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NEWS LETTER 第 5 号 2013 年 5 月 25 日 缶チューハイの国際化 缶チューハイ誕生から 30 年 海外へ飛び出て市場をつくる日 日本を初めて訪れた外国人は 町じゅうに並ぶ自販機とコンビニに驚くのだとか 酒がどこでも買えることや 酒売場に入れば色とりどりの缶チューハイがたくさん並んでいて しかも安価なことにも驚くといいます 焼酎をソーダ類で割るチューハイが缶入り商品となって誕生したのは 1984 年 それから 30 年しか経っていませんが すでに酒類消費量の 1 割弱を占めています 飲酒年齢に達した時には すでに缶チューハイがあった 30 代以下の若い世代からの支持が厚く チューハイしか飲まないという方も珍しくありません この缶チューハイ 歴史は新しいものの 清酒や本格焼酎と同様に日本で生まれ育った固有の酒です 海外を見ても ここまでプレミックスカクテルが普及している例はありません 今回はこの新しい酒の誕生からの足跡をたどり 広く愛飲されるようになった理由と将来性を考えてみます お問い合わせ 本資料に関するお問い合わせは下記まで 101-0032 東京都千代田区岩本町 3-3-14CM ビル株式会社酒文化研究所 ( 代表狩野卓也 )http://www.sakebunka.co.jp/ TEL03-3865-3010 FAX03-3865-3015 担当 : 山田聡昭 ( やまだとしあき ) E メール :yamada@sakebunka.co.jp

1 消費量シェアは 1 割目前いま缶チューハイ ( 缶入りのチューハイやカクテルなど含む ) は約 70 万 KL 消費されており (2010 年 ) ビール類に次いで多く飲まれているカテゴリーとなっています 清酒やワインはもちろん 焼酎も甲類と乙類を別に数えると缶チューハイに及びません 缶チューハイはこの 10 年間で爆発的に増えました 90 年代までは 10 万 KL 前後で推移していたのですが 2000 年ごろから急拡大しました 酒類の消費量が減少に転じたにもかかわらず 唯一 前年を下回ることなく市場を拡大しています すでに消費量に占める割合は 8% あり 近い将来 1 割を超えると予想されています ( 図表 1 図表 2) さらに 最近 1 カ月間に自分で選択 購入したお酒は? という質問では 缶チューハイが 47% にのぼり 第三のビールを上回りました (2012 年サントリー調べ ) ちなみに缶チューハイは大半が家庭消費です 料飲店で飲まれるチューハイは焼酎など他の酒としてカウントされています それを加味すると 今 日本でビールに次いでたくさん飲まれている酒はチューハイだと断言できます 図表 1 缶チューハイ市場規模の推移 (KL) 800,000 700,000 600,000 500,000 400,000 300,000 200,000 100,000 0 80 年 85 年 90 年 95 年 00 年 05 年 10 年 出所 : 酒文化研究所が推計 図表 2 缶チューハイの消費量構成比の推移 清酒焼酎 ビール類 その他 80 年 85 年 21.8 0.0 18.3 3.7 8.4 66.9 65.6 7.6 6.7 0.9 90 年 95 年 00 年 15.7 6.6 1.0 13.7 6.9 1.6 10.47.5 3.4 71.6 72.9 73.4 5.2 4.9 5.4 05 年 7.910.5 70.0 5.4 6.1 缶チューハイ 10 年 8.07.110.7 68.3 5.9 0% 50% 100% 出所 : 酒文化研究所が推計 2 1980 年代は酒類消費の変わり目日本に缶チューハイが誕生したのはちょうど 30 年前です 1980 年頃から大衆居酒屋でブーム化していたチューハイを 缶入り製品に仕上げて 宝酒造が タカラ CAN チューハイ を発売したのが嚆矢です (1984 年 ) この商品は大ヒットし 蒸溜酒メーカーがこぞって参入 新市場を形成しました この時の商品はアルコール度数 7~8% で レモンやグレープフルーツなど柑橘系のフレーバーがラインナップされました 当時 それまで順調に成長してきたビールとウイスキーは 増税が相次いだ影響もあって

消費に陰りが出ていました ビール ( 大瓶 ) の価格は 75 年の 180 円から 81 年には 256 円に ウイスキーは 76 年に 2200 円だった サントリーオールド は 84 年に 3170 円と 数年間で約 1.5 倍に跳ね上がっていました 消費の気分も変わりつつありました 時代は 重厚長大産業から軽薄短小に変わった と言われ 人々の上昇志向も薄れてきていました ビールが飲める豊かさ いつかはオールド という欲求は以前ほど消費者を引き付けません 清酒はそれより早く 1973 年をピークに下降線をたどり始めていました こんな時代に人々が関心を向けた酒はステイタスとは無縁だった焼酎であり フラットなバラエティをもった缶チューハイでした 3 次々に登場する新カテゴリー缶チューハイはその後 独自に発展していきます 新しいカテゴリーを付加しつつ市場を拡大していったのです まず 89 年にメルシャンが発売した オリジナルピーチツリーフィズ がヒットして 甘系チューハイ市場が加わります アルコール度数は 缶チューハイのスタンダードであった タカラ CAN チューハイ の半分の 4% ドライな柑橘系フレーバーではなく 桃やリンゴなどの甘いフルーツフレーバーです 続く変化は 低価格志向を受けたスタンダード価格の引き下げでした 1999 年にサントリーは タカラ CAN チューハイ より 3 割ほど割安な スーパーチューハイ を投入します クオリティが高く安価なこの商品は 缶チューハイの新しいスタンダードとなり 既存商品はニッチポジションに押し込められることとなります この頃 ビールメーカーは相次いで総合酒類メーカー化に舵を切り始めます 縮小する国内市場での生き残りをかけて 焼酎 ワイン 缶チューハイの市場に本格参入していきました ビールメーカーの力はすさまじく 5 年間で 缶チューハイの消費量は 5 倍近くに拡大します リードしたのは キリンチューハイ氷結 です アルコール度数 6% と少し低く 従来商品のコアユーザーとターゲットを異にしていました 特徴的なパッケージとフレッシュな果汁感のある味わい 価格は引き下げられた新スタンダードゾーン この商品は脱 既存缶チューハイ としてデビューし 幅広いユーザーを取り込むことに成功したのでした チューハイ前史戦後 東京の下町の大衆酒場で焼酎に独自のエキスを加え風味をつける飲み方が生まれます 一方 1955 年 ( 昭和 30 年 ) ごろウイスキーをソーダで割った ハイボール が流行すると ベースの酒を焼酎に置き換えた 焼酎ハイボール も自然発生的に飲まれるようになり 焼酎にエキス分を加えてソーダで割るスタイルも出てきます これらが チューハイ と総称されて全国各地の酒場で広がっていったと考えられています 下町の大衆酒場では 今も店独自のチューハイが健在

チューハイのこの急成長は 脱焼酎 と見ることもできます キリンチューハイ氷結 や サントリーチューハイ-196 のヒット商品の多くはベースの酒に焼酎ではなくウォッカを使用しています チューハイは焼酎から離れることでユーザーを拡大し 新たな成長ステージづくりに成功 チューハイ は同種のミックスドリンクの総称となったのです 真っ先に受け入れたのは 30 代以下の若い世代でした チューハイや梅酒のような甘いお酒を好む彼らの登場は その後の酒類市場に大きな影響を与え続けています その後はフレーバーづくりやカロリーオフなどの技術革新が進み カロリーゼロ商品やアルコール度数の高いストロングタイプ (7% 以上 ) 反対にアルコール度数が低い超低アルタイプ (3% 以下 ) ノンアルコールタイプ プレミアムタイプが次々に誕生し 飲み手のニーズを切り分け 細分化した市場を掘り下げながら成長を続けています とりわけ近年注目されるのは ストロングタイプと超低アルタイプの伸びです ともにサントリーが開拓したマーケットですが 年々構成比を高めています 4 海外で広がらない 3 つの理由ところで缶チューハイが 海外では日本国内のように普及しないのはなぜなのでしょうか 外国人に缶チューハイを飲ませると おいしい と評価することから 決して味わいが合わないからではなさそうです そこで制度や文化的な側面に 普及を妨げている理由を探すと

上海のスーパーマーケットには缶チューハイが並び始めているが 消費量はまだわずかだ 海外の主要都市では 居酒屋 スタイルの料飲店が増えている 3 つの仮説が浮かんできます ひとつはハードリカーの販売規制です 宗教的にアルコールにストレスが大きい地域では 蒸溜酒の販売は強く規制され 高率の税金がかけられます 蒸溜酒をベースにした缶チューハイにも同様の税がかけられ 市場導入の高いハードルとなります 第二は炭酸ガスを含んで冷やして飲む酒類であるビールが十分に安かったことです ビールに高率の酒税をかける日本では 税率の低い焼酎をベースにしたチューハイに価格優位性がありましたが 欧米ではあえてこうした商品を投入する理由はありませんでした 第三は欧州を中心に食中に飲む酒としてワインが盤石の地位にあることです 欧州では食事中に飲む酒はもっぱらワインで 他の酒はほとんど登場しません スミノフアイス のような欧米のプレミックスカクテルが クラブなどのナイトシーンを主体に訴求されるのは これと無関係ではないでしょう 5 居酒屋スタイルとともに世界へこうした環境下 海外で缶チューハイが普及するには どのような施策が必要になるのでしょうか 少なくとも次のふたつの条件づくりが要ると思われます ひとつはハードリカーへの販売規制が厳しいエリアでは ベースの酒を醸造酒にするなどして 販売規制の壁を乗り越えることです もうひとつは食事をしながらビールやチューハイを飲む 居酒屋スタイル と一緒に訴求することです 同席する人の上下を意識し 順番に出てくる料理を秩序立てて食べていくコース料理に対して 居酒屋スタイルはフラットでどこから何を食べても構いません 若い世代を中心にこうしたスタイルを支持する人々はたくさんいます 彼らとともに成長することを狙うのです また ワインが食中酒として定着していないアジアでは 食中の酒として正面からアプローチすることでしょう 中国圏では食事中に飲むのはお茶で 欧州でのワインのように食中酒として決まった酒があるわけではありません 中国圏で普及が進みつつある日本食メニューと一対の酒として缶チューハイを提案し コツコツと飲用機会をつくっていけば 必ず愛飲者ができるはずです 日本のチューハイの飲みやすさとおいしさには定評があり 量産によりリーズナブルに提供することが可能な酒なのですから