまざま通信状況を再現することができる携帯端末の基地局シミュレータである 現在, 複数のシグナリングテスタがリリースされている その中で我々は, 図 2 に示す MD8475A を疑似基地局として採用する ケンスを試験していたが, それらの試験環境には以下の 2 つの課題があった (1) 試験場所の制限 ecall では,IVS と PSAP 間の通信方式として GSM 無線通信方式を採用している そのため GSM 網が整備されていない場所で開発を行う自動車メーカーや自動車部品 メーカーは,GSM 網が整備されている場所に移動して試験する必要があり, 輸送費や輸送期間に加え, 開発中の製品を社外に持ち出すことによる情報漏えいのリスクが発生していた (2) 試験条件の制限 ecall は, 車両事故発生時の人命救助を目的とした自動緊急通報システムである そのためシステムには, 緊急事態を確実かつ迅速に通報する高い信頼性が要求されており, IVS には車載器としての堅牢性とともに, 規格への適合性や例外事象への高い適応性が求められている これらを実現するためには, 様々な通信状況や多様な条件で試験を実施する必要があるが, 実運用中の GSM 網を使用した試験環境では, 例外事象を任意に発生させることができなかった また,GSM などの無線通信は, 天候などの外部要因により通信状況が変化するため, 試験条件を安定化させることができないという技術的課題があった 図 2 MD8475A シグナリングテスタ MD8475A Signalling Tester MD8475A を採用した理由は,GSM の無線通信規格に関する高度な専門知識を必要とせず, 簡易に疑似 GSM 網を構築できるという点である MD8475A 以外のシグナリングテスタでは, 無線通信規格に従った基地局の通信シーケンスを試験者が個別に用意する必要がある それに対し,MD8475A には携帯電話や IVS などの通信端末からの要求に対応した基地局の通信シーケンスを実行し, その状況を表示する SmartStudio というソフトウェアが搭載されている SmartStudio を用いることで, 試験者が GSM の無線通信規格に関する高度な知識を要求することなく疑似 GSM 網を構築することが可能となる この疑似 GSM 網の構築により, 運用中の GSM 網への接続時には必須となる, 通式規格への適合認証を受ける前の開発途上の IVS であっても ecall 試験が可能となる アンリツテクニカル No. 89 Mar. 2014 30 (2) 疑似 GSM 網を用いた ecall 試験ソリューションの開発

(2) 様々な試験条件の設定が可能なソリューションの実現 MD8475A を用いて疑似 GSM 網を構築することで, 実運用中の GSM 網では発生できない様々な通信状態を発生させること, および試験実施において必要となる IVS と PSAP 間の安定した無線通信環境が実現可能となる IVS と PSAP 間は, 無線通信規格の標準化プロジェクトである 3GPP(3rd Generation Partnership Project) の TS26.267 で規定された In-band modem 方式を使用してデータ通信を行っており, この方式では, データの通信状況によって多様な通信シーケンスの組み合わせが存在する そこで, 上記の通信シーケンスに関する試験を実施するため,PSAP の通信シーケンスをエミュレーションして様々な In-band modem 方式でのデータ通信状況を再現させる MX703330A を新たに開発し, 本ソリューションの構成に含めた MD8475A と MX703330A の機能を組み合わせることで, 無線通信環境からデータ通信までの多様な試験条件下での ecall の通信シーケンス試験が可能となる 4 MD8475A を用いた ecall 通信シーケンス試験の効率化 3 章にて従来技術における課題解決方法として MD8475A と MX703330A の機能を組み合わせることを提案した 本章では, 先の提案内容を実現するとともに,IVS の開発や評価を行う技術者が, ecall の通信シーケンス試験を効率的に実施できるように MX703330A の開発を行った 以下に MX703330A で実現した 試験手順の簡略化, 試験状態の再現性の確保, IVS の開発 評価フェーズを意識した設定項目, 通信状況の可視化 の 4 つの特長について簡単に説明する 4.1 試験手順の簡略化 MD8475A を採用することで, 試験場所を限定しない ecall の試験環境が実現できたが, ソリューション構成に機器が増えることによって試験手順が複雑となる 例えば,MD8475A と MX703330A が独立して動作する試験環境では,PSAP 側で緊急通報に応答する際の操作として, 以下の手順が必要となる (1) MD8475A の SmartStudio の機能を用いて IVS から緊急通報が発信されていることを確認する (2) MX703330A を操作し,eCall の通信シーケンスを開始するために In-band modem 方式でのデータ通信の動作準備や画面更新の操作を実行する (3) SmartStudio で緊急通報の発信に応答する操作を行い, SmartStudio から MX703330A に対して音声データを転送するそこで MX703330A では,SmartStudio が提供している外部制御機能を使用し,eCall の通信シーケンスを試験する場合に必要となる SmartStudio の操作を自動化することで, 試験手順の簡略化を実現した 表 1 に MX703330A が実装した SmartStudio 操作の自動制御項目を示す 表 1 SmartStudio 操作の自動制御 Operation automation list of SmartStudio 手順測定器制御試験環境の開始試験環境の起動試験環境の呼出試験環境の実行を開始 試験条件の変更出力パワーの変更圏内 / 圏外の状況を変更試験状況の取得通信状態を取得試験の実施着呼応答を実行発呼を実行終話を実行試験環境の終了試験環境の実行を停止これにより,eCall の通信シーケンス試験手順が簡略化され, PSAP 側で緊急通報に応答する作業は, 以下の MX703330A に対する操作のみで実現可能となる (1) MX703330A で IVS から緊急通報が発信されていることを確認し, 緊急通報の発信に応答する操作を行う 4.2 試験状態の再現性の確保 GSM の無線通信環境の構築や,SmartStudio 制御の自動化により, 試験者が手動で操作を行う場合に発生するタイミングの違いを排除した これにより, 評価試験で重要となる試験状態の再現を確実に行えるようにした 4.3 IVS の開発 評価フェーズを意識した設定項目無線通信環境や通信データをエミュレーションする機能以外に, IVS を開発するうえで必要となる条件の設定機能を追加した 4.3.1 PSAP タイマーの ON/OFF 設定 ecall の通信シーケンスでは,IVS と PSAP がお互いに通信タイマーを用意することで, 通信電波状況が悪い場合など悪条件の通信状況下でも, 緊急通報の発信, MSD の転送, オペレーターによる状況確認 といった ecall の 3 つのステップが確実に実行するよう設計されている アンリツテクニカル No. 89 Mar. 2014 31 (3) 疑似 GSM 網を用いた ecall 試験ソリューションの開発

しかし,IVS の内部状態を逐次確認しながら実施する試験や, 機能確認をステップ的に検証するといった不具合修正の作業を行う場合, これらの通信タイマー機能を一時的に無効にする必要がある そこで MX703330A は, 図 3 に示す PSAP の通信タイマーの実行有無を設定できるようにした 4.4 通信状況の可視化事故発生時,IVS から PSAP へ MSD が通知されるが, この MSD は In-band modem 方式の音声データとして転送される 図 4 に MSD 転送時の音声波形パターンの例を示す 試験者がこれら波形パターンから IVS と PSAP 間の通信シーケンス状況を解析することは困難である これにより試験者や不具合の修正を行う開発者は,PSAP の通 信タイマーに影響されることなく,IVS の試験や不具合修正の実施 が可能となる 図 4 MSD の転送シーケンスデータ例 Sample data of MSD transfer sequence そこで,MX703330A は, 以下の 2 つの項目について可視化することで視認性の向上を図った (1) 通信シーケンス状況 PSAP の通信タイマーや IVS から受信した音声データを In-band modem 方式に従って復調後, 解析することで 緊急通報の発信, MSD の転送, オペレーターによる状況確 図 3 PSAP 通信タイマー設定画面 PSAP timer setup dialog 4.3.2 連続試験を意識した試験機能 IVS の開発作業が進むにつれ,IVS の品質は向上し, 確認作業よりも検証作業の割合が増加すると予想される そのため我々は, 連続試験を考慮した以下の機能を MX703330A に追加した (1) 緊急通報に対して PSAP の応答操作を自動的に実行する機能を追加した これにより, 試験者が MX703330A を操作することなく, 自動的に ecall の通信シーケンスの試験を開始することが可能となる (2) ecall の通信シーケンス単位で試験結果を自動的に分割して記録する機能を追加した この機能により,eCall の通信シーケンスを実行する度に, 試験者がシーケンス結果を記録するという作業の省略が可能となる 上記 2 つの機能を使用することで,eCall の通信シーケンスの連続実行が可能になり, 通信シーケンスの機能検証作業の効率化を実現した さらに,IVS の制御を自動化することにより, 試験者が IVS と PSAP を操作する作業を不要としたことで, 無人環境下で ecall の通信シーケンスを繰り返して試験することが可能となる 認 といった ecall の通信シーケンスの状況と, MSD の転送 で使用する In-band modem 方式の通信における MSD の転送シーケンスの状況を図 5 の表示内容で可視化した これにより,PSAP と IVS 間の通信状態, 通信シーケンスの状況の把握が可能となる (2) MSD の受信結果 IVSから転送される MSDの内容はPER(Packed Encoding Rule) という方式でエンコードされている そのため, 試験者が IVS から受信した MSD の内容を確認するには, 受信した MSD を PER 方式でデコードする必要がある そこで, 図 6 に示すように受信した MSD を PER 方式でデコードして表示させた これにより, 試験者が MSD の内容を確認できるようにした さらに,IVS から転送された MSD の内容を簡便に確認する手段として, 試験条件や IVS の設定情報によって決定される MSD の期待値と, 実際に伝送された MSD を自動的に比較検証する機能を実装した 図 7 に MSD の比較結果の例を示す MSD 比較機能は, 確認対象となるパラメータを選択し, 比較対象となるデータを入力することで, 差異が発生したパラメータを強調表示する これにより, 試験者が事故発生時間のデータなど比較不要なパラメータを除外し, 車種など必要なパラメータのみを確認できるようにした アンリツテクニカル No. 89 Mar. 2014 32 (4) 疑似 GSM 網を用いた ecall 試験ソリューションの開発

5 むすび本ソリューションを開発することにより, 試験場所を限定することなく ecall の IVS と PSAP 間の通信シーケンスを試験することが可能となった また, 試験状態の再現性を確保し, ならびに通信状況を可視化したことで, 試験効率の向上も実現した 本ソリューションは, 日本国内の主要な自動車メーカー様や自動車部品メーカー様に採用されており, 本ソリューションが IVS の開発で使用する ecall 試験環境として有効であることが確認されている 今後は,eCall のサービスインが円滑に行えるよう,IVS の ecall コンフォーマンス試験の実現など, 市場動向の変化により発生する自動車メーカー様, 自動部品メーカー様の課題や要望を解決するソリューションを展開していく 現在, 自動車業界では,eCall のような携帯端末の無線通信網を使用したテレマティクスというサービスが普及し始めている テレマティクス市場は, 欧州の ecall 以外にもロシアの緊急通報システム (ERA GLONASS) やブラジルの車両盗難防止システムといった各地域のサービスに加え, 民間企業が付加価値としてサービスを提供することで飛躍的な成長が見込まれている 図 6 MSD デコード表示 MSD viewer そのような状況において, 無線通信技術と自動車を融合したサービスの品質を向上させる試験環境が必要不可欠となる 弊社およびアンリツ株式会社は, 携帯電話市場などで培った無線通信に関する知識や技術を応用し, 無線通信環境も含めた試験ソリューションを提供することで, テレマティクス市場の発展に貢献していく 執筆者 図 7 MSD の比較検証 Compare reference MSD and received MSD 川崎恵治アンリツエンジニアリング 事業本部プロトコルシステム技術部 佐川祐希アンリツエンジニアリング 事業本部プロトコルシステム技術部 :ecallの通信シーケンス状況 :MSDの転送シーケンス状況 図 5 通信シーケンス状況の可視化 Sequence state view 公知 アンリツテクニカル No. 89 Mar. 2014 33 (5) 疑似 GSM 網を用いた ecall 試験ソリューションの開発