講演 4 日本の対イラク復興支援と JICA の取り組み 独立行政法人国際協力機構中東 欧州部長山田順一氏 ご紹介にあずかりましたJICAの中東 欧州部長の山田です 本日はよろしくお願いします 時間も30 分と限られていますので かいつまんでご説明いたします 目次に沿って 現状 課題 対応 展望と意義 の流れでお話しますが 最初の 現状 は 前のセッションでもかなり詳しく話されましたので ここは割愛して 3ページ目の 課題 からご説明します まず 自立発展へのボトルネックということで書いてございますが イラクの場合 まだまだ膨大なインフラ需要があるということです これは 2003 年に戦争が終わってからも さほど復興が進んでいない現実があります マドリッド会合のときに アメリカも200 億ドルという高額の支援をコミットいたしましたが その効果も限定的です まだまだインフラの復興 それから開発の需要があるということです 具体的には 石油は2016 年に日量 600 万バレルという生産目標を立てていますが まだ現在 241 万バレルと 半分にも達しておりません それから 原油の輸出量は日量約 200 万バレルで 目標の450 万バレルには足りない 電力においても 9,400メガワットのところを5,000メガワットしか供給されていないということで 1 日のうちの半分がまだまだ停電をしているという状況です 上下水道においても 1 日のうち半分程度が断水になる都市もかなり多いということでして 前のセッションにもございますが 昨夏には電力とか水がないということで暴動まで起きたという深刻な状況です 自立発展の阻害要因としては ここにありますようなPolitical Risk Security Risk 加えてCommercial Riskという長い間の経済制裁に起因する 国際的な商習慣から隔離されてきたことによる弊害がございます それから 政府機能のCapacity 不足ということで 本来であればビジネスの第一線に立っているような30から40 代の方は いわゆる80 年代からのイラ イラ戦争 その後の湾岸戦争 それから今回の戦争等で 一般的なビジネスの経験を積まないままキャリアを経ています 実際我々もイラク側の実施機関といろいろとお話をいたしますけれども 第一線でお話ができるのは 50 代以上の70から80 年代にビジネスの第一線で活躍していた方となります それから あと若い方になるということで 中間層がかなり不足しているなというところが否めない事実です こうした背景を持ちまして 4ページ目ですけれども 2003 年 我が国はマドリッド会合
におきまして50 億ドルの資金供与を表明しています アメリカは200 億ドルの供与を約束しましたが うち真水で復興開発に使われたのは半分以下 ( 注 : 他は人件費等 ) だと言われています 片や日本の場合は 無償の15 億ドルはほぼ完了しています それから円借款 35 億ドルということで今やっていますけれども これまでに32.8 億ドル 15 件の借款契約を結んでいます 今後 ディスバースは本格化します いずれにしてもお伝えしたいのは 我が国の50 億ドルのほとんどが真水で復興開発資金としてイラク政府に行っている もしくは今後行くだろうということであります また JICAとJBICの一部が組織統合してから 私ども円借款とともに技術協力もやっています 技術協力では 2003 年以降 4,200 人以上のイラク人が 日本及びヨルダンやエジプトで開催した研修に参加しています 円借款の進捗状況としては 資料が鮮明ではないかもしれませんが 1と書いてあるのがコンサルタント サービスの契約でして 赤で囲ってあるものはすべて終わったということです それから 2が本体工事の入札公示ということで 赤の部分は既に手続きが開始されており 3は契約締結ということで 一番上の 港湾セクター復興事業 ですと 契約数 9のうち 3 つの契約が締結済です これはどういうかというと 9つのパッケージ 港湾セクターであれば 例えば浚渫を1パッケージ それから浚渫船の調達に1パッケージ 更にはクレーン等の機器 埠頭整備などの港湾施設整備も別パッケージにし 合計 9つの調達パッケージのうちの 3つが既に入札手続きを経て 本体契約に至っているということです 灌漑セクターローンにつきましては 6つのパッケージのうちの2つが本体契約締結済で 3 番目のアルムサイブ火力発電所についても現在本体契約の評価中です なお これはイラクで最大の火力発電所で 1 号基と3 号基のリハビリを行うものです 4 番目は自衛隊も活躍したサマーワで橋と道路をつくる事業ですけれども これは既にPQ を終わっておりまして 現在本体の入札評価中です それから バスラの製油所についてはE /Sというエンジニアリング サービスに対する借款でして いわゆる詳細設計と入札書類をつくるところまでが今回のファイナンス対象です その後 本体部分への借款もつけるということで これは後で申しますけれども 可及的速やかに本体の円借款をつけたいと考えています 6 番目がコール アルズベールの肥料工場 これも本体契約の評価中 7 番目が原油の輸出基地 これは円借款 501 億円を供与いたしまして 最大の円借款のうち -1-
の一つなのですが 後で説明いたしますけれども 現在 160 万バレル輸出しています これができれば もう1ライン160 万バレル輸出できるような 要するに輸出量が倍増する そうした事業でして PQの評価が終わりました 何社か合格しておりまして うち数社 日本業者も入っていますので 今後の入札の結果次第では 日本の企業の方のご活躍も期待できると考えています 8 番目が電力セクター これも本体契約 5 件のうち 1つは契約済で 先般 豊田通商 明電舎が80 億円の変圧器を受注したという新聞報道も出ております バスラの上水道整備については コンサルティング サービスの契約が締結され 現在展開中です それから10 番目がクルド地域向けの電力セクター復興事業ですけれども 本体契約 5つのうち4つが既に契約済です 11 番目は クルド地区の上水道で 現在 PQが行われています 12 番目がバグダッドの下水で E/Sということで コンサルティング サービスだけです これもバスラ製油所同様 なるべく早急に本体工事をつけたいと思っています 13 番目が中西部の上水道 14 番目がアル アッカーズ火力発電 これは中西部にある火力発電所の新設 それから 15 番目がデラロック これはクルド地区のドホーク県にある水力発電所の新設です ただ 最後の3 件は コンサルタント契約がほぼ結ばれるところまで選定手続きが進んでいますけれども イラクの国会が開かれていませんので 円借款契約が未発効という状況です 新政権の発足後 早急にコンサルタント契約が動き出すと考えています 次の資料が4,200 人の研修生 先ほど言いました一部日本 それから周辺国で行った研修の内訳です ヨルダン エジプト そうしたところで電力 農業 医療 それからガバナンス 上水道といった分野での各種研修を展開してきましたが 現在は円借款事業との相乗効果が見込まれる対象を中心に展開している状況です また ガバナンス分野に含まれる警察官や行政官など 必ずしも円借款事業と直接結びつかない分野も イラク側の要望を踏まえて人材育成をしっかりやっています 7 年で4,200 人ですから 年間 500 人以上私どもは呼んでおりまして うち200 人以上が日本に参ります 関係機関が来たときには 日本企業の方にご紹介をするというようなこともいたしています 日本人がイラクに行けない分 こういった機会が非常に重要な機会になると考えています また JICAでは実施促進のために エルビルに事務所を設けておりまして 日本人が現状 4 名行っています それからバクダッドには1 名 日本大使館に出ております 坂本参事官 -2-
( 会場にて紹介 ) が外務省に出向という形で 現地大使館にて活動しておりますので バグダッドにいらした際には ぜひコンタクトいただければと考えます それから レッドゾーンにJICAの現地職員の連絡事務所も維持しています 1つこの場で申し上げたいのは 来年度 治安状況が許せば バグダッドにJICAの事務所を正式に開設したいと思っています 2つ具体的な条件がありまして 一つは イラクの政府ができて JICAの法律的なステータスが確立できること 2 番目にバグダッドにおいてそれなりの安全なところに物件が確保できるということです ただし バクダッドに移設後もエルビルの拠点を引き揚げるとは考えておりません 駐在員を残し クルド地区に関係の企業の方にご迷惑はおかけしないようにしたいと思っています それから 事業サイトですけれども 訪問にも制約はありますが 09 年であれば3 回 10 年には2 回 バスラに行っています そのたびに 民間企業 コンサルタントの方にもお声がけして行っています それから 3 番目がキャパシティビルディングということでして 我々は事業をやっているだけじゃなくて learning by doingということで 事業の実施を通じて 入札手続きや支払い手続きを学ばせ イラクの人材育成を行っております また 日本の企業の方の受注機会にも繋がるよう 調査等を通じて様々な形でイラクとのかかわりを増やして頂けるような機会をご提供したいと思っています この関連で STEP (Special Term for Economic Partner) という日本企業タイドの円借款も供与できるようni 検討したいと思っています ただし 借款契約を結んだ15 件についてSTEPの事例は1 件もありません 日本企業からよくSTEPにしてくださいと言われるのですけれども 逆に私が聞きたいのは STEPにすれば本当に入っていただけるのですかということです それも 1 社だと競争条件が働きませんので 最低でも2 社以上応札をしていただいて 受注したら本当に日本人も含めて現地に入っていただけるということです それらが確保されれば 我々は積極的にSTEP 供与を検討したいと思っています 戻りまして いくつか事例をご紹介します 10ページ目ですけれども 原油の輸出基地の拡充事業は現在実施中で 入札が行われているところです 現在 原油 160 万バレル イラクの輸出総量の80% をここで賄っていますけれども もう1ライン海底パイプラインを引くという事業で それに500 億円の円借款を供与しています 今のところ 4 月あたりの契約を見込んでいます それから 石油の流出事故ですね メキシコ湾などで起きたことを繰り返さな -3-
いためにも そうした技術協力も一緒に行っています 13ページにありますように バスラの製油所にE/S 借款を供与しています 本体部分へのファイナンスも期待されていますので 速やかに進めたいと思っています また ベイジに製油所がございまして そこもイラク側から円借款でやってくれという期待が高いので ガソリンを精製するFCCプラントの設置に 円借款を供与すべく検討を開始しております 農業分野について触れます 治安と雇用の問題というのは裏表でして 昨年 11 月にJICA 理事長と共にイラクに行きまして マーリキ首相 それからクルドにおいてはバルザーニー大統領とお会いした際にも 両方の首脳の方から ぜひ農業分野の支援をお願いしたいとありました これは 国連の制裁 Oil for Food Programの前は クルドなんかいい例ですけれども かなり農業が盛んだったということです ただ Oil for Food Programで安い穀物が入ったことがあって 農地が使われなくなってもう10 年 20 年たっています これを復興させ 雇用の創出にも対応したいと思っています 円借款で灌漑 それから肥料工場をやっており 技術協力では専門家をクルドに送りました 今度は果樹の生産にも日本の専門家を送ろうと考えています 最後ですが 先ほどご説明いたしましたように 我々 民間資金の 呼び水 と円借款をとらえていますので ぜひ我々を利用していただいて民間の投資につなげたいと思っています 具体的にはPPPということで JICAでは民間連携室を立ち上げまして PPP 案件のF/ Sをつくるということもやっています それから まだ具体的にはわからないのですけれども 将来的には海外投融資というエクイティーファイナンスもできればと思っています 今のところ 日本政府と イラクへの円借款は 35 億ドルで止めるのでなく その後も需要があれば続けていくべき という議論をしています 私どもとしては 先ほど紹介した新規の需要がある限りは 日本政府と相談して円借款による支援を実施していきたいと思っています どうもありがとうございます ( 拍手 ) -4-