のペースで購入されることとなり ETFの買入れが始まった2010 年の時点と比較して約 2 倍のペース となった ( 図表 1) そして 2014 年 10 月に物価の下振れを背景に決定した追加金融緩和では 資産買 入れ額を拡大しETFの買入れペースは3 倍の年間約 3 兆円となり また 買入れ対象

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各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

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1. 30 第 2 運用環境 各市場の動き ( 7 月 ~ 9 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは上昇しました 7 月末の日銀金融政策決定会合のなかで 長期金利の変動幅を経済 物価情勢などに応じて上下にある程度変動するものとしたことが 金利の上昇要因となりました 一方で 当分の間 極めて低い長

1. ETF の概要 株価指数などに連動した運用成績を目指す 取引所に上場している投資信託 全世界の資産残高 全世界で約 356 兆円と急拡大 国内の ETF 市場 国内投資信託全体の約 15% を占める 1 米ドル =120 円にて算出 単位 :10 億米ドル 3,000 単位 : 兆円 単位 :

安を受けた企業業績の改善期待 3 株主還元やROE 重視などコーポレートガバナンス強化の取り組みへの期待などが挙げられる については グローバルな金融緩和環境を背景に株式市場への資金流入傾向は顕著となっており 特に最近は利上げを控える米国株に対して 大規模な量的緩和を進める欧州株や日本株のパフォーマ

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た 本稿では上述のような近年の政策を踏まえ 資金循環統計を用いて株式及び投資信託への資金流出入の動向や変化を概観し こうした国内マネーが今後リスク資産投資へ向かうのか 展望することとしたい 2. リスク資産への資金流出入動向 () 株式は国内部門の流出超 海外部門の流入超の傾向が継続 年 6 月 2

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< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

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実際 ドル円相場と日米金利差の推移をみると概ね相関していると言え その相関係数は振れを伴いながらもとりわけ高い相関を示している時期もあることが確認できる ( 前頁図表 1 2) 一方 最近みられる傾向として注目されるのがドル円相場と日本株の相関の高さである 2. ドル円相場と日本株の関係 (1) 高

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Transcription:

みずほインサイト マーケット 2016 年 10 月 25 日 日銀の ETF 大量購入への考察長期化により副作用が深刻化するリスクも 市場調査部主任エコノミスト大塚理恵子 03-3591-1420 rieko.otsuka@mizuho-ri.co.jp 日銀による ETF の大量購入は 需給を支えることで株式相場を安定化し 家計や企業の心理を支えたり 国内投資家を中心に日本株への投資選好を高めるメリットがある 一方 株式市場の価格形成や流動性 株主構成に与える影響 さらに日銀の純資産に与える影響等 懸念される点も多い 流動性の低下は 将来的な日銀の ETF 買入れへの限界も示唆する 日銀による ETF の大量購入のメリットとデメリットとどちらが大きいかを判断するのは時期尚早であるものの 金融緩和長期化とともに副作用の影響が深刻化するリスクは高まるだろう 1. はじめに日本銀行 ( 以下 日銀 ) が 2016 年 7 月末の金融政策決定会合においてETF( 指数連動型上場投資信託 ) の買入れペースを年間 6 兆円に倍増する追加緩和を決定してから 日本の株式相場はこう着感を強めている 7 月末以降 ドル円相場が 100 円台前半に急進する場面もあり 日本株への下押し圧力が強まったものの 日経平均株価は概ね 16,000 円台の狭いレンジで推移する等 従前のドル円相場から想定される株価に比べ下値の堅さが顕著である こうした日本の株式相場の状況を受け 需給がサポートされ株式市場が安定することを評価する声もある一方 市場参加者を中心に株式市場の価格形成や株主構成に歪みを与えるという指摘に加え 歪みが発生することに伴い長期投資を目的とした海外マネーの流出を懸念する向きも目立つ 本稿では 日銀によるETF 購入の概要及び動向を振り返るとともに株式市場に与える影響とその功罪について改めて整理したい 2. 日銀によるETF 購入の変遷日銀によるETFの買入れは ETFの他 国債やCP( コマーシャル ペーパー ) J-REIT( 不動産投資信託 ) 等の資産買入れの基金を創設した2010 年 10 月の金融緩和を契機に始まった ETFの当初の買入れ対象は日経平均株価とTOPIXに連動するもので 買入れ期間は約 1 年 限度額は0.45 兆円程度であった その後 東日本大震災や一段の景気後退 デフレへの対応として金融緩和策は強化され 基金のETFの買入れ期間は延長 限度額も徐々に引き上げられた 現総裁である黒田日銀総裁が就任し 量的 質的金融緩和 を導入した2013 年 4 月の直前には ETFの買入れについて 2013 年末を期限に2.1 兆円を限度額とするまでに拡大されていた 量的 質的金融緩和 では 短期金利からマネタリーベースに金融市場調節の操作目標が変更されるとともに 資産買入れの基金は廃止され 長期国債 ETFの保有額を2 年で2 倍に拡大することとなった ETFについては 年間約 1 兆円 1

のペースで購入されることとなり ETFの買入れが始まった2010 年の時点と比較して約 2 倍のペース となった ( 図表 1) そして 2014 年 10 月に物価の下振れを背景に決定した追加金融緩和では 資産買 入れ額を拡大しETFの買入れペースは3 倍の年間約 3 兆円となり また 買入れ対象にJPX 日経イ ンデックス400 1 に連動したものが加えられた 上述の2013 年 4 月の量的 質的金融緩和の導入及び2014 年 10 月の追加緩和の際には 前後に海外投資 家の日本株買いが強まり 急速な株高が進行した 金融緩和の強化に加え 安倍政権が成長戦略の一 環として推進した日本企業によるコーポレートガバナンス強化の動きも海外投資家から評価され 2014 年末から2015 年前半にかけて株価は上昇基調を強めた ところが 2015 年夏場以降に新興国を中 心とする海外経済の減速という外的要因に加え 回復がもたつく日本経済を受け 徐々に市場は日銀 に金融緩和を催促する様相を強めた 2015 年 12 月に日銀は金融緩和策を補完する措置の導入を決定し 企業向けの資金供給の拡充や新たなETF 買い入れ枠 0.3 兆円の設定を盛り込んだが 金融市場では失 望による株安を招いた 新たなETFの買入れ枠は 日銀が2000 年代前半に金融機関から取得した株 式の売却を2016 年 4 月より再開することに伴い 売却の影響を相殺する観点で設定され 買入れ対象と しては 設備 人材投資に積極的に取り組んでいる企業 の株式を対象とするETFとされた さらに2016 年 1 月には日銀の当座預金の一部にマイナス金利を適用する マイナス金利付き量的 質 的金融緩和 が導入されたが 前年 12 月の補完措置導入に続き 金融市場では株安の反応となった 金融機関の収益を圧迫するといった負の効果に注目が集まった上に 金融緩和策の限界性が意識され るようになったからである 一方 物価目標の達成が遠のく中でマイナス金利幅の拡大を含めた追加 緩和を期待する市場の様相は変わらず 2016 年 7 月のETFの買入れペースを倍増する等の金融緩和は 市場からの信任を繋ぎとめる苦渋の決断であったと言わざるを得ない こうして日銀によるETFの 買入れは年間約 6 兆円という大規模な金額に膨 れ上がった 直近の2016 年 9 月の日銀会合では 金融緩和策 図表 1 日銀のETF 保有残高と上限目安 ( 兆円 ) の効果に対する総括的検証を踏まえ 長短金利操作付き量的 質的金緩和 の導入が決定され 20.0 18.0 ETF 保有残高 ETF 保有残高上限目安 政策の操作変数が事実上 量 から 金利 に変更された ETFの買入れに関連する点とし 16.0 14.0 買入れペース約 2 倍の 6 兆円に ては TOPIXに連動するETFの買入れ比率を引設備投資 人材投資 12.0 積極企業支援枠 き上げる変更がされた 10.0 0.3 兆円設定 上述のような日銀によるETF 購入を巡る政買入れペース3 倍の 8.0 3 兆円に 策の変更を経て 日銀が保有するETFの金額 6.0 は 日銀の 営業毎旬報告 よると 2016 年 9 4.0 量的 質的金融緩和導入 月末時点で簿価ベースで 9.8 兆円に及ぶ 時価ベースで試算すると 11 兆円程度と推定され 2.0 0.0 東証 1 部上場企業の時価総額の 2.2% を占めて 11/1 12/1 13/1 14/1 15/1 16/1 17/1 ( 年 / 月 ) いる ( 注 ) 保有残高は 2016 年 9 月末時点 ( 資料 ) 日本銀行より みずほ総合研究所作成 2

3. 日銀によるETF 購入が与える株式市場への影響 (1) 需給への影響日銀による年間 6 兆円に及ぶETF 購入の影響として まずは年間 6 兆円の買入れが需給に与える影響を考察する 年ベースの日本株 ( 現物 ) の投資部門別の売買動向を見てみると 2015 年はTOPIXの騰落率が約 +10% であったが 最大の買い手は公的年金等による買入れを含む信託銀行で 買い越し金額は4.3 兆円であった ( 図表 2) 信託銀行に次ぐ買い手は 自社株買いを含む事業法人の3.7 兆円となっている 一方で売り圧力も強く 海外投資家が4.7 兆円 個人投資家が4.3 兆円を売り越しており この売りの大半を信託銀行と事業法人が相殺し さらに日銀がETFを3 兆円買い入れた 2016 年も日本株の需給構造は大きく変化しておらず 9 月末時点で信託銀行と事業法人が各々 3.5 兆円 1.8 兆円を買い越している一方で海外投資家が6.5 兆円を売り越している こうした金額を勘案すると 日銀の年間の買入れペース6 兆円は日本株の売り圧力への相応に大きな抵抗力であると評価できる 年間の買入れ金額に加え 1 日当たりの買入れの金額やタイミングも日本株の下値を支える効果に寄与している 日銀の買入れの動向については 金融政策の変更とともに変化してきた ( 図表 3) 2013 年 4 月の量的 質的金融緩和の導入後は 1 日当たりの平均買入れ金額はそれまでよりも減少したものの 買入れの頻度が多くなった その後 2014 年 10 月 2016 年 7 月の追加緩和を経て 買入れ頻度の増加は現時点では限定的である一方 1 日当たりの買入れ金額の増加が顕著である 量的 質的金融緩和導入直後の1 日当たりの平均買入れ金額から直近の買入れ金額は4 倍以上となり 700 億円を超えている 日々の株式相場への影響を抑制するために 1 日当たりの買入れ金額はある程度限定していると推察されるが 東証 1 部の売買代金 約 2 兆円の4% 程度を占める規模である 買入れのタイミングについては 前場の株式市場の動向を踏まえ 後場に買入れを行うケースが多いとされるが 買入れが実施された日の前場の日経平均株価の騰落率を見ると 総じて下落局面で買入れを行っていることが分かる ま 図表 2 日本株 ( 現物 ) の投資主体別売買動向 図表 3 日銀の ETF 買入れ動向 買い越し ( 千億円 ) 250 200 150 海外投資家信託銀行 ( 年金等 ) 投信個人事業法人 月間平均買入れ日数 ( 日 ) 1 日当たり平均買入れ金額 ( 億円 ) 買入れ日の前場平均騰落率 (%) 買入れ日の平均騰落率 (%) ETF 買入れ開始 (10/11) ~QQE 導入 (13/4) 2.4 229 1.7 1.8 100 50 QQE 導入 (13/4)~ 追加緩和 ETF 買入れ年間 3 兆円に (14/10) 6.0 157 1.1 1.2 売り越し 0 50 100 150 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 ( 注 ) 二市場一 二部合計 ( 資料 ) 東京証券取引所 ( 年 ) 追加緩和 (14/10)~ 追加緩和 ETF 買入れ年間 6 兆円に (16/7) 追加緩和 (16/7) ~16/9 末 ( 注 ) 日経平均株価の騰落率 ( 資料 ) 日銀 NEEDS-Financial QUEST より みずほ総合研究所作成 7.3 349 1.1 1.1 7.5 675 0.6 0.4 3

た 買入れ日の前場の平均騰落率のマイナス幅は縮小傾向にあり 買入れのハードルが下がっているように読み取れる さらに 買入れ日の引け後の騰落率を見ると 前場の騰落率から持ち直す傾向に転じており 株価の下支え効果は強力化している 2016 年 7 月末の追加緩和後の8 月から9 月末までに前場の日経平均株価の騰落率がマイナスであった営業日が22 営業日あったが そのうち16 営業日で買入れを行っている 前場に株価が下落したにも関らず 買入れが行われなかった6 営業日については うち5 営業日で引け後の下落率が拡大しており 日銀の買入れ動向次第で相場の方向感が決まってしまう様相となりつつある 日銀による買入れの金額や動向を踏まえると 今後も公的年金とともに日本株の需給を支え 特に下落局面での下値サポート効果が期待される 株価の安定化によって 家計や企業の心理的な支えとなることや国内投資家を中心に日本株への投資選好を高めることは一定のポジティブな影響と言えるだろう (2) 価格形成への影響日銀によるETFの大規模な買入れについては 上述のような需給サポートに伴うポジティブな影響がある一方で 市場参加者の一部からは問題点も多く指摘されている こうした指摘について 改めて整理するとともに検証していくこととしたい 一つ目の指摘は 価格形成を歪めるという点である こうした指摘がされる要因は2 点ある まずは 日銀が 売らない投資主体 であることだ 当然 長期的には金融緩和策が出口に向かっていく局面で徐々に保有している株式の売却を進めることが想定されるものの 日本経済の回復ペースの緩慢さに鑑みれば 金融緩和の長期化は不可避の状況である 通常の投資家であれば 業績が悪化すると予想されれば その企業の株式を売却する等の投資行動を取るが 日銀は買い入れた株式を長期間保有し続けるため 企業業績に対して割高な株価が維持され 株式市場の価格調整機能が低下する可能性がある 価格調整機能の低下が長期間に渡れば 将来的に日銀の政策転換等をきっかけとした株価の調整時に大幅に調整するリスクが懸念される 現時点でTOPIXの予想 PER(12か月先 ) は13 倍 ~14 倍台であり企業業績からかい離した株価ではないが 2016 年 7 月の追加緩和以降 上場企業の業績と相関の高いドル円相場とダウ平均株価から推計さ図表 4 日銀のETF 種類別買入れ額と比率れる株価と実際の株価はかい離が広がっている ドル円相場が100 円 ~105 円で ダウ平均株価が銘柄毎の時価総額に 18,000ドル程度であれば日経平均株価は15,000 変更後の買入れ比例した買入れ ( 兆円 / 年 ) ( 兆円 / 年 ) 円程度と推計され 現在の16,000~17,000 円の水準は 日銀の需給下支えの効果により 1,000~ TOPIX 連動型 2.4 42% 4.0 70% 2,000 円程度押し上げられ 既に価格調整機能は日経平均連動型 3.0 53% 1.6 28% 低下しつつあるとも捉えられる 次に価格形成を歪める要因として挙げられる JPX 日経 400 連動型 0.2 5% 0.1 2% のが 日銀のETFの買入れ方法である ただし 合計 5.7 5.7 この点については 2016 年 9 月の日銀会合において買入れ方法が変更されたため 懸念は後退して ( 資料 ) 日銀 Bloomberg より みずほ総合研究所作成 4

いる 変更前の日銀によるETFの買入れ方法は 買入れ対象であるETF(TOPIX 連動型 日経平均連動型 JPX 日経インデックス400 連動型 ) の銘柄毎の時価総額に概ね比例して買入れを行うとされていた ( 設備投資及び人材投資に積極的に取り組んでいる企業の支援枠 0.3 兆円は除く ) 連動する指数別のETFの時価総額を見てみると 9 月末時点でTOPIX 連動型が6.5 兆円 日経平均連動型が8.2 兆円 JPX 日経インデックス400が0.7 兆円となっており 比率としては各々 42% 53% 5% である この比率に沿って買入れが行われるとすると 年間 5.7 兆円の買入れのうち TOPIX 連動型が2.4 兆円 日経平均株価連動型が3.0 兆円 JPX 日経インデックス400 連動型が0.3 兆円となる ( 前頁図表 4) 日銀のこの買入れ比率により 2016 年 7 月末のETF 購入ペース倍増以降 日経平均株価のパフォーマンスがTOPIXを上回る傾向が強まり NT 倍率 ( 日経平均株価 /TOPIX) は上昇基調を強めた ( 図表 5) 特に日経平均構成銘柄の中でも寄与度の大きい 値がさ株 の上昇が顕著であった こうした株式市場の状況を受け 時価総額を基準としたTOPIXへの寄与度よりも 株価の絶対値を基準とした日経平均株価への寄与度が大きい銘柄の株価が上昇し易くなるという価格形成の歪みに対する指摘が相次ぎ 日銀は買入れの方法をTOPIXの比率を増やす方法に変更した 変更後は年間 5.7 兆円の買入れのうち 日経平均株価連動型の比率が28% まで低下し1.6 兆円に減額され TOPIX 連動型が70% を占める4 兆円に増額された 買入れ比率の変更により 日経平均株価への寄与度が大きい銘柄の株価が相対的に大きく上昇してしまう歪みは調整されることが期待できる (3) 流動性の低下と買入れの限界性日銀による大規模なETFの買入れに対して指摘される問題点の二つ目として 一部の浮動株の少ない銘柄や日銀の買入れ金額が大きい銘柄で流動性が低下するという点が挙げられる 日銀がETF の買い入れを始めた2010 年 11 月から2016 年 9 月まで ETFの銘柄毎の時価総額に比例して買入れが行われたということを前提にし 2016 年 9 月末時点の TOPIX 採用銘柄の日銀の保有残高 ( 時価ベース ) を試算すると 日銀の間接的な保有比率が高い銘柄では その比率が20% 程度に及んでいる また 10% を上回る銘柄は20 銘柄程度あると推計される こうした銘柄には 日経平均株価への寄与度の大きい銘柄が多く含まれ 従前の買入れ方法の影響で相対的に大きな金額が流入し 日銀の浮動株保有比率の上昇ペースが速かったと推測できる 上述の買入れ方法の変更により保有比率の上昇ペースは減速すると考えられるが 高い保有比率が維持されることは変わらない また 日銀の浮動株保有比率が高い銘柄の中には日経平均株価の採用銘柄ではないものの TOPIX 採用銘柄で浮動株比率の低い銘柄も含まれる 数は限定されるが これらの銘柄は今後日銀の保有比率の上昇ペースが加速 図表 5 NT 倍率の推移 ( 倍 ) 12.9 12.8 12.7 12.6 12.5 12.4 12.3 12.2 12.1 12.0 15/10 15/12 16/2 16/4 16/6 16/8 ( 年 / 月 ) ( 資料 ) 東京証券取引所より みずほ総合研究所作成 5

することとなり 流動性が低下すれば一部の投資家の売買で価格が大きく変動するリスクを孕む また 浮動株比率が低い銘柄については 日銀によるETFの買入れが長期化した場合 ETFを組成するために必要な株式が不足する事態も懸念される TOPIX 採用銘柄の2016 年 9 月末時点で発行されている浮動株 株価を前提とし 日銀が年間 6 兆円のETFを買い入れたとすると 約 3 年半後には日銀が全ての浮動株を保有し 買入れが困難となる銘柄が発生すると試算される ( 図表 6) 買入れが困難となる銘柄は 浮動株が極端に少ない限られた銘柄であり 仮にこうした状況が発生したとしても 相関性の高い銘柄で置き換える等の手法で技術的には解決が可能であるといった見解もあるものの 理論的には日銀の現在の買入れ手法で限界を迎えるということである 日銀は国債の買入れが限界に近づきつつある中 金融緩和策の長期戦に向け 2016 年 9 月に金融政策の操作変数を事実上量から金利に変更した 2 ETFの買入れについても 2020 年頃まで現在の政策が維持されるとすれば いずれ一部で限界性が意識される局面を迎える可能性があると言えるだろう (4) 株主構成に与える影響指摘される三つ目の問題として 日銀のETFを通した株式保有比率が高い企業が増加し 株主構成が偏るとともに企業のコーポレートガバナンス機能が低下するのではないか という懸念がある 実際に 日銀が民進党議員に提出したとされる資料においても 3 2016 年 3 月末時点で日経平均採用銘柄のうち 日銀の間接的な株式保有比率が10% 以上の銘柄が25 銘柄あり 5% 以上 10% 未満の銘柄も64 銘柄あるとされており 今後 年間 6 兆円のペースでETFの買入れを続ければ日銀が間接的な主要株主となる銘柄は増加していくと想定される こうした事態が企業のコーポレートガバナンスに与える影響を考察してみる 日銀の 指数連動型上場投資信託受益権等買入等図表 6 日銀が全浮動株を買い入れると試算基本要領 によれば 日銀は信託銀行を受託者としされる期間別の銘柄数分布 (TOPIX 採用銘柄 ) 金銭の信託を行い 信託財産としてETFを買い入れると定められている ETFの仕組み上 日銀が ( 銘柄数 ) ETFを購入する際には 証券会社等が株式の購入 25 を行い株式を運用会社に拠出 運用会社が信託銀行 20 に株式を信託している可能性が高い ETFの仕組みを勘案すると 株主が有する議決権については 15 運用会社の指図に基づいて信託銀行が行使すると考えられる コーポレートガバナンス強化の中で 10 機関投資家が対話を通じて中長期的な企業の成長を促す等 受託者責任を果たすための諸原則である 5 スチュワードシップ コードが策定されたが 多く 0 の主要な運用会社や信託銀行がスチュワードシップ コードの受け入れを表明している スチュワードシップ コードには 議決権の行使や行使結果の公表について明確な方針を持つことも含まれてお ( 注 ) 現在の買入方法で年間 6 兆円のペースで買入れた場合に 日銀が全ての浮動株を買い入れると試算されるまでの期間 ( 資料 ) 日銀 Bloomberg より みずほ総合研究所作成 6

り 日銀が間接的な主要株主となる企業が増加することによって 必ずしも企業のコーポレートガバナンス機能が低下するとは言い切れないだろう 一方 日銀は間接的な株主で信託銀行が実際の株主であるにしろ 株主の偏りが進むことは事実であり 議決権の行使を含めた企業と株主の対話に歪みが生じる問題点は残存する また 年間 6 兆円のペースでETFを買い入れていけば 日銀は間接的とは言え 2018 年末には30 兆円弱の日本株の保有主体となり その規模はGPIF( 年金積立金管理運用独立行政法人 ) に匹敵する 最大規模の日本株保有主体がコーポレートガバナンスに関する明確な指針を持たなければ 運用会社や信託銀行が効果的且つ円滑に企業と対話を行う妨げとなる可能性も否定できない (5) 日銀のバランスシートに与える影響日銀による大規模なETFの買入れに対して指摘される四つ目の問題点として 日銀のバランスシート ( 以下 BS) への影響が挙げられる 日銀は 会計規定により 上半期及び下半期にBSに加えて損益計算書 ( 以下 PL) 等を作成している 保有するETFについては 移動平均法による原価法に基づき評価され BSに計上されることとなっている 期末日の市場価格に基づく時価と帳簿価格の差額については 時価が帳簿価格を下回った場合に取引損失引当金を特別損失としてPLに計上するよう定められている 時価が上回る場合には 運用益としては計上せず 分配金による運用損益のみを経常収益としてPLに計上している 2016 年 3 月期の日銀の決算によれば ETFの簿価は約 7.6 兆円である一方 時価は8.8 兆円と時価が約 1.2 兆円程度上回っている しかし 2015 年 3 月期には 評価益が2.4 兆円程度あったことに鑑みると 2015 年度後半の金融市場の混乱に伴う株安により 評価益が縮小したことがうかがえる 2016 年 9 月末時点の 営業毎旬報告 によれば 保有するETFの簿価は約 9.8 兆円であるが 時価は約 11 兆円と試算され 2016 年 3 月末から評価益はほぼ変化していないと見られる 日銀がETF 図表 7 日銀が引当金を計上するの買入れペースを倍増した2016 年 7 月末以降 日日経平均株価の水準試算 経平均株価は概ね16,000 円台で上下し狭いレンジで推移しているが 先行きについては 期末日の株価によって取引損失引当金を計上しなければならない状況に陥る可能性もある 2016 年 9 月末の株価水準 ( 日経平均株価の終値 :16,450 円 ) で今後毎年 6 兆円のETFを買い入れるという単純な前提の下 引当金の計上が不可避となる期末の日経平均株価の水準を試算したところ 2017 年 3 月末時点では2016 年 9 月末の株価水準から約 9% 下落すると ( 日経平均株価 :15,000 円 ) 引当金の計上が避けられない試算となった ( 図表 7) 仮に下落率を20% とすると ( 日経平均株価 :13,200 円 ) 引当金は1 兆円超に及ぶと試算 (%) ( 円 ) 0.0 16,000 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 下落率 (2016 年 9 月末比 ) 日経平均株価 ( 右目盛 ) 17/3 17/9 18/3 18/9 19/3 19/9 20/3 20/9 21/3 ( 注 )2016 年 9 月末の株価水準で年間 6 兆円のペースで買入れた場合 ( 資料 ) 日銀 Bloomberg より みずほ総合研究所作成 15,500 15,000 14,500 14,000 ( 年 / 月 ) 7

される 日銀がETFを多額に買い入れていることから実際に株価がこうした水準まで急落する展開は見込みづらいものの 外的要因等により売り圧力が急激に強まる場合もないとは言えない 1 兆円という金額は 日銀の純資産が4 兆円 (2016 年 3 月期 ) であることに鑑みると 大きな影響を及ぼす金額であるだろう また 日銀の簿価が移動平均法による原価法に基づくことから 2016 年 9 月末の株価水準で購入を続けるという前提の下の試算では 簿価となる原価が上昇していき 引当金を計上しなければならない株価水準も徐々に高くなる点にも留意が必要である 3. おわりに 上述にて日銀によるETF 購入が株式市場に与える影響について検証してきた 株式相場を安定化し 家計や企業を心理的に支えるとともに国内投資家を中心に日本株へのリスク選好を高めるといったメリットも挙げられるものの 副作用としての諸点も多い ( 図表 8) ETFの買入れペースを倍増させた 2016 年 7 月末以降も 海外投資家は 8 月 9 月で日本株を約 2 兆円売り越しており 日銀の政策に対する評価は高まっていないようだ 寧ろ 価格調整機能の低下が長期化することに伴う将来的な価格変動リスクの高まりといった副作用への懸念から中長期的な投資マネーが逃避しているとも指摘される また 株価がこう着感を強める中 東証 1 部市場の売買代金は低迷し相場全体のエネルギーの乏しさも顕著となっており 海外投資家に限らず日本の株式市場の閉塞感は国内投資家にも影を落としている 物価の低迷を受け 日銀図表 8 日銀によるETF 買入れのメリットによる金融緩和は長期戦の様相を強めていと懸念されるデメリットの整理る ETFの大規模な買入れに伴う副作用メリットは 緩和策長期化とともにその影響が深刻 ( 需給をサポートし 株式相場を安定化することで ) 化するリスクは高くなる また 買入れの 家計や企業を心理的に支える限界性が意識される事態も想定される 現 国内投資家を中心に日本株へのリスク選好を高める段階でメリットとデメリットのどちらが経デメリット済及び金融市場に対する影響として大きい (ETFの大量購入が長期化すれば) かどうかを判断するのは時期尚早であるが 価格調整機能の低下に伴い 大幅な価格変動リスクが高まる日銀が国債買入れと同様にETF 買入れに 買入れ対象の一部の銘柄で流動性が低下し価格変動リスクが高まる ( 流動性の低下は日銀の買入れの限界に ) ついても何れ買入れのペースを見直さざる 株主構成に歪みが生じ 企業と株主との対話に支障を来す懸念があるを得ないタイミングが訪れる可能性も否定できないだろう 株価下落に伴い日銀 BS 上に引当金を計上し 純資産が毀損する懸念がある ( 資料 ) みずほ総合研究所作成 1 資本の効率的活用や投資家を意識した経営観点など グローバルな投資基準に求められる諸要件を満たした銘柄 400 銘柄で構成され 日本取引所グループ / 東京証券取引所及び日本経済新聞社が 2014 年 1 月より算出を開始した指数 2 野口雄裕 (2016) 緩和長期化に踏み込む日銀 ~ 物価目標達成への道筋は依然不透明 ( みずほ総合研究所 みずほインンサイト 2016 年 9 月 23 日 ) 3 日本経済新聞社 2016 年 8 月 4 日 5 月下旬に民進党の大久保勉参院議員 ( 当時 ) が日銀から情報提供を受けて参院財政金融委員会に提出した資料 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 商品の勧誘を目的としたものではありません 本資料は 当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが その正確性 確実性を保証するものではありません また 本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります 8