第 1 章 微粒子とそのフィラーとしての役割 1. 1 マクロフィラーとナノフィラー フィラーを征する者は材料を征する 材料を征する者は製品を征する とは Filler Society of Japan( フィラー研究会 ) 会長のお言葉である 1) HP には以下の内容が記されている フィラーは様々な分野において基礎素材 ( 材料 ) として幅広く用いられており 自動車や電子 情報機器など日本の高性能 高機能製品を支える一つの重要なキーマテリアルとなっています 近年の国際競争力の激化 国内産業構造の変化につれ より優れたフィラーへの要望も高まりつつあり 特に機能性フィラーやナノフィラーへの期待には大きなものがあります また最近では 各種ナノフィラーの安価な製造法やナノフィラーの自己組織化を活用した機能性材料 グラフト技術 表面処理技術を用いた機能性フィラーの創出など優れた多くの技術が報告され始めており これらの報告を見ておりますと将に フィラーを征する者は材料を征する 材料を征する者は製品を征する と言っても過言では無い気も致します フィラーの特性を十分発揮させるには フィラーの組成制御 形状制御 ( 大きさ 形など ) 表面制御 ( 表面処理 グラフトなど ) に加え 複合化プロセス 成形加工プロセスなどの技術も必要で その意味でもフィラーを上手く活用するには総合的な技術が必要と言えます これら重要性が増すフィラーの目的はマトリックスへの特性付与が主であるため当然ながらマトリックス + フィラーの複合材料がそれぞれの成分の特性を邪魔することなく あるいは 1+1 が 2 よりも大きい効果を発揮せねばならない しかしながら 現実にはフィラーとマトリックスの界面の影響 ( 低反応性やその結果の低密着性 剥離 ) が無視できず お互いの特性が発揮できないでいるのが現状である そして界面の剥離などの悪影響を低減させるためフィラーはミリからマイクロそしてナノオーダーに小さくすることでフィラーの比表面積を増加させることになる その結果 界面の密着性や反応性が増加し マトリックスと良くなじむことになる さらに小さな粒子により隙間なく高充填を達成できると期待される しかし それは同時にフィラー同士の凝集を誘発されることになるため 課題は 如何により小さなフィラーを高分散 高充填させるか ということになる 図 1.1 に比重の異なる各種フィラーの一次粒子径とそれより計算された比表面積を示す フィラーの凝集が無ければ比重の小さいフィラーの方がより比表面積を増加させることが分かる しかしながら 実際には粒子直径が小さくなり比表面積が大きくなるほど凝集しやすくなる これはマトリックス中で粒子の比表面積をより小さくして粒子を安定化させる方へ作用するためである 1
10000 1000 樹脂フィラー (1.1) 乾式シリカ (2.2) 高比重タングステン (19.3) (m 2 /g) 比表面積 100 10 1 0.1 1 10 100 1000 粒子直径 (nm) 図 1 比重の違いによる粒子径と比表面積の関係図 1. 1 比重の違いによる粒子径と比表面積の関係 1. 2 階層構造と凝集構造図 1.2 にゴム用フィラーとして代表的なカーボンブラックの構造モデル図を示す 2) カーボンブラックの粒子径は 11nm ~ 100nm と言われており 各々の粒子は積層からなる微結晶の集合体である 粒子同士は表面の分子間力により凝集した構造をとっており アグリゲート ( 凝集体 ) やアグロメレート ( 集塊 ) といった高次構造を形成している場合も多い こういった凝集構造や特有の階層構造はナノクレイやナノファイバーにも観察されており マトリックス中でフィラーを上手く分散させるためには弊害となることが多い 最近では これら凝集構造をネットワークとして熱的電気的性質を導いたり 階層構造を予め配列させたのちに分散させ異方性を持たす試みが為されておりフィラーの配列制御の手段の一つとしても注目されている 3) 2
層平面 微結晶 粒子 粒子径 ストラクチャー 図 1. 2 カーボンブラックの構造モデル図 2 ) 1. 3 ナノフィラーの高充填手法前項で示したように課題は 如何により小さなフィラーを高分散 高充填させるか である そのための分散手法は現在日進月歩であり 日々新しい手法が提案されている 4) 図 1.3 にその分類概略を示す 大きく分けて機械 物理的手法と化学的手法があるが 通常はその両方を利用していると思われる それぞれに特色があるが 最近では湿式微粒化法 ( スターバースト : スギノマシン社製 ) 5) やエレクトロスピニング法による不織布化からマトリックス樹脂への含浸法 6) などへと発展してきている また化学的手法も従来のフィラー改質に留まらず電場や磁場 静電反発作用 ナノ反応場を利用した自己組織的な配列制御など より高度に分散配列制御した手法も目立ってきている これらの手法を用いてナノフィラーを高充填する際 ナノフィラーとマトリックスの界面状態が重要であることは先に述べた 次章からは高充填の最近の展開としてその界面に注目し 1. 粒子を並べる ( 配列制御 ) 2. 界面を形成する 3. 界面を無くすの 3 つの切り口から事例を紹介する 3
第 2 章 ナノフィラーの配列制御手法とその機能 2. 1 ナノ粒子と充填性の一般的特徴 関係等 1 章において ナノフィラーによる新規物性発現では 如何により小さなフィラーを高分散 高充填させるか が課題であると述べた そのキーワードとして次の 3 点掲げた 1. 比表面積の劇的な増大 2. 階層構造を伴う分散と凝集 3. 機械 物理的あるいは化学的プロセスによる混練り手法 そのうえでこれらのキーワードに共通してナノフィラーとマトリックスの界面状態が重要であり 1. 粒子を並べる ( 配列制御 ) 2. 界面を形成する 3. 界面を無くすの 3 つの切り口に注目する ここで 界面とはフィラーおよびその凝集体表面と周りの樹脂等のマトリックスが接する点 面 あるいは領域を指す そして 一般的には界面を理解するにはその界面の 濡れ性 を理解する事が重要であると言われている オーソライズされた学術的見解は多くの界面に関する正書を基本として頂きたいが 1-4) ここでは表 2.1 にナノフィラー界面制御に及ぼす因子を示す 表 2. 1 ナノフィラー界面制御に及ぼす因子 ナノフィラーの界面制御に及ぼす因子として固体液体界面における濡れ性 コロイド粒子の分散安定に寄与する電荷 フィラー同士の自己組織化があげられる それぞれ古くから現在に至るまで多くの評価方法が確立されている 一般に濡れ性は化学的相互作用によっており その意味では電荷にも基づくクーロン相互作用 分極相互作用 量子力学相互作用に起因しているが 評価法として主に接触角 θ の大きさにより判定される点でフィラー界面では電荷因子とは分けて考えたい θ が 90 より小さい場合には液体は固体面を濡らすといい 5
図 2. 2 小角 X 線散乱 ( S A X S ) プロファイル得られる表面フラクタル次元 5 ) 3 つめに自己組織化について追記する 大きく分けて安定状態と準安定状態があり 安定状 態ではミクロ相分離構造などによる熱力学支配を指す 準安定構造では後ほど詳細に説明す るが 粘度の上昇や架橋構造の導入により速度論的に支配されたものを意味する 2. 2 異方性フィラーによる自己組織化と光学異方相の出現末端に重合性官能基を有するマクロモノマーを単独重合すると枝の長さがそろった多分岐ポリマーが生成する 単独重合の重合度を密にしてアスペクト比を増加させていくと異方性巨大分子が出現する これらを適切な溶媒中でキャストしフィルム化すると液晶性が出現する これは異方性巨大分子が溶媒のキャスト過程で自己組織化してネマチック相に配列するからである その時密に生えた枝は巨大分子内でも巨大分子間でも絡み合いがないためフィルムは極めてもろいが それら枝分子の反発力が幹を比較的剛直にして自己組織化の原動力になっていると言われている 9) 2. 3 六方細密充填手法による非凝集性準安定的分散の固定化下記にシリカナノ粒子の自己組織化による高充填手法を紹介する これはシリカ表面に樹脂 ( 透明なアクリル樹脂 ) と共有結合するカップリング剤を処理することによる静電反発とコロイダルシリカ溶液の溶剤を注意深く揮発させることによるマトリックスの流動性の低下に伴う自己組織化を利用したものである 驚くべきことにナノ粒子は凝集せずにほぼ理論値に近 8