スライド 1

Similar documents
1)表紙14年v0

第13回がん政策サミット 2016秋

当院外科における 大腸癌治療の現況

<303491E592B BC92B08AE02E786C73>

がん登録実務について

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

外来在宅化学療法の実際

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

<4D F736F F F696E74202D E338C8E313493FA956C8FBC8E7396AF8CF68A4A8D758DC E592B08AE0816A>

遠隔転移 M0: 領域リンパ節以外の転移を認めない M1: 領域リンパ節以外の転移を認める 病期 (Stage) 胃がんの治療について胃がんの治療は 病期によって異なります 胃癌治療ガイドラインによる日常診療で推奨される治療選択アルゴリズム (2014 年日本胃癌学会編 : 胃癌治療ガイドライン第

頭頚部がん1部[ ].indd

32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

巽病院で大腸癌 巽病院で大腸癌手術をお受けになる方に 大腸癌手術をお受けになる方に 巽病院では,患者さんの人権を尊重し,患者さんにご満足頂け,喜んで退院して頂け るような治療を目指しています 手術前には十分な説明をし,ご納得頂いた上で,最も 良いと思われる治療法を選択して頂くことにしております 大腸


モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の特性と

スライド 1

1. はじめに ステージティーエスワンこの文書は Stage Ⅲ 治癒切除胃癌症例における TS-1 術後補助化学療法の予後 予測因子および副作用発現の危険因子についての探索的研究 (JACCRO GC-07AR) という臨床研究について説明したものです この文書と私の説明のな かで わかりにくいと

するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

胃がんの内視鏡的治療 ( 切除 ) とは胃カメラを使ってがんを切除する方法です. 消化器内科 胃がん 治癒 胃がん切除

4 月 20 日 2 胃癌の内視鏡診断と治療 GIO: 胃癌の内視鏡診断と内視鏡治療について理解する SBO: 1. 胃癌の肉眼的分類を列記できる 2. 胃癌の内視鏡的診断を説明できる 3. 内視鏡治療の適応基準とその根拠を理解する 4. 内視鏡治療の方法 合併症を理解する 4 月 27 日 1 胃

大腸癌術前化学療法後切除標本を用いた免疫チェックポイント分子及び癌関連遺伝子異常のプロファイリングの研究 

Microsoft PowerPoint - 大腸癌説明同意文書改訂版.ppt

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

大腸ESD/EMRガイドライン 第56巻04号1598頁

5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専

原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ

密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

子宮頸がん 1. 子宮頸がんについて 子宮頸がんは子宮頸部に発生するがんです ( 図 1) 約 80% は扁平上皮がんであり 残りは腺がんですが 腺がんは扁平上皮がんよりも予後が悪いといわれています 図 1 子宮頸がんの発生部位 ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染は子宮頸がんのリスク因子です

< A815B B83578D E9197BF5F906697C38B40945C F92F18B9F91CC90A72E786C73>

H26大腸がん

< E082AA82F1936F985E8F578C768C8B89CA816989FC92F994C5816A2E786C73>

ガイドライン公聴会

43048腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約第1版 追加資料

PowerPoint プレゼンテーション

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 神谷綾子 論文審査担当者 主査北川昌伸副査田中真二 石川俊平 論文題目 Prognostic value of tropomyosin-related kinases A, B, and C in gastric cancer ( 論文内容の要旨 ) < 要旨

博士学位申請論文内容の要旨

PowerPoint プレゼンテーション

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

Microsoft Word - 食道癌ホームページ用.doc

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

Microsoft PowerPoint - 印刷用 DR.松浦寛 K-net配布資料.ppt [互換モード]

1. 来院経路別件数 非紹介 30 他疾患経過 10 自主受診観察 紹介 20 他施設紹介 合計 患者数 割合 12.1% 15.7% 72.2% 100.0% 27.8% 72.2% 100.0% 来院経路別がん登録患者数 がん患者がどのような経路によって自施設を受診し

NCCN2010.xls

この PDF では 大腸がんの治療方針を考えるお手伝いをします 大腸がんの治療法には 主に内視鏡的治療 外科療法 放射線療法 化学療法があります が 可能となる治療選択肢は がんの状態やあなた自身の状態によって変わります あなたのご自身の状態を知ることは大切です 不明なことは医師に相談しましょう 2

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

Microsoft Word - 03 大腸がんパス(H30.6更新).doc

2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や

094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

膵臓癌について

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

< E082AA82F1936F985E8F578C768C8B89CA816989FC92F994C5816A2E786C73>

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

日産婦誌61巻5号研修コーナー

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

らに本検査により 術中に腹膜再発リスク患者の高感度判定が可能となったため 現在 2017 年 4 月より 大阪市立大学医学部附属病院において 胃癌手術中の判定に基づいて術中に腹膜再発予防的治療を行う臨 床試験を開始しています 図 1. 胃癌の腹膜転移経路と手術中診断法 胃粘膜上皮で発生した癌細胞が胃

付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

医療連携ノートとは 手術などの治療を行った病院とかかりつけ医が協力して ( 医療連携 ) 専門的医療と総合的な診療を適切に提供するために使用する患者さん用のノートです 安全で質の高い医療を切れ目なく提供するため 専門医が協力して新潟県共通のものを作成しました 医療連携ノートの内容 1 患者さんの病状

PowerPoint プレゼンテーション

ベバシズマブ併用 FOLFOX/FOLFIRI療法

腹腔鏡手術について 〜どんな手術かお話いたします

9 2 安 藤 勤 他 家族歴 特記事項はない の強い神経内分泌腫瘍と診断した 腫瘍細胞は切除断端 現病歴 2 0 1X 年7月2 8日に他院で右上眼瞼部の腫瘤を に露出しており 腫瘍が残存していると考えられた 図 指摘され精査目的で当院へ紹介された 約1cm の硬い 1 腫瘍で皮膚の色調は正常であ

消化器センター

EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討

9章 その他のまれな腫瘍

アンケート回答 19 施設 ( 順不同 ) 奈良県立医科大学消化器外科順天堂大学下部消化管外科市立函館病院消化器内科調布外科消化器科内科クリニック東京都多摩がん検診センター市立旭川病院消化器病センター山形大学医学部第 2 内科産業医科大学第 1 外科国立がんセンター中央病院内視鏡部福岡大学築柴病院福

15 氏 名 し志 だ田 よう陽 すけ介 学位の種類学位記番号学位授与の日付学位授与の要件 博士 ( 医学 ) 甲第 632 号平成 26 年 3 月 5 日学位規則第 4 条第 1 項 ( 腫瘍外科学 ) 学位論文題目 Clinicopathological features of serrate

Microsoft PowerPoint - 平成28年届出についてフィードバック_ pptx

cstage,, CQ1-5 cstage a CQ2-1,9 CQ4-1 cstage b CQ5-1 CQ4-2~6 CQ5-2~4 CQ2-2~9 CQ3-1~4 CQ6-1~4 CQ4-7 cstage JPS 6 図 2 膵癌治療アルゴリズム 表 1 勧告の強さの分類 A B C1 C2

6 月 25 日胸腺腫 胸腺がん患者の情報交換会 & 勉強会質疑 応答 奥村教授にお聞きしたいこと 奥村教授の話 1 特徴 (1) 胸腺腫 胸腺がん カルチノイドの違いについて 胸腺腫はがんの種類か 病理学的には胸腺腫はがんではなくて正常と区別つかず機能を残したまま腫瘍化したもの 一部 転移するもの

乳癌かな?!と思ったら

付表 登録数 : 施設 部位別 総数 1 総数 口腔咽頭 食道 胃 結腸 直腸 ( 大腸 ) 肝臓 胆嚢胆管 膵臓 喉頭 肺 骨軟部 皮膚 乳房 全体

本文/開催および演題募集のお知らせ

医科_第20次(追加)審査情報提供(広報用)

付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

「             」  説明および同意書

記入方法

付表 登録数 : 施設 部位別 総数 1 総数 口腔咽頭 食道 胃 結腸 直腸 ( 大腸 ) 肝臓 胆嚢胆管 膵臓 喉頭 肺 骨軟部 皮膚 乳房

針刺し切創発生時の対応

平成 29 年度九段坂病院病院指標 年齢階級別退院患者数 年代 10 代未満 10 代 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 70 代 80 代 90 代以上 総計 平成 29 年度 ,034 平成 28 年度 -

<4D F736F F D208A6582AA82F182CC82DC82C682DF81698AAE90AC816A815188F38DFC97702E646F63>

大腸がんとは 日本人に多いがんで症状が現れにくいことがあります 粘膜 大腸がんは大腸の粘膜に発生します 大腸は 水分や塩分 一部の栄養素の吸収 便の形成などのはたらきをしている管状の臓器です 壁の厚さは3~5mmで 内側の粘膜から外側の漿膜 ( しょうまく ) までの5つの層からできています 大腸が

ける発展が必要です 子宮癌肉腫の診断は主に手術進行期を決定するための子宮摘出によって得られた組織切片の病理評価に基づいて行い 組織学的にはいわゆる癌腫と肉腫の2 成分で構成されています (2 近年 子宮癌肉腫は癌腫成分が肉腫成分へ分化した結果 組織学的に2 面性をみる とみなす報告があります (1,

PowerPoint プレゼンテーション

スライド 1

indd

かった また患者の黒色便が消失したこともあり, 微小な病変が凝固因子製剤の補充により改善した可能性があると考え今回はこれ以上の追加精査は行わず, 再度増悪時にダブルバルーン内視鏡などを考慮する方針とし, 患者は 1 月 14 日に名大病院を退院した 患者は退院後も定期的に名大病院血液内科外来を受診し

基礎知識 1. 大腸 ( 結腸 直腸 ) について 大腸は 食べ物の最後の通り道です 小腸に続いて 右下腹部から始まり おなかの中をぐるりと大きく時計回りに回って 肛門につながります 長さは 1.5~ 2mほどの臓器で 結腸 ( 盲腸 上行結腸 横行結腸 下行結腸 S 状結腸 ) と 直腸 ( 直腸

70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

Microsoft PowerPoint - komatsu 2

2. 予定術式とその内容 予定術式 : 腹腔鏡補助下幽門側胃切除術 手術の内容 あなたの癌は胃の出口に近いところにあるため 充分に切除するためには十 二指腸の一部を含め胃の 2/3 もしくは 3/4 をとる必要があります 手術は全身麻酔 (+ 硬膜外麻酔 ) の下に行います 上腹部に約 25cm の

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( / ) 上記外来の名称 ストマ外来 対象となるストーマの種類 コロストーマとウロストーマ 4 大腸がん 腎がん 膀胱がん ストーマ管理 ( 腎ろう, 膀胱ろう含む ) ろう孔管理 (PEG 含む ) 尿失禁の管理 ストーマ外

スライド タイトルなし

質の高い病理診断のために 病理技術 診断基準の標準化を 目指した精度評価を実現します

大腸癌の治療について

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

Dr. Kawamura.doc

Transcription:

東海細胞研究所セミナー 臨床医の立場から思う病理学的検査 - 消化器外科医の立場から - 帝京大学溝口病院外科 杉山保幸

病理診断とは? 人体から採取された材料を病理学の知識や手法を用いて顕微鏡で観察し 病変の有無や種類を診断すること この診断は治療方法の選択や治療効果の判定において重要な役割を担う 病理診断の分類 細胞診断 組織診断 : 病気の診断をする 治療方針を選択する術中迅速病理診断 術中迅速細胞診断 : 手術方針を決める手術材料診断 : 進行度を判断する 術後の治療方針を決める特殊病理診断 : 病変の詳細を知る 分子標的治療の適応を判断する ( 免疫組織学的診断 遺伝子診断 電子顕微鏡学的診断など )

病理診断は医療行為である 患者 ( 生存者 ) の病理診断に関し 標本の病理学的所見を客観的に記述すること ( たとえば異型細胞が多い 好中球浸潤が多い 等 ) は医療行為ではないが それに基づいて病理学的診断 ( がんであると診断すること 等 ) を行うことは 結果として人体に危害を及ぼすおそれのある行為であり 医療行為である ( 医事第 90 号 : 平成元年 12 月 28 日 )

病理診断に関連する医療事故 切り出しが不十分で病変を指摘できなかった病理標本を取り違えた他の患者のプレパラートの混入に気づかなかった病変を誤って解釈した 病変の解釈は病理医の診断経験や知識によって左右されるが 臨床医からの臨床情報の多寡や正確さ 病理医の多忙や疲れ 集中力不足などによっても影響を受けることがある 病理診断科を標榜できるような病院では過誤は起こりにくいが 検査センターでは細心の注意が必要である

同一施設内での電子カルテによるシステミックな情報収集 電子カルテ :1 患者 1 カルテ 物流 病理医や検査技師が多くの情報をもとに議論できる施設では医療事故も起こりにくい 岐阜大学医学部附属病院 画像検査所見 手術所見 血液 生理 病理検査データ

システミックな病理レポート作成も可能になる 放射線部門 臨床経過 手術室 検査 病理レポート 検査センターでは臨床情報に基づいて業務を遂行することが困難な状況にある

消化器外科医が必要とする病理診断の情報 検査センターへの依頼でも入手できる情報 EMR( 内視鏡的粘膜切除術 ) や ESD( 内視鏡的粘膜下層剥離術 ) における根治度内視鏡摘除標本の水平断端や垂直断端における癌浸潤の有無 手術切除標本における組織型 深達度 脈管侵襲の程度 リンパ節転移の程度 胸水 腹水中の悪性腫瘍の有無 癌細胞表面の標的分子の有無や癌細胞内での遺伝子変異の有無 切除 ( 生検 ) 標本の免疫組織染色による確定診断 院内に病理医がいないと入手が難しい情報 術中の切離断端における癌浸潤の有無 術前に確定診断が得られていない場合の術中切除 ( または生検 ) 材料による良 悪性の迅速診断 術中腹腔内洗浄細胞診断の判定

大腸癌に対する治療戦略 外科的治療開腹手術腹腔鏡手術内視鏡治療 抗癌剤治療 ( 化学療法 ) : 攻撃的治療戦略 : 緩和的治療戦略 大腸癌 免疫療法 放射線治療 その他の治療法 大腸癌に対するベバシズマブやセツキシマブ パニツムマブは がん薬物療法学の領域では 分子標的治療薬 と呼ばれているが 大腸癌治療ガイドラインでは化学療法のカテゴリーに分類されている

大腸癌の治療方法 ( 内視鏡治療 手術治療 薬物治療 放射線治療 ) の選択をどのように 行なうか?

Stage 0 ~ Stage Ⅲ 大腸癌の治療方針 Stage 0 (M 癌 ) Stage Ⅰ SM 軽度浸潤癌 2cm 未満 Stage 0 2cm 以上 Stage Ⅰ SM 深部浸潤癌 MP 癌 Stage Ⅱ Stage Ⅲ 内視鏡的治療 経過観察 腸管切除 + 郭清 D 2 郭清 D 3 郭清

消化器外科医が必要とする病理診断の情報 検査センターへの依頼でも入手できる情報 EMR( 内視鏡的粘膜切除術 ) や ESD( 内視鏡的粘膜下層剥離術 ) における根治度内視鏡摘除標本の水平断端や垂直断端における癌浸潤の有無 手術切除標本における組織型 深達度 脈管侵襲の程度 リンパ節転移の程度 胸水 腹水中の悪性腫瘍の有無 癌細胞表面の標的分子の有無や癌細胞内での遺伝子変異の有無 切除 ( 生検 ) 標本の免疫組織染色による確定診断 院内に病理医がいないと入手が難しい情報 術中の切離断端における癌浸潤の有無 術前に確定診断が得られていない場合の術中切除 ( または生検 ) 材料による良 悪性の迅速診断 術中腹腔内洗浄細胞診断の判定

内視鏡的治療 ( 術前検査で M 癌または SM 癌と診断した症例の治療方針 ) M SM 癌 M 癌または SM 軽度浸潤癌 SM 深部浸潤癌 最大径 2cm 未満 最大径 2cm 以上 内視鏡的摘除可能 内視鏡的摘除不可能 内視鏡的摘除 病理診断 経過観察 外科的切除

内視鏡的摘除 sm 癌の治療方針 Sm 癌 垂直断端陰性 垂直断端陽性 高 中分化腺癌 低分化腺癌未分化癌 浸潤度 <1000μm 浸潤度 1000μm 脈管侵襲陰性 脈管侵襲陽性 経過観察外科的切除を考慮する外科的切除

内視鏡的摘除標本の病理組織学的検索で 壁深達度は sm 1 の高分化腺癌であったが 脈管侵襲陽性であった 腹腔鏡補助下 S 状結腸切除術 ( 58 歳 男性 )

消化器外科医が必要とする病理診断の情報 検査センターへの依頼でも入手できる情報 EMR( 内視鏡的粘膜切除術 ) や ESD( 内視鏡的粘膜下層剥離術 ) における根治度内視鏡摘除標本の水平断端や垂直断端における癌浸潤の有無 手術切除標本における組織型 深達度 脈管侵襲の程度 リンパ節転移の程度 胸水 腹水中の悪性腫瘍の有無 癌細胞表面の標的分子の有無や癌細胞内での遺伝子変異の有無 切除 ( 生検 ) 標本の免疫組織染色による確定診断 院内に病理医がいないと入手が難しい情報 術中の切離断端における癌浸潤の有無 術前に確定診断が得られていない場合の術中切除 ( または生検 ) 材料による良 悪性の迅速診断 術中腹腔内洗浄細胞診断の判定

Stage 0 ~ Stage Ⅲ 大腸癌の手術治療方針 リンパ節転移 N (-) N(+) 壁深達度 M SM MP SS,SE,Si A1,A2,Ai リンパ節郭清度 D0*, D1 D2 D3 * : 直腸癌では経肛門的切除を含む

大腸癌の進行度 (Stage) 肝転移なし 腹膜転移なし 肝以外の遠隔転移なし 肝転移あり 腹膜転移あり 肝以外の遠隔転移あり リンパ節転移程度 N0 N1 N2 N3 M1( リンパ節 ) 壁深達度 M SM MP SS, A SE SI,AI 0 Ⅰ Ⅱ Ⅲa Ⅲb Ⅳ 大腸壁断面 : 深達度 粘膜層粘膜下層固有筋層漿膜下層漿膜 壁深達度 M : 癌が粘膜内にとどまり 粘膜下層に及んでいない SM : 癌が粘膜下層までにとどまり 固有筋層に及んでいない MP : 癌が固有筋層までにとどまり これを越えていない漿膜を有する場合 SS : 癌が固有筋層を越えて浸潤しているが 漿膜表面に露出していない SE : 癌が漿膜表面に露出している SI : 癌が直接他臓器に浸潤している漿膜を有しない場合 A : 癌が固有筋層を越えて浸潤している AI : 癌が直接他臓器に浸潤している

大腸癌の術後補助化学療法について 治癒切除が行われても 癌細胞がリンパ管網内 流血中 腹腔内 局所などに遺残している可能性がある 術後再発の抑制 予後改善の目的で補助化学療法が行われる 対象 : StageⅢ 大腸癌 ( 結腸癌 直腸癌 ) および StageⅡ の再発高リスク大腸癌

消化器外科医が必要とする病理診断の情報 検査センターへの依頼でも入手できる情報 EMR( 内視鏡的粘膜切除術 ) や ESD( 内視鏡的粘膜下層剥離術 ) における根治度内視鏡摘除標本の水平断端や垂直断端における癌浸潤の有無 手術切除標本における組織型 深達度 脈管侵襲の程度 リンパ節転移の程度 胸水 腹水中の悪性腫瘍の有無 癌細胞表面の標的分子の有無や癌細胞内での遺伝子変異の有無 切除 ( 生検 ) 標本の免疫組織染色による確定診断 院内に病理医がいないと入手が難しい情報 術中の切離断端における癌浸潤の有無 術前に確定診断が得られていない場合の術中切除 ( または生検 ) 材料による良 悪性の迅速診断 術中腹腔内洗浄細胞診断の判定

症例 :66 歳 男性 胃癌術後の腹水貯留 平成 21 年 9 月 : 胃癌およびその膵頭部への浸潤のために膵頭十二指腸切除術を実施 平成 23 年 1 月 : 腹水貯留を認めたため腹腔穿刺し 腹水細胞診を実施 結果は Class Ⅱ: 反応性中皮細胞を認めます 2 週間後に再度腹腔穿刺を行い 腹水細胞診を実施 結果は Class Ⅲ: ギムザ標本で核腫大 核偏在する異型細胞をごく少数認めます 低分化型腺癌も否定できません 異型細胞が少数のため再検を希望します この症例の治療をどうするか?

症例 :45 歳 男性胃癌 ( 腹膜播種性転移 ) -MMC, OK-432, IL-2 間歇的腹腔内注入施行前後の腹部 CT 所見 - 治療前 治療後

腹水中サイトカイン濃度 症例 :45 歳 男性胃癌 ( 腹膜播種性転移 ) -MMC, OK-432, IL-2 間歇的腹腔内注入施行時の腹水中のサイトカイン濃度の推移 - 250 200 150 100 50 MMC OK-432 IL-2 MMC OK-432 IL-2 MMC OK-432 IL-2 0 0 4 6 8 12 14 16 18 20 22 26 治療後日数 IL-6(pg/ml) TNF-α (pg/ml) IFN-γ (U/ml)

症例 :45 歳 男性胃癌 ( 腹膜播種性転移 ) -MMC, OK-432, IL-2 間歇的腹腔内注入施行時の腹腔内遊出細胞の経時的変化 - 治療前 第 1 日目 第 3 日目 第 4 日目 第 9 日目 第 13 日目

消化器外科医が必要とする病理診断の情報 検査センターへの依頼でも入手できる情報 EMR( 内視鏡的粘膜切除術 ) や ESD( 内視鏡的粘膜下層剥離術 ) における根治度内視鏡摘除標本の水平断端や垂直断端における癌浸潤の有無 手術切除標本における組織型 深達度 脈管侵襲の程度 リンパ節転移の程度 胸水 腹水中の悪性腫瘍の有無 癌細胞表面の標的分子の有無や癌細胞内での遺伝子変異の有無 切除 ( 生検 ) 標本の免疫組織染色による確定診断 院内に病理医がいないと入手が難しい情報 術中の切離断端における癌浸潤の有無 術前に確定診断が得られていない場合の術中切除 ( または生検 ) 材料による良 悪性の迅速診断 術中腹腔内洗浄細胞診断の判定

Stage Ⅳ 大腸癌の治療方針 遠隔転移巣切除可能不可能 原発巣切除可能不可能可能 原発巣による症状 * ない ある 原発巣根治切除 + 転移巣切除 原発巣 転移巣とも切除以外の対応 原発巣切除 + 転移巣は切除以外の対応 ** * 原発巣による症状 : 大出血 高度貧血 穿通 穿孔 狭窄 等による症状 ** 切除以外の対応 : 原発巣緩和手術 化学療法 放射線療法ならびに血行性転移に対する治療方針等を参照

切除不能進行 再発大腸癌に対する化学療法のレジメン 一次治療 二次治療 三次治療 1 FOLFOX ±Bev or CapeOx ±Bev FOLFIRI±Bev or CPT-11 KRAS 野生型 FOLFIRI±Cet / Pan or CPT-11 ±Cet * KRAS 野生型 CPT-11±Cet or Cet/Pan 単独療法 2 3 FOLFIRI ±Bev KRAS 野生型 FOLFOX±Cet / Pan FOLFOX ±Bev or CapeOx ± Bev FOLFIRI±Bev or CPT-11 * KRAS 野生型 CPT-11±Cet or Cet/Pan 単独療法 4 KRAS 野生型 FOLFIRI±Cet / Pan FOLFOX ±Bev or CapeOx ±Bev *: 二次治療までに抗 EGFR 抗体薬を未使用の場合 5 5-FU/LV±Bev or UFT+LV 状態を見て判断 可能なら 1 2 or CPT-11 KRAS 野生型 CPT-11±Cet or Cet/Pan 単独療法 抗癌剤に分子標的治療剤を併用する治療レジメンがガイドラインに詳細に記載されており ほとんどの施設がこれに準じて治療を行っているのが現況である

抗体製剤 ( 分子標的治療剤 ) とは? がん細胞 ( あるいはがん組織 ) と正常細胞 ( 組織 ) の違いを明らかにした上で がん細胞 ( 組織 ) のみを特異的に攻撃して治療効果を得ようとする目的で創られた薬剤 抗体製剤 ( 分子標的治療剤 ) は正常細胞 ( 組織 ) への集積が少ないことから 従来からの抗がん剤と比較して骨髄抑制や消化器症状 皮膚症状などの正常組織に対する副作用は軽減できるが 蛋白の一種であるためアナフィラキシーショックなどのアレルギー反応が生ずる可能性がある

大腸癌に対する抗体製剤 ( 分子標的治療剤 ) 種類 ベバシズマブ セツキシマブ パニツムマブ 商品名 アバスチン アービタックス ベクティビックス 承認年月日 2007 年 4 月 2008 年 7 月 2010 年 6 月 抗体の種類 ヒト型 マウス-ヒトキメラ型 ヒト型 標的分子 VEGF EGFR EGFR 適応疾患 切除不能な進行 再発の結腸 直腸癌 EGFR 陽性の治癒切除不能な進行 再発の結腸 直腸癌 KRAS 遺伝子野生型の治癒切除不能な進行 再発の結腸 直腸癌 使用方法 化学療法と併用 単剤または化学 単剤または化学 療法との併用 療法との併用 ベバシズマブは化学療法との併用により生存期間の延長が期待できる薬剤であるため 併用する化学療法が有効であることが重要である

EGFR シグナル伝達系と KRAS 遺伝子変異の関係 セツキシマブやパニツムマブは EGFR へのリガンドの結合を阻害する セツキシマブは EGFR 陽性の パニツムマブは KRAS 野生型の治癒切除不能な進行 再発の結腸 直腸癌に適応が認可されている EGFR KRAS Raf Mek ERK / MAPK EGFR はリガンドと結合することで細胞内のチロシンキナーゼのリン酸化と活性化をもたらす KRAS 遺伝子に変異が見られる場合は RAS の下流において恒常的にシグナル伝達が活性化した状態になっており EGFR とリガンドの結合を阻害しても細胞増殖は抑制できない 細胞内シグナル伝達経路の活性化を通して最終的に核内にシグナルが伝達され細胞増殖反応が起こる

セツキシマブ単独投与症例の治療効果と副作用 症例 年齢 性治療 stage 治療効果 KRAS 変異 副作用 1 40 男 三次治療 腫瘍マーカーの低下 なし ざ瘡様皮疹 (Grade 2) 2 64 男 二次治療 腫瘍マーカーの低下 なし ざ瘡様皮疹 (Grade 2) 3 71 男 二次治療 肝転移巣の縮小 なし ざ瘡様皮疹 (Grade 1) 4 74 男 二次治療 腹膜再発なし なし 皮膚乾燥 (Grade 1) 5 71 男 三次治療 PD あり ( コドン13) なし 6 74 男 三次治療 PD あり ( コドン12) ざ瘡様皮疹 (Grade 2) 7 55 男 二次治療 PD なし ざ瘡様皮疹 (Grade 2) 8 71 男 三次治療 腫瘍マーカー低下 肺転移巣 SD 検査不能 皮膚乾燥 (Grade 1) 9 76 女 三次治療 PD あり ( コドン12) 皮膚乾燥 (Grade 1) 10 61 男 三次治療 PD なし なし 11 62 男 二次治療 PD なし ざ瘡様皮疹 (Grade 1) 12 66 男 三次治療 PD 検査不能 ざ瘡様皮疹 (Grade 1) 13 72 女 三次治療 PD 検査不能 皮膚乾燥 (Grade 1) 14 41 女 三次治療 SD 検査不能 ざ瘡様皮疹 (Grade 2)

切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法実施時の医療費 ( 月額 ) レジメン mfolfox6 mfolfox6+ベバシズマブ FOLFIRI FOLFIRI+ベバシズマブセツキシマブ単独塩酸イリノテカン+セツキシマブ FOLFIRI+セツキシマブパニツムマブ単独 mfolfox6 + パニツムマブ FOLFIRI + パニツムマブ 医療費約 30 万円約 60 万円約 20 万円約 50 万円約 65 万円約 75 万円約 82 万円約 50 万円約 80 万円約 70 万円 体重 体表面積や年齢 医療保険の種類 負担率によって異なる

切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法実施時の1 回の支払額 年齢 性 レジメン 支払額 37 女性 FOLFIRI+Bev 87,140 円 35 男性 Cet 単独 50,460 円 65 男性 FOLFIRI 46,460 円 56 女性 mfolfox+bev 104,700 円 63 女性 mfolfox+bev 65,870 円 63 男性 塩酸イリノテカン+Cet ( 初回 ) 94,630 円 58 女性 Pan 単独 76,660 円 (2010.7.1.~9.15. で調査 ) 体重 体表面積や年齢 医療保険の種類 負担率によって異なる

症例 70 歳 男性 :S 状結腸癌 同時性肝転移 腹水貯留 試験開腹術時の播種性結節

症例 70 歳 男性 : mfolfox6 療法 8 コース実施後 肝転移巣縮小 腹水消失

症例 70 歳 男性 S 状結腸切除術後に mfolfox6+bev 療法 4 コース実施 肝左葉切除術後

症例 70 歳 男性 : 肝左葉切除術時の所見

消化器外科医が必要とする病理診断の情報 検査センターへの依頼でも入手できる情報 EMR( 内視鏡的粘膜切除術 ) や ESD( 内視鏡的粘膜下層剥離術 ) における根治度内視鏡摘除標本の水平断端や垂直断端における癌浸潤の有無 手術切除標本における組織型 深達度 脈管侵襲の程度 リンパ節転移の程度 胸水 腹水中の悪性腫瘍の有無 癌細胞表面の標的分子の有無や癌細胞内での遺伝子変異の有無 切除 ( 生検 ) 標本の免疫組織染色による確定診断 院内に病理医がいないと入手が難しい情報 術中の切離断端における癌浸潤の有無 術前に確定診断が得られていない場合の術中切除 ( または生検 ) 材料による良 悪性の迅速診断 術中腹腔内洗浄細胞診断の判定

A 症例 :60 歳 女性 B 術前画像診断は脂肪肉腫または GIST 腹部 CT 腹部 MRI

症例 :60 歳 女性 術中写真 S T W D P G D G

切除標本 S T D T HE 染色 K T R T Vimentin 染色 CD34 染色 他の免疫組織化学染色 :CD10(+) bcl-2(+) desmin(-) S-100(-) 横隔膜 SFT

消化器外科医が必要とする病理診断の情報 検査センターへの依頼でも入手できる情報 EMR( 内視鏡的粘膜切除術 ) や ESD( 内視鏡的粘膜下層剥離術 ) における根治度内視鏡摘除標本の水平断端や垂直断端における癌浸潤の有無 手術切除標本における組織型 深達度 脈管侵襲の程度 リンパ節転移の程度 胸水 腹水中の悪性腫瘍の有無 癌細胞表面の標的分子の有無や癌細胞内での遺伝子変異の有無 切除 ( 生検 ) 標本の免疫組織染色による確定診断 院内に病理医がいないと入手が難しい情報 術中の切離断端における癌浸潤の有無 術前に確定診断が得られていない場合の術中切除 ( または生検 ) 材料による良 悪性の迅速診断 術中腹腔内洗浄細胞診断の判定

症例 :52 歳 男性 Miles 手術切除標本 ( 直腸 肝 )

症例 :47 歳 男性上部直腸癌 大腸造影検査 低位前方切除術切除標本 大腸内視鏡検査 切除断端が陽性の時は 自動吻合器により切除されたリング内における癌の浸潤も迅速病理検査に提出して調べる

消化器外科医が必要とする病理診断の情報 検査センターへの依頼でも入手できる情報 EMR( 内視鏡的粘膜切除術 ) や ESD( 内視鏡的粘膜下層剥離術 ) における根治度内視鏡摘除標本の水平断端や垂直断端における癌浸潤の有無 手術切除標本における組織型 深達度 脈管侵襲の程度 リンパ節転移の程度 胸水 腹水中の悪性腫瘍の有無 癌細胞表面の標的分子の有無や癌細胞内での遺伝子変異の有無 切除 ( 生検 ) 標本の免疫組織染色による確定診断 院内に病理医がいないと入手が難しい情報 術中の切離断端における癌浸潤の有無 術前に確定診断が得られていない場合の術中切除 ( または生検 ) 材料による良 悪性の迅速診断 術中腹腔内洗浄細胞診断の判定

症例 : 54 歳 女性 主訴 : 便柱狭小化 現病歴 : 平成 10 年 5 月に前医でダグラス窩の腫瘤に対して単純子宮全摘 + 両側付属器切除が施行された 病理組織診断は平滑筋腫であった 平成 14 年 4 月に便柱狭小化に気づき 8 月前医より当院へ紹介された 骨盤内腫瘍の診断で 9 月 24 日 腹会陰式直腸切断術 膣および膀胱部分切除を施行された 病理組織検査で GIST と診断された 平成 17 年 4 月現在再発の徴候は認めていない

大腸内視鏡検査 MRI 直腸前壁の粘膜下腫瘍 注腸造影検査 多房性腫瘤 (T2W1 で内部が低信号 ) 切除標本 直腸前壁に隆起性病変 直腸前壁粘膜下に腫瘍は存在し 一部多結節の隆起を形成

症例 :54 歳 女性 病理組織学的検索所見 c-kit 染色陽性 HE 染色 : 紡錘形細胞が種々の方向に錯綜し 増生していた MIB-1 : 5% c-kit(+) vimentin(+) α-sma(-) により GIST と最終的に診断されたが 術中に確定できれば手術以外の治療の選択肢もあったかもしれない

消化器外科医が必要とする病理診断の情報 検査センターへの依頼でも入手できる情報 EMR( 内視鏡的粘膜切除術 ) や ESD( 内視鏡的粘膜下層剥離術 ) における根治度内視鏡摘除標本の水平断端や垂直断端における癌浸潤の有無 手術切除標本における組織型 深達度 脈管侵襲の程度 リンパ節転移の程度 胸水 腹水中の悪性腫瘍の有無 癌細胞表面の標的分子の有無や癌細胞内での遺伝子変異の有無 切除 ( 生検 ) 標本の免疫組織染色による確定診断 院内に病理医がいないと入手が難しい情報 術中の切離断端における癌浸潤の有無 術前に確定診断が得られていない場合の術中切除 ( または生検 ) 材料による良 悪性の迅速診断 術中腹腔内洗浄細胞診断の判定

術中の腹水細胞診の進行度決定における意義 胃癌の場合 : 腹膜転移ありと判断する (TNM 分類の M1 に相当 ) 肉眼的に腹膜転移はなしと判断しても腹水細胞診が陽性の場合は 手術終了直前に腹腔内を生理食塩水 10 L にて大量洗浄することで腹膜再発の予防が可能であるとする論文も報告されている 大腸癌の場合 : 腹水細胞診陽性の場合の予後への影響は現時点では不明であるため Stage の因子に加えない

まとめ 消化器外科領域において 外科的治療のみならず化学療法や分子標的治療などの治療方法を選択する際には 病理診断が極めて重要な役割を担っている そのため 消化器外科サイドからは過不足のない臨床情報提供を行い 病理診断の一助となるように努めるべきである 一方 病理診断サイドからは豊富な知識と経験から忌憚のないコメントを述べ 合致しない点がある場合には徹底的に討論を行って最終診断を下すことが 良質な消化器外科診療を実践するためのキーポイントである

終 ご清聴 ありがとうございました