プレス発表資料 平成 24 年 7 月 7 日琉球大学 玄米による抗肥満効果のメカニズム解明 玄米成分 γ- オリザノールが高脂肪食に対する好みを和らげる 益崎裕章琉球大学大学院医学研究科教授 小塚智沙代同大学院生らの研究グループは 玄米に高濃度に含まれる γ- オリザノールに抗肥満 抗糖尿病効果があることを明らかにしました γ- オリザノールは高脂肪食習慣によって脳 ( 視床下部 ) で亢進する小胞体ストレスを低下させ 高脂肪食への依存性 ( 耽溺 ) を軽減します 人類が古来 慣れ親しんできた天然食の中に健康的な食行動への回帰を促す抗メタボ物質が豊富に含まれていることは画期的発見です 本研究成果は米国糖尿病学会誌 Diabetes ( 米国時間 7 月 23 日電子版 ) に公開されます つきましては 下記のとおり発表を行いますので 多忙な折恐縮ですが 是非取材くださいますようお願いいたします 日時 : 平成 24 年 7 月 25 日 ( 水 ):~ 記 場所 : 医学部管理棟 3 階大会議室 問い合わせ 琉球大学大学院医学研究科内分泌代謝 血液 膠原病内科学講座野口千佳子電話 :98-895-46 FAX:98-895-45 E-mail:cnoguchi@med.u-ryukyu.ac.jp
( 様式 2) 琉球大学プレス発表次第 日時 : 平成 24 年 7 月 25 日 ( 水 ) :~ 場所 : 医学部管理棟 3 階大会議室進行 : 松下正之 ( 医学研究科教授 ). 件名 玄米による抗肥満効果のメカニズム解明 玄米成分 γ- オリザノールが高脂肪食に対する好みを和らげる 2. 出席者国立大学法人琉球大学医学科長 石田 肇 同 医学部附属病院長 村山貞之 同 医学研究科教授 益崎裕章 同 医学研究科教授 松下正之 同 医学研究科大学院生 小塚智沙代 3. 会次第 () 出席者紹介 (2) 主催者挨拶 国立大学法人琉球大学医学科長 石田 肇 (3) 事業等説明国立大学法人琉球大学医学研究科教授 益崎裕章 (4) 質疑応答
研究の概要玄米が高脂肪食に対する嗜好性を軽減させることにより抗肥満 抗糖尿病効果を発揮していること さらに 玄米に豊富に含まれる成分の つ γ-オリザノールがその効果発現に関与していることを世界で初めて明らかにしました 摂食調節を行う視床下部における小胞体 (ER) ストレスが高脂肪食に対する嗜好性に関与しており 高脂肪食の摂取によって視床下部における ER ストレスが亢進し 高脂肪食に対する嗜好性が強くなるために 高脂肪食への依存状態に陥る悪循環が形成されていることを見出しました 玄米や γ-オリザノールには高脂肪食の摂取により視床下部における ER ストレスが亢進するのを防ぎ 高脂肪食に対する嗜好性を和らげる効果があることが明らかになりました この研究結果から 食の好みを変える という従来にない新しい肥満症 糖尿病の予防法や治療法の確立につながることが期待されます 本研究成果は米国糖尿病学会誌 Diabetes ( 米国時間 7 月 23 日電子版 ) に公開されました 高脂肪食は視床下部 ER ストレスの亢進を介してさらなる高脂肪食への依存を招く 視床下部 ER ストレス γ- オリザノールは視床下部 ER ストレスの亢進を抑制し 高脂肪食への依存を防ぐ 視床下部 ER ストレス 悪循環 γ- オリザノール 高脂肪食 高脂肪食に対する嗜好性 高脂肪食 高脂肪食に対する嗜好性 研究の背景 目的生活習慣の欧米化を背景に 肥満 糖尿病は地球規模の健康問題となっています 米国をはじめ各国で肥満研究に対して莫大な資金がつぎ込まれ 抗肥満薬の開発が試みられてきましたが 従来の抗肥満薬では十分な臨床効果が得られないことに加え 脳に作用する薬剤も多く 中枢 末梢神経系や心臓に対する重篤な副作用が問題となっています このような背景を踏まえ 近年では 食習慣の改善や運動など行動変容を活用した新しいアプローチが見直されてきました 我々は食品が食行動に影響を及ぼす可能性に注目し 沖縄県で古くから食べられてきた玄米の研究を行いました 最近の疫学研究から玄米が抗肥満 抗糖尿病作用を持つことが明らかになってきましたが その詳細なメカニズムは不明でした 本研究では このような未知のメカニズムを食行動に及ぼす影響に注目して解析することを目的としました 研究の成果. 玄米を給餌したマウスは高脂肪食に対する嗜好性が低下する高脂肪食に対する嗜好性を評価するために マウスに通常食と高脂肪食を同時に与え 自由に選択させました ( 図 ) マウスはヒトと同様に高脂肪食に対する嗜好性が極めて強く 通常食と高脂肪食を選択させると高脂肪食を好んで食べるために肥満します しかし 玄米を含む餌を選択させたマウスでは通常食を好んで の摂食量全体の摂食量 ( + ) + 白米 + 白米 + 玄米 + 玄米 図. 高脂肪食に対する嗜好性の評価通常食と高脂肪食をケージの左右に配置して同時に給餌し マウスに自由に選択させた.
食べ 体重増加が抑制されました 一方 白米を含む餌を選択させたマウスでは このような変化は見られませんでした ( 図 2) 2. 高脂肪食に対する嗜好性に視床下部における ER ストレスが関与する高脂肪食に対する嗜好性の変化に 摂食中枢である視床下部における小胞体ストレスと呼ばれる代謝ストレスが関与していることを証明しました 高脂肪食の摂取は視床下部における小胞体ストレスを亢進させることで 一段と高脂肪食に対する嗜好性を増強させます 高脂肪食に対する嗜好性 (%) 95 9 85 8 ++ + * + Control 白米玄米 75 2 4 6 8 y 体重 g (g) (g) 体重 36 34 32 Control 白米玄米 3 28 + 26 + 24 22 2 2 4 6 8 図 2. 玄米の給餌により高脂肪食に対する嗜好性が低下する玄米を餌に混合することにより マウスは高脂肪食を選択しなくなる. 高脂肪食の摂食量の減少に伴って 体重増加が抑えられる. * p<.5, p<. vs control, + p<.5,++ p<. vs 白米 ( 統計的に有意差がある ) 3. 玄米に豊富に含まれる γ- オリザノールが高脂肪食に対する嗜好性軽減効果に関与する 私たちは高脂肪食に対する嗜好性を変化させる玄米 視床下部におけるERストレスの作用に米ぬかに豊富に含まれている γ-オリザノー.2.2.8 ルが関与していることを新たに発見しました レポ.8 * *.6.6.4.4 ーターアッセイ法により γ-オリザノールが ER スト.2.2 99-5 レスを抑制する効果を持つことを証明しました ま Veh 2 8 32 Veh 2 8 32 98.2 - た γ-オリザノールがマウス胎児由来の神経細胞にお * *.8 * 97 * ける ER ストレスを抑制することを確認しました さ.6 Vehicle 対照 -5.4 Oryzanol らに 食餌性肥満マウスを用いて 玄米や γ-オリザ.2 96 2 4 6 8-2 ノールが高脂肪食の摂取による視床下部における小 Veh 2 8 32 胞体ストレスの亢進を抑制し 高脂肪食に対する嗜好性を軽減させることを明らかにしました ( 図 3) γ-オリザノールは古くから食べられてきた天然食品の玄米由来成分であり 従来の抗肥満薬に見られたような副作用が生じる可能性は低いと考えられます 天然の食品由来の成分が 食の好みを変える ことにより食行動に変容をもたらす 安全かつ根本的な新しい肥満症 糖尿病医療への応用が期待されます Chop mrna/8s rrna Xbp mrna/8s rrna ERdj4 mrna/8s rrna 対照 図 3. γ- オリザノール () は ER ストレスを軽減し 高脂肪食に対する嗜好性を軽減する A: γ- オリザノール () を投与することにより (g 体重当たり 2~32μg/ 日 ) 視床下部における ER ストレス応答遺伝子 (Chop ERdj4 Xbp) の発現が低下した. B: γ- オリザノール () の投与により (g 体重当たり 8μg/ 日 ) 高脂肪食に対する嗜好性が軽減した. * p<.5, p<. ( 統計学的に有意差がある ) 高脂肪食に対する嗜好性 ( (%) ) * 本研究は 科学研究費補助金 文部科学省特別教育研究経費 武田科学振興財団 沖縄医学財団 財団法人琉球大学後援財団 沖縄県 知的クラスター形成に向けた研究拠点構築事業 からの支援を受けて行われました 用語解説 γ-オリザノール γ-オリザノールは 953 年に土屋 金子らにより玄米中から分離抽出された数種のトリテルペンアルコールのフェルラ酸エステル化合物で 米ぬかに含まれる玄米特有の物質である γ-オリザノールは更年期障害や過敏性腸症候群 高脂血症治療薬として臨床応用されている他 抗酸化作用やメラニン生成抑制作用 紫外線吸収作用をもつことから化粧品や食品添加物にも幅広く応用されている 小胞体ストレス
タンパク質は生物の主要な構成成分であり 細胞内で合成される 合成されたタンパク質は細胞内の小胞体で折り畳まれ 立体構造をとることで正常に機能するようになる 折り畳みがうまく行われなかったタンパク質が小胞体に蓄積し 小胞体機能に障害をきたしている状態を小胞体ストレスと呼ぶ