なお 夫の給与所得が高いほど 税制における配偶者控除の利用率も高くなる ( 注 4) 配偶者控除による税負担の軽減額は所得が高くなるにつれて大きくなり その恩恵に浴する人は高所得の人ほど多い つまり専業主婦世帯では夫の所得が高くなるほど配偶者控除や第 3 号被保険者制度による恩恵を その分 多く享受

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このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

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被用者保険の被保険者の配偶者の位置付け 被用者保険の被保険者の配偶者が社会保険制度上どのような位置付けになるかは 1 まず 通常の労働者のおおむね 4 分の 3 以上就労している場合は 自ら被用者保険の被保険者となり 2 1 に該当しない年収 130 万円未満の者で 1 に扶養される配偶者が被用者保

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中国帰国者以外 フィリピン アジア諸国 中米南米諸国 欧米系諸国 全体 就業の状態 (1) 現在の職業表 -2.5 は 国籍グループ別に有業者の現在の職業をみたものである

02世帯

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2 継続雇用 の状況 (1) 定年制 の採用状況 定年制を採用している と回答している企業は 95.9% である 主要事業内容別では 飲食店 宿泊業 (75.8%) で 正社員数別では 29 人以下 (86.0%) 高年齢者比率別では 71% 以上 ( 85.6%) で定年制の採用率がやや低い また

3 世帯属性ごとのサンプルの分布 ( 両調査の比較 参考 3) 全国消費実態調査は 相対的に 40 歳未満の世帯や単身世帯が多いなどの特徴がある 国民生活基礎調査は 高齢者世帯や郡部 町村居住者が多いなどの特徴がある 4 相対的貧困世帯の特徴 ( 全世帯との比較 参考 4) 相対的貧困世帯の特徴とし

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質問 1 11 月 30 日は厚生労働省が制定した 年金の日 だとご存じですか? あなたは 毎年届く ねんきん定期便 を確認していますか? ( 回答者数 :10,442 名 ) 知っている と回答した方は 8.3% 約 9 割は 知らない と回答 毎年の ねんきん定期便 を確認している方は約 7 割

参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

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日韓比較(10):非正規雇用-その4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか?―賃金水準や社会保険の適用率に差があるのが主な原因―

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( ウ ) 年齢別 年齢が高くなるほど 十分に反映されている まあまあ反映されている の割合が高くなる傾向があり 2 0 歳代 では 十分に反映されている まあまあ反映されている の合計が17.3% ですが 70 歳以上 では40.6% となっています

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2 累計 収入階級別 各都市とも 概ね収入額が高いほども高い 特別区は 世帯収入階級別に見ると 他都市に比べてが特に高いとは言えない 階級では 大阪市が最もが高くなっている については 各都市とも世帯収入階級別の傾向は類似しているが 特別区と大阪市が 若干 多摩地域や横浜市よりも高い 東京都特別区

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世帯主年齢別にみると 加入 追加加入意向あり の割合は 概ね若年齢層ほど高くなって おり 30~34 歳 では 59.3% となっている ( 図表 Ⅱ-75) 図表 Ⅱ 75 今後の加入 追加加入意向 ( 世帯主年齢別 ) - 加入 追加加入意向あり の割合

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調査の概要 少子高齢化が進む中 わが国経済の持続的発展のために今 国をあげて女性の活躍推進の取組が行なわれています このまま女性正社員の継続就業が進むと 今後 男性同様 女性も長年勤めた会社で定年を迎える人が増えることが見込まれます 現状では 60 代前半の離職者のうち 定年 を理由として離職する男

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表紙

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タイトル

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

労働法制の動向

b. 世帯主年齢階級別 負担率 図表 II- 6-4 墨田ブロックの世帯主年齢階級別 平均負担率 図表 II- 6-5 墨田ブロックの世帯主年齢階級別 負担率の分布 合計 5% 未満 % 以上 1% 未満

(2) 男女別の公的年金加入状況平成 22 年 11 月末における 20~59 歳の男子の公的年金加入状況をみると 第 1 号被保険者が 979 万 6 千人 ( 男子人口に対し 29.5%) が 2,262 万 1 千人 ( 同 68.2%) が 11 万 3 千人 ( 同 0.3%) であり (

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各位

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Ⅲ 結果の概要 1. シングル マザー は 108 万人我が国の 2010 年における シングル マザー の総数は 108 万 2 千人となっており 100 万人を大きく超えている これを世帯の区分別にみると 母子世帯 の母が 75 万 6 千人 ( 率にして 69.9%) 及び 他の世帯員がいる世

図表 II-39 都市別 世帯主年齢階級別 固定資産税等額 所得税 社会保険料等額 消 費支出額 居住コスト 年間貯蓄額 ( 住宅ローン無し世帯 ) 単位 :% 東京都特別区 (n=68) 30 代以下 (n=100) 40 代

要 旨 2009 年の年金財政検証によると 標準的な厚生年金世帯 であれば 世代間格差はあるものの 将来世代においても 平均寿命 (60 歳時点の平均余命 ) まで生存すれば 負担した保険料の 2.3 倍の給付が受けられる見通しであることが明らかにされた これはこの倍率の分母である負担に事業主負担が

1 消費者庁に対する認知度 消費者庁 の認知度を性別でみると 男性の認知度が 80.1% に対し女性は 72.1% と 男性の認知度の方が女性よりも高くなっている 年代別では 40 代の認知度が 8% と他の年代の中ではもっとも高くなっている 一方 70 歳以上の認知度は 58.9% と他の年代の中

政策課題分析シリーズ16(付注)

Transcription:

Data Watch (2 July 2015) No.6 専業主婦世帯は共働き世帯より経済的に恵まれているか ( 公財 ) 年金シニアプラン総合研究機構研究主幹一橋大学名誉教授高山憲之 専業主婦世帯は経済的に恵まれ 裕福な暮らしをしているのにもかかわらず 税制や社会保障制度で共働き世帯より優遇されている このような意見が日本では今でも根強い ところで 専業主婦世帯は今日 本当に経済的に恵まれていると言えるのだろうか この点を統計データを用いて確認すること それが本稿の主な目的である 利用したデータは世代間問題研究プロジェクトが 2011 年に実施した くらしと仕事に関するインターネット調査 ( 調査対象は 30~59 歳の男女 約 6000 人 ) である ( 注 1) 夫の年収階層別にみた妻の第 3 号割合まず 手始めに 夫の年収階層別に妻の第 3 号被保険者割合を集計してみた 第 3 号被保険者は 夫が厚生年金保険や公務員共済組合等に加入していれば 一定の要件の下で みずから年金保険料を納付することが求められない一方 定額の基礎年金を妻分として老後に受給することが約束されている 第 3 号被保険者の中核を占めているのは専業主婦である ( 注 2) ここでは回答者本人が既婚の女性である 811 サンプルを集計に用いた 図 1は その集計結果である それによると 夫の年収が高くなるにつれて妻が第 3 号となっている割合も総じて高くなる ちなみに夫の年収が 300 万円未満のとき 妻が第 3 号となっている割合は 20% にすぎない むしろ第 1 号被保険者となっている妻が 49% と半数に近く 最も多い 夫の年収が 300 万円以上 500 万円未満のときには 妻の第 3 号割合は 56% となり 第 1 号割合 (21%) を超える そして夫の年収が 600 万円以上では妻の第 3 号割合は 80% 前後に達し その水準でほぼ安定している ( 注 3) 夫の年収 ( 万円 ) 1-299 図 1 夫の年収階層別にみた妻の被保険者カテゴリー別構成割合 48.6 31.4 第 1 号被保険者第 2 号被保険者第 3 号被保険者 20 300-499 21.1 22.7 56.2 500-599 11.9 17.8 70.3 600 799 6.6 12.6 80.8 800-999 10.8 9 80.2 1000+ 6.3 13.9 79.7 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 注 ) 調査対象は 30 歳以上の既婚女性である 夫の年収が無記入のサンプルは除外した さらに世帯年収 1 億円以上のサンプルもアウトライヤーとして除去し 集計した 夫の年収は 2010 年分である 出所 ) 世代間問題研究プロジェクト くらしと仕事に関するインターネット調査 (2011 年調査 ) 1

なお 夫の給与所得が高いほど 税制における配偶者控除の利用率も高くなる ( 注 4) 配偶者控除による税負担の軽減額は所得が高くなるにつれて大きくなり その恩恵に浴する人は高所得の人ほど多い つまり専業主婦世帯では夫の所得が高くなるほど配偶者控除や第 3 号被保険者制度による恩恵を その分 多く享受していることになる 夫の年収分布 : 共働き世帯 VS 専業主婦世帯次に 配偶者のいる世帯に焦点をしぼり 夫の年収分布から整理することにしたい 配偶者のいる世帯のうち本稿で着目したのは 共働き世帯 A 共働き世帯 B 専業主婦世帯 の3つである 共働き世帯 A は夫婦ともに正社員 ( ないし役員 ) の世帯とした また 共働き世帯 B では 夫が正社員 ( ないし役員 ) である一方 妻は非正規社員 ( パート アルバイト 派遣 契約 嘱託 ) であり かつ第 3 号被保険者であると想定している さらに専業主婦世帯の場合 夫が正社員 ( ないし役員 ) である一方 妻は本人年収がゼロであり 年金制度上は第 3 号被保険者であると仮定した さらに 集計するにあたって配偶者も本人の年齢にあわせて 30~59 歳のサンプルに限定した 年収は 2010 年分であるので 正社員等の就労状況や年金制度上のカテゴリーは 2010 年 4 月分で区分した 集計にあたり世帯年収ゼロのサンプルを除外するとともに 世帯年収 1 億円以上のサンプルもアウトライヤーとして除外した 夫の年収は回答者が夫本人であるか妻であるかによって若干ながら異なるおそれがある ( 後述参照 ) そこで 回答者が夫本人の場合と妻の場合に分けて 上記の3つの世帯類型別に夫の年収分布を再集計することにした 表 1は回答者が妻の場合 世帯類型別にみて 表 1 妻からみた夫の年収分布 (2010 年分 ) 注 1) 共働き世帯 A( 夫婦とも正社員ないし役員 ) 共働き世帯 B( 夫は正社員ないし役員 妻は非正規社員の第 3 号被保険者 ) 専業主婦世帯 ( 夫は正社員ないし役員 妻は本人収入ゼロの第 3 号被保険者 ) 注 2) 集計にあたり世帯年収がゼロまたは 1 億円以上のサンプルを除外した 注 3) 平均値 中央値はいずれも万円単位 出所 ) 世代間問題研究プロジェクト くらしと仕事に関するインターネット調査 (2011 年調査 ) 2

夫の年収分布がどの程度まで違うのかを比較したものである ( 注 5) それによると 夫の年収の最頻値 (100 万円きざみ ) は共働き世帯の場合 いずれも 400 万円台にある一方 専業主婦世帯の場合は 600 万円台となっている また 夫の年収の中央値は共働き世帯 500 万円 専業主婦世帯 600 万円である さらに その平均値は専業主婦世帯が 630 万円強であり 最も高い 他方 共働き世帯の場合 世帯 B( 妻が非正規社員 ) の方が 590 万円強となっており 世帯 A( 妻が正社員 ) の 570 万円弱をわずかながら上回っている 総じて夫の年収は専業主婦世帯が最も高く 共働き世帯 B 共働き世帯 A の順となっている ただ 年収 800 万円以上の世帯割合は専業主婦世帯と共働き世帯 B を比較するかぎり ほとんど違いがない 表 2は回答者が妻の場合 世帯類型間で世帯ベースの年収分布がどの程度まで異なっているのかを整理した結果である それによ ると 世帯年収の最頻値 (100 万円きざみ ) は共働き世帯 A が 700 万円台 共働き世帯 B 500 万円台 専業主婦世帯 400 万円台となっていた また 世帯年収の中央値は共働き世帯 B と専業主婦世帯がいずれも 600 万円 共働き世帯 A 800 万円である さらに その平均値は共働き世帯 A が 822 万円 共働き世帯 B 670 万円 専業主婦世帯 645 万円の順となっていた ( 注 6) 夫のみの年収に注目するのか それとも世帯ベースの年収に注目するのか によって年収の高低は世帯類型別に異なっている 世帯ベースの年収に関するかぎり 専業主婦世帯が共働き世帯よりも裕福であるとは言えない ちなみに世帯年収 500 万円未満の世帯割合は専業主婦世帯の場合 27% となっており 共働き世帯 A(11%) 共働き世帯 B(23%) より高めである 共働き世帯と比べると 専業主婦世帯には相対的に世帯年収の低い世帯が比較的多いことも無視してはならないだろう ( 注 7 8 9) 表 2 妻からみた世帯年収分布 (2010 年分 ) 注 出所 ) 表 1 と同じである 3

次に 上記の結論を夫の回答額で確認してみることにした 表 3は 回答者が夫の場合について夫の年収分布を世帯類型別に調べた結果である それによると 夫の年収は最頻値 中央 値 平均値のいずれをとっても専業主婦世帯が最も高く 次いで共働き世帯 B 共働き世帯 A の順になっていた この順位は回答者が妻である場合と基本的に変わりがなかった 表 3 夫からみた夫本人の年収分布 (2010 年分 ) 注 出所 ) 表 1 と同じである くわえて 回答者が夫の場合 世帯ベースの年収分布が世帯類型別にどのように違っているのかについても整理してみた その結果が表 4である ( 注 10) 世帯年収は最頻値 中央値 平均値のどれをみても一転して共働 き世帯 A が最も高い 世帯年収が相対的に最も低いのは専業主婦世帯である この順位も妻の回答額のときと基本的に変わらない つまり 上記の結論は夫の回答額でも確認されたのである 表 4 夫からみた世帯年収分布 (2010 年分 ) 注 出所 ) 表 1 と同じである 4

資産分布 : 共働き世帯 VS 専業主婦世帯本稿で利用している統計データは資産関連の項目も含んでいる そこで 次に資産保有額が専業主婦世帯と共働き世帯とで どの程度まで違うかを調べてみた ただ 資産関連項目については無記入の回答者が 40~ 70% を占めており 比較的多い そのため 回答額の分布に歪みがあるおそれがある その意味で以下の記述は回答数に限りのある調査からの参考情報にすぎない 資産保有に関する正確な情報は サンプル数の多い全国調査 ( たとえば総務省統計局が実施している 全国消費実態調査 ) の個票データを再集計しないと得られないだろう 表 5は 2011 年時点の住宅資産保有額 ( 敷地込み ) と金融資産残高を整理した結果である ( 資産額ゼロのサンプルを除いて集計した 金融資産残高は負債残高を控除する前の金額である ) 総じて夫の回答額の方が妻の回答額より多めとなっている 住宅資産保有額は最頻値 中央値 平均値をみるかぎり 専業主婦世帯の方が共働き世帯より若干多めである ちなみに その中央値は夫の回答額によると専業主婦世帯 2500 万円 共働き世帯 2000 万円となっていた ( 妻の回答額は夫の回答額よりそれぞれ 500 万円ずつ低い ) 表 5 資産保有額の諸指標 (2011 年時点 ) ( 万円 ) 注 1) 世帯類型の定義は表 1 の注 1 と同じである 注 2) 最頻値は 500 万円きざみの計数である 注 3) 金融資産残高 2 億円以上のサンプルをアウトライヤーとして集計サンプルから除外した 出所 ) 世代間問題研究プロジェクト くらしと仕事に関するインターネット調査 (2011 年調査 ) 夫名義の金融資産残高は夫の回答額をみるかぎり 専業主婦世帯と共働き世帯でほとんど違いがない ( 注 11) 一方 妻名義の金融資産残高は 妻の回答額によると共働き世帯の方が多い ちなみに その中央値は共働き世帯の場合には 500 万円前後 専業主婦世 帯の場合 200 万円となっていた なお 夫名義の金融資産残高を妻は夫より少なめに認識している一方 共働き世帯 B 以外では妻名義の金融資産残高を夫は妻より多めに認識しているようである ただし 配偶者名義の金融資産残高については無回答の人が3 分 5

の2 程度あるいはそれ以上を占めており かなり多い 別のデータで再確認する必要があるだろう 共働き世帯の妻は夫の年収を正確に知っているか専業主婦世帯の妻は夫の年収を必ずしも正確に把握していないという状況がある とくに夫の年収が 900 万円以上の世帯において そのような傾向が顕著である ( 注 12) 他方 共働き世帯の妻は 夫の年収を正確に知っているのだろうか その点を次に調べることにした 図 2の青色の折れ線は 夫婦ともに正社員の共働き世帯 A における夫の年収分布を表示したものであり 回答者は夫本人である 年 収の最頻値は 400 万円台 平均値 592 万円 中央値 515 万円となっていた ( 表 3 参照 ) 一方 図 2の赤色の折れ線は同様に夫婦ともに正社員の共働き世帯 A における夫の年収を妻が回答したものである 夫の年収の最頻値は 400 万円台であり 夫の回答額と変わりがなかった ただし 400 万円台への集中度は妻の回答の方が夫のそれより高い さらに その平均値は 569 万円 中央値 500 万円であった ( 表 1 参照 ) 夫の回答額の方が平均値で 20 万円強 中央値で 15 万円 それぞれ高めとなっていたものの 夫の年収に関する夫婦間の認識ギャップは小さい ( 注 13) 全体として 共働き世帯 A の妻は夫の年収をかなり高い正確度で知っていると言えるのではないだろうか (%) 40 30 図 2 夫婦ともに正社員の共働き世帯 A における夫の年収分布 (2010 年分 ) 夫からの回答妻からの回答 20 10 0 ( 万円 ) 出所 ) 世代間問題研究プロジェクト くらしと仕事に関するインターネット調査 (2011 年調査 ) 妻が非正規社員の共働き世帯 B では この点はどうなっているのだろうか それを調べた結果が図 3である 図 3における折れ線の青色は夫の回答 赤色は妻の回答を表している 回答者が夫本人の場合 夫の年収の最頻値は 500 万円台 平均値 632 万円 中央値 600 万円であった ( 表 3 参照 ) 一方 回答者が妻の場合 夫の年収の最頻値は 400 万円台 平均値 595 万円 中央値 500 万円であった ( 表 1 参照 ) 最頻値 平均値 中央値のいずれをとっても妻の回答額の方が夫のそれより多少とも低い 夫の年収に関するかぎり夫の回答額の方が信頼度は高いと考えても大過ないだろう 仮にそうであるとすれば 共働き世帯 B の妻は 400 万円以上 700 万円未満の夫の年収に関するかぎり それを実際より若干ながら低めに認識していると思われる 6

30 20 (%) 図 3 妻が非正規社員の共働き世帯 B における夫の年収分布 (2010 年分 ) 夫からの回答妻からの回答 10 0 ( 万円 ) 出所 ) 世代間問題研究プロジェクト くらしと仕事に関するインターネット調査 (2011 年調査 ) 女性正社員の年収 : 既婚 VS 未婚女性正社員 ( 役員を含む ) の年間収入は既婚者と未婚者との間で どのように違っているのだろうか この点も本稿では調べてみた その結果は表 6のとおりである まず 年収 ( 本人分 ) の最頻値は既婚者が 300 万円台にある一方 未婚者の場合には 400 万円台にあった 次に その中央値は既婚者が 300 万円 未婚者 380 万円となっていた さらに その平均値は既婚者 295 万円 未婚者 380 万円 弱であった 最頻値 中央値 平均値のいずれでみても未婚の女性正社員の年収は既婚の女性正社員のそれより高いことが確認された (30 歳以上 ) このような事実は男性の場合とは高低が正反対である ちなみに男性正社員の場合 本人年収の中央値は共働き世帯 A では 515 万円 未婚男性 450 万円となっていた 未婚男性より既婚男性の方が本人年収は高めである 表 6 女性正社員の年収 (2010 年分 ) 注 1) 共働き世帯 A は夫婦ともに正社員 ( 役員を含む ) の世帯である 注 2) 最頻値は 100 万円きざみの計数である 出所 ) 世代間問題研究プロジェクト くらしと仕事に関するインターネット調査 (2011 年調査 ) 年収の高低と配偶関係は同時決定という側面も否定することができない ちなみに女性正社員の場合 有配偶率は年収階層別に異なりうる そこで この点を念のため確認し てみた その結果が図 4である それによると 年収が高いほど有配偶率は総じて低くなっていた 給与の高い女性正社員は結婚せずに未婚のままの人が多い ( 注 14) 7

謝辞 本稿の作成にあたりデータの処理や 図の作成等の作業において富岡亜希子さんのご協力を得た お礼を申しあげたい ( 注 ) 1. この調査については以下のウェブサイトが詳しく解説している http://takayama-online.net/pie/stage3/jap anese/d_p/dp2012/dp551/text.pdf 2. 2010 年公的年金加入状況等調査によると 第 3 号被保険者に占める非就業者 ( 無職 ) の割合は 57% であった 3. 安部由起子教授 ( 北海道大学 ) は国民生活基礎調査 (2010 年 ) の個票データを利用して ほぼ同様の事実を指摘している 男女共同参画会議基本問題 影響調査専門調査会報告書 (2012 年 2 月 ) の 77 ページをみよ 4. 税制調査会第 8 回専門家委員会 (2010 年 10 月 19 日 ) 提出資料 参照 5. 回答者本人が女性 ( 妻 ) の場合 正社員は厚生年金加入者に限定している 一方 その配偶者 ( 夫 ) については正社員という縛りをかけることはできるものの データの制約上 厚生年金加入者に限定することはしていない (2010 年 4 月分 ) 6. 2014 年 11 月 4 日に開催された社会保障審議会年金部会に提出された厚生労働省年金局 働き方に中立的な社会保障制度 (36 ページ ) によると 妻が第 3 号被保険者の場合 夫の年間給与所得 500 万円未満のサンプル割合は 40% となっていた (2010 年 国民生活基礎調査 の特別集計 ) ただ 同資料には妻が第 2 号被保険者の場合 夫の給与所得 500 万円未満がサンプルの何 % になっていたのかは示されていない 7. 30~39 歳層の専業主婦世帯に限定すると 世帯年収 500 万円未満の世帯割合は 37% となっていた 8. 労働政策研究 研修機構 第 2 回子育て世帯全国調査 (2012 年調査 ) には妻の就業形態別にみた 2 人親世帯の平均世帯年 収が記載されている それによると 妻が正社員の共働き世帯 A の世帯年収は 821 万円 ( 平均値 ) であり 相対的に最も高い 妻が非正規社員 ( 派遣 契約 嘱託 ) の場合は 736 万円 無職 ( 専業主婦 ) の場合は 614 万円となっていた ( いずれも世帯年収の平均値 ) 世帯年収の高低に関する本稿の集計結果は この記載内容と基本的に同じである なお 妻が非正規社員 ( パート アルバイト ) の場合 601 万円であった ただ 年収の中央値や最頻値は記載されていない また 資産保有額も調査していない 9. 表 1 や表 2 で示した程度の高低差をもって 共働き世帯と専業主婦世帯のどちらが経済的に恵まれているのかを議論することには あまり意味がないという意見もありうる 日本のサラリーマン世帯は経済的格差が比較的小さいからである むしろ経済的に恵まれていて裕福であるのは企業経営者の一部や医者 弁護士等であり そのことを等閑視すべきではない 10. 回答者 ( 夫 ) の配偶者 ( 妻 ) については正社員または非正規社員という縛りをかけることはできる ただし データに制約があり 2010 年 4 月分に関する年金被保険者カテゴリー区分の情報は得られなかった 11. 100 万円きざみでみると 最頻値はいずれの世帯類型でも 500 万円台にある ただ 共働き世帯 A のみ 2 ピークとなっており 1000~1099 万円のサンプルも突出して多い 12. 高山憲之 専業主婦は夫の年収を正確に知っているか 2015 年 5 月 http://takayama-online.net/pie/stage3/jap anese/d_p/dp2015/dp644.pdf 13. 共働き世帯 A における妻の回答数は 65 にすぎない ( 表 1 参照 ) 集計サンプル数を増やして 結論を再吟味する必要性がある 14. 女性正社員のうち離婚状態にある人は本人年収 300 万円以上 500 万円未満の階層が比較的多く 12.7% であった 8