千葉医学 71 :261 268,1995 261 総説 尿道下裂の手術術式 伊藤晴夫 (1995 年 5 月 22 日受理 ) 要 旨 尿道下裂はその程度が軽度のものから高度のものまであり, また, 索の程度, 亀頭の形, 皮膚 の厚さなど千差万別である 本症に対しては数多くの手術術式が発表されている 最近では一期 的に手術することが薦められるようになっ てきた そこで, 本稿では, まず, 尿道下裂の程度と 術式の選択について著者の考えを示した すなわち, 外尿道口が glanular の場合には MAGPI ; coronal あるいは subcoronal の場合には Mathieu ; distalshaft,proximal 8haft あるいは penoscrotal の場合には parameatal foreskin flap 法 ;scrota1, perineal あるい は penoscrotal で陰茎の湾曲が高度なものは二期的手術である つ づい て, 著者の考案 した尿道板を広範に剥離 温存して, その上に parameatal foreskinflap を onlay する parameatal foreskin flap 法の変法につ い て述べ た Key words : hypospadia,surgery,urethral plate, modified parameatal foreskin flap method は じめに るのは大変であるので, 一応の目安として, 下裂の程度 と術式についての私見を述べる まず, 外尿道口が 抗生物質の発達, 細い吸収性の縫合糸 反応の少ないカテーテル類の出現, さらには麻酔の進歩により尿道下裂の手術成績は向上した しかし, 現在でも, 尿道下裂の手術は泌尿器科医, 小児外科医, あるいは形成外科医 にとって最も難しいものの一つである 1,2 本症に対する手術法は, 最近, 著しく進歩したが, 現在でも数多 くの術式が用いられてい る 3 これは決定的な方法が 無いことを示していよう 全ての術式に習熟することは 不可能であり, また, その必要もない 私は以前より報 告された種々な術式を追試し, また自身でも新しい方法 を考案してきた 4 6 そこで尿道下裂の程度に応じた, 現時点における, もっと も良い と考えられる手術術式に つい て述べ てみたい 術式の選択 尿道下裂は軽度のものから高度の ものまであり, また, 個々の例では索の程度以外にも亀頭の形や皮膚の厚さな ど様々である したがっ て, その症例に最も適した手術 法を選択するべ きである. しかし, 症例毎に術式を考え glanular にある場合には MAGPI 法 7 が良い 外 尿道口が coronal あるいは subcoronal の場合でも MAGPI 法が良いとする報告もあるが, 自然な亀頭の 形を得るためには適していないと思われる 上記の二者 に対しては Mathieu 法 8 が良いであろう 本法は以 前の手術がうまく行かなかっ た場合の二次手術法として も特に優れている 9,10 それより近位のものに対して は parameatal foreskin flap 法 11,12 が, 術式も 比較的単純であり, 行いやすい 外尿道口が scrotal や perineal のように近位のもの あるいは penoscrotal で索が著明な場合などの高度な症例には二期的な方法が 良いであろう 13,14 以下にこれらの術式について述べるとともに, 尿道板の広範な剥離 温存による para meatal foreskinflap 法の変法を考案したので呈示 する これは尿道板を切断することなく, 索切除のため に尿道板および尿道を広範に剥離し, 亀頭部の巾の狭い 尿道板のうえには片側の parameatal foreskinflap を onlay するものである なお,10 万倍希釈のアドレ ナリン溶液 (0.5% キシロカイン E ) をツベルクリン針 帝京大学医学部附属市原病院泌尿器科 Haruo ITO : Surgical Treatment of Hypospadias. Department of Uro 工 ogy,teikyo UniversitySchool of Medicine,Ichihara Hospital, Ichihara 299 01. Accepted May 22,1995.
262 伊藤晴夫 で包皮, 陰茎, 亀頭に注射する止血法は後に述べ る人工 勃起による索切除の確認法 15 とともに, 尿道下裂手術 における画期的な補助的手段である 外尿道口が glanular にある場合 外尿道口が glanular にある場合には MAGPI 法 (meatal advancement and glanuloplasty incor porated ) が良い 7 本法は外尿道口が glanular の みでなく coronal,subcoronal, さらにはより近位の ものにも適応があるとも言われるが,coronal 以外で は cosmetic に満足の得られる結果は得にくいと思われる 16 また, 外尿道口が横に広い, いわゆる fish mouth のものでは外尿道口がさらに広くなってしまう ので適応とならない MAGPI ける 法の術式は, まず, 亀頭先端に支持糸をか 背側にかけると瘢痕となる 外尿道口の背側より 亀頭部の溝の先端まで縦に深く切開する これを横に 6 0 マキソン糸で 4 5 針縫合する これにより, 外尿道口の 狭窄があっ た場合には矯正され, また, 外尿道口は亀頭 先端へ前進する つぎに, 環状溝より 6mm 近位で陰 茎皮膚に全周にわたる切開を加える. この位置では皮膚 と尿道とを剥離するのが困難であるので, 尿道の両側方 より近位へ向かって剥離を進め, 最後に末梢の尿道上の 皮膚を剥離する つづいて皮下組織と Buck s faseia の問で, 陰茎と皮膚の剥離を行う 尿道直下の皮膚の皮 下組織を細い有鈎摂子でつまみ, 引き上げ,6 0 マキソ ン糸で皮下組織を合わせる この部の皮膚を 6 0 マ キソ ン糸で 4 5 針, 結節縫合する 陰茎腹側の皮膚の余裕が あれば, 陰茎背面の包皮を切除した後, 皮膚を再縫合す る 陰茎腹側の皮膚が足らない場合や,skin chordee があっ た場合には Byar 法により, 陰茎背面の包皮を 陰茎腹面に移動させる 置の必要がない ( 図 1 ) 本法ではカテーテル留 本法の改良法として Arap 17 あるいは Ozen 18 の 方法もあるがあまり変わりはないであろう また, 術直 後の形態より長期間後には外尿道口が後退するといわれ る 16 これは coronal あるいは subcoronal の症 例に無理して行った場合と思われる 場合 外尿道ロが corona1 あるいは subcoronal にある Mathieu 法 8 は現在でも頻繁に用いられている術 式である この場合ステン ト留置は不要との論文も多い が 19,20, 私はやはり留置するほうが良い と考えてい る 本法の術式は, 外尿道口より近位に向かって, 外尿 道口より亀頭先端までと同じ長さより少し長くなるよう に 10mm 幅の皮膚切開を加える 亀頭中央帯の切開幅 は 6mm とする ( 図 2) この方法で注意すべき点が 3 つ ある, それは, ].flap は皮下組織および血管をつ けて厚くする 2. 外尿道口の近くは皮膚が薄いので, その近くまでは剥離しない 3. 亀頭の溝の両側の切開を深くし, 陰茎海綿体と亀頭組織との間を充分剥離することである 通常は必要ないが, 万全を期す場合, 包皮部の皮下組織で新尿道を被う ( 図 2 の 3 5} また, 亀 頭の溝がない場合には, いわゆる urethral plate の中央に切開を加えると, 外尿道口の形が垂直になる 21 flap を翻転して urethral plate 上に 6 0 マキソン糸 で上皮まで出さないように連続縫合する 亀頭皮下組織 を6 O マ キソン糸で, 亀頭皮膚を同じく6 0 マ キソン糸で 閉じる この時,9 0 ブジーを新尿道に通しておき, 締 めすぎない ように注意する つ い で, 陰茎背面の皮膚を 陰茎腹面に移動させる 術後のバルーンカテーテル留置 は浮腫が消えるまで行う 通常は2 5 日である 外尿道口が distal shaft,proximal shaft あるい は penoscrotal にある場合 Parameatal foreskinflap 法 11, 12 は多くの type に分けられており, あらゆる程度の症例にも対応可能で ある 本法は Duckett の transverse preputial island flap 法 22 などに比べるとイメージしやすい しかし, 軽度のものには Mathieu 法が, よりイメージしやす く作図も容易である また, 特に高度の ものには二期的 方法のほうが安全であろうe この両者を除いても, 本法 の応用範囲は広く, 有用である この方法は多くの type に分けられてい るが, その典型的なものでは下方 は外尿道口から上方は包皮背側中央部におよぶ作図をま ず行う ( 図 3) 尿道板と皮膚弁よりなるY 字状の皮膚弁 より尿道を作る すなわち, 尿道板をまず管状に縫合し, つ ぎに皮膚弁の背側と腹側を縫合して尿道を作る 亀頭 腹側正中を深く切開し, 新尿道を左右から覆う 索切除 の必要が無く, 尿道板を温存出来る場合には片側の皮膚 弁を onlay して尿道を作る イメージしやすい 方法で ある 外尿道ロが scrota1 あるいは perinea 且にあるか, penoscrotal で陰茎の湾曲の高度な場合 最近では尿道下裂の手術は一期的に行われる傾向となっ てきた 23 下裂の程度が高度の症例に対しても一期的 手術が可能とされる 12 しか し, 二期的な方法には長 期間の経験の蓄積があり, 合併症を引き起こす頻度も比 較的少ない したがって, 最近でも下裂の程度の高度な もの に対しては二期的に手術を行うことを奨める報告は
尿道下裂の 手術術式 263 3 li l 矯誹 謄へ ノ 6 1 [ 図 1. 多い 13,14 ただし, この方法の欠点は手術が 2 回に なることの他に, 尿道口を glans の先端に持って行くことが難しいことである これを克服する方法には幾つかのものがある その主なものは生駒法, 伊藤法, Retik 法である 生駒法 24 ( 図 4) は索切除の際に余剰の包皮を用いて亀頭部のみに部分的尿道を形成しておき, 二次手術の際にこの亀頭部尿道と尿道口部との間の尿道欠損に対して陰茎腹面の皮膚を用いて尿道を形成する 伊藤法 5 ( 図 5) は Fuqua 法 25 の変法であるが, 一次手術の際に陰茎腹側の皮膚はなるべく余るよ うにする すなわち, 陰茎のたて方向にも余るようにし, 二次手術時に皮膚管先端部を遊離し, 亀頭を貫通させてその先端に縫合する Retik 法 14 ( 図 6) は一次手術で Byar 法で陰茎背側の皮膚を腹側に移す前に, 亀頭の腹側中央を亀頭先端まで深く切開して左右に開き, ここに背側包皮の末端部を亀頭先端まで回転させて縫合する 二次手術は Duplay 法で尿道を作成するが, 亀頭の腹側の巾が広くなっているので尿道の先端を容易に亀頭の先端に位置させることが出来る 現時点で判断すると,Retik 法がもっとも単純で容易であり, 推奨で
264 伊藤晴夫 2 4 5 図 2, きると思われる 尿道板の広範な剥離による parameatal foreskin flap 変法の考案 これまでの経験より尿道板の上に皮膚の flap を被 せる, いわゆる onlay 法は皮膚で tube を作成する皮膚管法に比べ合併症を少なくすることが出来ることが判明した 多くの例で skinlysis により索変形を矯正することが出来る 26,27 しかも, 索を切除するために, 尿道板を広範に剥離してもその viability を保つこと が出来る さらに, 尿道板につづく近位の尿道を剥離しても障害は無いことを経験した ただし, 広範に剥離した尿道板を管状にして亀頭先端部まで尿道を形成すると. 亀頭が小さくなってしまう欠点がある 尿道板の中央部に縦の深い切開を加えると細い尿道板からでも皮膚管を 作ることは可能であるが 28, 限界がある そこで, 小柳法のうちでも flap で管状の尿道を作成するよりも, 尿道板を温存できれば, 片側のみの flap で onlay 法 が出来るので合併症が少なくなるであろうと考えた この手術法は, まず, 尿道板を切断せずに剥離し, 尿道板
Chiba Chlba University UnlverSlty 尿道下裂の手術術式 265 1 2 3 4 拶 5 図 3. ゆ a ) 一次手術 ゆ 畔 b ) 二次手術 図 4. NII-Electronic N 工工一 Eleotronlo Llbrary Library
Chiba Chlba University UnlverSlty 266 伊 藤 晴 夫 uttonhole 中 a ) 一次手術 融一 り b ) 二次手術 9 日 謡一 図 5 訴 ( 云 慰 串 講篷難 a ) 一次手術 鑞 撫 十 ー黛翁話 b ) 二次 図 6 NII-Electronic N 工工一 Eleotronlo Llbrary Library
尿道下裂の手術術式 267 図 7. とそれにつづく近位の尿道の背側で索切除を行い, 陰茎の屈曲を矯正する この術式について図示した ( 図 7) すなわち,artificial erection を行って, 索切除後に陰茎が真っ直ぐになったのを確かめる 尿道板の亀頭部 本論文の要旨は第 16 回泌尿器科手術手技関東地区研究会 ( 平成 7 年 1 月 28 日 ) において発表した 文献 分は狭く,shaft 部分の尿道口までは広く切開を加える 片側 ( 左側 ) の parameatal foreskinflap を作り, これで亀頭部の狭い尿道板のうえに onlay する 尿道 板と近位尿道を剥離しても陰茎の屈曲が矯正出来ない場 合には上に述べ り外尿道口が distalshaft た小柳法に戻ることが出来る 本法によ から penoscrotal までの 症例 6 例で functional にも cosmetic にも満足すべ き結果が得られた このように, 尿道下裂の症例のうち に占める本法が適応となる症例の割合はかなり多い と推測される まと め もの 尿道下裂の手術は個々の症例に適した術式により行う べきであるが, 本症の程度により一応の術式を決めるこ とが出来る 尿道下裂の程度別に薦められる手術術式について述べ, さらに著者の考案した尿道板を広範に剥離 温存する parameatal foreskinflap 法の変法につい て記した 1)Secrest CL, Jordan GH, Winslow BH, Horton CE,McCraw JB,Gilbert DA and Devine CJ Jr. : Repair of the complications of hypospadias surgery.j Urol l50 :1415 1418, 1993. 2)Retik AB, Keating M and Mandel1 J : Complications of hypospadias repair.uroi CIin N Am 15 :223 236,1988. 3)Dindar H,Cakmak M, Yucesan S and Barlas M : Distal penile hypospadias repair in children,with complete mobiliza tion of pendulous urethra and triangular glandular flap.br J Urol 75 : 94 95, 1995. 4 ) 伊藤晴夫, 村上光右, 宮内大成, 川村健二, 布施秀樹, 山口邦雄, 片海善吾, 島崎淳 : 尿道下裂の手術 成績一最近試みた改良法について一. 西日泌尿 45 : 555 558,1983. 5) 伊藤晴夫 : 尿道下裂の手術成績 日泌尿会誌 81 : 1807 1810, 1990. 6) 伊藤晴夫 : Distal type の手術. 泌尿器外科 4 : 11 18,1991. 7)Duckett JW and Snyder HM III: The MAGPI hypospadias repair in llll patients.
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