ワールドレポート チリ from Buenos Aires ブエノスアイレス JX日鉱日石金属 Integrated Copper Producer を目指し チリで初の 本邦企業100 出資でオペレーター シップをとって銅開発事業に挑む 国際協力銀行 ブエノスアイレス駐在員事務所 鈴木 首席駐在員 将仁 始に向けて現在建設中である 権益比率はパンパシフ はじめに ィック カッパー 以下 PPC JX金属66 と三井 金属鉱業34 出資の合弁会社 75 三井物産25 南米大陸を南北に縦断するアンデス山脈の太平洋岸 であり 生産期間は今年から28年間を予定している に位置するチリは世界最大の銅生産国として知られ 多くの本邦企業も わが国の安定的な資源供給を目的 2. 村上チリ事務所所長への インタビュー としてチリの銅開発事業に積極的に投資している 今回は 世界最大の銅生産量を誇るエスコンディー ダをはじめ 国内主要鉱山であるコジャワシやロスペ 銅精鉱必要量の80 を自らの権益をもつ銅鉱 ランブレスでの銅開発事業に参画 現在 同国初とな 山から調達する Integrated Copper Pro- る本邦企業のみでの開発が進む カセロネス銅 モリ ducer を目指すと掲げられていますが 同 ブデン鉱床開発プロジェクト 以下 本事業 に取 方針実現においてチリの役割は り組むJX日鉱日石金属 以下 JX金属 チリ事務所 所長兼MLCC 注会長 村上健一氏とのインタビューを 現在 PPCの電気銅生産量に必要な銅精鉱につい 通じて 同社の現地における活動状況や事業内容につ ては JX金属が出資している３鉱山 ロスペランブ いて紹介させていただく レス エスコンディーダ コジャワシ から約20 を 調達しています カセロネス鉱山の生産開始により 注 本鉱山の運営会社SCM Minera Lumina Copper Chile社 図１ 1. カセロネス銅 モリブデン鉱床 開発プロジェクト について 本事業のプロジェクト所在地は チリ第３州 アカ マ州 の州都であるコピアポ Copiapo から南東 162km アルゼンチンとの国境から15kmに位置して いる 付近の標高は 4200 4600mときわめて高い 2006年５月の権益取得以降 経済性評価や現地政 府からの環境認可取得を通じて 2010年４月から建 設を開始し 本年２月のカソード 年末の精鉱生産開 2 プロジェクト位置図
この比率は約50 に高まります この比率をアップさせていくためには さらなる権益の獲得が必要となります PPCはチリのほか ペルーおよびオース トラリアに探鉱会社を設立し 積極的に 優良案件の調査に努めています その中 でも鉱床ポテンシャルが高く 投資環境 も比較的整っているチリは優位にあるの で 今後とも自山鉱比率向上のためには チリの役割はきわめて重要です 世界でも最大級のロスペランブレ ス鉱山への参画を含め チリでの 銅開発事業に積極的に参画されて プロジェクト全容 いますが チリに直接進出された 契機とは うえ 本事業への参加を決定したものです JX金属は 前身である日本鉱業時代の1950 60年 隣国ペルーなどでの銅開発事業も最近活性化 代から融資買鉱などによりチリの銅鉱山開発にかかわ しており 同国の銅生産量は世界第 3 位と聞 ってきました その後 90年代にはエスコンディー きますが 銅生産地としてのチリの優位性 ダ コジャワシ ロスペランブレスといった大型鉱山 とは への出資を通じてチリとの関係を深めてきました 特にロスペランブレス鉱山については 権益を有し チリは南米の銅資源保有国の中では政情が安定して ていたチリの財閥であるルクシックグループとの間に おり 急激な国体変更などのリスクが小さく また 30年余に及ぶ友好関係があったことから 現地調査の 外資法により投資家の権利が保護されるなど 投資環 JX金属 足立吉正社長 左から２人目 中村年孝常務 中央 村上健一チリ事務所所長 右端 3
ワールドレポート JX金属 足立社長 左から３人目 中村常務 左から４人目 村上チリ所長 左から２人目 境も整っています さらに 平均的な国民の教育レベ 銅開発事業ですが かかる形態での事業実施 ルが高いので 技術者層だけでなく作業員層にも安全 を決定した理由は への配慮 機械 装置の理解等の基本事項の教育訓練 当社のルーツは日立銅鉱山ですが 長くカスタムス を施しやすい環境だと感じます 地勢的には チリは東西の距離が短いために銅鉱山 メルター 買鉱製錬業 として製錬事業を中心に事業 から生産品を出荷する海岸 港 までの距離が短く を展開してきたので 銅鉱山事業で主体的にオペレー 輸送コストの面で有利です また 銅資源が多く賦存 ターシップをとることまでは考えていませんでした する北部チリ地域は人口が少ないため 道路 送電線 しかしながら 鉱床の遠隔地化 高地化 品位低下 パイプライン等 インフラの建設がやりやすいという に伴い新規鉱山開発が徐々に困難となっていくなか 面があります で 銅事業者として常に安定した収益を上げるために は 原料を安定して供給できる体制を自ら築くこと チリでは初めての本邦企業100 出資による つまり ルーツの姿である鉱山と製錬所とのIntegration 垂直統合 が必須であるとの考えに到 りました 銅鉱山および 銅製錬の全体を理 解したうえで より効率的な運営を図ること が重要と考えたわけです このPPCの方針のもと 資源関連権益の多 様化を図る三井物産の参加 25 を得て 本邦企業100 出資の事業形態が確定しま した チリで御社が参画した過去の銅開発事 業と異なり 今回の事業計画は完全に ゼロからのスタートだったと思われま す 開発に向けた体制づくりを含め生 油圧シャベル 4 産開始に至るまで かかる業務を実際
MLCC ネルソンCEO 中央最前列 と幹部スタッフ に対応していくうえでは 特に現地代表の立 まで 南は 川まで 東は道路まで 西は さん 場において多くの苦労があったと思われま との土地境界まで といった記述だけですので 多く すが の関係者の証言に基づいて調整を図り範囲を特定する 必要がありました さすがに山の位置は不変ですが 初めてオペレーターの立場で権利 許認可の取得手 川と道路の位置は長い年月のうちに変わりますし 他 続きを行ったので 苦労というより日本との違いに多 人との合意は代替わりしたら見解が見事に違いますの くの驚きがありました たとえば 鉱業用地の購入に で あたっては 昔の土地登記は図面がなく 北は 山 また 水利権の取得にあたっては 行政の許認可権 ではなく土地と同様に私有財産であ るため 需給の関係で売買価格が大 きく変わること 水利権水量が自然 がもたらしてくれる取水可能量に比 べ過大な状態なので 水利権を買っ ても水が満足に出ないこともあるこ とから 慎重な対応が必要でした 改めて 水資源の豊富な日本をあり がたく思いました チリでは銅開発事業の活性化 から人件費の高騰に加え 事 業などの管理を行うマネジメ ントクラスの人材確保が大変 困難になっていると聞きま すが 私どもも状況は同じです 設計 組み立てが完了した300tトラック 施工管理 工事等のすべての人件費 5
ワールドレポート が高騰し 建設費を見直さざるを得ませんでした し もうひとつは 天候急変への備えです 現場は急峻 かし幸いなことに 人材確保の点では 2006年の権 な山岳地帯で 突然の降雪や強風に見舞われることが 益取得直後に本事業の強力な推進者として 元ロスペ あり オンライン気象観測と多重通信設備によって迅 ランブレス鉱山社長 当時コデルコ副総裁のネルソ 速な退避が可能です 加えて 万一に備え避難所を設 ン ピサロ氏をMLCCの社長に迎え 氏の豊富な人 置しています 脈から主要ポストに有能な人材を得ることができまし た プレFS開始から生産開始間近の現在まで６年余 御社ゆえのノウハウ 長年の銅開発などを通 キー パーソンはほとんど変わっておらず 大変質 じて蓄積された知見が多いに活かされている の高いマネジメント チームを擁することができま ということですね した プロジェクト会社で働く日本人20名のうち技術者 開発中の本事業の現場は 標高が4200 は11名ですが 全員が日本または海外の鉱山勤務経験 4600mときわめて高いところにあり 実際 者で 南米の鉱山勤務経験者が７名含まれています の作業実施には多くの難題があるかと思われ これまで 技術者が経験を積む場であった国内鉱山の ます かかる高地での事業実施における課題 縮小や休山に伴い JX金属はロスペランブレスなど および対応とは 三井金属鉱業はワンサラなどの関係鉱山で技術者を育 ててきました 各鉱山での研さんの成果を今こそ発揮 この標高では 平地と同じとまではいきませんが するときと 皆 張り切っています 体をある程度順応させることができるので 特別な装 備 たとえば空気呼吸器や予圧設備などを使うことは 銅に加え製鉄などで利用されるモリブデンの ありません しかし 体調が少しでもおかしいと感じ 生産も計画されています 御社が参画し操業 たときには 直ちに応急処置を施し 高度を下げるこ 中のロスペランブレス鉱山でモリブデンを生 とが肝心です このため カセロネスでは標高4400m 産中ということで そのノウハウが本事業に と4100mの２カ所に現場診療所を置き 救急員と救急 活用されていますね 車を常駐させて万一に備えています アクセス ルー トの地形にも恵まれ 自動車で3000mまで30分 はい ロスペランブレス鉱山には常時２ ３名の技 2000mまで１時間で降りることができます また 宿 術者を派遣してきました そのうち モリブデン プ 泊設備 キャンプ は 高地作業者が毎晩十分な休息 ラントでの操業を実地で経験した選鉱技術者が中心に をとることができるよう 体が高度の影響をほとんど なってカセロネスのプラントの仕様を決めています 受けない標高2000m地点に設けました なお キャン し 今後の操業にも携わることになります プでは働く人の健康管理のため 適度な運動 ジム テニス フットサル ができるようにしたり 食事の が参画する銅開発事業などを積極的に支援し 内容にも留意しています 水送パイプライン 6 国際協力銀行 JBIC はチリ国内で本邦企業 水路整備でつくった迂回路
ていますが 各事業に共通するのが水とエネ 討を継続していく必要があると考えています ルギーの調達問題であり 一部事業では海水 を淡水化して利用されているとのことです チリでは 数年前に環境省が設立されるなど 本事業も開発現場が海からも遠く離れた場所 従来あまり問題とならなかった環境対応に対 に位置し 水の調達は特に苦労が多いと思わ する関心が高まっています 本事業実施にお れますが 実情および対応はどうされていま いては十分な環境対策をとられているとお聞 すか きしていますが 具体例とは カセロネスが位置するコピアポ川流域にはアンデス 地域住民の方々のためには 先ほどお話しした水に の雪氷を源とする地下水があり 幸い この水利権を 関する対策のほか 建設工事や操業に伴う道路交通量 確保することができました しかし 水量は豊富では の増加対策として 市街地を迂回するバイパス建設 ないので 広い範囲から少量ずつ取水するために 分 約２km ガードレール 安全標識 信号機等の整 散している約20本の井戸から延長80km 標高差 備 約100km区間 道路沿いの公共 民間施設への 3000m 直径70cmの用水パイプラインを使ってポン 防音工事などを行っています また 鉱山付近に居住 プアップすることとしました 海岸からの距離250km する先住民の方々とは定期的に懇談の場を設け より 標高差4000mに比べるとはるかに短いパイプラインで よい関係を保つことに努めています 済んでいます また 自然環境の保全のため 事前調査に基づいて 一方で カセロネスの取水による下流域への影響を 動植物の保護 移動 移植を行ったほか 化石 遺跡 極力なくすために 地元との約束として 河川やかん の保護 移設を丁寧に行ったことはいうまでもありま がい水路の清掃 補修工事を行い漏水 蒸発抑制を図 せん るとともに 2014年からは鉄鉱山会社が海岸で進め ている脱塩水製造 供給事業から淡水を購入し 約 最後になりますが 事業の確実な実施には環 100km内陸のコピアポ地区などへ無償提供すること 境対策に加えて地域社会との良好な関係が必 も行います 要不可欠ということで 以前から御社はすで しかしながら 今後 他鉱山での海水使用実績が増 にさまざまな地域社会貢献をされていると理 加してくると 地下水や河川水の鉱業利用に対して行 解しています 本事業は未だ建設中ではあり 政当局および地域住民の反応はますます厳しくなると ますが すでに実施されていることや今後の 考えられます これにどう対応できるかについて 検 対応などについてお教えください 建設開始からこれまでの 間 地元行政当局や住民の 方々の要望に応えるかたち で 消防車の寄贈 FM放 送機材の寄贈 消防詰所や 公民館の整備 公共プール や体育館の建設等を行って きました また 地元小学 校での交通安全教育 先住 民文化祭 地元祭礼等への 後援も行っています 今後 はこれらに加え 地元学校 の学生 生徒への奨学金提 供など貢献の幅を広げてい くつもりです 村上チリ所長と現地スタッフ 7