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原著 Japanese Journal on Support System for Developmental Disabilities 発達障害支援システム学研究第 10 巻第 1 号 2011 年 書き困難に関する主訴の内容別による WISC-III プロフィールの特徴 惠羅修吉香川大学教育学部田中栄美子香川大学教育学部特別支援教室馬場広充香川大学教育学部特別支援教室 要旨 : 本研究では, 通常の学級に在籍する児童生徒の 書き 領域におけるつまずきについて主訴の観点から捉え, 主訴内容と WISC-III プロフィールに反映される認知特性との関連性について検討することを目的とした. 書き 困難の主訴がある小学生と中学生を対象として, 海津 (2003) による 書く 領域における 聴覚 / 視覚的弁別 統合, 構成( 統語 )/ 表現 ( 語用 ), 視覚- 運動統合, ( 漢字 ) 視覚認知 記憶 の4 要因に基づいて分類し, 分類群ごとに WISC-III プロフィールの特徴について群指数を中心に分析した. 視覚 - 運動統合 群では小 中学生で一貫して 処理速度 と, 構成( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 群では小学校低学年において 知覚統合 と関連性があることを認めた. 海津 (2003) と本研究における結果の一致点と不一致点について考察を加えた. Key Words: 主訴, 書き困難,WISC-III, 群指数 Ⅰ. はじめに 特別な教育的ニーズを有する子どもへの支援は, 子どもが直面している困難や問題について保護者や担任教員が気づくことから始まる. 保護者や担任教員の気づきは, 主訴として取り上げられ, 子どもの状態や特性を的確に把握するための心理教育アセスメントを実施するための手がかりとなる. 子どもの特性に応じた効果的な支援を実現するため, 近年, 科学的根拠に基づく評価と教育実践の重要性が指摘されている ( 惠羅, 2007 4) ; 宇野 春原, 2008 24) ). 根拠に基づく教育実践では, 子どもの状態を的確に評価するために, 多面的なアセスメントが必要となる. 特に, 知的水準ならびに認知能力を把握するためのアセスメントは, 学習上の困難に対応するうえで必要不可欠なアセスメントとなる ( 篁, 2008 21) ; 上野ら,2005 23) ). 学校教育現場において, 子どもを対象としたアセスメントとして広く使われている検査の一つに WISC-III 知能検査 ( 以下,WISC-III とする ; 日本版 WISC-III 刊行委員会, 1998 16) ) がある.WISC-III は, 対象児の全般的な知的機能の発達水準を評価するとともに, 対象児の - 19 - 認知機能の偏り, すなわち認知機能の個人内差を把握することが可能な検査である. 特に, 知的機能を4 因子構造に基づく群指数 ( 言語理解 知覚統合 注意記憶 処理速度 と命名されている ) として数値化することで, これらの数値のパタンから認知機能の個人内差を推測することができる. 認知特性を把握することで子どものつまずきに対する具体的対応への示唆が得られるという理由から, 教育実践における有用性が高く評価されている ( 藤田ら, 2005 5) ; Kaufman & Lichtenberger, 2000 9) ; Prifitera & Saklofske, 1998 19) ; 上野ら, 2005 23) ). WISC-III を認知機能の評価指標として採用した研究は数多くみられる. 最も研究が蓄積されているのは, 自閉性障害や注意欠陥 / 多動性障害などの発達障害を対象として, 疾患による認知特性について検討するものである (e.g., Assesmany et al., 2001 1) ; 伊藤, 2007 6) ; 神尾 十一, 2000 8) ; Koyama et al., 2009 10) ; 小山ら, 2003 11) ; 小山ら, 2004 12) ; Mayes & Calhoun, 2006 14) ; Mayes et al., 1998 15) ; Nydén et al., 2001 17) ; Scheirs & Timmers, 2009 20) ). 一方, 子どもの直面している困難やつまずきの内容に着目して, その基底にある認

知能力の偏りや弱さを評価するために WISC-III を活用した研究は, 相対的に数が少ない状況にある. わが国では, 学力アセスメントと WISC-III を用いて学力のつまずきと認知機能の関連性を分析した海津 (2003) 7) の報告が知られている. 海津 (2003) 7) は, 聞く 話す 読む 書く 計算する 推論する といった学力の全般的領域を取り上げ, WISC-III の群指数を指標として両者の関連性について分析した. 対象となったのは学習障害 (Learning Disabilities: 以下 LD とする ) のある子どもであり, 上記の 6 つの学力領域におけるつまずきの有無を評価するチェックリスト ( 学力アセスメント ) について対象児の指導者が回答するといった手続きであった. この手法は,LD 児の学習面でのつまずきを学力の領域全般にわたって把握する点で意義あるものである. しかしながら, 一つひとつの領域に限定してみると, その領域についてつまずきのない ( あるいは少ない )LD 児を含めて関連性が分析されることになる. 領域によっては, つまずきのないあるいは少ない子どもを多く含むことになり, 特定のつまずきに関連した認知特性の抽出を困難にしていることが推察される. よって本研究では, 特定の学力領域として 書き を取り上げ, 書き に関する主訴があげられている子どもを対象として, その領域におけるつまずきの内容と認知機能との関連について分析することを目的とした. 書き の活動には, 書字から作文まで幅広い内容が含まれており, 多数の認知機能が関与している. それゆえ, 書き 困難の背景には, 手指の巧緻性, 動的イメージを含む視覚 - 運動統合, 空間的配列に関する認知, 自らの書字過程や表現内容を振り返るメタ認知などの機能の未獲得が想定されている (Berninger et al., 1991 2 ) ; 大庭, 2008 18) ). しかしながら, 読み や 計算 に比べて, 書き 困難の要因については体系的に分析されていない現状にある (Chittooran & Tait, 2005 3 ) ). 読み書きに困難を有する子どもたちは, 読み のみの困難を有する場合は少なく, 読み と 書き の両方かあるいは 書き のみの困難を有する場合が多い. よって, 書き に関与する認知機能について知見を蓄積して明確化することにより, 書き に困難のある子どもに対するつまずきの様相に応じた効果的な指導支援を実施するための基礎的な資料を提供することになる. 本研究では, 子どもの 書き におけるつまずきを主訴の観点からとらえ, 主訴内容と WISC-III プロフィールに反映される認知特性との関連性について検討することを目的とした. 具体的には, 書き 困難の主訴がある小 中学生を対象として, まずは海津 (2003) 7) が報告した 書く 領域におけるつまずきの要因に基づいて, 聴覚 / 視覚的弁別 統合 群, 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 群, 視覚 - 運動統合 群, ( 漢字 ) 視覚認知 記憶 群の 4 つの群に分類した. ついで, 分類群ごとに WISC-III プロフィールの特徴について検討した. 海津 (2003) 7) の研究では,WISC-III の指標のなかでも群指数を取り上げており, 比較のため本研究においても群指数を分析の核とした. Ⅱ. 方法 1. 対象香川大学教育学部特別支援教室 すばる ( 以下, 本教室 ) で受け入れた教育相談のうち, 本教室において WISC-III を実施した小 中学生のなかより, 主訴として 書き に関する困難があり, かつ全検査 IQ が 70 以上であった事例を抽出した. 全体で 68 名 ( 男 / 女 = 54/14 名 ) が対象となり, うち小学生が 59 名 ( 男 / 女 = 46/13 名 ), 中学生が 9 名 ( 男 / 女 = 8 /1 名 ) であった. 対象児はすべて, 公立の小 中学校の通常の学級に在籍していた. 2. 手続き教育相談の対象児とその保護者が本教室に来談した際のインテーク面接において, 本教室の心理専門スタッフが主訴に関する聴き取りをおこなった. さらに, 子どもの抱える困難についてより詳細に把握するため, 保護者に対して自由記述回答形式のアンケートを実施した. このアンケートは, 聞く, 話す, 読む, 書く, 計算する, 推論する, 行動面, 運動面 の領域とそれぞれの領域に該当する具体的な特徴を例示したうえで, 現時点で気になっている項目についてのみ具体的な内容を記述するよう求めるものであった. これらの資料をもとに, 書き の困難に関する主訴を抽出した. 抽出された 書き の困難に関する主訴内容について, 海津 (2003) 7) が示した 書く 領域にかかわるつまずきの要因に基づいて, 聴覚 / 視覚的弁別 統合 群, - 20 -

書き困難に関する主訴の内容別による WISC-III プロフィールの特徴 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 群, 視覚 - 運動統合 群, ( 漢字 ) 視覚認知 記憶 群に分類した. 各分類における主訴内容の詳細については, 表 1 に示したとおりである. なお, 複数の分類項目に該当する主訴内容を有している事例については, 該当するそれぞれの群に重複してカウントすることにした. WISC-III の実施は, 本検査に習熟した心理専門スタッフが担当した. 全ての対象児の検査は, 同じ心理専門スタッフにより実施された. 検査は, 静かな部屋で, 標準的な検査法に基づき個別に実施された. 検査の実施に先立ち, 保護者ならびに対象児に対して検査内容について説明して同意を得た. 統計的検定では,WISC-III における 3 つの IQ( 全検査 IQ: FIQ, 言語性 IQ: VIQ, 動作性 IQ: PIQ),4 つの群指数 ( 言語理解 : VC, 知覚統合 : PO, 注意記憶 : FD, 処理速度 : PS), 13 の下位検査評価点 ( 知識, 類似, 算数, 単語, 理解, 数唱, 絵画完成, 符号, 絵画配列, 積木模様, 組合せ, 記号探し, 迷路 ) の各指標について分析したが, 本稿では特に群指数に着目して報告することにする. Ⅲ. 結果 書き の困難に関する主訴内容による分類の結果, それぞれの群に該当した人数は, 聴覚 / 視覚的弁別 統合 群が 15 名, 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 群が 43 名, 視覚 - 運動統合 群が 38 名, ( 漢字 ) 視覚認知 記憶 群が 17 名であった. 各群における性別人数ならびに平均年齢と標準偏差を表 2 に示す. 各群の平均年齢をみると, 聴覚 / 視覚的弁別 統合 に該当する主訴のある者は小学校低学年に多く, 一方, ( 漢字 ) 視覚認知 記憶 に該当する主訴のある者には小学校高学年以上の年齢層で多いことが明らかであった. 方法で記載したように, 本研究では, 該当する主訴が複数ある者については, それぞれの群に重複してカウントすることにした. 主訴内容の組み合わせ別による人数を表 3 に示す. 一つの主訴内容のみに該当した対象児は 32 名 ( 全対象児のうち 47.1%) であり, そのうち 18 名は 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 群に該当した. なお, 全ての主訴内容に該当する者は皆無であった. 表 1 書き 困難の分類における主訴の内容 ( 太字の項目は, 実際に該当する報告があった事項を示す ) 分類聴覚 / 視覚的弁別 統合 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 視覚 - 運動統合 主訴の内容 促音や拗音などの特殊音節が正しく書けない 脱字や不必要な文字の付加がみられる 聴写をすると正確に書き取ることができない 文字の順序が入れ替わったりする 文を書く際, 語の脱落がみられる 書けない平仮名や片仮名がある 句読点が抜けたり, 正しく打てなかったりする 鏡文字がある 事実の羅列のみで, 内容的に乏しい 決まったパターンの文章しか書けない 構造的に入り組んだ文章を書くことが難しい 思いつくままに書き, 筋道の通った文章を書くことが難しい 文法的に不正確な( 単 ) 文を書く 限られた量の文章しか書けない 助詞を適切に使うことが難しい 読みにくい字を書く 書くときの姿勢や, 鉛筆などの用具の使い方がぎこちない 書くのが遅い 文字を視写することが難しい( 時間がかかる ) 独特の筆順で書く 書けない漢字がある ( 漢字 ) 視覚認知 記憶 漢字の細かい部分を書き間違える 漢字を書く際, 上下や左右が入れ替わる - 21 -

それぞれの群について,WISC-III における 3 つの IQ,4 つの群指数,13 の下位検査評価点の平均値を図 1 に示す. 標準化サンプルの平均からマイナス 1 標準偏差の値を基準にしてみると, 聴覚 / 視覚的弁別 統合 群では, FIQ,PIQ, 知覚統合, 符号, 類似, 積木模様, 組合せ が基準を下まわる評価点であった. ( 漢字 ) 視覚認知 記憶 群では, 数唱 の平均値が基準を下まわる評価点であった. 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 群と 視覚 - 運動統合 群については, 基準を下まわる指標はみられなかった. なお参考までに, 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 群のうち, この主訴内容のみに該当した 18 名を抽出して分析した. その結果, 全体の傾向とほぼ同等であったが, わずかではあるが FIQ と PIQ が基準を下まわる数値を示した (FIQ: 平均 84.8, SD 13.3; PIQ: 平均 84.8, SD 13.2). それぞれの群について, 群指数を対象に繰り返しのある一元配置分散分析を実施した. その結果, 群指数間に有意差が認められたのは 視覚 - 運動統合 群のみであった (F (3,111) = 5.60, p =.001).Tukey の HSD 法による多重比較を行ったところ, 言語理解 と 注意記憶 に比較して 処理速度 の得点が有意に低かった (p <.05). 視覚 - 運動統合 群以外の 3 群については, いずれも有意ではなかった ( 聴覚 / 視覚的弁別 統合 群 : F (3,42) = 1.62; 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 群 : F (3,126) = 1.41; ( 漢字 ) 視覚認知 記憶 群 : F (3,48) = 1.30, いずれも ns). 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 群と 視覚 - 運動統合 群は, 該当者がそれぞれ 43 名と 38 名と人数が多かったので, 小学校低学年 ( 小学 1 年生から 3 年生 ; 以下, 低学年群とする ) と小学校高学年 中学生 ( 小学 4 年生から 6 年生と中学生 ; 以下, 高学年群とする ) の 2 群に分けて対比を試みた. 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 群については, 低 表 2 書き 困難の主訴内容による分類結果 主訴内容人数 ( 男 / 女 ) 平均年齢 ( 標準偏差 ) 聴覚 / 視覚的弁別 統合 15 (10/5) 7.6 (1.7) 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 43 (35/8) 9.5 (2.3) 視覚 - 運動統合 38 (34/4) 9.1 (2.6) ( 漢字 ) 視覚認知 記憶 17 (14/3) 10.5 (2.6) 学年群は 19 名, 高学年群は 24 名であった. 低学年群の FIQ は 87.9 (SD 12.8), 高学年群は 88.6 (SD 12.4) であり, 両群の知能水準はほぼ等しかった. 両群それぞれの群指数を図 2A に示す. 学年 ( 低学年 / 高学年 ) を被験者間変数, 群指数を被験者内変数とした 2 要因分散分析を行った. その結果, 学年と群指数の主効果は有意でなかったが ( 学年 : F (1,41) = 0.58; 群指数 : F (3,123) = 1.90, いずれも ns), 交互作用が有意であった (F (3,123) = 3.26, p =.024). 交互作用が有意であったので Tukey の HSD 法による多重比較を行った結果, 低学年群における 知覚統合 と 注意記憶 の間に有意差があった (p <.05). 視覚 - 運動統合 群について, 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 群での分析と同様, 低学年群と高学年群で比較した. 低学年群は 21 名, 高学年群は 17 名であった. 低学年群の FIQ は 92.1 (SD 14.6), 高学年群は 91.5 (SD 11.3) で, 両群の全般的な知能水準はほぼ等しかった. 両群それぞれの群指数を図 2B に示す. 学年 ( 低学年 / 高学年 ) を被験者間変数, 群指数を被験者内変数とした 2 要因分散分析を実施した. その結果, 群指数の主効果が有意であったが ( 群指数 : F (3,108) = 5.95, p <.001), 学年の主効果と交互作用について有意ではなかった ( 学年 : F (1,36) = 0.65; 交互作用 : F (3,108) = 2.05, いずれも ns). 以上より, 視覚 - 運動統合 群では, 主効果 交互作用ともに学年による影響は認められなかった. 表 3 書き 困難の主訴内容の組み合わせ別人数 主訴内容つまずきの有無 (+: あり, -: なし ) 聴覚 / 視覚的弁別 統合 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) + - - - + + + - - - + + + - + - + - - + - - + + - + + - + + 視覚 - 運動統合 - - + - - + - + - + + - + + + ( 漢字 ) 視覚認知 記憶 - - - + - - + - + + - + + + + 人数 2 18 9 3 2 4 1 13 3 4 3 1 2 3 0-22 -

書き困難に関する主訴の内容別による WISC-III プロフィールの特徴 図 1 書き 困難の主訴内容別分類における IQ, 群指数, 下位検査評価点の平均値 ( 波線は標準化サンプルの平均 -1SD ライン ) 図 2 構成( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 群と 視覚- 運動統合 群における低学年と高学年それぞれにおける群指数の平均得点 - 23 -

Ⅳ. 考察 本研究では, 子どもの 書き 領域におけるつまずきについて主訴の観点からとらえ, 主訴内容と WISC-III に反映される認知特性の関連性について検討することを目的とした. 書き 困難の主訴がある小 中学生を対象として, 聴覚 / 視覚的弁別 統合 群, 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 群, 視覚 - 運動統合 群, ( 漢字 ) 視覚認知 記憶 群の 4 つに分類して検討した. 各群で群指数を比較した結果, 視覚 - 運動統合 群では群指数間に有意差が認められたが, 他の 3 群については有意に至らなかった. 以下, それぞれの群について, 海津 (2003) 7) の研究と比較しながら考察する. 聴覚 / 視覚的弁別 統合 について, 海津 (2003) 7) では 注意記憶 と 言語理解 の間に有意な相関, 特に 注意記憶 と強い相関を認めた. 一方, 本研究では群指数間に有意差はなく, 海津 (2003) 7) の結果と一致していない. 本研究で平均マイナス 1 標準偏差を下まわる値を示したのは, 群指数では 知覚統合 であり, 下位検査では 符号 類似 積木模様 組合せ であった. 類似 を除けば, 視覚処理を要する課題で低い数値を示したことから, 聴覚 / 視覚的弁別 統合 に該当する主訴の背景には, 視覚認知や視空間構成行為に関わる認知機能の弱さがあることが推察された. 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) について, 海津 (2003) 7) ではいずれの群指数とも有意な相関がなかった. 本研究においても群指数間に有意差はなく, 一致した結果であるといえる. 本研究では, 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 群を低学年と高学年の 2 群に分けて群指数を比較した. その結果, 低学年群で群指数間に有意な偏りが認められた. 最も低い得点を示したのは 知覚統合 であったことから, 小学校低学年の場合, 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) という命名が示唆している文章構成や文章表現そのものではなく, それらの基盤となっている書字に関わる視空間認知機能に問題があることが推察される. 字を正確に書くこと, あるいは行や枠に合わせて字を書くことに困難があり, その遂行に多くの注意資源を必要とする場合, 相対的に文章構成や表現への資源配分は低下することになる. そのような背景の下に, 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) における困難が主訴としてあげられたのではなかろうか. 一方, 小学校高学年以上では, 群指 数間に差はなく, 上記のような書字に関連する困難がないにもかかわらず, 文章構成 文章表現につまずきを示していることになる. WISC-III は知能検査であることを考慮すれば, この検査より文章構成 文章表現に関わる統語論的 語用論的理解の状態について判断することは難しい. 小学校高学年以上で 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) に関する困難を主訴する子どもを対象とした場合には, その評価に適合した言語検査の開発が必要であろう. 視覚 - 運動統合 について, 海津 (2003) 7) では 注意記憶 と 処理速度 の間に有意な相関, 特に 注意記憶 と強い相関を認めた. 本研究における群指数の比較では, 処理速度 の弱さが認められた. 注意記憶 については, 下位検査を含めて, 特に問題はなかった. 以上より, 海津 (2003) 7) とは, 部分的に一致した結果であるといえる. 下位検査のプロフィール ( 図 1) を見ると, 符号 の評価点に落ち込みがみられる. 符号 に関与する認知的要因は数多く想定されるが, 書き速度 (writing speed) と有意な相関があることが報告されている (Laux & Lane, 1985 13) ). 視覚 - 運動統合 の内容についても, 書くことの遅さを主訴とするものが実際に上がっており, 視覚 - 運動統合 に関連する要因として 処理速度 の妥当性は高いと考えられる. なお, 構成 ( 統語 )/ 表現 ( 語用 ) 群と同様に, 学年での違いについて分析したが, 視覚 - 運動統合 では学年の影響を認められなかった. このことより, 視覚 - 運動統合 については, 経年変化が小さく, 比較的安定した傾向にあることが推察された. ( 漢字 ) 視覚認知 記憶 について, 海津 (2003) 7) ではいずれの群指数とも有意な相関がなかった. 本研究においても群指数間に有意差はなく, 一致した結果であるといえる. ただし, 下位検査プロフィールをみると, 数唱 の評価点が低いという特徴がみられた ( 図 1). 漢字の書字困難と 数唱 の関連性について解釈することは難しいが, ひとつに 数唱 が反映するワーキングメモリの弱さがあり, 漢字学習において効率的な方略の選択やその適切な使用がなされていないことが推察される ( 田中ら, 2010 22) ). あるいは, 数唱 の低得点は継次 ( 順序 ) 処理の弱さを反映しており, 漢字構成要素の配列に誤りが生じる要因になっている可能性が推察される. これらの解釈の妥当性については, 今後さらに検討する必要がある. - 24 -

書き困難に関する主訴の内容別による WISC-III プロフィールの特徴 以上, 海津 (2003) 7) の研究と比較して考察してきたが, 本研究との方法的差異について簡単にまとめてみる. 第一に, 海津 (2003) 7) は LD 児全般を対象としたが, 本研究では 書き 困難に関する主訴のある者を抽出したことで, より限定性の高いサンプリングであるといえる. 第二に, 海津 (2003) 7) は小学生を対象としたが, 本研究では中学生まで対象に含めた. 小 中学生を対象としたことで年齢幅が広がり, 学年による影響について検討することができた. ただし, 本研究では中学生のサンプル数が少なかったので, さらに多数を対象とした検証が必要である. 第三に, 海津 (2003) 7) はつまずき要因 ( 主訴 ) と群指数の関連性について相関分析により検証したが, 本研究では分散分析による検定を用いた. 統計手法の違いが知見の不一致に関与している可能性が推察されるので, 知見の再現性を確認するには同じ統計手法による検証が必要であると考える. 最後に, 海津 (2003) 7) は対象児における学力の評価と WISC-III の検査をその指導者に依頼する手続きをとったが, 本研究では全ての評価を同じ検査者が担当した. よって本研究は, 海津 (2003) 7) に比べて, データ収集における条件の均一性が高い. 同一の機関 ( 場所 ), 同一の検査者により収集されたデータであることから, 評価者や検査者の個人差による影響がないデータであるという点で信頼性の高いものであるといえる. 最後に, 現時点では, 書き 領域につまずきのある子どもの認知特性を把握するためのアセスメントとして,WISC-III が使用されることが多い. しかしながら, このことは, WISC-III が適した検査であるからではなく, 書き 困難の基底にある認知機能不全を詳細に評価することができる検査がほとんど開発されていないことに起因する ( 大庭, 2008 18) ). WISC-III は, 一般的な知能検査であり, 当然のことであるが 書き など特定の領域におけるつまずきを評価する検査ではない. 領域に特定的な評価を可能とする検査を開発することが今後の重要な課題である. 文献 1) Assesmany, A., McIntosh, D. E., Phelps, L. et al.:discriminant validity of the WISC-III with children classified with ADHD. Journal of Psychoeducational Assessment, 19, 137-147. 2) Berninger, V. W., Mizokawa, D. T., & Bragg, R. (1991):Theory-based diagnosis and remediation of writing disabilities. Journal of School Psychology, 29, 57-79. 3) Chittooran, M. M., & Tait, R. C. (2005): Understanding and implementing neuropsychologically based written language interventions. In R. C. D Amato, E. Fletcher- Janzen, & C. R. Reynolds(Eds.) Handbook of school neuropsychology. John Wiley & Sons, Inc. Hoboken, N.J. Pp.777-803. 4) 惠羅修吉 (2007): 根拠に基づく教育実践と心理学. 上越教育大学障害児教育実践センター紀要, 13, 7-12. 5) 藤田和弘 上野一彦 前川久男他 ( 編著 ) (2005):WISC-III アセスメント事例集. 日本文化科学社. 6) 伊藤恵子 (2007): アスペルガー障害と高機能自閉性障害における認知特徴の相違 : WISC-III 知能検査結果からの検討. 言語聴覚研究,4,48-55. 7) 海津亜希子 (2003):LD の学力 - 認知能力モデルに関する研究 : LDSC と WISC-III の関連から. LD 研究, 12, 182-203. 8) 神尾陽子 十一元三 (2000): 高機能自閉症の言語 :Wechsler 知能検査所見による分析. 児童青年精神医学とその近接領域, 41, 32-43. 9) Kaufman, A. S., & Lichtenberger, E. O. (2000): Essentials of WISC-III and WPPSI-R assessment. Wiley & Sons, Inc. New York. 10) Koyama, T., Kamio, Y., Inada, N. et al. (2009):Sex differences in WISC-III profiles of children with high-functioning pervasive developmental disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders, 39, 135-141. 11) 小山智典 立森久照 長田洋和他 (2003): WISC-III による高機能広汎性発達障害と注意欠陥 / 多動性障害の認知プロフィールの比較. 精神医学, 45, 809-815. 12) 小山智典 立森久照 長田洋和他 (2004): WISC-III によるアスペルガー障害と注意欠陥 / 多動性障害の認知プロフィールの比較. 精神医学, 46, 645-647. - 25 -

13) Laux, L. F., & Lane, D. M. (1985):Information processing components of substitution test performance. Intelligence, 9, 111-136. 14) Mayes, S. D., & Calhoun, S. L. (2006): WISC-IV and WISC-III profiles in children with ADHD. Journal of Attention Disorders, 9, 486-493. 15) Mayes, S. D., Calhoun, S. L., & Crowell, E. W. (1998):WISC-III freedom from distractibility as a measure of attention in children with and without Attention Deficit Hyperactivity Disorder. Journal of Attention Disorders, 2, 217-227. 16) 日本版 WISC-III 刊行委員会 (1998): 日本版 WISC-III 知能検査法. 日本文化科学社. 17) Nydén, A., Billstedt, E., Hjelmquist, E. et al. (2001):Neurocognitive stability in Asperger syndrome, ADHD, and reading and writing disorder: A pilot study. Developmental Medicine and Child Neurology, 43, 165-171. 18) 大庭重治 (2008): 平仮名書字につまずきを示す子どもの書字特性の把握と学習支援. 障害者問題研究, 35, 254-262. 19) Prifitera, A., & Saklofske, D. H. (Eds.) (1998) :WISC-III clinical use and interpretation: Scientist-practitioner perspectives. Academic Press. London: UK. 20) Scheirs, J. G. M., & Timmers, E. A. (2009) :Differentiating among children with PDD- NOS, ADHD, and those with a combined diagnosison the basis of WISC-III profiles. Journal of Autism and Developmental Disorders, 39, 549-556. 21) 篁倫子 (2008): 支援に生かすアセスメント. LD 研究, 17, 268-276. 22) 田中栄美子 惠羅修吉 馬場広充 (2010): 小学生における読み書き困難の主訴と WISC-III の関連性 : 読み書き困難の主訴の有無による比較. LD 研究, 19, 167-173. 23) 上野一彦 海津亜希子 服部美佳子 ( 編 ) (2005): 軽度発達障害の心理アセスメント : WISC-III の上手な利用と事例. 日本文化科学社. 24) 宇野彰 春原則子 (2008): 支援や指導に繋がる研究の必要性. LD 研究, 17, 11-15. 付記本研究は, 財団法人三菱財団より平成 21 年度社会福祉事業助成金の援助を受けて実施された - 26 -