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Dokkyo Journal of Medical Sciences (3):193 199,2012 193 結核性胸膜炎の診断における局所麻酔下胸腔鏡検査の 有用性に関する検討 獨協医科大学内科学 ( 呼吸器 アレルギー ) 1) 1,2) 三好祐顕 1,2) 武政聡浩 呼吸器内視鏡センター 2) 福島石井 1 ) 史哉 1,2) 芳樹 滝澤福田 1) 秀典 1) 健 局所麻酔下胸腔鏡が施行され, 胸膜生検検体にて乾酪性肉芽腫を認め, 結核性胸膜炎と診断された症例の臨床的検討を行った. 対象は,1999 年 12 月から 2011 年 1 月までに局所麻酔下胸腔鏡により病理学的に診断された結核性胸膜炎 32 例. 男性 25 例, 女性 7 例. 平均年齢 62.8 歳 (24 89 歳 ). 右側胸水が 14 例, 左側胸水が 16 例, 両側胸水が 2 例. 胸水リンパ球比率の平均は 90.9%, 胸水 ADA の平均は 69.1 IU/l であった. 胸水の Tb-PCR (tuberculosis-polymerase chain reaction) は全例で陰性, 胸水抗酸菌培養は 1 例のみ陽性で, 陽性率は極めて低値であった. 胸腔鏡所見では, 壁側胸膜のびまん性の白色小結節病変が最も多く 19 例 (59.4%) で認められ, 胸膜肥厚や癒着, 血管増生などの非特異的な所見も高率に認めた. 胸膜生検検体の結核菌培養陽性率は約 40% であった. 結節病変を認めた例では, 結節病変を認めなかった例と比較してより年齢が若く, 発症から検査までの日数が有意に短かった. 結核性胸膜炎の診断は, 胸水穿刺だけでは診断効率が低く, 局所麻酔下胸腔鏡を行うことにより診断効率は大きく向上し, 内科医が施行できる安全性の高い極めて有用性の高い検査法といえる. : 結核性胸膜炎, 局所麻酔下胸腔鏡, 胸水, 胸膜生検 結核性胸膜炎の確定診断は, 胸水ないし胸膜組織における結核菌の存在, ないし胸膜組織における乾酪性肉芽腫の存在の証明を基本とする. 一般的には, 手技が簡単で患者に対する侵襲性も低い胸腔穿刺が行われ, 吸引採取した胸水に対して結核菌培養や結核菌 DNA-PCR 検査が行われる. 同時に, 胸水の細胞分画検査やアデノシンデアミナーゼ (ADA) 活性測定, また, 最近ではクォンティフェロン TB-2G (QFT-2G) 検査などが行われるが, これらの検査はたとえ異常であっても結核性胸膜炎である可能性を示唆するに過ぎない. したがって, 胸腔穿刺が結核性胸膜炎の確定診断にどの程度有効であ 平成 24 年 5 月 7 日受付, 平成 24 年 5 月 21 日受理別刷請求先 : 三好祐顕 321-0293 栃木県下都賀郡壬生町北小林 880 獨協医科大学内科学 ( 呼吸器 アレルギー ) るかは, 得られた胸水から, どの程度, 結核菌や結核菌 DNA を検出できるかに依る. しかし, 胸腔鏡検査まで施行され最終的に結核性胸膜炎と確定診断された症例の胸水における結核菌検出率を検討した報告は極めて少ない. 著者の一人の石井は以前に, 胸腔鏡診断確定例 11 例について報告したが, 胸水 Tb-PCR あるいは胸水培養が検出されたものは 1 例に過ぎず, 結核性胸膜炎診断における胸腔鏡検査の重要性を指摘した 1). 局所麻酔下胸腔鏡検査は胸腔穿刺に比し侵襲性はあるものの, 内科医でも安全に施行できる検査手技で, 内視鏡性能の向上に伴い普及しつつある. 胸膜病変を内視鏡的に観察できるだけでなく直視下で胸膜生検を行うことが可能であり, 悪性腫瘍, 石綿肺, 感染性胸膜炎など各種の胸膜疾患の診断に欠かせない検査となりつつある. 著者らの施設では, 原因疾患によらず胸水貯留を認める症例に対しては確定診断を得る目的から, 積極的に局所麻酔下胸腔鏡検査を施行してきた. 本研究は, 胸水貯留の原因診断のために局所麻酔下胸腔鏡検査が施行され,

194 三好祐顕 DJMS 胸膜生検組織の病理学的検査で結核性と考えられる肉芽腫を認めたことで結核性胸膜炎の確定診断がなされた 32 症例について, その胸腔穿刺時に採取した胸水および胸膜生検採取組織を詳細に検討することで, 結核性胸膜炎の確定診断における局所麻酔下胸腔鏡検査の有用性を改めて検証しようとするものである. 1999 年 12 月から 2011 年 1 月までに, 胸水貯留の原因診断のため局所麻酔下胸腔鏡が施行され, 胸膜生検検体にて結核性と考えられる乾酪性肉芽腫を認め病理学的に診断された結核性胸膜炎 32 例を対象とした. 局所麻酔下胸腔鏡は,1999 年 12 月から 2009 年 6 月までは救急外来手術室にて,2009 年 6 月以降は呼吸器内視鏡センター内の胸腔鏡室にて行われた. 前処置として, 塩酸ヒドロキシジン, ペンタゾシンの筋注を行い, 胸腔鏡はオリンパス社製 LTF240 あるいは LTF260 を用いて行った. 検査室内にて患者は, 患側を上方とする側臥位の姿勢を保持され, 胸部超音波検査にて胸水の部位が確認された. 検査部位が決定されたのち, 同部へ 1 % リドカインによる局所麻酔を施し, 約 1 2 cm の皮膚切開をおいた. ペアン鉗子にて皮下組織を鈍的に広げ, 胸腔まで到達したらフレキシブルトロッカーを留置した. このフレキシブルトロッカーから胸腔鏡を挿入し検査を開始した. 胸腔内を十分に観察するため, 適宜胸水を吸引し, 壁側胸膜の病変が確認されたのち, 同部へ胸腔鏡を介して 1% リドカイン 1 ml を散布. 生検部位の疼痛がないことを確認し, 病変の生検を行った. 生検には気管支鏡で用いられる通常の生検鉗子を用いた. 生検後, 出血がないことを確認し,16 24F のトロッカーカテーテルを挿入留置, 固定し手技を終了とした. 生検で得られた検体の一部は, 滅菌スピッツへいれたのち細菌検査へ, 残りはホルマリン固定後に病理検査へ提出された. 胸水の検体は, 胸腔穿刺時に得られた胸水と同様に, ph, 糖,LDH, ADA, 総タンパクなどのほか, 抗酸菌検査, 細菌検査, 細胞診などに提出された. また,2007 年より血液検査にて QFT (Quantiferon) が測定可能となり, 測定可能であった症例についても検討を行った.QFT は, 採取された血液に結核菌特異抗原を混注 培養し,T 細胞から遊離するインターフェロン g を ELISA で測定する方法で, 活動性結核ではその陽性率は 80% 前後である. 統計学的解析は,JMP version 7.0.1 (SAS Institude Inc.) を用い,t 検定および c 2 検定を使用した. 統計的有意水準は p<0.05 とした. 対象症例の臨床的背景と胸水の検査結果を表 1 に示す. 男性 25 例, 女性 7 例で平均年齢 62.8 歳 (24 89 歳 ) であった. 右側胸水が 14 例, 左側胸水が 16 例, 両側胸水が 2 例. 胸膜結核以外の結核感染に関しては, 粟粒結核 1 例, 肺結核 1 例を認めた. 胸水の検査では, 全例リンパ球優位の滲出性胸水であり, 胸水リンパ球比率の平均は 90.9% であった. 胸水中 ADA は, 平均で 69.1 IU/l と高値を示したが, 胸水中 ADA が 50 IU/l 未満の症例も 8 例 (25%) 認めた. 胸水の Tb-PCR は全例で陰性, 胸水結核菌培養は 1 例のみ陽性で, 陽性率は 3.1% と極めて低値であった. 血液の QFT については,QFT を施行した 16 例のうち 10 例が陽性であり, 陽性率は 62.5% であった. 次に対象症例 32 例の胸腔鏡検査所見を表 2に示す. 肉眼的所見では, 壁側胸膜のびまん性の白色小結節病変が最も多く 19 例 (59.4%) で認められた. 白色を呈さず結節が癒合して存在するような癒合結節を 4 例 (12.5 %) に認め, いずれの場合でも結節病変を認めたものは 23 例 (71.9%) であった. その他の肉眼的所見としては, 胸膜肥厚 (68.8%) や癒着 (65.6%), 血管増生 (31.3%) などの非特異的な所見も比較的高率に認めた ( 図 1). 代表的な結核性胸膜炎の内視鏡画像を図 2に示す. 発症から胸腔鏡までに約 10 日経過した比較的早期の症例では, 胸壁に多発性の白色小結節病変を認めた ( 図 2A ). 一方, 発症から胸腔鏡までに約 90 日経過した非早期例では, びまん性の白色胸膜肥厚や線維素性の癒着も認められ, 非特異的所見を呈していた ( 図 2B). 組織学的に全例で結核菌感染と考えられる乾酪性肉芽腫病変を認めた. 胸腔鏡で得られた検体での Tb-PCR の陽性率は 23 例中 10 例 (43.5%) で, 結核菌培養の陽性率は 24 例中 9 例 (37.5%) であり, 両者をあわせると陽性率は 41.7 % まで上昇した. 内視鏡的に結節病変を認めた例と結節病変を認めない例について, 年齢, 性別, 発症から検査までの日数について検討した ( 表 3). 結節病変を認めた例では, 結節病変を認めなかった例と比較してより年齢が若く, 発症から検査までの日数が有意に短かった. 全例, 胸腔鏡検査後の重篤な合併症はみられなかった. 今回の検討では,32 例中 1 例のみ胸水培養が陽性であり結核性胸膜炎の診断において胸水検査のみでの確定診断は極めて困難であると思われた 2,3). 胸水のリンパ球比率増加や胸水 ADA 値高値は, これまでの諸家の報

(3)(2012) 結核性胸膜炎の胸腔鏡診断 195 対象症例の臨床背景および胸水の性状と QFT case No. 年齢性別部位 胸膜結核以外の 結核の既往 胸水リンパ球 比率 ADA (IU/l) 胸水 Tb-PCR 胸水抗酸 菌培養 QFT 1 79 男 右 92% 60.2 ND 2 72 男 左 97% 73.4 ND 3 33 男 右 96% 44.5 ND 4 62 男 左 98% 50.5 ND 5 73 女 両側 98% 55.4 ND 6 24 男 左 100% 97 ND 7 79 男 左 98% 51.6 ND 8 56 男 右 96% 84.4 ND 9 26 男 左 粟粒結核 87% 62.7 ND 10 83 女 右 89% 42 ND 11 79 男 左 68% 74.2 + ND 12 57 男 右 99% 76 ND 13 45 男 左 68% 74.5 ND 14 30 女 左 92% 66.8 ND 15 33 女 左 96% 42.6 ND 16 69 男 右 98% 32 ND 17 79 男 左 肺結核 67% 45.1 ± 18 62 男 右 100% 66 + 19 76 女 右 97% 88 20 77 男 右 99% 121 + 21 31 男 左 100% 88.2 + 22 56 男 右 87% 90 ± 23 62 女 左 ND 78.5 + 24 74 男 左 56% 85.1 ± 25 83 男 右 95% 68 + 26 70 男 左 97% 87.9 + 27 66 男 右 93% 57.6 + 28 88 男 左 100% 37.1 + 29 49 男 両側 100% 44 30 71 女 左 68% 83.1 ± 31 87 男 右 95% 35.2 + 32 78 男 右 92% 137 + 平均 62.8 男 : 女 右 : 左 : 両側 90.9 69.1 ± 標準偏差 ±19.3 25;7 14;16;2 ±12.1% ±24.7 ADA:adenosine deamiinase Tb-PCR:tuberculosis-polymerase chain reaction QFT:quantiferon-TB 2G ND:not done 告と相違なく, 有用性の高い検査法であるが, 結核性胸水において胸水中の ADA が低値を示した報告 4) もある一方で,ADA が高値であっても, 膠原病に伴う胸膜炎や悪性リンパ腫の場合もあることから補助診断に過ぎない. 胸水あるいは胸膜検体から培養や PCR などで結核菌が確認された場合あるいは組織学的に結核感染と考えられる肉芽腫が認められた場合結核性胸膜炎の診断が確定される. 内視鏡下に直視下で胸膜生検が可能な局所麻酔下胸腔鏡は, 病理学的な診断が可能なだけでなく, 生 検検体を培養検査にも提出することが可能であり, 胸水培養と比較して培養陽性率も飛躍的に向上する. したがって本検査は病理学的, 細菌学的に極めて有用な検査法といえる 1,5). 局所麻酔下胸腔鏡の内視鏡所見では, 壁側胸膜のびまん性の白色小結節病変が最も多く 19 例 (59.4%) で認められた. この白色の結節病変は古くから sago-like lesion と呼ばれ, サゴヤシから作られる白色粒状の食物に似た外観を呈する. 白色を呈さず結節が癒合するよう

196 三好祐顕 DJMS 対象症例の局所麻酔下胸腔鏡検査所見 case No. 胸腔鏡所見 胸膜組織所見 胸膜組織 Tb-PCR 胸膜組織抗酸菌培養 1 白色結節 乾酪性肉芽腫 + + 2 非特異的 乾酪性肉芽腫 ND ND 3 白色結節 乾酪性肉芽腫 ND ND 4 白色結節 乾酪性肉芽腫 5 非特異的 乾酪性肉芽腫 ND ND 6 白色結節 乾酪性肉芽腫 ND ND 7 白色結節 乾酪性肉芽腫 ND 8 白色結節 乾酪性肉芽腫 ND ND 9 白色結節 乾酪性肉芽腫 ND ND 10 癒合結節 乾酪性肉芽腫 11 非特異的 乾酪性肉芽腫 + + 12 癒合結節 乾酪性肉芽腫 + + 13 癒合結節 乾酪性肉芽腫 ND ND 14 白色結節 乾酪性肉芽腫 15 白色結節 乾酪性肉芽腫 + + 16 白色結節 乾酪性肉芽腫 + + 17 白色結節 乾酪性肉芽腫 + + 18 白色結節 乾酪性肉芽腫 19 癒合結節 乾酪性肉芽腫 + + 20 白色結節 乾酪性肉芽腫 21 白色結節 乾酪性肉芽腫 + + 22 非特異的 乾酪性肉芽腫 23 非特異的 乾酪性肉芽腫 24 白色結節 乾酪性肉芽腫 ND ND 25 非特異的 乾酪性肉芽腫 26 白色結節 乾酪性肉芽腫 27 白色結節 乾酪性肉芽腫 28 非特異的 乾酪性肉芽腫 + 29 非特異的 乾酪性肉芽腫 30 白色結節 乾酪性肉芽腫 + + 31 非特異的 乾酪性肉芽腫 32 白色結節 乾酪性肉芽腫 ND:not done 結核性胸膜炎における胸腔鏡所見の頻度特異的所見としては, 白色結節の所見が多く見られたが, 癒着や胸膜肥厚などの非特異的所見の頻度も多くみられた. な癒合結節は, 腺癌などによる癌性胸膜炎との鑑別が困難な場合があり, 生検による確認が極めて重要である 6). その他の内視鏡所見としては, 胸膜肥厚や癒着, 血管増生などの所見があるがこれらの所見は総じて非特異的所見といえる.Loddenkemper らは, 胸膜肥厚や癒着などの所見を 75% に認めたと報告しており 7), 今回の我々の検討においても胸膜肥厚や癒着所見などの症例は 32 例中 24 例 (75.0%) で認めており, 同様の結果であった. 内視鏡的に結節病変を認めた例では, 結節性病変を認めず非特異的所見を呈する例と比較して, より年齢が若く, 発症から検査までの日数が有意に短かった. このことは, 発症から早い時期に胸腔鏡検査を施行できれば, 結節病変を確認しやすいが, 時間経過とともに胸膜肥厚

(3)(2012) 結核性胸膜炎の胸腔鏡診断 197 結核性胸膜炎の代表的内視鏡所見発症からあまり時間が経過していない場合には壁側胸膜に多発性の白色結節病変を認めることが多く (A), 時間が経過した場合には結節病変は消失し, 胸膜肥厚や癒着などの非特異的な所見を呈することが多い (B). 結節病変の有無の違いによる臨床所見における比較 臨床所見 結節病変 (+) (n=23) 結節病変 ( ) (n=9) p-value 年齢 ( 平均 ± 標準偏差 ) 59.3±20.2 74.4±13.9 0.048 性別 ( 男性 : 女性 ) 18:5 7:2 N.S. 日数 * ( 日数 ± 標準偏差 ) 29.8±19.3 46.7±20.6 0.037 * 発症から胸腔鏡までの日数 N.S.:not significant や癒着などの変化が起こり結節病変の確認が困難になる可能性が考えられた. また高齢者の場合, 症状の自覚に乏しく医療機関受診の機会が遅れてしまうため, 結果的に胸腔鏡施行のタイミングが遅くなり, 結節病変の確認が困難になることが考えられた. 胸水のリンパ球が増加し胸水中の ADA が 50 IU/l 以上の場合では, 結核性胸膜炎の可能性が高いが, 胸水検査のみで確定診断が得られる可能性は低い. 胸腔鏡施行することが困難な施設では, 結核の確定診断が得られなくても胸水データのみから結核の治療を行うケースも少なくないが, 結核以外の膠原病による胸水貯留による可能性もあり, 決して適切な治療選択とはいえない. 一方で, 胸腔鏡検査を行い胸膜生検で肉芽腫所見を認めなかった場合, 生検方法や生検部位の問題から肉芽腫病変を的確に採取できなかった可能性もあり, 結核でないと断言することもできない. その場合, 患者背景などから, 結核の治療を行うことが妥当と判断されれば結核の治療を行い, 胸水の改善を確認し改善不良であれば, 他疾患を考慮するといった臨床的な対応が必要になることもあ る. リンパ球有意の滲出性胸水で胸水中の ADA も高値であるにもかかわらず, 胸膜生検で肉芽腫病変を認めなかった場合, はたして結核なのか否かなのかについて明らかにすることは, 現状の臨床では極めて困難であり, 結核性胸膜炎の診断における胸腔鏡検査の false negative, false positive について言及することはできない. 胸腔鏡検査での生検方法, 生検部位の違いによって診断率が変わる可能性がある点からは本法の limitation といえるが, 結核性胸膜炎の診断方法にも limitation があると思われる. 胸水貯留の原因はさまざまであり, とりわけリンパ球有意の滲出性胸水の場合では結核性胸膜炎の可能性のほか, 膠原病に伴う胸膜炎やサルコイドーシス, 悪性リンパ腫などの悪性胸水 8) の可能性も考慮されなければならない. これらの疾患の鑑別において, 直接胸腔内の病変を観察して, 確実に病変の生検が行える局所麻酔下胸腔鏡検査は, より, 迅速, 簡便, 低侵襲的に行える検査法であり, 極めて有用性が高い検査法であると考えられる.

198 三好祐顕 DJMS (1) 結核性胸膜炎の胸腔鏡所見は, 基本的には小結節性病変を呈するものが多く, また程度の違いはあるものの胸膜肥厚や癒着などの所見も高率に認められた.(2) 結節病変の特徴としては, 白色の比較的小さな結節であり,Sago-like の形態を呈する.(3) 小結節性病変が融合し, やや大型の癒合結節を形成すると腺癌と極めて類似した所見を呈する場合があった.(4) 結節病変を認めず, 胸膜肥厚や癒着所見などの非特異的な所見を呈する症例も約 30% に認められた.(5) 非特異的所見を呈する症例は, 症状発症より時間の経過した症例が多い傾向であった.(6) 結核性胸膜炎の診断において局所麻酔下胸腔鏡検査は, 内科医が安全に施行でき, 極めて有用性の高い検査法であり, 今後もさらなる普及が望まれる. 1) 石井芳樹, 北村諭 : 局所麻酔下胸腔鏡検査の有用性. 結核 :51-56, 2000. 2) 杉山昌裕, 堀口高彦 : 局所麻酔下胸腔鏡診療 結核性胸膜炎. 気管支学 :337-342, 2004. 3) 木村一博, 杉野圭史, 佐野剛, 他 : 当院における結核性胸膜炎の臨床的検討. 感染症学 :18-22, 2002. 4) 林隆司郎, 石原陽子, 北村諭, 他 : 胸水中 adenosine deaminase (ADA) 活性値の測定 癌性胸膜炎と結核性胸膜炎を中心として. 結核 :775-783, 1990. 5) 石井芳樹 : 局所麻酔下胸腔鏡の適応とその限界. 気管支学 :322-325, 2004. 6) 鏑木孝之, 雨宮隆太, 黒田久俊 : 胸腔穿刺により確定診断が得られなかった胸膜炎症例に対する Semi-flexible Thoracoscopy を用いた局所麻酔下胸腔鏡の有用性. 気管支学 :90-96, 2003. 7)Loddenkemper R:Thoracoscopy state of arts. Eur Respir J :213-221, 1998. 8)VB Antony, R Loddenkemper, P Astoul, et al:management of malignant pleural effusion. Eur Respir J : 402-419, 2001.

(3)(2012) 結核性胸膜炎の胸腔鏡診断 199 Masaaki Miyoshi 1), Fumiya Fukushima 2), Hidenori Takizawa 2), Akihiro Takemasa 1), Yoshiki Ishii 1,2), Takeshi Fukuda 2) 1) Respiratory Endoscopy Center, 2) Department of Pulmonary Medicine and Clinical Immunology, Dokkyo Medical University School of Medicine We reviewed our patients with tuberculous pleurisy underwent medical thoracoscopy. From December 1999 to January 2011, 32 patients were diagnosed as having tuberculous pleurisy by pleural biopsy pathologically. The typical thoracoscopic findings of tuberculous pleurisy such as diffuse small white nodules on the parietal pleura were seen in 23 cases (71.9 %). Non-specific pleural findings such as thickness on the pleura or adhesion were seen in 9 cases (22.2 %). In all these patients, pathological diagnoses of tuberculous pleurisy were made by pleural biopsies. Since medical thoracoscopy is useful for the diagnosis of tuberculous pleurisy, it is recommended as a diagnostic procedure for cases with pleural effusion. : tuberculous pleurisy, medical thoracoscopy, pleural effusion, pleural biopsy