オーバーサンプリングによる ADC12 の高分解能

Similar documents
スライド 1

インターリーブADCでのタイミングスキュー影響のデジタル補正技術

スライド 1

Microsoft PowerPoint - クロックジッタ_Handsout.ppt

RMS(Root Mean Square value 実効値 ) 実効値は AC の電圧と電流両方の値を規定する 最も一般的で便利な値です AC 波形の実効値はその波形から得られる パワーのレベルを示すものであり AC 信号の最も重要な属性となります 実効値の計算は AC の電流波形と それによって

Microsoft PowerPoint - 計測2.ppt [互換モード]

2. 仕様 電源 :USB バスパワー (USB 入力の 5V 電源を使用します ) 出力 : 3.5mm ステレオジャック アナログステレオ出力 最大 20mArms 対応ヘッドホンインピーダンス 1Ω~500Ω RCA ピンジャック アナログ 2ch 出力 (L R) ラインレベル ヘッドホンア

arduino プログラミング課題集 ( Ver /06/01 ) arduino と各種ボードを組み合わせ 制御するためのプログラミングを学 ぼう! 1 入出力ポートの設定と利用方法 (1) 制御( コントロール ) する とは 外部装置( ペリフェラル ) が必要とする信号をマイ

周波数特性解析

アクティブフィルタ テスト容易化設計

スライド 1

形式 :WYPD 絶縁 2 出力計装用変換器 W UNIT シリーズ パルスアイソレータ ( センサ用電源付 2 出力形 ) 主な機能と特長 パルス入力信号を絶縁して各種のパルス出力信号に変換 オープンコレクタ 電圧パルス リレー接点パルス出力を用意 センサ用電源内蔵 耐電圧 2000V AC 密着

Taro-DSノート

形式 :PDU 計装用プラグイン形変換器 M UNIT シリーズ パルス分周変換器 ( レンジ可変形 ) 主な機能と特長 パルス入力信号を分周 絶縁して単位パルス出力信号に変換 センサ用電源内蔵 パルス分周比は前面のスイッチで可変 出力は均等パルス オープンコレクタ 電圧パルス リレー接点パルス出力

Microsoft PowerPoint - RL78G1E_スタータキットデモ手順_2012_1119修正版.pptx

内容 1. 仕様 動作確認条件 ハードウェア説明 使用端子一覧 ソフトウェア説明 動作概要 ファイル構成 オプション設定メモリ 定数一覧 変数一

機器仕様構造 : プラグイン構造接続方式 入出力信号 供給電源 :M3.5 ねじ端子接続 ( 締付トルク 0.8N m) NestBus RUN 接点出力 : コネクタ形ユーロ端子台 ( 適用電線サイズ :0.2~2.5mm 2 剥離長 7mm) 端子ねじ材質 : 鉄にクロメート処理ハウジング材質

Microsoft Word - QEX_2014_feb.doc

形式 :WJPAD 絶縁 2 出力計装用変換器 W UNIT シリーズ 本製品は生産中止となりました 代替機種として WJPAD2 をご検討下さい パルスアナログ変換器 ( センサ用電源付 スペックソフト形 ) 主な機能と特長 パルス入力信号を直流出力信号に変換 センサ用電源内蔵 無電圧接点パルス

NJM78L00S 3 端子正定電圧電源 概要 NJM78L00S は Io=100mA の 3 端子正定電圧電源です 既存の NJM78L00 と比較し 出力電圧精度の向上 動作温度範囲の拡大 セラミックコンデンサ対応および 3.3V の出力電圧もラインアップしました 外形図 特長 出力電流 10

CMOS リニアイメージセンサ用駆動回路 C CMOS リニアイメージセンサ S 等用 C は当社製 CMOSリニアイメージセンサ S 等用に開発された駆動回路です USB 2.0インターフェースを用いて C と PCを接続

1. A/D 入力について分解能 12bit の A/D コンバータ入力です A/D 入力電圧とディジタル値との対応は理論上 入力電圧 0V : 0 入力電圧 +3V : 4095 です 実際はオフセットと傾きがあり ぴったりこの数値にはなりません 2. A/D 入力に使用する信号 STM32L_A

Microsoft PowerPoint - 【最終提出版】 MATLAB_EXPO2014講演資料_ルネサス菅原.pptx

フィードバック ~ 様々な電子回路の性質 ~ 実験 (1) 目的実験 (1) では 非反転増幅器の増幅率や位相差が 回路を構成する抵抗値や入力信号の周波数によってどのように変わるのかを調べる 実験方法 図 1 のような自由振動回路を組み オペアンプの + 入力端子を接地したときの出力電圧 が 0 と

NJM2591 音声通信用ミキサ付き 100MHz 入力 450kHzFM IF 検波 IC 概要 外形 NJM259 1は 1.8 V~9.0 Vで動作する低消費電流タイプの音声通信機器用 FM IF 検波 IC で IF 周波数を 450kHz ( 標準 ) としています 発振器 ミキサ IF

1. プログラム実行時の動作プログラムを実行すると以下のように動作します 1) NUCLEO-F401RE 上の LED LD2( 緑 ) が 200mSec 間隔で点滅します 2. プロジェクトの構成 2.1. プロジェクト F401N_BlinkLD2 の起動画面 TrueSTUDIO で作成し

:30 18:00 9:30 12:00 13:00 17:00

HDLトレーナーサンプルプログラム説明書

iCLR

ETCB Manual

S0027&S0028 取扱説明書 1-1 充電をするには 1-2 電源を入れるには 1-3 電源を切るには 1-4 充電が少なくなった場合 1-5 動作切り替え 目次 2-1 動画録画 2-2 静止画撮影 2-3 PC で再生するには 3-1 録画装置を HDMI コードでテレビモニターに繋いで使

形式 :MXAP 計装用プラグイン形変換器 MX UNIT シリーズ アナログパルス変換器 ( デジタル設定形 ) 主な機能と特長 直流入力信号を単位パルス信号に変換 出力周波数レンジ 出力パルス幅を前面パネルで設定可能 ドロップアウト機能付 ループテスト出力付 出力パルス数をカウント表示 ( 手動

Microsoft PowerPoint - 9.Analog.ppt

三菱電機マイコン機器ソフトウエア株式会社

データ収集用 NIM/CAMAC モジュールマニュアル 2006/5/23 目次 クレート コントローラ CC/ NIM ADC 1821 (Seiko EG&G)...3 ADC インターフェイス U デッドタイム

小林研究室2000年度の研究成果

形式 :TMS テレメータ テレメータ変換器 (300bps 専用回線用 ) 主な機能と特長 アナログ 1 点または 2 点 接点 2 点を送受信するテレメータ変換器 帯域品目 3.4kHz 300bps アプリケーション例 小規模テレメータシステム 符号品目 50bps 用テレメータ ( 形式 :

4 本体の入力を USB-B 端子に対応する入力に切り換える 下記の画面表示になります 手順 8 の画面になるまでしばらくお待ちください 5 解凍したフォルダー内にある "Setup.exe" をダブルクリックして実行する InstallShield ウィザードが表示されます xxxxxxxxxx.

Microsoft PowerPoint pptx

(Microsoft Word - \216\374\224g\220\224\212g\222\243\203A\203_\203v\203^QEX.doc)

形式 :RPPD 計装用プラグイン形変換器 M UNIT シリーズ パルスアイソレータ ( センサ用電源付 ロータリエンコーダ用 ) 主な機能と特長 ロータリエンコーダの 2 相パルス入力信号を絶縁して各種の 2 相パルス出力信号に変換 オープンコレクタ 電圧パルス パワーフォト MOS リレー R

DL_Tool B J

GL7000_vol5_1

モータ HILS の概要 1 はじめに モータ HILS の需要 自動車の電子化及び 電気自動車やハイブリッド車の実用化に伴い モータの使用数が増大しています 従来行われていた駆動用モータ単体のシミュレーション レシプロエンジンとモータの駆動力分配制御シミュレーションの利用に加え パワーウインドやサ

PLZ-5W_ KPRI21.pdf

ポータブル ph 計 PT-10 取扱説明書 ザルトリウス株式会社 1/21 頁

電気的特性 (Ta=25 C) 項目 記号 条件 Min. Typ. Max. 単位 読み出し周波数 * 3 fop khz ラインレート * Hz 変換ゲイン Gc ゲイン =2-5 - e-/adu トリガ出力電圧 Highレベル Vdd V -

LaunchPadベースのMSP430 UART BSLインターフェイス

5400 エミュレーター 設置と操作の手引き(第8章~第10章)

NI 6601/6602 キャリブレーション手順 - National Instruments

49Z qxd (Page 1)

ユーザーマニュアル 製品概要 プロジェクターレンズ 2 投影オン / オフボタン 3 フォーカスリング 4 ボリューム調節ボタン 5 メニューボタン 6 トップホルダー * 7 充電モードボタン 8 LED インジケータ 9 HDMI オスコ

4 本体の入力を USB-B 端子に対応する入力に切り換える 下記の画面表示になります 手順 8 の画面になるまでしばらくお待ちください 5 解凍したフォルダー内にある "Setup.exe" をダブルクリックして実行する InstallShield ウィザードが表示されます xxxxxxxxxx.

スペクトルに対応する英語はスペクトラム(spectrum)です

CCD リニアイメージセンサ用駆動回路 C CCD リニアイメージセンサ (S11155/S ) 用 C は 当社製 CCDリニアイメージセンサ S11155/S 用に開発された駆動回路です S11155/S11156-

Taro-82ADAカ.jtd

形式 :KS2TR2 プラグイン形 FA 用変換器 K UNIT シリーズ 温度センサ入力警報器 ( デジタル設定 2 点警報形 ) 主な機能と特長 指示計機能 全ての設定を前面パネルにより設定可能 アプリケーション例 アナログ値警報接点 機器の異常警報 R:24V DC( 許容範囲 ±10% リッ

neostrack manual - Japanese

御使用の前に必ず本取扱説明書をよく読んで理解して 安全の為の指示に従って下さい もし 不明点が有れば販売店か弊社におたずね下さい 目次 1. はじめに 対応 ios デバイス ダウンロードおよびライセンス認証 ダウンロード ライセ

AI1608AYUSB手順V3

目次 1 I2Cとは 13 結線写真 2 センサの多くがI2Cに対応 14 WHO_AM_I 3 マイコンでのI2C通信例 15 I2C読込みプログラム 4 とは 16 I2C読込みスクリプト概要① 5 タイミングパラメータ 17 I2C読込みスクリプト概要② 6 書込み 18 センサ読込みプログラ

フロントエンド IC 付光センサ S CR S CR 各種光量の検出に適した小型 APD Si APD とプリアンプを一体化した小型光デバイスです 外乱光の影響を低減するための DC フィードバック回路を内蔵していま す また 優れたノイズ特性 周波数特性を実現しています

elm1117hh_jp.indd

電気的特性 (Ta=25 C) 項目 記号 Min. Typ. Max. 単位 電源電圧 Vdd V 電源電流 Ivdd ma サンプルホールド電圧 1 Vref V サンプルホールド電流 1 Iref ma サンプルホールド電

等価回路図 絶対最大定格 (T a = 25ºC) 項目記号定格単位 入力電圧 1 V IN 15 V 入力電圧 2 V STB GND-0.3~V IN+0.3 V 出力電圧 V GND-0.3~V IN+0.3 V 出力電流 I 120 ma 許容損失 P D 200 mw 動作温度範囲 T o

Welcome-Kit ~STM32L4-Nucleo~

CMOS リニアイメージセンサ用駆動回路 C10808 シリーズ 蓄積時間の可変機能付き 高精度駆動回路 C10808 シリーズは 電流出力タイプ CMOS リニアイメージセンサ S10111~S10114 シリーズ S10121~S10124 シリーズ (-01) 用に設計された駆動回路です セン

PFC回路とAC-DC変換回路の研究

NJM78L00 3 端子正定電圧電源 概要高利得誤差増幅器, 温度補償回路, 定電圧ダイオードなどにより構成され, さらに内部に電流制限回路, 熱暴走に対する保護回路を有する, 高性能安定化電源用素子で, ツェナーダイオード / 抵抗の組合せ回路に比べ出力インピーダンスが改良され, 無効電流が小さ

ギョロモガイガー Ⅱ 操作ガイド ギョロガイガー Ⅱ 操作ガイド 本書では ギョロガイガー Ⅱ の操作方法についてご説明いたします 目次 1. 概要 コンセプト 主な機能 基本仕様 インストール 使い方...

LOS Detection Comparison in Optical Receiver

Microsoft Word - TS03NKHAspec2.docx

この取扱説明書について USB DAC 端子に USB ケーブルでコンピューターを接続すると コンピューターからの音声信号を再生できます この機能を使って PCM を再生する場合 ドライバーソフトウェアをコンピューターにインストールする必要はありません ただし この機能を使って DSD 音源をネイテ

降圧コンバータIC のスナバ回路 : パワーマネジメント

Dahua DMSS操作手順書

01

QuartusII SOPC_Builderで利用できるGPIF-AVALONブリッジとは?

形式 :KAPU プラグイン形 FA 用変換器 K UNIT シリーズ アナログパルス変換器 ( レンジ可変形 ) 主な機能と特長 直流入力信号を単位パルス信号に変換 オープンコレクタ 5V 電圧パルス リレー接点出力を用意 出力周波数レンジは前面から可変 ドロップアウトは前面から可変 耐電圧 20

NJU72501 チャージポンプ内蔵 圧電用スイッチングドライバ 概要 NJU72501はチャージポンプ回路を内蔵し 最大で3V 入力から 18Vppで圧電サウンダを駆動することができます このチャージポンプ回路には1 倍 2 倍 3 倍昇圧切り替え機能を備えており 圧電サウンダの音量を変更すること

EB-RL7023+SB/D2

形式 :AEDY 直流出力付リミッタラーム AE UNIT シリーズ ディストリビュータリミッタラーム主な機能と特長 直流出力付プラグイン形の上下限警報器 入力短絡保護回路付 サムロータリスイッチ設定方式 ( 最小桁 1%) 警報時のリレー励磁 非励磁が選択可能 出力接点はトランスファ形 (c 接点

                     

Microsoft Word - N-TM307取扱説明書.doc

DA-300USB JP_GS_Final_1128.indd

スライド 1

MPPC 用電源 C 高精度温度補償機能を内蔵した MPPC 用バイアス電源 C は MPPC (Multi-Pixel Photon Counter) を駆動するために最適化された高電圧電源です 最大で90 Vを出力することができます 温度変化を伴う環境においても M

スライド 1

PowerPoint プレゼンテーション

絶対最大定格 (T a =25 ) 項目記号定格単位 入力電圧 V IN 消費電力 P D (7805~7810) 35 (7812~7815) 35 (7818~7824) 40 TO-220F 16(T C 70 ) TO (T C 25 ) 1(Ta=25 ) V W 接合部温度

計測コラム emm182号用

スライド 1

Microsoft Word - HPトランスデューサアンプ_SKT100C .doc

スライド 1

TO: Katie Magee

Microsoft PowerPoint - DIX9211_Mega8_R24.pptx

ADC121S Bit, ksps, Diff Input, Micro Pwr Sampling ADC (jp)

MS5145 USB シリアル エミュレーション モードの設定

Microsoft Word - PS Audio PowerPlant 使㆗ã†fiㆪㆊ_ docx

線形システム応答 Linear System response

lpc センサーを 2 スイッチ出力 1 アナログ出力及び 1 アナログ出力プラス 1 スイッチ出力バージョンとしてご利用いただけます 特徴 M18 のデザインにアナログ出力プラス 1pnp スイッチング出力 自動同期 ベーシック 至近距離で最大 10 個のセンサーが同時操作可能 pnpまたはnpn

Transcription:

www.tij.co.jp アプリケーション レポート JAJA088-2007 年 8 月 ADC12 オーバーサンプリングによる高分解能の実現 Harman Grewal ( 日本テキサス インスツルメンツ ( 株 ) 菅原仁 訳 ) MSP430 まえがきこのアプリケーション レポートでは オーバーサンプリング手法により ADコンバータ (ADC) が提供するビット数よりも高い分解能を実現する方法を説明します ここでは MSP430 ADC12 を用いて 12bit より高い分解能を取得する技術を紹介します また このサンプルコードで使用した基板のガーバー ファイルも提供しています ( 各資料は 英文アプリケーション レポート Oversampling the ADC12 for Higher Resolution SLAA323 をご覧下さい ) http://focus.ti.com/mcu/docs/mcusupporttechdocsc.tsp?sectionid=96&tabid=1502&abstractname=slaa323 目次 1. はじめに... 2 2. A-D コンバータの分解能... 2 2.1.Signal-to-Noise Ratio (SN 比 ) SNR... 2 2.2.ADC 分解能の改善... 2 3. アプリケーションのデモ... 4 3.1. 回路の解説... 4 3.2. ソフトウェア制御... 4 3.2.1.100-μV モード... 4 3.2.2. 温度モード... 4 3.2.3.16-bit 電圧測定モード... 4 3.2.4. オフ モード (LPM4)... 4 3.2.5. 温度校正モード... 4 3.2.6. 基準電圧校正モード... 4 4. ソフトウェアの解説... 5 4.1.Main()... 5 4.2.Voltage2()... 5 4.3.Temperature()... 5 4.4.Voltage()... 5 4.5.Check_cal()... 5 4.6.Temp_cal()... 5 4.7.Ref_cal()... 5 5. 結果... 6 6. 結論... 7 7. 参考文献... 7 SLAA323 翻訳版最新の英語版資料 http://www-s.ti.com/sc/techlit/slaa323.pdf 1

1. はじめに MCU に内蔵されるADCの分解能は コストと性能のバランスで決定されます より高い分解能のADCは コストが上がります しかしながら MCUではソフトウェアによりADCの性能をさらに高めることが可能であり 低価格な内蔵 ADCを使用して性能を向上することができます 性能の拡張は ソフトウェアによる校正 直線化 オーバーサンプリング デジタル フィルタなどにより実現できます ここでは オーバーサンプリングによるADC12 の高分解能を実現する方法を紹介します ここでの例では MSP430に搭載されているADC12の 200Kbps + の変換速度を使用しています 2. A-D コンバータの分解能 ADCでの最小ステップは 1LSBとなり ADCの仕様のひとつになります これはAD 変換の分解能を意味しており これによりアナログ入力に応じた最大カウント数が定義されます 多くのアプリケーションにおいて 大きな入力レンジ内の僅かな変動を測定することを要求されます 例えば 0-2500mVのレンジ内で 40μV 以下の変化の検出を要求されるかも知れません この場合 少なくとも16bit 以上の分解能が必要です 16bit 測定でのLSBは 式 (1) で示される電圧となります フル スケール電圧 ( 2 16 1 ) = ( 2.5V 0V ) 65535 = 38 μv (1) 2.1. Signal-to-Noise Ratio (SN 比 ) SNR 標本化 量子化の後 再生した波形のSN 比は アナログ入力 RMS(Root mean square) フル スケール値との比 (db) で表され RMS 量子化エラーとなります 実効分解能の向上は 変換 SN 比の改善とも言えます ADC 測定でのSN 比の理論的限界は アナログからデジタルへの変換がもたらす量子化エラーによる量子化ノイズが基準となります ADCフル スケール入力 (PP) での理想的なサイン波形のSN 比は 式 (2) で示されます SNR (db) = ( 6.02 N) + 1.76 (2) Nは デジタル変換ビット数入力信号のダイナミック レンジは AD 変換のフル レンジに合致する必要があります そうで無い場合 SN 比は 式 (2) で計算した結果よりも低くなります 例えば 理想的な12bit ADCのSN 比は 74dB となります 式 (2) を利用して 逆に実現したい分解能を求めることもできます 量子化ノイズ 温度ノイズ 基準ノイズ クロックのジッターなどがあるため 有効分解能 (ENOB) は Nよりも小さくなります ENOBは 実際の入力のサンプリングと収集されたデータのFFT 処理により定義されます SN+ ひずみ率 (SINAD) は 基準周波数に対する他の全ての高調波 RMSの大きさの和との比となります ENOBは 式 (2) のSNRをSINAD(SN+ ひずみ率 ) に置き換えることによりNをENOBとして計算できます SINADとSNRは 前述のダイナミックFFTテストにより取得できます 2.2. ADC 分解能の改善オーバーサンプリングは ADC 分解能改善の一般的な手法です 入力は 要求される最小ナイキスト サンプリング 係数よりも高い係数でサンプリングされます fs : サンプリング周波数 例えば オーバーサンプリングなしでのN-bit ADC では 100Hzの入力は200Hz( 2 100Hz) でサンプリングすることにより ADC 固有のENOBによるデジタル出力を得ることが可能です オーバーサンプリング係数 k = 16 のとき 同じ100Hz 入力は 3,200Hz (k 2 100Hz) でサンプリングされます オーバーサンプリングにより取得されたデータは 量子化ノイズを軽減するためデジタル フィルタによるローパスと間引きが行われ 結果 SNRが改善されます 改善されたSNRは高いENOB 性能となり 式 (3) で示されるように 改善されたSNR N オーバーサンプリング係数 k の関係となります SNR(dB) = ( 6.02 N ) + 1.76 + 10 log10(k) (3) k = fs / (2 fmax ), fs はサンプリング周波数 2 fmax はナイキスト周波数 2

図 1: オーバーサンプリング手法での信号の流れ 図 1は オーバーサンプリング手法での信号の流れを示しています 量子化ノイズはサンプリングの間 入力信号に加えられるホワイト ノイズとしてモデル化されます ホワイト ノイズを利用したオーバーサンプリングは オーバーサンプリング 係数を倍にする毎に 約 3dBまたは 1/2 bit の分解能が改善されます 16bit の分解能を実現するためには 12bit ADC でのオーバーサンプリング係数を256とする必要があります 表 1は オーバーサンプリング係数 SNR 実現可能な分解能改善ビット数を示しています 表 1: オーバーサンプリング係数 SNR 改善されるビット数の関係 ADC12 オーバーサンプリングによる高分解能の実現 3

3. アプリケーションのデモ 3.1. 回路の解説このデモ ボードでは LCD 機能が搭載されたMSP430FG439 と3Vのリチウム バッテリーを使用しています 基板のガーバー ファイルと回路図は このアプリケーション レポート ( 英文 ) に付随する ZIP ファイルに入っています 抵抗 R1 R2 キャパシタ C1 C2 C6 C7はRCフィルタを構成しており AVcc/DVccへのMCU 電源部からのノイズを軽減します アナログの性能を向上するため このようなフィルタが推奨されます キャパシタ C4 C11は 基準電圧用の蓄電キャパシタで 変換時の電流を提供するために必要です [2] 回路図をご参照下さい 3.2. ソフトウェア制御ボードは4つの動作モードと一つの校正モードからなり 下記に説明します 各モードにおいて 250ms 間隔でLCD 上にオーバーサンプリングと平均化された値が表示されます ADC12は連続して変換を行い サンプルは250ms 以内にFIRによる256 タップ平均移動フィルタを使用して平均化されます 3.2.1. 100-μV モードパワー オン時の初期状態となります 電圧は 100-μVの分解能で表示されます どのモードからでも スイッチ1(SW1) を押すことにより このモードになります 入力電圧は ボードに搭載されたポテンショ メーターまたは 外部電圧ソースにより可変され それに応じて表示値が変化します 3.2.2. 温度モードスイッチ2(SW2) を押すことにより このモードになります 温度は 0.01 の分解能で表示されます 注 : これは オン チップ温度センサーの精度ではありません このモードは オーバーサンプリングによる分解能改善のデモにのみ使用されます 3.2.3. 16-bit 電圧測定モードスイッチ3(SW3) を押すことにより このモードになります 電圧は16-bit 分解能で表示されます 観測される入力電圧は ポテンショ メーターまたは 外部電圧ソースにより可変します 3.2.4. オフ モード (LPM4) 100-μVモードで SW1を押すとこのモードになります もう一度 SW1を押すと100-μVモードに戻ります SW2やSW3を押しても影響はありません このモードでは LCDや全てのクロックが停止して デバイスは LPM4 モードになります 3.2.5. 温度校正モード 1. SW2を押しながら パワー オンします 2. LCDが電圧を表示した時に SW2を押すことにより 温度校正を行います 3. LEDが点滅して 温度校正モードであることを知らせます 初期温度値 (LCDに表示される) が79 Fを超えている場合 LEDが点灯します ( 点滅に代わって ) 4. SW1 SW2 を押すことにより 温度センサーのオフセットが校正され そのエリアでの温度を読み取ることができます 5. はじめに SW1またはSW2 を押すことにより 3 桁目を調整します 6. SW1 SW2を同時に1 秒間押すことにより 2 桁目を調整します 7. SW1 SW2を同時に1 秒間押すことにより 1 F づつ調整します 8. SW1 SW2を同時に1 秒間押すことにより Step5 に戻ります 9. その後 SW3を1 秒間押すと 校正データがフラッシュに書き込まれ デバイスは前述の3つの各モードで動作します 3.2.6. 基準電圧校正モード 1. SW2を押しながら パワー オンします 2. LCDが点灯したら SW2を離します 3. SW3を押すと デバイスは 基準電圧校正モードになります 4. LEDは点滅してそれを知らせます 5. LCD 上に表示される基準電圧値を見ながら ポテンショ メーターを調整します 6. 再度 SW1 SW2は LCDに表示される値を読んで 外部高精度電圧計で測定しながら基準電圧校正に使用されます 基準電圧 (Vref) はヘッダー J3 10 番ピンで測定可能です 7. SW4を再度押すことにより 校正データがフラッシュに書き込まれ デバイスは前述の3つの各モードで動作します 4 ADC12 オーバーサンプリングによる高分解能の実現

4. ソフトウェアの解説リセット後のコードの実行では low_level_init とinit_sys ルーチンが実行されウォッチ ドッグが停止され ポート LCD ベーシック タイマーが初期化されます ADC12は リピート シングル チャンネル モードにセットされ Timer_Bがサンプリング タイマーとして使用され サンプルは390us 毎に変換されます 4.1. Main() メイン ループは 250ms 毎にコールされ 各モード (100-μVモード 温度モード または16-bit 電圧測定モード ) を3.2で説明したようにスイッチ入力に応じて選択決定します 250ms のインターバルは LCDの更新にも使用され表示を見易くします 4.2. Voltage2() この関数は 100-μVモードとオフ モードを切り替えます また ADC12のマルチ サンプルと内部基準電圧 2.5Vを使ったチャンネル0の変換の設定を行います 4.3. Temperature() この関数は オン チップ温度センサーを利用した温度測定と それをLCDに表示するために使用されます また ADC12のマルチ サンプルと内部基準電圧 1.5Vを使ったチャンネル10の変換の設定を行います 4.4. Voltage() この関数は 16-bit 電圧測定モードに使用されます また ADC12のマルチ サンプルと内部基準電圧 2.5Vを使ったチャンネル0の変換の設定を行います 4.5. Check_cal() この関数は インフォメーション フラッシュ上に校正データがあるか空かを確認します もし消去されている場合は 適切な校正値が置かれます 4.6. Temp_cal() この関数は オフセットの増減により温度校正を行い 校正値をフラッシュに保存します 4.7. Ref_cal() この関数は refcal 値の増減により基準電圧の校正を行い 校正値をフラッシュに保存します ADC12 オーバーサンプリングによる高分解能の実現 5

5. 結果下記は 1LSBステップで増加させたDC 入力チャートです 1-LSBステップは 正確な16-bit DACにより生成されています 理想的な16-bit 変換器とオーバーサンプリング測定された12-bit 変換器の値が比較されています アナログ入力は 1 LSBステップで増加します 図 2のデータは 全体の電圧レンジが216となっています 図 3では ある一部を拡大しています エクセルのデータも ZIP ファイル内に入っています ( 英文アプリケーション レポート SLAA323 をご参照下さい ) http://focus.ti.com/mcu/docs/mcusupporttechdocsc.tsp?sectionid=96&tabid=1502&abstractname=slaa323 図 2: オーバーサンプリングと理想的なデータとの比較 ( 範囲全体 ) 図 3: オーバーサンプリングと理想的なデータとの比較 ( 一部を拡大 ) 6 ADC12 オーバーサンプリングによる高分解能の実現

6. 結論このアプリケーション レポートでは ADC12とオーバーサンプリング手法を用いて 高い分解能を実現することを説明しました オーバーサンプリングはアナログのアンチ エリアス フィルタ制約条件の低下時でも デジタルでのフィルタリングと間引きを実施することにより より高い実効分解能を実現する一つの手法です 例えば サインカーブのような時間と共に変化する入力信号でも ディザを入力に加えることで 分解能が向上します このアプローチは オーバーサンプリング技法 7 に記載されています [1] この解決法は MSP430FG439と内部オペアンプ タイマー DAC12[2] を使用して実現できると思われます [2] 最適なレイアウトと適切な電源部のデカップリングにより 高分解能システムの性能をさらに向上することができます デカップリング フィルタはできる限り電源部の近くに配置して下さい オーバーサンプリングは ADCの量子化ノイズに依存します 従いまして デバイス毎に差があるかも知れません 結果から考察すると オーバーサンプリング手法はADC12 でも12-bit 以上の実現に有効です 7. 参考文献 1.Oversampling Techniques using the TMS320C24x Family (SPRA461) 2. MSP430x4xx Family User s Guide (SLAU056) 3.Oversampling the ADC12 for Higher Resolution (SLAA323) ( 英文 ) http://focus.ti.com/mcu/docs/mcusupporttechdocsc.tsp?sectionid=96&tabid=1502&abstractname=slaa323 ADC12 オーバーサンプリングによる高分解能の実現 7

IMPORTANT NOTICE