Microsoft Word - レポート(2)No.68(髙井様).doc

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資料2 ゲノム医療をめぐる現状と課題(確定版)

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アレルギー疾患対策基本法 ( 平成二十六年六月二十七日法律第九十八号 ) 最終改正 : 平成二六年六月一三日法律第六七号 第一章総則 ( 第一条 第十条 ) 第二章アレルギー疾患対策基本指針等 ( 第十一条 第十三条 ) 第三章基本的施策第一節アレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減 ( 第十四条

資料 4 医療等に関する個人情報 の範囲について 検討事項 医療等分野において情報の利活用と保護を推進する観点から 医療等に関する個人情報 の範囲をどのように定めるべきか 個別法の対象となる個人情報としては まずは 医療機関などにおいて取り扱われる個人情報が考えられるが そのほかに 介護関係 保健関

個人情報保護法の3年ごと見直しに向けて

子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する法律案要綱

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雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項 第 1 趣旨 この留意事項は 雇用管理分野における労働安全衛生法 ( 昭和 47 年法律第 57 号 以下 安衛法 という ) 等に基づき実施した健康診断の結果等の健康情報の取扱いについて 個人情報の保護に関する法律についての

個人情報保護法と 行政機関個人情報保護法の 改正点概要

料 情報の提供に関する記録 を作成する方法 ( 作成する時期 記録の媒体 作成する研究者等の氏名 別に作成する書類による代用の有無等 ) 及び保管する方法 ( 場所 第 12 の1⑴の解説 5に規定する提供元の機関における義務 8 個人情報等の取扱い ( 匿名化する場合にはその方法等を含む ) 9

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個人情報保護規程例 本文

1 介護 福祉施設で主に取り扱う対象者の病名や障害を含む身体状況 家族構成 資産状況 ( 銀行預金残高を含む ) 緊急連絡先等 の個人情報 一般論として 対象者の病名や障害を含む身体状況は 医師により診断された病名や障害であると考えられるため 改正個人情報保護法第 2 条第 3 項に定 める 病歴

検討課題の整理 1 第 1 回合同会議での意見及びその後委員から提出された意見を 第 1 回合同会議の 検討の進め方 ( 下記参照 ) に沿って分類 第 1 回合同会議資料 合同会議における検討の進め方 の抜粋 合同会議においては 以下の順で検討を進める (1) ゲノム指針と医学系指針との条文の整合

2. 各検討課題に関する論点 (1) 費用対効果評価の活用方法 費用対効果評価の活用方法について これまでの保険給付の考え方等の観点も含め どう考 えるか (2) 対象品目の選定基準 1 費用対効果評価の対象とする品目の範囲 選択基準 医療保険財政への影響度等の観点から 対象となる品目の要件をどう設

再生医療の制度的な対応の検討について 薬事法等制度改正についてのとりまとめ平成 24 年 1 月 24 日厚生科学審議会医薬品制度改正部会 1 再生医療製品については 今後も 臓器機能の再生等を通じて 重篤で生命を脅かす疾患等の治療等に ますます重要な役割を果たすことが期待される 特に ips 細胞

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14個人情報の取扱いに関する規程

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事業者が行うべき措置については 匿名加工情報の作成に携わる者 ( 以下 作成従事者 という ) を限定するなどの社内規定の策定 作成従事者等の監督体制の整備 個人情報から削除した事項及び加工方法に関する情報へのアクセス制御 不正アクセス対策等を行うことが考えられるが 規定ぶりについて今後具体的に検討

1 資料 1 パーソナルデータの利活用に関する制度改正に係る法律案の骨子 ( 案 ) TM 2014 年 12 月 19 日 内閣官房 IT 総合戦略室 パーソナルデータ関連制度担当室

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ワクチンの研究開発促進と生産基盤確保

する 研究実施施設の環境 ( プライバシーの保護状態 ) について記載する < 実施方法 > どのような手順で研究を実施するのかを具体的に記載する アンケート等を用いる場合は 事前にそれらに要する時間を測定し 調査による患者への負担の度合いがわかるように記載する 調査手順で担当が複数名いる場合には

(2) 電子計算機処理の制限に係る規定ア電子計算機処理に係る個人情報の提供の制限の改正 ( 条例第 10 条第 2 項関係 ) 電子計算機処理に係る個人情報を国等に提供しようとする際の千葉市情報公開 個人情報保護審議会 ( 以下 審議会 といいます ) への諮問を不要とし 審議会には事後に報告するも

●アレルギー疾患対策基本法案

文書管理番号

法律 出典 医薬品 医療機器等の品質 有効性及び安全性の確保等に関する法律 ( 昭和 35 年 8 月 10 日法律第 145 号 ) 政令 医薬品 医療機器等の品質 有効性及び安全性の確保等に関する法律施行令 ( 昭和 36 年 1 月 26 日政令第 11 号 ) 省令 医薬品 医療機器等の品質

薬事法等の一部改正に伴う特許法施行令改正に係る事前評価書

個人情報保護規程

研究から医療へ より医療への実利用が近いもの ゲノム医療研究推進ワーキンググループ報告書 (AMED) 臨床ゲノム情報統合データベース公募 対象疾患の考え方の方向性 第 1 グループ ( 主に を目指す ) 医療への実利用が近い疾患 領域の着実な推進 単一遺伝子疾患 希少疾患 難病 ( 生殖細胞系列

医療介護分野における現状の個人情報保護法制下の課題 > 保護は追求されているが 活用しないことに対する対策はほとんどされていない > 個人情報保護法は情報取得主体によって異なるルールで運用されている > 情報保護だけではなく 不正利用に関して実効性のある悪用防止の手立てが必要 > 個人情報の定義が曖

目次 前文... 1 Ⅰ. 目的及び適用範囲... 1 Ⅱ. 法令解釈指針 事例 定義 ( 法第 2 条関連 ) 情報の性質に関連する用語... 2 (1) 個人情報 ( 法第 2 条第 1 項関連 )... 2 (2) 個人識別符号 ( 法第 2 条第 2 項関

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62 第 2 章 法令の適用範囲 ない点が通常の個人情報の取扱いとは異なります これまでは特に区別されることのなかった情報であることから 今後は法改正に応じた適切な対応が求められます 具体的な要配慮個人情報個人情報保護法上の要配慮個人情報の定義は 本人の人種 信条 社会的身分 病歴 犯罪の経歴 犯罪

2. 検討 ~ 医療に関する事故の特殊性など (1) 医師等による医療行為における事故 医師等が患者に対してどのような医療行為を施すべきかという判断は 医師等の医学的な専門知識 技能に加え 医師等の経験 患者の体質 その時の患者の容態 使用可能な医療機器等の設備等に基づきなされるものである ( 個別

ゲノム解析を取り巻く現状等 (1) 1 人分の全ゲノム解析に要する時間及び費用 時間費用 2003 年 * 13 年間 30 億ドル 2007 年 * 2か月 100 万ドル 2014 年 # 1 週間約 15 万円 出典 )* 水島 - 菅野純子 菅野純夫 次世代シークエンサーの医療への応用と課題

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医療事故防止対策に関するワーキング・グループにおいて、下記の点につき協議検討する

一について第一に 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号 以下 感染症法 という )第十二条の規定に基づき 後天性免疫不全症候群(以下 エイズという )の患者及びその病原体を保有している者であって無症状のもの(以下 HIV感染者 という )(以下 エイズの患者等

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本サイトにおける個人情報の利用目的は以下のとおりです 当社は 本人の同意なく目的の範囲を超えて利用しません (1) 本サイト会員登録者の個人認証及び会員向け各種サービスの提供 (2) インターネットまたは電話を通じて提供する 宿予約サービス 及びそれに付帯関連する業務の遂行 (3) 上記 (2) に

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SNPs( スニップス ) について 個人差に関係があると考えられている SNPs 遺伝子に保存されている情報は A( アデニン ) T( チミン ) C( シトシン ) G( グアニン ) という 4 つの物質の並びによってつくられています この並びは人類でほとんど同じですが 個人で異なる部分もあ

JCROA自主ガイドライン第4版案 GCP監査WG改訂案及び意見

愛知県アルコール健康障害対策推進計画 の概要 Ⅰ はじめに 1 計画策定の趣旨酒類は私たちの生活に豊かさと潤いを与える一方で 多量の飲酒 未成年者や妊婦の飲酒等の不適切な飲酒は アルコール健康障害の原因となる アルコール健康障害は 本人の健康問題だけでなく 家族への深刻な影響や飲酒運転 自殺等の重大

社会福祉法人春栄会個人情報保護規程 ( 目的 ) 第 1 条社会福祉法人春栄会 ( 以下 本会 という ) は 基本理念のもと 個人情報の適正な取り扱いに関して 個人情報の保護に関する法律 及びその他の関連法令等を遵守し 個人情報保護に努める ( 利用目的の特定 ) 第 2 条本会が個人情報を取り扱

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

Hi-level 生物 II( 国公立二次私大対応 ) DNA 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造 ア.DNA の二重らせんモデル ( ワトソンとクリック,1953 年 ) 塩基 A: アデニン T: チミン G: グアニン C: シトシン U

疫学研究の病院HPによる情報公開 様式の作成について

拍, 血圧等 ) を, ユーザー本人または当社の提携先からと提携先などとの間でなされたユーザーの個人情報を含む取引記録や, 決済に関する情報を当社の提携先 ( 情報提供元, 広告主, 広告配信先などを含みます 以下, 提携先 といいます ) などから収集することがあります 4. 当社は, ユーザーが

研究に関する倫理指針の見直しについて ( 概要 ) 見直し対象指針 ヒトゲノム 遺伝子解析研究に関する倫理指針 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針 遺伝子治療等臨床研究に関する指針 指針見直しの趣旨 医学研究等における個人情報の取扱い等に関する合同会議 において議論されたもの 個人情報の保護に

防犯カメラの設置及び運用に関するガイドライン

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

Ⅰ バイタルリンク 利用申込書 ( 様式 1-1)( 様式 ) の手続 バイタルリンク を利用する者 ( 以下 システム利用者 という ) は 小松島市医師会長宛に あらかじ め次の手順による手続きが必要になります 新規登録手続の手順 1 <システム利用者 ( 医療 介護事業者 )>

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4 月 17 日 4 医療制度 2( 医療計画 ) GIO: 医療計画 地域連携 へき地医療について理解する SBO: 1. 医療計画について説明できる 2. 医療圏と基準病床数について説明できる 3. 在宅医療と地域連携について説明できる 4. 救急医療体制について説明できる 5. へき地医療につ

2-3. 上記 2-2 以外の利用目的は以下の通りです 利用目的対応する利用者情報の項目 (1) 当社のサービスに関連して 個人を識別できない 端末情報形式に加工した統計データを作成するため ログ情報 Cookie 及び匿名 ID 位置情報 (2) 当社又は第三者の広告の配信又は表示のため 端末情報

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

個人情報保護規程 株式会社守破離 代表取締役佐藤治郎 目次 第 1 章総則 ( 第 1 条 - 第 3 条 ) 第 2 章個人情報の利用目的の特定等 ( 第 4 条 - 第 6 条 ) 第 3 章個人情報の取得の制限等 ( 第 7 条 - 第 8 条 ) 第 4 章個人データの安全管理 ( 第 9

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

る として 平成 20 年 12 月に公表された 規制改革推進のための第 3 次答申 において 医療機器開発の円滑化の観点から 薬事法の適用範囲の明確化を図るためのガイドラインを作成すべきであると提言したところである 今般 薬事法の適用に関する判断の透明性 予見可能性の向上を図るため 臨床研究におい

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今回の改正によってこの規定が廃止され 労使協定の基準を設けることで対象者を選別することができなくなり 希望者全員を再雇用しなければならなくなりました ただし 今回の改正には 一定の期間の経過措置が設けられております つまり 平成 25 年 4 月 1 日以降であっても直ちに希望者全員を 歳まで再雇用

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「自動運転車」に関する意識調査(アンケート調査)~「自動運転技術」に対する認知度はドイツの消費者の方が高いことが判明~_損保ジャパン日本興亜

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2. 平成 9 年遠隔診療通知の 別表 に掲げられている遠隔診療の対象及び内 容は 平成 9 年遠隔診療通知の 2 留意事項 (3) イ に示しているとお り 例示であること 3. 平成 9 年遠隔診療通知の 1 基本的考え方 において 診療は 医師又は歯科医師と患者が直接対面して行われることが基本

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1. のれんを資産として認識し その後の期間にわたり償却するという要求事項を設けるべきであることに同意するか 同意する場合 次のどの理由で償却を支持するのか (a) 取得日時点で存在しているのれんは 時の経過に応じて消費され 自己創設のれんに置き換わる したがって のれんは 企業を取得するコストの一

第 4 条 ( 取得に関する規律 ) 本会が個人情報を取得するときには その利用目的を具体的に特定して明示し 適法かつ適正な方法で行うものとする ただし 人の生命 身体又は財産の保護のために緊急に必要がある場合には 利用目的を具体的に特定して明示することなく 個人情報を取得できるものとする 2 本会

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(5) 個人データ 個人データ とは 個人情報データベース等を構成する個人情報をいう (6) 保有個人データ 保有個人データ とは 当会館が 開示 内容の訂正 追加又は削除 利用の停止 削除及び第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有する個人データであって その存否が明らかになることにより公益

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

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Ⅲ コース等で区分した雇用管理を行うに当たって留意すべき事項 ( 指針 3) コース別雇用管理 とは?? 雇用する労働者について 労働者の職種 資格等に基づき複数のコースを設定し コースごとに異なる配置 昇進 教育訓練等の雇用管理を行うシステムをいいます ( 例 ) 総合職や一般職等のコースを設定し

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次 Ⅰ. 総論 2 Ⅱ. 重点分野 3 Ⅲ. 人材育成 確保 6 Ⅳ. 情報管理 8 Ⅴ. その他 9 1

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資料 3 時代の要請を受けた 消費者保護の課題について 平成 31 年 4 月 経済産業省商務 サービスグループ 商取引監督課

Transcription:

2016. 3. Vol. 68 ゲノム情報の活用をめぐる動向 - 実用化推進にむけた取り組みと諸外国における保険分野への規制 - 目 次 Ⅰ. はじめに Ⅳ. 諸外国における状況 Ⅱ. ゲノム情報を用いた医療等の現状 Ⅴ. おわりに Ⅲ. 我が国における実用化推進に向けた取り組み副主任研究員髙井裕美子 要約 Ⅰ. はじめに 2003 年にヒトゲノム ( 人間の全遺伝情報 ) の解読が完了して以来 革新的な解析技術や情報処理技術の開発がすすみ ゲノム情報活用のハードルは大きく下がった この新たなビッグデータは 医療のあり方ばかりでなく社会の幅広い領域に影響を与える可能性がある Ⅱ. ゲノム情報を用いた医療等の現状これまで基礎研究や医薬品開発の領域にとどまっていたゲノム情報の活用は 解析コストの著しい低下により 疾患の診断 治療のみならず 一般消費者向けのサービスにまで広がりをみせている 今後 集積したゲノムデータが活用されるようになれば 個々人の体質や疾患に対応する個別化医療 予防医療の普及や ゲノム情報に基づいた創薬などの研究開発の進展が期待される Ⅲ. 我が国における実用化推進に向けた取り組み政府の健康 医療戦略推進体制のもと 欧米からの出遅れを挽回し ゲノム医療の実用化を加速させるために必要な法制度や社会環境の整備についての検討が進められている 直近では ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース が発足し 当面の課題である1 改正個人情報保護法におけるゲノム情報の取り扱い 2ゲノム医療等の質の確保 3ゲノム医療等の実現 発展に向けた社会環境整備 についての議論がすすめられている Ⅳ. 諸外国における状況米国 イギリスでは 国を挙げてのゲノム研究プロジェクトが推進されている また ゲノム情報に基づく差別や保険分野での情報の取り扱い等に関し 各国において様々な規制が定められている Ⅴ. おわりにゲノム情報の活用と保護のバランスをどうとるべきか それにはどのような法制度が望ましいのか 十分な議論がなされるべきであろう これから日本ではどのような法制度が目指されるのか そして 保険業界にはどのような影響があるのか 今後の行方を注視する必要がある 37

損保ジャパン日本興亜総研レポート Ⅰ. はじめに 2003 年にヒトゲノム ( 人間の全遺伝情報 ) の解読が完了して以来 革新的な解析技術や情報処理技術の開発がすすみ ゲノム のハードルは大きく下がった 一般個人が自分自身のゲノム情報を入手して活用するということが 難しくも珍しくもなくなる時代は確実に近づいている パーソナルゲノム というこの新たなビッグデータは 遺伝子レベルでの個人差に基づいて最適な治療を提供する個別化医療の実現や予防医療の普及など 医療 ヘルスケアのあり方を変えるばかりでなく 社会の幅広い領域に影響を与える可能性がある 本稿では ゲノム情報活用の広がりをめぐる動向を概観する 第 Ⅱ 章では これまでの技術進化と ゲノム情報を活用した医療および消費者向けサービスの現状について 第 Ⅲ 章では 我が国におけるゲノム医療の実用化推進と社会環境整備を目指した取り組みの状況について確認する そして 第 Ⅳ 章では 諸外国におけるゲノム関連プロジェクトの概要と ゲノム情報に基づく差別防止を目的とした法制度について 保険分野における情報利用に対する規制等を中心に紹介する Ⅱ. ゲノム情報を用いた医療等の現状 1. 技術進化とコストの低下ヒトの全遺伝情報を解き明かそうという壮大な国際プロジェクト ヒトゲノム計画 は 米国に設立された国立ヒトゲノム研究センター 1 を中心機関として 1990 年に開始された イギリス フランス ドイツ 日本 中国からの参加 協力を得て 当初は 15 年間での完了を目指していたが 2000 年 6 月には 90% を解読したドラフトを完成 最終的には 2003 年 4 月 DNA の二重らせん構造が発見されてからちょうど 50 年後 2 に ヒトゲノム全配列の解読を完了した 3 当初の想定を上回るスピードで 30 億もの塩基対の配列を解明することができた背景には シークエンサー 4 の性能向上など 様々な技術革新があった プロジェクトの完了後間もない 2003 年 5 月 さらなる技術革新によるゲノム解析コストの大幅ダウンを目指し 米国立ヒトゲノム研究所 ( 以下 NHGRI という) は 1,000 ドルゲノム 計画を発表 研究機関や企業による研究開発を支援した 5 その後の解析技術や情報処理技術の進化は目覚ましく 特に次世代シークエンサーが登場して以降 ゲノム解析コストはムーアの法則 6 をはるかに超えるスピードで低下し続けている NHGRI が公表しているヒト 1 人当たりのゲノム解析コストは 2001 年 9 月には 9,526 万ドル ( 約 114 億円 ) であったが 2015 年 10 月には 1,245 ドル ( 約 15 万円 ) と およそ 75,000 分の 1 にまで下がっている 7 ( 図表 1 参照 ) 1 The National Center for Human Genome Research (NCHGR) 現在の米国立ヒトゲノム研究所(The National Human Genome Research Institute; NHGRI ) の前身 2 DNA の二重らせん構造は 1953 年にジェームズ ワトソンとフランシス クリックによって発見された 3 NHGRI ウェブサイト, All About The Human Genome Project (visited February 9, 2016) <http://www.genome.gov/10001772> 4 DNA の断片から塩基配列を読み取るための装置 5 NHGRI ウェブサイト, Concept Papers for Two New DNA Sequencing Technology Development Programs (visited February 9, 2016) <https://www.genome.gov/11008124> 6 インテルの創設者の一人ゴードン ムーアが 1965 年に提唱した 半導体の集積密度は 18 ヵ月から 24 ヵ月で倍増する という経験則 7 NHGRI ウェブサイト, DNA Sequencing Costs (visited February 9, 2016) <https://www.genome.gov/sequencingcosts/> 38

2016. 3. Vol. 68 図表 1 ゲノム解析コストの推移 2001年9月 $95mil 2015年10月 $1,245 出典 NHGRI ウェブサイト DNA Sequencing Costs より損保ジャパン日本興亜総合研究所作成 BOX 1 用語説明 ゲノム gene 遺伝子 と chromosome 染色体 あるいは -ome 全体 を組み合わせた言葉で ある生物を構成するのに必要なすべての遺伝情報 すなわち DNA に含まれる全塩基配列を意味す る 人間の持つ全遺伝情報 ヒトゲノム は 塩基対 32 億 5,400 万の配列情報である 染色体 細胞核の中にある DNA が凝集したもの 染色体 1 本に二重らせん構造の DNA が 1 本含まれて いる ヒトの染色体には 1 番から 22 番の常染色体と X Y の 2 種類の性染色体の計 24 種類があり 23 対 46 本 常染色体 22 対と 男性は X Y 染色体を 1 本ずつ 女性は X 染色体を 2 本 を持つ DNA デオキシリボ核酸 Deoxyribonucleic Acid の略称 2 本の鎖が絡み合ったような 二重らせん構 造 をしており ヒトの体にある約 60 兆個の細胞一つ一つの核の中に ヒストン というタンパク 質に巻きついた形でおさめられている 39

損保ジャパン日本興亜総研レポート 遺伝子 特定のタンパク質などを作るための情報を持った 遺伝物質の基本単位 塩基配列の一部の領域が 1 つの遺伝子に対応している ヒトの遺伝子はおよそ 2 万数千種類と推定されている 塩基 A( アデニン ) C( シトシン ) G( グアニン ) T( チミン ) の 4 種類があり DNA の二重らせんを対 (A と T または C と G の組み合わせ ) になって連結している 対になった塩基の並び方によって 遺伝情報が表現される 図表 2 染色体 DNA 遺伝子 塩基の関係 細胞 塩基 染色体 シトシン グアニン チミン アデニン ヒストン DNA ( 二重らせん構造 ) 遺伝子 遺伝子 塩基対 ( 出典 )NHGRI ウェブサイトより損保ジャパン日本興亜総合研究所作成 40

2016. 3. Vol. 68 2. ゲノム医療の現状ゲノム情報を活用し より効果的かつ効率的に疾患の診断 治療 予防を行う ゲノム医療 の実現にむけ 様々な研究や取り組みが世界的に推進されている 日本におけるゲノム医療は 現在のところ 単一の遺伝子を原因とする一部の難病やがん等を対象とした診断 治療において部分的に実用化されている段階にあるが 欧米との比較では全般的に出遅れがみられる 8 ( 図表 3 参照) 図表 3 主なゲノム医療と現在のステージ ( イメージ ) 内容 主な効果基礎 ( 研究 ) 臨床応用実用化 1 診断 原因遺伝子を特定して治療方針を決定 適切な治療 1 分子標的治療 特定の遺伝子を持った疾患に対する標的治療 効果的な治療医療費削減 2 治療 2 治療薬の使い分け 特定の遺伝子を持った患者に生じる副作用を避けた治療薬の選択 副作用軽減医療費削減 3 遺伝子治療 特定の遺伝子を外部から導入して遺伝子の正常な機能を回復する治療 効果的な治療 3 予防 特定の複数の遺伝子が存在する者に対する療養指導 生活指導等で発症を予防 医療費削減 日本 欧米 ( 出典 ) ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース第 1 回会合資料 ( 平成 27 年 11 月 17 日 ) より損保ジャパン日本興亜総合研究所作成 診断の段階で疾患の原因である遺伝子の変異を特定する検査に関しては 現在 日本では筋ジストロフィーなど 36 種類の遺伝性疾患 希少疾患についてのみ保険が適用される 9 一方 例えばイギリスのナショナル ヘルス サービス 10 ( 以下 NHS という) では既に 492 種類の検査が実施可能となっている 11 ( 図表 3 1 ) ゲノム情報を利用した治療のうち 比較的実用化が進んでいるのが 分子標的治療 である これは 主にがんの治療等において 特定の遺伝子を調べることによって疾患の特性を見極め その遺伝子に関連する分子のみに作用する 分子標的治療薬 を投与するという治療方法で 12 正常な細胞を攻撃しないため 大きな副作用なくがんを抑制できる等の利点がある 分子標的治療薬は 現在のところ世界で 8 ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース第 1 回会合資料 ( 平成 27 年 11 月 17 日 ) 9 ゲノム医療実現推進協議会第 3 回会合資料 ( 平成 27 年 6 月 17 日 ) 10 National Health Service 国営の医療サービス制度 11 前脚注 9 12 例えば 乳がんの代表的な分子標的治療薬 ハーセプチン は がん細胞の HER2 タンパク質を標的として作用する 乳がんのうち 20~30% を占める HER2 陽性 (HER2 遺伝子増幅や HER2 過剰発現がみられる場合 ) に有効である 41

損保ジャパン日本興亜総研レポート 62 剤 日本でも約 40 剤が承認されている 13 ( 図表 3 2 1) また 薬剤と遺伝子の関連についての解明が進めば 特定の遺伝子を持った人に発生する副作用を回避するなど 効果的な治療薬の選択が可能となる 日本では こうした治療薬の使い分けがほとんどされていない状況であるが 米国では 薬剤応答性関連遺伝子に関する情報を持つ薬剤 として既に 166 種が FDA 14 に承認されている 15 ( 図表 3 2 2) 最近特に実用化の加速に期待が集まっているのが 遺伝子治療 である 遺伝子治療とは 患者の体内に特定の遺伝子を導入 16 することによって正常な機能を果たしていない遺伝子の代替をさせ その機能を回復させるという治療法で 遺伝性疾患に有効であるばかりでなく がんや生活習慣病にも効果が期待されている 世界で初めての遺伝子治療は 1990 年 米国において ADA 欠損症 17 の患者を対象に行われ 18 その後 25 年間に米国では 1,300 件以上の臨床試験が実施されているのに対し 日本では 1995 年以降 47 件の研究が行われるにとどまっている 19 ( 図表 3 2 3) 旧薬事法を改正して 2014 年 11 月に施行された医薬品医療機器等法 20 で 再生医療等製品の開発期間が短縮できるように規制緩和された 21 ことを受け 国内製薬会社による遺伝子治療薬の開発が加速しはじめている これまでの遺伝子治療の事例は 医師が患者に治療を施すものが中心で 世界的にみても治療薬はまだほとんど製品化されていないが 2017 年には HGF 血管再生薬 22 や複数のがん治療薬が この早期承認制度によって申請されるものとみられている 23 ゲノム情報を疾患の予防に活用するという観点からは そのデータベースづくりともいえる ゲノムコホート研究 への取り組みが 日本を含め世界各国で計画あるいは開始されている コホート研究 とは 疾患と環境との関係について 特定の地域や集団に属する人々を長期にわたって追跡調査する 疫学における研究手法の一種である ゲノムコホート研究 は 健常人の集団を対象に 様々な医学的情報や環境 生活習慣に関する情報とあわせてゲノムデータも収集し 対象者が発症した疾患と治療 その治療への反応 といった事項との関連について長期にわたり解析しようとするものである 24 13 前脚注 8 14 米国食品医薬品局 (Food and Drug Administration) の略称 15 前脚注 8 16 健常人から採取したものを基にして作るなどした遺伝子を 安全化したウイルスで患部の細胞に送り届ける ( 生体内遺伝子治療 ) あるいは 患者から取り出した細胞に組み込んで再び体内に戻す( 生体外遺伝子治療 ) といった方法による 17 ADA( アデノシンデアミナーゼ ) という酵素を合成する遺伝子が先天的に欠損または変異しているために 体内で ADA ををつくることができず 重度の免疫不全を発症する疾患 18 Life Sciences Foundation ウェブサイト, The first gene therapy (visited February 15, 2016) <https://web.archive.org/web/20130330070535/http:/www.lifesciencesfoundation.org/events-the_first_gene_therapy.html> 19 前脚注 8 20 正式名称は 医薬品 医療機器等の品質 有効性及び安全性の確保等に関する法律 21 従来は 臨床研究の後 3 段階の臨床試験 ( 治験 ) を経て製造販売が承認されていた 改正後は 臨床研究後 2 段階目の治験で安全性の確認と有効性の推定ができれば条件 期限付の承認による市販が可能となったため 市販までの期間を数年間短縮できるようになった 22 HGF 遺伝子の働きによって血管を新生することで 虚血性疾患 ( 血管の閉塞や狭窄による血流不足が原因となる疾患 ) に対する治療効果が期待されている 23 薬事日報 遺伝子治療薬 基礎研究力生かした開発を (2015 年 10 月 2 日 ) および日本経済新聞 遺伝子治療薬を国内発売へ田辺製薬など 規制緩和で (2016 年 2 月 1 日 ) 24 以前から実施されている 疾患コホートゲノム研究 は すでに発症した人について過去を振り返って解析する いわゆる 後ろ向き の研究である 1 特定の疾患の患者群が対象 2 過去の生活習慣等は仮説に従って収集した情報のみが対象 などの点で 健常人の集団を発症前から追跡していく 前向き の ゲノムコホート研究 とは異なる 42

2016. 3. Vol. 68 がんや生活習慣病を含む多くの疾患は 複数の遺伝子による 遺伝要因 と生活習慣等の 環境要因 との両方が影響して発症する多因子疾患であることが判明してきている 遺伝子 環境 疾患発症の関連が明らかになれば 個人差 ( 遺伝子の差 ) に応じた生活習慣等の改善によって疾患の予防 抑制が可能になるばかりでなく 将来的には その膨大なゲノムデータが創薬や個別化医療の基盤となることも期待される 日本では 東北メディカル メガバンク計画 ( 登録者数約 7 万人 ) JPHC 25 -Study( 登録者数約 13 万人 うち約 5 万人についてゲノム解析に関するインフォームドコンセント 26 取得済 ) および JPHC-NEXT( 同 約 7 万人 約 4 万人 ) などの健常人を対象としたコホートがある 27 海外では 米国で 100 万人 イギリスで 10 万人規模のゲノムコホート構築が国家プロジェクトとしてスタートしている (Ⅳ 章にて後述 ) 3.DTC 遺伝子検査サービス医療機関ではない企業によって一般消費者向けに提供される遺伝子検査 いわゆる DTC 28 遺伝子検査サービスが 新たなビジネスとして数年前から日本にも登場している 遺伝子関連の検査は 1 病原体遺伝子検査 2ヒト体細胞遺伝子検査 3ヒト遺伝学的検査 の 3 つに分類できる 29 ( 図表 4 参照) 図表 4 遺伝子関連検査の分類 分類 1 病原体遺伝子検査 利用例 病原体の特定 ( 肝炎ウイルス 結核菌等 ) 目的 2 ヒト体細胞遺伝子検査 がん 白血病等の診断 抗がん剤の効果予測 医療 3 ヒト遺伝学的検査 遺伝性疾患 家族性腫瘍の診断 出生前診断 薬物応答性 ( 薬効 副作用 ) の判定 疾病罹患リスク 体質診断 血縁判定 非医療 ( 出典 )JCCLS 遺伝子関連検査に関する日本版ベストプラクティスガイドライン より損保ジャパン日本興亜総合研究所作成 25 Japan Public Health Center (-based Prospective Study) の略称 26 調査研究の目的や内容について十分な説明を受けて理解したうえでの 調査研究対象者本人からの同意 27 ゲノム医療実現推進協議会中間とりまとめ ( 平成 27 年 7 月 ) 28 Direct To Consumer の略 29 JCCLS(NPO 法人日本臨床検査標準協議会 ) 遺伝子関連検査に関する日本版ベストプラクティスガイドライン ( 平成 22 年 12 月 ) 43

損保ジャパン日本興亜総研レポート このうち 個人が生来的に保有し かつ 生涯変化しない遺伝情報を取り扱う検査が3で これには 医療の場において診療目的で利用されるもの と それ以外のもの とが含まれている DTC 遺伝子検査は 3のうち 非医療分野の一部として位置づけられる DTC 遺伝子検査では 利用者の試料 30 から DNA を抽出 解析し これまでに発表されている学術論文 統計データに基づいた分析が行われ 当該利用者の疾病罹患リスクや体質傾向等が提示される 近年 そのような個人差は それぞれ特定の SNP 31 の型と関連があることが明らかになってきており そうした研究成果を根拠に検査結果が導き出されている がん 糖尿病など特定の疾患のかかりやすさや アルコールに対する強さ 太りやすさなどの体質的な特徴について 利用者と同じタイプの遺伝子を持つ人々の平均値と日本人全体の平均値との比較を示すものにすぎず 診断ではない また 遺伝子変異との因果関係が極めて強い 単一遺伝子疾患 32 や家族性腫瘍 33 等は検査対象外となっており あくまでも 医療行為に当たらない範囲 においてサービスが提供されている 遺伝子検査を提供する事業者は以前から存在していたが 34 数年前に異業種から 特に ディー エヌ エー (DeNA) やヤフーなど一般の消費者にもなじみのある大手 IT 企業の参入が相次いだことで注目され 広く知られるようになった ( 図表 5 参照) 図表 5 主な参入企業とサービスの概要 企業名開始時期商品名価格企業 サービスの主な特徴 ( 株 ) ジーンクエスト 2014 年 1 月ジーンクエスト 14,800 円 ~ 49,800 円 2013 年設立の東大発ベンチャー 2014 年 7 月に IT サービスの ( 株 ) ソフィアホールディングスが買収 健康リスク 体質 290 項目の解析 祖先解析 ( 株 )DeNA ライフサイエンス 2014 年 8 月 MYCODE 9,800 円 ~ 33,800 円 東京大学医科学研究所との共同研究 体質 祖先解析 38~280 項目の遺伝的傾向解析 生活改善プログラムを有料で提供 ヤフー ( 株 ) 2014 年 11 月 HealthData Lab 29,800 円 健康リスク約 110 項目と体質約 180 項目の解析 祖先解析 解析は ( 株 ) ジーンクエストに委託 カウンセリングサービスあり ( 株 ) エバージーン 2015 年 4 月 DearGene 4,980 円 ~ コンテンツ配信事業大手 ( 株 ) エムティーアイの子会社 解析はタカラバイオ ( 株 ) に委託 がん 10 種類の発症リスクを解析 体質 生活習慣病の解析も追加購入可能 ( 出典 ) 各社ウェブサイトより損保ジャパン日本興亜総合研究所作成 30 唾液 口腔粘膜など 31 一塩基多型 (single nucleotide polymorphism) の略称 遺伝子多型 ( 塩基配列の個体差のうち ある生物集団において 1% 以上の頻度で出現するもの ) のうち 1 ヶ所の塩基のみが異なっているもの 32 ある 1 つの遺伝子変異だけで発症する遺伝子疾患 ハンチントン病 筋ジストロフィー フェニルケトン尿症など 33 遺伝的に がん抑制遺伝子に変異があること等により発症するがん 34 経済産業省 平成 24 年度遺伝子検査ビジネスに関する調査報告書 (2013 年 2 月 ) によれば 2012 年 8 月時点で 738 業者 ( 医療機関 595 非医療機関 143) が確認された 44

2016. 3. Vol. 68 各社のサービスは 医師や医療機関を介さずイ 図表 6 遺伝子検査キットの例ンターネット等で申し込み 検査キット ( 図表 6 参照 ) を使用して消費者自身で唾液等の試料を採取 送付するだけで結果が入手できるという手軽さが受け 健康意識の高い層を中心に支持を得ている また 住民の健康維持 増進を目的とした自治体による活用例などもみられる 35 参入各社は 利用者の同意を前提に 収集 蓄積したデータを 匿名化したうえで研究目的に利用する としており 個人ゲノム情報というビッグデータを 将来的には創薬や個別化医療などに応用する方針を明らかにしている 現在のところ DTC 遺伝子検査に対する直接的な法規制はなく 所管する経済産業省および業界 ( 出典 )Yahoo! ヘルスケアウェブサイト団体によるガイドラインや自主基準が 遵守すべきルール として設けられている 36 また 2015 年 10 月からは 第三者機関が自主基準の遵守状況を審査し 事業者の認定を行う制度 37 も開始された Ⅲ. 我が国における実用化推進に向けた取り組み 1. 推進体制 2014 年 7 月に閣議決定された健康 医療戦略において 医療分野研究開発推進計画の一環として ゲノム医療の実現に向けた取り組みの推進 が掲げられたことを踏まえ 2015 年 1 月 関係府省 機関が連携して取り組みを推進するための ゲノム医療実現推進協議会 ( 以下 協議会 という ) が健康 医療戦略推進会議の下に設置された 協議会では ゲノム医療が従来の研究段階から実利用の段階に入りつつあるとの認識から検討が行われ 1 信頼性と質の確保 2 国民および社会の理解と協力 3 研究の推進および臨床現場 研究機関 産業界の連携 4 人材育成 教育強化 を今後具体的に取り組む課題として整理した さらに 実用化を加速する必要があるとして 2015 年 11 月には協議会の下に ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース ( 以下 TF という) を設置し ゲノム情報を用いた医療およびビジネスの両方を対象に 実用化にあたって必要となる法制度や社会環境の整備に関する課題について議論し 提言をとりまとめるとしている ( 図表 7 参照) 35 神奈川県では DeNA 社の MYCODE を 平成 27 年度未病市場創出促進事業 の販売商品に採択 県民対象に価格の 40% を助成 (2015 年 8 月 ~2016 年 2 月 ) 新潟県三条市でも 40 歳以上の市民を対象に検査費用を助成する (1 人 1 万円 ) 36 公的指針 ガイドラインとして 経済産業省 経済産業分野のうち個人遺伝情報を用いた事業分野における個人情報保護ガイドライン (2004 年 12 月 ) 同 遺伝子検査ビジネス実施事業者の遵守事項 (2013 年 4 月 ) など 業界団体指針 ガイドラインとして 個人遺伝情報取扱協議会 個人遺伝情報を取り扱う企業が遵守すべき自主基準 (2014 年 5 月改正 ) など 37 NPO 法人 個人遺伝情報取扱協議会 が運用する 45

損保ジャパン日本興亜総研レポート 図表 7 健康 医療戦略の推進体制 ( 出典 ) ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース第 1 回会合資料 ( 平成 27 年 11 月 17 日 ) TF では 1 改正個人情報保護法におけるゲノム情報の取り扱い 2 ゲノム医療 等の質の確保 3 ゲノム医療 等の実現 発展のための社会環境整備 を当面の課題として順次検討が進められ 最終的には 2016 年夏頃に報告書がとりまとめられる予定となっている ( 図表 8 参照) 46

2016. 3. Vol. 68 図表 8 ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォースにおける検討の進め方 ( 出典 ) ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース第 1 回会合資料 ( 平成 27 年 11 月 17 日 ) より損保ジャパン日本興亜総合研究所作成 2. ゲノム情報の取り扱い TF における 1 つ目の検討課題 改正個人情報保護法におけるゲノム情報の取り扱い については すでに検討が終わり その方針がまとめられた 38 2003 年 5 月に成立した個人情報の保護に関する法律 ( 以下 個人情報保護法 という ) は 2015 年 9 月に改正され 2 年以内に全面施行されることとなっている 改正前の個人情報保護法では 特定の個人を識別することができるもの を個人情報として定義していたが 今回の改正では この定義をより明確にすることで該当性判断の客観化 容易化が図られたとともに 要配慮個人情報や匿名加工情報に関する規定も整備された 改正個人情報保護法では 特定の個人を識別することができる と認められる文字 番号 記号その他を 個人識別符号 として政令で定めることとなった 特定の個人を識別することができるもの であるかどうかは 1 個人と情報との結びつきの程度 ( 一意性等 ) 2 可変性の程度 ( 情報が存在する期間や変更の容易さ等 ) 3 本人到達性 によって総合的に判断される また 人種 病歴 犯罪の経歴など その取り扱いによって差別や偏見その他の不利益が生じるおそれがあるため特に慎重な取り扱いが求められる個人情報は 要配慮個人情報 として 情報の取得および第三者提供には本人同意を必須とするなど 通常の個人情報よりも厳しく規制している 38 ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース 改正個人情報保護法におけるゲノムデータ等の取扱いについて ( 意見とりまとめ ) ( 平成 28 年 1 月 22 日 ) 47

損保ジャパン日本興亜総研レポート TF ではまず 1ゲノムデータ 2ゲノム情報 3 遺伝情報 の各用語について 1 塩基配列を文字列で表記したもの 2 塩基配列に解釈を加え意味を有するもの 3ゲノム情報の中で子孫へ受け継がれるもの と整理したうえで ゲノムデータ を個人識別符号 ゲノム情報 および 遺伝情報 を要配慮個人情報 と位置づけた ( 図表 9 参照) 図表 9 改正個人情報保護法におけるゲノム情報の位置づけ ( 出典 ) ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース 改正個人情報保護法におけるゲノムデータ等の取扱いについて ( 意見とりまとめ ) より損保ジャパン日本興亜総合研究所作成 ゲノムデータ は 唯一無二であって生涯変化しないという特性から 指紋等と同様に特定の個人を識別することができるものであるとされた さらに 学術研究のみならずビジネス領域でも活用されていることや 刑事分野や生体認証等で特定個人の識別に活用されていることなど 社会における取り扱いの実態からも 個人識別符号 に位置づけることが妥当であると判断された 塩基配列を文字列で表記した ゲノムデータ は 単体では医学的な意味を持たない情報であるが これを分析して解釈が加えられた ゲノム情報 には 遺伝疾患や疾病罹患リスクに関わるものなど その取り扱いに慎重な配慮を要する場合があり 要配慮個人情報 に位置づけられるべきとされた 48

2016. 3. Vol. 68 3. 今後の検討課題 TF では 2015 年度内をめどに 遺伝子関連検査の品質 精度の確保および検査結果の伝達方法についての検討が進められている 現状 遺伝子関連検査に特化した基準は定められておらず 検査を実施する施設や担当者を認証するような制度も存在していないことや 遺伝カウンセリングを含めた検査結果の情報提供体制等について討議される その後は 社会環境の整備にむけて ゲノム情報に基づく差別の防止 データの管理と二次利用 国民への啓発といった課題が検討される予定である 雇用 保険加入等の際 ゲノム情報が利用されることで差別や不利益が生じないように何らかの制限を設ける必要はあるのか また ゲノム医療や関連産業発展のための適切なデータシェアリングと情報保護をいかに両立するか といった議論が展開されるものとみられる 39 Ⅳ. 諸外国における状況 1. 米国オバマ大統領は 2015 年 1 月に行った一般教書演説において 新たな施策 プレシジョンメディシン イニシアティブ (Precision Medicine Initiative) を発表 40 これまでのような 平均的な患者 向けにデザインされた治療法ではなく 遺伝子 環境 ライフスタイルに関する個々人の違いを考慮した予防や治療法の確立を目指すとした 41 イニシアティブの具体的な取り組み目標として 1より優れたがん治療の開発 提供 2100 万人以上のボランティアによる全米規模での研究コホート創設 3プライバシー保護 4 現行規制の見直し 5 官民連携の強化 が挙げられた 42 2016 年度の予算総額は 2.15 億ドル ( 約 258 億円 ) で その内訳は 100 万人以上のボランティアが参加する研究コホートを確立する国立衛生研究所 43 に 1.3 億ドル がん発症の原因となる遺伝子の特定や効果的ながん治療法の開発に取り組む 国立がん研究所 44 に 0.7 億ドル などとなっている 45 米国では 2008 年に連邦レベルで成立した 遺伝情報差別禁止法 ( 以下 GINA 46 という) によって 保険および雇用における遺伝情報を理由とした差別が禁じられている 保険に関しては 保険者が被保険者本人あるいはその家族の遺伝情報を入手すること また 遺伝情報に基づいて加入の可否を判断したり保険料を決定したりすることが禁止されている (101 条 102 条 ) ただし 対象となるのは 健康保険 (Health Insurance) のみで 生命保険 (Life Insurance) や所得補償保険 (Disability Insurance) 長期介護保険(Long Term Care Insurance) には適用されない 47 39 ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース第 4 回会合資料 ( 平成 28 年 1 月 27 日 ) 40 The White House ウェブサイト, Remarks by the President in State of the Union Address January 20, 2015 (visited February 17, 2016) <https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2015/01/20/remarks-president-state-union-address-january-20-2015> 41 The White House ウェブサイト, The Precision Medicine Initiative (visited February 17, 2016) <https://www.whitehouse.gov/precision-medicine> 42 The White House ウェブサイト, FACT SHEET: President Obama s Precision Medicine Initiative (visited February 17, 2016) <https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2015/01/30/fact-sheet-president-obama-s-precision-medicine-initiative> 43 National Institutes of Health (NIH) 44 National Cancer Institute (NCI) 45 前脚注 42 46 Genetic Information Nondiscrimination Act of 2008, Pub. L. No 110-233 May 21, 2008 47 GINAhelp ウェブサイト, GINA & Health Insurance (visited February 17, 2016) < http://ginahelp.org/> 49

損保ジャパン日本興亜総研レポート また 雇用主が被雇用者の遺伝情報を理由として 採用 解雇 昇進 降格 労働条件の差別等を行うことが禁止されている (202 条 a) 被雇用者あるいはその家族の遺伝情報を要求したり 購入したりすることも違法となる (202 条 b) ただし 被雇用者数が 15 人未満の場合は適用外とされている 48 GINA は 連邦における共通かつ最低限の基準という位置づけであり 49 適用範囲を拡大するなどした独自の法を定めている州も存在する 50 例えば カリフォルニア州の場合 保険分野における適用の対象として 健康保険に加えて生命保険 所得補償保険 長期介護保険が含まれている 遺伝情報の利用にはインフォームドコンセントが必要であり 保険会社によって費用が支払われる場合にのみ遺伝子検査の受検を求めることができるとされている 51 このほか 救急医療や不動産の売買 賃貸契約などの局面においても 遺伝情報に基づいた差別的な取り扱いが禁止されている 52 また マサチューセッツ州の場合には 生命保険 所得補償保険 長期介護保険も対象としたうえで 保険会社が遺伝子検査の受検を要求すること また 保険数理的根拠なくして遺伝子情報を利用し 差別的な取り扱いをすることは禁止されている 53 2. イギリス保健省 54 が有限責任会社 ゲノミクス イングランド (Genomics England) を 2013 年に設立し 10 万ゲノム プロジェクト (100,000 Genomes Project) に取り組んでいる 同プロジェクトは 1 同意に基づく倫理的かつ透明性の高い制度の構築 2 患者へのベネフィット 3 新たな科学的発見や医学的知見の獲得 4 国内ゲノム関連産業の発展促進 を目指すとしており 2017 年末の完了を目標に がんおよび希少疾患を主な対象として NHS の患者 75,000 人とその家族 25,000 人 計 10 万人分のゲノムデータを収集 解析する 55 ライフサイエンスの分野で世界をリードすることを公約に掲げるキャメロン首相は このプロジェクトに 3 億ポンド ( 約 510 億円 ) の予算を配分した 56 また 2015 年 4 月には イノベーション政策を推進する行政機関 イノベート UK が研究ネットワーク プレシジョン メディシン カタパルト (Precision Medicine Catapult) を構築し ケンブリッジ大学バイオメディカルキャンパスを本拠地として 個別化医療分野における研究開発成果のより迅速な商業化を推進する方針を明らかにしている 57 48 GINAhelp ウェブサイト, GINA & Employment (visited February 17, 2016) <http://ginahelp.org/> 49 GINAhelp ウェブサイト, How does GINA interact with state law? (visited February 17, 2016) <http://ginahelp.org/> 50 The National Conference of State Legislatures(NCSL) ウェブサイト, Genetics and Life, Disability and Long-termCare Insurance (visited February 17, 2016) <http://www.ncsl.org/research/health/genetic-nondiscrimination-laws-in-life-disability.aspx> 51 California Law, Insurance Code, DIVISION 2, PART 2, CHAPTER 1, ARTICLE 2.6. Underwriting on the Basis of Test of Genetic Characteristics [10146-10149.1] 52 Robinson, Bradshaw & Hinson, The Genomics Law Report: A New Law to Raise GINA s Floor in California, December 7, 2011 53 Massachusetts General Laws, Part I, Title XXII, Chapter 175, Section 108H-108I 54 Department of Health 55 Genomics England ウェブサイト, The 100,000 Genomes Project (visited February 19, 2016) <http://www.genomicsengland.co.uk/the-100000-genomes-project/> 56 GOV.UK ウェブサイト, Human genome: UK to become world number 1 in DNA testing, August 1, 2014 (visited February 19, 2016) <https://www.gov.uk/government/news/human-genome-uk-to-become-world-number-1-in-dna-testing> 57 Precision Medicine Catapult ウェブサイト, Precision Medicine Catapult network launched with Cambridge hub (visited February 19, 2016) <https://pm.catapult.org.uk/-/precision-medicine-catapult-network-launched-with-cambridge-hub> 50

2016. 3. Vol. 68 イギリスでは 2010 年に成立した 平等法 58 により 年齢 障害 性別その他 59 を理由とした差別が包括的に禁じられているが 遺伝情報に関する明確な言及はなされていない 保険分野における遺伝情報の取り扱いについては 法律に基づいた規制はなく 政府とイギリス保険協会 60 との間で 遺伝と保険に関するモラトリアム協定 61 が 2005 年 3 月に締結されている この協定の 2014 年改訂版によれば 保険会社は 顧客本人や家族等に対して 予測的遺伝子検査 62 の受検および検査結果の提供を要求しないことに合意している ただし 顧客が協定で定める金額を超えた保障を希望する場合であって 政府の承認が得られた予測的遺伝子検査であれば 例外として検査結果の利用が認められる これまでのところ 保障額 50 万ポンド超の生命保険におけるハンチントン病 63 に関する HTT 遺伝子検査のみが政府に承認されている モラトリアム協定で定める金額は 1 生命保険 (Life Insurance): 保障額 50 万ポンド ( 約 8,500 万円 ) 2 重篤疾患保険 (Critical Illness Insurance): 保障額 30 万ポンド ( 約 5,100 万円 ) 3 所得補償保険 (Income Protection Insurance): 給付額年 3 万ポンド ( 約 510 万円 ) となっている 協定の有効期間は 2019 年 11 月 1 日までとされており 2016 年に見直しが実施される予定となっている 64 3. ドイツ 2009 年に制定された ヒト遺伝子診断に関する法律 65 において 遺伝子検査 診断の要件等を規定するとともに 本人または血縁者の遺伝情報に基づく差別が禁止されている 保険分野における遺伝情報の取り扱いについては 保険契約締結の前後を問わず 保険会社が被保険者 契約希望者に対して 遺伝子検査の受検を要求することや すでに実施された検査結果を通知するよう要求したり 検査結果を受領 利用したりすることはできないと定められている (18 条 1 項 1 号 2 号 1 文 ) 66 ただし 契約の内容が 1 保障額 30 万ユーロ ( 約 3,900 万円 ) 超の生命保険および就業不能保険 2 給付年額 3 万ユーロ ( 約 390 万円 ) 超の年金保険 である場合は 例外としてすでに実施された遺伝子検査の結果を要求 利用することが認められている (18 条 1 項 2 号 2 文 ) 雇用分野においても同様に 雇用契約締結の前後を問わず 雇用主が被雇用者に対して遺伝子検査の受検を要求することや すでに実施された検査結果を求めたり 受領 利用したりすることを禁止している (19 条 ) また 遺伝子特性に基づく採用 昇進 解雇等によって 被雇用者に不利益を生じさせてはならないことも定められている (21 条 ) ただし 特定の職場や特定の活動を伴う職場において発 58 Equality Act 2010 59 年齢 障害 性適合 婚姻および同性婚 妊娠および出産 育児 人種 宗教または信条 性別 性的指向の 9 つが 保護特徴 (protected characteristics) として定められている 60 Association of British Insurer (ABI) 61 Concordat and Moratorium on Genetics and Insurance 62 Predictive genetic tests 将来的に疾患をもたらすリスクとなる遺伝子変異等についての発症前の検査 疾患の特定等を目的とする診断的遺伝子検査 (Diagnostic genetic tests) とは区別されている 63 不随意運動 精神症状 行動異常 認知障害などが現れる遺伝性の神経変性疾患 64 有効期間 見直し時期は 2017 年 2014 年からそれぞれ延長されている GOV.UK ウェブサイト, Agreement extended on predictive genetic tests and insurance, December 22, 2014 (visited February 19, 2016) <https://www.gov.uk/government/publications/agreement-extended-on-predictive-genetic-tests-and-insurance> 65 Gesetz über genetische Untersuchungen bei Menschen (Human Genetic Examination Act) 66 ただし 18 条 2 項において 保険契約法 (Gesetz über den Versicherungsvertrag) に定める告知義務が課せられることについては変わりないことが併記されている 51

損保ジャパン日本興亜総研レポート 生する可能性のある重大疾患 健康障害の原因となる遺伝子特性について確認するために 雇用主が被雇用者に遺伝学的検査を求めることは許容されている (20 条 2 項 ) 事例として アレルギー( セメント皮膚炎 小麦粉喘息 ) のなりやすさなどがあげられる 67 4. フランス 民法 68 において 遺伝学的検査は医療または科学的研究目的においてのみ行うこと 検査の内容と目的を十分に説明したうえで検査前に書面での同意表明を取り付けることなどを定めたうえで (16-10 条 ) 遺伝情報に基づいた差別が禁じられている(16-13 条 ) 保険分野における遺伝情報の利用は 公衆衛生法 69 (L1114-1 条 ) および 保険法 70 (L133-1 条 ) により 禁止されている 高度障害または死亡危険に対する保険に加入を希望する者の遺伝子検査の結果は たとえ本人の同意のもとに情報提供されたとしても 利用することはできないとされている また 契約締結の前後にかかわらず 保険会社が保険加入を希望する者に対して 遺伝子検査の結果に関する質問をすることや遺伝子検査の受検を要求することも認められていない 雇用に関しては 労働法 71 により 雇用主が被雇用者に対し 採用 評価 異動その他において遺伝的特徴に基づいた差別的な待遇をすることが禁止されている (1132-1 条 ) 5. スイス 2004 年に制定された ヒトの遺伝子検査に関する連邦法 72 により 医療 労働 保険 賠償責任の領域において実施される遺伝子検査についての規定がなされており 遺伝情報に基づく差別が禁止されている (4 条 ) 保険契約締結の際 保険会社が顧客に対して発症前遺伝子検査および出生前遺伝子検査を要求することはできない (26 条 ) また 1 強制加入義務のある就業不能保険および上乗せの任意加入就業不能保険 2 保障額総計 40 万スイスフラン ( 約 4,800 万円 ) までの生命保険 3 年給付額総計 4 万スイスフラン ( 約 480 万円 ) までの任意加入の高度障害保険 などの条件に合致する場合は すでに実施された検査の結果を開示するよう要求したり利用したりすることはできない (27 条 ) ただし 前条に定められた条件に合致しない場合 その検査が技術的 医学的に信頼でき かつ 保険料算定の根拠となりうることが証明されるのであれば 検査結果の開示を要求することができるとされている (28 条 1 項 ) 雇用においては 雇用主が被雇用者に対して 発症前遺伝子検査の受検を要求することや すでに実施した検査の結果を入手 利用すること等は原則禁止とされている (21 条 ) 例外として 被雇用者が職業病を発症したり 第三者に被害の及ぶ事故が発生したりすることが想定されるなどの場合は 被雇用者本人の文書による同意が得られれば 雇用主が発症前遺伝子検査を受検するよう要求することが認められている (22 条 ) 67 松田純監訳ドイツ連邦議会審議会答申 人間の尊厳と遺伝子情報 ( 上 ) p.100 68 Code Civi (Civil Code) 69 Code de la. Santé Publique (Public Health Code) 70 Code des assurances (Insurance Code) 71 Code du travail (Labor Code) 72 Bundesgesetz über genetische Untersuchungen beim Menschen (Federal Act on Human Genetic Testing) 52

2016. 3. Vol. 68 Ⅴ. おわりに遺伝子レベルでの個人差に基づいた最適な治療を提供する個別化医療の実現や 遺伝子検査で疾患に対するリスクを認識して生活習慣等を改善する予防医療の普及など ゲノム情報の活用によって 今後医療 ヘルスケア分野には大きな変革がもたらされることが期待される また DTC 遺伝子検査サービスについても 集積した膨大なゲノムデータを活用することができれば 健康増進サービスの域にとどまらず 医学研究やゲノム創薬などへの展開の可能性がある 日本は ゲノム情報活用のための法制度や社会環境の整備にむけた議論が始められたばかりの段階にある 情報管理やプライバシー 倫理的な問題や差別防止など 慎重を期するべき課題が多い一方 行き過ぎた規制は研究開発の阻害要因ともなりうる 情報保護 規制と 学術研究の発展 健全なビジネス育成とのバランスをどうとるべきか 望ましいあり方について十分な議論がなされるべきであろう また 諸外国における規制等は 国ごとに医療や保険制度の設計の違いが存在するため各国様々ではあるものの いずれも保険分野における遺伝情報の取り扱いについては何らかの制約が存在している これから 日本ではどのような法制度が目指されるのか そして 保険業界にはどのような影響があるのか 今後の行方を注視する必要がある 53