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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

記 者 発 表(予 定)

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

生物時計の安定性の秘密を解明

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

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平成14年度研究報告

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

共同研究報告書

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

発症する X 連鎖 α サラセミア / 精神遅滞症候群のアミノレブリン酸による治療法の開発 ( 研究開発代表者 : 和田敬仁 ) 及び文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて行わ れました 研究概要図 1. 背景注 ATR-X 症候群 (X 連鎖 α サラセミア知的障がい症候群 ) 1 は X 染

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Microsoft Word - 01.doc

Microsoft Word - 研究報告書(崇城大-岡).doc

Microsoft PowerPoint - プレゼンテーション1

論文の内容の要旨

4. 発表内容 : 研究の背景 国際医療福祉大学臨床医学研究センター郭伸特任教授 ( 東京大学大学院医学系研究科講師 ) らの研究グループは これまでの研究の積み重ねにより ALS では神経伝達に関わるグ ルタミン酸受容体の一種である AMPA 受容体 ( 注 4) の異常が運動ニューロン死の原因で

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

核内受容体遺伝子の分子生物学

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の細胞死を引き起こすメカニズムを更に解明 - 活性化カルパインが核膜孔複合体構成因子を切断し 核 - 細胞質輸送を障害 - 1. 発表者 : 郭伸 ( 国際医療福祉大学臨床医学研究センター特任教授 / 東京大学大学院医学系研究科客員研究員 ) 山下雄也 ( 東京大学大

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

4氏 すずき 名鈴木理恵 り 学位の種類博士 ( 医学 ) 学位授与年月日平成 24 年 3 月 27 日学位授与の条件学位規則第 4 条第 1 項研究科専攻東北大学大学院医学系研究科 ( 博士課程 ) 医科学専攻 学位論文題目 esterase 染色および myxovirus A 免疫組織化学染色

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

概要 名古屋大学環境医学研究所の渡邊征爾助教 山中宏二教授 医学系研究科の玉田宏美研究員 木山博資教授らの国際共同研究グループは 神経細胞の維持に重要な役割を担う小胞体とミトコンドリアの接触部 (MAM) が崩壊することが神経難病 ALS( 筋萎縮性側索硬化症 ) の発症に重要であることを発見しまし

医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - HP用.doc

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

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Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

リアルタイムPCRの基礎知識

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

著者 : 黒木喜美子 1, 三尾和弘 2, 高橋愛実 1, 松原永季 1, 笠井宣征 1, 間中幸絵 2, 吉川雅英 3, 浜田大三 4, 佐藤主税 5 1, 前仲勝実 ( 1 北海道大学大学院薬学研究院, 2 産総研 - 東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ, 3 東京大学大

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構


糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

Hi-level 生物 II( 国公立二次私大対応 ) DNA 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造 ア.DNA の二重らせんモデル ( ワトソンとクリック,1953 年 ) 塩基 A: アデニン T: チミン G: グアニン C: シトシン U

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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学位論文の要約

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

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( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

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Slide 1

「飢餓により誘導されるオートファジーに伴う“細胞内”アミロイドの増加を発見」【岡澤均 教授】

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

長期/島本1

図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

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計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

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2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

細胞外情報を集積 統合し 適切な転写応答へと変換する 細胞内 ロジックボード 分子の発見 1. 発表者 : 畠山昌則 ( 東京大学大学院医学系研究科病因 病理学専攻微生物学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 多細胞生物の個体発生および維持に必須の役割を担う多彩な形態形成シグナルを細胞内で集積 統

平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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PRESS RELEASE (2017/7/28) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

Microsoft Word CREST中山(確定版)

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生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

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PRESS RELEASE (2016/1/14) 北海道大学総務企画部広報課 060-0808 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL 011-706-2610 FAX 011-706-2092 E-mail: kouhou@jimu.hokudai.ac.jp URL: http://www.hokudai.ac.jp RNA がタンパク質の凝集を抑制し神経細胞毒性を低減する - 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の神経細胞死機構を解明 - 研究成果のポイント 核タンパク質 TDP43 が切断された直後に細胞質へと移行することを直接的に見いだした RNA 分子によってタンパク質の凝集形成が抑制されていることを発見 核内ではなく細胞質に存在するタンパク質の凝集が神経細胞死を誘導することを発見 研究成果の概要筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は, 進行性の神経変性疾患であり, 筋肉に指令を与える運動神経細胞が特異的に変性 脱落します ALS において, 細胞内におけるタンパク質封入体を形成する原因遺伝子産物として TDP43 というタンパク質が知られています また ALS 患者の運動ニューロン内にあるタンパク質封入体には, この TDP43 のカルボキシル末端断片が含まれることも知られています 本研究では, 蛍光イメージング法及び単一分子感度を有する蛍光相関分光法を用いることで,TDP43 が切断されると速やかに核から細胞質へ移行することに加え,TDP43 のカルボキシル末端断片の一つである TDP25 の毒性を持つ凝集体形成が RNA により抑制されていることを発見しました さらに, この TDP25 の凝集体は細胞質において細胞毒性を持つことが示唆されました この成果は,ALS 病態におけるタンパク質の新たな凝集体及び封入体形成経路を見いだしたものです また,RNA が ALS 病態解明並びに進行抑制治療における重要なターゲットであると考えられます 本研究の全ての成果は, 北海道大学大学院先端生命科学研究院細胞機能科学分野 ( 金城政孝教授 ) において, 北村朗助教を中心として, 当該研究室において行われたものであり,Scientific Reports 誌に掲載されました なお, 本研究は, 日本学術振興会科学研究費助成事業 ( 学術研究助成基金助成金 ) 基盤研究 C, 若手研究 B, 及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 医療分野研究成果展開事業先端計測分析技術 機器開発プログラムの助成により行われました

論文発表の概要研究論文名 :Interaction of RNA with a C-terminal fragment of the amyotrophic lateral sclerosis-associated TDP43 reduces cytotoxicity( 筋萎縮性側索硬化症関連 TDP43 タンパク質の C 末端断片と相互作用する RNA が細胞毒性を減少させる ) 著者 : 北村朗 (1), 中山祐作 (2), 柴崎愛 (2), 滝彩実 (2), 油野祥子 (2), 竹田佳世 (3), 矢原真郎 (2), 田辺尚貴 (3) (1), 金城政孝 1) 北海道大学大学院先端生命科学研究院細胞機能科学分野 2) 北海道大学大学院生命科学院生命融合科学コース 3) 北海道大学理学部生物科学科 ( 高分子機能学専修 ) 公表雑誌 :Scientific Reports(Nature Publishing Group によるオープンアクセス誌 ) 公表日 : 日本時間 ( 現地時間 )2016 年 1 月 13 日 ( 水 ) 午後 7 時 ( 英国時間 2016 年 1 月 13 日 ( 水 ) 午前 10 時 )) ( オンライン公開 ) 研究成果の概要 ( 背景 ) 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) を含む神経変性疾患は, ヒトの体内に存在する神経細胞が変性 脱落することにより生じる病気です 神経細胞が変性 脱落するとその神経が担っていた恒常的な機能に変調をきたすことから, 認知症や筋肉制御機能の低下 消失などの症状が見られるようになります アルツハイマー病, パーキンソン病など様々な神経変性疾患が知られている中で,ALS は筋肉に対して指令を与える役割を担う運動神経細胞が特異的に変性 脱落することにより, 歩行や呼吸が困難となる病気です ALS における原因遺伝子産物注 1 注として,TDP43 2 が知られていますが, この TDP43 及びそのカルボキシル末端断片は ALS 患者の運動神経内におけるタンパク質の封入体注 3 を構成する注 4 成分として同定されています また,TDP43 は主に核に局在していますが, メッセンジャー RNA 注や低分子 RNA 5 などの細胞内で重要な働きを持つ RNA 分子と結合し, それらを成熟させるのに必須のタンパク質であることが知られています そこで我々は,TDP43 からそのカルボキシル末端断片を生成した後, 細胞内で封入体を形成する過程を可視化することに加え, 一分子感度を持つ蛍光測定 6 技術である蛍光相関分光法注を用いることで, 細胞内における封入体形成と共に神経細胞を死に至らしめる機構を調べることにしました ( 研究手法 ) 蛍光タンパク質を融合した TDP43 を発現させたマウス神経芽細胞腫 (Neuro2A) に対して,TDP43 を切断することが知られているカスパーゼ3の活性化処理を行った上で, 蛍光タイムラプスイメージ 7 ング法注を用いて TDP43 の切断と細胞内局在変化を観察しました 次に,TDP43 のカルボキシル末端断片の一つである TDP25 に蛍光タンパク質を融合した形で発現させた Neuro2A の細胞抽出液に RNA 分解酵素 (RNase) を処理した後, 8 蛍光相関分光法または蛍光相互相関分光法注を用いてそれらのタンパク質の凝集形成状態を解析しました さらに,TDP43 が核において切断された直後の状態を作り出すために, 9 核局在化シグナル配列注を付加した TDP25 を発現する Neuro2A 細胞において, TDP25 と死細胞率を比較しました ( 研究成果 ) 蛍光タイムラプスイメージングの結果,TDP43 はカスパーゼ3の活性化が起こると平均 3 分以内に切断され, 核から細胞質への移行が始まることがわかりました また, この細胞質への移行の後,

TDP43 のカルボキシル末端断片のみが細胞質で封入体を形成しやすい性質を持つことが確認されました 次に,TDP25 に結合する RNA が細胞内に存在しており, この RNA が TDP25 の凝集体形成を抑制していることを世界で初めて見いだしました また, この RNA の種類は未同定ではあるものの, TDP43 が認識する RNA とは異なる配列を持つものであることが示唆されました さらに, この RNA 注により凝集形成が抑制される効果は, 他の ALS 原因遺伝子産物である SOD1 10 注や FUS/TLS 11 では見られず,TDP25 特異的な現象であることを見いだしました さらに, 核局在化シグナル配列を付加した TDP25 は TDP25 よりも低い死細胞率を示すことを明らかにしました このことは, タンパク質凝集体が細胞質に存在することが神経細胞死につながることを示すと共に,TDP43 が切断されたとしても核内に留め置くことにより, 神経細胞死を回避できる可能性を示しました 図.TDP43 から TDP25 が生成し細胞質封入体を形成する機構 ( 今後への期待 ) 本成果は,ALS の原因遺伝子産物である TDP43 の RNA を介した凝集体及び封入体形成機構を明らかにしたものです これまでタンパク質の凝集体形成は単独に起こるものと考えられてきましたが, 本研究の成果により RNA が積極的に凝集体形成に関わることが示されたことで, 凝集体形成と神経細胞死の関係をより詳細に明らかにするための布石となると思われます また,ALS 原因タンパク質の凝集体形成を抑制する RNA を今後見つけることができれば, 細胞内におけるタンパク質凝集体の生理的抑制機構を明らかにできると共に, 当該配列を持つ RNA 分子が新たな ALS 進行抑制薬となる可能性が考えられます

お問い合わせ先北海道大学大学院先端生命科学研究院細胞機能科学分野教授金城政孝 ( きんじょうまさたか ) TEL:011-706-9005 FAX:011-706-9045 E-mail:kinjo@sci.hokudai.ac.jp 北海道大学大学院先端生命科学研究院細胞機能科学分野助教北村朗 ( きたむらあきら ) TEL:011-706-9542 FAX:011-706-9045 E-mail:akita@sci.hokudai.ac.jp [ 用語解説 ] 注 1) 原因遺伝子産物ある遺伝性疾患 ( 本研究内容では ALS) の原因となる遺伝子 ( 原因遺伝子 ) から転写 翻訳され生成されたタンパク質のこと 注 2)TDP43 (TAR RNA/DNA-binding protein 43 kda) ALS の原因遺伝子産物であり, 主に核内に局在するタンパク質 TDP43 は RNA/DNA に結合するモチーフに加え, 核局在化シグナル配列, 核排出シグナル配列を持つことから, 核と細胞質を行き来しながら RNA と結合する機能を持つと考えられている ALS 患者の運動神経内におけるタンパク質凝集体を構成するタンパク質として同定されたが, 凝集体を構成するのは全長の TDP43 のみならず, 様々な大きさの断片も含まれる TDP43 はカルボキシル末端側にプリオン様ドメインと呼ばれるタンパク質同士の会合 凝集を促進するドメインを含んでいることから, TDP43 の凝集形成と共にその機能損失が起こることが ALS 発症の原因ではないかという仮説が提唱されている 注 3) タンパク質の封入体多くのタンパク質分子は, 一本のポリペプチド鎖から折り畳まれる ( フォールディングする ) ことで機能を持つが, 構造が崩れると共に複数の分子が絡み合い, 機能を持たず水に溶けにくい性質に変化することがある このように複数分子のタンパク質が絡み合い, 機能を失った状態はタンパク質の凝集体と呼ばれる また, 細胞内において形成したタンパク質の凝集体はアミノ酸へ分解することができれば, 新しいポリペプチド合成へと再利用されるが, 凝集体が分解されずに残存すると, 決められた区画に寄せ集められる この凝集体が寄せ集められた細胞内構造をタンパク質の封入体という 注 4) メッセンジャー RNA 遺伝子 (DNA) に保存された遺伝情報からタンパク質 ( アミノ酸の配列 ) を作り出す際に, 遺伝子の配列情報を伝令する役割を持つ RNA 分子 伝令 RNA とも呼ばれる 注 5) 低分子 RNA 細胞内に存在する分子量の小さい RNA 分子の総称 低分子 RNA は遺伝子から読み取られて作られるメッセンジャー RNA の発現量を調節する機能を持つものや,RNA とタンパク質複合体の土台のような役割を持つものも存在する

注 6) 蛍光相関分光法単一分子感度で溶液中の蛍光分子の動態 ( 拡散係数 ) と1 粒子あたりの平均蛍光強度を測定することができる手法 計測された拡散係数の値を基準物質と比較することで, 分子量の変化を短時間に高感度で計測できる 特に1 粒子あたりの蛍光強度変化が計測できることは, 凝集体形成の判定に極めて有効な方法である 注 7) 蛍光タイムラプスイメージング蛍光顕微鏡下で細胞を生きたまま培養しながら, 細胞及び細胞内に発現した蛍光分子をある時間間隔で観察し続ける手法のこと 細胞の形状や細胞内の目的タンパク質の局在などの時間変化を解析することができる 注 8) 蛍光相互相関分光法蛍光相関分光法を拡張したもので, 多色蛍光分子間の相互作用を計測する方法 蛍光相関分光法の利点を含有する 例えば緑色蛍光分子と赤色蛍光分子間の測定では, 蛍光相関分光法解析で得られる情報に加えて, 緑色または赤色蛍光分子それぞれの濃度と共に, 両者が相互作用する割合を求めることができる 注 9) 核局在化シグナル配列真核生物では, 細胞質で合成されたタンパク質を必要に応じて核へ運ぶ必要がある この時, 核へ運ぶための 荷札 の役割を担うアミノ酸配列のことを核局在化シグナル配列という 注 10)SOD1 (Superoxide dismutase 1) ALS の原因遺伝子として最初に発見された 活性酸素種を分解する酵素であり,ALS 関連変異体では凝集性が上がる 注 11)FUS(Fused in Sarcoma) /TLS ALS の原因遺伝子の一つであり,TDP43 と同様に RNA 結合タンパク質である ただし, 認識する RNA 配列は TDP43 と異なる TLS(Translocated in Sarcoma) という名称も持っている このタンパク質も凝集体を形成することが知られている